IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~ 作:のろいうさぎ
「それでは本日より、格闘と射撃を含めた実践訓練を開始する」
結局、色々あって間にあいませんでした。
一夏は更衣室でシャルルと、物理の問題を出したりしていたが、何やってたんだろ。
ちなみに僕の場合は、完璧にルートミスだった・・。
あの角をまっすぐ来たのがダメだったんだよなぁ。
あそこで、包囲網に見つかるの覚悟で曲がっておけば、後は直角だったのに・・・。
で、予想通り、罰はアリーナランニングだったが、遅れた分数=アリーナ外周という慈悲深いお情けのおかげて、前ほど酷いことにはならず、なんとか皆が準備し終えるまでには合流できた。
なぜか箒と鈴が叩かれてたけど。
「さて・・・・そうだな。模擬戦闘でもやってもらうか・・・・。
サウスバード、凰、前に出ろ」
名前を呼ばれた鈴は渋々前に出ていくが、あいにく僕のISは使用禁止だ。
僕は挙手して、織斑先生に報告する。
「先生、僕IS、無いです」
「・・・・あ、そうだったな、ではオルコット出てこい」
「わ、私ですの・・・」
これまた渋々と言った感じで前に出ていく。
前にセシリーが言っていたが、こういう授業などでの実演はあまり好きじゃないそうだ。
パンダみたいっていう理由らしい。
別に人気取りってわけじゃなさそうなんだが・・・。
「お前らもう少しやる気ってものは出せんのか」
「いや・・・」
「そう申されましても」
「・・・なんなら、私がお前らにやる気を出させてやろうか・・・そうだな何発が良い?」
その発言に鈴とセシリーの顔が引きつる。
「何発!?」
「既に複数形ですの!?」
ひきつる両名に、対して、ジリッジリッと近づいていく織斑先生。
「最低は五発からだ。最高はそうだな時間の許す限りでどうだ?」
「で、出た出た!あたし今、すっごいやる気出てます!!」
「わ、私もなんだか、凄くやる気が湧いてきましたわ、何せ代表候補生ですものね私たち!」
り、理不尽だな・・・・。
流石は織斑先生だ。
半ば無理やりやる気の出された(?)二人は早速ISを起動する。
セシリーのはなんとなく青っぽいっていうのは色の濃淡でわかるけど、鈴のは完全に黒だな・・・。
色盲の目では、鮮やかなカラーリングもこの通りだ。
慣れたからこそ、これ赤だねとか青だねとか言えるけど、一度バイザーの色彩調整を目にしてしまうと、一気にこれまで、それがすべてだった白黒映像が味気なくなってしまう。
「それで、私たち誰と戦えばいいんですの?」
「なんなら、あたしとあんたでやる?まぁ結果は目に見えてるけど」
「そうですわね、私の勝ちと言う事は、誰の目から見ても明らかですわ」
そう言えばこの二人って、妙に張り合うよね。
あれか、プライドが高い者同士だからか?
