桃井タロウは楽園行き   作:トナカイ

8 / 19
ウソつきシスター

 

 

 

 

 

 タロウは語りかけてきた女を横目で見た。

 蠱惑的な表情を浮かべタロウにしなだれかかる彼女の容姿は、大人の女の妖艶さと若者のような小悪魔的要素を併せ持っていた。

 マシュマロのような柔らかな双乳がタロウの左腕を包み込んだ。並みの男ならばそれだけで顔を真っ赤に燃やし、自らが男であるという(サガ)に正直になってしまうことだろう。

 

 だがタロウは「一体お前は何をしているんだ?」とばかりの顔でルクセリアを見つめている。彼に限って馴れ馴れしいなどと思っているわけではないだろうが、それでも不思議そうな表情であった。

 シスターもまた、タロウを見てきょとんと首をかしげる。あれ、おかしいな?

 二人がお互いをよくわからない状態のまま見つめていると、横から割って入る声が。

 

 

「る、ルクセリアちゃん! そういうのやめようって……」

「あら? ごめんなさい、セラヴィス。タロウ様も、ごめんなさいね」

「ああ。そうだ、様はいらない」

 

 

 ルクセリアは慌てた様子でタロウの腕から胸を離した。

 セラヴィスは「全くもう……」とボヤき、ルクセリアの隣に座った。

 タロウは目の前の女に、いつもの調子で声をかける。

 

 

「それで、あんた。名前は?」

「ルクセリアと申します。ガーランド大教会のシスターですわ」

 

 

 ルクセリアはタロウの手を取り、笑いかけた。

 タロウは笑みを浮かべたまま「そうか」なんて言っている。

 さっきも腕に胸を寄せたのに、この男は全く反応を見せず、それどころか「何をしているんだ?」と言わんばかりの表情でこちらを見ていた。

 

 ……やはり、おかしい。

 ルクセリアは思った。自分は人よりも恵まれた女性らしい体格をしているはずだ。なのになぜこの男は、まったく反応を見せないのだ。

 自分は淫魔だ。他者を篭絡しその精気を貪るためにこの体はあり、そのために容姿もかなり発達している。この容貌や、豊満な肉体を見て鼻の下を伸ばさない男などいるはずがない。

 

 だが、目の前の男はどうだ?

 なびかないどころか、胸を押し付けられても平然としている。マジマジと観察してしまったが、鼻の下なんて伸びてすらいないし、頬に赤みすらさしていない。

 ……いや、表情に出にくいだけかもしれない。

 ルクセリアはそう思うことにして、タロウに話を切り出すことにした。

 

 

「それで、タロウ様。今日は私のほうからお話が合って、あなたを呼んでいただいたのです」

「ほう、なんだ」

「実は最近、教会での仕事中に……視線を感じることがありまして」

 

 

 ルクセリアは、さも「これ以上は自分の口からは語れない……」というように口を閉ざす。

 柔らかな笑みにも暗い影が差し、タロウの「どうした?」という声にも芳しくない反応を示す。

 するとセラヴィスが慌てて言った。

 

 

「こ、ここからは私が話しますね!」

 

 

 セラヴィスはルクセリアにも確認を取ってから、話せるだけの情報をタロウに語り始めた。

 要約すると以下の通りだ。

 

 近くに人がいないとき、常に視線を感じる。最初はただそれだけで、違和感を感じる程度だったのだという。しかし時間が経ち、違和感はそれだけではなくなった。

 入浴中や着替え中、眠る前にも視線を感じるようになったのだ。そうなると違和感どころか気持ち悪さすら感じるようになり、昨日セラヴィスたちにその話しをして、解決の手伝いをしてもらった。だが、犯人は見つからず、視線による違和感は加速するばかり。

 

 

「えと、ルクセリアちゃ……さんは、男の人と距離が近いので、それでトラブルになることも多いんです。でも、今回は悪質ですし、私たちでもどうにかしたかったんですけど……でも、犯人は尻尾を出さなくて。昨日はルクセリアちゃんの部屋から服が消えたりしたんです。それで、犯人を捕まえるために、タロウさんに護衛を頼みたいんです」

 

 

 お願いできますか? とセラヴィスは問いかける。

 タロウはうなづいた。

 

 

「事情は分かった。だがなぜ俺に頼る? 俺も男だ」

「確かにそうですけど……あ、あの、ほら?」

 

 

 セラヴィスは「ね?」と小首をかしげ、問いかけるように言った。

 タロウにはまるで意味が分からなかった。ルクセリアは男で困っているというのは理解したが、その解決のために男である自分が駆り出されるのはどういうわけなのか?

