桃井タロウは楽園行き   作:トナカイ

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レオーネの挑戦

 

 

 

 

 

「今、俺を呼んだか? 誰だか知らんが、これでお前とも縁ができた!」

 

 

 レオーネの言葉に答え、タロウが閉じた扇子の先を彼女に示した。彼は本来の姿に戻るや、すぐさま神輿の上からひらりと舞い降りてレオーネに近寄り、肩を叩く。

 うむ、いつも通りの距離感だ。シグルドが半笑いを浮かべる中、レオーネは思わず彼の手を叩いた。

 

 

「近いよ! なんなの君!」

「ハッハッハッ、中々気の強い奴だ! 骨があるな、気に入った! あんた、名前は?」

「れ、レオーネだけど」

「そうか、いい名前だ。三十点といったところだな!」

「……ほ、本当になんなの」

「慣れろ、そういう奴だ」

 

 

 そう、桃井タロウとはそういう男だ。いちいち距離が近い。

 呆れるシグルドとレオーネをよそに、イーシャとイルヴィナは盛り上がっていた。

 

 

「アウローラが言ってたのと同じセリフ……冗談じゃなかったんだ! おもしろーい!」

「タロウさんっ、お久しぶりでっす!」

「ああ、久しぶりだな、イルヴィナ。そこの馬娘、お前とも縁ができたな!」

「うんうん! ボク、イーシャって言うんだ。よろしくね、タロウ!」

 

 

 イーシャはタロウと相性が良さそうだ。もとより抜けていると言うか、あまり深く物事を考えない性分なので、タロウが世間一般には「変な奴」と扱われていても、イーシャには「面白い人」として映るのだろう。

 たびたび力を貸してもらっているし、新入りとタロウが仲良くしてくれるのはシグルドとしても嬉しいことだった。

 

 ……しかし、レオーネの方はどうだろうか。

 タロウのことをあまりよく思っていないと取れるような声音を発していたような。しかし、彼女がタロウに悪感情を抱くようなきっかけなどなかったはずだが……

 

 

「シグルド、お前たちはここで何をやっている?」

「ん……? あ、ああ。なに、少し野暮用でな」

 

 

 シグルドはタロウにこれまでの経緯を話した。

 淫魔召喚用の魔法陣を一部消し忘れていたこと。それを消すために走り回っていて、今ようやく最初の一つにたどり着いたのだが、ソレが目の前で爆散したことまでを。

 

 

「ほう、オークが溢れ始めたのはそいつが原因か」

「そうなんだ。まだまだ数があるし、他の魔法陣も誰かが起動しているかもしれない。私のミスなんだがな……ここの廃屋にも、魔法陣があったはずなんだ」

「俺はそんなものを見ていないぞ」

「だろうな。アレには封印以外に、認識疎外の結界を張っているから、お前でも見えないはずだ」

 

 

 爆散した廃屋の中に入り、煤けた床を手でこすりつつ、シグルドは言う。件の認識阻害の術は、今もかかっているようだ。爆散しているため魔法陣は動いていない。封印の要石を見る。機能していない。爆発して位置が動いたせいだろうか? シグルドはそれに手を触れ、術を消し去りつつ、考えた。

 封印と認識疎外の術により、魔法陣の保護は万全だったはずだ。正直封印のほうは簡素なもので、認識阻害の術のほうに力を入れていたが。それでも、魔力の揺れに敏感な人間でなければ魔法陣の存在にさえ気づかないはずなのだ。

 はず、なのだが……一体なぜ、だれがどうやって魔法陣の封印を解いたのか。現場にいたタロウなら、何か知っているだろうか?

