桃井タロウは楽園行き   作:トナカイ

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賢者の悩み

 

 

 

 

 

 賢者がセシリィの部屋に行っている間、タロウは兵舎の訓練場にいた。

 

 王城のすぐ真横にある、郊外の訓練場。天蓋は濃い青に覆われていて、白い雲が時折通り過ぎていく。正しく、天晴れな快晴であった。

 お昼が過ぎ、太陽ももう少し時間がたてば空を赤く染めるであろう時間帯である。

 昼食を取り終え、個々で警備等の持ち場を交換する兵士たちがいる中、今から休み、という兵士も多く見られた。休みといえど、その多くは来るべき時のために強くあるべく、自らに修練を課し、この訓練場で体を鍛えるものなのであるが。淫魔相手の攻防戦が毎日であるこのエルアラドでは、そうして鍛えることは、明日を生きることにつながる。

 そうしてエルアラドの軍は、はるか東方の軍事国家、ガルベリアに次ぐ戦力を得ているのだ。

 

 さて、そんな訓練場にあって、タロウは何故か模擬戦用の武器を手にしていた。素朴な木刀である。が、しっかり手入れされたその武器の威力は、鍛えられた兵士が振るえば相手の骨を砕くこともできるだろう。それを肩に担ぎ、タロウは今、二人の騎士を相手にしていた。

 

 セシリィの部屋の前まで案内してくれた、姉妹騎士である。

 よく似た顔立ちで、普段から快活そうな笑みを浮かべる彼女らは、今回ばかりは額に汗を浮かべ、非常に緊張した面持ちをタロウに向けていた。

 タロウはいつもの邪気のない笑みを姉妹に向けて、言い放つ。

 

 

「どうした! もう息が上がっているのか? その程度では、四十五点には及ばんッ!」

「むう、厳しい採点ッ……!」

「ですがっ! ここからのコンビネーションで、百点満点をたたき出してあげますよッ!」

 

 

 採点に眉根をひそめたのは、ウェーブのかかった桃色の髪が特徴的な、シャンシャット・ヌヴォール。

 そしてそう言われてなお元気いっぱいに剣を構えるのは、青い髪を馬の尾のように束ねた、ルンシャット・ヌヴォール。

 エルアラドにおいて彼の者ありとされた傑物、アドルファス・ヌヴォール卿の愛娘二人。そして国をして騎士の位を授けられた、中堅の勇士だ。

 かのヌヴォール卿がエルアラドでも有数の実力者であり、騎士団の長を任せられるほどの人物であるためなのか、彼女ら二人も非常に優秀だ。父から受け継いだ技術と、二人独自のコンビネーションは、ここ最近巷を騒がせるエデンズリッターほどでなくとも、多くの淫魔を砕くほど。

 

 その二人が今、只の男に苦戦していた。

 周囲にいる休憩中の兵士たちにとって、それは当たり前の光景であった。

 黒い配達員服の桃井タロウといえば、有名人である。騎士団の精鋭二人に引けを取らないのも、当たり前である。

 タロウは木刀で肩をたたきながら、風を切るように振り抜く。かかってこいとばかりに、二人を見た。

 

 対するシャット姉妹はお互いを見合い、ニヤリと笑うや突進する。タロウは二人を、その場を動かずに迎え撃った。

 

 

「てやあああああっっ!!!」

 

 

 下段、相棒よりも早く、鋭くタロウに迫るルンシャットの剣。

 タロウと同型のその木刀が、本物にも勝る迫力を伴って炸裂する。木製とは思えない剣戟音が響くや、タロウは眉根をひそめ、剣を翻してルンシャットをはじいた。生まれた隙を突き、木刀を胴に叩き込もうとする。

 が、それよりも早く次点が襲来した。木製の長槍、それを手にしたシャンシャットが、ルンの剣がはじかれる時間までもを計算し、間髪入れずに攻撃を放ったのだ。

 

 

「ぬっ……⁉」

 

 

