「お待たせしました。査定の結果になりますが合計で八千四百七十ナール、売れ筋の皮と革の装備を大量に持ち込んで頂けましたのでサービスして一万一千十一ナールで買い取らせていただきます。内訳をお聞きになりますか?」
「いや、問題ない。それで頼む」
原作で彼や彼のパーティメンバーも言っていたけど、この三割アップや三割ダウンは本当に不思議だ。普通ならおまけしても一万ナールとかの切りのいい値段になりそうなところをきっちり三割アップしてこんな中途半端な金額を提示してくる。それでいて提示した本人はそれを全く疑問に感じないんだからもはや催眠や洗脳に近い気がする。まあ、それでも俺だけが得するのでやめる気はないんだけどさ。
さくっと金貨一枚と銀貨十枚、銅貨十一枚を受け取ってウエストポーチ内の銀貨銅貨袋に入れるとお礼を言って店を出る。
これでひとまずは盗賊戦関係でやるべきことは全部終わった。ここから先、この世界で起こることはきっと俺次第。油断すれば次の瞬間にでも殺されてしまうことだってあるかも知れない。ここが現実で、日本よりも危険な場所だということを常に意識して基本は謙虚。ただし、やらなきゃいけないときは大胆に動けるように、が今後の目標だ。
決意新たに、軽く背筋を伸ばして空を見るとやや陽が傾いてきているが……これから行けばまだ商館が閉まる時間に間に合う。なら行くしかないでしょ! あぁやばい、どきどきしてきた。とうとう俺も奴隷を購入しちゃうのか、いつでも好きな時にいちゃこらしてもいい俺好みの子をゲットできちゃうのか!
「すみません、いつまでも入口にいられると他のお客様にご迷惑ですので……」
「あっと、すまん! すぐにどく」
おっとやばいやばい、さっきまでの決意がすっかりどこかに行って油断しまくりだった。男は度胸、さっさと商館にいって話を聞いてみよう。ってことで今日開かれている市を見ながら歩いて商館に向かっているんだが、いろんな種族の人たちが思い思いに行き交っていて市というのは賑やかなものなんだな。
街中央の十字路付近を使って、お祭りの屋台のようにいろんな店が出店するフリーマーケットのような形態だ。さっきの武器防具屋みたいに店舗を構えているところは店を開けているだけだが、雑貨や生活用品、衣服なんかは五日ごとに開催されているこの市で買うらしい。本来なら仲間が増えた段階でいろいろ必要な物を買わないといけないんだろうけど、商館での話次第で今日は市が閉まるまでに間に合わない可能性がある。今買っておくという手も考えたが、ある程度日本から持ち込んだ物もあるし、必要なら冒険者ギルドで常設店舗があるような大きな都市に送ってもらえば買い物はできるはずだからいいか。
「あ……しまった。馬車で回っている感覚のままだった。歩くと結構あるじゃないか」
宿は街の東で、商館は北西部、徒歩だから市を突っ切れるとは言ってもそこそこ歩くことになってしまった。そして、商館を目の前にして思い出す。『ワープ』があったじゃないか、と。
「まぁ、MP的にまだきついような気がするから別にいいんだけどさ」
誰に対するものなのか、一人で負け惜しみを呟いてしまった。でも歩いて移動したのも街の雰囲気を感じられて良かったし、いろいろ気持ちの整理にも役にたったから無駄ではなかった。よし、気持ちに折り合いが着いたところでいざゆかん。
「これはユータ様。お待ちしておりました。店主より、もしいらしたらすぐにご案内するように承っておりますので、こちらへどうぞ」
「あ、ああ、よろしく頼む」
扉を開けた途端に秘書的なサーベスさんに頭を下げられる。ていうかこの人反応が早すぎてちょっと怖い。結局その勢いに圧倒されるままさっきとは違う部屋に通される。こっちの部屋の方がさっきより少し広くて豪華な感じか。売りにきた人と買いにきた人で部屋が変わるのか?
「お待たせしましたユータ様。さっそくの来訪ありがとうございます。お越しいただいたということは奴隷の購入を前向きに検討して頂いているということでよろしいでしょうか」
部屋に入ってソファーに腰を下ろすと、すぐにアレクが入ってきて簡単に挨拶をかわすとストレートに話を切り出してくる。
「そうだな、やはり迷宮に入る以上は信頼できる仲間は必要だろう」
「まさしくその通りでございます。その点、奴隷ならば主人の死は自分の死と同義ですので最後まで主人であるユータ様を守ってくれるでしょう。それに報酬で揉めることもありませんから探索が円滑に進みます」
「なるほど、奴隷の生活を保障する代わりに奴隷の得たものは主人のもの。そういうことか」
確かこのあたりの説明は原作でもされていた気がする。世知辛い奴隷社会のしきたりだが、あくまで主観にはなってしまうが、うちに来てくれた子たちに酷いことをするつもりはない。できれば原作のパーティみたいに俺に買われて良かったと思って貰いたい。
「さようでございます。いかがなさいますか」
「予算との兼合いになるが信頼できるメンバーは欲しい……最終的に一通り見せてもらうことになるかも知れないが、アレク殿がおすすめする奴隷はいるか」
さあ、どうだ! 結局お茶を出してくれたのは狼人族の揺れる人ではなく、誰得な秘書のサーベスさんだったが、原作準拠のあの子がもし出てくるのならこのタイミングでしょう!
