桃井タロウは楽園行き   作:トナカイ

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大侵攻

 

 

 

 

 

 ゼノバイド教団にとって、聖都セフィラム、ひいてはエルアラド聖王国の存在は『邪魔』の一言に尽きるだろう。

 

 

 ゼノバイド教団によって、このヴィ・ラ・エデンには淫魔があふれた。過去を振り返っても、最大規模の侵攻が起こっている。各国にはたびたび淫魔の出現が報告され、時に町にもその出現が見られる。挙句の果てに、淫魔の群れに襲撃を受けた村々も増え、その多くが滅びの一途をたどっている。

 

 ゼノバイド教団が指揮する淫魔の軍勢による侵攻、暗躍。それを食い止めるのが、対淫魔同盟の盟主であり、尚且つエデンズリッターと聖騎士団を有する、エルアラド聖王国である。

 

 その存在が邪魔でないはずがない。多くの国や遺跡などで行われる侵攻作戦を悉く封じられ、遅々として侵略は進まないのだから。

 故にこそ力をため込み、大侵攻を起こし、聖騎士団もエデンズリッターも、その圧倒的物量でもって殲滅する。

 そのためにシグルド・アスフォディルには、セシリィ・エルアラドを筆頭とするエデンズリッターに取り入り弱らせ、侵攻作戦の成功を確実なものとする使命が与えられていた。

 

 もちろんシグルド自身は、その命令に忠実なふりをして、セシリィが万全な状態で戦えるように気を配り、騎士団や市民に被害が出ないよう、ほぼ毎日の淫魔の襲撃をコントロールしていたのだが。

 

 しかしそれにも限界がある。ルドルフからは疑われていた。

 クレセアを守るため、エルアラドの国力を何としても削がないよう立ち回っていたことは、おそらくゼノバイドにバレているのだろう。ゼノバイドがシグルドたちを切り捨てる可能性は大きかった。

 そうなった時、クレセアを、イルヴィナを……守り切れるのだろうか。

 

 もし境界門が起動すれば__と考えていたところで、シグルドの顔を誰かが覗き込んだ。

 

 

「……お姉さま? どうしたの?」

「ご主人様、ずっと怖い顔されてますよ?」

 

 

 クレセアとイルヴィナだ。二人によって、思考の海に沈んでいたシグルドは引っ張りあげられる。

 今シグルドたちは、新しい服を買いにセフィラムの商店通りを歩いていた。

 

 

「え? ああ……いや、考え事をしていただけだ」

 

 

 道の横にそれて、通り過ぎる馬車を待ってから歩き出す。

 タロウと一緒に帰った日から、すでに二日経つ。明日、ルドルフが指揮を執り、国への大侵攻が行われる。そんなことは誰も知らず、町には人があふれ、賑わっていた。安い素材だが綺麗に作られたドレスを並べるテントや、その中に混じって薬や食料を売る屋台があり、人々はそこで買い物をしながら、皆一様に笑顔を浮かべている。

 そろそろ夜が近い夕暮れ時だというのに、この賑わい。これが明日、阿鼻叫喚の地獄絵図に変わるかもしれない。

 そうなれば、クレセアも、イルヴィナもどんな顔をするだろうか。

 

 

「……」

「お姉さまっ!」

「ひゃっ⁉」

 

 

 唐突に頬を両手で挟まれ、シグルドは声をあげた。

 犯人のクレセアは顔を膨らませて言った。

 

 

「もう、考え事禁止! せっかく三人で買い物に来てるんだからね?」

「わ、わかった。善処する」

「それならよし! ところで、イルヴィナちゃんは?」

 

 

 言われて、いつの間にかイルヴィナがいなくなっていることに気づく。

 と思っていたら、向こうの道から手を振ってかけてくる桃髪がいた。手にドレスを持ったイルヴィナだった。

 

 

「ご主人様ご主人様! これ、すごいかわいい服ですよ!」

「あ、ああ。買いたいのか?」

「いえ! 私じゃ胸のあたりがぶかぶかです! これはご主人様に着てほしいんです!」

「いや私は別に、服はいらないんだが……」

「お姉さまっ! せっかく綺麗なのに、もったいないよ。少し試着するだけでもいいんじゃない?」

「クレセアが言うなら……」

 

 

 本当に、自分の服についてはどうでもいい。クレセアやイルヴィナが着飾るのを見る分には何も言わないが、自分には似合わないと思うのだ。だからいつも、ローブなのだし。

 それでも、勧められるているなら、少しは着てみようという気になる。

 そう思って、ドレスを受け取ろうとした__その時だった。

 

 

 

