桃井タロウは楽園行き   作:トナカイ

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人魔の狩人

 

 

 

 

 

 はてさて、一方そのころである。

 

 商業区の大通り。その詰め所には、ミャーマーオを捕まえるために派遣された聖騎士がいた。

 そして今、商業区内のパトロールを行っている。片方は蒼い髪のポニーテール、もう片方は桃色の髪のウェーブカット。どちらも綺麗で快活、とてもよく似た姉妹のような騎士であった。

 

 聖騎士団において、将来有望とされた姉妹騎士である。ヌヴォール家の双子騎士(なお双子ではない)シャット姉妹……その名を聞けば、このエルアラドの民たちは、底抜けに明るい蒼髪と桃髪の姉妹を思い浮かべることだろう。彼女たちがいる場所は、常に明るい空気に包まれるのだ。

 若干うるさいところはあるものの、おおむね「いい子たち」として受け入れられているのが彼女たちであった。

 

 その彼女たちが今、商業区内をパトロールしているのだが……しかし片方はなぜだか憂鬱な表情でため息をついていた。

 

 

「……シャン」

「なぁに、ルン」

 

 

 普段は太陽よりも明るい笑顔のポニテ少女、ルンシャット。同じくその妹のシャンシャット。

 いずれ太陽になるなどと若干おつむがどうかしていそうな夢を豪語するルンは、なぜだか今日は新月よりも真っ暗な表情だった。シャンシャットもそのことには気づいているらしい。なんだか懐かしい表情だとすら思っていた。

 小さい頃の姉は病弱で、ベッドの上に縛り付けられていて、こんな表情を浮かべていた気がする。それを見ていると気が気じゃなかったりして。

 年の近い姉のアンニュイな表情をもう一度マジマジと見て、シャンシャットは首を傾げなら問いかけた。

 

 

「どうしたの? さっきから、ずっと暗い顔してるけど」

「妹よ、お姉ちゃんの微妙な心境を、よく理解しているわね……どうしてこうなのか、聞きたい?」

「聞きたい」

「そんなに?」

「大事な姉のことだし。そりゃあ聞いておきたいわよ」

 

 

 そう言った途端、シャンシャットはルンシャットに抱き着かれた。

 

 

「ありがとう妹よ! かわいいかわいい私の妹よ!」

 

 

 

 ぎゅう~と音がしそうなほど熱烈なハグである。周囲の通行人が何事かと彼女たちを見る。

 しかしシャンは慣れているのか、ピンクの髪をゆらしながら「どうどう、落ち着いて」とルンに声をかけた。

 

 

「落ち着いたわ!」

 

 

 落ち着いた。上に元気になった。太陽はまた昇ったのだ。

 

 

「それで、どうしたの?」

 

 

 シャンが改めて問いかけると、ルンはうなづくとともに悩みの種を伝えたのだ。

 

 

「私たちこの間、賢者様や団長と一緒に、ルドルフっていう悪の組織の大幹部を叩きに行ったじゃない?」

「行ったわね」

「結局行軍は失敗だったけど……でもあの時、私たち賢者様にメロメロになっちゃったじゃない?」

「ええ、なったなった。かわいかったし、格好よかったわよね、賢者様!」

 

 

 それについてはちょいと説明が必要かもしれない。

 

 つい一週間ほど前、シグルドたちはルドルフを倒しに向かった。ゼノバイドへの最初の反攻作戦、敵の戦力が前回の侵攻である程度明らかにもなったため、エルアラドの国軍は万に及ぶ軍勢を派遣したのだ。

 

 その行軍に賢者たるシグルドの護衛として、ノエインの配下から選抜されたのが、シャット姉妹だったのだ。

 行軍そのものは二人が言うように失敗した。しかし二人は、その時の失敗の落胆がどうでもよくなるほどに、シグルドに魅入られてしまっていた。

 

 例えば。

 行軍の最中こそ、若干仏頂面で「クールな人なのかな」と二人が思うほどに静かだったシグルド。しかしその真実は、副団長のドゥークロイが護衛の一人として近くにいて、男性相手の免疫がない(シグルド本人は男嫌いだからと言っていた)ので、若干居心地を悪くしていただけだったり。

 それをノエイン団長にだけ明かしていたのが、なんとなくキュンと来たり。(これは自分の問題だからと、あまり周りに言えていなかったのをノエインが聞き出したのだが)

 

 その後の淫魔との戦いでは、また別の一面も見せてくれた。窮地に陥った時、何を考えているかわからないほど静かだった彼女は、率先して団長の聖痕回復に努め、それのサポートのために、新たなエデンズリッターを二人も召喚したのだ。彼女たち二人と、シャット姉妹のコンビネーション。そして復活したノエインの力が合わさって、窮地は逃れられた。

