IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~   作:のろいうさぎ

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第10話~僕が嘘をつく理由、彼が彼女である理由~

トーナメント出場禁止が宣告されたその日の夜。

僕は自室で、ボーっとPCを眺めていた。

何か特別な意味はない。

画面には世界各国の情勢や事柄が、表示されている。

僕はそれを、特に何の考えもなくカチカチとクリックして開いては閉じまた開いては閉じるを繰り返していた。

あの時、感じていたやり場のない憤りが、全く無くなったと言えば嘘になるが、もうあれはセシリーに任せたのだ。自分自らが選んで。

彼女ならやってくれると思ったから。

だから、僕はもう特に深く考えるのをやめた。

勤めて僕らしくあろうとしたのだ。

深く考えるよりも気楽に事を構えていたい。

それが自分だから。

楽観的は自分の専売特許だと思う。それ以外に、特にこれといった特技もないしね。

「・・・・別に良いんだけどなぁ」

何が良いのかもわからないが、呟いてみる。

一人部屋だ。返事は当然ない。

・・・・・はぁ。

だが、そうは言ってもやはり悔しい。

出場できないことが。

姉さんを馬鹿にしたラウラが。

そして何より、セシリーに思いを託すしか選択できなかった自分自信が。

はぁ。

また一つため息が漏れる。

ダメだ。ネットサーフィンしてたら気も紛れるかと思ったけど・・・・。

頭に全然内容が入って来ない。

・・・・・ふぅ、一度外に出よう。

夜風に当たれば、少しは気分転換になるだろう。

 

 

丁度僕が、寮の玄関を出る辺りで、シャルルとすれ違った。

「あ、アルディ・・大丈夫?」

「まぁ、なんとかね」

「大丈夫だよ、セシリアさんすっごく良い顔してたから」

「そう・・・・・そういえば一夏は?」

「うん、なんか用事だって。山田先生と一緒に書類書きに行ってるよ」

「ふ~ん」

「それじゃ、僕もシャワー浴びたいから」

「あぁ、じゃあ」

少しの間言葉を交わして、シャルルと分かれる。

心配してくれていることは、何にしてもうれしい事だった。

しっかりしろ!アルディ・サウスバード。

落ち込んで、皆のモチベーションまで下げる気か!

自分に自分で渇をいれ、夜風心地いい、満点の星空のもと近くのベンチに腰を下ろした。

 

・・・・星空かぁ・・・。

これまで、こうやって見上げたこともなかったなぁ・・・。

だって、よく見えないし、真っ黒で。

・・・・どんなんなんだろうね。

〝ストライク・バーディ〟のバイザー越しにみた青空はそれは綺麗だった。

皆こんなきれいなものを見てるのかって、羨ましくなったぐらいだ。

ふぅ・・・・。

本当に情けない。

こんなことならもう少し、鍛えとくんだったかなぁ。

自慢じゃないが、僕は銃器の扱いには人よりはまぁまぁ上手くできるが、それだけだ。

運動は・・・まぁ嫌いじゃないけど。

一夏や箒みたいに剣道のような、武術を習っていたわけじゃない。

僕のはあくまで趣味の範囲内だ。

そんなこと言ったら、姉さんは怒るかな。

・・・・。

弱っちいなぁ、僕。

僕にあるものと言えば・・・。

しいて言うならこの口か。

子供のころ、今もだが僕はそれはそれは弱かった。

いじめられっ子って言うのかな。

その時姉さんが教えてくれたのが嘘だった。

 

