IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~   作:のろいうさぎ

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第12話~暖かい世界~

モニターで戦闘の様子を見ていた、千冬と真耶は鈴とセシリアの動きが変わった事にすぐに気が付いた。

「何か、するつもりでしょうか・・・」

「この機動は・・・〝レイ〟だな」

つぶやいた言葉に真耶が首を傾ける。

「レイ?」

「中国語で雷という意味を持つ、マニューバタクティクスの事だ」

機動戦術〝雷〟。

これは中国IS軍による機動戦術で、主に二機以上の僚機で行われる機動戦術だ。

高い機動技術と、射撃そして格闘戦闘が求められる高度な戦術だ。

「この戦術には、近接戦闘の技術も必要なんだがな」

「オルコットさんは、苦手としてますね・・・」

「・・・何か考えがあるのか・・・まぁ見せてもらおうじゃないか」

千冬はそう言うと、台の上にあったインスタントコーヒーを取り出しコーヒーを淹れ始める。

粉を入れ、ポットからお湯をカップへそそぐ。

「でも、織斑君たちのコンビネーションも結構な完成度ですよね。凰さん達の作戦がうまくいっても落としきれるんでしょうか?」

千冬はコーヒーを淹れる作業を中断してモニターを見やった後、麻耶に向き直る。

「山田君、確かにデュノアと織斑は動きは良いが、これがそのまま実戦で使えるかと言えばノーだ。

あくまでこれは、トーナメント用に作った付け焼刃みたいなものだろう。

だが〝レイ〟は違う。元々実戦の中で考え出された、戦術なのだよ。

だからこの一戦・・・〝レイ〟を完璧にあの二人がこなせれば、織斑たちは負ける」

そこまで言い切ると千冬は、コーヒーを作る作業へ戻る。

えぇと・・そうだ砂糖を・・・。

「・・・でもそこまで言っても、やっぱり織斑君の事心配してるんですよね!やっぱりお姉さんだなぁ」

そうだ、塩を入れよう。

千冬は塩を〝適量〟コーヒーの中へ落とす。

そしていつも以上に笑顔で麻耶に近づいていった。

そこでようやく麻耶は自分の、失言に気が付いた。

千冬が身内の事で弄られる事を嫌っていたのをすっかり忘れていたのだ。

青ざめる麻耶だが、もう遅い。

「山田君、君の好きな塩入りコーヒーだ。ちゃんと適量測って淹れたぞ?」

「い、いや・・その塩適量って言うのは・・・それに私そんな好物」

「飲みたまえ」

「あ、いや、でもあの織斑先生がお飲みになられたら・・わざわざ手を煩わせるのも・・・ッ」

「・・・・・・飲め」

「はい」

麻耶は苦みと辛みが混在する、おおよそコーヒーとは呼べない代物を涙目ですすった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「鈴、突っ込んでくるなんてヤケにでもなったのか!」

「一夏、あんた油断してるとマジで怪我するよ?」

さっきまでと明らかに、雰囲気の違う鈴の声を聞き一夏は、身体に緊張が走る。

鈴はそのままこちらへ突っ込んできていた。

一夏はそれを受け止めるために、〝雪片〟を構え、シャルルはそれを迎撃すべくコンビネーション機動を開始する。

「凰さん、何をするつもりかは知らないけどやらせない!」

シャルルは瞬時に武装をリアルタイムで変更する。

その速さから鈴にはすぐにあれがシャルルの〝ラピッドスイッチ〟という特技である事に気が付く。

(・・・なるほどね、ほんと器用だわ・・・でも)

