桃井タロウは楽園行き 作:トナカイ
*ケツイを チカラに かえるんだ……
鹿肉定食さん、誤字報告ありがとうございます!
「UGAOOOOOOMMMM!!!」
おぞましい悲鳴のような叫びは、ドンモモタロウめがけ、突進とともに放たれた。
火の神の名を賜ったヴァルカンワームのその突撃は、まるで灼熱の砲弾のように真っすぐと飛んでいく。速度にして八〇キロ毎時と言ったところか。一瞬の瞬発力ならば、一二〇はくだらないかもしれない。
「__甘いなッ!」
それを、ドンモモタロウは巧みにかわす。かわしながら、返す刀でザングラソードの刃がひらめく。すれ違いざまの斬撃が、ヴァルカンワームの皮膚を食い破っていく。その光景はザングラソードのすさまじい切れ味が、いったい如何ほどのものかを十全に示しあげた。
ヴァルカンワームは悲鳴を上げる。だが、諦めることはなく(そもそも渦虫のためそんなことは考えないが)タロウに突進。その赤い体を血で染めて消化してしまおうと、大口を開け__『HEY!』
「もういっちょお!」
『__HEY! カモーンッ!!』
ほんの一瞬。そう、ほんの一瞬だけ、風に混じるようにそのいなせな音楽は響き渡った。きっと耳の錯覚だと、そう思ってしまうほどに一瞬だけ。
貯められた技のエネルギーはそれ故にほんの少しだが、それでも。ドンモモタロウはただ、己の圧倒的膂力のままに、それを真っすぐに__
「ザングラソード__」
『必殺奥義ィ__』
「__快桃乱麻ァ!」
__振り下ろした!
「__UGIIIIIOOOOOOOOOMMMM!?!?」
『__アバ!
タロ!
斬ッ__!』
その攻撃は、ヴァルカンワームの下あごから……その体の付け根までを切り裂くのみだった。ヴァルカンワームはドンモモタロウの放つ圧倒的威圧を前に、思わず攻撃を避けようとしたのだ。しかし、波のように刃を光らせたザングラソードの一撃は、ヴァルカンワームの体を再び食い破るのには充分であった。
避けたのは確かに紙一重であったが……ドンモモタロウの攻撃は、確かにヴァルカンワームに致命傷を与えていた。そのはず、だったが……
「GAOOOOMM……!!」
「ッ……あいつ、起き上がった!」
「随分とタフだね、彼」
ヴァルカンワームは再び立ち上がり、強く、強く吠えて見せた。
灼熱色に大気が奮い立つような、そんな錯覚を覚えるほどの咆哮である。それはダメージを負った生物がやすやすと放てるようなものではなく。見れば、奴の体に刻み込まれたはずの斬撃痕は、ほとんどなくなっていて、それどころか目に見えて消えてしまう有様だった。
「なるほど、回復能力……なんて厄介な」
「ハッハッハッ! どうした、来ないのか? お前の突撃の威力をもう一度見せてみろ!」
「今挑発しないでよ! ……どうしよう、早くさっきの鬼を倒さないといけないのに」
ミャーマーオは、大丈夫だろうか。
鬼に取りつかれたミャーマーオは、どこかへ行ってしまって、それからもうだいぶ時間が経過している。どこかでその雷の餌食になっている人間がいるかもしれない。それに、彼女も、そんなことを望んでいるわけではないはずだし……
早く倒さなくては、と焦るレオーネ。だが、変身もできず、ただ得物のレイピアを振り回すことしかできない彼女に、目の前の、大蛇のごとき化け物を倒しきる力はない。
もしもここに、アウローラ先輩がいたなら。先輩なら、きっとすぐにこいつを倒せるのに……!
