食事が終わっても、店員に追い出されることなくゆっくりと食休みでまったりと出来るのも自宅があることの利点だろう。双子が後片づけをしてくれている後姿を眺めながら充実感に浸っているとこのまま三人で爛れた生活をしたくなってしまうが……ダメだな。
まだまだ俺たちは弱いし、蓄えもない。こんなんじゃちょっと強い《盗賊》や魔物に襲われたらすぐにこの幸せは壊されてしまう。だから強くなって、お金を稼ぐことは絶対にやらなくてはならない。
「ご、ご主人様。終わりました」
「後は水のコップだけなので寝る前に洗います」
そんなことを考えていたら二人の片づけが終わったらしい。料理は綺麗に食べたので洗い物がしやすかったことを加味しても二人の連携は完ぺきだったと言っておこう。
「うん、ありがとう、二人とも。じゃあ少し話をしようか」
二人とリビングのソファーへと移動して、三人で並んで座る。さらに、二人の肩を抱き寄せて背もたれに寄りかかると二人が両脇から覆いかぶさるように密着してくれる。まあ、話をするのに向いている体勢ではないが、気持ちいいので問題ない。
「えっと、前に俺とファンナにブラヒム語の文字の読み書きを教えてほしいとお願いしただろ」
「あ、そうでしたね、姉さんも視力の関係で文字は学べませんでしたから」
ブラヒム語を話すだけでなく読み書きを出来るのはセリナだけだから当然先生はセリナにお願いすることになるのだが、それだけではセリナに負担が大きい。それならばいっそセリナも一緒に学べるものがあれば三人で勉強になる。
「その時に、二人も俺の故郷の文字を覚えてみないか?」
「ユータ様の故郷の文字を……ですか?」
「そうだ、覚えたところで活用できる場所はこの家の中くらいになるだろうが、実は俺が故郷から持ってきた物の中に本とかがあってな。当然俺の故郷の言葉で書かれているから俺は読めるんだが、二人も文字が読めるようになるといろいろ役に立つものが多いと思う。その内の一つに料理のレシピ本なんかもあるんだが」
「は、はい! 教えてください! ご主人様の故郷のお料理覚えたいです!」
俺が持ち込んできた物の中には確かに料理のレシピ本があるが、これは料理の時に見ながらやるには本の方が使いやすいと思ったからだ。水回り近くで電子機器を使って壊したらこの世界では修理も出来ない。
だから持ってきたデータ量としては当然ノートパソコンやタブレットにダウンロードしてきた情報の方が圧倒的に多い。大事に使ってもこれらはいずれ使えなくなってしまうだろうから、本当に必要な知識は書き出して残しておかなくてはならない。だが、それを俺一人でやるのは正直しんどい。二人が文字を覚えてくれれば手分けすることもできるかなぁという打算もある。
「セリナはどうだ?」
「ブラヒム語の勉強と一緒に出来るのであれば習うことに問題はないですが……」
若干歯切れが悪いのは、日本語を習う必要性が今一つピンとこないのだろう。
「俺が教える文字を覚えれば、俺の秘密とこの世界の秘密の一端を知ることが出来るぞ」
「是非、学ばせてください!」
セリナは好奇心旺盛というか、知りたがりなところがあるからこんな餌をぶら下げられたら抗えないだろうと思ったら案の定だった。俺が持ってきたデータの中には原作のデータが全て入っている。日本語さえ覚えればそれを読んで、俺と同じだけの知識をすぐに身に着けることが出来るだろう。
「よし、じゃあ……そうだな。探索は基本午前と午後とか最低でも二部構成以上にすることとして、お昼とかは家で休憩しつつ軽食を取りながら勉強をすることにしよう。探索をしない日でもどこかで時間を作って、少しずつでも毎日文字を勉強する。それでいいか」
「「頑張ります」」
「俺もブラヒム語を覚えなきゃだから、頑張るのは三人ともだな」
「「はい」」
ファンナとセリナが嬉しそうにすりすりとしてくれるのを心地よく感じながら、ドワーフ特有の毛量の多さと強さ? を体感しているとふつふつと湧き上がってくるものがある。原作ミッちゃんの手作り石鹸だけでもドワーフ鍛冶師のあの娘の髪は大きな変化を遂げていた。だが、俺が持ち込んだ高級固形石鹸と女性用の高級シャンプーとコンディショナーを使えば更なる効果が望めるはず。