鈴はそのまま〝双天牙月〟を一本に連結させ一夏に突っ込む。

一夏はそれをなんとか受け止めると、やすやすと後ろを取ったシャルルがそれを狙う。

だがそこへセシリアのビットの一斉射撃が降り注いだ。

「おっと」

シャルルはそれをヒョイッとかわすが次にシャルルが見たものは、一夏を〝龍砲〟で吹き飛ばした鈴が自分の真正面にいる光景だった。

鈴は再び〝双天牙月〟を使いシャルルに切りかかる。

「うっくッ!」

シャルルは手に持っていたライフルでなんとか受け止めたが、いかんせんパワーが違う。

鈴はさっきと同じ要領で〝龍砲〟を発射しシャルルを吹き飛ばすと、また今度は一夏の方へとその衝撃をも加速に使って一気に肉薄。追うシャルルをセシリアのビットが襲う。

マニューバタクティクス〝レイ〟は、このように、同じ動作同じ攻撃を寸分たがわぬタイミングで行う機動戦略である。

〝敵陣を光のごとく駆け抜ける姿、まさに雷のごとく〟という事から〝レイ〟と名付けられた本戦術は、本来なら、一撃離脱のできるISの方がより効果的である。

だがこの場合、セシリアはのISは機動力は一般的だし近接武器をほとんど持っておらず、また苦手としているし、鈴のISもそこまで高いとは言えない。

だから動き回る約を買って出た鈴はそれを〝龍砲〟の発射衝撃を反動にして、言ってみれば疑似的なブーストで補っているのだった。

そして援護側にまわったセシリアは、寸分たがわず性格無比な射撃で動きを制限し、こちらもこちらで疑似的な一対一の構図を作り上げていく。

セシリアは縦横無尽に動き回る鈴を見て、改めて感嘆の声を漏らす。

「鈴さん・・・・中々やるではありませんか。代表候補生はやはり伊達ではありませんのね」

 

鈴の動きは非常に速くしかも、正確に相手を旨く払える位置に〝双天牙月〟を撃ちこんでいる。

これにはシャルルも、手をこまねいて見ているしかなく、かといって攻撃の隙があっても動き回る鈴を旨くとらえきれず、セシリアはセシリアで必ず相手の上、出来るだけ太陽を背負いながら射撃を行ってくる。

いくらハイパーセンサーがあるとはいえ、逆光で正確に射撃を当てるだけの技術はまだ流石のシャルルに備わっていなかった。

「このままじゃ!」

「あぁ、やべぇ!!」

始めて二人の口から、焦りの言葉を聞いたセシリアと鈴はたたみかける。

「鈴さん!」

「あんた、あわせなさいよ!!」

鈴は再び一夏へとその進路を取る。

だが今回はセシリアの援護が無い。

そこへなぜ援護が無いのか、疑問に思いながらも、シャルルが割って入った。

「やらせない!」

それを見て口元を緩めた鈴。

鈴は一気に高度を上げる。そして背後から現れたのは〝ブルー・ティアーズ〟の一極集中射撃だった。

そう、鈴はギリギリまでセシリアの放った射撃を隠していたのだ。

「しまった!?」

避けるすべなく、その攻撃に直撃するシャルル。

そしてシャルルに一瞬気を取られた一夏に〝双天牙月〟と〝龍砲〟そしてビットの一斉射撃が襲う。

反応して防御でもされれば火力不足だっただろうが、ろくに反応も出来ず一斉掃射を浴びた後、トドメの一撃が鈴によって再度振り下ろされた。

「ぐあぁぁっ!!」

激しく地面にたたきつけられる〝白式〟と三枚のマルチ・スラスターを欠きマルチウェポンラックは、誘爆を起こしたのか吹き飛んでいる〝〟ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを尻目に、

悠々とアリーナへと降り立つ二人に、勝利を告げるアナウンスが流れた。

〝試合終了!Aブロック第一回戦勝者セシリア・オルコット、凰鈴音ペア!!〟

鈴はセシリアの方を向くと、右手を挙げる。

始めはきょとんとしていたセシリアだったが、すぐにその意味を理解したのか同じように手を挙げた。

「ま、中々だったじゃない」

「そちらこそ、まずまずですわね

軽口を言って互いにニッと笑う。

そして・・・・ガシャァンッ!

人間で言う所のパァンッという、IS同士の無機質な、だがどこか心地のいいハイタッチ音がアリーナにひと際大きく響いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