(……ダメだ。ダメだダメだ。ボクはいつもそうだ。あの時も……
思えばあの時も、ヴァルカンワームと戦った。力及ばず、敗れ、半身を食い破られて……負けた。
あの後のことは知らないけれど、アウローラがこちらに来ているということは、彼女も、そしてスラフニール魔法王国も滅びたのだろう。
そんなことになったのは……覚醒してなお変身できぬほど未熟な、自分のせいだ。そうレオーネは思っていた。
それだけが全ての理由ではないとわかってはいても、そう思わざるを得ないほどに、彼女は力を欲していた。
……その力とは。何かといえば、アウローラ先輩のような、あの輝かしい力。月夜にも極光を打ち立てる、暁色のあの光__
(もしもアウローラ先輩なら、どうするだろう)
こんな時、彼女なら。彼女ならどう動くだろうか。
「先輩、なら……」
その思考が、口をついて出たとき。
ヴァルカンワームと睨みあっていたタロウが、ふと、彼女のほうを見た。
「な、なに?」
「お前、迷っているな?」
「ッ! ま、迷って、なんか……」
いや、迷ってる。何をすればいいのか、わからないから。
言い淀み、しかしそれでも「こいつにだけは弱みを見せたくない!」と思って、言い返そうとして「迷うなァ!」
「うひぃ⁉」
「おおう。ど、どうしたんだい?」
「ハッハッハッ! 迷ってばかりでは道は開けない! お前が慕うアウローラは、即断即決だった! なら、アンタもそうあるべきなんじゃないのか」
「……! で、でもボクは、先輩みたく強くも」
「そうだな、強くはない! せいぜいが三十五点だ!」
「ハァ⁉」
なんっだそのひっくい点数は⁉
「だが、信念は強いッ!!」
レオーネは反論しようとして、しかしさえぎられてしまった。タロウは続ける。
「アンタの信念は、奴に勝るとも劣らん。奴が槍なら、あんたは
「む、無茶言うな! アウローラ先輩とボクじゃ、天と地ほど実力の差があるんだよ⁉」
「あの虫を倒せとは言わん。だが……できることがあるはずだ」
そう言われて、レオーネは初めてハッとした。そうだ。倒さなくとも、できることはある。それはきっと、アウローラ先輩も言うことじゃないか。あの人なら、今のボクのように倒せない敵を前にしても……何か、自分にできることをするはずだ。信頼する彼女なら、自らを盾にすることだって、いとわない。
タロウはザングラソードをヴァルカンワームに向けていた。
どうやら奴は、タロウにおびえているらしい。痛みを覚えたからだろうか?
レオーネはそれを見て。そして、タロウに言われたことを、反芻して。それから小さな声で、言うのだった。
「……わかった」
彼女はレイピアを鞘に戻す。それから、タロウとシルヴェールの肩を叩いた。
「二人とも。ボクの作戦……聞いてくれる?」
♢ ♢ ♢
「デンジィ__スパァァァーーークゥッ!!!!!」
バッ__ジジ、ジジジジジィッ!!!!!
青白い雷光が、あたり一帯に満ち満ちる。空気を切り裂き、闇を切り開き。曇り始めた空の下、地面を縦横無尽に穿つ。その有様はいくつもの頭を持つ蛇のよう。その一つ一つ、もたげられた鎌首は、光の速さを伴って地面の上にいる人々に向かっていく。
聖騎士たちに、彼女らの守る人々に。ケンタウロスの騎士と、淫魔のメイドに。二人の守る、黒衣の賢者に。
__そして、魔司教ルドルフと……彼の操る淫魔どもへと。
「ぐぎゃああああああ⁉」
「だ、だずけ、うあああああああ⁉」
瞬く間に淫魔どもを駆逐した、デンジスパークの輝き。残っているのは防御魔法で電撃を撃ち消したルドルフと、イーシャたちと戦うゼノオーガ=ギガロスのみ。オークも、ゼノアーマーも、まとめてすべて消し去られた。
「なんなの、あいつ……! さっきからずっと、敵も味方もお構いなしだよ⁉」
先ほどこの通りに入り込んで、すでに数分が経過している。
電子鬼の放ったおかまいなしの超電撃で、この場の多くの建物が崩れ去った。その渦中から逃げ出した、孤児院の子供たちや、スラムの人々が、シグルドの後ろにいる。
そして、彼らを守りつつ電子鬼と戦っていたところに、ルドルフと淫魔の群れが追いつき。
ルドルフが、これ幸いとばかりに、高らかに、電子鬼に命令を下したのだ。