 

 

「タロウ、ここで何か、怪しい人間は見ていないか?」

「見ていない。そもそも俺がここに来たのは、運んでいた荷物が盗まれたからだ。既にいくつかの場所を見て回ったが、ここにも俺の目当ての奴はいなかった」

 

 

 そう語りながら、彼は「だが」と言葉を続けた。

 

 

「他の場所でも淫魔を見た。あれは関係があるのか?」

「は? それはどういう……」

 

 

 ほかの場所でも、だと? どういうことだ。

 シグルドがそう問い尋ねようとした、その時だった。

 

 

「み~ちゃった、み~ちゃった!」

 

 

 可愛らしい声が響いた。

 その場にいた全員が、声の主を探す。そんな中、タロウとイーシャ、そしてレオーネの三人だけは、しっかりと声の聞こえたほうを見ていた。

 黒い影が、そこにあった。影に太陽の光が重なると、途端にソレが一人の女に変わる。

 金色の髪に褐色の肌が特徴的な、若い女だ。

 

 

「見るからに怪しい奴らが、怪しいことしてるニャッ!」

 

 

 クスクスと笑う彼女は、女性らしさよりも男性っぽさが、若干先行するような仕草をとっていた。

 その頭には明るい色の猫耳が生え、背中からは長い尻尾が伸びている。トラのような意匠を持った彼女は、猫の獣人だった。それに気づいてか、同じ獣人のイーシャが「わあ!」と明るい声を上げる。

 

 

「獣人! わあー、猫獣人だ、お友達!」

「……キミ、何者⁉ ここで何をしてるの!」

 

 

 レオーネは抜いていたレイピアを彼女に向けた。

 しかし猫の獣人はそんな問いには全く答えず、どころか五人に質問を返す。

 

 

「それはこっちのセリフだニャ! このあたりはミャーの縄張りニャッ! お前らこそ、ここで何をやってるニャ!」

 

 

 そうまくしたてるように言った彼女を見て、シグルドはあることを思い出した。

 あの褐色の獣人の特徴と似たものを、以前ノエインが言っていたのだ。

 確か、褐色の猫獣人がいろんなところに出没しては騎士団の連中にちょっかいをかけているだの、そのせいで仕事が増えるだの、なんだの。連れていかれた酒の席で「見つけたら言え。捕まえても構わん」とかなんとか戯言を言っていた気もする。

 ほとんど聞き流していたが、面白そうな情報だったので頭にとどめておいたのだ。

 目の前の獣人は、ノエインが言っていた泥棒と特徴が合致していた。

 

 

「……噂の盗賊……確か、ミャーマーオ、だったか?」

 

 

 シグルドがそう告げると、盗賊獣人は「ニャニィ⁉」と眉をひそめ、

 

 

「ミャーのねぐらに勝手に入っておいて、その言い草! 人を泥棒呼ばわりとは盗人猛々しいニャ!」

「え? 盗賊じゃないんですか?」

「違わないニャ。ミャーマーオは盗賊ニャ! お宝のために日夜いろんなところに忍び込んでいる盗賊ニャ!」

 

 

 その言葉を聞いて、シグルドは「なるほど」と合点した。

 タロウがここにいたのは、あの猫__ミャーマーオと名乗った、彼女を追っていたからだったのか。そして先ほどあの廃屋にいたのも、あそこが偶然、ミャーマーオの家だったからで。

 

 

「……なるほどな、仕事中に盗まれたのか。お前ともあろうものが珍しい」

「俺にも失敗はある。奴の盗みの技術や、音を殺す技術は俺よりも優れているからな」

「ふうん……そうか。ところで、確かここって誰も住んでない廃墟だったはずなんだよな」

 

 

 少なくとも三か月前までここに生活感はなかった。というか今もない。だって爆散したもの。

 

 

「……じゃああいつ、人のこととか全然言えなくない? ねえミャーマーオ、君も十分盗人猛々しいと思うけど」

 

 

 恐らくその場にいた全員が思っていたことを、レオーネは代弁した。

 

 

「何言ってんのかよくわかんないニャ」

「いやいや、そもそもここは誰も使ってない廃屋でしょ? そこを間借りしてるってことは、君も不法占拠してる盗人じゃないか」

「ふほー……はにゃ……? ミャーはあんまり賢くないから、難しい言葉は使わんでほしいニャ」

「使った? えボク使ってないよね、滅茶苦茶簡単な理屈じゃない?」

「うるっさいニャーッ! とにかく、ミャーの寝床から出ていくニャアッ!!」

 

 

