桃井タロウは楽園行き 作:トナカイ
「__はぁーっはっはっは! さぁ、行くぜ!」
いつもの神輿は省略し、ドンモモタロウが空中に躍り出る。
太陽の代わりに月を背にして、その名にふさわしい暴れるような立ち回りで、ルドルフたちに襲い掛かる。ルドルフは思わず一歩下がるや、とびかかってきたタロウを見据え、
「ええい、ゼノアイズ! 奴を砕き散らせ!」
「__BEEEE!!!!」
命令を受け、ゼノアイズがドンモモタロウに触手を伸ばす。人間の持つ腕よりもはるかに数の多いそれは、文字通り手数だけならばドンモモタロウを凌駕するだろう。それを後方に下がりながら放たれれば、ザングラソードの一撃が当たらないのは無理もない。
ザングラソードの刃は触手を切り裂いたものの、すぐに触手に絡めとられた。ドンモモタロウはこれはまずいなと笑いながら、愛剣から手を放し、後方に下がる。そしてすぐさまドンブラスターを手に取るや、
「おらおらおらーっ!」
トリガーを引き絞り、何十発ものキビ弾丸を撃ちはなった。ガトリングガンのようにして放たれる弾丸の雨を、ゼノアイズは触手でもって弾く。そして奥の瞳から、紫色の閃光を解き放った。先ほどセラヴィスに浴びせようとしていた石化の光線だ。タロウは避けようとするが、すぐ後ろで立ち呆けているセラヴィスを見て、そちらへ駆け寄った。
「こっちだっ!」
セラヴィスの手をつかんだタロウは、強引に彼女を射線からずらす。
間一髪、二人は石化光線の餌食を免れた。光線の当たった地面は石くれに代わり、草木にも生気がなくなっている。
これこそ、魔法生物たるゼノアイズのもたらす、邪眼の魔力によるものだった。
ルドルフはタロウとゼノアイズの戦いを見て、こちらに分があることを悟った。
タロウの持っているドンブラスターという銃の威力は、ゼノアイズに及ぶものではない。おそらくあの黒い剣が、ドンモモタロウの主力なのだろう。ならば十分に勝ち目はある。自分が出るまでもない。
ルドルフはルクセリアを見て、言った。
「ここはお前に任せるぞ。少々予定は狂ったが、ドンモモタロウを始末するまたとないチャンスだ。必ず、仕留めろ」
「……」
「ルクセリア? 返事はどうした」
「っ! ……お任せください、ルドルフ様」
「うむ。必ず、やり遂げろ」
ルクセリアにそれだけを言うと、ルドルフの姿は再び闇に溶けて消えた。
彼がいなくなったのを見て、ルクセリアはセラヴィスのほうを見る。ドンモモタロウに抱きすくめられている彼女は、放心して、涙を流していた。それほどにショックだったのか。
ルクセリアは胸の奥が、ズキンと痛むのを感じた。
だが、それまでだ。彼女に関して、それ以上何かを感じる必要はない。感じては、いけない!
「ゼノアイズ! 彼女を人質に取りなさい!」
指示を受けたゼノアイズが、ドンモモタロウとセラヴィス目掛け触手を伸ばす。タロウは素早くよけるが、セラヴィスの手足に触手が絡まり、奪われてしまう。タロウはドンブラスターを構えるが、ゼノアイズはセラヴィスを盾にした。タロウは油断なく銃口を向けているが、セラヴィスを盾にされている状況では、攻撃できないようだった。
そのまま磔にされたセラヴィスをタロウに見せつけ、ルクセリアは告げる。
「ドンモモタロウ。この先にある廃教会に来なさい。そこで決着をつけましょう」
「……ほう? ここで俺を倒さないのか?」
チャンスだぞ、とばかりにタロウは銃口を下げ、肩をすくめる。
確かにまたとないチャンスだが、下手に攻撃すれば、セラヴィスを奪い返され、挙句にザングラソードも取り戻されるのはわかっていた。そのままいけば、
ルクセリアは、続ける。
「そうね、いいチャンスだけれど……私は用意周到な女なの。あなたを倒すのに最も適した場所で、処刑させてもらうわ」
そう告げる。その条件を呑まないなら、この場でセラヴィスを石に変えさせる。
さあ、どう出る。ドンモモタロウ__!