まさに、水と油の融合ってところかな。

僕は通路のリアルタイムモニターで、観戦してそんな感想を持った。

程なくして、ピットからセシリーと鈴が帰ってくる。

「お疲れ様」

僕は勝っておいたスポーツドリンクを二人に手渡す。

「アル、助かりますわ」

「ん、サンキュ」

二人は、ゴクゴクッとスポーツドリンクを口にする。

そしてセシリーは上品に、口を飲み物から離し口周りに付いた水分をタオルで拭き取る。

一方の鈴は、飲むとくぁ~~やっぱ、動いた後はスポーツドリンクよねぇ~!と言いながら、こぼれるのも気にせず、勢いよく口から離した。

飲み物一つ飲む動作でもこれほど違う二人が、さっきまで寸分たがわないコンビネーションで

相手を圧倒したのだから、面白い。

「あ、そういえばあいつ・・ラウラはどうなったの?」

鈴の質問のセシリーも頷きながら、こちらに無言で質問を投げかけてくる。

気になるよね、やっぱり。

「まさか、負けたとかはありませんわよね」

「そうだね、終わったよ。さっきスタッフの人・・・まぁ教員なんだけど、その人に聞いた」

「で、どうなったのよ!?」

じれったいなぁと言わんばかりに鈴が、こちらに詰め寄ってくる。

それをセシリーが、鈴の首根っこを引っ張って、無理やり引き離した。

「近いですわよ!!!」

「うっさいなぁ、気になるでしょうが。それにあたしはね、あんたみたいに邪な考え持ってないの」

「よ、よよ、よこしまですって!?」

やっぱりこの二人は水と油だ。

仲良く笑いあえる日は来るのだろうかと心配してしまうが、いくらなんでもここで騒ぐのはまずい。

「まぁまぁ、二人とも。ここで騒ぐのは、ね。結果は言うからさ」

鈴はボソッと早く言いなさいよと言い、セシリーとの言い争いを切り上げる。

セシリーは、その後も少しジト目で鈴を見ていたが鼻を鳴らして、そっぽを向く。

・・・・大丈夫かなぁ。

また色々考えてしまう僕に鈴がまた迫る。

「だから早く言えっての!!」

「分かった分かったよ! ラウラの試合は箒の出番なく終了。相手の二人は保健室送りだってさ」

僕は聞いた事を一言一句間違えずに伝える。

そして、結果を聞き鈴とセシリーは首をかしげた。

「あの箒って子が手を出さなかったの?・・・あんな性格の強い子が?」

「確かに妙ですわね・・・。箒さんは言われても脅されても絶対それに従うような性格ではありませんし・・・」

「あぁ、違う違うそうじゃなくて、箒は試合開始早々、ラウラに敵ごと吹っ飛ばされたんだよそれで壁に打ちつけられて、駆動部を破損した〝打鉄〟を交換しに行ってる間に終わってたらしいんだ」

「・・・・・・何よそれ」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・何と言う事を」

二人とも絶句するしかなかった。

だがそれが真実なのだ。

これで二人にも、ラウラの冷徹で非常識だってことは理解してもらえたと思う。

「で、落ち込んでる所悪いけど、策はあるのかい?正攻法で行って勝てる相手じゃ・・」

言いかけた僕を、鈴が遮った。

「ふふんッ、あんたねあたしたちをなんだと思ってるの?」

「私たちも、代表候補生。彼女に劣っているとは思っておりませんわ」

「でも・・」

「あーもう、あんたは黙って勝つこと祈ってなさい!」

鈴は、大声で早口にまくしたてると、更衣室へと消える。

それを見送り、僕はトーナメント表に目を落とす。

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

・・・・相手を保健室送りに。

一瞬だがセシリーと鈴が、そうなる映像が頭をよぎりそれをかぶりを振って、かき消す。

だが、そうは言っても心配だ。

「・・・大丈夫ですわよ。私も鈴さんも」

唐突にセシリーがつぶやいた。

「え?」

「だから大丈夫ですわよ、私たちは。それに私に至っては、これがありますもの」

セシリーはそう言って笑いながら、〝ストライク・バーディ〟を首から外す。

「私は一人で戦ってなどいません。鈴さんもいますし、ここに二人も私を後押ししてくれる人がいる。だから大丈夫ですわ。必ず次も勝ってまいります」

「セシリー・・・」

それだけを言い残し、鈴同様に更衣室へと姿を消すセシリー。

・・・そうだ、

僕は信じて応援するしかない。

心配しても仕方ないんだ。

僕はここで、二人が勝つのをただただ祈る。

それが今僕に出来る唯一の事だから。

その時、ほんの一瞬意識が遠のきかける。

「わわわッ!?」

力の抜けた足がバランスを崩させ、僕はなんとか壁の手すりにつかまって転倒だけは回避する。

・・・・な、何だ今の?