 その時の手柄を「別に自分のおかげじゃないだろう」といい、代わりに戦った面々を率先して癒してもいた。そういう甲斐甲斐(かいがい)しい部分も、やはりキュンとくる要因の一つで。

 

 前から会って話もしていたが、彼女にこれでもかというほど惚れたのは、あの行軍がきっかけだった。

 ルンシャットとシャンシャットは、もうシグルドにメロメロであった。

 

 シャンは言う。

 

 

「賢者様ともっと一緒にいたいって思ったわよね」

「ええ、でも私たちは聖騎士。任務が終われば、はいさよなら。別の任務が待ってます。次はいつお会いできることか……」

「……そうね。私たちは賢者様のためだけに戦えるわけじゃないもの……今だって、団長の命令で獣人の泥棒を追っているわけだし」

「次はいつ会えるのかしら。もうこのまま、一生会えないんじゃないかしら。そう思うと胸が痛むの……でもね、あの方を独占したいわけじゃない。そうなったら、シャン。貴女と血で血を洗うような争いをしなくてはいけないから。むしろ、私を、私たちを独占してほしい。あの人だけの近衛騎士になって、一生お傍で仕えたい……あわよくば結婚したい」

「ええ、ええ! よくわかるわ、ルン。私も戦うのは嫌、あの方のお傍にいられれば、それでよいけれど、貴女と争うのは嫌だもの! ……でも、ならどうすればいいのかしら。賢者様ともう一度お会いするには、どうすれば……」

 

 

 シャンは悩む。

 クールながら優しく、か弱い面もある賢者様を支え守り、あわよくば結婚したい。

 そんな真摯な思い(欲望)をかなえるにはどうすればよいか。

 

 いま私たちの手には何がある。何から、賢者様のお傍にいる自分たちへつなげればいい?

 

 シャンシャット・ヌヴォールは思案した。

 騎士団の先輩後輩同期をして満場一致で「ちょっとおバカさんなんですよね」と思われているシャット姉妹であるが、猪突猛進元気一番なルンとは異なり、シャンは案外思慮深いのだった。まあ引っ張られることも多いのだけど。あと二行以上の文章は読めないけど。

 

 ともかく、頭はよいし、それを活かせるだけの実力もある。そこはノエインによって鍛えられたところだ。ルートの合間には石を置き、その石に沿って攻略していく。そうすれば自ずと、最大の目的を達成できる。そんな技を教えられ、筋道立てて理論することは、お手の物である。

 

 

「……よし、わかった。賢者様のお傍にどうすればいられるのか、わかった!」

 

 

 シャンはパン! と手をたたき声を上げた。

 おお! とルンも合いの手のように声を上げる。

 

 

「なになに、何を思いついたの?」

「ええ、つまり、こういうことよ__!」

 

 

 シャンは姉に、自らの「すてきなアイデア」を語り始める。

 それはつまり、まとめるとこういうことであった。

 

 

 1.今追いかけている猫獣人をとっ捕まえる。

 

 2.すると、騎士団からご褒美がもらえる。

 

 3.賢者様の近衛兵に立候補する。

 

 4.賢者様と結婚できる。

 

 

 

 ルンはうなった。

 なんと完璧な作戦なのだろうと。

 

 

「さっすがシャン! 私の妹! そうね、そういえば姫様も、賢者様をこの国で保護すると決めたって大々的におっしゃっていたし! 悪の組織に狙われているなら、国からも護衛を出す必要がある! ならどこから出すかって、もちろん聖騎士団から! そして賢者様は女性、なら私たちが手柄を立てて、立候補すれば、きっと採用されること間違いなしッ!」

「そういうこと! そして今度は賢者様に、私たちのすごいところや愛らしいところをわかってもらうの! そうすれば、賢者様の生涯の伴侶としてお傍にいられるわ……」

 

 

 あの人を守ることが、守り続けることができる。

 ああ、それはなんとすばらしいことなのだろうか。

 

 もちろん賢者様の周りには、彼女の魅力に気付いたりする人も出るだろうし、妹一筋な賢者様も、誰かに恋する時が来るかもしれない。それでも、一途に思い続け、傍にいられればそれでいい!

