便利屋68 ネオ・チャレンジャー基地占拠事件   作:まーろう

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12 サイロ突入

 天井に均等な間を作っている電灯の光は、連絡道の空間が奥へ収束するにつれて光が重なって、よく晴れた日の満月のような光を放っている。北へ続く連絡度を駆け抜けると、月の光から一つずつ光が分裂していき、頭上に迫るにつれて細く引き伸ばされる。先へ続く青いリノリウムの床は二人の足音を半分ほど吸い取ると、残りの音を無人の連絡道へ小さく反響させていた。

 

 アルとムツキはサイロへ導かれる道を迷わず走り続けると、時々後ろを振り返って追手が来ないことを確認する。銃器に置いて、銃口付近──マズルといった部品の重要度は極めて高く、状態の良し悪しは持ち主の生命に直結する。しかしこの基地に備わった巨大なマズルへ続く連絡道は、奇妙なほどにひっそりとしていた。

 

「誰もいないわね」アルは後を続くムツキへ、走りながら話しかける。

 

「普通こーゆーのって、警備とかすごいところを突破するイメージだったのに、拍子抜けだねー」ムツキは予想が外れたことで、つまらなそうに話す。

 

 もうロケットは完全に発射準備が完了していて、警備員たちは発射の衝撃から逃れるために、あの退避壕へ避難しているのだろうか?幸運を感じつつも警戒の目は絶えず周りへ向けながら、二人はサイロへ続く連絡道を何の妨害も受けずに突き進んでいった。

 

 長い通路を五分ほど──体感では三十分ほどに感じたが──走り抜けると、両開きする鉄製の扉が連絡道の終点を守っていた。二人は走る速度を落とすと、扉の下まで武器を構えて歩いた。扉の外で音がしないことを確認すると、アルは嫌に重い扉の片面を、両手で全体重をかけて押し動かす。リノリウムの床が丁度よく滑り止めになってくれるため、足に力を込めやすかった。

 

 扉がきしむ音と共に開くと、奥には広大なドームのような空間が広がっていた。部屋はちょうど円形に広がっており、壁沿いに連絡道と同じ青いリノリウムの床が輪のように伸びていた。部屋の中央は青い歩道から一段下がって、白く色付けされたサッカーコート程の大きさの板が二枚敷かれており、部屋をちょうど真っ二つにするように境目が伸びていた。天井も同じように二枚の巨大な板で覆われており、床の境目だけは黄色と黒のガムテープが貼られて注意を促している。

 

 ロケットを制御するコンピュータ室は、アルたちが入ってきた扉の場所から中央を挟んで対角の位置に壁に埋まるように設けてあった。壁に設けられた窓はダイヤ模様の細工がされており、中は見えなかった。こんな発射位置の近くにあるということは、あのガラスは光や音を遮断するだけでなく、水族館の見上げるほど大きな水槽に使われるような極めて厚いものを使っているのだろう。

 

 アルがコンピュータ室を見据えながら一通りの観察を終えると、壁に埋め込まれた窓のすぐ隣の扉──壁と模様が同じですぐには気づかなかったが──が開いた。コンピュータ室から出てきたのは、白い長髪と対象的なダークネイビーのレザージャケット姿の天唯オアだった。ジャケットの中にはヘンリーネックの黒シャツを着用して、防水加工が施されているであろうジーンズ柄のスキーズボン、登山用の底の厚いブーツ、レザーのグローブは全て暗色で統一されており、社長室でのスーツスタイルからかなり大胆な変化だった。右肩にかけられたショルダーストラップは、真ん中に細い白のラインが一本だけ通った黒ベースのもので、繋がった先にはオアのシルエットから異様に発達した銃口が上にはみ出た対物ライフルが存在感を放っている。

 

 やはりここにくることも予想していたようにオアはこちらを見ると、ドームに響く大声で演説でもするように話した。「間もなく夜が明ける。キヴォトスの夜明けだ。新たな世界秩序の幕開けでもある。今日はキヴォトス史の新たな一章が始まる歴史的な日となることだろう」

 

 アルはオアをじっと見つめて、負けないくらいの声量で返した。気合で負けていては、大事な勝負に勝つこともできないわ!