 

 

「わからないんですか?」

「ああ、わからん」

「タロウさん、あんまりそういうこととか、気にしないじゃないですか。ほ、ほら、見てくださいこの修道服! 昔からの王宮傍付きの制服だっていうから着てますけど、その……露出が多すぎて、たくさん変な目で見られるんですよ!」

 

 

 そう涙目になりながら訴えるセラヴィスの修道服は、確かにスゴかった。なんというか、いろいろ隠せていないのだ。

 足の前掛けは辛うじて股の間を隠せるかというもので、彼女の太ももを全く隠せていない。上のほうはまだマシだが、胸の上半分がなぜか露出している。ルクセリアの着ている一般的な修道服とは全く違う、なんというかそういうコスプレにしか見えないような代物だ。

 

 タロウはそういう服を見ても「なるほど、そういう服なのか」くらいにしか思わない。

 それどころか、セラヴィスがこの衣装を着ているのを初めて見た途端、自分の着ている制服の上着を肩から掛けてくれたほどだ。

 寒そうな格好だからということらしく、鼻の下も伸ばさずまっすぐと目を見てくれた。

 紳士……というのとも違うような気がする。なんというのだろう、そもそも欲がないように思えるのだ。彼からの視線はいつも変わらず、誰に対しても同じようなものが向けられる。

 セラヴィスの知る中で、彼は最も信頼のおける異性であった。

 

 

「タロウさんが女の人をそういう目で見たりしない人なのは、知ってますから。だから、私もお友達を任せて大丈夫だって、思えるんです」

「そうか。なるほど」

「力を貸していただけますか?」

「否応はない。具体的には何をすればいい?」

 

 

 タロウの言葉に二人は「ありがとうございます!」と応え、それから作戦を伝えた。

 といっても、まずは相手の出方をうかがおうということで、すぐに犯人を捜すことはしないつもりだ。

 

 

「あなたにお頼みしたいのは、私の護衛ですわ」

 

 

 特定の男性と共にいることで、ストーカーへの牽制を行うつもりらしい。これで相手が逆上してすぐに行動を起こしたら、それで解決。そうでなくても、何かしらアクションを起こすはずだ。後はそれに応じて対策を考えていく。

 タロウはうなづき「わかった」と答えた。

 

 

「それじゃあ、明日からお願いしますね、タロウさん!」

「いいだろう。社長のほうにも相談しておく」

「まるでデートの相談みたいね……楽しみにしていますわ、タロウ様」

 

 

 そこからはお互いの予定をすり合わせたりして、行動する時間を決め。明日の昼頃から、聖ガーランド大教会で落ち合い、共に行動することになった。タロウは意欲的にルクセリアを助けてくれるようだった。

 

 これで安心だ。セラヴィスはそう思った。

 ルクセリアちゃんの不安はきっと取り除かれる。お仕事にも専念できるだろう。

 そうなったら万々歳だ。リリーちゃんにも伝えておかないと。

 

 そうほんわかと考えていた彼女は、知らなかった。

 

 

「……ど……どういう、ことだ?」

 

 

 自分とルクセリアとタロウの会話を聞いて……顔面蒼白となった、救国の賢者様がいたことを。

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

「ほえ~! タロウさんがおデートですか!」

 

 

 そのことを聞いて「なんとなんと!」とイルヴィナは面白そうにはしゃいでいた。

 シグルドは沈鬱な表情で「そうらしいんだ」とだけ言った。

 

 

「シスターさんとのおデート……うぅん、羨ましい限りですっ! 私だったら口説きに口説いて、明日の朝にはベッドの上でコーヒーを飲んでモーニングとしゃれこみたいですねぇうへへへぎゃふん⁉」

「妄想が過ぎるぞ、淫魔」

「い、イルヴィナですよアウローラちゃん……お、おなか、お腹がぁ……」

 

 

 椅子から立ち上がりくねくね動き出し、挙句に妄想のシスター役にアウローラをあてがい始めたのが悪いのだと思う。アウローラの腰あたりにしれっと手を添えながら変なことを言い出したイルヴィナは、見事な腹パンを叩き込まれ悶絶と同時にうずくまった。