 

 年若いというか二十代にもなっていない騎士二人は、なぜだかそんな老成した価値観で話に花を咲かせた。

 まあ、仲良く話で盛り上がるのはいいことだ。周囲の人たちの目線に温かいものがにじむ。それはそれとして大通りの真ん中で騒がないでもらえないかなとかみんなが思っているのだけど、誰も何も言わなかった。

 

 言わなかったのだが、別のことで彼女らの会話はさえぎられた。

 

 

「ヌヴォール様! 聖騎士様!」

 

 

 彼女らに走り寄る橙色の髪の少女。近衛兵の衣服に身を包んだ彼女は、現在シャット姉妹が駐在している詰め所の衛士だった。時期団長候補でもある。

 

 名前はリースリッドという。彼女は兜の隙間から覗くおさげを振りながら、額に玉のような汗を浮かべ、二人に声をかけるのだった。二人もそれに気づき、声を掛け返す。

 

 

「どうしたんですか?」

「猫の獣人が__ミャーマーオがスラムの方角で確認されたと、報告がありました!」

「本当ですか! いったいどこに⁉」

「こちらです、案内します!」

 

 

 なんと、期せずして今回の標的が!

 

 どうやら聖セフィロトの加護があるようだ。二人はハイタッチするや、リースリッドの後を追いかけた。目指すはミャーマーオを捕まえること。そしてその先の、賢者様の近衛騎士になること!

 

 シャット姉妹はそんなことを思いながら、リースリッドは真面目に「なんと明るい方々なのだろう!」と底抜けに二人のことを信頼しながら、商業区を駆けてゆくのだった。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 エンヤライドンが凄まじいスピードで街中を駆け抜けていく。その時速は数値にして四〇〇キロメートル毎時、あっという間にレオーネを引き離し、人気のない道を走り去る。

 普段であれば安全もかねて大したスピードを出さないエンヤライドン。しかし今は勝負の最中、タロウは普段温めていないエンジンを存分に焼きながら、愛機を走らせていた。

 

 道の先に人が見えれば、エンヤライドンの車体をその膂力によって持ち上げ、そのままジャンプ。連なる家屋の屋根の上まで飛び上がるや、そのまま走り続け__

 

 

「うわっと⁉」

 

 

 そこで声が聞こえ、タロウはそちらを向いた。飛び乗った屋根の上、エンヤライドンのすぐ後ろに、レオーネの姿があった。タロウは思わず、口の端を釣り上げた。

 エンジンをフルスロットルした最高速のエンヤライドンについてくることができるとは! 元の世界ではそんな人間などいなかった。やはりこの世界は面白い!

 

 

「あんた、中々やるな。こいつについてくるとは流石だ、三十五点をくれてやる!」

「ボクはこれでもエデンズリッターだからね。君みたいに得体のしれない男に、負けたりはしないよ!」

「いい心がけだ。だが、俺も素直に負けてやるつもりはない」

 

 

 言うが早いか踵を返し、タロウは再びアクセルをフルスロットル。それを見たレオーネもエデンズエナジーを開放し、人を超えた超速を発揮する。その名の如く、獲物を捕らえる獅子のように素早く動くや、エンヤライドンをレイピアで突き刺そうとする。

 しかし、タロウは攻撃が来るのをわかっているかのようにエンヤライドンを巧みに操縦し、その攻撃をかわしてしまった。

 くそ、背中に目でもついているのか⁉ 次第にエンヤライドンとの距離は空いていき、レオーネも息を切らし始める。

 すると__

 

 

「うわ⁉」

 

 

 エンヤライドンの走行によって砕けた瓦に引っ掛かり、レオーネはバランスを崩して屋根から落下した。受け身を取ろうとするが間に合わない。このまま、あわや地面とぶつかるか……そう思った、その時。

 レオーネは自分の体が、ふわりと浮いたのを感じた。

 

 

「あ、あれ?」

「大丈夫か?」

 

 

 見ると、変身したタロウが自分を抱き上げていた。

 タロウはレオーネを抱きかかえたまま地面に足をつけると、すぐに彼女を下ろした。

 レオーネは驚いたままにタロウを見つめていた。さっきまで前を走っていたのに、一体どうしてボクを助けられたのだろう? 見ればエンヤライドンも、いつのまにかすぐ真下に落ちている。

 

 アウローラ先輩は「タロウは不可思議な力を使う」と言っていたけれど……それ、だろうか?

