IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~ 作:のろいうさぎ
もう何年前になるのか。
僕は、父さんと母さん、そしてようやく休みの取れた姉さんの四人で旅行に出掛けたんだ。
それは船旅だった。
初めて乗る大きな船に、そして海に、僕の心は躍っていた。
はしゃぐ僕を父さんも母さんもそして、姉さんも笑顔で見守ってくれた。
青空のもと海風気持ちの良い中、客船は出港。
だがそれから数日後、いきなり大しけに見舞われてしまう。
船は揺れ、立っているのも無理なぐらいだった。
しばらくはなんとか、船首を波に垂直に向け乗りきっていた船だったが、ついに最悪の事態が訪れる。
突如、真横から予想だにしない大波にのまれたのだ。
船の窓ガラスは水圧で吹き飛び、一瞬にしてすべての電気が消える。
そして、それからは覚えてない。
気が付いたら僕は病院のベッドの上で、泣きながら姉さんが僕を見つめているだけだったから。
「そうだったんだ」
「・・・あぁ、別にこんな空気にするつもりは無かったんだけど」
シャルルと一夏そして僕の間に流れる、重たい空気。
さっきまでも相当重たい空気だったのに、それにまた僕の話が上乗せしてしまったようだ。
確かに、両親が居ないっていうさみしさが無いと言えば嘘になる。
でもだからといって、同情してほしいとかかわいそうだとか、そう思ってほしいわけじゃない。
こちらからすれば、そうなんだで終わるような話だと思ってたのに・・・。
「・・・・なぁ、アルディ。お前は両親の事好きだったのか?」
「当然だね、僕は一夏やシャルルみたいに重い過去なんて無いし・・・あぁ、別に悪く言ってるわけじゃないよ」
「そうか」
一夏は親に捨てられ、シャルルは少し複雑で・・・・。
でも、それでも生きてる。
一夏の親は分からないけど、シャルルの両親は生きてるし。
「一夏、シャルル。僕がこんなこと言うのおかしいけど・・・・どんなに嫌でも、きらいでも・・・
生きてるなら、両親を恨んじゃ駄目だと思う」
「別に俺は、もう何とも思っちゃないけど・・・」
だがそう言う一夏の顔にも少し動揺が見える。
どんなことをしたって、親なのだ。
完全に振りきれるわけがない。
いや、それを振りきっちゃいけないんだ。
血のつながりは、どこまで行っても途切れる事は無いのだから。
僕はパンパンッと織斑先生のように手を叩くと話を切り上げた。
このままもっと空気が重くなっても困る。
いつも言ってるけど、人生は楽しくなくちゃ。
「あ、そういえばさっきの話なんだけど。対象がなんで俺だけだったんだ、アルディも男だろ?」
一夏がそれを悟ったのか、話題を少し方向転換させる。
こういう気づかいはできるのに、どうして鈍感なんだろう・・。
「あぁ、それは優先順位の問題だよ」
「優先順位って言うと・・・・あぁ、僕と一夏ならだれでも一夏を選ぶね、正直だし優しいし」
そう言うとシャルルが少し頬を赤らめて、わざとらしく声を張り上げた。
「そ、そう言うことじゃないよ!た、確かに一夏は優しいし正直だけど・・・・・ってそうじゃなくて!」
ひょっとして、この子自爆大好き?
