桃井タロウは楽園行き   作:トナカイ

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大嫌いなあなた

 

 

 

 

 

 エンヤライドンが道を駆けてゆく。

 スーパーバイクとも呼ばれるそれも、今はそこまでスピードを出さず、緩やかな速度で道を走っていた。

 タロウの後ろにはセラヴィスが乗っていて、彼の腰に手を添えて振り落とされないようにしながら、ボウッと景色を眺めていた。

 

 

「そろそろだ、セラヴィス」

 

 

 ふと、タロウが言った。

 

 

「今日はガーランド教会でよかったか」

「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます、タロウさん。いつも送っていただいて」

「礼はいい。今日は夜道に気をつけろ」

「は、はい。気を付け、ます!」

 

 ほどなくして、ガーランド教会にたどり着いた。

 タロウはセラヴィスをエンヤライドンから下ろす。

 そのままセラヴィスは帰っていこうとするのだが、そこでふと何かを思い出し、タロウのもとへ舞い戻った。

 エンヤライドンを動かそうとしていたタロウはそれを見て足を止める。

 

 

「どうした?」

「あ、いえ。今日は、本当にありがとうございました、タロウさん」

「礼はいいと言ったはずだ。俺は当然のことをしたまでで」

「いえ、私のほうじゃなくて。ルクセリアちゃんのことです」

「む……ルクセリアか」

 

 

 セラヴィスはうなづき、言った。

 

 

「ルクセリアちゃんは私の最初のお友達なんです。セフィラムに来た頃から、いつも助けてもらっていて……そんなあの子が、タロウさんみたいな人と一緒になったら……私も、嬉しいんです」

「そうか。だが、俺は誰かと世帯を持とうという気はないぞ」

「あれ。そういう意味だって、分かっていたんですか?」

 

 

 賢者様の家でも、タロウさんはとぼけるようなことを言っていたのに……ああいや、ウソをつけないのだから、本心ではあるのだろうけど。

 

 

「ああ。俺はこの世界でははぐれものだ。縁を結ぼうと、誰か一人を特別視するわけにはいかない」

「……? それって、どういう」

「なんでもない、気にするな」

「は、はぁ……でも、仲良くしてもらえたらうれしいです」

「善処しよう」

「はい!」

 

 

 今度こそタロウは去っていった。

 エンヤライドンは地面から土煙をあげて、元来た道を走り去っていったのだった。

 それを見送り、ふと、セラヴィスは空を見る。

 既に聖都には夜のとばりが下りていて、彼女の暮らす聖ガーランド大教会の外は暗闇に閉ざされている。

 教会には薄明かりが、煌々と灯っていた。

 

  

「……まあ、脈は少しありそうなのかな」

 

 

 タロウさんは女心がわかっているのだろうか、とも思っていたのだけど、案外大丈夫そうだ。

 セラヴィスは部屋への道の中、そんなことを改めて考えていた。

 教会の中にはいくつか燭台があって、その上の蠟燭に炎の明かりがともっている。

 

 その炎を見つめながら、セラヴィスは改めて溜息を吐いた。

 

 ルクセリアちゃんはきっと、タロウさんのことが好きなのだ。

 いつも男の人に言い寄られるくらい綺麗な彼女が、どうして今でもお付き合いをしないのか不思議だったけれど、すでに思い人がいたというなら、納得だった。

 タロウさんは精悍な顔をしているし、根本的な性格はともかく、いい人、ではあると思う。ルクセリアちゃんが好きになるのも、わかるものだ。

 だからできることなら、恋が成就してほしいなと、セラヴィスは考えていた。

 ウソをつかれたのはちょっとモヤっとするけど、友達にも面と向かって「あの人が好きなの」と言えないくらい熱烈な恋をしているのだ。だったら問題なく許せてしまった。

 ああ、この話、秘密にしたほうが良いのだろうけど、誰かに話してしまいたい。

 リリーちゃんなら口は堅いし、話してもいいよね。セシリィ様も、そういうお話は好きだと言っていたけれど……

 

 

「……がんばれルクセリアちゃん。私、応援してますからね」

 

 

 小さくつぶやき。

 止めていた足をもう一度踏み出す。そしてそのまま部屋へ戻ろうとして__

 

 

「__え?」

 

 

 すぐ目の前のステンドグラスに、薄い影が映っているのに気が付いた。自分のものではない。それは巨大な目玉のようだった。目玉はセラヴィスにみられていたことに気が付くや、すぐに消えてしまった。

 

 

「な、なに今の⁉」

 

 

