「アレク殿、彼女にいくつか質問してもいいか?」
「はい、どうぞ」
「では、聞くぞ。俺はこれから迷宮に入って生計を立てていくつもりだ。迷宮に入ることに問題はないか」
「あ、あの、は、はい! なんでも一生懸命にやります!」
「今のジョブは」
「……む、《村人》です」
「今後なりたいジョブなどはあるか」
「え、えっと……ど、どんなジョブでも一生懸命にやります!」
うん、やる気だけが空回りしている感じがあるね。きっと何か理由があるんだろうけど、その辺をアレクは答えてくれるだろうか。
「わかった、アレク殿」
「はい、ファンナ。一度下がっていなさい」
「は、はい! よろしくお願いします」
勢いよく頭を下げたファンナは振り返って扉を開ける際に緊張MAXで目測を誤ったのか扉に指をぶつけ突き指したらしい指の痛みに悶えつつ部屋を出て行った。
「いかがでしたでしょうか。彼女は十六歳で処女、しかも性奴隷となることも了承しております。表情に問題がないとは言いませんが、ユータ様ならば遠からず彼女の心も解きほぐされるでしょう」
ファンナの売り文句はさすがの言い回しだが、何かを言っていない、そんな気がする。その辺を問い詰める前に三割引きに設定を変えておく。
「アレク殿、彼女はなぜあんなにやる気があるのに卑屈なのだ」
「……」
「いや、勘違いしないでほしい。俺は彼女を購入したいと思っている。ただ、これから共に迷宮に行くかもしれないパーティメンバーに不安要素を残すわけにはいかないだろう?」
俺の問いかけにやや目を見開いたアレクはふっと息を吐くとゆっくりと口を開く。
「……おっしゃる通りですね。彼女は本当に頑張り屋で器量の良い子でしてね。なるべく奴隷に厳しく当たらない方を紹介したかったのですよ」
「それは送り出す奴隷全てに対して思っていることだろう。彼女はなぜ奴隷に?」
「はは、ユータ様は初心なようでいて意外と鋭い。わかりました、お話ししましょう……実は彼女……不器用なのです」
「は?」
不器用? なんで不器用なだけで奴隷にまで?
「しかも、極度の。緊張しやすいのか、どうにも手元が定まらず、つかみ損ねて物を落とすことは数知れず、人や壁にもよく接触しますし、正直今のままでは迷宮で活躍することは難しいでしょう」
ん? そういえば彼女は眉間に皺を寄せていたな、俺を睨んでいたのかと思ったけど、口調や声に怒りや苛立ちはなかった。手元がおぼつかない、眉間の皺、突き指、物をつかみ損ねる……うん、覚えがあることばっかりだ。そんなに真面目に考えなくたって答えは出ていたな。もしかしなくても彼女、ド近眼なんじゃないの。なんならアライグマレベルの。
そういえばこの世界に来てから眼鏡をしている人は一人も見ていない。多分この世界の人って基本的に目がいいんだ。だってゲームもテレビもないし、夜は暗いからすぐ寝るだろうし、外は緑が多い綺麗な景色ばかり、それに迷宮で魔物と戦って動体視力とかまで鍛えられている可能性もある。そうすると視力が落ちるような人はほとんどいないんじゃないかな。
もし彼女が近眼なだけなら、持ち込んだはいいものの無用の長物となり果てた眼鏡たちのどれかで彼女の問題を解決できるかも知れない。
「なるほど、そのくらいなら問題ない。だが、問題はそれだけではないのではないか。彼女が迷宮で戦えないかも知れないと考えているアレク殿が、迷宮で戦える人材を探している俺に彼女を勧めるのはどうなんだ」
「やはりお気づきになりますか。そうです、実は彼女に関しては売却するにつき条件がいくつかありまして、一つは彼女を無下に扱わない相手を私の責任の下に探して売却すること」
えぇ! 本当に他の理由もあったの! 迷宮で戦えないならお安くなるよねって感じで値切ろうかと思っていただけなのに。
「もう一つが……セリナ。入りなさい」
「は? え?」
アレクの声に応じて開いた扉から入ってきたのは、先ほど退出したファンナ……いや、違う。ファンナは髪を左側に留めていたが、彼女は右側だ。それにファンナにあったおどおどとした雰囲気とお胸がない。
セリナ ♀ 16歳
探索者Lv3
装備 なし
別人? いや、違うな。
「双子……か」