 すさまじい爆音とともに、突然近くの建物が吹き飛んだ。

 一瞬何が起こったのかわからず、三人も、周囲の人々も呆然とする中__

 

 

「__きゃあああああああっっ!!???」

 

 

 悲鳴が上がった。

 

 その瞬間、トマトか何かを潰したような音が響いて、粉塵の中から何者かが現れた。

 ぞろぞろと現れたのは、下級の魔物のオークたち。彼らの中にはゼノアーマーと、ゾンビどもが入り混じる。

 

 淫魔の群れだ。

 

 数百匹の淫魔の群れが、四方八方からこのセフィラムの通りに現れたのだ。

 人々が悲鳴を上げて逃げ惑う中、シグルドはなぜここに淫魔がいるのかと困惑の表情を浮かべていた。

 

 

「ご、ご主人様! 淫魔の襲撃って、こんな日にやるものじゃないですよね⁉」

「当たり前だ! 私は指揮していないぞ!」

 

 

 そもそも先日のうちに、淫魔を召喚するための魔法陣は、全て潰したのだ。残しておいた淫魔の軍勢も、ルシフェルとアシュタロスが殲滅できるように動かし、もう一匹だって残っていない。

 

 その情報があるうえで考えれば、浮かぶ結論はただ一つだった。

 

 

「……切り捨てられたか」

 

 

 シグルドは舌を打った。

 やはりゼノバイドは、シグルドのことを信頼していなかったのだろう。彼女をエルアラドごと始末する判断を下したのだ。

 

 伝えられた日時に侵攻を起こすものだと、シグルドは正直に思ってしまっていた。そのために、ゼノバイドの策略は大成功だった。オークたちは逃げ遅れた人々を殺し、女性の服は剥ぎ取り、醜悪な笑みを浮かべて彼らの命と尊厳を侵している。

 シグルドは叫んだ。

 

 

「イルヴィナッ!」

「はいなっ!」

 

 

 イルヴィナは桃色の光に包まれるや、擬態を解いた。桃色の髪の上に角が現れ、背には翼、尻尾が現れる。紛うことなき淫魔の姿となった彼女は、濁った血のように黒い短槍、血槍ブラッドアースを構えた。

 一瞬周囲から悲鳴が上がるが、シグルドは意に介さない。そのまま命令を下す。

 

 

「奴らを倒せ! 極力被害を減らして、逃げ遅れた者の非難を優先させるんだ!」

「わっかりました! やってやりますよ~っ!」

 

 

 翼をはためかせ飛翔。同時にブラッドアースの切っ先を、今まさに女性に襲い掛かっていたオークに向けて振り下ろす。オークが悲鳴を上げるよりも早く、その首は狩り落され地面に落ちた。

 助け出された女性はイルヴィナを見て、呆然とつぶやいた。

 

 

「あ、あなたは……」

「いいから早く逃げちゃってください! 次、来ますから!」

 

 

 女性を立ち上がらせ、襲い掛かってきたオークの首目掛け刃をふるう。

 血飛沫とともにオークが倒れるが、その向こうからも異変に気付いた淫魔たちがやってくる。女性をまだ無事な男性のほうに放り投げるや、呪文を唱え魔力の弾丸を放ち、一匹を仕留めた。

 

 

「っ! てめえ、夢魔のくせに生意気な!」

「イルヴィナちゃんはただの夢魔じゃないですもん!」

 

 

 叫びながら襲い掛かってきた個体へ啖呵を切るや上段一閃、果物がつぶれるようにオークの頭がひしゃげた。そのまま来たる他の淫魔にも刃を振るう。まるで料理をするかの如く、雑魚敵を一掃していく。

 

 イルヴィナは淫魔の中では最弱に位置する夢魔だ。シグルドは彼女をアスフォディル家に迎えた折、いざという時のために備え、彼女の戦闘能力を上昇させた。

 もともと心得のあった槍術を中心とした無手勝流を会得させ、そのうえで元来の能力を、特製のポーションによって強化させたのだ。今の彼女は、通常の夢魔にはない範疇の戦力が存在する。もちろんそれでも、他の淫魔と比べると見劣りするが、十分ではある。

 

 そんな彼女の戦闘の様子を極力クレセアに見せないようにしながら、シグルドはぽつりとつぶやいた。

 

 

「……これだけの数なら、指揮官がいるはずだ。しかし……」

 

 

 姿が見えない。

 オークやゼノアーマーを指揮する役割にあたる、上級の淫魔はどこか。

 シグルドが目を凝らし、逃げる人々の合間を見た、その時。

 赤い影が、イルヴィナに襲い掛かろうとしているのを目にした。

 