「はぁ・・・やる気を出してくれたのは結構だが、そう張りきられてもな。
まぁ落ち着け。お前たちの相手は・・・・・ん?」
織斑先生が少しとぼけたような顔になる。
これは珍しい・・・。いっつもその表情で固定なんじゃないかと思うぐらい表情が変わらないのに。
織斑先生は、上を見上げて何かを探しているが、一向に見つからないようで、辺りをきょろきょろしている。
「・・・・・・む、織斑そこ危ないぞ」
「え?」
一夏を名指しで、注意喚起。
その時風を切り裂くキィィィンと言う音と共に何かが、一夏へ向かって墜落してくる。
「は?え!?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
叫ぶ暇があれば、少しでも避けたら・・・・あぁ・・遅かった。
墜落した何かは一夏を巻き込みおおきなクレーターを作って砂煙を巻き上げる。
そのクレーターを、囲むようにして女子が見守る中徐々に砂煙が晴れていき・・・・
そこには、一夏とISを展開した山田先生が転がっていた。
なるほど・・・。
落ちてきたのは山田先生に様だ。
で、一夏はというと。
おぉう、一夏・・・・。
アメリカのスラム街も真っ青だよ。
流石に彼らもだね、人目に付かない所でそういう行為をするからね。
一夏は白昼堂々、山田先生の放漫なバストを揉みしだいていた。
「一夏・・・・君、多分スラム街でも力強く生きていけるよ」
「な、何言ってやがる・・・これは・・・事故だ!!」
「一夏!あ、あんたねぇ・事後ですってぇっ・・なぁに言ってるのよ!!!!!」
ISを展開していない一夏に向かって、色々切れた鈴が〝双天牙月〟を投げつける。
直撃したら・・死ぬだろうね。
だがそれは一夏に到達することなく、撃ち落とされる。
一夏を助けたのは、さっき墜落した山田先生だった。
いつもとは全く雰囲気が違う山田先生に僕だけではなくこの場にいる誰もが、驚いている。
構えていたライフル〝レッドバレット〟を下ろすと、山田先生はまたいつものほやっとした顔で
一夏に、笑いかけた。
「大丈夫ですか、織斑君?」
・・・あぁこの顔は山田先生だ。
なぜだろうか、ほっとする。
「山田先生は、代表候補生だったからな。このぐらいの射撃造作もないさ」
織斑先生が、自慢げに話す。
そりゃまぁ、世界一の担任を補佐する副担任だからタダものじゃないだろうなとは予想してたいが、
まさか代表候補生だったとは・・・。
つくづく、この学園は恐ろしい。
そう言えば、あの時事態の収拾に駆けつけた、学園の教師陣も、
そのほとんどが代表や代表候補生の人たちだった。
・・・・でも・・。
あの黒いISは、そんな人たち相手に、全く引けを取らなかった。
いや、圧勝だった。
・・・・何をしに来たんだろう。
一夏達を狙いに?
でもそれなら、あの無人機の攻撃から、一夏を救ったのはなぜなんだ。
・・・わからない。
「おい見学者!」
そんな事を考えていると、いや考えていたからかな。
声と共に出席簿が頭を叩いた。
「ボケっとするな、見学者なら使える奴らを見てもっと学べ」
僕はその一撃で考えを切り替え、早速始まったセシリー・鈴ペア対山田先生の
模擬戦に目を移した。
まぁ・・・今考えても答えは出ないだろうし。
授業に集中しよう。
・・・結局この後セシリーと鈴は山田先生にコテンパンに倒された。
今日の授業も、このSHRを乗り越えれば終わり。
放課後って言ってもなぁ、僕はISを使えないし、訓練って言っても見学だからなぁ。
その後山田先生から聞いた話によると、なんとか一週間ぐらいでISの起動制限は解除されるらしい。
ただ、解除されると言っても、すぐには全部のシステムや武装を使えるわけじゃないらしいけど。
要は人間と同じく、徐々に体を戻していくことが必要なわけだね。
「・・・・これで、以上か。それでは今日はここまでだ。何か用事があるものは職員室へ直接会いに来い」
織斑先生が、いつもの調子で、切り上げそれに続く山田先生。
日常が繰り返され、そしてそれは放課後がやって来る事も例外ではない。
さていよいよ本当に、終わってしまった。
後ろの席では女子たちが、今から訓練機を借りに行こうとか、部活なんだとかそういう話をしている。
・・・・何しよう。
IS学園在籍なのにISが使えない。
笑えるね・・・。
ふと後ろを見ると、セシリーもいない。
流石に、昨日僕が言ったことを気にして自主練にでも行ったのか。
まぁ・・・うん。
そうなら、言った甲斐があったというものだろう。
どこか手持無沙汰だった、僕を救ったのはシャルルだった。
いや正確にはシャルルと一夏かな。
「アルディって、IS持ってないの?」
「持ってないわけじゃないさ、ただ使えないだけでね」
「使えない?」
「コイツのIS、ダメージレベルがCを超えて起動制限かけられてるんだって。お前が転校してくる前にちょっとあってな」
「あぁ、なるほど」
一夏が捕捉を入れて、一応納得したそぶりを見せたシャルル。
「ま、そう言うことだよ~」
僕は両手を開いて、おどけて見せる。
それを見てクスッと笑うシャルル。
・・・本当に、なんて言うか同じ男かね。
最近日本じゃ、男の娘って言うジャンルがあるみたいだけど、その類に放り込んだら
賞の一つや二つ取れそう・・・いや、賞を総なめに出来そうだよね。
「で、何か用?」
「用ってわけじゃないんだけど、今から時間あるかな?」
「俺達、今から一緒に訓練するんだけどどうだ、お前も」
「だからね、僕はISが使えないの」
僕の話聞いてた?