いつだったかな、いつも見たいにボコボコにされて帰ってきたんだっけ。

そしたら姉さんにこう言われたんだ。

「アルディ・・・やり返せとは言わないけど言い返すぐらいしたらどうなの?」

「・・・・だって、言い返すとまた叩かれちゃうし」

「じゃあ、あなたは相手が飽きるまで、叩かれていたいの?」

「いやだよ・・・痛いのも、怖いのも」

多分あの時僕は、半べそ状態だったかな、今思い出すと笑っちゃうけど。

そんな僕に、姉さんは目線を合わせると、頭をなでながらこう言ったんだ。

「アルディ、そんなあなたにいいことを教えてあげる。嘘吐きなさい、なんでもいい嘘を吐くの」

「え?でも・・・」

「他の大人たちは、色々言ってくるかもしれないけどそんなの気にしちゃダメ。

この世にはね、吐いてい良い嘘と吐いちゃダメな嘘があるの、わかる?」

僕はよく言葉の意味が理解できなかったから、首を横に振った。

そんな僕に姉さんは、また優しく笑いながら言う。

「ダメな嘘って言うのは、その場に居ない誰かを傷つけてしまう嘘。

これは絶対にだめよ。どんなことがあってもそれはダメ。

反対に良い嘘って言うのは、自分が傷つく嘘の事。

変な言い方かもしれないけれどね」

そう言うと姉さんは第一回大会のモンド・グロッソでの新聞を僕に見せた。

そこには、二位という成績を片方で称賛しながら、もう片方では〝Rola of betrayal〟

(裏切りのローラ)という文字が一面を飾っていた。

「丁度この記事が良い例だわ、姉さん嘘つきでしょ。

それが招いた記事の見出しなんだけど・・・・

アルディはこんな姉さん誇りに思えない?」

それもノーだ。

僕はさっきと同じように首を横に振る。

どんな理由であれ、姉さんが世界第二位という事実には変わりない。

そしてそんな姉さんを僕は誇りに思っている。

「でしょ、だからそう言う事。たとえ自分の名前や自分自身が傷ついても、

それで誰かに信じてもらえるなら、誰かを助けられるのなら嘘をついても良いの」

「・・・・本当に?」

「あら、姉さんを信じられない?あたしは、世界第二位のお姉さんよ。

それに私はそう言うのを嘘って言わないと思う」

「でも、僕が嘘言ったら、姉さんも悪く言われちゃうよ?」

「フフッ姉さんは良いの、特別よ。姉さんはあなたのためなら喜んで傷ついてあげる」

「・・・・姉さんは強いんだね」

「強くなんて無いわ、そうね格好悪く言えば、ずるがしこい、格好良くえば確かに強いのかも…。

私はこう思うの、嘘って言うのは、あたしににとってそれこそが強さなんじゃないかって。

ただ扱いには結構苦労するけどね」

強さ・・・。

僕にもそれがあればいいのかな。

そう言って笑う姉さんの後ろ姿を見てそう思った僕は、その日以来よく姉さんの真似をするようになった。

真似っていっても、何だろう。

身近な物で色々嘘言ったりするだけなんだけど、これがやってみると結構難しかった。

まず、嘘って言うのは結構周到にやらなければ、ばれてしまうものだ。

そのことを姉さんに言ったら

「そりゃそうよ、そんなに簡単に出来たら、あたし、何のためにあんな事まで言ったの?」

だそうだ。

 

そしてそれから今まで、ずっと。

最近でこそ、それほど嘘吐いてないけど、要所要所で色々吐いてることは吐いてるよね。

にしても、懐かしいなぁ。

こんなにも鮮明に思い出せるのは、今の人格形成に多大な影響を及ぼしたきっかけだからなのか、それとも何かまた別の事なのか。

だが、何にしても少しは気分転換になった気がする。

僕は、ゆっくり立ちあがって、深呼吸を一回。

そして、もと来た道を戻り始めた。

僕が寮の玄関を入ったあたりで今度は一夏に出会う。

一夏も寮に帰って来た様子で、自然と横並びになって会話が始まった。

「アルディじゃないか、今帰りか?」

「いいや、ちょっとそこら辺を」

「徘徊してたのか?」

「言い方・・・・まぁ似たようなもんだけど」

ふうっ、息を吐くと丁度一夏が何か袋を抱えているのが見えた。

「一夏、それ何?」

「ん、あぁこれか、茶っ葉だよ。良いのをネットで見つけてさ、でも距離が遠かったから今着いたんだ」

「アレ?シャルルは書類をかきに行ったって・・・」

「だからその後だよ・・・・そうだ、お前もどうだ一杯。これは美味いぜ!」

・・・・そもそも、その年でお茶っ葉をネットショッピングするのとは。

中々、一夏って珍しいよね。

でも、せっかくのお誘いだ。

どうせ部屋に帰っても、やる事なんて特に無かったし。

「じゃぁ、いただこうかな」

そう言って僕は、行先を変更し一夏の部屋へと足を向けることにした。

 

