便利屋68 ネオ・チャレンジャー基地占拠事件   作:まーろう

3 / 26
3 チャレンジャー

 陸八魔アルは自分のお茶を一飲みして、ここまでの情報を血液と一緒に巡らせる。アックスの一言は、疑問の持ちようがないほどに明快なものであった。ではこの社長の秘密の依頼というのは、武装集団を倒して会社を救ってくれということか!聞きたいことは多いが、こちらも社長らしく言葉を選んで返す。

 

「つまり私たちへの依頼はその武装集団を倒してほしいということで間違いないですね?」

 

「そういうことだ」相手の意をくんで話すと、アックスはようやく自分が握っていたダイナマイトのバトンを他人に渡したように一息ついて続けた。「正確には武装集団の中でも首謀者たちを無力化してほしい。首謀者は君らと同じゲヘナ学園の生徒四人で、元はカイザーが用心棒として雇っていたんだ。"スペクトル"といってね、主にカイザーPMCの技術支援を受けた次世代型兵器を使う精鋭集団だ。相当に手強いぞ。彼女たちの要求は現金一千億円、二十四時間以内に基地に運ばないとロケットをカイザーに向けて打ち込むと脅迫してきている。今は──ええと──午後の六時前か。通告は正午きっかりに来たからあと十八時間しかない。もちろん、我々にそんな大金が用意できるわけない。分かるかね?奴らは宇宙ロケットをただの馬鹿でかいミサイルとしか思っておらんのだよ」

 

 アックスは熱が入ると語気を強めて続ける。「そもそもミサイルとロケットがまるで同じもののように思われているが、実際は全くの別物だ。君らはロケットに衛星の代わりに爆弾を積むとミサイルになると思うかもしれんが、勘違いにも程がある。ミサイルにロケットの代わりをさせることはできないし、ロケットにミサイルの代わりをさせるのは無茶な話なのだよ。例えば攻撃用のミサイルはいわば無人の特攻機のようなもので、敵の懐に素早く詰めて爆発してもらわねばならん。宇宙まで物を安全に運ぶためにあらゆる脅威から中身を守るように設計されたロケットでは、ジャンボジェット機を特攻に使うようなものだ。装甲を何層にも重ねるから、重くなるしそれを飛ばすための燃料、エンジンもどんどん巨大化せざるを得ない。確かに衝突時の破壊力はあるが、それでも無茶なことには変わりないんだ。それに我々のロケット──ネオ・チャレンジャー号と名付けたのだが──これは液体燃料を採用していて、保存や管理が非常に難しいものなんだ。これを安全に扱う技術があるからこそ我々が選ばれたというのに、あの身の程知らずの小娘たちときたら!自分たちだけでロケットを制御できると思うなんて、とんだ思い上がりだ!君らもそう思うだろう?」

 

 アルは勢いで頷き、なんとかこのおしゃべりな口を止めようと思ったが良い文句が思いつかなかった。先ほどまではどうにかして話を聞き出そうとしていたのに、今度は話を止めなければならないとは!すると横からカヨコがこの機を逃すまいと話を依頼へ戻す。

 

「そのスペクトルってカイザーの組織でしょ?ならカイザーに苦情を入れて対処してもらう方が良いんじゃない?」

 

 アックスはこの問いで元の深刻な表情に戻った。

 

「それも考えたが、抜け目ない奴らはすでにカイザーに仲間を忍び込ませているそうだ。通告の際に言ってきたよ。もし事が外部に漏れることがあれば、その時点でロケットを発射するとね。つまり今この話をしていること自体、厳密には違反行為なんだ」

 

 これでアルにも事情が分かった。アックスがここまで秘密主義のような振る舞いを崩さなかったのも、何かの拍子に占拠が公になるのを防ぐためだったのだ。そして便利屋68をわざわざ頼ってきたのも、少数精鋭で金があれば秘密も守ることを見込んでのことだった。断る理由はなかった。社員たちにも目くばせをすると、全員異論はないようだった。

「分かりました。この依頼は承りましょう。ところでタイムリミットまでもう時間がないから準備が整ったらさっそく動き始めたいのだけど、そのロケット基地はどこにあるのかしら?」