 先日から新たに加わった家族のツッコミのキレは、どうにも鋭く手厳しい。

 とはいえそれも、この家に若干とはいえ慣れてきた証拠なのだろう。

 

 別の世界から戦士の魂をこちらに呼び寄せ、エデンズエナジーによってその肉体を形作る境界門ネメシス。その力によって大侵攻の折にシグルドに召喚され、こちらの世界で活動するための体を得たアウローラ=リッター・アルシエルは、シグルドの騎士としてアジトで暮らしていた。

 

 事情はまだ話していない。どこかで話すべきだろうと、シグルドは思っているのだが、果たして一体いつがちょうど良いのか。打ち明けることが苦手な性分がここにきて出てきてしまっていた。早めに話しておいたほうが良いのだろうが……

 

 アウローラは元の世界で死にかけていたらしく、トドメを刺される寸前にシグルドに召喚され、応じたのだという。そういった経緯もあってか、アウローラはシグルドのことを深く信頼していて、アジトの警護なども率先して行ってくれていた。

 シグルドが昼間、安心して家を出て会議に出席できているのも彼女のおかげだった。

 淫魔のことは信用していないとか言っているが、案外イルヴィナといいコンビじゃないか? とシグルドは思っていたりする。

 

 いやいや、今はそんなことよりも……

 

 

「はー……デートなぁ。完全に出遅れた」

「え? まさかお姉さまが潰れているのって、タロウさんをデートに誘えなかったからなの⁉」

「違うぞ?」

 

 

 違う、全然違う。誘うんだったら今お前を誘いたいぞ、とシグルドは言いそうになったが、話が逸れるな、とも思った。

 言葉を飲み込んで首を振り、事情を話す。

 

 

「昨日の軍議で、ゼノバイドへの反攻作戦の概要が決まったことは話したと思う」

「えっと、うん。聞いたよ」

 

 

 昨日の軍議の折、シグルドは騎士団長らの前でゼノバイドにまつわる情報を開示した。

 

 彼らが先日の大侵攻の折に使役した淫魔の軍勢の総数は一万弱。そこにはゾンビなど、死人の亡骸から生み出した怪物も少なからず存在していた。それほどの軍勢を自在に使役し、一国家と対等に戦えるということは、その脅威は並みのテロリストの比ではないこと。

 彼らがそのような力を用いて願うのは国家転覆などではなく、淫魔王の復活とそれによって来る淫蕩と殺戮の世界の到来。そのための通過点として、彼らは世界征服を行おうとしている。

 

 あの大侵攻の軍勢は大幹部によるものであろう。然らば、その幹部はこの国のすぐ近くに潜伏し、再び侵攻を行う機会を待っている。しかし先日の侵攻の規模は大きく、そのすべてが悉く敗走の憂き目にあったため、その戦力は疲弊しているはず。

 

 叩くならば、今しかない。

 

 シグルドは、自分がゼノバイドにいたという真実は伏せてそのような提言を行った。

 またルドルフの根拠地たる場所も、以前の侵攻の折に使われた召喚術の波長から位置を逆算した……という清々しいまでの大嘘で伝えた。

 

 それらの情報をもとに、騎士団を編成すれば幹部を叩くことも容易であろうとそれとなく伝えると、ノエインも「確かに、可能ではあるだろうな」と首を縦に振り。

 そこからはゼノバイドの反攻作戦として改めて作戦を立案、概要を形作るまでに至った。

 

 

「それで、会議が終わった後にノエインさんに呼び出されて木刀でバシバシ叩かれて、その後にタロウさんにもバシバシ叩かれたんだよね」

「そうなんだよ。あいつらめ、何が鍛えるだ何が私の真意を知るだ殴りたかっただけだろ……!! ああいや、とにかく。その後、ノエインに言われてな。今度の作戦の時、タロウの戦力があったら心強いから、伝えておいてくれって」

「そっか、わかったよ。それを伝えようと思っていたけど、タロウさんはさっき言ってたシスターさんとデートすることになっちゃったから、切り出せなくなっちゃったんだね」

「そういうことだ……はぁ、どうするか。作戦の決行は明後日だし、明日にでも言いに行くか……」

 

 

