今日、一発目のオークションはオルトスの見立て通りに終了した。それにしてもコボルトが二千二百五十とか原作の半額以下ってこの世界の迷宮探索者たちは迷宮を討伐する気があるのか? 俺たちにはありがたいが。
「これが仲買人のライバルが競っていたりするともう少し粘られることもあるんじゃが、上の席とは予算を超えてまでは無理に競ってこないからの。このとおりお得に落とせるわけじゃが、買い占めをするわけにはいかんから限度はあるぞ。ま、その辺の匙加減を間違えるような奴は上の席には座れぬじゃろうがな」
「……なるほど、これはとても俺たちが手を出せるような世界じゃないな。オークション関係は全面的にオルトスに任せることにする。改めてよろしく頼む」
「ほっほ、ありがたいことじゃ。儂が楽しめておるうちは力を貸してやろう」
「それは頼もしいな、よろしく頼む」
オルトスは楽しそうに肩を揺らすが、それはつまりぬるい探索をしているようなら専属は辞める。そういうことだろう。最終的にぬるい探索を目指している俺としては耳が痛いところだが、それなら見切りをつけられる前に俺たちに必要な物をなるべく多く揃えられるようにするだけだ。
「差し当たって今日、欲しい物はあるかの?」
「そうだな……結晶ならウサギ、後は例の知人の関係でヤギ、もしくははさみ式、他にも相場より安くなるならいろいろ確保したい。スキルの内容や融合の成否はともかく、試行回数の多さは《鍛冶師》の経験になるからな」
《鍛冶師》の実力といっても、実際はスロットとレベルありきだろうが、この場ではそう言っておくしかない。
「ふむ……今日の予定では結晶はあまり出る予定はないのじゃが、ウサギは出るな。それだけでも落としておくか」
「結晶が少ないのは何か理由があるのか?」
「ほっほ、今日はユータ坊が持ってきた鈍重のダマスカス鋼槍が出るからの。そういうときはあまりスキル結晶などを出しても売れ行きが悪い。じゃが、妨害武器を融合しようとしていたところは、資金稼ぎに融合前の武器を出品しているところがいくつかあるようじゃな」
なるほど、強化スキル付きの武器はそこまで人気になるのか。鈍重の効果がどの程度かは知らないが、意外と使える効果なのかもな。ん、ということはそれなりの武器もオークションに出ている可能性があるな。
「オルトス、今日の出品リストはあるか?」
「ほほっ、なんぞ欲しい武器でもあるか? おい、見せてやれ、ついでに三千じゃ」
『三千!』
オルトスの隣に控えている人が、いつの間にか出品されていたウサギのスキル結晶にコールし終わると一枚の紙を差し出してきた。
「セリナ、頼む」
「はい」
受け取ったメモに目を通してくれたセリナはメモを返却すると、出品予定の装備を教えてくれる。
「資金稼ぎということもあって武器屋に並ばないような物も出ています」
「店売りになるようなものは店でも探せると思うが……その境界線以上のランクの武器はなにかあるか」
「そうですね、店売りに出るかのボーダー上としてはスタッフとエストックが一本とダマスカス鋼の剣とステッキ。その上だと聖槍とオリハルコンの槌でしょうか」
おお、なかなかの品揃えだな。値段とスロット次第だが聖槍かスタッフは欲しい。あとはオリハルコンか、レアだけど槌かぁ……うちにはドワーフが二人いるからありっちゃありだけど、使いづらいんじゃなかろうか。ここは是非オリハルコンの剣か槍であってほしかった、だめならせめて斧とか。
まあ、この世界でも武器に使用者『制限』というシステムがあるのかどうかは分からないけど、もし制限があるならオリハルコン系はまだ装備出来ない可能性が高いだろうな。だからそっちは見送るにしても、スロット付きなら是非とも聖槍は欲しい。ダマスカス系やエストック、スタッフも店で買うよりは安いならスロット付きだったらキープしておきたい。スロットが一つしかなくても今回のようにスキルを付けてオークションに出せば利益が出るし、スロットが複数あれば俺たちの装備にしてもいいランクだろう。
「オルトス、今の装備が今日落札されるとすればいくらぐらいか分かるか?」
「そうさのう、ダマスカス系は店に出にくい程度じゃから店の買取額に多少色がついたくらいになるじゃろう、二、三万程度か。スタッフやエストックもランク的には変わらぬから同じじゃな。聖槍とオリハルコンの槌はいつもなら二十万ナール以上の値で競ることになるじゃろうが……今回はメインが最後に控えているからな、もう少し抑えた値に落ち着くじゃろう」