 タロウは一歩動いて攻撃を避ける。そこに迫るはルンシャットの剣。

 なるほど。タロウは思考する。前衛として攻撃に専念するルンシャットが最大の脅威と考えていたが、彼女の防御のために隙を生み出すシャンシャット。こちらもまた、ルンシャットに劣らぬ実力者だ。

 

 

「ふっ__ハァッ!」

「やるなっ!」

 

 

 槍を弾いてタロウが笑う。超至近距離の近接戦。タロウを軸に、すさまじい戦闘の嵐が巻き起こっている。

 シャット姉妹の踊るような攻撃に対し、不動の構えのタロウ。両者の戦いは、周囲の休む兵士たちにも熱気を及ばせ、大歓声を放つ観客に変えていた。

 

 

「よっしゃー! そこだ、いけ、ルンシャットさん!」

「あ、そこ……ああ、惜しい! シャンシャット、何やってるのよ!」

「強いぜタロウ! あの二人相手に全く動かないなんてよ……! 団長よりも強いんじゃないのか⁉」

 

 

 熱気渦巻く訓練場。

 激しさを増す打ち合い。

 終わりの時がやってくる。

 

 

「ルン!」

「ッ! オッケー、シャン!」

 

 

 二人の繰り出すコンビネーションも最高潮。

 タロウがルンの剣をはじく動作をとった時、そこを見抜いたシャンが、剣の柄をはじいた。配達員のその手から離れ、木刀が宙を舞う。今こそが最大のチャンス。

 シャンの放つ槍に合わせ、ルンが大上段から剣を振り下ろす。

 これぞまさしく、二撃決殺__!

 

 

「ヌヴォールッ!」「コンビネーションッ!」

 

 

 ひときわ大きい歓声と息をのむ音。

 すさまじい轟音が響き、タロウが敗れた! と誰もが思った。

 しかし、技が交差する一点に挟まれていたはずの彼は、その姿を完全に消していて__

 

 

「なっ⁉」

「なかなかやるな!」

 

 

 空中に飛び上がったタロウが、二人の攻撃にさらされるよりも早く木刀を手に取り。

 取って返す手で、姉妹の武器を受け止めてしまったのだ。勢いにも任せ、空中へとはじいてしまいながら。

 呆気にとられた観衆の前で、木刀と槍が地面に落ちた。

 紛うことなき、タロウの勝利であった。

 

 静かな空間に、緊張をにじませた空気が流れていく。

 無言のルンシャットとシャンシャット。負けたことがよほど悔しいのだろうか。観衆の目が二人に向いていく。

 肩をプルプルと震わせる二人は、そのままタロウのほうを見て__

 

 

「__くうううっ! まけましたぁー!」

「やっぱり強い……手も足も出ませんでした!」

 

 

 とまあ、快活に笑って見せた。タロウはそうかと一つ言うと、二人の武器を手に取って、渡した。

 受け取った彼女らはタロウのほうにウサギのように跳ねて近寄り。

 

 

「で、何点でしょう?」

「六十五点だ! あの連続攻撃は初めて見せてもらった。俺のオトモたち以上のコンビネーションだ。誉めてやろう」

 

 

 どこまで行っても、タロウは上から目線なのだが。それでもシャット姉妹にとっては、予想外の高得点が非常にうれしかったらしく、やはりこれまたウサギのように跳ねて喜んだ。

 

 

「これで団長に一歩近づけたね、シャン!」

「ええ、ルン! いずれタロウさんにも勝って、この国最強の団長にも勝って、最強の称号をほしいままにしてやるわ!」

「そうか。だが、俺はノエインよりも強い。最強を名乗るなら俺を倒してからにしろ」

「えー、まだ決着ついてないのに、そんなこと言っちゃダメですよ。確かにタロウさん、強いですけど。私たち的には、不本意ですけど団長を応援しなきゃいけないんですから」

「でも言いたくなる気持ちもわかるわ。何十戦もして、毎回決着がつかないもの。この間はついに、敵を倒した後にまで戦い始めたんだから。決着をつけたくて、二人ともしょうがないのよ」