 ミャーマーオは爪をむき出しにし、その見た目通り猫のように、シグルドたちを威嚇した。

 今にも飛び掛かってきそうなミャーマーオ。レオーネとイーシャが武器を構えて……

 そこで、ミャーマーオが「ニャッ⁉」と声を上げた。

 

 

「に、ニャニャッ……た、タロウ、何でここにいるニャ……⁉」

「え、気づいてなかったの?」

「どうやらそうらしいな」

 

 

 聖都を騒がせるお尋ね者の割にはずいぶんバカだぞこの猫。

 そのバカ猫は、いつの間にやらザングラソードを手にしたタロウを見て、ガタガタと震えていた。まあ、聖都にいるなら彼のことは知っているのだろう。それか、もしくは__

 

 

「縁があるな、ミャーマーオ。今日で二度目だ。酒を返せ」

「ギニャ……うう、やっぱりそれで追ってきたかニャ……! 今は返せないって、さっき言ったニャアッ!」

「あれはミズナが客にふるまうための大事なワインだ。なぜ返せない?」

「なんでって、ニャ、も、もうあげちゃったし……」

「なに? ならば弁償だ。お前は盗賊、金はため込んでいただろう?」

「ニャ……ぬうう、でも、怪しい奴らといる奴に、返せとか言われても返せないニャーッ! すぐに出ていくニャ!」

 

 

 そんなことを言いながら、ミャーマーオはタロウに攻撃したりはしなかった。

 よく見ると足が震えている。ガッタガタのブッルブルだ。多分一度、タロウにボッコボコにされた経験があるのだろう。それで歯向かえないのだ。シグルドとイルヴィナは少しだけ彼女に同情した。しかし、その同情は、すぐに取り消されることになった。

 

 

「ぬ、ぬぅ……出ていかないならミャーにも考えがあるニャ! お前ら絶対悪い奴だから、騎士団につーほーしてやるニャッ!」

「はあ⁉」

 

 

 盗賊が騎士団に通報とか、そんなのありか! そう言うよりも早く、ミャーマーオは窓からするりと出て行ってしまった。

 開いた口が塞がらない。

 

 

「面白い子だったね!」

「言ってる場合じゃないよ! ……賢者様、これちょっとまずいんじゃない? 魔法陣のことバレたら……」

「…………ごりらにされる」

「え? 何言ってんの賢者様」

「なんでもない忘れろ。そんなことよりミャーマーオを追いかけなくては……!」

 

 

 ああ、厄介なことになってしまった。

 タロウがほかの場所でも淫魔を見たと言っていた以上、ほかの魔法陣も封印が解かれている状態にあるのだろう。そうなるとそちらのほうも、一刻の猶予はない。だというのに……

 そうして悩んで、もういっそのこと奴を追いかけながら魔法陣をつぶすか? と考えたとき、シグルドは一つ名案を思い付いた。

 彼女はすでにエンヤライドンに乗っていたタロウに、慌てて声をかける。

 

 

「タロウ!」

「なんだ?」

「お前、ミャーマーオに用があるんだよな? もし頼めるなら、あいつを捕まえてくれないか?」

 

 

 タロウなら、一人でもあの猫を捕まえられるはずだ。あの反応を見るに、一度痛い目に合わせているようだし。望まぬ追いかけっこを強いられるよりは、捕まえることを望んでいる奴に任せてしまったほうがよいだろう。

 そんなシグルドの訴えに、タロウは逡巡も見せず答えた。

 

 

「いいだろう。乗りかかった縁だ、俺に任せておけ」

 

 

 ようっし! これで面倒くさいのとはおさらばだ! シグルドは内心ガッツポーズで喜んだ。

 しかしそんな彼女の横で。「ところで」とタロウは言いながら、レオーネのほうを向いたのだ。

 

 

「そこのあんた。俺に何か、用があるのか?」

 

 

 レオーネは、タロウをじっと見ていた。その手には未だにレイピアが握られていた。唇を、キュッと引き結んでいる。

 シグルドもようやくそれに気づいた。

 レオーネはタロウを睨みつけ、そこからシグルドを見るや__叫ぶように声を荒げた。

 