 そんなことを考えていると、タロウは変身を解いて、レオーネに「もう大丈夫だ」と声をかけた。

 

 

「あまり慌てるな」

「あ、ありがと……って余計なお世話だよ!」

 

 

 慌ててなどいない! ……そのはず、だ。

 目を背けるレオーネの横で、タロウは変身を解除した。そしてあたりを見回し「なるほど。ここだな」と一つ呟く。

 

 

「ここだなって?」

「白い煙が空に昇っているのが見えた。見たか?」

「え? ああ、あれ? 見たけど……」

「あれはミャーマーオを捕まえるためのワナだ」

「え?」

 

 

 いつの間にそんなものを? と尋ねるレオーネの視線がタロウを突き刺した。

 しかし彼は首を横に振る。

 

 

「俺のものではない。ミャーマーオはお尋ね者だ。騎士団は奴を追っているが、ある事情であまり力を入れて追うことができていない。考えられる可能性は幾つかあるが、その中で一番大きいのは、最近冒険者ギルドとやらに張り出された依頼(クエスト)を受けた、誰かの仕業だろう」

「事情って何? ていうかなんで君知ってるの?」

「昨日屋台でノエインが話していた。それ以上は言えない。奴からは「他言無用だぞ」と言葉を預かっている」

「わかったよ、深くは聞かないでおく。ところで、そのワナを追ってここまで来たわけだけど……じゃあ、ミャーマーオはどこにいるのさ?」

「わからん。だが、どこにいるかの検討くらいはつく」

「本当?」

「奴を捕まえたなら、冒険者は詰め所に行く。この近くの詰め所に行くか、その冒険者を足止めすればいい」

 

 

 なるほど。レオーネはうなづき、あたりを見た。しかしそれらしき姿は見えない。

 見るにこの辺りは、商業区のようだ。こんな場所で白い煙が上がるものか? とも思ったが、実際見てしまったので、そこについては考えないようにした。

 

 もう連れていかれてしまったのだろうか? 魔法陣のことがバレないためにも、騎士団の詰め所に連れていかれるのだけは阻止しないといけないが……

 

 

「うぅ、どこにあるっけ、このあたりの詰め所……元の世界よりもおっきいからなぁ、どこがどうなってるかサッパリだ」

「元の世界? アンタも別の世界から来たのか」

 

 

 タロウが驚いたように目を見開き、そう言った。それを見て、むしろレオーネも「キミってそんな反応をするんだ」と驚いた。なんというか、ずっと仏頂面で何も面白くなさそうで、張り合いがないというか話しててむかつくというか、そんな感じだったから。

 珍しいものを見れたことと、タロウがそんな風に驚いたことに得意になって、レオーネはそのまま説明口調で続けた。

 

 

「そうだよ、アウローラ様と同じ世界からね。賢者様に呼んでいただいたんだ。ボクの元居た世界じゃ、アウローラ様は誰よりも強い最強の自由騎士だったんだ! キミは先輩のことをオトモだとかなんだとか呼んでるけど、アウローラ先輩はそんな風に呼ばれるような人じゃないんだよ!」

「ほう? そうなのか。それは知らなかったな」

「知らないなら、もっと教えてあげてもいいけど?」

「いや、いい。また今度だ、レオーネ」

 

 

 レオーネはムッ! と口を引き結んだ。いいところだったのに、そこで切るなよ! と言いたくなって、実際に言おうとした。

 がしかし、それを遮るように、タロウが言ったのだ。

 

 

「避けろ!」

「へ? __ッうわっとぉ⁉」

 

 

 

 __ギャリィッ!!

 

 

 地面をえぐる刃の擦れ音。それはレオーネとタロウ、二人にめがけて放たれた蛇腹剣の一撃であった。タロウは素早くその攻撃を避け、レオーネもまたなんとか攻撃を回避する。

 今のは、一体? レオーネがそう思うよりも第二、第三の攻撃が放たれた。剣戟に続くそれは、レオーネの足元に弾痕となって刻まれる。

 考えている暇などない、とレオーネはレイピアを引き抜き、攻撃に打って返す。

 

 

「ッ、なん、なのこれは⁉」

 

 

 トドメの如く放たれた強烈な一閃を、なんとかレイピアで逸らしたレオーネ。

 彼女の耳に、声が聞こえた。

 

 

「__へぇ。私の攻撃を弾くなんて、なかなかやるね」

 

 

 少し深く、低い、アルトボイス。そこに入り混じる声高さは確かに女性のもの。

 

 

「ほう? 誰だ? 今、俺たちを呼んだな?」

 

 

 そちらを見れば、黒のコートとテンガロンハットに身を包んだ女がいた。すぐそばの建物の上に佇む彼女の、右の眼が赤く輝いて二人を見ている。片方の瞳は影のせいでよく見えないが、輝いてはいない。それを見てレオーネは、彼女の正体に気づいた。

 

 

「アンタ、良い目をしているな! これでアンタとも 「もしかして、半人半魔……の、狩人?」 ……なに?」

 

 

 タロウの例のあれを遮って、レオーネは彼女の正体を告げた。

 

 

 半人半魔。

 

 それは人と淫魔の間に生まれた存在の総称である。人に近い形、魔族に近い形、そのどちらもが存在し、姿形は安定しない。ただ一つ、見分ける方法があるとするならば、それは両の瞳の色が異なること。