 

 この質問には、秘書のドルの方が答えた。「詳しい場所は言えませんが、とある山の中です。お受けして頂けるのならば送迎を手配しましょう。この時期は少々気温が低いので防寒着もこちらの予備を貸し出します。弾薬などで必要なものは申し付けて頂ければ、こちらの在庫から出します」そういうとドルは一言断って、携帯端末で連絡を始めた。

 

 その間にアックスが液晶の光る眼をこちらに向けて、もう一度念を押すように付け加える。「しつこくなってしまうが、本件はわが社にとっても異例の依頼だ。同業でないとはいえ、部外者を企業秘密の基地へ送り込むのだからな。くれぐれも仕事の過程で知りえた情報は他言無用で頼むよ。君らはただスペクトルを倒してくれるだけで充分だ、あとはこちらが引き継ぐからね」

 

 その言葉には信頼のほかに、若干の疑心、用心が含まれているようにアルは感じたが気にしないことにした。私たちはとにかく報酬さえ貰えればいいのよ。

 

 話がまとまりニ十分後に迎えの車が来ると伝えられると、アルたちは基地での詳しい計画を話した。ネオ・チャレンジャー基地──Neo Challenger Station(ネクスト)──は、施設全体が山に埋まった地下基地となっているらしい。唯一地上とつながっているのは資材搬入口と退避豪出入口、そして発射時以外は閉じている地下サイロの三つだけだった。基地は北端に位置するサイロから南側に向かって扇のように各種施設が並び、サイロとの連絡道がタコ足のように伸びている構造となっている。各足の施設同士はつながっておらず、施設間の移動はサイロにつながる連絡道を使うしかない。わざわざ山中を選んだのは、山に基地を隠すことで産業スパイの侵入を防ぐためと、地下資源が埋まっているため基地や部品の製造にそのまま使えるというためであった。サイロにはコンピュータ室が併設されており、ここでロケットのモニター制御が行えるようになっている。サイロは高さ八十メートル直径三十メートル以上の巨大な筒で、上部ハッチは外部からの影響を防ぐものとさらにサイロに天蓋をするものの二重になっており、コンピュータ室はこの間のちょうどドームのような空間に設置されていた。

 

 ここまでの地図を頭に叩き込むと、アルは自分の愛銃であるセミオートのスナイパーライフルを手に取りソファに腰かけた。弾倉を外して銃内に弾が残ってないことを確認すると、トリガーを引いて動作の確認をする。確認を終えると弾倉を元通り装着し、最後にセイフティをかけて、ショルダーストラップを首にかける。全員が荷造りを終えたことを確認すると、外で車のエンジンがオフィスの前に止まる音が聞こえた。CLGの依頼人二人が玄関の外に出たら、部屋を見回して忘れ物がないか確認し、迎えの車へ向かった。

 

 外で便利屋を待ち構えていた車は、頭から尻まで五、六メートルほど伸びた黒く背の低い車だった。ドルが助手席から中に向けて何か言うと、歩道に面した車のドアが開く。中は長い革張りのボックス席になっており、薄暗い空間だった。すべての窓にかけられた深緑のカーテンはキヴォトスを染める夕日をほとんど遮断しており、外の様子が分からなくなっていた。カヨコ、ムツキ、ハルカの順に乗り込み、最後に車の中では取り回しに苦労するスナイパーライフルを持ったアルがどうにか入り込むと、ドアは自動で閉じて車が走り出した。映画のなかでしか見たことがない高級車に興奮する本能をもう一人の真面目な自分で押さえつけて基地の構造を頭に描いていると、アルたちと一緒に運転席の後ろに座っているアックスにムツキが話しかけた。

 

「そういえば、そのスペクトルって人たちってゲヘナの生徒でしょ?社長さんから見てどんな人たちだったか聞きたいなー。もしかしたら知ってる人かもしれないし」

 