 

「__賢者様! ボクは、彼の力を借りたくありません! ドンモモタロウ! ボクは君に、決闘を申し込むぞ!」

 

 

 その場にいた全員が__タロウとレオーネを除く全員が目をむいたのは、言うまでもない。

 シグルドは……

 

 

(……ああ、これは面倒なことになるぞ)

 

 

 自分の安心が一瞬で消え去ってしまったので、目の前が真っ白になったのだった。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 レオーネ・ファズールには、憧れの人がいる。

 

 レオーネは自由騎士だ。彷徨を誓い、特定の集団には属さず、ただ正義のために人を救い、守る遍歴の騎士。それが自由騎士で、レオーネもその一人であり、そう名乗るようになったのには理由があった。

 

 暁の名を持つ女騎士__アウローラ=リッター・アルシエル。

 まだ戦士でもない、一人の少女だったころ。

 ファズール家の女として、いずれ他家で子供を育む運命にあったレオーネは、ある時凱旋のパレードで、世界最強のエデンズリッターたる彼女の姿を見たのだ。

 

 レオーネの元居た世界は、ゼノバイド教団をはじめとした秘密結社の手によって無数の淫魔がヴィ・ラ・エデンに侵入したことで、破滅の一途をたどっていた。レオーネの生まれた魔法国家スラフニールはその世界においては没落の一途をたどっていたエルアラドとも同盟を結び、世界に覇を唱えた魔界の軍勢を打倒せんと戦っていた。

 その戦線は人類側の劣勢が続いていた。そこにあって、アウローラの指揮する軍勢は会心の一途を辿り、多くの国々を救ったのだ。彼女はまさしく救国の英雄であり、世界最強のエデンズリッターであった。

 

 アウローラの姿を見て、レオーネは愕然とした。

 今自分が過ごしている無為な時間でも、彼女は人々のために槍を、剣をふるい、そして盾となって戦っていたのだ。彼女の持つ白銀の盾がボロボロなのを見て、その姿はより一層目に焼き付いた。

 

 その日から、レオーネは女であることをやめた。断髪とともに誓いを立てた。

 アウローラのようになってみせると。

 アウローラに憧れ、そして彼女のようになりたいと、彼女の力になりたいと__傍に、いたいと思うようになった。十かそこらの少女だった彼女の、それが初恋であった。

 

 彼女は突剣を習得し、アウローラの従騎士としてともに旅をする身になった。

 旅の中で幾度もアウローラの力強さを目にし、やさしさに触れ、彼女への思いをより強く高ぶらせたレオーネは、いまだに想いを告げられずにいるものの、アウローラのためならなんだってするという気概を身に着けていた。他者から見れば、きっと狂信とも妄信とも思えてしまう、愛情を得たのだ。

 

 彼女はイーシャとともに、シグルドの事情を知っている。そんな彼女がシグルドを「賢者様」と呼び敬愛しているのは、偏に死ぬ寸前であった自分の意識を、肉体とともにこの世界に呼び出してくれたことと。アウローラを、すでにこの世界に呼んでいることに起因していた。

 そこから様々な経緯もあって賢者の家の一員となり、暮らすうち、桃井タロウの話を聞いた。

 

 

『……そういえば、前にオトモがどうとか、言われたな』

 

『オトモ? なんのことですか?』

 

『タロウがな。私を見て、お前もオトモだ、と言ってきたんだ』

 

『は? なんですか、それ? え、そのタロウさん……いえ、タロウって人は、なんなんですか⁉』

 

 

 敬愛するアウローラ様を、オトモ呼ばわりだと⁉

 許せない! なんと傲慢な男なのだろうか!

 

 賢者様やイルヴィナ、それにクレセアはいい人だというけど、信じられない。

 必ず正体を暴いて、懲らしめて、アウローラ様をオトモ呼ばわりしたことを後悔させてやるんだ!

 この世界に来て、レオーネが最初に抱いた目標こそがそれだった。

 

 つまり彼女は、タロウと出会うずっと前から、「桃井タロウをぶっ倒す!」と心に決めていたのであった。

 

 そして今、突きつけた決闘。

 男なら、必ず受けるはずだ!