「__はっはっは! 面白いっ! いいだろう、その条件、受けて立ってやる!」
ルクセリアは耳を疑った。
正気なのか、自分が不利になる状況に、わざわざ乗り込もうとしている。それも、嬉々として。頭がどうかしているんじゃないのか? ルクセリアは怪訝な視線をタロウに向けた。
変な男だとは思っていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。いや、思いたくもなかった。
ドンモモタロウはどこからか取り出した扇子で自分を仰ぐや、それをパチリと閉じて、ルクセリアに向ける。
「案内しろ、その廃教会とやらに!」
……どこまでも、上から目線な!
心の奥底で、悲惨な死に目を見せてやると心に決めながら、ルクセリアは瞬間移動の魔法を唱えた。魔法陣が浮かび、その上にいたタロウたちは、一瞬のうちに消えてしまった。
__その様子を、墓石の裏から見せる、一つの影があったことに。誰も気づいてはいなかった。
♢ ♢ ♢
聖ガーランド大教会。
セラヴィスやルクセリアの住むこの教会は、実は今の建物が二代目という裏話がある。
百年ほどの昔、とある魔族の襲撃を受けた聖都は、一時火に包まれた。その火で燃え、乗じて現れた淫魔たちによって荒らされ、使い物にならなくなるほどに汚染されたのが、初代の大教会の建物だった。
今や淫魔たちすらも住まない、聖都から少し離れた郊外にある、その廃教会__ガーランド廃教会には、今でも明るい月の光が照らし、荘厳な雰囲気に包まれている。
煤けていても美しさを保つ、ステンドグラスから光がにじむ。
色とりどりのガラスを通り抜けているのに、純白に輝く光は__十字架に磔にされた、セラヴィスの肢体を、艶やかに彩った。
涙を浮かべ、放心仕切り、もう何も信じることができずにいるセラヴィス。
彼女の磔姿は、聖書に語られる殉教の司祭のようだった。外套が、その司祭の男の最後の姿と重なるように揺れている。
ルクセリアは、ゼノアイズによって掲げられたセラヴィスの、その姿を静かに見たのち__
「ドンモモタロウを倒しなさい__ゼノアイズ!」
ゼノアイズに、指示を下す。
同時に教会内に蔓延りし、転生の輪に行けない魔族の魂をゼノアイズの魔力へとくべる。瞬間、ゼノアイズの体が二回りほど肥大し、触手のすべてに目玉が生えた。
触手__いや、触眼ともいうべきその数々が、一斉にドンモモタロウを向く。
ザングラソードを取り上げられたまま、戦うすべがドンブラスターしかないドンモモタロウは、だれがどう見ても圧倒的不利なように見えた。ルクセリアとて、彼がこの戦いに勝てるとは思っていない。いかにゼノオーガを真っ向勝負で下した男といえど、できることとできないことは、あるのだ!
「BEEEEEE!!!!!」
触眼が赤熱、ドンモモタロウに向けられる。
熱は魔力の螺旋となって、矢のような速度で解き放たれる! タロウが飛ぶと同時__
轟音! ボロボロのレッドカーペットを、石畳ごと熱線が焼き切った!
「ほお? 中々の威力だ!」
かつてゼノアイズの前身にあたる魔族を生み出した魔術師によって、ゼノアイズの存在に紐づけられた術法__分解光線の威力が、それであった。
「BEE! BEE! BEEEEEEE!!!」
だがドンモモタロウにそんなものは通じない。
彼は素早くドンブラスターを単発で撃ち放ち、相殺していく。だが圧倒的に数が足りない。
横長椅子を盾にしながら攻撃を繰り出していくが、次第に押されていく。
ゼノアイズは素早く、タロウが隠れた椅子目掛け石化光線を照射。次いで放った分解光線で、椅子を粉砕する。爆炎が上がり、タロウが飛び出す。空中では身動きが取れない。そこをチャンスとばかりに、ゼノアイズは分解光線を発射。
「BEEEEEEE!!!!!」
放たれた熱線がドンモモタロウを吹き飛ばす!
__かに、思われたが。
「甘いなッ!」
『イヨォ~ッ!』
ドンブラスターから極大の、キビ弾丸が放たれた!
