「なんだ、これは?」
おれは霊道を抜けると四谷みことその友人の近くに立つ巨大すぎる悪霊を見上げていた。ただの悪霊化しただけの幽霊に、ここまで霊体を変質させる力はないはずだ。
いったい、どうなってるんだ。
「手持ちのカマだけじゃ浄霊できないぞこれはッ」
その言葉に僅かに身体を跳ねさせる四谷みこと視線がぶつかり、彼女の不安と絶望の混ざった顔に申し訳無さを感じるが、おれに出来るのは取り憑く先を一時的に変えることだけだ。
「黒猫、二人の近くにいてくれ」
「で、でもハルヒコ様は?」
「安心しろとは言えないが、おれは大丈夫だ。多少の無茶はもう何度も経験しているだろ?」
黒猫は渋々とオレの肩を降りて四谷みこの近くに座っておれと悪霊を見上げている。そこら辺に漂っている浮遊霊を好き勝手に食べやがって、何様のつもりだ。
「俗名『霊食らいの悪霊』よ。輪廻の輪に乗り損ねたお前を再びあの世に送り届けよう」
かなり不服の策だが、使えるものは使う。
「堕魔死神道具、吸血火車…!」
燃え盛る車輪を呼び出し、死神のカマを添えた瞬間、おれの手元に3000円が現れる。くっ、おれの大事な仕事の道具を売ることになるとは悲しいぞ。
「受け取れ、3000円の旅費だ!」
堕魔死神の吸血火車を消して、素早く霊道に3000円を投げ込めば悪霊化した霊魂を焼き尽くす地獄の炎を帯びた制式死神道具『火車』を役所を経由して賃貸した。
「火車烈断!!」
さらば、おれの死神のカマよ。
おれの放った火車は悪霊と浮遊霊を分離して弱体化させることに成功したものの。おれには浄霊できるアイテムは残っていない。
「そいやっ!」
────ゆえに、直接輪廻の輪に投げる!
ハルヒコくんが来てくれた。
でも彼は空に穴を開けて、その中に大きくなりすぎた悪霊と一緒に飛び込んで消えた。突然の事に困惑する私にハナは身体を揺さぶり、駅前近くのベンチまで優しく引っ張ってくれた。
黒猫は、ただジッと空を見つめている。
ずるりと空の穴から出てきたのはハルヒコくんだったけど。ジャージはボロボロに汚れ、高いから汚したくないと言っていた鮮やかな黄泉の羽織も赤黒く染まっている。
「はあッ…はあっ!輪廻に還るかと思った!?」
「ハルヒコ様ぁーーー!!!」
「むぶっ、やめろ!今はやめろ!」
ジタバタと暴れるハルヒコくんに黒猫は飛び付いて、嬉しそうに笑っている。良かった、あのまま帰ってこなかったらどうしようかと思っちゃった。
「むぅーーっ。みこってば!」
「ひゃあっ!?え、な、なに?」
「何は此方のセリフだよ!さっきから『ハルヒコくん、がんばれ』って何言ってるの!!」
…………こっちもこっちでピンチです。