 淫魔の血の持つ膨大な魔力が人体に影響を及ぼすため、または人間の血に宿る神の加護が強いために、半人半魔は必ずヘテロクロミアを伴って生まれてくる。

 時として彼らは、奇妙な目の一族などという別称で蔑まれることもある。その生い立ち故に、人間からも魔族からも迫害される。そんな星のもとに生まれた存在……だが、同時に彼らは気高い存在であるとも、アウローラ先輩は言っていた。

 

 目の前の彼女を見るに、恐らく冒険者……いや、狩人なのだろう。その手に携えている彼女の身長とほぼ同等の大剣と、家紋などの刻まれていないコート、テンガロンハットがそれを如実に伝える。

 レオーネの半人半魔という言葉に若干眉根をひそめた黒衣の女は、しかしうなづいて、言葉を紡いだ。

 

 

「お初にお目にかかる。私はシルヴェール。街から街へと渡り歩く魔物ハンターさ」

 

 

 以後、お見知りおきをね、と告げて、彼女は笑う。しかしその瞳はやはり冷たい。

 シルヴェールという名の魔物ハンターは、元の世界でも聞いたことない。こちらの世界では有名な人間なのだろうか?

 

 

「魔物ハンター……そのキミが、なんでボクたちを攻撃するわけ?」

「わからないのかい? 猫の獣人の盗賊と……そして、淫魔と一緒にいて、魔法陣に何か細工をしていただろう?」

「え? それは……」

 

 

 シルヴェールの問いに、レオーネは言いよどんだ。

 それを見てか、タロウが答える。

 

 

「俺はシグルドに頼まれ、その獣人の盗賊を追っていただけだ。こいつも、同じだ」

「そ、そうだよ。それに、賢者様は魔法陣に細工をしていたんじゃなくて、あれを止めようとしていたんだ」

「止めようと……ふぅん、でも、にわかには信じがたいね。最近はあの路地では、怪しい影をよく見るっていう目撃情報もあるし……キミたちが、それの仲間だという可能性もあるだろう?」

 

 

 言われて、反論を返そうとしたレオーネだったが、しかし反論できずに言いよどんでしまった。

 事実というか、賢者様は外に出るとき決まって黒い外套を羽織る。その状態で外を出歩けば、自然と周囲の目を集めてしまう。そのせいか怪しい人間に見えてしまうのだ。顔が広まっているのだから、隠さずにいればいいのに……

 

 

(……というか、怪しい人間って、何のこと? そういうの、聞いたことある?)

(俺も詳しくは知らん。だが、最近スラムの辺りが物騒だとは聞いているな)

(物騒? それってどんな風に__)

 

 

 そう小声で話していると、カンッ! と鉄をたたくような音が響いた。

 シルヴェールの剣によるものだった。

 

 

「秘密の話をしているところ悪いけど……私も時間がない。賢しい選択を取れないのなら……力づくで、君たちを(とら)えさせてもらうよ」

 

 

 告げるや、シルヴェールの剣が風を切り裂いた。

 気づき、立っていた場所から飛びのいた時には、先ほどと同じような斬撃痕が地面に刻まれている。続けざまの攻撃を何とか避けつつ、レオーネはシルヴェールをにらんだ。

 

 

「問答無用ってわけか!」

「ハッハッハ! いいだろう、少しばかり稽古をつけてやる!」

 

 

 何言ってんだよキミは! とレオーネがツッコむよりも早く、タロウはどこからともなく銃を取り出した。迫る攻撃をその黄色い奇抜なでもって弾き、これまたどこからか取り出したギアをセット。銃の底部に取り付けられた大きなギア(スクラッチギア)を__イヨォ~!

 

 

「アバターチェンジッ!」

 

 

__DON! DON! DON!

 

 

「ふっ!」

 

 

どんぶらこぉ~!

 

アバタロウッ!

 

 

 __一気に回す。

 

 すると、輝かしい金の波がまたまたどこからともなく現れて、シルヴェールの攻撃を弾いてしまった。眉を顰める彼女とレオーネの前で、波に乗って現れるサイケデリックな箱。

 響き渡る「どんぶらこっ!」といなせなバックミュージックの最中、それがひときわ大きな波によって空中に飛び上がる。そして、タロウはそれを見ることもなく、まるでそうすることが当たり前であるかのように、銃を天に掲げた。

 銃口が、火を噴く。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 赤い弾丸が箱にぶつかるや、そこから一枚のギアが現れた。桃井タロウの全身をゆっくりと覆いつくすそれは、彼の体の表面で赤い装甲を形作る。