僕が言えたことじゃないけど、ひょっとして鈍感なだけじゃなく物分かりも悪い方?
「見学ぐらいできるじゃないか、今日丁度、射撃武器についてシャルルに聞こうと思っていたんだ。
剣ならともかく、射撃武器ならお前もセシリアに習ってるし、それに元々結構知ってるらしいじゃんか」
「まぁ、姉さんに色々習ってたからね、基本的なとこは」
「そう言えば、お前の姉さんって、あのローラ・サウスバードなんだろ」
「ローラさんって言えば、モンド・グロッソの射撃部門一位のヴァルキリーだよね、
そんな人がお姉さんなんだったら、射撃の知識は僕よりあるかも」
「ハハっ、買いかぶりすぎだよ」
習ったと言っても、本当に構え方とか、打ち方だけで、それ以降はずっと独学だったし。
それに僕も、別に旨くなりたいっていう向上心というより、姉さんがせっかく教えてくれたものだから、
このままやめてしまうのも、もったいない・・・
ぐらいのあいまいな理由で、やってきたから、別段射撃の腕が良いってわけでもないし、
知識が多分にあるっていうわけでもないのだ。
言ってみれば人より少し旨い程度って言うのが今の立ち位置だろう。
旨いアドバイスも出来ないんじゃ邪魔になるだけだし、断ろうかとも思ったが、じゃあ逆に何するかって話になってくる。
・・・はぁ・・・今日も見学か。
「まぁ、何も気の利いた事なんて言えないよ、それも良いかい?」
「あぁ、気が利くか利かないかはともかく、アドバイス貰えるのはうれしいしな」
そう言って僕は、やたら重く感じる腰を上げた。
アリーナに着くと、早速一夏とシャルルがISを起動する。
一夏のISは、もう何度となく見ているが、シャルルのISを間近で見るのはこれが初めてだ。
授業中は、ずっと一夏の手伝いだったしね。
シャルルのISは。授業で山田先生が使っていた〝ラファール・リヴァイヴ〟のカスタム機らしい。
確かに、ベース機の面影が随所にみられる。
だがそこは専用機。ちゃんと汎用機との区別のためにパーソナルカラーにペイントされている。
「シャルルのIS・・・・赤?」
「え?なに冗談言ってるの、オレンジだよ」
「あぁ、オレンジか・・・ごめんね色盲で色が分かんないんだ」
「あ・・そのごめん」
「いや・・・なんで謝るかな・・・」
一夏の時もそうだったが、なんで謝るんだろう。
別にこれは、一夏やシャルルの所為でこうなったわけじゃない。
生まれつきの事だから、誰を責めるわけにもいかないし、
前にも言ったが幸い視力は良いのだ。生活に何の支障もない。
「まぁ、そんなことより、始めないの?」
「そう・・だね!」
既に一夏はスタンバイOKの様だ。
シャルルは一夏に自分の武装を手渡す。
あれは・・・〝ヴェント〟か。
あれと同じようなライフルを、アメリカで見た気がする。
姉さん関係なのは間違いないが、どこで見たのかまでは思い出せない。
・・・思い出す必要なんてないけど。
確かあれはアサルトライフルだったよね。
アサルトライフルは単発・連続射撃の切り替えができる小型軽量の自動小銃の総称だ。
有名どころで言うと、カラシニコフの愛称で有名なAK-47がそれだ。
有効な間合いは、中近距離で、あまり長距離戦には向かないが、威力も高く扱いやすいから各国の軍も、多く配備している。
一夏は、〝ヴェント〟をシャルルに手ほどきを受けながらしっかりと構える。
そして、シャルルが一夏から離れると、バンッ!という射撃音と共に、
弾丸が発射され、撃たれた弾は的の外側に当たった。
「うぉっ!すげぇ音!」
そうだろうねぇ、僕も始めて撃った時そんな感想を持ったよ。
ただ僕の場合は、ISではなく実際にこの手で拳銃を持ったけどね。
あの時の、もの凄い反動は今でも忘れられないよ。
そして、あの姉さんの顔も。
何が、軽く手を叩くぐらいの衝撃だ。
まだ、小さかった僕には、腕がちぎれるかと思うぐらいの反動だったよ。
「それで、どうだった、初めて撃った感想は?」
「なんて言うか、射撃すげぇよ。音もそうだけど、何より滅茶苦茶速いんだな、弾丸って」
一夏・・今さら?