 幸いにもタロウが行く場所はわかっている。

 聖ガーランド大教会の場所は割と有名なのだ。

 

 できることなら明日中に、タロウの協力を取り付けておきたい。

 タロウは本人の身体能力もさることながら、エデンズリッターと同等か、それ以上の能力を有する真っ赤な陣羽織の戦士__ドンモモタロウへと変身できる。彼の放つ斬撃は、時に強力なゼノモンスの肉体をも、紙屑のようにぶった切る威力が存在する。

 ルドルフもその能力は危険視していた。彼の力があれば勝利は固い。

 

 

「あいつの力を借りることができたら、百人力だからな」

「……ドンモモタロウか」

「ん? どうした、アウローラ。何か気になるのか?」

 

 

 アウローラは「ああ」と前置きし、続けた。

 

 

「主、タロウの持つあの力は……一体何なんだ?」

「あの力? ドンモモタロウのことか?」

「ああ。私は元の世界でも、あんな赤い戦士は見たことがない。歌うように喋る剣や銃などという奇抜な武器をふるい、まるで踊るように戦う戦士……あれは少なくとも、エデンズリッターの類ではないのだろう?」

「ああ。そもそも男性のエデンズリッターが確認されていないから、おそらく違うっていうくらいなんだが……」

「なら、アレはなんだ? あの戦士の力の源は? そもそも奴の正体は? 正体もわからないような存在の力を借りるのか?」

「……まあ、お前の言いたいことはよくわかる。だが、大丈夫だ」

 

 

 事実、ドンモモタロウの性質には謎が多い。

 ドンブラスター、ザングラソード、エンヤライドン。以前「西方大陸の科学技術の結晶ではないか?」と語ったものの、明らかに現代の技術水準を超えた力が、あの三つの武装には備わっている。

 

 魔力を用いず、どこからともなく軽装鎧(アバタロウスキン)を呼び出す力。

 精神に取りついた魔物だけを切り裂く、不可思議な剣。

 馬よりも早いスーパーマシン。

 

 今でこそ市民に受け入れられる彼のその武装の数々は、果たして何を目的に生み出されたのだろうか。そもそも彼はどこから来たのか。あまりに謎が多い。

 アウローラもそれゆえに心配しているのだろう。

 

 謎と秘密に彩られた男。何か重大な事実を隠しているのでは。それが明かされていない以上、手を組むのは危険だ、と。

 

 なるほど。一理どころか百理ある。確かに信用のおけない相手ほど、味方につけたくはないものだ。

 しかしそれを理解してなお、シグルドは「大丈夫だ」と言うことができた。

 彼について一つだけ、信用していることがあった。それが何よりも大きく、どんな影も覆い隠してしまうから、シグルドはタロウを信頼していたのだった。

 

 

「あいつは、嘘がつけないからな。どんなことでも馬鹿正直に答えてしまう」

「それは本当なのか?」

「ああ、もちろん。あいつは無理に嘘をつこうとすると、ぶっ倒れて心停止するぐらいの正直者なんだ。嘘をつくたび心臓が止まるようじゃ、つきたくてもつけないだろう? だから、あいつはいつだって絶対に嘘はつかない。自分の気持ちに正直なんだ」

 

 

 それが良いことであると一概には言えない。シグルド自身、セシリィやノエインに大きな噓をついてこの場にいるのだから。

 だが、彼の常に正直な性分は、やはり好ましいと思っていた。日陰に生きる自分とは真逆といえるほどに清々しく、そして何よりも強い力を持っていることが。だからと言って憧れているわけでも恋焦がれているわけでもないのだが。

 

 

「まあ、あいつと触れ合えば嫌でもわかるさ。あいつの噓のつけなさは本当に異常だからな」

 

 

 そう語りながら。シグルドは一週間前、自分を助けてくれた彼の姿を思い出す。

 赤い神輿とともに現れた道化のような彼。人々を助け、自分やイルヴィナも、彼は助けてくれた。

 それが当たり前だとでもいうように。そこに何か企みがあるのでは__と考えるほど、趣味は悪くない。あれの場合は本当にただ、助けたいから助けているだけなのだ。そうシグルドは思っていた。

 

 