僕は、その症状の正体をつかめぬまま、きょとんとした顔でまるで答えでも探すかのようにキョロキョロと辺りを見回していた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「お前ッ!!!」

箒はピットでラウラの胸倉をつかんでいた。

だが掴まれているラウラの目は冷めきっている。

怒っている自分が馬鹿らしく思えるほどに。

「味方ごと吹き飛ばすなど、何を考えているッ!」

「言ったはずだ、私は邪魔をするなと」

「邪魔だと!?相手の動きを抑えていたのだ、それが邪魔だと言うのか?」

「誰もそんな事、頼んでなどいないだろう」

さらりとそんな事を言われて、更に逆上する箒。

「いいか、お前と私は今はペアだ! お前一人で戦っているつもりか!!」

「・・・・・あぁ、いつでもそうだが」

箒は絶句する。

それと同時に、するっと手の力が抜けラウラが箒の元を離れる。

・・・・こんな、ここまで。

箒はラウラを睨むが、既にその姿は消えようとしていた。

そこへ、次の対戦相手の情報が届く。

箒は、息を整えると口を開く。

「おい、次の対戦相手が決まった様だぞ」

「そんなもの、私の方にも届いている」

「・・・・・良かったな、一夏ではなくて」

箒の意味深な言い方に、ラウラは目じりを若干上げながら戻ってきた。

「どういうことだ?それはつまり私が、あの男に負けると言いたいのか?」

箒は、ペアを組んで恐らく初めてではないかと思うラウラの苛立つ声を聞いた。

だがそれに臆することなく箒は、はっきりと言う。

「あぁ、そうだ。お前は一夏には勝てない」

「なんだとッ!」

今度はラウラが箒の胸倉をつかむ。

その目は、鋭く刃物のようだった。

「貴様・・・何を根拠にそんな事を言う?」

「根拠だと、笑わせる。そんな事も分からずに一夏に勝とうとしていたのか。そんな事ではセシリア達にすら勝つことはできないな」

ラウラにはその意味が理解できない。

なぜだ?

ISの性能も、実力も、そして力も。どれ一つとして自分はあの〝代表候補生コンビ〟に劣ってなどいない。もちろんあの男にだって。

なのになぜそんな、出任せが言える!?