頭がいいのと、性格が抜ける抜けていないっていうのとではどうやらイコールではないらしい。
「もぅ、アルディ冗談が過ぎるよぉ・・・で、優先順位って言うのはそのままの意味だよ。〝白式〟の性能や、一夏のバックグラウンド、そして〝ブリュンヒルデ〟織斑 千冬・・・・これらに勝るものが一つもアルディには無いんだ」
少し傷つく言い方だけど、しょうがない本当の事だ。
〝白式〟に対して僕の〝ストライク・バーディ〟は姉さんのお下がりの改良品だし、僕のバックグラウンド?・・・・嘘つきになったそれだけ。そして姉さんは織斑先生ほど影響力も無ければ有名でもない。
おまけに、性格でも負け負け。
・・・・最後のはいらなかったかな・・・自虐で傷つくのなんて久しぶりだ。
「それらの事を統合的に考えた結果、一夏だけが対象になったんだ。下手に対象を増やすより確実だと思って・・・・でも見つかっちゃったけど」
そこで一夏はようやくしまったって顔をした。
そう、話題を変えたつもりだったんだろけど、これ戻っただけだよね。
またズーンと暗くなるシャルル。
「この馬鹿、なに話しぶり返してるのさ・・・」
「す、すまん・・いま俺は自分のリカバリー能力の無さを嘆いている所だ」
声をひそめて一夏の脇をコツく。
あの時ほんの少しでも感心した僕の心を返してもらいたいね。
「・・・・やっぱり、僕」
だが、次の行動を見て僕はやっぱり一夏は凄いと思った。
僕はあそこまではっきりと、面と向かって言う自信は無いよ流石に・・・嘘でもない限りね。
「さっき、選ぶって言っただろ、もう覆しちまうのかよ?
それでも、それでも・・・選べないっていうのんら俺が言ってやる!」
一夏は立ち上がると叫んだ。さっきまでの静かな雰囲気の中からいきなり大声を出すから、
僕は少し驚いてしまう。それはシャルルも同様だったようで、
びっくりした顔で一夏の顔を、見上げるシャルル。
「いち・・・か?」
不安がまたシャルルを包み込んでいく。
声は先ほどまでとは違い、僕がイヤホンで耳にしていた不安一色のか細いものだった。
だが一夏はその暗雲を一言で、吹き飛ばして見せた。
「ここにいろよ!それで解決だろ!?」
「え・・・・」
呆けた顔だったが、僕にはそれがどこか、嬉しそうにも見えた。
恐らくそんな事、初めて言われたんだろうね・・・。
僕は、興奮気味にまだ何か言葉を探す一夏を諭した。
「一夏、それ以上先はさっきも言ったでしょ、彼女が考えることだよ・・・ね」
僕はシャルルに笑いかける。
シャルルはまだどこか、不安そうな顔はしていたがうつむいてはいない。
「・・・ほんと僕って駄目だなぁ、二回目だね言われるの」
「僕は三回四回言われても、覚えられないけどね」
「自慢じゃねぇだろ・・・」
「自慢とは言ってないけど」
ハハハッと笑いあう。
そうさ、こうじゃなきゃ人生は。
僕は、その後の事を一夏に任せて部屋を後にする。
部屋のドアを閉めると、ふと懐かしい話をしちゃったなと思う。
これまでもまぁ数えるぐらいは、した気がするけど最近は全く自分の事なんて話したこと無かった。
それに聞かれなかったしね・・・。
僕は、足を自分の部屋に向ける。
そこで、腹の虫が鳴いていることに気が付いた。
・・・・あ、ご飯まだだったな。
急遽方向転換。
今日はこういう突発的な行き先変更が多いね。
僕は、その足を部屋から食堂へと向き直した。
階段を下りていた時、声をかけられる。
ん?んん?