 レオーネがじっと見ていると、タロウは「ほう」と声を上げ、ニッと口の端を吊り上げるや__

 

 

「いいだろう! オトモに稽古をつけてやるのも、俺の役目だ。その勝負、受けて立ってやろう」

「なら、剣を抜くんだ。さっきの変な剣を! 今ここで決着を__」

「わー! 待って、待ってください!」

 

 

 一触即発。言われた通りにザングラソードを構えたタロウと、今にもとびかかりそうなレオーネの間に、イルヴィナが割って入った。

 二人が寸でのところで攻撃を止めたのを見て、シグルドが言う。

 

 

「今は魔法陣の撤去と、ミャーマーオを捕まえることが先決だ。レオーネ、こいつが気に食わないっていうのはよくわかる。本当(ほんっとー)によくわかる。私も妹の料理の件でちょっとな……だが、今はそんなことに時間を使っている暇はない」

「そうだよ。勝負は今度でもできるじゃない! だからさ、今は落ち着こうよ!」

 

 

 レオーネは顔を膨らませていた。それをシグルドとイーシャは、どうどうとなだめる。

 しかし、どうしたってタロウに突っかかるんだ。二人は、レオーネがアウローラに対して恋慕のような情を向けているのは知っていた。だが、それがどのようにしてタロウへの怨嗟へつながったのかまではわかっていなかった。というかそもそも、その恋慕の情がタロウへの怨嗟へと直結しているとさえ思っていなかった。

 だからなのか、彼女へ二人の言葉は届かなくて……

 

 

「……賢者様! だったら、ボクがミャーマーオを捕まえに行くよ!」

 

 

 レオーネはそう言った。どうしてそうなる。

 

 

「何言ってるんだ……」

「魔法陣も壊さないといけないし、時間はないでしょ? だったらボクがあいつを追いかける!」

 

 

 言いながら、彼女はタロウを見た。そしてビッと指を突きつけ、宣言する。

 

 

「どっちが先にミャーマーオを捕まえるか……ボクと勝負だ、桃井タロウッ!」

 

 

 ああもう、頭が固いったらないぞこの騎士は……!

 

 そういえばアウローラは、彼女を頼れる騎士だという以前に「少し頭が固いところがあるが……」とかなんとか言っていた。なるほど、確かに頭が固い。頑固すぎる。

 ……素直にアウローラについてきてもらったほうが、よかっただろうか。いまさらになって後悔するシグルドであった。アウローラ以外の面々の人となりも、わかっておきたいと思っての行動だったのだが。

 

 さてもタロウは、全員がわかっていたことだが「いいだろう!」と景気よく答えやがった。

 答えるんじゃねえ。主にシグルドがそう思ったが、タロウはどこ吹く風。彼はフンと鼻を鳴らして笑うや、

 

 

「俺は俺と同格の相手以外に、一度たりとも負けたことはない。俺に勝ちたいなら、百点満点の力で来い!」

「それつまり、ボクが格下だってことだよねぇ……吠え面かかせてやるっ……!」

「ご主人様ご主人様、面白くなってきましたよ!」

「…………あー、そうだな」

「賢者、もちろん審判をするんだよね?」

 

 

 そういうことになりそうだ。

 シグルドは頭を抱えたくなる気持ちを抑え、うなづき。

 

 

「…………ああ、わかった」

 

 

 もう、ヤケくそでそう言った。

 

 

 

「__タロウVSレオーネ、時間無制限の盗賊捕り物ナンバーワンバトルだッ! スタートは今この時から! はい、始め!」

 

 

 

 シグルドが言うや、エンヤライドンのエンジンが吹き荒れ、赤い車体が路地裏に消えた。

 レオーネは「早いよ!」と叫ぶや、エデンズエナジーを開放し、馬並みのスピードで走っていく。

 シグルドは「よーし」とつぶやくや、二人の去った方向から踵を返し、

 

 