「当商館の奴隷はいずれも自信を持ってお勧めできる奴隷ばかりです。一度見てもらった方がいいでしょう」
「……そうか、それは素晴らしいな。では見せてもらうか」
ダメかぁ! やっぱり原作キャラまでは反映されてないらしい。街や人の名前にちょっとかすっている部分もあったから、ロクサとかローサとかの狼人族を紹介されるかもと僅かに期待していたのに……えぇい! 切り替え切り替え。可能性は低いと思っていたんだから落ち込む必要はない。こっからは百パーセント俺の好みで好きに選べばいいってことだ。
「では、ご案内いたします。何かご希望はありますか?」
「そうだな……まずは女性だけ見せてもらえるか」
「かしこまりました。女性は三階と四階になりますので、三階から回っていきましょう」
明らかに目的が透けて見える要望を切り出すのは少し躊躇ったが、売り主である商館の主に見栄を張っても仕方がないと割り切って女性のみを紹介してもらうことにする。
あぁっと、そうだった! 何よりもパーティに優先して入れておきたい種族がいるのを忘れていた。
「アレク殿、すまないがもしドワーフ族の女性がいれば優先的に見せてほしい」
「…………もし《鍛冶師》をお探しでしたら鍛冶師の奴隷を見つけるのはかなり難しいとお伝えせざるを得ないですが」
だろうね。ドワーフの種族固有ジョブである《鍛冶師》は装備品を作成したり、装備品にスキルを付与ができるというめちゃくちゃ有能なジョブだ。
しかもこの世界では未だに詳細な転職条件が明らかになっていないから数も多くないし、装備品にスキルスロットというものが付いていない限り絶対にスキル付与が失敗する。
さらにそのスキルスロットを確認できるのは把握できている限りあのサイトから転移してきた者が取得できるボーナススキルの『鑑定』のみ。
そしてスキル付与に失敗するとスキルを付ける為に必要な高額アイテムは失われてしまう。そんなことが何度も続けばいつか依頼人もその鍛冶師にいらだちを覚えるようになるだろう。
《鍛冶師》はどんなにレベルを上げてもスキル付与の成功率は上がらず、その結果は付与する対象の装備品次第。だから《鍛冶師》の立場は常に危うい位置にあり続ける。そのため《鍛冶師》は奴隷に落ちるような事態になった場合には自分の身を守るために《鍛冶師》のジョブを変更してしまうとか……というのが原作からの知識。
「《鍛冶師》である必要はない……ジ、ジョブは関係なく個人的な嗜好によるものだと思ってくれていい」
「な、なるほど、小柄な女性が……」
「んんっ! か、勘違いするな。小柄な女性『も』好きなだけだ」
アレクはわざとらしく何度も頷くと、それならばと行き先を変えた。
「ユータ様、そういったことであれば是非ご紹介したい奴隷がおります。一度引き合わせたいと思いますので先ほどの部屋へ戻ってもよろしいでしょうか」
おぉ、それっていきなり最初からドワーフをゲットできるかもってこと? 最初はお金も装備も足りないだろうし、すぐにスキル付与ができる訳ではないだろうけど早い段階でパーティに入ってもらえるのはありがたい。
アレクの申し出を即行で了承した俺はさっきの部屋に出戻り、冷めかけたお茶を飲みながらアレクを待つ。
ただ、流れの中で紹介しなかったってことはなんか訳ありってことかもなぁ……多少のことではうろたえないつもりだけど、四肢が欠損しているとかやばいくらい醜女とか初期段階でハードルが高い相手が初っ端ではないことを祈る。
能力があれば気にしないと形の上では言ってあげられるけど、ふとした瞬間に意図せず相手を同情したり傷つけるような視線や態度、言葉が漏れてしまうかも知れない。じゃあそうならないように気を付けるってなると、そう思い続けること自体が時と共にストレスになっていく可能性はある。そういう気持ちを抱かずに受け入れられるようになるには、ある程度の資産があって、強さもあって生活にも心にもなんの不安もない満たされた状態のときなんじゃないかと思う。俺はその程度には小さい人間だという自覚がある。
「お待たせしました、彼女がユータ様にご紹介したいドワーフ族の奴隷です。ファンナ、自己紹介を」
「は、はい」
アレクに手を引かれるように前に出てきたのはドワーフ族らしく小柄な女性だった。小柄ではあるが、特に線の細さは感じないしお尻から腰のラインも艶がある気がするし、そ、それに……小柄なのに胸がとても大きい。原作の鍛冶師様に滅びを告げられかねないサイズだ。肩まで伸びているだろう藍色っぽい髪を左側で一つに留めているが、どこかごわついて見えるのはドワーフ族の髪質のせいかも知れない。そして、肝心要の顔。え?
「じ、十六歳のドワーフ族で、ふ、ふぁ、ファンナと言います。う、上手くできないかも知れませんが、な、なんでも一生懸命にやります! よろしくお願いします!」
深々と頭を下げた後、勢いよく起き上がったファンナは一瞬視線をさまよわせた後、ギンッ! と音が聞こえそうなほど眉間に皺を寄せて俺を睨みつけてくる。顔立ちは正直悪くない、睨みつけるのさえやめてくれれば十二分に美少女だ。自己紹介もやる気に満ち溢れているし、緊張のためか多少噛み気味だが綺麗なブラヒム語で丁寧。それにロリボディに不釣り合いなほどの胸、なのになんてもったいない。でも、今は自分を買おうとする相手を睨みつけたくなるほど嫌っていたとしても、一緒に生活していけばそのうち警戒心を解いてくれる可能性はある。それなら貴重な可愛いドワーフ族女性を逃す手はないな。
ファンナ ♀ 16歳
村人Lv3
装備 なし