声はすれど姿は・・・
「ここですわよ!」
声のした方向を見やると、ようやく見えた。
階段の手すりの所為で僕側からはその姿が見えていなかったようだ。
「セシリー?」
「セシリー?じゃありませんわ全く・・・・それでその、大丈夫ですの・・・?」
「あぁ、うん。まだ完璧に整理が付いたわけじゃないけどね」
ああ言ったものの不思議なもので、さっきシャルルたちと話しただけで僕の心は
驚くほど整理が付いていた。
姉さんや両親の事を、順序立てて色々話したからかもしれない。
「そうですか・・・・あ、ところでこれから一緒に夕食でもいかがかしら?」
おぉ、丁度いい。
・・・向こうにとっても丁度いい。
「・・・はぁ、アル。私そんなにあなたに奢らせてばかりだったでしょうか」
頭を押さえながら、ため息をつくセシリー。
・・・僕も、読まれやすくなったものだ。
「アル、あなた初めて会ったときから、意外と考えダダ漏れですわよ」
「嘘!?」
それは心外だ・・・。
僕はさらりと嘘を言ってのけるクールな嘘つきを目指しているのに。
「はぁ、もういいですわ、でどうですの?ま、無理と言っても無理やり連れて行きますけど」
そう言ってスルッと腕を僕の腕にまわしてくるセシリー。
・・・やれやれ、こうなっては断れない。
まぁ断る気なんてハナから無かったんだけど。
「それじゃぁ、行きましょうかお嬢様?」
「フフフっ、苦しゅうな~い」
僕は、〝お嬢様〟を食堂という名の、パーティ会場へエスコートした。
・・・・流石に言い過ぎかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
・・・・なんですのこれ。
アルが出られなくなったことが分かった日から一週間半が経った。
今セシリアの目の前には申込書が一枚。
その申込書には、『今月開催の学年別トーナメントは二人一組での参加を必須とする』という旨の緊急告知文が書き込まれていた。
な、なんてタイミングの悪い・・・。
二人一組ということは当然ペアを探さなければならない。
セシリアは、ペアを組むならアル以外考えられなかった。
だがアルはご承知のとおりである。
・・・・不味いことになりましたわ。
相手が、専用機持ちでなければ正直いって、セシリアは単機でもどうにか相手に出来る算段はあったのだが、この告知文にあるとおりペアは必須だし、何より勝ち進んでいけば必ずどこかで専用気持ちに当たる。
そうなると、いくらまだ実力が伯仲している一年生といえども、
〝打鉄〟や〝ラファール・リヴァイヴ〟で専用機を相手にするのはあまりにも酷だ。
・・・・勝てるペアがいりますわね。
一夏さんは・・・デュノアさんとでしたわね。
箒さんは剣の腕は立ちますが、専用機を持っていない。
ラウラ・ボーデヴィッヒは論外・・・
消去法で消していくと・・・・・。
一人しか残らなかった。
「・・・なんであたしなのよ」
セシリアは、残った一人に会うべく二組を訪れていた。
鈴は腕を組んで、渋い顔をしている。
「仕方が無いでしょう、勝てるペアが必要なのです」
「勝てるペアをアテにして来たのは良いけど、仕方がないっていうのやめなさいよ」
仕方が無いものは仕方が無いのだ。
実際鈴とは、初対面での〝知らない発言〟から犬猿の仲であり好きな男子が違うから、
その事でもめごとは起きないが、それでもその他の些細な事で意地を張り合ったする仲だ。
その鈴が、自分の申し出を素直に受け入れるとは考えにくいし、そんな事思ってもいない。
だから、少し交渉をしてみようとセシリアは初めから色々考えてこの場に足を運んでいる。
「鈴さんは、もう誰かと?」
「いや、まだだけどさぁ・・・」
鈴は口をとがらせる。
恐らく一夏とペアになれなかったことが、相当尾を引いているようだ。
セシリアはそのことを察すると、不敵な笑みを浮かべる。
「そんなに一夏さんと一緒がよろしかったのでしょうか?」
「だ、誰が!?そんな事一言も言ってないじゃないのよ」
誰に目から見ても明らかに動揺する鈴。
これはもう少しですわね。