 

「っ⁉ 逃げろ、イルヴィナ!」

「へ? きゃ__っ⁉」

 

 

 思わずシグルドのほうを見てしまった、それが悪手だった。イルヴィナの体は木の葉のように吹き飛ばされ、勢いよく煉瓦の壁にぶつかり、そこに巨大な穴をあけた。

 クレセアが思わず声を上げる中、シグルドはイルヴィナを吹き飛ばした相手を見る。

 

 三メートルはあろうかという巨体。真っ赤な体は筋肉質で、その腕に捕らえられてしまえば、いかな益荒男とて握りつぶされるだろうという、恐るべき威圧感。

 シグルドも何度か呼び出した経験のある、魔界に潜む淫魔の上位種、その一つ。

 

 

「ゼノオーガ……!」

 

 

 ゼノオーガの攻撃で吹き飛ばされたのは、イルヴィナだけではなかった。彼女と戦っていたオークや、ゼノアーマーもまとめて吹き飛ばされていた。その惨状は、オーガの右腕に帯びた血と、緑色の肉と鉄片が物語っている。

 ゼノオーガは腕の血痕をふき取るようにしながら、イルヴィナの吹き飛ばされたほうに向かう。クレセアが思わず叫びそうになったのを、シグルドは咄嗟に止めていた。

 

 

「なんかちっこい羽虫がいたような気がするんだけどよぉ……まさかもう死んじまったわけじゃあねえよな?」

 

 

 ゼノオーガのその声が、静かになった戦上に響く。

 確かに先ほどの一撃は、イルヴィナの全身を捉え、並の淫魔であれば肉塊に変わるほどのものだった。それを受けて生きているとは、到底思えない、が__

 

 

「__ちょおあーーっ!!!!」

 

 

 爆音が響いて、それを切り裂くような雄たけびが響いた。

 ゼノオーガの顔面目掛け、ブラッドアースが振り下ろされたのだ。もちろん、イルヴィナの攻撃だ。

 ゼノオーガの攻撃は確かにすさまじいものであったが、強くなったイルヴィナならば受けきることができたのだ。そんな彼女が放った不意打ち気味のお返しは、見事敵の急所をとらえ、確かに粉砕した。

 

 

 __はずだった。

 

 

 

「__こんなもんか? ああ?」

 

 

 退屈そうな声音とともに、ゼノオーガがイルヴィナの槍をつかんだ。

 確かに額を貫かれたのに、その威容も威圧も全く衰えていない。死んでいないどころではない。まったくダメージを負っていないのだ。

 

 

「え、ちょっ……じ、冗談ですよね?」

「冗談に見えるか? これがよぉっ!!」

 

 

 ブラッドアースを握りしめたまま、ゼノオーガが腕を振り上げる。

 轟音とともにイルヴィナの体が地面にたたきつけられ、彼女は口から血を吐き出した。ブラッドアースは傍らに突き刺さり、折れて使い物にならなくなっていた。

 立ち上がろうとするイルヴィナを、ゼノオーガは踏みつける。数百キロはある巨体による踏み付けは、彼女の体中の骨を軋ませ、悲鳴を上げさせるに足る威力があった。

 

 

「あ、ぎ、きゃああああ……⁉ い、いだい、いだいですぅ……!!」

「いい悲鳴だな。俺様に歯向かった羽虫にしちゃあ上出来だ」

 

 

 もっと泣けと、力を込めて再度踏みつければ、イルヴィナは絶叫を挙げた。

 その時だった。

 

 

「やめて!」

 

 

 クレセアが、叫んだのは。

 その場にいた淫魔たちの目が、彼女に集中する。車いすを動かし、一歩前に出るようにした彼女は、強いまなざしをゼノオーガに向ける。

 

 

「何の真似だ女。こいつの仲間か」

「……家族です! その足を、どけなさい!」

「こいつは俺に逆らった。雑魚の夢魔のくせに、俺と俺の子分どもに逆らった。見せしめに殺すのは当たり前だ。それが俺たち魔界の民の掟だ!」

「ここは人間の世界です! 自分の勝手で人を苦しめるようなことは、許されません!」

「何を言ってやがる。どこの世界だろうが力がすべてだ。弱い奴は死に、強い奴が生き残る! そういう風にできてるんだよぉッ!」

 

 

 ゼノオーガの巨腕が振り下ろされた。

 クレセアが目を見開き、イルヴィナがとっさに手を伸ばす中、シグルドは駆け出し__

 

 

「__ガッ……」

 

 