『これはいい……足手まといに囲まれているな、シグルド・アスフォディル! まとめて消し炭にしてしまえ、ヒトツ鬼よ!!』
その命令が、果たして彼女の逆鱗に触れたのかはわからない。だが、電子鬼の目には確かに怒りの色が浮かび、それが爆裂するかの如く、超電撃を放ち始めたのだ。
そしてそれが三度襲ったころ__つまり今、敵の手勢たるオークどもは完全に消し炭と化していた。
(計算違いだったようだな、ルドルフ……あいつは何らかの方法で、ヒトツ鬼を生み出したのだろうが)
シグルドは、タロウからある程度ヒトツ鬼の情報を聞いていた。だから、アレの制御ができないことも知っていたのだった。
ルクセリアの一件よりも前……大侵攻の次の日、つまり初めてヒトツ鬼(五星鬼というらしい)を見た後に、聞いたのだ。奴が、いったい何者なのかを。
『あれはなんだったんだ? 淫魔ではないようだが……』
『あれはヒトツ鬼だ。強い願いを持つある種の人間に取りつくモンスター。奴らはこの世界にはない力を持ち、その力によって自分の願いを叶えようとする』
『……叶えるだけなのか?』
『そうだ。だが、その過程で多くの人間が消え、殺される危険性がある。放置しておけば危うい。だが、ただ倒すだけでは、依り代となった人間も死んでしまう』
タロウは言った。依り代となった人間は欲望こそ強いが、多くの場合問題があるわけではないのだと。彼らはもともと持っている強い欲望や、またその時に生まれた大きな願いを叶えたいと思うだけなのだと。それに目をつけ、暴れようとするヒトツ鬼によって、彼らは利用されてしまう。
「あれは自然発生の存在だとも言ってたな。なら、どうやって生み出す方法を突き止めたんだ……? 奴に、それを調べる手段はないはずだが」
少なくとも、そのほとんどを自分が担っていたのだから。奴が、ルドルフが新たな手駒を開発するということはないはずだ。それとも、自分ともルクセリアとも違う、新しい手駒を得たのか?
「賢者様! 賢者様っ!」
思考の沼に沈みかけたシグルドの意識を、現実に引き戻したのはそんな呼び声だった。
ついでに肩を大いに揺さぶられた。ぐわんぐわんと頭が揺れる。
「大丈夫ですか⁉ お怪我はされていませんかっ⁉」
「……怪我はしてないけど吐きそう」
「そうですか⁉ ああ、でも私、今エチケット袋は持ってなくて!」
「それなら私が持ってるわ、ルン!」
「さっすが妹! はい、賢者様、どうぞ!」
差し出されたエチケット袋を見て「いらない」とか「いや、今戦ってるんだが……」とかいろいろツッコミが沸き上がるシグルドだったが、自分も人のことを言えないのに気付いて、何も言わず受け取っておいた。
とにもかくにも、電子鬼の攻撃がやんでいる。なら、今のうちに、後ろの人々を避難させなくては。
「ルンシャット、シャンシャット」
「はい!」「どうされましたか?」
「彼らを、頼めるか? ここは私たちが引き受ける」
その言葉に、ルンシャットもシャンシャットも、若干不安げな表情を浮かべた。
本当に大丈夫なのだろうか、と……そう疑っていた。それにシグルドは気づいて、努めて笑顔を浮かべ、告げる。
「大丈夫だ。策もある。なんとかして見せる。だから、頼むぞ」
「っ……は、はい!」
二人はうなづき、人々を連れて逃げていく。「賢者様、ご武運を!」
シャンシャットの激励。うなづき、シグルドは自らの
境界門ネメシス。腰掛のバッグに入った、いくつかのエデンズマテリアル。それの、純正からの
呼び出す者は決まっている。彼らの……アウローラの、レオーネの、イーシャの知る……最後のエデンズリッター。
「スゥ__ハッ……よし…………宛転たる響音は」
魔力を込め。輝き、シグルドの手から離れ、回転を始める境界門を見て。一息に……その長い詠唱を告げる__寸前。
ヒュッ__
「車輪の如く世を____ッ⁉」
ドッ……
「ゥグッ……ガッ……ァ⁉」
「っ⁉ ご主人様⁉」
イルヴィナの悲鳴が響いた。シグルドの胸元に……黒い短剣が。短剣のような形となった触手が、突き刺さっている。シグルドは血を吐き、くず折れた。視界の端で、ルドルフが笑っているのが見えた。
