大きな車輪の浮かんだ不思議な場所───。
ハルヒコくんの黄泉の羽織という人間を霊体化する便利かつ高価なアイテムの半分ほど借りて、私は様々な人の行き交う市場を歩く。
漢字表記の値札だけど。現代の硬貨や紙幣は使えるらしく、ハルヒコいわく「あの世に金銭の概念はあるが、しっかひと時代毎に変更している」とのことだ。
「むっ。四谷みこ、これなんてどうだ?」
そう言って私の手を掴んで引き寄せた彼は『結界ガムテープ』という品物を見せてきた。なになに?窓や扉、部屋の四方を覆えば即席の結界を作ることが可能です。
すごいアイテムなのに価格は600円なんだ。
「ハルヒコ様、自分で使いたいものを買わせるのは良くないですよ」
「黒猫、おれは善意で教えているだけだ。それに四谷みこも寝室や家屋に幽霊が侵入してきたら、いやだろうと考えての提案だぞ?」
「ほんとですかぁ?」
「ああ、ほんとうだ」
そんなことを話す一人と一匹を放置して、私はキラキラした虹色の砂時計を手に取って見つめる。名前はそのまま『除霊砂時計』なんだ、値段は2万円!?
「有効期限10年ってすごい」
でも、2万円は流石に高いかも……。
「その砂時計なら試供品を持ってるぞ。若手死神講習会の会合で予備の砂と一緒に貰っている。欲しいなら買わずにおれのを渡せるぞ」
「あのときは砂じゃなくて食い物をくれって凄んでましたよね。まあ、ふつうに講習会のひとに怒られて一緒に帰りましたけど」
その会話に苦笑いを浮かべながら私はハルヒコくんの借りている家に向かうことになった。ただ、なにやら彼はお店の人と話していたけど、よく聴こえなかった。
「じゃあ、現世に戻る。離れるなよ」
「うん」
ハルヒコくんの手を握って私は目を瞑る。
ほんとは目を開けていても大丈夫らしいけど。霊道は幽霊も多く通る場所だから、私が怖くないように目を瞑っているほうが良いってハルヒコくんが言っていた。
「黒猫、持ってきてくれるか?」
「わかりました!」
「もう目を開けて平気だ」
「わかっ、たッ!?」
古びたコンクリートの部屋に畳を3畳ほど敷いた部屋に驚いてしまう。金欠だったり、貧乏だったり、そういう話は聞いてたけど。
まさか、ここまでとは想像してなかった。
「ほら、砂時計。あとこれも渡しておく」
ハルヒコくんから砂時計をもらうときに、小さな小袋を手渡された。そういえばさっきの露店でお店のひとと何か話してたけど、そのときかな?
「開けて良いの?」
「むっ。好きにしてくれ」
「これ、ヘアゴム?」
それは、小さな水晶の付いたヘアゴムだった。
「おれに買えるのはソレが精一杯だ。だが、幽霊や悪霊を寄せ付けない効果はある」
「そうなんだ。ありがとう」
ハルヒコくんなりに私のことを心配してくれたんだと知り、なんだか嬉しい気持ちになる。