 思わずその影の後を追った。しかしどこにもいない。

 まさか、幽霊とか……そう思ったところで、先日セシリィから聞かせられた淫魔の情報について思い出した。

 まだタロウもシグルドも、エルアラドに来ていなかったころ、そこに現れた邪眼の淫魔、ゼノアイズ。

 触手を持つ肉に覆われた巨大な眼球の姿をとるというその淫魔と、あの目玉はそっくりだったように思う。まさか、ここを監視していた、とか? そう思うと、セラヴィスは動かずにはいられなかった。外套をひっつかみ部屋を飛び出し、すぐ外に出て目玉のお化けを探す。

 

 見間違えでなければ、あれはまだそう遠くには行っていないはずだ。

 夜の教会の庭に繰り出した彼女は、暗闇の中、月明かりを頼りに周囲を探る。

 と、何かが上空を飛んでいる。丸い体にいくつも触手の生えたようなそれは、確かに先ほど見た姿だ。墓地のほうへと飛んで行っている、セラヴィスは思わずその後を追った。

 

 

(私は戦えないけど……でも、あの怪物が何をしているか、調べないと……!)

 

 

 もしガーランド教会を探っていたのなら。この教会の人々が危ないのなら、すぐにでも誰か、頼れる人に助けを請わなければならなかった。

 セラヴィスにとって大教会は、大切な友達や家族と出会った何物にも代えがたい場所。だから絶対に守りたかった。

 ゼノアイズが墓地に入ったのを見て、セラヴィスは木の陰の隠れながら様子を探る。夜の墓地は月明かりがあるというのに薄暗く、近寄りがたい雰囲気を保っていた。

 今にもゴーストが影の中から現れたり、ゾンビが地面から這い出てきたりしそうだ。

 ゼノアイズが墓地の中心に降りる。セラヴィスは息をひそめ、その様子を見守った。

 

 

(なにをしているんだろう……)

 

 

 そう思っていると、突然ゼノアイズの近くから、闇が盛り上がった。山のように膨れ上がった闇は人の形に変わる。

 額にしわを刻んだ、僧服に身を包む男になった。白髪の彼は、しかし鋭い眼光を持つ老いを見せない男であった。あれは、誰だ。セラヴィスはその男をまじまじと見る。

 淫魔に襲われず、どころか陰から生まれるようにして現れた、その男。あきらかに普通ではない。

 もしや噂の、ゼノバイド教団とやらの人間だろうか。もしそうだったら大変だ。

 と、男が何事かを話し始めた。セラヴィスは耳をそばだて、声を聞き取ろうとする。

 

 

「ルクセリアめ。待ち合わせに遅れおって……なにをしておる」

 

 

 その言葉を確かに聞き取って、セラヴィスは驚いた。

 

 

(ッ! ルクセリアちゃんの、知り合いなの……?)

 

 

 どういう関係だ……? 脅迫している、とか? それとも……

 考えていると、今度は足音が聞こえてきた。そちらに目を向ける。

 いつもの尼服に身を包んだ、ルクセリアの姿がそこにあった。

 

 

「お待たせしましたわ、ルドルフ様」

「待ちかねたぞ、ルクセリア」

 

 

 あの男は、ルドルフというのか……

 親し気な様子だけど、いったいどういう関係なのだろう。

 何かきな臭い、嫌な予感のようなものを感じる。

 

 直感的なものであるが……あの男の放っている邪気は、あまりに強くて。セラヴィスは震えながら、彼らの会話を聞いていた。

 

 

(様って……どうして? ゼノバイドの人間に敬称だなんて……)

 

 

 あの男に、ゼノアイズは一切攻撃していない。それはルクセリアに対しても同じで……

 考えたくはない。考えたくは、ないが……まさか。

 最悪の想像が頭をよぎる。その想像通りに、ルクセリアは嫌な顔一つせず、ルドルフの前で笑みを浮かべていた。セラヴィスがいつも目にする、瀟洒で妖艶なその笑みは、いつも見ている以上に艶を伴っている気がした。

 

 

「して、首尾はどうだ、ルクセリア」

「ええ。桃井タロウの人となりは理解できました。力のほうは、まだ見ることさえかなっていませんが」

「そうか。奴はエデンズリッターとシグルド・アスフォディルを除けば、目下最大の敵だ。現状まったく情報のない、不穏分子だ。確実に仕留めろ」

「かしこまりました」

 

 

 仕留めるって、どういう。タロウさんに近づいたのは、全部そのため?

 好きだったわけでも、困っていたわけでもなく、ただあの人を殺すために、近づいたの?