「一言で言うなら、底の見えない連中だな」アックスは記憶をたどるように言った。「五日前からだが、何名かの人員が続けて負傷してね。山の中、しかも地下基地という慣れない環境で、不慮の事故が相次いで一人は未だに連絡がつかないほどだ。そのうちにカイザーから人員補充の連絡が来たんだ。新しい警備を寄こすとね、それで奴らは三日前に基地に派遣されてきたんだ。第一印象は不思議な連中の一言に尽きるほどの変人揃いだよ、よく数いる生徒の中からこいつらを拾ってきたと言いたくなるくらいだった。ただきちんと警備はするし、私もそれに油断してしまったんだな。気が付いた時には、金に目がくらんだ連中まで基地になだれ込んでこのざまさ」最後の方は、自嘲するように話していた。

 

 言い終えると、アックスは常備されている新聞を手に持つが開きはせずに黙り込んでしまった。アルは基地の構造を復習していたはずが話に注意を奪われていたことに気づくと、先ほどまで忘れていた問題を思い出して、アックスと仕切りの先の運転席に向けて申し訳なさそうに言った。

 

「悪いのだけど、基地に向かう途中で食事を取らせてもらえないかしら?」

 

 アルたちが前金代わりに貰ったコンビニのおにぎりや弁当を食べ終えた頃に、オフィスから一時間ほど走り続けた車がようやく停止した。車のドアが開くと、肌をかすめる冷たい風が快適な車内へ吹き込んできた。外に出るとがらんとした倉庫の中に車が止まっていることに気づく。がくんと下がった気温に鳥肌が立ちながらも倉庫がトタンと木材でできた簡素なものと分かると、おそらくこの倉庫がキヴォトスの中でも外れに位置しており、ここまでの寒さはこの地域の気候のせいではないかと推測した。すると倉庫で待機していたであろう二人の機械人から白い防寒着を手渡される。CLGのロゴが左上腕部にあり化学繊維で作られたこの服は、着ると生地がすれてレジ袋のような音を立てた。車から降りたアックス社長とドルが、着用を終えたことを確認すると倉庫で待っていたスタッフに指示を出すと、スタッフは倉庫のシャッターを開けて外へ出て行った。開いたシャッターからは、外に積もった白い雪が見えた。続けてアックスが話し出す。

 

「ここは非常用に設置されたわが社の待機所だ。ここの存在は奴らにバレていない。我々が近づけるのはここまでで、君たちがスノーモービルで基地へ向かうのを見届けたら会社へ戻らせてもらうよ。あまり不在が長くなると、わが社にも奴らのスパイがいた場合怪しまれるからな」そういうと倉庫の外でエンジンがかかる際の大きな駆動音が中まで響いてきた。負けないようにアックスはどなるように続ける。「これからスタッフがスノーモービルで君たちを基地の近くまで送る。そこからは歩いて入口まで向かってもらう。人通りが少ない退避壕出入口を使うといいだろう」

 

 話している間に、ドルが地図と磁石を渡してくる。地図にはアックスが進める退避壕出入口の地点が赤い点で示されていた。

 

「基地は地下になっているため、当然我々との連絡手段はない。奴らを無力化したら、サイロ上部にあるコンピュータ室で連絡してくれ。あそこは唯一会社と通信が可能な場所だ。では、あとは君たちにすべてを任せよう」

 

 アルは寒さではない、体のそこから沸きあがる何か得体のしれないものに身震いした。そしてアックスの言葉にやはりどなるようにして返す。

 

「必ず成功させて見せましょう。便利屋68にお任せください!」

 

 このやり取りを最後にスノーモービルまで全員で向かう。便利屋全員が乗り込んだことを確認するとエンジンの唸りは一層激しくなり、やがて機体が動き出すと便利屋を乗せたスノーモービルはちらつく雪の中へ消えていった。自分たちが送り出した刺客の姿が見えなくなると、CLGの二人は倉庫の中に止められた車へ戻っていく。アックスはその間に自らの秘書に向けるわけでもなく、独り言のようにつぶやいた。

 

「……これは君たちにとっては小さな一歩だが、我々にとっては偉大な飛躍である」アックスの液晶の顔は表情一つ変わらなかったが、声に混じる電子音には不快なノイズが混じっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。