おれのライセンスは無事だろうか。
そう新聞配達のアルバイトに勤しみつつ、素早く自転車の方向を切り換えて住宅街を駆け抜ける。だが、緊急事態だったとはいえ婦女子の家に無断で入ったことはお詫びしなければ……!
「あそこに見えるお姉さんがいます!」
「今はアルバイト優先だ!」
自転車の籠に乗っている契約黒猫は「あのお姉さんはステキな香りがします」と尻尾を揺らして話す声を聞きつつ、おれは猛スピードでバスを追い越して、新聞を郵便受けに投げ込んでいく。
「くっ、次は団地巡りだと!?」
このままだとおれと黒猫の生活を支えてくれる朝のパンの耳半額セールに遅れてしまう。なんとかしなければ、そんなことを考えながら新聞を収めた袋を担ぎ、ドタドタと階段を駆け上がり、一列に並んだ扉の受け口に新聞を差し込み、次の階に移動する。
「フッ、ノルマ達成だ。黒猫、すぐに半額セールに向かうぞ。……黒猫?」
さっきまでオレの手元にいたはずでは?
とりあえず、今は黒猫より半額セールだ!!
自転車を全力で漕ぎ、行きつけのパン屋にたどり着いたものの。おれと黒猫の主食、パンの耳はとっくに無くなっており、パンの耳の代わりにパン屑を貰えた。
捏ねればパンになるかな。
そんな希望を抱いてチマチマとパン屑を食べていると女子高の前を通った、そのときだった。昨晩、おれのライセンスを洗濯機に投げ込んだお姉さん、あと幸せそうにジャムパンを食べる黒猫を見つけた。
「ん?」
「あ、悪霊…!」
サササッと小走りで遠ざかる幼子の一言に、おれは本日何度目なのかも分からないショックを受け、女子高の校門脇でシクシクと泣いた。
ハルヒコ……くんと一緒にいた黒猫が何故か友達の百合川ハナと一緒に登校してきた。まさか、この学校に来てるのかな?と少し視線を変えてみるけど。
廊下には彼はいなかった。
「みこ?おーい、ん~?」
「オハヨ、オハヨ」
やっぱり、いる!?
教室の壁をすり抜けていった幽霊を無視して、私はハナと一緒に教室に入ると。ハナの机とさっきの挨拶してきた幽霊が合体していた。
なんで、そうなるの?
「うわ、悪霊化してます。ハルヒコ様、早く学校に入ってきて下さい。え?女子高に入るのはムリってバカなんですか?」
ヒソヒソと話す声が聴こえて、ハナの方を向けば黒猫が糸電話に話しかけていた。なんで、糸電話なんだろうかと疑問を抱きつつ、のっそりと目元をタオルで隠したハルヒコ……くんが壁をすり抜けて現れた。
けど、すぐにタオルを外した。
見えにくかったんだね。
「オハヨ」
「俗名『挨拶運動女』および『女体追究タコ男』だな。黒猫、とりあえずソイツらを教室の外に追い出してくれ。ここだとやりにくい」
「ハルヒコ様、ムリです。私の身体はハナお姉さんに掴まれて、全く身動きが取れないんです…!」
「くっ、
なにか副音声が聴こえた気がする。
そんなことを考えながら綺麗に消えていくバケモノ……じゃなくて幽霊に私は安堵する。良かった、これで今日も幽霊とか見なくて済むんだ。
「また、会ったな。出来ればなんだが屋上か中庭でライセンス返してくれると助かる」
「ハルヒコ様、私も助けてください」
「フッ、ムリだ。今は諦めてくれ」
そう言ってハルヒコくんは教室を出た。どこか羨ましそうに黒猫を見つめ、また目元をタオルで隠しながら飛び立った瞬間、ウシみたいなものに轢かれた。