 セラヴィスは混乱した。何せ、あのルドルフという男の前で笑うルクセリアの姿が、声音が、笑みが、いつもと全く違うものに感じられたから。

 あちらのほうが、真実のように、思えてしまったのだ。

 

 セラヴィスがルクセリアに出会ったのは、ずいぶん前だ。

 故郷から聖都へ奉公にやってきた彼女に、司祭がつけてくれたのが彼女だった。

 人当たりがよく、誰にでも敬語。近くで彼女を見て、助けてもらううち、いつか彼女のように誰にでも優しい人間になれたら、とセラヴィスは思った。

 先輩と後輩から、同年代の友人になっても、セラヴィスはずっと彼女にあこがれていたのだ。

 けれど__

 

 __いつも自分に笑いかけてくれた、あの笑みが、全てウソだったのだとしたら。

 

 

(そんなの、いや……どうして、どうして……!)

 

 

 セラヴィスは真実を知ろうと耳を澄ませた。

 きっとルクセリアは騙されているだけで、本当の彼女はいつも自分が見てきたほうなのだと信じたかった。

 

 

「しかしどうやって奴に取り入った」

「友人だというシスターを使いました。彼女、私のことを何でも聞いてくれるので、今回もお願いしたんです」

「ほお。さすがだな、人心掌握はお手の物か」

 

 

 そんな言葉を聞いたとき。セラヴィスの頭は、沸騰しそうなほどに熱くなった。

 思わず木の陰から出ていきそうになった。でもだめだ、ここで出て行ったら……

 そう思いながら足を踏み出し、逡巡して……そこで、

 

 パキッ

 

 

「ッ! 誰だ!」

 

 

 ルドルフの声が響いた。

 セラヴィスは木の棒を踏みつけ、音を立ててしまっていた。

 彼女は外套に備え付けた護身用の短剣を引き抜いて、やぶれかぶれのままに木の陰から飛び出した。その姿を見て、ルクセリアの表情がゆがむのを、セラヴィスは確かに見てしまっていた。

 ゼノアイズの触手が、セラヴィスに迫ろうとする。しかしそれをルクセリアが止めた。

 彼女は静かな声で、尋ねる。

 

 

「セラヴィス……どうして、ここに」

「……そこの、目玉の淫魔を追ってきたの。ねえ、ルクセリアちゃん。これは、どういうことなの?」

 

 

 セラヴィスの声は震えていた。ことここに及んでまで、彼女はルクセリアを信じていようとした。

 少女は背を支えるものも何もないまま、言葉を紡ぎ、続ける。

 

 

「どうして淫魔と、一緒にいるの……? ねえ、ルクセリアちゃん。答えてよ。ねえ!」

「……」

 

 

 すぐに、返ってはこなかった。

 ルクセリアはセラヴィスを見つめ、静かに溜息を吐き、そして__

 

 

「私がゼノバイドの人間だからよ、セラヴィス」

 

 

 そう口にした。

 その時、セラヴィスの顔に浮かんだ絶望の表情は、今までルクセリアが見たことのないものだった。短剣を震える手で握りしめた彼女は、絶望の上に怒りをにじませる。

 

 

「どうして、どうして……どうして? タロウさんを殺すのも、ゼノバイドの人間だったからなの? セシリィ様も、みんなも、裏切るの? 私のこと、友達だって言ってくれたのも……ウソだったの⁉」

 

 

 慟哭にも似たその叫びが、ルクセリアの耳に突き刺さった。

 彼女は何も言えなかった。ただ、言葉にすべきだと思うことを口にしようとして__

 それを、ルドルフが遮った。

 

 

「何をバカなことを言う、小娘。こ奴はもとより私の僕、使い魔だ。魔界より召喚し、私の手足として働くように使っている、淫魔だ。人間と魔族が、友などと……そんなものになれるわけがなかろう?」

 

 

 ルドルフは、嗤ってそう言った。

 目の前の少女をあざけり、どこまでも蔑んで。

 ルクセリアは震えそうになる心を治めて、口の端に笑みを浮かべて、告げる。

 

 

「__ええ、そうよ。ウソよ……あなたを友達だと思ったことなんて、一度もないわ」

 

 

 セラヴィスは短剣を取り落とした。

 

 

「私があなたに近づいたのは、あなたを利用するため。教会にいたのだって、あの場所が隠れ蓑に最適だったからよ。まさか誰も、あの場所に淫魔が入り込んでいるだなんて、思わないでしょう?」

 

 

 セラヴィスの目が濁っていくのを見据えながら、ルクセリアは続ける。

 

 

「あなたはすごく簡単に騙されてくれて……とっても利用しやすかったわ。ありがとう、セラヴィス。優しくて、誠実で、清廉な……大嫌いなアナタ」

 

 