「でもなぁ、お二人には頑張ってほしいと思うんだけど、このままでもいいかなぁって思ったりもするのよね。タロウさんがもし勝って、もし団長に「勝ったのだから俺と結婚しろ」みたいなこと言いだしたら大変だもの!」

 

 

 タロウが喋る暇もなく、二人はそんな話題で勝手に盛り上がっていた。

 十八を少し過ぎたくらいの彼女たちは、花の女騎士である。なんでもかんでも恋愛に結び付ける。もちろん、タロウはそのノエインという人物に、女性としての興味はないのであるが。

 

 

「俺とノエインはそんな関係ではない。何よりノエインには、セシリィがいるだろう」

「でもですよ! もしかしたら団長も、ほんのすこし、それこそこれくらいちょびっと、タロウさんに気があるかもしれないじゃないですか!」

「奴にあっても俺にはない」

「まあまあタロウさん、そこは男の甲斐性として、受け入れてあげてくださいよ。団長だってもう三十路なんです。周りが、結婚しないのかってうるさいんですよ。この間だって、お付きのお爺さんに口酸っぱく言われてたんですから。だからもし団長に負けたら、遠慮なくもらわれてください!」

「そういうものか。そうなったら善処しよう。しかし、そんな話をしていていいのか?」

「え? 団長がいないせっかくのお休みなんですよ? いいじゃないですか、もう少しくらい……」

「後ろを見ろ」

 

 

 タロウが指をさした先を、はて、と首を傾げ姉妹は見る。

 

 

 __そこには、鬼がいた。

 

 

 いや、魔王かもしれない。地の底から蘇った悪魔かもしれない。聖騎士である二人との立場を考えれば、彼女は恐るべき荒神とも形容できたかもしれない。

 とにかくそこにいたのは、二人がこの世で最も恐れる、エルアラド聖騎士団の団長。

 ノエイン・グランノーフィスその人であった。

 

 

「だ、だだ、団長ッ⁉」

「な、なんでここに⁉ あ、あれ、もう帰ったはずでは⁉」

「今しがた姫様に呼ばれてな、戻ってきたところだったんだ。それよりルンシャット、シャンシャット。私が、なんだ?」

 

 

 三十路だの、なんだの、いろいろと聞こえた気がしたがな?

 語るノエインの口元には微笑が浮かんでいたが、二人に向ける目には一切の遊びの色もうかがえない。殺気が隠しきれていなかった。観客だった兵士たちも、巻き込まれまいと逃げ始める。

 シャット姉妹も逃げようとするが、ノエインに捕まっては逃げきれない。肩を抉るがごとき握力で掴まれては、悲鳴を上げてうずくまるほかない。

 

 

「私が三十路か。行き遅れか。折檻が必要だな二人とも」

「い、言ってない! 行き遅れは言ってない!」

「思っても言わないですよそんなことーっ!」

「そうか、思っているのか。仕方がないなぁ、今に見てろよ」

 

 

 口調が崩れていた。タロウは何も言わずに彼らから目を背けた。

 これより起こる惨状に目をつむったというよりは、そろそろ終わるかと、シグルドのいるであろう方向を見ただけなのだが。

 二人の助けを求める手が、ちょうどその時伸ばされていて。タロウはもちろん見えていなくて。

 

 訓練場に、二人の乙女の絶叫が響いたのは、そのあとだった。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

「何か困ったことがあれば助けてやるって言ったのは、タロウさんですよね!」

「そうだ」

「じゃあ団長から助けてくれてもよかったじゃないですか!」

「ああ、すまなかったな。だが、あれはお前たちが悪いだろう」

 

 

 そう言われてはぐうの音も出ないのである。ルンシャットは黙り、シャンシャットも「本当のことを言わないでくださいよ」とうめいた。ポカリ、と叩く音と悲鳴が響いた。

 そんなやり取りを、なにをやっていたんだ、と横目に見ながら、シグルドはタロウの手を引っ張った。

 

 

「タロウ、帰るぞ。もう時間がない」

 

 