「そうか……実物を見て質が良さそうなら頼むかも知れない」
「ほっほ、強権を付けるなら良い武器で挑戦しなければな。最近は失敗を恐れて安い武器ばかりで狙う奴らが多いのは困ったもんじゃ」
オルトスの言いたいことも分かる。さすがにこの世界の迷宮は多すぎる。あまり街の外を移動したことはないが、これまでの感覚から原作よりも二倍から三倍近い迷宮があるとすれば、発見されていない迷宮も相当数あるかも知れない。いずれ頻繁に街の外を魔物が闊歩するようになって世界自体の危機とかになっていかなければいいが。
そうしている間にもオークションは進み、スキル結晶の後は中層程度の素材や、芸術品などが出品され、前半の目玉としては威霊仙が出たが今の俺ではそのランクの素材を『生薬生成』することは出来ないし、あっという間に十万ナール以上の競りに突入していたのでそこからは気にするのをやめた。ちなみにオルトスはしっかりとウサギの結晶を三千で落としてくれている。本当なら三千二百までで依頼をしているので、談合に参加しているならそこまで競り合うのだろうが、オルトスは俺たち相手に小金を稼ぐようなことをするつもりはないらしい。
『次からはなかなか店頭には並ばない武器のオークションになります。最初はこちらの品々です』
オークショニアの指示に従って持ち込まれた武器は店売りに出る可能性もある品々たち。ラッキー、今のうちに『鑑定』をしてしまおう。
スタッフ
ダマスカス鋼のステッキ
ダマスカス鋼の剣
エストック(空き)(空き)(空き)
おお! ダマスカス系とスタッフにスロットはないが、エストックはスロット三つ。これは是非欲しい。いずれ誰かを《暗殺者》に出来たら持たせるのにちょうどいいだろう。最低でも【詠唱中断】【石化添加】は確定で、後は【麻痺添加】やそれこそ今回の立木の結晶で【動作半減】とかを付けて状態異常に特化するか、攻撃力上昇系を付けるか。でも、石化を狙うなら攻撃力上昇系はなくてもいいか? そうすると麻痺かな、でも【HP吸収】を付けるのもありだな。そうするとスロットはいくらあってもいいなぁ、ていうかこうして強化を考えるのは凄く楽しいな。
「オルトス、できればエストックは欲しい。店頭価格と同じくらいまではかかってもいい」
「最近はあまり店にも出なくなってきているランクじゃな。ま、今日は問題なく落とせるじゃろう。他はよいのか?」
「聖槍と槌も一応見ておきたいし、まだ三人パーティーなのでな」
今後のメンバー補充にも金がかかる。実際ベリルのアレクに一人紹介してもらう予定もあるから、鈍重がいくらで売れるか分からないが手持ちは残しておきたい。
その後もオークションは進み、空きスロットなしの武具がどんどん売れていく。その値段はオルトスの見込みどおり店での販売価格よりも安い。スキルが付いていないなら店売りと性能は変わらないのだから、入手を急ぐ理由がない限り店より安く買えるという利点がなければ買う人はいないということだろう。
『次は片手剣を使う迷宮探索者にとっては、最初の目標といっても過言ではないエストックの出品です。一万ナールからスタートです』
エストックの店頭価格はいくらだろう。これまで覗いた武器屋では置いてなかったから分からない。確か原作でも明記はされていなかったはず。ただスタッフと合わせて購入して金貨十数枚が消えたとかって話だったっけ。ということは店頭価格だと金貨五~八枚? 仮に六万としたら売却額は四分の一の一万五千。その間で値段が決まるとすれば……
「落札額は四万前後か?」
「ほう、なかなかいい見立てじゃな。他に目玉がなければ七枚から十枚になることもある。今日なら五枚前後というところじゃが、どうかのう。二万五千じゃ」
『二万五千!』
一万八千まで上がっていた値段をオルトスが一気に上げた。一万ナールから十万ナールまでは千ナール単位がルールで、一万ナールまでの上げ幅で入札するのがマナーだったはずだから、結構攻めたな。
そして、オルトスから入札があったことで他の者たちからの声が減る。それでもまばらに千ずつ価格は上がっていき三万ナールに到達。
「三万五千といくか」
『三万五千!』
オルトスの指示によりエストックへの二回目の入札の声が上げられると、完全に仲買人たちが沈黙。