 見よ、頭のドンまげ、サングラス。赤い陣羽織、腰のドンブラバックル。どこをとっても真っ赤っか、飛んできて張り付いたドス黒いサングラスさえも、陽光を返しては真っ赤に染まる。

 その伊達姿の名をこそ、ドンブラスターは高らかに告げた。

 

 

 

__ドンッ! モモタロォ~ッ! イヨッ、日本一ッ!

 

 

 

 騎士__というには、彼のその姿はあまりに奇抜で。

 だからこそとても目立っていて、彼もそれをわかっているのだ。先ほどまで縁にまつわること以外はほとんど仏頂面、笑顔なんてろくに浮かべていなかったのに、今この姿の時は。

 

 

「わーっはっはっはっは! さあさあ勝負勝負ぅ!!」

 

 

 ……仮面の奥に狂気的な笑顔が浮かぶ程度にはハイテンションだった。いつの間にやら取り出した扇子をゴミのように投げ捨てるや、超人的膂力でもって空へ舞う。彼は建物よりも高く飛び、そのまま大上段から刃を振りかぶった。さっきから本当にどこから出してるんだとツッコみたくなるほど唐突に手にした、ザングラソードの一閃がシルヴェールに迫る。だが、彼女はそれをたやすく受け流した。

 二人の攻撃はどちらも敵にあたることはなく、お互いの武器の間で火花を散らす。

 

 

「ちょっ、置いてかないでよ!」

 

 

 そのシルヴェールへと繋がれるは一筋の突き。音を置き去りにして放たれたそれから、シルヴェールは咄嗟に距離を置いた。見ればタロウの隣に、青い髪の少女が一人。

 彼の剣の腕もさることながら、あの少女もまた良いレイピアの使い手だ。つくづく悪人なのが惜しい。

 

 シルヴェールは愛剣たる自らの武器を__サーペントファングを構え、そう考え……さらに思考を移していく。

 敵との距離は十メートル程度、剣の間合いではない……だが、この剣であれば。

 

 我が愛剣サーペントファングならば__間合いなどないも同然!

 

 

「__フッ!」

 

 

 跳躍、同時に放たれた斬撃が瓦屋根をバリバリと食い破った。

 シルヴェールの放つ斬撃は嵐というには美しく、踊りというにはあまりにも早く荒々しい。あまりの速度ゆえに音をも姿をも置き去りにした、死の踊り(ダンス・マカブル)。レオーネはその攻撃をはじきつつ、額に汗を垂らした。

 

 

 __この人、強い!

 

 

 魔物ハンターと名乗るからこそ、その名を誇示するだけの実力があるのだと、レオーネは理解した。迫る攻撃のそのどれもが、まともに食らえば必死の一撃。嵐のような斬撃の合間を縫って放たれる弾丸は、そのどれもがレオーネとタロウの中心を打ち抜こうとしている。それをなんとか弾き、または避けていると、全く反撃することができない。

 

 レオーネからは、サーペントファングがどのように攻撃を放っているかは見えていない。

 彼女の眼には、手を振るうシルヴェールによって風が巻き起こっているように見えていた。

 

 剣圧を飛ばす攻撃__その技を極め、滝をも両断した騎士が、エルアラドにはかつていたというが……まさか目の前の彼女も、それと同じ攻撃を繰り出すというのか?

 

 

「ッ……だったら、見様見真似だ!」

 

 

 ふわり、と彼女の衣服が浮かんだ。その端々からほとばしるは虹色の光、エデンズエナジーの輝き。レイピアに収束するその輝きを、レオーネは突きとともに解き放つ。

 

 

「ハアアアァァァッ!!!」

 

 

 放たれるは乾坤一擲、蒼に染まった正義の一突き(ジャスティス・ペネトレーション)

 風を破り、剣は一筋の槍のようになってシルヴェールへと迫った。だが__

 

 

「甘いね」

 

 

 シルヴェールはその攻撃を、いともたやすく弾いてしまった。

 ただ弾かれたのではない。レオーネはその時、自らの得物(レイピア)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 驚愕に顔をゆがめるレオーネがレイピアを弾き飛ばされる、その直後。彼女の瞳に映ったのは、シルヴェールの剣に宿る微かな輝き。赤黒い血のような、しかし確かに()()()()()()()__

 

 

「エデンズ、エナジー__⁉」

「……えっ?」

 

 

 シルヴェールとレオーネ、二人の表情が固まったのはその直後。

 再びサーペントファングが刃を開き、敵対者へと向かう、その時であった。

 

 エデンズエナジーとは異なる輝きが、後方に飛ばされたレオーネの、そのすぐ隣でゆらりと揺れた。それが無防備なレオーネを狙う疾風とぶつかり合う。

 

 

「ッ⁉」

「なるほどな! 種はわかったぞッ!」

 

 

 風とぶつかり合った、ように見えたのだ。

 しかし、違った。ザングラソードがとらえたのは、風ではない__紛うことなき、剣。

 

 幾重にも刃の分かれた、サーペントファングの切っ先、それが風の正体だった!