ルクセリアもゼノアイズも目をむく中、『どんぶらこぉ~ッ!』という合いの手とともに、ゼノアイズがひしゃげて吹き飛ぶ。音速を超えて大理石の壁にたたきつけられたゼノアイズは、目を回しながらもなんとか体を起こした。
(ッ……何、今のは! あのへんな銃に、あんな力が……⁉)
まさか、あのサングラスのような剣だけではないのか、ドンモモタロウの武器は。
ルクセリアはうろたえる。強化したゼノアイズだけでは、タロウは倒せないかもしれない。
その時は、その時は__
(ルドルフ様からの、寵愛が……)
あの人から与えられる愛と、淫魔王様の復活だけが彼女の大切なもの。愛して、いるといえるもの……! 彼を倒さなければ、倒さなければ!
「ゼノアイズ、何をしているの! もっと攻撃を__」
立ち上がるゼノアイズに、ドンモモタロウはにらみを利かせていた。
獣よりも、竜よりも恐ろしいその瞳ににらまれ、ゼノアイズは完全にうろたえていた。
もうダメだ、これは役に立たない。
ルクセリアは自身の力を開放することを決めた。この世界では著しく下がってしまう、彼女の淫魔としての力。今、この教会に流れる魔力を使えば、その力を肩代わりすることができるはずだ。
「こうなれば、玉砕覚悟で……!」
「__ルクセリア、ちゃん?」
その時響いた声に、ルクセリアは背筋が凍るほどの恐怖を覚えた。
思わず聞こえたほうを__磔にされた、セラヴィスを見る。セラヴィスは全く動かないまま、目線だけでルクセリアを見ている。
「……ダメ、だよ……自分の体を、傷つけちゃ……」
気遣うような言葉を、身も凍るほどに冷たい声音で放つセラヴィス。
ルクセリアは動揺した。彼女はこんなにも、冷たい声を出せたのか。いつも太陽のように明るくて、誰にでも笑いかけていた彼女が、こんな、声を?
なぜ、どうして。そう考えるや頭に浮かぶのは、先ほどの自分の発言__
『あなたはすごく簡単に騙されてくれて……とっても利用しやすかったわ。ありがとう、セラヴィス。優しくて、誠実で、清廉な……大嫌いなアナタ』
セラヴィスの暗い瞳が、ルクセリアを睨みつける。
夜の闇よりも濃い瞳に見つめられ、ルクセリアはすくみあがった。
セラヴィスは、告げる。
「でも、そっか。ルクセリアちゃんは、私のことも、その淫魔も、タロウさんのこともどうでもいいんだよね……だから、自分のことも、どうでもいいんだよね……そうだよね……!」
ルクセリアの体に、妖気が帯びる。
見たこともないまがまがしい妖気。清廉な聖職者であるセラヴィスからは、発せられるべきではない、それ。
その時、ドンモモタロウの目には自らのサングラスを通して、
金の輪、赤いクレスト。そこに浮かび上がる__『
黒い妖気を持つ怪物。人にとりつく、鬼。
「__ヒトツ鬼か!」
まるで新しい敵を見つけたバーサーカーのような喜びようであった。
セラヴィスの体にとりついた怪物は、ゼノアイズのもたらした触手を引きちぎり、十字架を背に降り立った。白い羽に彩られた装束を身にまとう、赤い鬼。石像のような頭を持つその怪物は、まるで偶像の天使のようだ。
その両手には身の丈に余る巨大なハンマーがある。槌の部分だけでゼノアイズよりも巨大なそのハンマーを軽々しく振るうその姿こそ、大地の力をその身に宿す、恐るべき鬼__
「ボッコボコノォ……ボコボコニスルッ!」
__天装鬼に、他ならない!
「面白い、やってみろ!」
まるで自分の体の一部化のようにハンマーを軽々振り回し、吠える天装鬼。ドンモモタロウは新たな敵に、高笑いとともにそう告げる。
なぜそんな声を出せる、ドンモモタロウ! 私の、友達が……
(ッ⁉ どうして、友達だなんて……)
そんなこと、思っていない。セラヴィスはあくまで利用する価値があると思っただけの相手だ!