 

「舞い戻ってきたわよ、オア!世界征服なんて今時流行らない野望は、キヴォトス一番のアウトローである私達が打ち砕いてあげる。さぁ、銃を抜きなさい!」互いに選手宣誓のような口上が終わると、アルはショルダーストラップを外し、ライフルを片手で構え、狙いを仁王立ちのまま動かないオアに定めた。

 

 今のってすごくアウトローっぽくなかったかしら!自分の一連の行動に心の中で惚れ惚れするが、オアはこちらを馬鹿にしたような目で見ている。そして左の掌を自分の胸の前に置くと、今度は競技のルール説明のように話し始めた。

 

「コンピュータ室からの制御は、私の持つリモコンからの電波で止められている。ロケットを止めたければ、もはや私を倒すしか方法はない」ここでオアは一呼吸置くと、例によって首を傾げた。「ところで、いきなり大将首を取ろうと考えるのは、いささか現実的ではないと思わないか?スペクトルはまだ誰も倒れていない。冒険小説や映画を見過ぎたようだな、アル」

 

 突然ドームの中に警報音が響く。ドーム内の赤い警告灯が小さい灯台のように回りながら、迫りくる危険を知らせていた。警報音に混じって、天井に遮られていた吹雪の音が強くなるのを感じる。アルとムツキが注意を上に向けると、天井を蓋していた二枚の板が、閉じた目が開くときのように少しずつ動いていた。天蓋の間から夜空がこちらを覗き、吹雪の手がドーム内に入ってくる。

 

 やがてゆったりとした動作で天蓋が半分ほど開いた辺りで、自然界にはない人工兵器特有の鈍い機械音が規則的に聞こえてくる。四枚の鉄の刃が空気を切り刻む音だった。大きな鉄の塊をも軽々と持ち上げる主翼のスラップが山中に響き、天蓋が開ききったことで山肌の一部となったドームの中にもその音が伝わってきた。

 

 そして吹雪の奥の山肌の輪郭から、恐ろしいほどに大きな羽ばたく音をさせながら、巨大な黒い鉄塊がぬらりと姿を現した。正面から見るとゴテゴテとした角ばった黒い顔の頬から、触覚が真っ直ぐに伸びているようだった。触覚のように伸びた両翼の下には飛行機に着いているような円筒型のエンジンが抱えられており、通常の戦闘ヘリと比較して重装甲の武骨な顔の顎下に当たる箇所には毛が一本生えたように機関砲一門が絶えず地面を向いているだけで他の武装が見当たらないのが返って不気味さを醸し出していた。

 

 チタン合金製の頑丈で透明なキャノピーの中には、非常階段で打ち倒したはずの下尊アスが乗っていた。相変わらず頭の後ろで束にした金髪にタクティカルジャケットという装いだったが、右目に黒い眼帯をして両手には紺のファイトグローブをはめている。オアもドームの遠く向こう側でヘリを見上げていた。今、ヘリコプターは高度を下げて天蓋が完全に開いたドームへ吹雪と共に侵入してくると、アスは口元まで伸びたマイクを通して搭載された拡声器から少しくぐもった声で話した。

 

「やってきたな闖入者共!こいつは私が主導して改造したスペクトル専用の局地制圧用攻撃機、アパッチメタルガーだ。やはり戦場というのはこうでなくてはな!」

 

 雑音混じりの声には非常階段の時と同じく、戦場のもたらす興奮が漏れ出ていた。「私はこの景色が何よりも好きでね。巨大な攻撃機を自在に操って戦場を上から見下ろすと、まさに戦場を征服したような全能感と湧き上がる快感に包まれるのさ」

 

 ドームはヘリコプターの羽ばたく音とアスの話し声が音楽ライブの会場のように響き渡り、すぐ隣にいるムツキの声が聞こえるかも分からない。アルは退避壕でのオルの好戦的な態度を思い出した。どうやらスペクトルというのは、根っからの戦闘集団のようね!