 見れば西の空に、太陽が沈みかけている。真っ赤に染まった夕焼け空を、カラスが鳴きながら飛んでいた。夕焼け雲がまるで消えゆく陽炎のように、山の向こうに去っていく

 降り注ぐ赤色は、王城前に止めてあるエンヤライドンの車体を燃やし、いつも以上に紅を映えさせた。

 

 

「もうそんな時間か。シグルド、目当てのものは手に入ったのか」

「ああ、なんとか。これで実験もできるし、いざという時のための回復薬も作れる。ああそうだ、タロウ。セシリィからの伝言だ。次に菓子を頼んだときは、ノエインにバレないようにしてほしいと言ってたぞ」

「本人の前で言っていいのか、それは」

 

 

 半ばあきれた様子で、名前を出されたノエインが言う。夕焼けに照らされ、彼女の紫髪も真っ赤に染まっていた。影も相まって、黒くも見える。

 彼女はタロウのほうをじろりと見た。

 

 

「それに、お前は嘘がつけないだろう」

「そうだ。だからセシリィの頼みは聞くことができない」

「様をつけろよ、一国の王女だぞ」

「賢者、貴様も付け忘れていたが?」

 

 

 さっきのはなんだとばかりにノエインが目を向ける。

 彼女はシグルドの素性を知らないが、行動が怪しいとして見張っているのだ。天性の勘によるそれは事実として当たっていて、シグルドは半ば彼女のことを恐れていた。呆れていたし、そんな彼女の実力を認めてもいたが。彼女にだけは、本性をバラしすぎてはいけないようだ。

 しかし今回はやけに見てくるな……と思ったところで、ルンシャットがシグルドとノエインを遮った。

 

 

「団長、いいじゃないですか! 賢者様とセシリィ様はご友人なんですから! いくら最近、淫魔との戦いが多くなっているせいでセシリィ様との時間が取れないからって、八つ当たりはよくないですよ!」

「なっ! や、八つ当たりなどではない! 大体な、タロウも賢者も、どこの誰とも知れない馬の骨なんだぞ! それを王城にほいほい招き入れることなど、本来は断じて許されないことで……」

「それもセシリィ様がオーケーしてるんですし、いいじゃないですか。御典医(ごてんい)様のお墨付きもありますし! 団長だって、セシリィ様が賢者様の施術で元気になるのは、うれしいんでしょう?」

「それはそうだが、しかし……」

 

 

 シャンシャットの言葉に肯定で返すものの、ノエインの表情はあまりに渋い。

 おそらく彼女が問題にしているのは、施術の行為だ。

 ここには書けないような淫らなことをしているといえば、その有り様と、ノエインの焦りもわかろう。どこの馬の骨とも知れないような女が、王女殿下と甘い蜜月の時を……なんてことは、実際普通ではないし。絵本の世界ではないのだから、普通は問題があるはずなのだ。

 

 しかしシグルドは国に認められ、またお抱えの典医にも「私の代わりを務めていいわよ」とお墨付きをもらっている客分である。ノエインはたびたび「大丈夫じゃないだろう」と問題にしたがるが、実際には解決されているのだ。

 

 で、なぜノエインが問題にしたがるのかといえば。彼女にとって、セシリィ姫が別の人間と蜜月を……というのが、個人的に「なんか嫌」らしいのだ。

 

 

「あんたとセシリィ様は、ただの幼馴染なんじゃなかったのか?」

「それはそうだが……」

 

 

 彼女とセシリィの本当の関係は、王城の関係者なら誰しもが知るところ……例え信頼している相手でも、本当ならノエインは、セシリィへの施術を任せたくはないはずなのだ。もし自分に才があれば、自分でやるというはずだった。

 

 

「そうか! 団長はセシリィ様を、賢者様にとられるんじゃないかって心配なんですねいだぁいっ⁉」

「言うなっ、馬鹿者っ!」

 

 

 図星であった。

 シグルドは、むしろ一国の姫と女騎士の恋愛のほうが、マズい気はするがな、と思った。

 なおセシリィは、毎度の施術の折「ノエインに悪いですね」と、罰が悪そうにしているのだが、ここでは言わないでおく。そのほうが面白そうだった。

 