『三万五千が出ました。さあ、他にはいませんか、いませんか? よろしいですか、よろしいですね! それではこちらのエストックは三万五千ナールで落札です』
「という感じじゃな。買い注文が入っていなければ、わざわざ二階の儂らと敢えて競ろうとはせんのじゃよ、最近の仲買人共は気概が足らなくてまったくつまらん。どうしても必要な物は儂も譲る気はないが、そうでなければ、儂らも真っ当な取引しかせん。そのうえで競り負けたからといってその者に圧力を掛けたりするようなことはないのじゃが」
オルトスは大袈裟に肩をすくめて嘆くが、それは強者の立場だから言えることだろう。
「なんとも贅沢な悩みだな。仲買人たちにしてみれば、オルトス自身にそのつもりがなくても周りの人間がオルトスの心情を勝手に慮って余計なことをするかも知れないなんていう可能性がある以上はあえて蜂の巣をつつきたくはない。もし対等に競りを楽しみたいなら変装でもして一階に混ざってみるしかないんじゃないか?」
「ふむ……確かにユータ坊の言うことには一理も二理もあるのう。まあ、儂とてこれまで積み上げてきたものを全て否定するわけではないのでな、ある程度のアドバンテージがあることは理解しておるが……なるほどのう、確かに贅沢な悩みのようじゃ。ただ、変装して一階に混じるというのは面白そうじゃな、今度やってみるとしよう」
おいおい、冗談で言ったことを真に受けるんじゃない。なんかあっても俺は知らんぞ。
『さあ、今回のオークションもセミファイナルといったところでしょうか! まずはめったに出回らないオリハルコン製の一品、力の強い者に持たせれば抜群の破壊力が保証されたオリハルコンの槌です』
いよいよ出てきたな、【鑑定】。あぁ、スロットなしだ。せっかく安く買えるチャンスだったのに残念。
『そして、もう一つはこちらの聖槍になります! 槍として使ってもよし、《魔法使い》に持たせてもよし! こちらもあまり出回らない希少品です』
さあ、最後の一品はどうだ? 【鑑定】。
聖槍(空き)(空き)(空き)(空き)
うぉぉ! 来た! 来たよ! 残念ながらミッちゃんが手に入れた聖槍よりはスロットが一つ少ないけど今の俺たちには十分すぎる装備だ。俺が装備すれば俺の戦闘中の立ち位置も後衛と中衛の両方に対処できる
「オルトス! あの聖槍が欲しい。落とせるか?」
「ほっほ、喰いついたのう。確かに上等な装備じゃが……聖槍が出品されることを知った時はそこまでではなかったようじゃが、実際に現物を見たらガブリじゃな。見た目や性能に違いはないはずなんじゃがのう……あの聖槍【が】欲しいときたか。いったい何を判断基準としているのかのう」
あぁ! しまった! つい興奮しすぎた。にやにやと俺を見るオルトスは【あの】聖槍が良い物だと俺が判断したのには何か理由があることに気が付いたのだろう。好奇心に満ちた目を俺に向けている。まあ、見られたところでそれを認めることはないし、こちらからはヒント一つ出すつもりはない。それなのに、俺の言動から勝手にヒントを得られてしまうのはどうしたものか。
「と、特に何もないさ。敢えて言えば実際に見てみたら、あれは手に入れるべきだと直感が働いただけだ。迷宮探索者ならこういった直感は無視できないだろう?」
「くくっ、そうじゃな。えてしてそういった感覚を無視する奴に限って痛い目にあったという話を聞くのう」
一応納得したかのような回答をするオルトスだが、絶対信じてないな。まあ他に『鑑定』を使える人がミッちゃんくらいしか思い当たらないし、知らんぷりしていればせいぜい運とか勘がいい奴くらいに思ってくれるだろう。
「俺は自分の勘を大事にしている。この二人もそれに従ったお陰で最高のメンバーを手に入れることが出来たしな」
別に二人を買うと決めたのは勘でも何でもなくて、完全に種族と見た目、後は姉妹想いの性格を俺が好ましく思ったからだけどね。
って、こらこら、二人とも照れ照れしない。こっちまで恥ずかしくなるから。
次のメンバーはどんな人?
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シェリア 索敵 細見陽気軽妙元気少女
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トモエ 後衛 色白獣耳獣尾クール美女