君、射撃武器持った相手と何回かやりあったことあるよね。
抜けたことを言う一夏に、僕は遠巻きに話しかけた。
距離はあったが叫ぶ必要はない。
〝白式〟のハイパーセンサーが全部僕の声を拾ってくれるからね。
「速いって、当たり前でしょ、拳銃でも亜音速なのに」
「いや、でもすげぇぞコレ。バンバーンって・・・」
初めての体験は誰だって興奮する。
それは一夏とて例外ではない。
確かにバンバーンって音したけど・・。
「シャルル。これもう少し撃ってもいいか?」
「いいよ、マガジン使いきっちゃって」
持ち主の許可も降り、再び射撃を開始する。
初めて構えるにしては、一夏はうまい。
ほとんど、的の端だがそれでも今まで一発も的からはそれていないからだ。
僕でも、初めのうちは的に当てるのだって苦労した。
あ、その事はISじゃないよ。
中々、射撃の筋も良いようだ。
バンッバンッと、乾いた音が響くアリーナ。
しばらく撃つと、ようやくマガジンが空になったようで一夏がシャルルに〝ヴェント〟を返した。
「射撃ってこんな感覚なのか、サンキュな」
「うん、どういたしまして。まぁでも全部が全部こんな感覚じゃないよ」
〝ヴェント〟を粒子化しながらシャルルが話す。
そうなのかと、自分でも色々考えることがあるのであろう一夏は、〝白式〟を待機状態へ戻すと
あごに手を当てて、色々考えているようだった。
それにならってシャルルも待機状態に戻す。
「そう言えば、話は変わるけど〝白式〟って、イコライザーが無いんだって?」
射撃について思考中だった一夏だったが、急な話の方向転換にもしっかり反応する。
「あぁ、この前見てもらったんだけどパススロットが開いてないんだと。だからインストールも無理らしいぜ」
「それって多分ワンオフ・アビリティーに要領を割いてるからじゃないかな、
〝白式〟って初めから使えるんでしょ?」
ワンオフ・アビリティー。
各ISが操縦者と最高状態になったときにのみ自動発生する能力の事で、絶対にその能力はかぶらない。
だからワンオフってわけ。
一夏で言うと確か〝零落白夜〟がそれに当たるらしい。僕は見たことないけど、対象のエネルギーを消滅させることのできる能力だそうだ。
・・・・・怖いね。
「なるほどなぁ・・・そういえばアルディ。お前はどうなんだよそこらへん」
「僕? あははっ、〝ストライク・バーディ〟の性能の半分も使いきってないのに、
そんな話飛びすぎだよ」
「扱いきれるっていうのとも、少し違うんだけどなぁ」
シャルルがう~んと、腕を組む。
だが、言われてみればそうだ。
僕のワンオフ・アビリティーねぇ。
使える日が来るんだろうか、僕のにも。
聞けば、ワンオフアビリティは、発動するよりもしないことの方が圧倒的に多いらしい。
・・・だけどまぁ、使えたら使えたで、使えなかったら使えなかったで、別にどうでもいいや。
どの道、今は〝ストライク・バーディ〟が使えない。
早く、慣れないといけないのになぁ。
稼働時間も全然足りないし、実戦経験だってほぼ皆無だ。
焦っても仕方が無いとはいえね。
やることはやったしそろそろと思っていると、急にざわめきだす場内。
・・・何かあったの?