「クク……予定は崩れたが、ようやく仕留めたぞ……! よくやった、ゼノシャドウッ!」
シグルドのすぐ目の前。曇り空によって生み出された薄い影の中に、青い光が灯る。猫の目のように光るそれは、魚のように鋭利な体のゼノモンスの、獲物を刈り取る目だった。
まだ、手駒がいたのかと……シグルドは声を出せぬままに、ソレを、ゼノシャドウをにらみつける。
「賢者! 今助けに「おっとぉ!」__ッ⁉」
駆けだそうとしたイーシャに、ゼノシャドウが下卑た笑みを浮かべ、振り向いた。
その細く、しかし人一人を鷲掴みにするには十分な手には、シグルドの細い体があった。握りしめれば、彼女は面白いように泣き叫ぶ。
「ぐっ、あ、あああああああ⁉」
「こいつがどうなってもいいらしいなぁ……この聖遺物さえいただけりゃあ、こいつがどうなろうと知ったこっちゃねえんだぜ、こちとらよぉ!」
シグルドをつかむ手とは逆のほう、そこに、シグルドが落とした境界門があった。ゼノシャドウは高らかに掲げる。そして、刃のような触手を、右手の付け根にあてがった。
「ッ、ひ、卑怯だぞ!」
「卑怯結構! そいつが淫魔の本懐って奴よぉ! いい気分だぜ、自分たちの有利がひっくり返されて、慌てる馬鹿どもの顔を見るのはよぉッ!!」
ゼノシャドウの刃が、手に食い込む。
「ご主人様ッ! や、やめてください! 貴方達が欲しいのは、その境界門だけじゃないんですか⁉」
「言っているだろう、先ほどから。低能の夢魔よ。我々が欲しいのは境界門、そしてそこの裏切り者の命だ……! 本来ならば神の怒りとともに消し炭に変えてやるはずだったがな……気が変わった。ゼノシャドウ、その女を端から刻み上げてしまえ!」
その言葉に顔面蒼白となったのは、イーシャとイルヴィナだった。二人はゼノシャドウに武器を向けるが、そこにゼノオーガが立ちふさがる。振り下ろされた棍棒を、かろうじて避ける。
「邪魔ですよぅ!」
「てめぇらも、そこの女みてぇにすり潰してやるよぉ!」
こん棒が振り下ろされる。爆音とともに、粉塵があたり一帯に舞い散った。
シグルドは麻痺した体と、
最悪の事態を想定した。きっとあの粉塵の下には、二人の無残な躯が眠っているのだと、そう思ってしまった。そう考えた瞬間、絶望を象徴するような黒雲が、心の中を支配して……
♢ ♢ ♢
「ギ……ギャアアアアアアアアッ!!!!????」
だからだろう。
その悲鳴が一体だれのものなのか。
シグルドはすぐに気づかなかった。
赤い血の合間を縫って、その赤い影が飛んでいるのにも。その影は、赤い鋼の小さな魔人は……六五〇馬力と一〇〇キロメートル毎時のスピードでもって__ゼノオーガの体を、曇り切った大空へとかちあげたのにも。
「グガッ……⁉ ゲウッ、なんだっ、今のはぁ⁉」
吠えるゼノオーガの後ろで、「グゲェ」と悲鳴が。
見れば、女を人質に取っていたゼノシャドウが、顔面を抑えて地面に押し付けられている。シグルドはなぜだかふわりと浮いていて、その体はくるくると回転しながら、イルヴィナたちのもとへ放り投げられた。
「うわっ、とと、とっ……ご、ご主人様! ご無事、ご無事ですか⁉」
「…………っ、イルヴィナ……」
「はい、はい! イルヴィナですよ、ご主人様!」
イルヴィナは言いながら「あ、お薬です!」と、飲み薬をシグルドの口に突っ込んだ。
ゲロ不味い味が口内を刺激して、シグルドは麻痺から回復した。それは、シグルドがイルヴィナとイーシャに渡した、手製の回復薬だった。朦朧としていた意識が一瞬で戻り、シグルドは思いっきり顔をしかめて「ゲホッ⁉」とそれを吐き出した。
「うえ、うげっ……ま、まずい……」
「やっぱりまずいんじゃないですかぁ!」
でもそれで起きたので、結果オーライだ。
一方ゼノオーガとゼノシャドウは、自分たちを攻撃した何者かを必死に探していた。ゼノオーガは鼻血を振りながら、怒りの咆哮を上げて叫んでいる。
「くそっ、なんだ、なんださっきのはァッ!!!」
……その問いに、答えるわけではなかったのだろうが。
しかしタイミングのいいことに、その声は、その笑い声は__
「__はっはっは!」
__響き渡ったのだ。
「わーっはっはっは! わーっはっはっは!