 

 

「蛇腹剣⁉」

「俺も使ったことはあるが……嵐のように武器を操るとはな! 面白い! アンタ、なかなかの使い手だな!」

 

 

 呵々大笑、「四十五点をくれてやる!」の一言。

 しかして、彼は「だが」と言い放つや__

 

 

「__俺のほうが、一枚上手だ」

 

 

 サーペントファングに弾かれると同時に、タロウはザングラソードの柄を、ギアディスクを一回転させた。すでにトリガーを引き絞っていたザングラソードはエネルギーを一気に放出。虹色のレインボーフラッシュを解き放つや、その刀身がギラリと輝き……

 

 

秘技__!

 

 

「受け止めてみろッ!」

「ッ⁉」

 

 

 

__気合ッ!

 

 

 

 風と、虹光を伴った斬撃が、今__

 

 

 

__異才ッ!!

 

 

 

 狩人の蛇剣を、打ち砕く!!

 

 

 

__イアイ斬ッ!!!

 

 

 

 ガイイィィンッ!!!

 

 

 鍔ぜりあった二つの刃が轟音を上げた。二者は吹き飛び、大きく距離が開く。

 相打ち……否、ドンモモタロウのほうは微塵も武器を揺らがせず、ザングラソードを構えたまま立ち上がっている。対するシルヴェールは手を震わせながら、滑り落ちそうになるサーペントファングを何とか握りしめていた。

 

 ふと見れば、彼女の頭から帽子が滑り落ちる。その特徴的な灰色の髪と、赤と青のオッドアイが明るみになった。

 ザングラソードの放ったエネルギーの余波は、シルヴェールの全身を電撃のように行き渡り、そのまま痺れさせてしまっていたのだ。その痺れが少しの間をおいて抜けた後、彼女は足元に落ちたテンガロンハットを手に取り、埃を払って再び被った。

 

 その間において、タロウもレオーネも、彼女を攻撃することはなかった。

 

 シルヴェールは微かに笑みを浮かべ、タロウを見た。

 

 

「……なかなかやるね。本当、悪人なのが惜しいくらいだ」

「アンタもな。だが、アンタの認識には一つ間違いがある。俺は俺だ、悪人ではない」

 

 

 そしてタロウは「アンタと俺達には、大きな誤解があるらしい」と告げつつ、こうも言った。

 

 

「アンタも、エデンズリッターという奴だろう。さっきの攻撃の時、アンタの剣が虹色になったのが一瞬だけ見えた。アレは俺の知る限り、リッターが力を使うときにだけ出るものだ」

「気づいてたんだ、タロウ」

「俺の目はいかなるものも見逃さない。アンタもリッターなら、やはり縁があるな! 俺もリッターの知り合いは多い。それならアンタも、俺のオトモだ」

「知り合い……それって、追いかけられたりして戦ってるからじゃなくて?」

 

 

 タロウは「違う!」と首を振った。

 

 

「敵などではない。ここにいるレオーネも、リッターだ」

「そうだよ。ボクは変身できないけど……アウローラ様を守るナイト級のリッターさ。こいつの、オトモっていうのは、違うけどね!」

「……ふうん。そうか。リッターなら、確かに悪人じゃないのかもね」

 

 

 エデンズリッターは禁忌の力。しかしその本質は、神に選ばれた敬虔なる使徒にして、戦士。彼女らのその身に宿った力は、貫き通す信念のためにこそ存在する。その信念が強く、誰かのためにあればこそ__エデンズリッターは悪ではないのだ。

 故にこそ、エデンズリッターであることは無条件で人の味方である、と捉えても良いだろう。

 

 それに。

 

 

「君たちは、私が帽子を拾うまで待っていてくれた。私は、()()()()()()()()()()()というのに……ね。だけど、そこを攻めてこなかった。なら、確かに君たちは騎士道精神に溢れる戦士なんだろう。すまなかった。私のほうが、誤解していたようだね」

 

 

 シルヴェールは静かに謝り「しかしそれなら」と改めて二人に問いかけた。

 

 

「どうして、あの路地裏で、猫の獣人と一緒にいたんだい? 私は最近、影のような男がスラムの道を出入りしているという話を聞いて、あの辺りをうろついていたんだけど……あのローブの彼女は、何をしていたんだい?」