「そうですわよね、いつもアピールしているのに一向に振り向いてくれない一夏さん。そのお気持ち分かりますわ、本当に悔しいですわね」
「う、うぅ」
図星をバンバン言い当てられて、気まずそうに小さくなる鈴。
「ですが・・・あのデュノアさんがいなければ、一夏さんは鈴さんに振りむいてくれたかもしれない」
流石に苦しかったかと肩目を開いて、鈴の様子を伺うがどうやら、気まずさとモチベーションの低下から、先ほどの言葉の不自然さには気が付いていないようだった。
ふぅ、危ない・・・。
デュノアさんは男の子でしたわね。
下手言って、ここでばれたら鈴とペアが組めなくなって不利になってしまう。
それだけは避けなければ。
「トーナメントで優秀な成績を残せば、一夏さんはきっと鈴さんに振り向いてくれますわよ!」
「・・・一夏が振り向いてくれる・・・・振り向いてくれる・・・デュノア邪魔・・・デュノア邪魔・・」
しばらくして、うつろな目でそのフレーズだけを繰り返し始める鈴。
流石に吹っ掛けたセシリアも引くぐらいのシュールさだったが、セシリアはその鈴にとりあえずペンを持たせ、申込書にサインさせると足早に二組を後にした。
何にせよこれで、セシリアと鈴というある意味、最強のそれでいて、
磁石の同じ極同士のデコボココンビが誕生した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ふぅ、ISを持っていなくても、意外と日って言うのは早く過ぎるものなんだなぁ。
僕はアリーナの更衣室からピットへと続く通路のモニターに映し出される観客席の様子を見ていた。
各国の要人やIS関係者、あ、アメリカの技術者までいるね。
僕は出場できないけど、こんな人たちの目の前で戦うのかぁ。
・・・いいなぁ、目立てるし。
身体の痛みは消えていたが、まだ腕の刺し傷の包帯は取れていなかった。
でもまぁ、セシリーに僕は任せたのだ。
今日はそれを信じて応援するしかない。
「お待たせいたしましたわ」
「・・・う~ん・・なんであたしオーケーしたんだろ?」
後ろから、セシリーの自信たっぷりな声と鈴の納得出来ていないような声の二つが通路に響いた。
既に二人とも、ISスーツに身を包んでいる。
「何をウダウダ言っていますの、鈴さん!ここまで来たら覚悟をお決めなさいな」
「ウダウダってねぇ・・・良いように人を丸めこんどいてあんたがそれ言う?」
少なくとも鈴には、丸めこまれたっていう感覚はあるらしい。
だったら素直に納得すればいいのに。
「それに、別に覚悟決めたとか決めてないとか言うつもりないし。始まったら代表候補生としてその実力を発揮するだけよ」
「その意気ですわ、鈴さん」
どうやらセシリーは、鈴になるだけ逆らわずに持ち上げて、丸め込まれたっていう事で生じるモチベーション低下を最小限に食い止めようとしているようだった。
「はぁ、わざとらしいのよあんた!」
「せっかく、人が褒めているのですから、少しは素直に受け取ったらどうですか!?」
・・・・・どうやらそうでもないらしい。
鈴ははぁっと、ため息をつくと僕に質問する。
「まぁ良いわ、で、あたしらの対戦相手ってもう決まったの?」
「今、抽選会やってるんじゃないのかな、もうすぐ出ると・・・・ってえぇ!?」
タイミング良く表示される、トーナメント表。
それを見て僕だけじゃなく鈴やセシリーも同様に驚きの声を上げていた。
セシリーと鈴はAブロックに振り分けられている。
そしてその一組目がセシリーと鈴だったのだ。
だが驚くべきはそこじゃない。
「一夏さんと、デュノアさんのペアが・・初戦ですのね」
「順当にいけばラウラと二回戦で当たる・・・」
ラウラと・・・箒がペアになったのか。
あの二人、絶対に気なんて会うわけ無いよなぁ。
・・・・でも。
ラウラ・ボーデヴィッヒは、平気で生身の人間に向かって攻撃ができるほどの冷徹さを持つ人物だ。
そして、彼女はドイツの軍人。
並の操縦者など一蹴してしまうだろう。
そう考えると、セシリー達は一回戦を落としてしまうと、
仮に三位決定戦に回れてもラウラと戦えないことになる。