「ふむ……わかった。それほど信頼しているなら、私が何か言う必要もなかったな。すまない」

「いいや、私もあいつが嘘をつけないなんて言った時には同じようなリアクションをしたしな……そんなものじゃないか? まあ、あいつの力が一体何なのかは、私も気になっているんだが……」

 

 

 それはひとまず、今目の前の壁を乗り越えてから考えるとしよう。

 まずはタロウの力を借りることが先決だ。

 明日はタロウの仕事終わりを見計らって、家に招くか……

 いやいや、自分でそんなことやるのはすごくハズいし……

 

 

「イルヴィナ」

「はいはい? なんでそ、ご主人様!」

「明日、タロウを尾行して、いい感じのところで呼んできてもらえるか?」

 

 

 それはストーカーなのではとアウローラは思ったが口には出さず。

 イルヴィナは二つ返事でシグルドに答えた。

 

 

「わっかりますた! イルヴィナちゃんに、お任せあれですっ!」

 

 

 

 

 ♢ ♢ ♢

 

 

 

 次の日の午前のこと。

 朝食を食べ終え、居候先の社長に「今日は遅くなるかもしれない」と伝え、タロウは聖ガーランド大教会に向かった。出る折に、社長がなぜか「明日の朝になっても気にしないわよ」とかなんとか言っていたが「大丈夫だ、必ず夜に帰ってくる」と伝え、そのまま出た。

 

 まだ人もまばらな早朝を、タロウは歩いて教会まで向かう。会社のあるカボチャ商店街の通りを抜け、大通りまで向かう。

 霧のかかったように薄暗く、まだ日の光も少ない道の向こうに、その教会は見えてきた。

 

 その教会は、タロウの知る教会の中では二番目に大きい建物だった。

 聖ガーランド大教会。他者との友愛をこそ尊ぶべしと人々に語ったとされる賢者、ガーランド卿の名からとったとされるこの教会は、彼女が好んだとされる花輪や花冠が多く飾られている。教会の門や柵の上にも、その意匠が多くみられた。ゼラニウムや白のライラックで作られた花冠はどれも精巧で、それぞれの花の良いところを余すことなく押し出すようにして作られていた。

 

 タロウもこれには「美しい。三十五点だ」と評価を下す。教会の人間には決して聞かせられないような点数だった。

 

 と、そんなタロウを見とがめたのか、教会の中から走ってくるシスターが一人。

 

 

「あら、タロウさん! お早いですね」

「リリー、久しぶりだな! やはりあんたとも縁があるようだ」

「ええ、そうですね。ご縁があるようで私もうれしいです」

 

 

 シスター・リリー。エルアラド聖教会に使える修道女であり、セラヴィスの友人である。

 ルクセリアの着ていたものと似たデザインの修道服に身を包む彼女は、桃色の前髪を右に寄せ、青い瞳でタロウを捉えた。彼女もセラヴィスと同様、セシリィの傍付き候補のシスターである。タロウともその縁で、度々王城内で出会っていた。

 

 

「今日はシスター・ルクセリアの護衛の件でいらっしゃったのですよね。こちらにおいでください」

 

 

 リリーに連れられ、タロウは教会に入っていく。

 巨大なステンドグラスが最初に目につき、その下に、ステンドグラスから入り込んだ陽光を受ける聖セフィロトをかたどった女神像の存在があった。それにもやはり花冠が飾られている。

 礼拝に来た人間や、それに対応するシスターなどがいる中、タロウは目的の人間を__ルクセリアをすぐに見つけ出し、声をかけた。

 

 

「シスター・ルクセリア。タロウさんがいらっしゃいましたよ」

「来たぞ、ルクセリア」

「タロウ様! ようこそお越しくださいました!」

 

 

 ルクセリアはタロウに駆け寄るや、すぐさまその手を取った。

 頬は上気して色づき、まるで付き合い始めたばかりの恋人に出会った乙女のような表情だ。

 周りからの視線がタロウとルクセリアに集中する。

 

 

「どうしたのかしら?」

「あ、あれ桃井タロウだぜ。ルクセリアさん、もしかしてあいつと付き合ってんのか?」

「いいなぁ! やっぱ目立つ奴はそれだけモテるのかな……」

 

 

 周囲の声に気づいてか、ルクセリアはタロウからパッと手を放す。

 先ほどの赤い顔から、今度は羞恥に目を回したタコのように真っ赤になって、小さな声で「すみません……」と言った。リリーが小さなため息をついている。

 タロウは「気にするな」と言って、

 