うろたえるルクセリア目掛け、振り下ろされる巨大ハンマー。突然の攻撃に、ルクセリアはよけることができない。
思わず目をつぶるルクセリア。しかしそんな彼女を引っ張る、赤い影。
「ふん! 何をやっている!」
「きゃっ……⁉ っ、ドンモモタロウ⁉ なぜ……」
ルクセリアを助け出したタロウは、その超膂力でもって攻撃を受け止め、足蹴ではじき返す。
素早くドンブラスターを打ち込み、天装鬼を弾き飛ばすや、ルクセリアを守るように立つ。
「なんで、助けたの! 私がセラヴィスを裏切ったのは知っているでしょう!」
「知っている! だが、それが何の理由になる⁉」
「はぁ……?」
ハンマーを避けながら攻撃するドンモモタロウ。
彼はドンブラバックルからギアを取り出しつつ、続ける。
「今やるべきことは、この状況が教えてくれる! 理由など必要はない!」
その時。
ルクセリアを守るドンモモタロウ目掛け、ゼノアイズの分解熱線が放たれた。
新たな敵が現れたことで、タロウの隙をつけると考えたのだろう。その熱線は、まっすぐにタロウへと向かっていた。
ドンモモタロウはそれを見据えたまま、ドンブラスターにアバタロウギアをセット、一気に回し、一歩も動かず、銃を天に掲げ__
「アルターチェンジッ!」
轟音とともに、ドンモモタロウを閃光が貫いた。
ドンモモタロウの体が倒れ、膝をつき、くずおれる。
「……タロウ?」
死ん、だ?
「いや、いや……え? うそでしょ、タロウ。冗談よね?」
彼は答えない。完全に崩れ落ちたまま、何も言葉を発さない。
タロウが、死んだ?
なんで、なんで自分をかばった? 自分が敵だということは、わかっていたじゃないか!
ルクセリアは何も言えず、ただ倒れたドンモモタロウにすがった。変身したままの肉体からは、ぬくもりは感じられない。
『__フッ、フハッ、フハハハハハッ!』
言葉を失うルクセリア、そして天装鬼を前にして__ゼノアイズから高らかな笑い声が響いた。
「ルドルフ、様……?」
『ハッ、ハハハッ……仕留めたぞ、ドンモモタロウ! ルクセリア、よくやったな!』
愛する人が笑っている。
ルドルフの笑みが、そこに見えるようだった。だが、ルクセリアは素直に笑えなかった。
ドンモモタロウが倒れたことも、セラヴィスが鬼になったことも。その、どちらも。
何もかも自分のせいだった。そう思ってしまう自分に驚き……そしてその時、はっきりと理解したのだ。
(ああ、私は……)
口では、友人ではないと言っていたけれど。
私のこの心は、彼らへの友愛に満ちていたのだと。
だから、今、ルドルフの言葉と哄笑に、怒りを覚える自分がいるのだと。
『うん? 何をしている、ルクセリア』
「……タロウを、私の友を癒しているのです。それが、何か……?」
『ほお? なるほど、その死体はよい材料になるだろう。あの女も喜ぶだろうな?』
「いいえ、レゾフュアなどには差し上げませんわ……ましてや、貴方になど……」
『なに?』
完全にルドルフの表情を映したゼノアイズが、怪訝な目線をルクセリアに向ける。
ルクセリアは恐怖を覚えながらも、毅然と続けた。
「彼は、私の友達。嘘をつき続けた私を、最期まで受け入れてくれた友達なの。貴方なんかに渡さない!」
『ほお? 何を言っているのかわかっているのか? 貴様は舌の根も乾かぬうちに、我らを裏切るのか?』
「裏切るのは貴方だけよ、ルドルフ様。私はどこまで行っても淫魔。セラヴィスを裏切ったことにも変わりはない。でも、それでも……助けたい。この罪を滅ぼしたいの。その邪魔を、貴方にはさせない!」
叫ぶルクセリアを、天装鬼は、セラヴィスはじっと見ていた。
ゼノアイズの目には怒りがにじむ。しかし尊大に、魔司教として__ルドルフは告げた。
『ならばやってみろ。貴様の力はこの世界では弱い、ゼノアイズにも劣るほどに! 滅びろ、ルクセリアッ!』