「たっだいまー」

一夏の能天気な声が響くが、返答はない。

そう言えば、今はシャルルと相部屋だっけね。

ふと、今の一夏の行動が僕の日常の寮へ帰宅する風景に重なる。

・・・・・時々僕も、誰もいないのにこう言う事言ってるけど・・・やめよう。

甚だしく馬鹿らしい・・・。

「あれ、シャルルが・・・・ん、あぁシャワー浴びてんのか」

確かにシャワールームからはシャァァァッっという水の音がしている。

いつまでもドア付近に突っ立っていた僕に、一夏が席へと促す。

「あ、適当に座っててくれよ、今からお茶入れるから」

僕は、適当な椅子に腰かけ、少し辺りを見回す。

・・・・広いね、当たり前だけど。

よくよく考えてみたら、二人部屋でこれだけの広さがあるのに、どうして一人部屋になるとあそこまで小さくなってしまうのだろうか。

普通に考えれば、これの半分でしょ・・・。

そんな事を考えている間にも、一夏は手早く急須にお茶っ葉を入れてポットのお湯をそそいでいる。

と、急に一夏があっと声を漏らした。

「そう言えば、ボディソープ切れてたんだっけ・・・・悪い、ちょっとシャルルにボディソープだけ渡してくる」

「あぁそれぐらいなら僕がしよう。丁度手持無沙汰だったんだ」

僕は一夏がクローゼットから、取りだしたボディソープを受け取るとシャワールームへ。

ガチャリとドアを開けると、中に滞留していた湯けむりが一気に流れ出した。

うっすらとだが奥にシャルルが見える。

「シャルル、一夏から。ボディソープが切れてるんだ・・・・・・・って?」

「え!?あ、アルディ、なんでどうして!?」

・・・・・あれ?

シャルルって男の子・・・だよね?

それとも何、お湯かぶると女の子になっちゃうとか?

そこでは、平均的な胸のふくらみをもった、明らかな女子がシャワーを浴びていた。

「おーい、何あけっぱなしにしてるん・・・・・だ?」

一夏の僕と同じ反応だったが・・・多分今は固まっている場合じゃない気はする。

僕は、ボディーソープをシャルルの、近くに置くと一夏に飛びかかる形でシャワールームから飛び出した。

「おわッ!!おまえいきなり飛んでくるなよ!」

「緊急事態だろう!これぐらい我慢したまえ!」

僕は、一夏寄りかかる形で、先ほど飛び出したシャワールームを振り返る。

ど、どう言う事なんだ?

・・・・これは。

 