「あれ・・・ドイツの・・・」
「第三世代機じゃないアレ」
「うそ、あれってまだトライアル段階だって聞いたけど・・」
ドイツそこから連想させるのは、あの人物しかいなかった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
一夏がつぶやく。
今朝僕がペットボトルを投げちゃったからね、それの報復かな?
だがラウラが次に発した言葉は、僕の想像を容易く崩す。
「織斑 一夏・・・私と戦え」
「・・・なんでだよ」
「御託はいい、ISを展開しろ」
有無を言わさぬ声で、命令するラウラ。
その目は完全にこちらを見下している。
「やだね、理由が無い」
「理由だと?」
「あぁ、そうだ俺にはお前と戦う理由が無い。だから俺は戦わない」
「・・・そうか」
ラウラは、そう言ってゆっくりとこちらを向く。
・・・なんだか嫌な予感・・・。
「ならば、理由を作ってやろう!!」
「うぁぁぁぁぁっ!!」
言うが早いか僕に向かって何の躊躇もなく、肩の大型カノンを撃つ。
流石に直撃は相手も避けたようだが、僕は爆風で何度か地面に打ち付けられながら
アリーナの側壁まで吹き飛ばされた。
その衝撃からか右腕から血が流れ出す。
どうやら完治していないあの傷口が、今のでまた少し開いてしまったらしい。
だが今はそれよりも、全身の痛みが凄い。
動かすだけでいろんなところが痛む。
すぐにはまともに立てそうもない。
「てめぇ、何してんだ!!あいつは今ISを展開できないんだぞ!?」
「理由を作ってやったまでだ、貴様が必要だと言ったのでな」あたかも、当然のことをしたかのように言ラウラ。
キッと睨む一夏だが、次のラウラの一言で完璧に切れた。
「それに展開も出来ない雑魚だ、吹き飛ばさただけでも役割ができて良かったじゃないか」
「ふざけんな!!!!」
怒鳴ったのは一夏だったが先に攻撃したのは、シャルルだった。
さっきのアサルトライフルとはまた違う〝ガルム〟を展開してラウラへ向かい引き金を引く。
目つきも先ほどまでの、優しさはなく、まさに激昂だった。
「ドイツ人って言うのは、やっていいこととやっちゃいけないことの区別が出来ないほど低レベルなんだね!」
「・・・・・フランスのアンティークか・・・。話にならんな」
「いまだ量産のめどすら立たない、そんな試作武装だらけのモルモットよりはましなんじゃない?」
睨みあう両者。
そしてしばしの時が流れ、一夏が急に声を上げた。
「お前、なんでそんなに俺に突っかかるんだ!?」
「・・・・・貴様があの教官の弟だからだ!」
「何!?」
「貴様、昔ドイツで誘拐事件にあったそうだな。その際教官は貴様を助けに行き、モンド・グロッソ二連覇という偉業を達成できなかった!」
「それは・・・」
「貴様がいなければ、教官よりも劣る低レベルな出場者だ。二連覇出来たことは容易に想像が付く・・・」
・・・待て・・・待てよ・・・・。
今なんて言ったんだい彼女・・・・。
低レベル?
織斑先生が勝つことは容易に想像できる!?
・・・・舐めるなよ・・・。
気が付けば僕は、痛みすら忘れて叫んでいた。
「ふざけるんじゃない!低レベル?容易に想像がつく!?
いい加減な事ぬかすなよ、君に何が分かるっていうんだ!!
確かに織斑 千冬は強いさ、でも無敵じゃない。最強なだけだろう!