「分からないのか、本当に?」

箒の少し憐みの入った声をラウラは鼻を鳴らして反論する。

「・・・・・ふん、そんなもの分かる必要はない」

そうだ、分かる必要などない。

要は勝てばいい。圧勝だ。

それ以外必要はない。

あの男が負けてしまったから、〝合法にあの男を始末する手段〟は無くなってしまったが、

それでもチャンスはいくらでもある。

ラウラは考えを切り替えると、箒をら手を離し、無言でその場を後にした。

それを箒は、どこかさみしそうな目で見送るのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

予定時刻になり、両ペアがアリーナに姿を現す。

だがそこに第一線の様な、和やかな会話は無い。

「・・・・・やはりあの男は雑魚だったか」

ラウラは誰に言うでもなく吐き捨てる。

それに鈴が噛みついた。

「少なくとも、あんたよりは強いわよ、一夏は」

「ほう、だがあの男はお前たちに負けたようだが?」

「別に私たちは、一夏さんに勝った負けたという話をするつもりはありませんわ。だってあなたは既に一夏さんに戦う前から負けているのですから」

セシリアの言葉にラウラは目を細めた。

「またその話か、あの女にも同じことを言われたが、お前たちはよほど現実と言う物が見えていないようだな」

「はん・・・どっちが」

「・・・・・はぁ」

鈴はそれを鼻で笑い、セシリアは呆れてものも言えなかった。

試合開始のカウントダウンが始まる。

しばらくの沈黙の後、試合開始のブザーが響いた。

「はあぁぁぁッ!」

鈴は、ラウラへ一気に距離を詰める。

だがラウラはそれを微動だにせず待っている。

そして、〝双天牙月〟をラウラの首元へ一気に付きつける・・・が。

「なッ!!」

「・・・・ふん、こんなものだろう」

〝双天牙月〟はラウラに到達することなく、見えない何かによって遮られそれから先へは全く動かない。

ラウラは余裕の笑みで鈴を受け止めると、ワイヤーブレードを射出し、鈴の足にそれを巻きつける。

「しまっ!」

「落ちろ」

冷たく言うと同時に鈴を襲ったのは、全身へのすさまじい衝撃だった。

意識が飛びそうになるのを何とか繋ぎとめ、鈴はすぐさま体勢を立て直し一旦下がる。

「あれは・・・」

「AIC・・・アクティブ・イナーシャル・キャンセラー・・・・これほどとは」

AICは理論上鈴の空間圧縮砲撃〝龍砲〟の空間圧作用ににたエネルギーで運用されていると考えられた。

そうだとするなら、同じ圧縮攻撃の鈴の〝龍砲〟はあのAICとかなり相性が悪い事になる。

セシリアにもそのことは分かったようで鈴へ叫ぶ。

「鈴さん!先に箒さんを無効化しましょう、ラウラさんは私が引きつけますわ!!」

鈴には中近距離の武装しかない。

AICがある以上、近づくのは得策ではないだろう。

だがこちらには遠距離用の武装が数多く搭載されている。

仕留めきれなくても、牽制で行くばか時間はつなげるはずだ。

「分かった。あんた・・・気をつけなさいよ」

「えぇ、そちらこそ」

それに二つに分けたのにはもう一つ理由がある。

それはこの手の相手には、〝レイ〟は使えないからだ。

〝レイ〟は相手が僚機の危機に救援に訪れ、お互いのISの距離が近くなることで

初めて発動できる戦術だ。

だが、今回の相手は、箒はともかくラウラは箒を助けることはしないだろう。

そうなるとどうしても中で動く距離が増えてしまい、

〝レイ〟の真髄である〝素早い攻撃〟が間延びしてしまう。

「ふん、イギリスの第三世代機か・・・・。だがいくらISが良かろうと乗り手がクズでは意味が無い!」

ラウラは、腕部からプラズマ手刀を出現させこちらに急接近してくる。

(安い挑発に乗っては命取りですわ・・・しっかりと距離を取る事が最優先ですわね)

セシリアは冷静に判断し、ラウラと一定の距離を保ちながらビットや〝スターライトMKⅢ〟で牽制しながら、チャンスをうかがう。

どうやら、単純な機動力は相手の〝シュヴァルツェア・レーゲン〟よりも〝ブルー・ティアーズ〟の方が高いらしい。

セシリアはチラッと、鈴と箒を見やる。

箒は〝打鉄〟で、なんとか鈴の攻撃をやり過ごしてはいるようだが、

それでも、もうしばらくすれば決着は付くだろう。

それまで、自分はこの化け物を引きつけなければならないのだ。

セシリアはラウラに視線を戻すと、ラウラのほぼ死角に待機させていたビットに発射の指示を送る。

この角度ならば、いくらハイパーセンサーがあるとはいえ!

・・・だがラウラはそれを難なく回避したばかりかビットをそのプラズマ手刀で切り刻む。

「くぅ、やりますわね・・・」

「つまらんな・・・この程度で第三世代とは」

一言一言がセシリアの神経を逆なでする。だがここで熱くなってはダメだとセシリアは

自分に必死で言い聞かせながら、三機のビットと射撃を繰り返す。

だがそのどれもが、難なく回避される。

「・・・・もういい、終わりにしよう」

セシリアの顔に嫌な汗が流れる。

ラウラは、先ほどまでとは全く違う機動で飛び、気が付いた時には目の前にいた。

「まさか・・・!」

「私が初めから本気でやっているとでも思ったか、お気楽な頭だな」

ラウラはセシリアのビットをまたたく間に、プラズマ手刀で破壊すると、ワイヤーとAICによって動きを止められたセシリアに向かって肩の大型レールカノンを向け間髪いれずにそれを発射した。

ドカァァァァァンッ!!

爆風が、熱波がセシリアを覆う。

そしてすぐに、地面にアリーナの側壁に何度も叩きつけられる。

そうして、何度か振り回した後、ラウラは意識の遠のくセシリアにプラズマ手刀を付きたてた。

「・・・・死ね」

そう言えばセシリアはこれに似た感覚を既にどこかで味わっていた気がした。

どこだったかと、記憶を探る。

そう、あれは・・・・黒いISと戦った時だ。

自分のミスで、もうあの時は命は無いと思った。

・・・・でもその時彼が・・・嘘つきな彼が助けてくれたのだ。

そうだ・・・助けられたのだ。

自分は彼に・・・・。

そして今度は・・・自分の番だ。そう彼に言ったではないか!!

こんなところで終っていはずがない!!

終れない!!

セシリアの強い思いが、飛びそうな意識を何とか繋ぎとめる。

セシリアは足に絡みついたワイヤーブレードをビットの攻撃で切り、なんとか脱出する。

「はぁっはぁ・・・ダメージは・・・」

セシリアは一息ついたところで、シールドエネルギーや各部の損傷チェックを手早く行う。

シールドエネルギーはまだ余裕はあるがそれでもイエローゾーン。武装はビット四機中二機が大破。

残りも中波と中々のボロボロ加減だ。

手持ちの〝スターライトMKⅢ〟はまだ大丈夫だが、これだけでは火力が圧倒的に足りない。

(・・・・きついですが・・・やるしかありませんわね)

セシリアはグッとネックレスをつかもうとして・・。

「あ、あら・・・な、無い!?」

セシリアは何度も見直すがどこにも、アルから託されたネックレスが見当たらない。

そんな、一体どこへ!?