分解光線が放たれる。
「ルクセリアちゃんっ!」
避けることはできない。タロウがいるから。
ルクセリアの言葉が、思いが引き金となったのだろう。天装鬼がセラヴィスから抜け出た。セラヴィスはルクセリアに駆け寄るが、間に合わない。
せめてもの抵抗に魔法の障壁を張るが、おそらく意味はなさない。
ルクセリアはタロウを抱きしめたまま、目をつむった。
「__よくぞ言った!」
その声が聞こえて。
ああ、ついに幻聴が聞こえたのだと、思った。
だが、違った。
火花を散らす何かが、ルクセリアを守っている。
赤い桃のようなそれは、分解光線を完全に弾き切った。
その桃のような小型の何かは、なぜかどこまでも、ドンモモタロウにそっくりで__
『イヨッ! 天下一ッ!』
「はっはっは! 良い啖呵だ! 気に入った、三十点をくれてやろう!」
「んなっ……たっ__タロウっ⁉」
目の前に現れた、マッシブな赤鋼の魔人。ドンモモタロウをデフォルメしたかのようなその姿と、いつの間にか元に戻っていたセラヴィスを見て、ルクセリアは目を白黒させた。
何が起こっているのか全くわからなかった。
「な、何がどうなって……」
「ヒトツ鬼はその人間の欲望を満たすと、分離する!」
「あ、ああそう……え? あ、いや、じゃあそっちは」
「アルターだ!」
「アルター……あ、アルター?」
「はっはっは、ルクセリア。本当のお前はシグルドに似ているな、質問ばかりだ!」
「……なんであの女と比べるのかわからないのだけど⁉」
そんな彼女に、セラヴィスが駆け寄る。
ルクセリアは目をむいて、思わす一歩下がる。
「……セラヴィス」
「ね、ねえ、ルクセリアちゃん……さっきのって」
「っ……いや、さっきのは」
『ええい、なんだ、何が起きている!』
二人の会話を遮って、ルドルフが叫んだ。ドンモモタロウは小柄な体から威圧を放ち、邪魔するなとばかりの目線を放った。
『ッ……! 何が起こったか訳が分からんが……まとめて叩き潰させてもらうぞ! ゼノアイズ、奴らを打ち砕け!』
ゼノアイズからルドルフの意思が消えた。
使命を受けたゼノアイズには、ルドルフの持つ「ドンモモタロウを倒す!」という願いがあった。
その願いをかなえるべく、目的を失ったヒトツ鬼がゼノアイズと合体。
先ほどと同じ天装鬼となるや、その全身から触眼を伸ばし、ドンモモタロウを威嚇した。
「BEEEEEEE!!!!」
「ふんっ……やはり面白いな、この世界は!」
素手のままファイティングポーズを取り、構えるドンモモタロウ__いや、ドンモモタロウアルターは。
小さくなっても相変わらずの声量で、叫んだ!
「はーっはっはっは! 見せてやろう、アルターの力ッ!」
アルターモードとなったドンモモタロウが、分解光線を突っ切って天装鬼に突っ込んだ。
ドンモモタロウアルターの体は桃モードとなれば、あらゆる攻撃をはじき返すのだ。
それがあらゆるすべてを分解するとうたわれる、熱線であっても同じこと。
そのまま六五〇馬力の超威力で天装鬼を吹き飛ばす。
「BEEEEE!!!」
天装鬼は転がりながらも吠え、周囲の空間をゆがめた。
途端、突然サイケデリックな体の怪人が現れる。なん十匹もいるそれらを、タロウはよく知っていた。
あれは脳人の住む脳人レイヤーの住人、アノーニだ。この世界にいるとは知らなかった。
アノーニたちはセラヴィスとルクセリアに、ハンマーを片手に襲い掛かる。ルクセリアは魔法弾を放ち、アノーニを攻撃する。
セラヴィスを背にして守りながら、彼女は叫んだ。
「タロウ、こっちは大丈夫だから!」
タロウは再び突進、敵の体に絡まっていたザングラソードをついに奪い取った。
縮小化したザングラソードをその手に収めるや、パワーをためて振るう。天装鬼のすぐ後ろ、巨大な十字架にエネルギーが宿るや天装鬼に倒れ掛かってきた!