 

「それで、俺はこれからどうすればいい?」

 

 

 と聞いた。ルクセリアは若干頬を膨らませたが、すぐに気を取り直し。

 

 

「私と一緒に行動してもらいますわ。今日は外回りなので、カボチャ商店街の辺りに行きますわ」

「シスター・ルクセリアの周りの人間で、不審な行動をとっている方がいたら、取り押さえてもらっても構いません。それ以外には……」

 

 

 リリーはタロウを見て「言うまでもないですよね」と笑った。タロウが任されているのは護衛だけだが……

 

 

「わかった。何か困っていることがあれば、手伝おう」

 

 

 と、彼なら言うに決まっていたから。

 

 

「ではお願いしますね、タロウ様」

「ああ、任せておけ」

 

 

 ルクセリアは改めてタロウの手を取ると、花が咲くような笑みを浮かべた。

 しかしタロウはやはり、どこまでも仏頂面なのだった。

 

 ルクセリアは、そのことが気に入らなかった。

 なぜ自分になびかないのか。篭絡なぞできそうにもない。隙を全く見せない。

 普通の男と明らかに違っていて、その違和感がルクセリアの神経を逆なでした。しかしそのことは口にも顔にも出さず、ルクセリアはタロウとともに教会を出た。

 

 共に歩く中で、弱点を見つけられればいいのだが。

 隙のない今の状況で仕掛けても、彼を消してしまうことはできないだろう。

 ああそうだ、これは先に言っておかねば。

 

 

「タロウさん。今からのデートに、点数をつけることはやめてくださいね?」

「わかった」

「なぜって、点数をつけられると……って、え、わかったんですか?」

 

 

 二つ返事で了承を取られ、ルクセリアは若干困惑した。

 なぜかと聞かれた時の答えも、あったのだけど。

 

 

「本当に、わかったのですか? 理由は聞かないのですか?」

「理由はいらない。やるべきことは今の状況が教えてくれる。俺はお前の言うことを聞くと約束した。それがすべてだ」

 

 

 ……まさか、たったそれだけの口約束で、何でも聞いてくれるというのか。

 チョロすぎやしないか。隙がないんだかあるんだか、よくわからなくなってきた。

 しかしそれなら丁度よい。

 

 ルクセリアはタロウの手を取った。

 腕を絡め、恋人のように歩いて見せる。そしてタロウの目を見て、

 

 

「こういうことをしても、よろしいのかしら?」

「かまわない。俺は否とは言わない」

 

 

 やっぱり同じようなことしか言わない。

 ルクセリアは若干不満ながら、タロウとのデートを楽しむことにした。

 

 菓子屋で最近はやっているクレープを買い。

 アクセサリーを見に行ったり。

 セラヴィスから教えてもらった、流行っているお店をほとんど回った。

 タロウはその間、ルクセリアが楽しんでいる様子をじっと見ていた。ルクセリアに「何か選んでくれますか?」と言われると、ルクセリアに似合いそうなものを選んではくれた。

 でも、やはり楽しくはないのだった。

 

 

「タロウ様。今、私と歩いて、どう思われていますか?」

 

 

 ルクセリアは思わず、そう聞いていた。

 日も暮れ始めるころ、商店街には少しずつ人の足が少なくなっていた。そんな中を、夕飯代わりにと買ったコロッケを食べているタロウは「どうした」とルクセリアに目を向けた。

 ルクセリアはタロウに胡乱な目線をくれながら、頬を膨らませる。

 

 

「私は、これでも自分の容姿に自信があります。そのうえでお聞きしますが、タロウ様は私と行動していて楽しくはなかったのですか?」

「楽しいか、楽しくないか、か。それを聞いてどうなる?」

「……どうもしません。ただ知りたいんです」

 

 

 あなただって、デートの前の要望を、理由はいらないと言って聞いてくれたじゃないか。そんなことを伝えると、タロウはそうだったなと言ってから、すぐに問いに答えてくれた。

 

 

「よくわからなかった」

「……はい?」

「よく、わからなかった」

「いえ聞こえています。何がわからなかったんですか?」

「このデートが楽しいのか、どうかだ。そもそも、これがデートだと俺は知らなかった。俺はずっと、お前の周りに怪しいやつがいないかを見ていたからな」

 

 

 ……ルクセリアは心の底からあきれた。

 なんて馬鹿正直なんだろうか。普通「ストーカーに困ってるんです」と言い寄ってきた相手のしたいことなんて、普通にデート一択だろうに。

 

 ああでも、思えばこの男は、菓子屋で並んでいるときも__

 

 

『こっちに寄れ』

『え? あ、ちょっと、引っ張らないでください!』

 

 

 ……というようなやり取りをして、なぜか自分とルクセリアの位置を入れ替えたのだ。何かの気まぐれかと思ったが、まさか何か、本当にストーカー紛いがいたのだろうか?