しばらくして、シャルルがシャワールームから出てきた。

格好は、オレンジと紺色の入ったジャージ姿だったが、明らかに胸が膨らんでいる。

そ子に居たのはシャルル君ではなく、シャルルさんだった。

「あー・・・えっと」

「・・・・・」

一夏は何か話題を切りだそうとするが、中々口を開けない。

シャルルもそれは同様なようで、椅子に座ってからもずっとうつむいたままだ。

ほんと、こう言う時自分が軽くて、楽観的主義でよかったと思う。

内心は焦ってはいるものの、平気で嘘がつける人間だ。

なんとか外見は平静を保てるし、何より頭が働いた、まささっきよりは。

「とりあえず・・・・お茶でも淹れたら?」

「そう、だな・・・ちょっと待っててくれ」

一夏が立ち上がり、少しの間シャルルと僕の二人がその場に残された。

シャルルは、うつむきながらもぽつりとつぶやいた。

「・・・驚いた、よね」

「まぁ、そりゃ」

むしろこの場で驚かない人間がいたら見てみたい。

・・・・姉さんは楽しみそうな気はするけど。

「・・・・・」

「・・・・・」

再び訪れる沈黙。

流石に僕も、二人きりに慣れると何を言っていいのか困るね。

一夏は数分後に戻ってきたが、その間が僕にはとても長く感じられた。

一夏は、湯呑をシャルル、僕、自分の順番で置いて席に戻った。

シャルルは出されたお茶に、まっ先に口をつけた。

あたかも、自分を落ち着けるかのように。

一夏はシャルル同様に少し口に含んだ後、ふうっと息を一回ついて口を開いた。

「その、なんで男のフリなんかしてたんだ?」

「実家の命令なんだ」

実家・・・デュノア。

・・・・あぁ、デュノア。

フランスの大手IS企業じゃないか。

なるほど、そこのお嬢様だったのか。

「命令?どうしてそんな・・・」

一夏がさらなる疑問を投げかける。

だがシャルルはチラチラと先ほどから僕の方を見てまた黙り込んでしまった。

・・・・・どうやら、複雑な話の様で。

ガタッと僕は立ちあがる。

その行動に、二人とも驚いていたが、僕は構わず言う。

「はぁ、まぁいいや」

それだけ言って僕はきびすを返した。

「おい、まぁいいやってなんだよ、真剣な話してるのに」

当然一夏は僕の行動が癪にさわって、肩を掴んでくる。

だがそれを僕は振り払うと、ふりかえって睨み返した。

「確かに、真剣な話の様だけど、僕はそんな昔話に付き合うつもりはないんだ」

「何!?」

「これからどうせ、お涙ちょうだいな昔話が始まるんでしょ、そう言うの僕は好きじゃないんだ」

「お前!いい加減にしろよ、シャルルはお前の事心配してくれてたじゃないか!!」

「それとこれとは話が別さ、それに僕は心配してなんて頼んだかな?」

「出てけ・・・今すぐに!」

「言われなくてもそうするさ」

僕は、吐き捨てるように言うと乱暴にドアを開けそして、思い切り締めた。

中からは一夏の気にするなよシャルル・・・って声が聞こえる。

・・・・・さて、それじゃ改めて聞かせてもらおうかな。

僕はポケットから、受信機付きのイヤホンを取りだすと、片方の耳に取り付ける。

フフフっ、一夏達には後でちゃんと謝らないとね

僕はほくそ笑むと、イヤホンから聞こえる〝一夏とシャルルの会話〟に耳を傾けた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あいつの事なんか気にすんなよ、あんな薄情なやつだとは思わなかったぜ・・・」

「・・・うん、まぁそれは良いんだけど・・さっきの話の続き」

続き・・・その言葉に急速に冷えていく一夏の頭。

一夏は椅子に座り直すと、シャルルの言葉を待った。

「僕ね、愛人の子なんだよ」

「え・・・・」

つまり、父親と本当に母親の子供じゃないってこと・・・。

「二年前に実家に引き取られてね・・・。色々検査していく内にISの適性が高いことが分かって、非公式ではあるけどデュノア社でテストパイロットをしてたんだ」

一言一言語られていく真実に、一夏は心が締め付けられる思いだった。

特に真実を語っているシャルルはもっとだろう。

「一度だけ、本邸に呼ばれたんだけど・・・本妻の人に殴られちゃったよ。あれはびっくりしたかな」

びっくりしたなんて、生易しいものでは無かっただろうと一夏は思う。

それと同時に、怒りがこみ上げてくるのが自分自身でもわかった。

手は知らず知らずのうちに、グッと握られ震えるほど力が入っている。

「・・まぁそれは僕の事で、それから数年後、デュノア社は第三世代IS開発の遅れから経営危機に陥ったんだ・・・。もともと遅れていた上に時間も無くて、最終的に今度の政府のトライアルで選ばれなかったら、予算全面カットの上でISの開発許可もはく奪されるって話になって・・」

確かに、デュノア社が大変だと言う事は分かった。だが・・・・それがどうして。

「でも、そこからどう男装につながるんだ?、聞いた限りじゃ何も繋がりが見えないんだが」

その問いにシャルルは、乾いた声で少し笑った後、苛立ちを含んで言った。

「ISは男の人には使えないって言うのが一般常識でしょ。そんな中でフランスで男のIS操縦者が見つかったってことになれば、広告塔にもなるしその子がIS学園に入学したって何も不思議じゃない・・・・それに」

シャルルは、うつむくと声のトーンを落とす。

「それに、そこでなら日本で発見された特異ケース・・・一夏に接触しやすいでしょ」

そこでようやく合点が言った。

つまり、そう言うことだ。

白式のデータは、一応公開されているもののその奥が謎のまま。

そのISのデータがあれば、デュノア社は再びそれを元に第三世代ISの開発に着手できる。

仮に予算が下りなくても、〝白式と特異ケースを含むデータ〟を交渉材料に出来る。

一夏は、中々考えたものだと思ったが、それ以上に怒りが沸点を迎えそうだった。

「でも、一夏にもアルディにもばれちゃったし・・・・僕は本国に強制帰国させられて・・・

会社はどうなるのか分からないけど、僕にとってはどっちみち良い選択肢はなさそうだね」

一夏はもう我慢が出来なかった。

親なら、何をしてもいいのか?