答えは簡単だ。
単純にラウラが強いからである。
「セシリー・・・」
「大丈夫ですわ、アル・・・・ほら」
「あんたそれ首にぶら下げて戦うつもり?」
セシリーは首にぶら下げていた〝ストライク・バーディ〟を掲げて見せる。
そしてそれをギュッと握った。
「アルと、お姉さんの思いは私が必ず証明してみせます」
「・・・ま、良いわ。あたしも友達やられて黙ってられるほど人間出来ちゃないし、あの女の顔面に一発入れてやるためにも、一夏達なんて瞬殺よ!」
セシリーに引っ張られる形で、鈴もどうやらモチベーションが復活してきたようだ。
二人とも、自信に満ち溢れた良い表情をしている。
〝これよりAブロック第一回戦を開始します。参加ペアはピットにて準備を行ってください。繰り返します・・・〟
場内アナウンスが聞こえ、セシリーと鈴の顔に緊張が走る。
出場しない僕でさえ、ピリピリした雰囲気に当てられて少し身体がこわばってしまうぐらいなのだ。
当の本人たちのそれは、ちょっと僕じゃ計り知れないだろう。
でも、だからこそ。こういう時だからこそ、楽観的に事を構えるのも必要なのだ。
「セシリー、鈴。スマイルスマ~イル。肩の力入りっぱなしじゃいい戦いは出来ないよ」
僕は言いながら、両者の肩を軽く揉む。
初めはやはり、身体が緊張していたが揉んであげるとすぐにほぐれてきた。
「あ、アル・・・私はその・・大丈夫ですわ!」
「あんたねぇ、あたしを誰だと思ってんのよ!」
頬を赤く染めるセシリーと、その手を振りほどこうとする鈴。
そうそう、そうやっていつも通りにね。
僕は肩から手を離すと、笑顔で彼女たちを見送った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「一組目から強敵だね」
「まさか、つぶし合いになるとはなぁ」
一夏は頭をポリポリ書きながら、トーナメント表を見つめていた。
確かに、こうなることの可能性は一夏も考えてはいたが、まさか本当になってしまうとは。
ベストだったのは、ストレートにラウラと戦う事だったのだが仕方がない。
「・・シャルル、勝とうぜ」
「そうだね、あの二人には悪いけど本気で行こう」
一夏は真剣勝負で手を抜いたり手を抜かれたりすることを極端に嫌う。
だからこそ、こうなってしまっても一夏は手を抜こうとは思わなかった。
正々堂々・・・真正面からぶつかってやる。
一夏とシャルルは強い決意と共に、ピットへ向かい歩き出した。
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ふん・・・初戦に雑魚とのつまらん戦闘が入ってしまったが。
まぁ良い。
私のすべきことに、変わりは無い。
織斑一夏を完膚なきまでに倒すことこそが、私のすべきことだ。
他になにも必要無い。
それだけを完遂すればいい。
教官に汚点を残したあの男さえ排除すればな。
ラウラは腕を組みながらチラッとペアになった箒を一瞥する。
「貴様、何やら張り切っているようだが、邪魔だけはするなよ」
「ふん、それはこちらのセリフだ。お前こそ油断して足元をすくわれないように注意しろ」
箒は、いつもの調子でだが少し威圧的にラウラに言い返す。
だがラウラはそれを鼻で笑う。
「はッ、笑わせてくれる。雑魚は雑魚らしくピットでボサっとして居ればいい。私がすべてやる」
「なんだと!!」
ラウラに詰め寄った箒だったが、逆にラウラによって足を払われると無駄のない動きで箒の胸倉をつかんだ。
「・・・・・調子にのるなよ?邪魔をするなと言ったらするな。それが出来ないのら撃つだけだ。貴様ごとな」
ラウラは箒をまるでごみを放るかのように払い捨てると、一人ピットの扉へ消えた。
・・・・・私は・・・あんな暴力の塊のようなヤツと、本当に失敗を犯さず。もう間違えずに力を振るえるのだろうか。
箒は以前束の開発したISの所為で、家族と別々にされ執拗な監視と事情聴取。
かろうじて続けていた剣道も、本来心身を究め力の本質を見誤らぬ事が剣の道であったにもかかわらずそれを、ただの憂さ晴らしの道具として考えてしまった時期があった。