「私たちは魔法陣の撤去に行くぞ」

「あれ?」

「え、え? ご主人様、見ないんですか? 審判ですよね?」

「知らん、先にミャーマーオを私のところに持ってきたやつを優勝にするだけだ。私たちにはほかにやらなきゃならないことがあるしな」

 

 

 ミャーマーオがどうのというのは、後から生えてきたサブクエストだ。

 そっちはもう、あの二人に任せてしまおう。勝手に戦えだ。

 もうさっきから胃がキリキリ痛むのだ。早めに終わらせたい。帰って寝たい。

 

 

「行くぞ」

「はーい! 勝敗は後でわかるしね! ささ、行こうか!」

「そーですね! ところでご主人様」

「なんだよ」

「さっきのナンバーワンバトルって、なんでそ?」

「昔読んだ古文書に書いてあった。語呂がいいから使った」

「ほへー」

 

 

 戦隊古事録とか、何とかいう本だったと思う。

 眉唾物の古文書だったけれど……しかし随分と面白かったのは覚えている。

 とにもかくにも、シグルドはそのことを思い出しながら、本来の仕事に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 __しかして、そんな彼らの会話を聞いていた影があったことには……シグルドたちも、タロウたちも、気づいてはいなかったが。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 聖都の屋根を走る一つの影。

 ミャーマーオは先ほど見た「怪しい奴ら」のことを騎士団に報告するべく、町を駆け抜けた。

 

 彼女は最近この聖都セフィラムを騒がせる盗賊である。貴族の屋敷に無断で、しかも土足で踏み入り金品を強奪する。顔も割れている……と言いたいが、このヴィ・ラ・エデンという世界、特にエルアラド聖王国には機械類が存在しない。(エンヤライドンは除く。あと銃の類)

 カメラなどのような近代的機械については、閉鎖的になってしまったエルアラド聖教の教義によってほとんど全く、国の中に入っていないのだ。なので、顔は割れていない。しかし彼女の特徴はかなりわかりやすいために、判断はつきやすい。

 その点でいえば、ミャーマーオは「顔はバレてないが姿はバレている」といったところだろう。

 

 この情報を踏まえ……さて、当たり前のことであるが。普通の人間ならば、そんな奴が怪しいやつを通報に行くとか聞けば「いや、捕まるのがオチだろ?」と考えるだろう。

 

 しかしミャーマーオはそんなことは思わない。

 なぜか? それは、彼女にとって、この世界は自分を中心に回っているからだ!

 ミャーこそが世界の主人公、ミャーがいるときは誰もが脇役! ……という感じなのだ。

 とあるギャグ漫画のガキ大将に端を発する精神__ジャイアニズムの体現者。それが彼女である。

 

 ……まあ、そもそもが獣人で、種族的な特徴として”頭がよろしくない”というものがあるので、そもそも捕まるとかを考えていないのかもしれない。

 獣人は猫も、馬も、犬もその他も、頭の出来が少し「アレ」だ。その分だけ魔法に対する耐性があり、身体能力面ではエルフをも凌駕する。特に猫獣人は家屋の多い市街地などではその俊敏さをいかんなく発揮できるのだ。

 

 事実、今のミャーマーオは先ほど”怪しい奴ら”と邂逅した場所から、すでに五百メートルほどの距離にいる。今この時、桃井タロウとレオーネがナンバーワンバトルなどというわけのわからない決闘を始め、ようやく彼女を追いかけ始めているときにだ。

 このままいけば、彼女がレオーネたちに捕まることなどは決してないだろう。ミャーマーオはもちろんその事実を知らない。後ろを見て、自分を追いかける者が誰一人いないことを知り、ほくそ笑んで高らかに勝利宣言を挙げた。

 

 

「にゃーっはっはっは! 誰も追いかけてこないならミャーの一人勝ちできっまりぃ! あいつらしょっぴいてお金たんまりもらって、ガキンチョどもにいいものいっぱい食わせてやるニャ~♪」

 

 

 そう言いながら、誰もいない屋根の上を再び駆け出すミャーマーオ。

 確かに、このままいけば彼女はタロウたちを騎士団に引き渡して大勝利できたことだろう。

 

 ……途中で、天高く香ったあの匂いに、引き寄せられなければ。

 