むしろ親と呼べるのかそんなものが!?

「お前は良いのかよ!?」

気が付けば、シャルルの両肩をつかんでいた。

一瞬の事で驚いたシャルルはグッと身体をこわばらせる。

「い、一夏?」

「確かに親がいなきゃ、子はできないし生まれないさ!だからっていって、そんな事が許されるのかよ?親なら、何をしてもい言って道理は通らねぇよ!」

なりふり構わず、叫ぶ一夏をシャルルがとりあえずなだめようと、肩をつかむ手に自分の手を重ねる。

それにハッとした一夏は、肩を離すと息を整える。

「・・・大丈夫・・何か変だよ」

「-―――いや、その・・・俺と千冬姉は両親に捨てられて・・・それでお前の親があまりに身勝手で・・・なんか重なってさ」

シャルルも一夏に両親が居ないと言う事は知っていた様で、顔を伏せると小声でごめんと謝った。

「なんで、謝るんだよ・・・今更会いたいなんて思わないし・・・良いんだよ。それより今はお前の事だ」

そうだ、そんな事はどうでもいい。

自分が勝手に重ねて変に熱くなっちまっただけなのだから。

「僕の事?」

「あぁ、お前はそれでいいのかよ」

「良いも悪いもないよ・・・僕には選択肢が無いんだから」

再び顔を下に向けてしまうシャルル。

それを見た一夏は生徒手帳をめくりながら、ある記載を探す。

今のこの状況を、打開できうる策がそこにあるのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

・・・・さてねぇ。

僕はここまで聞いてなんだけど、気持ちは軽く沈んでいた。

シャルルもだけど一夏もなのか・・・。

全く、重たい過去だねぇ。ほんと。

ふと自分の両親が頭の中によみがえる。

・・・・父さんと母さんか。

・・・ま、ころ合いもいい頃だしそろそろ良いかな。

一発は覚悟しよう。

僕はイヤホンを耳から外すと、一夏の部屋の扉を勢いよく開けた。

「シャルル、アメリカは自由の国だ」

そして僕は、いきなりそんな事を高らかにのたまった。

当然一夏は、僕の登場を歓迎してなどいない。

「お前、何しに来たんだよ、出てけっつったろう!!」

そりゃそうなるよね。

僕は半ばあきらめながら、一夏に胸倉をつかまれる。

そして、それでもニヤつく僕を問答無用で、殴り飛ばした。

「いっつぅ・・・・一夏ねぇ、僕はこれでもけが人だよ?」

「知るか!俺はお前が許せねぇだけだ、人の悩みを真剣に聞こうともせず鼻で笑ったお前が!」

おやおや・・・。

一夏君は大事な事を忘れてる。

僕は、殴られて切れたのであろう口から流れ出た血を、右手でぬぐうと座りこんだ体勢のままいつもの調子で言った。

「一夏・・・僕は嘘つきだよ?」

「それがどうしたっていうんだ?大体嘘吐きなんて最低以外の何物でもないじゃないか」

「それは、昔から延々と言われ続けてることだからねもう慣れたよ」

僕は、怒る一夏を尻目にシャルルに近づく。

「さて・・ちょっと失礼」

僕はテーブル下をまさぐる。そしてそこから出てきたものは・・

「あ、ICレコーダー!?」

シャルルが素っ頓狂な声を上げ、一夏が更に睨む。

「コレ、録音した音声を電波で飛ばせるんだ、これ受信機ね」

「お前、ほんといい加減にしろよ、どこまで人を馬鹿にしたら気が済むんだ!?」

声を荒げる一夏を、僕は睨む。

「だったら、僕がいてシャルルは正直に全部話したかな?」

「・・・何だと?」

「あの時、シャルルは明らかに僕を警戒してたんだ。チラチラこっちを見てたしね。

あいにく信用されなさには自信があってね、おんなじような目で見る人間はごまんといた」

それは本当だ。

この性格。

確かに嘘の強みはあるが、逆にそのことがあらかじめ情報として知れ渡っていたりすると、

総じて僕や姉さんを避けたり、警戒したりする。

「だけど、流石に露骨に話しづらそうだからって出ていくと、余計に気を使わせちゃうと思ってね」

「そのための演技だったの?」

「君ほど上手くは無かったけどね、ま一発は覚悟の上でだから。あ、それと僕のは演技じゃなくて嘘ね