 

「シグルド、帰らないのか?」

「そうだった。タロウ、家まで送ってくれ」

「わかった。ではこれで失礼させてもらうぞ」

 

 

 タロウは手を振り、そう言ってからバイクを走らせた。

 姉妹とノエインが見送る中、バイクは町明かりの中へ入っていく。

 エンヤライドンは一人乗りのバイクだが、座席は広い。シグルドはタロウの後ろにまたがり、前に座るタロウにしがみついて振り落とされないようにしていた。

 

 

「……しかし、タロウ。お前は、本当にいろんな相手と縁があるんだな」

 

 

 ふと、シグルドはそう、思ったことを口にした。

 ノエインもシャット姉妹も、シグルドとは幾度も面識がある。それ以外にも、幾度かすれ違う相手とは顔見知りになるものだ。その彼らが、皆一様にタロウのことを口にするのは、なんだか空恐ろしいものを感じる。

 というか、全員そろって「タロウといえば「縁ができたな!」だよな」と思っているのは、ちょっとこいつおかしいんじゃないかと思うほどだ。誰にでも言っているらしい。口癖にしたっておかしいだろう。

 

 縁結びの狂人だ、本当に。

 もしや、ルドルフやゼノバイドの他の幹部とも面識があるんじゃないか。いやいやそんなことはあるまい。彼らは世捨て人、まともに市街に出ることはない。

 そんな風に考えていると。

 

 

「当たり前だ」

 

 

 タロウはそうシグルドに言って、続けた。

 

 

「この世は無数の縁と縁が結び合ってできている。その中で奇跡が生まれ、俺もその奇跡に何度か恵まれた。悪縁もあれば良縁もある……この世に、縁のない人間などいない」

「そういうものか? というか、私の言ったことはそういうことじゃ……」

 

 

 シグルドは「いや、いい」と言って、その先を言うのをやめた。

 きっと、桃井タロウという男にとって、あらゆる縁はどれも同じものなのだ。たとえ相手が王族であろうと、騎士であろうと……自分(わたし)であろうと。

 

 シグルドは男が嫌いだ。とても、苦手だ。

 

 まだ未熟だったころ、シグルドは暴漢に襲われて、貞操を奪われそうになった。その時のことがどうにも忘れられなくて、今でも夢に見る。ほかの悪夢ならすぐに忘れるのに、その夢を見た時だけは、どうにも情緒が不安定になってしまう。今ではイルヴィナがいて、忘れさせてもくれるし、男に対しての応対の仕方も、何とか身に着けた。

 それでも、未だにあの時のことを思い出して、震えてしまう。

 

 そんな中でタロウと関わっていると、やはりその時のことを思い出してしまう。だから、苦手なのだ。

 タロウは決してそういうことをする相手ではない。そのことを頭では理解はしていても、やはり苦手だった。

 そんな風に感じてしまうシグルドには、タロウの考えが理解できないのだった。

 人なんてろくに信頼できるものじゃない。

 

 でも、自分には守るものがあるから。

 だから縁は結ばないといけなくて……あらゆる縁は、クレセアのために使えるのか、救うために使えるのか。それを考えて取捨選択をとるものだ。少なくともシグルドの中ではそうなのだ。

 

 ではタロウは?

 どうなのだろうか。

 それを考え、聞きたいとは思う。でも、聞くのがためらわれる気がした。

 きっと「俺にそういう考えはない」と言うに決まっているから。

 

 タロウの人への感情は、いつも真っ直ぐだ。シグルドにも、クレセアにも、イルヴィナにも、ルンシャットとシャンシャット、それにノエインにも、ほとんど同じ感情を向けている。

 縁を結んだ友人への友愛だ。きっとそれはセシリィや、あの城にいたほかの人間にも同じだろう。

 自分とは違う。取捨選択なんて取ろうともしない。バカだなぁ、と思うこともある。

 なんでそこまで縁を大事にするのだろう。全ての人間と良い縁を結ぶなんて、無理じゃないか? そういう考えだから、自分は彼の考えが理解できないのだろうか……

 