 

「……ンニャ? ニャア、なんだか良い匂いがするニャァ……」

 

 

 天高くのぼった一つの煙。エルアラドであれば、その煙はいずこかの家の昼食や教会の炊き出しのトレードマークだ。

 しかしお昼時には、今はまだもう少し早い時間。だというのに立ち上ったその煙……それがなんであるか……というのは、ミャーマーオは考えなかった。獣人だからである。

 それプラス、今の彼女はとある事情で空腹だった。素早く動けてこそいるが、お腹が空いてたまらないのだった。

 

 そして獣人特有のよく効く鼻がその匂いをとらえたとき。彼女は今まで考えていたことを完璧に忘れてその匂いの先に突進した。

 

 

「さ、魚ッ! ひさしぶりの魚ニャーッ!!!」

 

 

 そのスピードはタロウたちから逃げたときよりも凄まじいものだった。

 彼女はすぐさま煙の下まで走り、一気に屋根から駆け下りた。空腹で見境のない彼女は、すぐそこにあるはずの魚めがけて、一目散に手を伸ばし__

 

 

 

 __ヒュルッ

 

 

「ンニャッ?」

 

 

 気づけば、彼女は縄で全身グルグル巻きにされて大通りの地面に転がっていた。

 あれ? 動けない。なんだこれ。目の前には魚がある。しかし手を伸ばせない……

 

 

「にゃ、ニャ……な、なんにゃコレ⁉ なにがどーなってんだニャーッ⁉」

 

 

 動けない彼女に、コツコツと石畳をたたく音が迫る。

 

 

「ようやく捕まえたぞ……ずいぶん手間取らせてくれたな……」

 

 

 そこに現れたのは、一人の男であった。

 灰混じりの白い髪、色の薄い黄色の肌。豪勢なローブに身を包んでいるが、その服のあちこちは破けていて、服全体もどことなく煤けている。一見すれば貴族のようだが、しかしまじまじと見てしまうと、貴族の真似事をする貧乏人にも見える。

 そんな彼はミャーマーオをじろりとねめつけていた。

 

 ミャーマーオは身をよじり、彼をにらみつけて、叫んだ。

 

 

「お前、何者だニャッ⁉」

「見てわからぬか、やはり獣人など下等な存在を使うのは気が引けるな……」

 

 

 ミャーマーオは「何言ってんのニャこいつ」と思った。同時に、その服装を見て「まさか教会の差し金かニャッ⁉」と思い当たった。それならばまずい。今でも教会の人間には、獣人を嫌うものが多い。このまま連れていかれたら、なにをされるかわかったものじゃない!

 そんな彼女の目の前で、男は微かに笑って、答えた。

 

 

「私は、司教だ。貴様の想像通り、貴様を教会へ連れていくためにここへ来た」

「に、ニャ! い、イヤニャッ、それだけはゴメンニャッ! 早く縄をほどくニャー!」

「それは無理な相談だな。しかしまあ、貴様が私の願いを叶えてくれるのなら、その頼みを聞くのもやぶさかではない」

 

 

 ミャーマーオは驚いて彼を見た。男はくつくつと笑いながら、彼女に語り掛ける。

 

 

「さて、どうするかね?」

 

 

 その時の彼女の答えは、たった一つしかなかった。

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

☆ステータス №5☆

 

 なまえ :レオーネ・ファズール 

 ジョブ :じゆうきし 

 せいべつ:おんな

 レベル :18

 

 タイプ :スピア

 ぞくせい:せいどう

 レア  :☆☆☆☆

 

*そうび*

 あたま :しろのカチューシャ

 どうたい:きしのせいそう

 せなか :きしのマント

 ぶき  :あいようのレイピア

 

*しょうごう*

 ひかりのじゅうしゃ

 ボクっこ

 

*かいせつ*

・じゆうきしみならいで アウローラさまがだいだいだいすき らしい。

 じゃっかんヤンデレ はいってそう。 きょうけんまっしぐら あおいきし。

 ねは いいこだよ。

 

 






???「__ナンバーワン……ナンバーワンだ!」

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