やあやあやあ! 祭りだ祭りだァ!」
その笑い声に、全員の目線が集中する。
ただ一点に向けられたそこには、真っ赤な真っ赤な神輿が一つ。六人の益荒男が担ぎ上げる神輿は、金色の波の中を渡る船のように上下左右に揺らされる。その上の、エンヤライドンのさらに上で笑う伊達男は「わっはっは!」と呵々大笑。扇子片手に高笑い、そこに振りまくは天女の紙吹雪。
やっぱりものすごく状況の雰囲気に合っていない。敵も味方も呆然として、それさえも笑い飛ばす高笑い。
誰よりも高みにあるその神様は__誰よりも力強く、この場を支配するように、笑う、笑う、笑う!
「袖振り合うも多少の縁__この世は楽園!
悩みなんざ、吹っ飛ばせッ! 笑え笑え、わーはっはっは!!」
彼こそは「この世は楽園」と豪語する、真っ赤な
「でやがったなぁ! ドンモモタロウッ!」
そう、ドンモモタロウに他ならない!
「……バカな、なぜここに⁉」
その姿を見て、ルドルフは誰にも聞こえないようなつぶやきを漏らした。
奴は確かに、足止めしていたはずなのだ。電子鬼を倒させないよう、最強の駒であったヴァルカンワームを使用してまで。
そのヴァルカンワームは、シグルドの残していた魔法陣三つを全てつなぎ合わせ、破損を承知で召喚した存在。召喚の折に刻み付けた契約のリンクも残っている。ヴァルカンワームが生きていることも、それでわかった。
であればなぜ……ドンモモタロウはここにいるのだ⁉
♢ ♢ ♢
「タロウ。君は、さっきのヒトツ鬼を追ってよ」
レオーネがそう言ったので、タロウは「わかった」と言って、エンヤライドンを呼び出し、それに乗って走り去ろうとした。ので、レオーネは慌てて彼を止めた。襟のあたりをぐいと引っ張った。自分が倒れた。
「待ってよ⁉ おかしくない⁉ こういう時ってさ、なんでそうするんだ? とか、お前たちはどうするんだ? とか聞くもんじゃないの⁉」
「何を言っている。一々理由などを求めなくてもいいだろう。すべきことは今この状況が教えてくれる。それに、お前は何か策があって俺に命令を下したのだろう。なら、俺はただそれに従うまでだ」
「いや……うっ、まあ、正しい、けど。それは確かに正しいんだけど! ちゃんと説明して、互いに理解がないとダメじゃん! シルヴェールもそう思うでしょ⁉」
「……まあ、確かにそうだね」
シルヴェールは苦笑気味にそう言った。「そういうものか」とタロウはエンヤライドンから降りて、レオーネに改めて問いかける。
「では、なぜ俺をミャーマーオのもとに向かわせようとする? お前たちは二人でどうするつもりだ?」
「君じゃないと、ヒトツ鬼になった人は元に戻せないんでしょ? 賢者様から聞いたよ。もしヒトツ鬼が出たら、たぶんそこにドンモモタロウがいるはずだから、頼れって」
「そうか、聞いていたのか。なら、奴をどう倒すつもりだ?」
ヴァルカンワームを見て、タロウは言う。
レオーネは迷わず答えを返した。
「ボクたちで止めるよ。この一角だけとはいえ、被害が広がってるんだ、多分エルアラド側の援軍も、そろそろ来るはずだし……それまで耐えて見せる」
言いながらシルヴェールを見て「それでいい?」と問いかける。彼女だけは、この一件にも、あのヴァルカンワームを召喚したであろう男とも、関係がない。彼女はおそらくだが、騎士団の依頼を受けただけの人間なのだ。ここまでともに戦ってくれてはいるけれど、本当はそんな義理など、ないはずなのだ。
だから「今なら、離脱して逃げることもできるよ?」と伝えるつもりで、レオーネは彼女に問いかけた。
それに対して、シルヴェールは薄く笑って、それから片手を腰に据え……
「もちろん……乗り掛かった舟、だしね」
言うや、一丁の銃を、そこから引き抜いた。純白の銃身を誇りとした、美しき聖なる銃であった。その在り様は、サーペントファングとは対照的。あちらを彼女の魔の側とするなら、この銃は人としての側なのだろう。
見た瞬間に、レオーネはそう思った。
「……いいの? 一緒に戦ってくれるの?」
「ああ。私の好きにさせてもらえるようだからね。このまま君一人だけに任せるわけにはいかないし」