今回のトーナメントでは、その間違いを犯さないように自分で自分んをしっかりコントロールするつもりだった。
だがペアがアレである。
箒はラウラを見た時、昔の自分とどこか重なる所を感じていた。
・・・・駄目だ駄目だ!考えるな。大丈夫・・・大丈夫だ。
箒は自己暗示のように繰り返しながら立ち上がると、ゆっくりとピットへと足を進めた。
・・・そう、私は絶対に間違わない!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ワァァァァァァァァッと歓声の響く中、両ピットからそれぞれのISが計四機飛び出してくる。
初戦から専用機持ち同士の対戦とあり、否が応でも注目が集まっていることは容易に想像ができた。
両者が互いに所定の位置へ、ISを移動させる。
対峙するは一夏・シャルルペアとセシリア・鈴ペアだ。
「よく、お前たちが組む気になったな。水と油みたいなのに」
「誰が水よ!!」
「鈴さん、私が油ですの!?」
「アハハ、からかっちゃダメだよ一夏」
四人とも軽口を言いあう。
互いに緊張は程良くほぐれているみたいだった。
・・・・絶対に、負けられませんわ。
この思いと共に・・・・絶対。
セシリアは瞳を閉じて、またそのネックレスを強く握る。
すると一瞬、本当に一瞬だが何かそのネックレスが光った気がした。
(・・・・なんですの、今のは)
セシリアは先ほどの感覚を考えようとしたが、試合開始のブザーがそれを遮った。
〝Aブロック第一回戦・・・・始め!!〟
セシリアは頭を切り替え、飛ぶ。
〝ブルー・ティアーズ〟は射撃特化の支援に適した長距離戦ISだ。
セシリアは、鈴が孤立しないように距離を取りながらもビットを巧みに使いながら
一夏達を牽制する。
「僕も忘れてもらっちゃ、困るな」
そこへ、早々に鈴を一夏に任せたシャルルが両手にアサルトライフルを展開してセシリアへ迫る。
「忘れてなどおりませんわ、むしろ一夏さんよりもあなたの方が厄介ですものね!」
セシリアは四機中二機を一夏側に振り分け、残りの二機と〝スターライトMKⅢ〟でシャルルを狙う。
ビットの弱点は、一夏に指摘された通り。
〝このビットは毎回自分が指示をしないと動かず、更に一番感覚の遠いところを狙う〟
これが相手に読まれた弱点だった。
だが・・・それなら。
仮に一度の事をいっぺんに考えることができるのならどうだろうか?
すべてのビットを、隙なく動かし尚且つ自分もしっかりと攻撃と機動、防御を行えたら?
・・・そして、今の自分にはそれができる。
今日の今日まで、じっくりと時間をかけて反復練習を重ねてきた。
練習はうそをつかない。
それにこれぐらいできて当然だ。何せ自分はセシリア・オルコットなのだから。
「なッ!くッ!?動きが・・一夏から聞いてたのと違う!?」
「私は代表候補生ですのよ!立ち止まってなど居られませんの!」
ビットと〝スターライトMKⅢ〟の驟雨がシャルルを襲う。
だがシャルルは笑っていた。
「・・・なんてね、そのぐらいの事は予測済みだよ」
シャルルは的確な操縦でその攻撃をかわす。
先ほどまでの焦りも、当たりそうな感覚も無くなる。
つまりシャルルは〝わざと〟焦ったふりをしていたのだ。
という事は、シャルルの実力はセシリアが考えていた以上に高いと言う事になる。
(・・・・まいりましたわね)
セシリアに向かって今度は、シャルルがアサルトライフルを撃つ。
っく、私はこんなところで・・負けられませんのに!!
やがて、勢いを殺されたセシリアはシャルルに押され始める。
必死に回避と、隙あらば攻撃を繰り返すセシリアは、焦りながらも程良く冷えた頭で
打開策を考えていた。
必ず勝たねばならない。
自分のためにも。
そして何よりアルのためにも!
セシリアは駆る。
降り注ぐ銃弾の先にある勝利を目指して。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気付けば鈴は、旨く一夏に分断されてしまった事に気が付く。
っく、このあたしが!