天装鬼は何とか攻撃を避けるが、思いっきりこけて倒れてしまう。
タロウは今がチャンスとばかりにアルターを解除。魂をもとの体に戻す。
起き上がったドンモモタロウは、襲い掛かるアノーニどもをザングラソードでバッタバタとなます切り。がしかし、背後から襲い掛かられ__
「タロウ!」
ルクセリアが叫んだとき。
タロウがザングラソードを背後に振るうのと、巨大な槍がアノーニを貫くのとは同時に起こったことだった。その槍を放った人物は、アノーニを吹き飛ばすと、タロウを認め、ほほ笑んだ。
「助けに来たぞ、桃井タロウ!」
「はっはっは、遅いな、アウローラ!」
巨大な槍を構えた青い鎧の乙女__彼女こそ、極光の騎士アウローラ。
しかしなぜここに? 目を白黒とさせるルクセリアは、突然アウローラに見られ、身をすくめた。
「タロウ。彼女がルクセリアか?」
「そうだ。セラヴィスの友達だ、そして俺の、新しいオトモだ!」
「は? 彼女はゼノバイドの……」
何事かを言おうとするアウローラを遮る手が。
真っ黒なローブに身を包む少女、シグルド・アスフォディル。その隣にはニコニコ笑顔のイルヴィナがいる。セラヴィスも三人を見て目を見開き、「どうして……」と呟いている。そんな彼女に、イルヴィナは当たり前のことのように告げた。
「お友達のピンチには駆けつける! 当たり前ですよ!」
「……イルヴィナちゃん」
「……なにがあったかは見ればわかる。彼女は、たぶん私と同じなんだ、アウローラ」
シグルドの言葉に、アウローラは口ごもった。
彼女はシグルドがゼノバイドにいたことを、やはりよく思ってはいなかったのだ。受け入れようとしても、受け入れきれていなかった。
だから同じだと言われた途端に、どういう意味かを測りかねたのだ。
「ルドルフにいいように使われた。でも今度は、自分のために……自分の信じる者のために、ゼノバイドを抜けた。ほら、私と同じだろ?」
「……ああ、なるほどな」
友達のため、か。
淫魔を信じるつもりにはまだ、なれないけれど。信念に正直なシグルドを通じてなら、よいだろうと。
アウローラは吹っ切れることにした。
「主。変身だ!」
「任せろ! 境界門よ!」
境界門がシグルドの呼び声に応え、目覚める。その身に帯びた宝石を輝かせるや、シグルドが取り出したいくつものエデンズマテリアルを媒介に、最高純度のエデンズエナジーを生成。
その輝きがアウローラの身体に宿るや、彼女は槍を天高く掲げ、高らかに宣言する。
変身の、音色を!
「エデンズフォース・オーバーロードッ!」
瞬間、アウローラの鎧が白銀の色に変わり、その身に黄金の輝きを帯びる。
タロウとは対照的なその輝きが晴れるころ、アウローラの桃色の髪は涼やかな青に変化していた。真っ赤な宝石を額に当て、聖セフィロトの意匠をかたどった盾を構え、乙女は吠える。
「我が名はアウローラ。エデンズリッター、ロード・アルシエル! 人々を苦しめる世界の淀みは……この私が一掃するッ!」
それこそはまさしく、悪を成敗する極光の輝き。
聖セフィロトに選ばれた、最強級のエデンズリッターに他ならない!
彼女とともに並び立つドンモモタロウはいつものように「はっはっは!」と笑うや、
「意味が分からん! だが面白い、いくぞアウローラ!」
瞬間、アノーニたちが動き出した。
ドンモモタロウ、そしてリッター・アルシエルを危険だと判断したようだ。ハンマーを手にもって無茶苦茶な動きで攻撃を繰り出す。
「アノーニッ!」「アノォーニッ!」
が、タロウにはザングラソードで、アルシエルには盾すら使われずに鎧で受け止められ、返す刀と槍で一掃。まだまだ襲い掛かるが、このままいけば簡単に全滅するだろう。
アウローラはアノーニたちを倒す間に、イルヴィナのほうに目をやった。イルヴィナが一瞬、背を固めるのを見て、フッと笑い、
「主たちを任せたぞ、イルヴィナ」
「っ! まっかせてくださいっ!」
イルヴィナがそそくさとシグルドたちを教会の外に連れていく。
タロウとアルシエルはその間にアノーニを吹き飛ばした。
その合間を縫うようにして、触眼から幾重もの分解光線を放つ天装鬼。タロウは刃で攻撃を受けようとするが、それよりも早くアウローラが前に出て、盾でビームを受け止めてしまった。
「なかなかやるな!」
「前に出すぎるな、タロウ。今は私と、お前で戦っているんだからな」
もっと頼れ、とタロウの胸板をアウローラはたたく。
タロウは静かに笑うと、ザングラソードとドンブラスターを構えた。
「なら、存分に使ってやろう!」
天装鬼目掛けドンブラスターを連射。
触眼で受け止める天装鬼だが、タロウは素早く地を蹴りザングラソードの一太刀を入れ込む。しかし触手はその攻撃を受け止め、またもつかんで離さない。だがタロウは仮面の奥底でニッと笑うや__
「アウローラッ!」
「心得た!」
ザングラソードを踏み台に跳躍!