彼女は笑い、続ける。
「このままアレを放置すれば、町にいる大勢の人間が死ぬ。それを防ぐためなら、私の命なんて安いものさ。君の命だって、何物にも代えがたいもの……だったら、何を優先させるかは、考えるまでもないよ」
彼女は銃を掲げ「そういうわけだから」とレオーネを見た。レオーネは大きくうなづいて、それからまた、タロウを見た。
「だからさ……君には、ボクの代わりに、ミャーマーオを助けてほしいんだ。ボクの代わりに……ミャーマーオを、君が捕らえてほしいんだ」
その剣で。ザングラソードの刃ならば、彼女を救うことができるから。
「アンタと俺の勝負、それを放棄するわけだな」
「そうだよ。ものすっごく嫌だけど、君に負けるなんてハッキリ言ってごめんだけど……でも、ボクはアウローラ先輩の一番弟子だから。アウローラ先輩と同じ……ボクは、ボクは自由騎士だから! だったら、その名に恥じないように、たとえ相手が盗賊でも……その命を救いたいって思うんだ! だから君に託す。ボクにできないことをできる君に。今、ミャーマーオを助けられる君に!」
だから、頼める? とレオーネは問いかけた。
ドンモモタロウはいつもよりも、変身する前の桃井タロウの時よりも静かに、しばし押し黙る。
しかしすぐに……笑った。
「はっはっは! わーはっはっはっは!」
ひとしきり、高く高く笑って、それから言う。
「面白いッ!」
言うが早いか、彼はすぐさまエンヤライドンに飛び乗った。
エンジンが吹き荒れ、爆音があたりに響く。その音よりもはるかに大きな大音声をのどから鳴らして、彼は告げる。
「いいぞ、いい心がけだ! 七十五点は難くないッ!! いいだろう、お前に後を任せるぞ、レオーネ!」
「やっぱり君ってどこまで行っても上から目線なんだ……こっちが頼んで、発案者なんだからね! ……あと、任せたよ!」
タロウはそれに大きな声で答え、そのままエンヤライドンを走らせた。Uターンの後、彼の姿は路地裏に消え、見えなくなる。その姿を見送り、そして改めて、レオーネは敵に目を向けた。
「GAAAAAAOOOOOOOOOOOMMMM!!!」
ドンモモタロウがいなくなった影響だろう。自らをいたぶった恐るべき強敵の存在が消えたのを見て、ヴァルカンワームは高らかな咆哮をあげた。
ああ、それを聞くとイライラする。アイツにはおびえてるのに、自分にも、シルヴェールにもおびえていない。アイツだけ、アイツだけだ。
思えば、
賢者様に、イルヴィナ。それにクレセアと、タロウ。他にもいろんな、この世界の知り合いの話ばかり。三週間早く来ただけなのに、あの人は日々会った人の話ばかりを自分にして、あまり……ボクたちを見てくれなかった。
なんだかそれが、妙にもやもやしたものだ。
「……あ、そっか」
それで、気づいた。
そうか。きっと、そうだったのだ。
アウローラ先輩と、死んだ後も会えたのに。賢者様に呼ばれたおかげで、もう一度出会うことができたのに……こっちを見てくれなかったから。だから自分は、少し気が立っていたのだと。
それでタロウに決闘を挑んだり、別になんでもないこと……ああいや、オトモ呼ばわりは今でもムカついてるけど……とにかく、普段なら冷静に対処できることにも、怒ることがあったのだ。
そうして冷静になって、自分と向き合うことができたきっかけが、桃井タロウ……一番に目を付けたこの世界のライバルとは、何ともおかしな縁であるが……
「よっし。ここからは……いつもみたいに戦えそうだ」
パチン! 頬を叩き気合一発。シルヴェールの隣でレイピアを振るう。
それを見たシルヴェールが目を細めるのを見て、少し赤くなりながらも……レオーネは声高らかに告げた。
「__ボクこそは、アウローラ様の一番の騎士、レオーネ・ファズール! ……さぁ、ヴァルカンワームよ! ボクが……ボクたちが相手になろう!」
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*(ももいタロウの げきれいを うけて
ケツイが みなぎった)
*コマンド*
FIGHT ←
ACT
ITEM
MERCY