「はい、忌み子と言われ忌避される双子。この二人を同時に購入していただくことが条件になります」
な、なんだって! ちょ、ちょっと待て。ということは最初から一気にドワーフの可愛い子を二人も仲間にできるってこと? まあ《鍛冶師》自体はパーティに一人いればいいんだろうけどダブル《鍛冶師》もなくはない。仮にもう一人に《鍛冶師》をやらせなくてもドワーフは怪力だという話だし前衛としても十分活躍できる。
「なるほど、理由を聞いてもいいか」
俺はアレクではなくセリナに向かって問いかける。セリナは問を受け、アレクに答えていいかと視線を送りアレクは微笑んで頷く。
「ドワーフ族、十六歳のセリナです。私の姉は不器用でドジです。おそらく迷宮で戦うことも家事を十分にこなすこともできないと思います。伽だけは問題ないでしょうが、それだけしかできない奴隷の扱いは徐々に悪くなっていく可能性があります」
厳しい表情で訴えるセリナの言い分はわからなくはない。家事もできない、迷宮にも入らないで夜伽だけをするとなれば……主人が権力者とかなら後宮にいる妾ポジションだから有りな気がするが、俺みたいな資金に余裕のない奴に買われたら最初はまだしも徐々に養っていく費用が負担になっていく可能性が高い。そうなれば扱いは酷くなっていくだろうし、場合によっては再び商館に売られるだろう。そして処女性すら失われて価値が下がったファンナはさらに質の悪い者に安く売られていく……という転落ストーリーが頭に浮かぶな。
「ですから至らない姉の分まで私が二人分、二倍働きます。だから姉と一緒に可愛がってください! ……双子が世間的に忌み子と呼ばれよく思われていないのは知っています。ですが、私たちはいつも二人で一緒にいましたが元気です」
いや、二人して奴隷になってるやん! と突っ込むのは野暮か。
「姉のファンナが家の仕事を手伝えるようにならなかったため、税金の支払いが難航したようで最初はファンナのみが売却されたのですが、姉が売られたことに気が付いたセリナが先ほどの条件を付けて自ら奴隷になったのです」
そっか、双子って自らの半身みたいに思っている人達もいるし、仲が良かったなら放っておけないか。だからって自らも奴隷になって姉を守ろうなんて姉思いのしっかりしたいい子だな。双子だけに背格好はファンナと瓜二つ。ただ、大きく違うのはセリナの髪は右側でまとめられていることと、胸が普通サイズであることくらいか。それに双子は忌み子なんて言っても、俺からすれば地球じゃ双子なんてありふれていたし気にする要素はない。
……となれば後は。
「アレク殿」
「はい、セリナ。あなたも戻っていいですよ」
「はい」
頷いたセリナが大人しく部屋を出ていくのを見送ったアレクがまっすぐに俺の目を見る。
「まずファンナですが、極度の不器用で表情に問題があるとはいえ美しい十六歳の処女で病気などもありませんから三十五万、セリナに関しては何事も卒なくこなせる優秀なドワーフで同じく十六歳の処女で病気などもない健康体ですから六十万で合わせて九十五万ナールですが、一人は迷宮探索に向いていないこと、さらに忌避される双子である二人を一緒に買ってくださるのですから六十六万五千ナールでお売りいたします」
たっか! 高すぎるって、アレクん! セリナなんか原作の狼人族の人と同じじゃん。確かにまだ《探索者》レベル三で《鍛冶師》になれる可能性もあるんだから高くなるのもわかるけど余裕で足りると思っていた資金が足りなくなるとは。
さてどうするか。正直ドワーフの美少女が二人という時点で買うのはもう決まりだ……資金的な問題も差額を考えればなんとかなるだろう。ただ、二人を苦労させないためには少し準備がいるか。
「高いな……すまないがちょっと即答は出来そうにない。回答に一日、買うと決めた場合は、さらに次の市まで彼女たちに売却扱いで待っていてもらうことはできるだろうか」
「いいでしょう。明日の回答をお待ちして、購入の場合はさらに四日、こちらで彼女たちを売却済みとして取り扱わせていただきます」
「すまんな、感謝する。となれば時間は無駄にできないな。明日の夕方頃までには必ず回答する」
「はい、良いお返事をお待ちしております」