ただ固形石鹸はある程度数を持ち込めたのでしばらくもつが、シャンプー系は液体のため量は持ち込めていない。だから基本は新規加入メンバーに対して最初の磨き上げに使うつもりだった。本当なら二人にも早く使ってあげたかったのだが、貴重な洗髪剤を使うなら無駄にしないためにも落ち着いて入浴できる環境が整ってからにしようと我慢していた。
シャンプーの製法も持ち込んでいて、簡単に確認した時は塩や小麦粉をお湯と混ぜるだけという簡易シャンプーもあるらしいので最初はその辺りで一度洗髪して、仕上げとして高級品で磨き上げる予定。一度磨き上げてしまえば、あとは手作りのシャンプーや石鹸でもある程度髪質などを維持していけるはずだ。ショートでもロングでも黒でも茶色でも構わないが、女性の髪がさらつやなのは絶対的にいいものだ(持論)。
お風呂に行く前に今日の分の勉強として、ノートに五十音と数字の0から9までの対応表を作成する。日本語のひらがなとカタカナの説明をして書き出した五十音表にセリナがブラヒム語の五十音を並べて書く。出来上がった五十音表の原本は後程壁にでも貼ることにして、各自で自分のメモ帳に原本から五十音表を写し取る。書写自体が勉強になるし、家の壁にも、手元のメモ帳にも表があれば空き時間に自習も出来る。
不安だったのはブラヒム語が日本語とかけ離れすぎた言語体系で五十音表に落とし込めないことだったが、原作ではブラヒム語は呪文を見る限り、日本の古い言葉に翻訳されていた。だから言語体系としては日本語と近いのではないかと思っていたが、出来上がった五十音表を見る限りは的外れな推測という訳でもなさそうだった。
「ユータ様の故郷の言葉は面白いですね、ひらがな、カタカナ、それに漢字? ですか、いろいろな言葉を混ぜて使うのは暗号とかを意識しているのでしょうか?」
なるほど、確かに複数の文字を組み合わせれば暗号めいて見えるか。セリナの目の付け所は面白いな。でも、日本語はなんというか……俺の中では丁寧に出汁をひいた上物のスープにどんどん具材を適当に投げ込んでいったら、何か知らないけど凄い美味いスープが完成したみたいなイメージ。これだけ聞くと意味不明だろうが、そのおかげで日本語ほど何かを表現するのに適した言語はないと勝手に思っている。他の言語をマスターしたことなんてないから比較対象するものは一個もないけどな。
「暗号はさすがに大袈裟だけど、この言語はいろんな言葉をうまく組み合わせて使うことで、文字からたくさんの情報を得られる言語だと思うから、是非俺が持ってきた本とかを読めるようになって欲しい」
「は、はい! 文字が読めるようになるの楽しみです!」
元気よく頷いたせいでズレた眼鏡をくいっと直しながらファンナは満面の笑顔だ。奴隷落ちしたことで得た、文字を学べる機会すら視力のせいで失っていたファンナにとって、ブラヒム語だろうが日本語だろうが文字を覚えられること自体が楽しいのだろう。しかも覚えた暁にはレシピ本やいろいろな知識の本、それから俺が厳選してデータで持ち込んだ各種書籍も堪能できるとなればやる気も出るというものか。もしかすると一番最初に文字を覚えて読み書きができるようになるのはファンナかもな。
「よし、今日のところはこの辺にして風呂に入ろう。今日は髪と体を特別な石鹸で洗って二人をピカピカにしていくからな」
「石鹸を使わせていただけるなんて贅沢すぎます」
「まあ。いいからいいから。二人が綺麗になればなっただけ主人である俺も嬉しいし、鼻が高い」
その後は二人を強引に押し切り、さっさと脱衣所へと向かい服を脱いで籠に入れると浴室へと入る。魔法を駆使しまくったおかげで浴室は程よく湯煙で満たされ、一番小さく区切った浴槽にはなみなみとお湯が張られている。
「くぅぅ、早く浸かりたいけど我慢我慢、まずは簡易シャンプーとして塩シャンプーを作らないと」
持ち込んだ石鹸と洗髪料はすでに浴室内に運び込んであって、髪の毛に関して今日だけは塩シャンプー、高級シャンプー、コンディショナーの三度洗いを予定している。そして体を洗う時は高級石鹸で手洗い、肌洗いをお願いしたいが、やはり今日だけはタオルで泡立ててしっかりと全身を擦って洗った方がいいだろう。一回リセットされれば、あとは手肌洗いでもこまめに洗えば綺麗な状態をキープできるはず。
おっと、二人が脱衣所で服を脱ぎ始めたらしい。急いで準備をしなくちゃ。といっても塩シャンプーはお湯に塩を溶かすだけでいい。分量こそ適当になってしまうが、最終的にちゃんとしたシャンプーとコンディショナーを使うから大丈夫。のはず。