そしてそのことは、代表制ペアよりも相手のペアの方がコンビネーションに長けていると言う事でもある。
「鈴!いつかのリターンマッチになっちまったな!」
「ふん、一夏のくせに偉そうね!あの時見たいにイグニッションブーストで、奇襲するつもりなら無駄よ、二度も同じ手は食わないわ!!」
確かに鈴はあの時、一夏に完全に勝っていた。それは事実だ。
だが最後の最後、油断から招いた一瞬の隙を突かれ、乱入騒動が無ければ負けていたのも事実。
その苦い経験から、鈴は脅威である〝イグニッション・ブースト〟には細心の注意を払っていた。
流石の鈴のISでも、〝イグニッション・ブースト〟で迫られてはとっさに避けようがない。
だが、鈴はさらなる懸念事項に襲われた。
(一夏の飛び方が・・・デュノアね!)
そう、あの時とは明らかに飛び方が違う。
ベースは直線的なのだが、所々でスピードに強弱をつけたり高低差を利用したりと、変化が見られた。
恐らく、この日までにデュノアと特訓に励んだのだろうと思われる。
でも・・・
「そのぐらいで勝てるなんて思わないことね!!」
鈴は〝双天牙月〟を振り上げ、突っ込んでくる一夏の〝雪片〟を正面から受け止める。
腕の振りに加えて、移動エネルギーも加わっていたのだが、それをもしっかり受け止めきれるだけのパワーが〝甲龍〟には備わっている。
「くそッ!やっぱパワーじゃ勝てないか!?」
「しっかりしなさいよ、男の子!」
鈴は、瞬間ほんの少し高度を上げ一夏を、〝双天牙月〟で下方向へ払うと〝龍砲〟で
一気に地面にたたきつけようとする。
「食らいなさい、流石に避けられないでしょ!!」
しかし鈴の〝龍砲〟は不発に終わる。
いや、不発というよりは鈴は吹き飛ばされたのだ。
鈴が見やるとそこには、いつのまにかセシリアを振り切り、
こちらへ銃を向けるデュノアの姿があった。
(なっ、セシリアは!?)
鈴は素早くハイパーセンサーでセシリアを探す。
まさか、あのセシリアをもう落としたというのか?
「鈴さん勝手に、殺さないでください!」
声のした方を見やると豆粒サイズのセシリアが。
「・・・あんたこの距離をどうやって飛んできたの?」
「どうって、〝イグニッション・ブースト〟だけど」
さらりと言ってのけるが、鈴やセシリアは事前に出場者の目ぼしいデータには目を通している。
だが、デュノアが〝イグニッション・ブースト〟を使用できるというデータはどこにもなかった。
この状況で鈴はようやく理解した。
(この子、ヤバイ)
正直、一夏を先に自分が倒せると思っていた鈴は。考えを改める。
無理だ。
一人でこのコンビネーションを抜けるのは。
鈴は、周囲に構わず〝龍砲〟を振りまくとその隙を縫って、セシリアの元へ移動する。
「体勢を立て直した方がいいわね」
「・・・舐めておりましたわ。ですが・・・負けるわけにはまいりません」
一瞬の険しい顔の後、すぐに自信たっぷりな笑みをこちらへ返すセシリア。
だがそれは、鈴も同じだ。
こんなところで負けるわけにはいかない。
鈴はもう一度セシリアを見る。
「・・・・セシリアあんた、これ出来る?」
鈴は手早く、アイ・タッチでデータを〝ブルー・ティアーズ〟へ転送する。
「これは・・・」
「出来るの?」
セシリアは、一瞬目を見開いて少し考える。
「・・・・・」
「あのコンビネーション。あたしから見ても大したもんだわ。特にあのデュノアが厄介。
一夏も、前に比べれば動きも良い。一人で個別撃破は難しいしリスクもデカイ。
でもこれなら二人が負うリスクは半々よ?」
「私,博打は好きではありませんが・・・良いですわ、やりましょう」
鈴はその返答を待っていたとばかりに、ニヤッと笑う。
「ヘマるんじゃないわよ、これはスピードとタイミングが命なんだから!」
「誰に言っていますの、私は・・セシリア・オルコットでしてよ!!」
鈴とセシリアが一気に敵へ加速する。
その行動にシャルルと一夏が身構える。
その様子を確認した鈴とセシリアは、不敵に笑いそして同時に高らかに叫んだ。
「「タクティクス〝レイ!〟」」
鈴とセシリアって、なんだかんだいって仲は良いと思う。