 全身で、クレセアを拳から守った。クレセアごと吹き飛ばされた彼女は、咄嗟に防御魔術で体を守ってはいたものの、たった一撃で全身を傷つけられていた。地面を跳ね、飛ばされた彼女は、口から血の塊を吐き出す。

 体中に刻まれた裂傷から鮮血があふれ出して、黒色のローブを血の色に染めていた。

 クレセアは倒れ、起き上がれなくなったシグルドを見て、小さな声を漏らした。

 

 

「お、お姉さま……!」

「だい、丈夫だ……クレセア……」

 

 

 苦し紛れの嘘を吐く。彼女が受けた暴虐は蠟燭の灯が吹き消されるようなもので、全く耐えきれていなかった。

 

 クレセアは涙を流しながら何度も彼女の名前を呼ぶが、シグルドは反応を返せない。

 ゼノオーガは、未だに生きている二人にイラ立ちを見せて、ゆっくりと歩み寄ってくる。また攻撃を食らえば、間違いなく殺される。

 シグルドは朦朧とする意識の中、右腕に備えた境界門を見た。その力を発揮できれば、きっとこの窮地も脱却できる。だが、肝心の自分が動かない。

 

 もう、ダメなのか。

 

 イルヴィナの命を無駄にし、己の命さえも無駄にして、クレセアを助けることもできないのか。この国と、運命を共にするのか。

 

 

 __ああ。

 

 

 もしも、神がいるのなら。

 せめて、せめて妹だけでも、救ってほしい。

 祈ったことなどなく、妹に聖痕を刻んだ神を、常に恨んできた彼女の……唯一の信心がそこにあった。

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 その時。

 天から高く、高く降り注いだいくつもの弾丸を、淫魔たちは受けきることができなかった。

 

 

「ぎ、ぎゃあああああっ⁉⁉」

 

 

 無差別に降り注いだその弾丸の雨。しかし人間を狙わず、的確に淫魔だけを、イルヴィナを除いた淫魔だけを撃ち貫くそれ。クレセアはその光景に気づいて、いったい何が起こっているのかと混乱し、ゼノオーガもまた何者かからの攻撃に、叫びをあげた。

 

 

「誰だ、誰だぁ⁉ 誰の仕業__があああっ!?!?」

 

 

 その巨体を、ひときわ巨大な弾丸が吹き飛ばす。どこからともなく聞こえたイヨォ~ッ!という合いの手と同時、どんぶらこぉ~!と、その体は大量のオークを下敷きにする形で、瓦礫の山にたたきつけられた。

 

 いったい何が起きたのか。クレセアも、傷ついたシグルドとイルヴィナも、淫魔たちも。

 そして逃げていた人々も足を止め、一斉にひとところに目線を向けた。

 そこには__

 

 

__わーっはっはっは!

 

 

 真っ赤な、神輿があった。

 

 

わーっはっはっは! わーっはっはっは!

 

 

 六人の益荒男が担ぎ上げ、金色の波の上に乗るように上下左右と揺らされる、巨大な一つの神輿があった。その周りを紙吹雪を散らしながら天女が舞い踊るさまはまるで祭りのようだがここは戦場である。あまりに似つかわしくないし、だれもが一瞬、悪い夢を見ているのではないかと疑った。

 しかしもちろん、そうではない。

 

 神輿の上には祭りの名物。担ぎ上げられるべき__神様が乗っている。

 

 

「やあやあやあ! 祭りだ祭りだぁっ! 踊れ、歌えっ!

 

 わーーーっはっはっは!!!」

 

 

 巨大な真っ赤なバイクに乗って、いざ高らかに笑う男。敵も味方も、万民平等に降り注ぐ、神様からの高笑い。

 人々は、高らかに笑う彼が何者なのかを知っていた。

 見間違えるはずもなかった。

 

 赤いドンまげ。

 仮面からはみ出すほど巨大なサングラス。

 その上にでかでかと張り付けられたピッカピカに輝く桃。

 真っ赤な真っ赤な陣羽織をまとう、扇子片手に呵々大笑の伊達姿。

 

 そんなふざけた格好の男がエデンズリッターと共に、この国を何度も守ってくれていることを、人々は知っている。

 

 

 

 

「袖振り合うも多少の縁! 躓く石も縁の端くれ!」

 

 

 彼は誰よりも縁を大事にし__

 

 

「共に踊ればつながる縁__この世は楽園!」

 

 

 そして「この世は楽園!」と豪語する__

 

 

「悩みなんざ、吹っ飛ばせッ! 笑え笑え、わーっはっはっは!!!!