僕の姉さんをなめるな!!!」
今のは姉さんを侮辱されたに等しい。
姉さんは、あんなおちゃらけた性格だが、日々努力や鍛錬を怠らなかった。
モンド・グロッソ第一回大会で、織斑先生に負けた後、表彰台では笑顔だった姉さんが、
僕の前で笑い続けていた姉さんが、僕の前で初めて泣いた。いや泣き崩れた!
なんで勝てなかったんだと、これまでの努力は何だったんだと。
結局、ああ言う理由で織斑先生が辞退したことで、姉は第二回大会の総合優勝〝ブリュンヒルデ〟の栄冠に輝いたが、その顔は全然うれしそうではなかったし、
何より姉はその称号を自モンド・グロッソの委員会へ返納している。
プライドが許さなかったのだろう。
だからこそさっきの発言は許せなかった。
何も知らない、彼女が姉さんを侮辱するなど。
「そう言えば、貴様の姉もモンド・グロッソに出場していたのか。
大方、無様に負けたのだろう。そんな負け犬の弟に何を言われようとな・・・」
「流石の僕も、切れたよ・・・・」
「ほう、だったら何だと言うんだ?」
・・・・彼女は・・・彼女だけは許せない。
「トーナメントだ、学年別トーナメントが今度ある。僕のISもそれには間に合うはずだからそこで決着をつけようじゃないか・・・」
「・・・・ふん、決着か。私はその男にしか興味が無いが・・
まぁ良いだろう。作業が一人増えるだけだからな」
そう言うと、ラウラはISを待機状態に戻し、すたすたとピットの奥へ引っ込んで行ってしまった。
ラウラの退場で、スッと頭の冷えた僕は、また激しい痛みに襲われる。
僕は顔をゆがませながら一夏に謝った。
怒ったとはいえ、彼の姉さんを悪く言ってしまったのだ。
「・・・一夏ごめん・・・カッとなって。織斑先生の事・・・」
「へっ、気にすんなよ、誰だって自分の身内を馬鹿にされたら怒るだろ?」
「・・・あ、でも僕はそれをしたんだけど」
「時と場合によるってな」
どうやら怒ってはいないようで、安心したが、痛みだけは安心できるレベルじゃない。
「いっつつ・・・・」
一度は立ったものの、痛みでよろける僕をシャルルが支えてくれた。
「あぁぁ・・・大丈夫?とりあえず、保健室行こう」
「うん、面目ない・・・」
僕はシャルルの肩を借りながら、一夏と一緒に保健室へ向かった。
・・保健室の先生に〝また来たの!?〟って顔で見られたのは内緒だ・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アルディが怪我を負ったという話は、すぐに自主練習のため
アリーナに来ていたセシリアと鈴にも伝わった。
アルが怪我を!?
すぐに訓練を中断して、鈴と共に着替えもそこそこに保険室へと急ぐ。
いつもなら、すぐについてしまうのにこんな時にはその道のりが長く感じられてしまう。
ようやく、保険室に到着すると、ノックもせずにその扉を勢いよく開ける。
そこには、今まさに先生の診察が終わったアルディがいた。
「アル!」
「やぁ、セシリー」
こちらの気もしらないで、何ともまぁ軽い挨拶を・・
「先生、大丈夫なんですか!?」
「そうね。アリーナの側壁に叩きつけられたときにだいぶ上半身を強く打ってるみたいだから、しばらくISの実習も自粛した方が良いとは思うわ、その他は特に異常は見られないから大丈夫だと思うけど」
「・・・・そうですの」
「・・・あの女やってくれるじゃない」
鈴が憎々しげに言う。
鈴は素直には言わないがそれなりに、アルの事を心配してくれているようだった。
「まぁ、逆に生身でISの攻撃を受けて、これだけで済んだわけだし運が良かったんだね」
「アル!楽観的なのも大概にしておきませんと、後々大けがしますわよ!」
本当に、少しはこっちの身になってほしいものだ。
大体の事を「まぁ、いいや」で済ましてしまうのが彼だが、自分の体の事までそれで済まされては、たまったものではない。