同時にアウローラの放った刺突が、ザングラソードの柄を押し出し、天装鬼にザングラソードの刃を突き立てた。光がほとばしり、天装鬼は悲鳴を上げてもだえる。
空中で踊っていたタロウは着地と同時にアウローラと入れ替わり、ザングラソードをしっかと握るや__
「さぁ、トドメだ!」
『__HEY! カモーンッ!』
一気にギアディスクを回し、エネルギーを充填。
瞬間、暗い教会の中に、レインボーフラッシュの輝きが満ち満ちる。ドンモモタロウの持つ力のすべてがザングラソードに注がれ、悪を打ち砕く必殺の刃に変わったのだ。そのパワーたるや、刃で貫かれている天装鬼がその圧力に押されて震えるほど。
タロウは、なんとか刃を引き抜こうとする天装鬼目掛け蹴りを叩き込み、お望みどおりに刃を引き抜いてやり__
『必殺奥義ィ__』
「ザングラソード__」
翻すように、一閃! 二閃!
「__快桃乱麻ァ!」
虹色の剣閃を、連続で叩き込みかっ飛ばす!
しかしその攻撃は、天装鬼に致命傷を与えられてはいなかった。
このまま逃げ去ることさえできるという確信が、ゼノアイズにはあった。しかしそこで、彼は周囲が暗闇に包まれているのに気が付いた。月が出ていて、ステンドグラスから月光が入っているというのに、淡い光の一つもない。あるとすれば自らに刻まれた刃の線と、ザングラソードの輝きと__
(BE__⁉)
目の前で煮えたぎる、太陽のごとき一点だけ__!
「極大、貫通__ッ!」
タロウのザングラソードが、必殺の技を高らかに宣言するよりも、早く。
極光を解き放たんと、アウローラが吠えた!
「ルミナスインペェェェーーーーールッ!!!!!」
破壊の残光が、天装鬼のあらゆるすべてを吹き飛ばし、破壊した。
耐えられるなどと考えられる次元ではない。火山の噴火を直に浴びるよりも恐ろしい破壊の本流は、闇を貫きステンドグラスを粉砕し、天装鬼となり果てたゼノアイズもろとも、満月の下にたたき上げ、天空に輝きを突き立てた。
『__アバ!
タロ!
斬ッ__!』
ドンモモタロウのザングラソードが、最後の音色を響かせると、同時。
「BE__BEEEEEHOOOOO!?!?!?」
ゼノアイズは爆ぜて、爆砕した。
♢ ♢ ♢
「はーっはっはっは! あっ、大勝利ぃ!」
ドンモモタロウの高笑いが響く。
彼のその横で、アウローラは変身を解き、シグルドたちに目を向ける。
「終わったぞ、主殿」
「……ああ。よくやった、アウローラ」
シグルドはアウローラに駆け寄り、彼女に手を差し出した。
パチン、と手をたたき合い、ハイタッチ。その様子をにやにやとイルヴィナが見ている。
アウローラはそれに気づくや顔を赤らめ「なんだ!」とイルヴィナに吠えた。
「うぇへへへへ! いやぁ、アウローラちゃんも馴染んできましたねぇ! こないだまですうっごく怖い顔してたのに!」
「一応言っておくが、私はまだお前たちのことを認めたわけじゃないぞ!」
「ええ! なんでですか!」
「いつもいつも人の腰と尻と胸を狙ってくる女に気を許すわけないだろ! というか今も、触るな!」
腹パンがイルヴィナを襲った。うずくまるイルヴィナ。
ルクセリアが駆け寄ろうとするが、それをセラヴィスが止めた。
いつものことだ、ということらしい。
「いつものことでいいのかしら……」
「それより、ルクセリア。何か言うことがあるんじゃないのか?」
タロウが変身を解除して、彼女に言う。変身を解除したタロウは、ドンモモタロウの時のような明るさはほとんどなく、どこか冷たいようにすら感じる目をルクセリアに向けていた。