 

 アルがヘリコプターが作る暴風で飛ばされないようにコートを抑えると、ムツキは飛ばされてくる雪が顔に当たらないように右手を額にかざした。アスは眼帯を着けた右目をなでると、機体を操作しながら話した。

 

「非常階段での一幕は楽しかったぞ。目をやられたが、おかげで箔がついた。お前たちにはその礼も兼ねて、ここで我々が相手になってやろう」そう言うと、機体を時計回りに回転させて左側を向ける。

 

 ヘリコプターはコックピットのすぐ後ろが右側まで突き抜けた空間になっており、中腰の状態で通り抜けられる程の大きさだった。ちょうど左から右へ側面が巨大な銃弾で撃ち抜かれたようにぽっかりと穴が空いたヘリコプターは、アルの常識で考えられるヘリコプターの設計から逸脱しており、奇をてらった歪な乗り物とも何をしてくるか分からない油断ならない大敵とも取れた。

 

 ヘリコプターが体の傷を見せるように左側面をこちらへ向けると、穴口の上に手をかけて片膝を立てた状態でヘリコプターの穴に収まっている上我オルの姿があった。機内に積んだガスボンベからマスクへ管を繋いでいるからか、何も背負っておらず身軽な印象を受ける。オルは右手に握っている、口が放射状に広がった電子拡声器を口元へ持っていくと、過剰とも言える程の大声を拡声器にぶつけた。

 

「よくぞここまで辿り着いた!前回はちゃんと相手をしてやれなかったからな、今度はお前たちとも遊んでやろう!」そういうと拡声器を中へ仕舞い込み、例のストックがねじれた武器へ持ち変える。「さぁ、パーティーの始まりだ!」

 

 拡声器がなくとも十分すぎる声量で叫ぶと、銃口をアルでもムツキでもなくヘリの真下へ向けてトリガーを引いた。

 

 重力の影響を受けた爆弾は、発砲音が聞こえるのとほぼ同時に床へ着弾した。アルには発砲音と破裂音が重なって聞こえたかと思うと、次の瞬間にはドームの向こう側にいるオアを覆い隠すほどの鮮やかな花火が床で爆ぜた。赤や黄色や緑の火花が爆発の衝撃でドームに半球状に広がると、ヘリコプターの起こす風によって火花はドーム中に撒き散らされる。アルはとっさにお気に入りのコートを守ろうとしたが、火花はコートはおろか全身にくまなくぶつかってくる。体のあちこちが刺されるような熱さに晒されると、アルとムツキは反射的に短い悲鳴を上げた。手に当たると思わず手を跳ね除けて、足に当たると跳ねるように飛び上がった。オルは火花に踊らされる二人を見下ろしながら、意地悪い笑い声を上げていた。

 

 やがて雪山の夜風と体に当たる雪によって火傷をした箇所が冷やされてくると、ようやく落ち着いた二人は火傷した素肌を吹雪を塗りたくるように撫でて癒やした。二人とも服に火花が当たった箇所に蟻の巣穴がぽつぽつと空いてしまった。加えてムツキはアルよりも素肌の露出が多かったことが災いして、あちこちが赤くなっていた。

 

 アルはなんとか平静を取り戻すと、先程までいたはずのオアの姿が消えていることに気づいた。ドームを見回すと、コンピュータ室から右に5メートル離れたところにある両面開きのドアが、誰かが出ていって閉まる直前だった。きっとあの先だわ!オアの行き先が分かると同時に扉はひとりでに閉まる。

 

「待ちなさい!」

 

 アルが扉の方へ真っ直ぐに駆け出すと、それを見たムツキはヘリコプターへ機関銃を乱射した。オルがヘリの穴へ消えると、正確な狙いの銃弾たちはヘリコプターに命中するが、全く効いている様子はない。アルがヘリの真下をくぐると、装甲に弾かれた銃弾が雨のように降り、床から軽い金属音が連続で聞こえた。

 

 オルはムツキの攻撃から逃れつつ反対側へ移ると、すぐさまアルが目指す扉へ向けてもう一撃をお見舞いした。アルの眼前で爆発した弾は、火花ではなく白い煙を吐き出すと、アルは火花の刺すような熱さでなく骨まで蝕むような冷気を感じた。煙が晴れると、先程閉まった扉の鉄の部分には霜が張ってしまっている。辿り着くと扉を開けようとして、両面の扉が完全に凍結してくっついてしまっていることを理解する。冷凍ガス弾だ!手袋越しに触れた取っ手から金属の含む冷たさを感じ取ると、手袋が掴まれてベリベリと音を立てた。離れると手袋の毛が何本かくっついている。

 

「つれないな?まだまだ夜はこれからだぞ!」

 

 ヘリからこちらを見下ろすオルと目が合う。こんな時間がない時に!アルは歯噛みすると、頭上の空飛ぶ戦車にライフルを向けた。

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