「えっと、それは……」

 

 

 埒が明かないし、話せるところだけ話してしまおう。

 彼女は、シルヴェールは信用のおける人間のようだし……

 そう考え、レオーネは彼女にこれまでの事情を説明しようとした。

 

 

 __ちょうど、その時であった。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 誰かが叫んだ気がした。

 しかし、その声を聞くよりも早く、三人は散会してその攻撃を避けていた。一泊の間をおいて、先ほどまで立っていた場所を、建物を粉砕せしめたのは一筋の雷。

 轟音は地をも揺るがし、大地とその上の石畳の道路を吹き飛ばしながら風をまき散らした。

 その衝撃は、人々に恐怖と混乱をもたらすのには十分すぎるほどに十分で。

 

 そしてまた、足場を砕かれたタロウたちは、逃げ惑う人々の波に乗り込むように、地面に落下していた。

 

 

「うわあああああっ⁉」

「口を閉じろ、舌を噛むぞ!」

 

 

 そんなこと言ったって! しかし言い返したところでどうにもならないのはわかっていたので、レオーネは口を閉じ、迫る地面を目に焼き付けた。

 瞬間、世界がひっくり返って……レオーネとタロウは、無事に石畳の上に着地していた。

 その隣にコツッと音が響けば、それはシルヴェールのヒールブーツのもので。

 

 

「どうやら、三人とも無事のようだね」

「そのようだな! しかし、話の最中に腰を折るとは無粋な奴だ。いったい誰だ、姿を見せろ!」

 

 

 いや、殺されるかもしれなかったのに無粋とかなんだとか、言ってる場合? ツッコミたかったがやはり黙るレオーネであった。なぜなら、タロウが巻き上がっている煙に対して言ったセリフに応えるかのように「ガシャリ」と音が響いたのだから。

 

 白い煙の中に黒い影が生まれた。それが、鎧をうならせながらこちらに迫ってくる。

 そして白い煙が晴れると同時、その姿の全貌が明らかになった。

 

 血のように真っ赤な体。その上に、()()は黒い鎧をまとっていた。そのさらに上には、白い線が何重にも入った青い結晶が宿っている。レオーネとシルヴェールは知る由もないが、それはまるで電子回路のような様子で、表面には時折エネルギーの光が走る。

 その輝かしくもまがまがしい、人の技術が結晶()()()()()()()鎧こそが、この鬼の姿を形作るDZ(デンジ)メカ8022型であるとは、やはりこの場にいる二人は知る由もないだろう。

 

 だが、この青い鎧をまとった化け物の正体だけは、レオーネも知っていた。

 

 

「ッ……ヒトツ鬼!」

 

 

 ヒトツ鬼……そう名を呼ばれた怪物は、レオーネのほうに目を向けるや、鎧の奥の瞳をギラリと輝かせた。

 そして、次の瞬間__

 

 

「ニャアアアアアアガアアアアアッ!!!!!」

 

 

 絶叫を上げ、吠えた。苦悶の色を強く残す、獅子のごとき雄たけび。

 それが放たれた途端、周囲のすべてを焼き尽くさんとするほどの超電撃が四方八方へと飛び散っていく。電撃は周囲のすべてを焼き尽くし、レオーネたちにも迫った。しかしタロウがビュンと剣をふるって、電撃を散らす。

 先ほどの咆哮の声は、もしや。

 

 

「ミャーマーオ、ヒトツ鬼に取りつかれたか」

「え? そうなの⁉ な、なんで⁉」

「わからん。だが何があろうと、俺はやつを元に戻すだけだ。話の腰は折られたが、飛び入り参加は歓迎だッ!」

 

 

 ブンッ! とザングラソードを振りかぶる。そしてその切っ先をミャーマーオに、ヒトツ鬼に向けた。

 

 

「さぁ、お前の技を見せてみろ……派手に踊るぞ!」

 

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

☆ステータス №6☆

 

 なまえ :シルヴェール 

 ジョブ :いんまハンター 

 せいべつ:おんな

 レベル :23

 

 タイプ :ブレイド

 ぞくせい:じゃこく

 レア  :☆☆☆☆☆

 

*そうび*

 あたま :かりうどのぼうし

 どうたい:かりうどのいしょう

 ぶき  :じゃりょうけんサーペントファング

 みぎめ :あかきヘテロクロミア

 せいこん:とっき

 

*しょうごう*

 じんまのかりゅうど

 かりをまっとうせよ

 

*かいせつ*

・テンガロン アンド ブラックコート。 とけいとうとは ひとちがい。

 せいぼじゃなさげな かりゅうどさん。 あかめは あんまり みないであげて。

 

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