ルクセリアはそれに気おされながら、うなづき、自らのやるべきことをなすと決めた。彼女はセラヴィスを見て、名前を呼ぶ。セラヴィスは緊張したように固まって、ルクセリアから一歩引いた。
「……ごめんなさい。あなたに、酷いことを言ってしまって。いつも、嘘ばかりついて、貴女をだましていて」
「ルクセリアちゃん……」
「私が貴女にかけた迷惑は、計り知れないわ。それに、たくさん傷つけた。私は、貴女のそばには……いないほうがいいと、思うの。せっかく自分の気持ちに気づけたけれど……そうでもしないと、私への罰にはならないと、思うから」
「ッ……」
「だから、これで__」
「……ねえ、ルクセリアちゃん」
ルクセリアが別れの言葉を告げようとした時だった。
セラヴィスはその声を遮り、彼女に告げる。
「覚えてる? 昔のこと……まだ、私がこっちに、奉公に来たばっかりの時だよ。ルクセリアちゃんは、たくさん助けてくれたよね。初めて出会って、人と話すのも失敗ばかりだった私に、いつも助け舟を出してくれて……絶対無理だって思っていた、セシリィ様の傍付きに、ルクセリアちゃんは推薦までしてくれたし。それに__」
セラヴィスはルクセリアの目をまっすぐに見て、続けた。
「さっきも、守ってくれたよね。私のこと。ルクセリアちゃんがいないと、私やっぱりダメなのかも。まだ弱いし、誰も守れないし……だ、だから、えっと」
「……縁を結びなおしたい、だろう?」
タロウが、詰まってしまったセラヴィスの言葉を引き継いだ。
皆の視線が集中する中、タロウはいつものように仏頂面……ではなく、頬にかすかに笑みを浮かべて、言った。
「縁にもいろいろだ。悪縁は断ち切るに限る。だが、断ち切った縁も、また改めて結びなおせばいい。断ち切れて、傷ついて、それでも尚結びなおした縁は、何物にも代えがたい超良縁だ!」
タロウは呆然としているルクセリアの肩をたたいた。
「縁を切ったままなんてとんでもない! 結びなおせ、ルクセリア。あんたの親友は、そう思っている。だろう、セラヴィス」
タロウに見られ、あうあうと口をもごもごさせたセラヴィスは、唇を引き絞り、
「も、もう! なんで全部言っちゃうんですか! タロウさんはバカなんですかっ⁉」
「……空気読めなさすぎですよ~、タロウさん」
「まぁ、わかるぞタロウ。言いたいことだったんだろ」
セラヴィスが言う。と同時に周りからもやんややんやと非難ごうごう。タロウは「俺は何か悪いことをしてしまったのだろうか」と首をかしげる。
それを見て、ルクセリアはクスリ、と笑った。
そして__
「あは……あははは……! わかった、わかったわよ……私は、悪い人だもの。迷惑をかけてしまった貴女の、言うことは全部聞くわ、セラヴィス」
そう、怒るセラヴィスに告げるのだ。
セラヴィスは一瞬呆けるも、すぐに花の咲いたような笑みを浮かべ。
「本当⁉ じゃあ、また友達になって!」
「ええ」
「それと、えと、あそこ! この間おすすめしたクレープ、おごって!」
「ええ……え?」
「それと、あと……」
なんか違うの混じってないか?
「ちょ、ちょっと、セラヴィス?」
「あ、私もいいですか?」
「何でも言うことを聞いてくれるのか? なら私も」
「黙ってなさい夢魔! エデンズリッター!」
喧々囂々と、声が響く。
もう廃れたはずの、聖ガーランド大教会、その跡地に。
その日の夜は__そうして、楽しげな声とともに過ぎていった。
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・しせいそうロンギヌスに かがやきがしゅうそくする!
・アウローラ「きょくだいかんつう__!」
・アウローラは ルミナス・インペールをときはなった!