彼に万が一の事かあったら、自分はどうすればいいのだ・・・・。
「にしても、一夏に・・・・えーと・・・」
「あぁ、シャルル。シャルル・デュノア」
「そう、デュノアがいてなんてザマなの?」
確かにそれはセシリアも思う。
それに、デュノアは、代表候補生だ。
もう少し、周囲に気を配ってくれれば、アルがこんな怪我をせずに済んだかもしれない。
悪いのはあのラウラという女だと言う事は分かっているのに、セシリアは、アルディの身を案じるあまりそんな事を思ってしまう。
「わ、悪い・・・」
「僕も流石に、生身の人間に向かって攻撃するなんて思わなかったから・・・」
一夏とシャルルが弁解をするが、セシリアの心は一向に晴れなかった。
そしてその、もやもやはやがて、一つの形に集束する。
ISは、今や世界最強の兵器である。
たった一機で一国の軍隊とやりあって勝てるほどのすさまじい力だ。
そんなものを、生身の人間に向かって撃てばどうなるかなど、幼稚園児でもわかる。
・・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・・許しませんわよ、私は。
そう、ラウラへの怒りだ。
だが静かに闘志を燃やしていた、セシリアにアルディが声をかける。
「セシリー、分かってると思うけど・・・・馬鹿な真似しちゃだめだよ」
「馬鹿な真似?何のことですの」
セシリアには、アルディが何を言わんとしているのか分かっていたが、内にその怒りを押し込め、勤めてクールにふるまう。
「・・・・手、ずっと握りっぱなしだよ」
「あ・・・・・」
あわてて、グッと握っていた手解く。それと同時にアルディのため息も聞こえた。
「セシリー・・・彼女とは僕が、決着をつけるよ」
「え?」
「僕にも色々、譲れない物はある」
譲れないもの?
それは一体・・・。
「彼女は僕の姉さんを馬鹿にした・・・・何も知らない癖に負け犬呼ばわりまでして・・・」
一瞬だがセシリアの心にズキンッと痛みが走る。
ローラはアルディのお姉さんで、そのお姉さんを悪く言われてアルディが怒るのは当然の事だ。
だがセシリアはほんの少しだけ、それが自分だったら・・・・と思ってしまった。
要はその姉に対する嫉妬心である。
誰よりも、彼の近くにいたいと思うセシリアの正直な気持ちだったが、すぐにその考えを振り払う。
私は何を考えているんですの!
前もそんな嫉妬心から大変な事になったばかりだと言うのに・・・。
ましてや、アルの実の姉に嫉妬するなど失礼極まりないではありませんか!
だがそうは言っても、・・・・・何時か。
お姉さんよりもなんてことは言わない。
ただそれと同じぐらい近くで彼を見守ってあげたいと
思わずにはいられない複雑な心境のセシリアだった。
セシリアはアルディを見やる。
そのセシリアを見返すように、アルディもまた決意のこもった眼でこちらを見ていた。
「アル・・・」
「僕は彼女を許さないし、許せない・・・・誰が何と言おうと彼女は僕が「・・・残念だけどそれは無理ねぇ」・・・・・え?」
アルディの発言を遮ってまで発せられた保健の先生の一言に一斉に注目が集まる。
「何が無理なんですか?」
鈴が答えをせかすように、誰よりも早く質問を返した。
それに保健の先生は腕を組みながらこう告げる。
「学年別トーナメントまで、そんなに日は無かったわよね・・・二週間あるかないかぐらい」
先生は、白衣のポケットからスケジュール帳を取りだして日程を確認しながら話を続ける。
「で、今日あなたがその怪我をして・・・・完治にこれぐらいだから・・・・・うん無理ね」
何か一人で納得して、勝手に無理と結論づけた。
いまいち、内容のつかめないセシリアたちは、首をかしげるばかりだった。
その様子を見て、先生が苦笑してようやく説明らしい説明をしてくれた。