 

「……タロウ。お前は私のことを、どう思っているんだ」

 

 

 そんな考えがあったからだろうか、シグルドはポツリとそう呟いていた。

 聞こえないくらい小さな声だった。だが、タロウには聞こえていた。

 

 

「すごい、と思う」

「なに?」

「すごいと言った。点をつけるなら三十五点だ」

「……微妙だな。って、そうじゃなくて! どういうところがすごいと思うんだ」

 

 

 確かに自分は天才だが、それ以外のところはからっきしだ。

 シグルドがそんなことを言うと、タロウはこう告げた。

 

 

「クレセアのために、自分が汚れることをいとわない。その精神は誰にも真似できるものじゃない。だから俺は、お前のことをすごいと思う」

 

 

 ゼノバイド教団の幹部になったことが、すごい、と? 本当に言っているのだろうか。

 タロウは嘘をつけない。いつだったか、噓をつくと死ぬと言っていた。だから本当にそう思っているのだろう。

 しかし、タロウは一拍おいて、またこう言った。

 

 

「だが、長くは続かない。いずれどこかで歯車が狂う。お前の大事なものが、奪われてしまうかもしれない。だからゼノバイドとは早々に、縁を切るべきだ」

「縁を切る? お前でもそういうことを言うんだな」

 

 

 なんだか、どんな縁でも大事にしそうだと思ったのだが。

 

 

「当然だ。どんな縁でも縁は縁。良縁もあれば悪縁もある。悪縁は、断ち切るに限る」

「断ち切るに限る、か……できる、ものかな」

 

 

 今は、どうだろうか。ゼノバイドにいるからこそできることもある。

 シグルドが今、右手にはめている唯一の聖遺物は、その一つだ。

 

 

 境界門ネメシス。三年前に迷宮で手に入れてから、以後研究しているシグルドの聖遺物だ。

 過去に二度起動し、一度目は謎の騎士を、二度目は一振りの槍を呼び出した。

 どこかの世界とつながる、時空を超える力を持つ遺物。未だにシグルドの力では制御できていない、それ。エデンズエナジーを結晶化させたエデンズマテリアルで起動することはわかっているのだが、いかんせん純度が低いのか、それともシグルドの力量によるものか、未だに起動していない。

 

 

「境界門を起動させるには、まだ何か鍵があるようなんだ。それがわかるまでは、ゼノバイドと手を切ることはできない」

「そうか。決めるのはお前だ、俺ではない。だが、何かあれば力になろう」

 

 

 タロウが言いながら、バイクは進み、聖都郊外にたどり着いた。

 すでにシグルドのアジトが目の前だ。シグルドは「ここでいい」とタロウに切り出し、おろしてもらう。

 なんとなく、考えだけはまとまった気がした。

 

 

「タロウ、じゃあ、また」

「ああ。ではな」

 

 

 タロウが去ったあと。シグルドは小さなため息を吐いた。

 やはり彼は苦手だと、そう独り言つ。

 

 

「……縁を切るべきか」

 

 

 そうなのだろう。だが、あと少しの間は、ゼノバイドと縁を切ることはできない。

 なぜなら……なぜなら。

 

 ゼノバイド教団はあと二日で、聖都セフィラムへの侵略作戦を行うつもりなのだから。

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

☆ステータス №2☆

 

 なまえ :シグルド・アスフォディル 

 ジョブ :れんきんじゅつし 

 せいべつ:おんな

 レベル :23

 

 タイプ :スタッフ

 ぞくせい:じゃこく

 レア  :☆☆

 

*そうび*

 あたま :てぬいのフード

 どうたい:あいようのローブ

 ぶき  :せんこうだま

 みぎて :きょうかいもんネメシス

 まほう :シールド

 

*しょうごう*

 おかかえけんじゃ

 ゼノバイドかんぶ

 

*かいせつ*

・あたまいいひと けんじゃさま。 たたかうのだけは にがてですよ。

 いもうとのためなら なんだってするけど ほんとうはふつうの おんなのこ。

 

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