そこ重要だから」

「な、何だよ!お前そんなの・・・もっと早く言えって、殴っちまったじゃないか!」

僕の考えを聞いて、急にあわてる一夏。

いやぁ、こういう姿を見られるから、嘘をつくのって癖になるんだ。

「だから、一発は覚悟の上だって言ったでしょ。それより今はほらシャルルの事だよ」

僕は、混乱する一夏に道を示してやる。

あぁそうかと、我に返ると一夏は生徒手帳をめくっていく。

そして一夏は目当てのページを見つけたようだ。

「これだ」

そのページを開いて、こちらに見せてくる一夏。

ふむ・・・なになに特記事項第二一。確かこれは学園の生徒に関する記載事項だ。

えぇと・・・在学中の生徒はありとあらゆる国家・組織に帰属せず・・・・なんだっけ・・。

・・・あぁそうだそうだ。

本人の同意が無ければ、それらの外的介入を一切認めないってやつだ。

全く・・なんでこんなに条例文とかってやつは難しい日本語を使うんだ。

もう簡単に、生徒はどの組織にも属しませんでいいじゃないか。

「・・・よくそんなの見つけたね」

「ふん、俺は勤勉なんだよ」

「織斑先生に頭叩かれる回数一番多いのに?」

「う、うるさいアルディは黙ってろ、お前だって同じぐらいだろ!

それに何より今、俺格好良くまとまったじゃないか!」

「一夏も嘘が旨くなったね」

自分でまとまったとか言うのって、大抵外れだよね。

その様子を見て、フフッと笑うとシャルル。

「・・・・その条項が当てはまったとして、僕に選べるのかな」

「シャルル、そう言えばさっきの話だけど。アメリカは自由の国なんだ。そこでは誰もが自由。

まぁ法の名のもとにだけどね」

「自由・・・」

「そう、自由。そこでは誰もがみな平等にチャンスを与えられている。それに気が付けないだけで」

そう、シャルルも気が付いていなかっただけだ。

これまでもそのチャンスは絶対にあったはずだ。

「そのチャンスに気がつけた者だけが、そこでようやく選択肢を与えられる。そして気が付くんだ。

選ぶのは他でもない自分だって言う事に」

「僕が・・・」

「そう、そして君はたった今チャンスに気が付いたじゃないか。そして一夏が選択肢を与えてくれた」

何が言いたいのか、シャルルにはもう分かってるはずだろうね。

彼女頭良いし。

「そう、だね・・・これまで僕はそのチャンスをただ無理だって自分から放棄してたのかも・・・

僕考えてみるよ、これからの事・・・今度は誰でもない自分で、しっかりと」

その声にはさっき、の様な不安や苦しさは消えていた。

もう、大丈夫だね。

そう思うと、ホッとしたのか急に力が抜けて僕と一夏は椅子にドサッと腰を落とした。

「あ~それにしても・・・覚悟したとはいえ痛い・・・全身も悲鳴あげてるし」

「そんな事言ったってお前仕方ないだろ。あの状況でそんな事どうやって分かれって言うんだよ」

そりゃそうだけど、やっぱり織斑先生の弟の事だけはある。

いや本当に痛い。

弟でこれだから、織斑先生の鉄拳制裁はくらっちゃだめだ。

多分、一撃で即死の可能性がある。

「アハハ、でも僕もびっくりしたよ。確かに警戒はしてたけどあんな事言いだすなんて思わなくて」

「ったく、お前の嘘は姉さん譲りだっけ?はぁ・・・お前の両親も見てみたいよ」

ボソッと言った何気ない一言。

両親。

両親か・・・・。

「そうだね、会いたいね・・・・僕も」

言い方が意味深だっただけに、一夏とシャルルは頭に疑問符を浮かべ首をかしげた。

「僕も?」

「どう言う事?」

僕は、少ししまったと思う。

余計な僕もなんて言葉、言わなきゃよかった。

だが聞かれてしまったものは仕方がない。

僕は諦めたように笑うと、こう続けた。

 

 

 

「・・・・死んだんだ、海難事故でね」

 




やっと10話ですか…そうですかw
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