「あぁ、ごめんなさいね。無理って言うのは彼のトーナメント出場の事よ」
「えぇ!?」
誰よりも一番大きな声を上げたのはアルディだった。
それはそうだろう。あれだけ意気込んでいたのだから。
「普通ななら、何の問題もなくエントリー出来るんだけどね。
ただあなたも時期が悪かったわ。この学園には、操縦者の健康や身の安全を確保するために、
大きな行事・・・・今回で言えば個人戦トーナメントがそれに当たるんだけど、
そういったイベント前に大きな怪我をした生徒は原則、私や医師の診断書が必要なの」
「え、じゃぁ・・・」
「えぇ、あなたの怪我からみて完治はトーナメントの直前ってとこ。
それに今回は外側からじゃ分かりにくい怪我だから、なおさらね。
そんな状態の生徒に診断書は書けないわ・・・残念だけど出場は諦めて」
「そんなっ!」
グッと拳を握りしめて、やりきれない思いをどうしたらいいのか分からない様子のアルディ。
先ほどの話を聞いていただけに、その悔しさはこの場に居る誰もが共有していた。
皆、なんと声をかけたらいいのか分からず、沈黙が部屋に訪れる。
だがセシリアだけは違った。
セシリアは椅子に座るアルディに目線を合わせる様にかがむと、優しい声で言った。
「アル・・・・・私にお任せくださいな。彼女とは、私がその思いと共に闘いますわ」
「セシリー・・・・でも、彼女は・・・僕の・・・」
「ですから、お姉さんへのその思いを私に預けてください」
彼が自分を助けてくれたように、今度は自分が彼を助ける番だ。
悔しさの、にじむ目からはうっすらと涙も見える。
本当に・・・本当に忸怩たる思いなのだろう。
こんな表情のアルディを見たことが無かった。
彼が楽しむのなら、自分もそれを楽しもう。
だが、彼が苦しむのなら、自分は進んで苦しみの中へ飛び込もう。
そして、その苦しみを共に分け合おう。
それで、少しでも彼の苦しみが和らぐのならば。
「彼女は、一夏さんを目の敵にしているようですが、
そんなの知ったことではありませんわ。私が勝って、証明してみせます」
「・・・・・・・セシリー」
アルディが急に自分を呼ぶ。
そしてなにもい言わずに、セシリアの首に〝銃弾のネックレス〟をかけた。
それは、現在使用できないアルディの〝ストライク・バーディ〟の待機状態のものだ。
「アル?」
「やっぱりこんな顔は僕には似合わない。僕は年がら年中笑っていたい人間だからね」
アルディは、打って変わって明るいいつもの調子で言うと、椅子から勢いよく立ちあがり、
保健室の扉の前へ歩いていく。
そしてドアノブに手をかけて、静かにこう言った。
「・・・・君に預けるよ、僕と姉さんの思い。無茶しろなんて言わないけど・・・・一言だけ言わせて」
セシリアは、首に掛けられたネックレスをギュッと握りしめる。
「・・・・・勝って!」
そう言い残し足早に、保健室を後にするアルディ。
残された面々は、その背中をただじっと見送った。
セシリアは預けられたネックレスを首から外すと、それを両手で持つ。
・・・・・重い。
元々重量のあるネックレスだが、これにはアルディとその姉のローラの思いが詰まっている。
今のセシリアには、そのネックレスの重量がとてつもなく重く大きいものに感じられていた。
それと同時に、セシリアの中で決意も固まる。
「・・・・こりゃ、負けられなくなったな、セシリア」
「あんた、ヘマしたら今度こそ捨てられちゃうかもね~」
「彼女も大変だね。こんなところで最高の操縦者が生まれたんだから」
三者三様の言葉を投げかけてくる彼らに、セシリアはふりかえると改めて決意のこもった眼で宣言した。
「この思いと共に、勝ってみせますわ!!」
言いきったセシリアの表情は、いつも以上に自信に充ち溢れていた。
この小説はオリジナルな展開がこの先も多数待ち受けております。
それをご了承のうえご覧ください(今更ッ!