いくつかの桶に砕いたコボルトソルトをお湯で溶かしてみたが、さすがに塩をお湯に溶かしただけでは《錬金術師》はゲットできなかった。
「わ、あ、凄いです。お湯がたくさんあります」
「ユータ様……」
歓喜の声を上げるファンナの隣でセリナが呆れたように溜息を漏らしているがこれは譲れないのだよ。
「二人とも、こっちへ。今日は初めてちゃんとした湯船付きのお風呂だし、お互いにピッカピカになってから浸かろう。という訳で最初はこの塩シャンプーで髪を洗う。最初に俺を洗ってもらうからセリナはこれを持ってくれる?」
「はい、こうですか」
「そう、で、俺が頭をそこに出すからファンナは俺の髪を揉み洗いしてくれ」
「は、はい! わかりました」
ちょっと体勢的には辛いが、塩シャンプーは泡立てて使うようなものじゃないから仕方ない。でも、一生懸命に頭を洗ってくれているファンナの大きな霊峰がほにょんほにょんとぶつかってくるのは楽しい。前かがみになった俺の視界に自分のマックスデュランダルがびくびくしているのが入ってくるのが玉に瑕ではあるが。
一通り洗ったところで順番に位置を交代して三人とも塩シャンプーを済ませると一度しっかりとすすぐ。これだけでも結構すっきりした感じがあるので、やはり結構汚れていたのだろう。俺でさえそうなのだからファンナとセリナはもっとだろう。多分一回の塩シャンプーでは足りないはずだ。そこでこの高級シャンプーを使う。
「いいか、これは俺が故郷から持ってきた貴重な髪用の石鹸だ。補充も出来ないからめったに使えないが、今日は記念日だからしっかりと使っていく。まず一度ファンナを俺が洗うからよく見て覚えてくれ。ファンナはここに座って」
「は、はい」
ドワーフ特有の強髪も今は濡れ髪で大人しくなっている。
「二人は髪が多いから二回出すが、俺なら一回で十分だ。こうして手に取った液体を頭の上で軽く揉んだら頭をマッサージするように洗って更に泡立てていく。目に入ると沁みるから目は閉じておいてくれ」
「はい」
ファンナの小さめの頭を揉み解すようにしながら頭皮を洗い、そのまま髪全体に泡を刷り込むように髪を洗っていく。二人の髪は肩ぐらいまでだが、毛量が多いせいかツープッシュでもちょっと足りなかったのでもうワンプッシュ追加して完全にあわあわになるまで洗う。
「凄いですね、こんなに白い泡がたくさん。ユータ様が貴重だと言われるのも納得です」
「俺の故郷では【髪は女の命】って言葉もあるくらいで、ケアに関しては異常なほどにこだわっていた人もいたよ。よし、シャンプーはこれでいい一度流して泡を落としたら、このまま仕上げに入るぞ」
ファンナの頭に優しくお湯を掛けて泡を落としてあげると、仕上げ前にもかかわらずその色艶は洗髪前とは段違い。浴室に持ち込んだランプの光を受けて、ちゃんと天使の輪が出来ている。
こくん
それを見ていたセリナの喉が鳴る。同じ女性としてこの違いに圧倒されているのだろう。それならばと俺はさらに追い打ちをかけるべくファンナの髪にコンディショナーを塗り込んでいく。これは塗った後はちょっと置いた方がいいらしいので絞ったタオルでファンナの顔を拭いてあげると目を開けてもいいと教えてあげる。
「えっと、なんか凄く頭が軽くなった気がします」
「後で自分の髪を見たらもっと驚くから楽しみにしておけ、じゃあ次はセリナだ」
「はい! お願いします!」
「お、おう……わかった」
その効果を目の当たりにしたセリナの圧が強い。やはり女として美にはこだわれる状況ならばこだわりたいのだろう。
次のメンバーはどんな人?
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メイラ 索敵 長身細見長髪クール美女
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シェリア 索敵 細見陽気軽妙元気少女
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ロシー タンク 大柄繊細暢気愛され系
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トモエ 後衛 色白獣耳獣尾クール美女