 セラヴィスの口から、うわ言のような声が漏れる。

 それほどに衝撃が大きかったのだろう。目に涙を浮かべ、「うそ、うそ……」と呟いている。ルドルフはその姿を見て、大きなため息を吐いた。

 

 

「ふん、この程度の些末なことで取り乱すとは、セフィロトの信徒もたかが知れているな。ゼノアイズ、あの小娘を石像に変えてしまえ」

 

 

 指示を受けたゼノアイズの目玉に、強力な魔力が宿っていく。

 紫色に輝く邪悪な魔力。あらゆるものを呪う力を内包したそれを、ゼノアイズは一気に解き放った。彼の前方を焼き焦がす、熱戦のごとく放たれたその輝きは、一瞬のうちにセラヴィスを包み込む__

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 その、寸前であった。

 

 

「____!?!!??」

 

 

 ゼノアイズの目玉が、邪光ごとけさ斬りに切り裂かれたのは。

 邪眼の淫魔は悲鳴を上げ、目玉を閉じて痛みを逃がそうとする。

 ルドルフは叫んだ。

 

 

「何が起きた⁉」

 

 

 一体誰の攻撃だ。人の寄り付かないこの墓地に、一体誰が……!

 そう思ったとき。

 涙を流すセラヴィスを支えるように、一人の男が立っているのが目についた。

 

 同じく黒い宅配便の制服。「クロイヌ宅配便」の文字が刺繍された黒い帽子の下に、少年にも青年にも見える顔をのぞかせる、茶髪の男。ルドルフはその男を見たことがなかった。だが、情報で知っていった。

 いつの間にか聖都に現れ、順調に進んでいたはずの聖都陥落作戦を、エデンズリッターとともに壊滅に追いやった男。ドンモモタロウの正体だとされる、その男の名前は__

 

 

「桃井、タロウ__⁉ なんで、なんであなたがここに!」

 

 

 ルクセリアが叫んだ問いに、タロウはいつものように冷静に答える。

 

 

「帰る途中、昨日感じた視線と同じ気配を感じた。それを追ってここまで来た。それだけのことだ」

 

 

 タロウはまっすぐにルクセリアを見据え、尋ね返す。

 

 

「あんたこそ、なぜここにいる? 淫魔と一緒にいるのは、なぜだ? 聖都では淫魔といるような人間は、シグルドくらいのものだと思ったが」

 

 

 この聖都で、淫魔を使い魔にするのは、普通ではないようだからな、と続けるタロウ。

 傷をいやしたゼノアイズは、タロウをにらみつけている。

 ルクセリアは、焦る気持ちをそのままに、吐き捨てるように、言った。

 

 

「……聞いていたんじゃなかったの。この場にいて、ゼノバイドの司教と一緒にいるのが、全ての答えよ! 何度も、言わせないで……!」

「そうか。わかった」

 

 

 タロウは目を閉じ、うなづいた。

 手を、掲げる。

 

 

ドン! ブラスタァ~!

 

 

 高らかな宣言とともに生じる鮮やかなカラーリングの銃、ドンブラスター。

 それを手にしたタロウは、そのギアテーブルにアバタロウギアをセットし、

 

 

「アバターチェンジ!」__イヨォ~!

 

 

 手慣れたしぐさで、スクラッチギアを回転。

 金色の波が現れるや__

 

 

__DON! DON! DON! 

 

 

__ドンブラコォ~!

 

 

アバタロウッ!

 

 

 合いの手とともに、アバタロウギアがリードされ、「どんぶらこっ!」という合いの手が響き渡る。祭囃子のようなそのいなせなBGMの中で、タロウは銃口を天井に向けた。ドンブラスターのトリガーが押されると同時に、空中のワープドアを通してアバターデータが実体化。巨大なアバタロウギアとなって、桃井タロウの体を包み__

 

 

ドン! モモタロォ~! イヨッ、日本一ッ!

 

 

 そして今、この墓地に。

 死者の悲しみをも退治する、ドンモモタロウが登場した__!

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

☆ヒーロー №1☆

 

 めいしょう:ドンモモタロウ 

 かいきゅう:ドン 

 へんしん :ももいタロウ

 

 タイプ  :ブレイド

 ぞくせい :はどう

 レア   :☆☆☆☆☆

 

*そうび*

 ぜんしん :ドンモモタロウアバター

 あたま  :ドンまげ

 こし   :ドンブラバックル

 きじょう :エンヤライドン

 ぶき   :ザングラソード

       ドンブラスター

 

 ひっさつ :ザングラソード・かいとうらんま

 

*しょうごう*

 えんができたなっ!

 かなしみをたいじしてゆく

 

*かいせつ*

・いまこのかいせつを よんだな? これでおまえとも えんができた!

 

 

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