 それ以降も、できる限り後ろに立って、周囲に気を配っていた。なるほど、本当にこの男は、自分を守ってくれていたんだとルクセリアは理解した。

 

 

(……ご苦労様、ね)

 

 

 ルクセリアは静かに、心の中でそうつぶやく。

 ストーカーに見られている、なんてことは嘘なのに。

 セラヴィスもリリーも……桃井タロウも、簡単にそんな嘘に引っかかってくれる。セラヴィスなんて、その話を切り出した時には、

 

 

『大変だったね……大丈夫、そういう時に助けてくれる人がいるから、紹介してあげる!』

 

 

 と言って、すぐに桃井タロウに話をつけに行った。

 なんで誰もかれも、すぐに人を信用してしまうのだろう。意味が分からない。

 向けられた愛情が、友情が、本物だとは限らないのに。

 

 ルクセリアにとって、怒りや恐怖のようなむき出しの感情以外のものは、並べて偽物だった。

 今自分が浮かべている笑みも、嘘だ。自分が他者に向ける愛も全て嘘。

 

 愛なんてわからない、なんで向けられて、与えられて喜ぶのかもわからない。

 ルクセリアにとって、愛と感情はそういうもの。淫魔として生まれたルクセリアにとって、他者に快楽を与えて精気を貪ることが、生きるために必要なことで。愛情も友情も、そのために使える道具でしかないのだ。

 魔界と、ゼノバイドの内部にいる間は、それでよかったのだ。しかし、ガーランド教会に潜入するにあたって、セラヴィスたちに出会った。

 

 彼女は無私の愛情をルクセリアに向けてきた。悪辣な生態が故に、他者の愛情すらも疑うようになったルクセリアにとって、それは初めてのことだった。疑ったし、今でもその愛情は本物なのかと疑っている。

 そんな彼女が浮かべる笑顔は、やはり全て噓でしかなくて。

 

 桃井タロウはそんな噓まみれの自分を信頼した。ルクセリアにとって、それは嘲笑に値するレベルの愚鈍さだった。なぜそうも簡単に、人を信じてしまうのか、理解しがたかった。

 

 

「ルクセリア」

 

 

 不意に、タロウが自分の名を呼んだので、ルクセリアは「どうしました?」と首をかしげる。

 タロウは、彼女に問いを返した。

 

 

「お前は、楽しかったのか?」

「……ええ。まあ、少しは楽しめましたわ」

 

 

 ルクセリアは噓をついた。

 好きでもない相手と行動を共にして、おべっかを言って、愛想笑いをして……そんなこと、楽しいわけがあるものか。

 それでも自分は、この男を__桃井タロウを監視し、今度こそ抹殺するために、行動を共にし弱点を探らねばならない。

 ルクセリアはそんな思いを、胸に秘め、タロウの目を見て、告げた。

 

 

「あなたのおかげですわ。桃井タロウ様」

 

 

 その言葉に、一片の真実も、ありはしなかった。

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

☆ステータス №3☆

 

 なまえ :イルヴィナ 

 ジョブ :まかいメイド 

 せいべつ:おんな

 レベル :17

 

 タイプ :スピア

 ぞくせい:じゃこく

 レア  :☆☆☆☆

 

*そうび*

 あたま :むまのカチューシャ

 どうたい:いんまのレオタード

 ぶき  :けっそうブラッドアース

 みぎて :ぬいぐるみチョコミン

 

*しょうごう*

 さいつよメイド

 おまかせあれですっ!

 

*かいせつ*

・いんまメイドは まかいよりきたれり。 じゃっかんアホのこ たよれるこ。

 ざっそうだましいはりつけた しんぱいしょうなメイドさん。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。