 

 

 幸せを運ぶ、宅配人。

 

 

 

 

 誰よりも、何よりも声高らかに笑うその男を、人はこう呼ぶのだ。

 

 

「……ドン、モモタロウ!

 

 

 何とか起き上がったシグルドが彼をそう呼んだと同時、瓦礫に吹き飛ばされたゼノオーガが起き上がる。何事か吠えようとしているが、タロウは気にせず、またがっていたエンヤライドンのアクセルをフルスロットル!

 エンヤライドンは爆音とともに飛び出し、ゼノオーガの顔面に、総重量七百五十キログラムをたたきつけた。オーガの顔面は見事ひしゃげるや、再び体ごと吹き飛ぶ。

 

 

「__さあ楽しもうぜ! 勝負勝負!」

 

 

 エンヤライドンから弾丸のように飛び出して、ゼノオーガに斬りかかる。ゼノオーガは己の腕力でもってドンモモタロウを成敗しようとするのだが、果たしてその程度の膂力では、タロウには全く及んでいない。軽快なステップでよけられ、ブレイクダンスの如し動きで蹴られ、タロウが握る秘剣・ザングラソードの斬撃を受けるしかない。

 イルヴィナと戦った時とは全く違う余裕のなさで、ゼノオーガは追い詰められていた。

 呆然とするシグルドたち。しかし淫魔たちは、大将が攻撃を受け、窮地に陥ったのを見てすぐさま行動を起こした。周囲の人間を人質に取ろうとしたのだ。その魔の手は真っ先にシグルドたちに伸びた。

 

 

「こっちだ、来い!」

「ッ! は、離せ⁉」

 

 

 シグルドは腕をとられてしまい、無理矢理に引っ張られる。クレセアが手を伸ばすが届かない。

 押さえつけられ、頭を踏みにじられる。シグルドは必死の思いでカバンに手を伸ばし、中の閃光玉を取ろうとするが、うまくいかない。その間にもオークたちはシグルドを縛り上げて、タロウとゼノオーガの戦いの場へ連れて行こうとした。

 だが、その時、一枚の羽根がその場にふわりと落ち……

 

 

「__ノーブル・グラシエスッ!

 

 

 放たれた氷の槍が、オークの腕を貫き吹き飛ばした。

 

 

「__⁉ ぎ、ぎゃあああああああっ⁉」

 

 

 次いで周囲のオークたちも、氷柱に包まれ身動きが取れなくなる。

 そのまま降り立った乙女は、魔聖槍ルミナークを一閃。放たれた一撃が、オークたちを砕いて捨てた。

 今、シグルドたちを救わんと放たれた術法、そして攻撃を放ち安全を確保したものは__

 

 

「セシリィ、様?」

「はい! お怪我はございませんか、賢者様、クレセアさん!」

 

 

 純白の翼を持つ、黄金に輝ける天使。セシリィ・エルアラド__エデンズリッター・ロード・ルシフェルだ。

 すでに何度か戦った後なのか、その翼と槍は若干赤黒く汚れている。

 彼女は息を整え、二人の姿を見て、すぐさま肩に手を触れた。

 

 

「……遅れてしまって、申し訳ありません。すぐに傷を治しますので」

 

 

 セシリィの手から光があふれ、シグルドとクレセアを包んだ。

 その光は彼女らの傷に浸透するように消えていき、瞬く間にその傷をふさいで見せた。この国の多くのシスターが神樹セフィロトより賜っている、癒しの奇跡だ。純粋な癒しの光は、セシリィの祈りによってその効力を増している。

 ようやく足に力が入るようになったシグルドは、セシリィから離れて立った。

 

 

「ありがとうございます、セシリィ様……そうだ、私の使い魔も、癒してはいただけませんか?」

「使い魔、ですか?」

 

 

 そういえば、イルヴィナとセシリィに面識はなかった。

 イルヴィナは夢魔とはいえ淫魔。セシリィが癒してくれるか不安であったが……この姫様ならば、きっと大丈夫だろう。

 

 

「はい。タロウが来るまでは、彼女が戦ってくれていました。向こうのほうに倒れていると思うのですが」

「わかりました。皆さんを守ってくれていたのなら、私たちの仲間ですね。すぐに治療を!」

 

 

 

 セシリィはすぐにイルヴィナのもとに行ってくれた。

 瓦礫の向こうで悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが、その直後に優しい光がそこから漏れた。おそらくイルヴィナの傷を癒してくれているのだろう。使い魔の命が無事なことに安堵しつつ……シグルドはタロウの身を案じた。

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

・ゼノオーガが あらわれた!

 

・ドンモモタロウは たかわらいをあげている!

 

*コマンド*

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