セシリアがキョロキョロとしていると、ラウラが上から声をかけた。

「貴様が探しているのは、ひょっとしてこれか?」

ラウラは右手をかざす。

そこには確かに〝銃弾のネックレス〟があった。

「なんでそれをあなたが!」

「さぁな、さっき飛んで来たのだ・・・・大事な物の様だな?」

ラウラはそれを、ヒョイッと上に投げると―――――――

 

 

――――――――プラズマ手刀で真っ二つに切り裂いた。

「すまん、手が滑ってしまった」

真っ二つになって落ちていく、思い―――意志。

そしてその瞬間セシリアの中で何かが振り切れた。

「あなたは・・・・・あなたはぁッ!!!!」

もうシールドエネルギーや武装の破損状況などどうでもよかった。

ただ、あの女を、自分のそしてアルの、ローラのその意志を軽々しく放り投げ、切り、笑ったあの女を

セシリアは許せなかった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

セシリアは〝スターライトMKⅢ〟を撃ちまくりながらラウラへ突撃する。

だがそんな攻撃もラウラには簡単に避けられてしまった。

そしてラウラはすれ違いざまに、残っていた武装とスラスターすべてを―――――破壊した。

大きな爆煙に包まれた〝ブルー・ティアーズ〟が落ちていく。

先ほどなんとか繋ぎとめた意識も、もう限界だった。

・・・・私、こんな・・・。

終ってしまった。

あっけなく。

薄れゆく意識の中でセシリアは後悔の念にさいなまれていた。

結局何も・・・出来なかった。

無力な自分に涙が出てくる。

セシリアは次に包まれるであろう地面への冷たい衝撃を覚悟する。

だが、次にセシリアを包み込んだのは冷たさではなく、暖かさだった。

身体の奥から、心の奥から、暖かいものに包まれていく感覚。

そしてどこからか声がする。

『セシリー大丈夫だよ』

その声は、とても優しくて。

『僕が、ついてる』

その声は、とても暖かくて。

『あはは、酷い顔だなぁ・・そんな顔似合わないよ』

その声は、とても明るくて。

『ほら笑って』

その声は、とても――――

『うん、その顔がやっぱり一番あってる』

心強かった。

そして次第にその声の主が姿を現す。

彼は自分に対して手を差し伸べていた。

彼はニコッと笑うと、セシリアに向かって優しくささやいた。

「行こう、セシリー」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

あれ?

僕は・・・・それにここは?

確か僕は、通路でモニタリングしてたはずなのに・・・・

僕はキョロキョロと辺りを見渡すが、そこは綺麗な光の世界だった。

そう、光だ。

僕の目は色盲のはずなのに、それが鮮明に見える。

そこは、心地いい暖かさと、優しさに包まれたような世界だった。

・・・・一体ここは。

「あは、来ちゃったね、来ちゃったね、ね、ね、ね?」

唐突にその空間に、底抜けに明るい女の子の声が響く。

その女の子は、ブロンドの髪を後ろで束ねて青いパーカーに

オレンジのラインの走ったジーパンというラフな格好。

更に顔にはスポーツタイプのサングラスをかけていた。

身長は・・・僕よりも少し低いかな?

「あの、ここは・・・」

「んん?分からずに来ちゃったパターン?うぬぬ・・これは予想が~い」

その女の子は、小さな身体をめいいっぱい使って、とび跳ねたりしゃがんだり・・・・とにかく動き回る子だった。

「分からずにって言うか、気が付けばって感じかなぁ」

「ふ~ん・・・・まぁいいや」

いいんだ。

「で、ここは何処なんだい?」

「う~ん・・・・・天国」

「はぁっ!?」

「えへへ~うっそ~」

うっ・・・なんだこのキャラは。僕にそっくりじゃないか・・・。

特に嘘を付くところなんて特に。

少女は腕を頭の後ろで組み、二カッと笑う。

「まぁ、細かいことは気にしない。それより心配はあの、ですわ姉ちゃんだよねぇ~」

ですわ姉ちゃん?

・・・・・あ、そうだセシリー!

「セシリーはどうなったの?確かラウラに・・・・あぁ、もうッ!!」

「まぁまぁ、落ち着きんしゃししゃいボーイ」

「これが落ち着いてられるって言うの!?」

僕は思わず少女に詰め寄ってしまうが、少女は笑みを絶やさず僕にこう告げた。

「大丈夫だよ、彼女は」

「・・・本当に?」

「うん、これは本当」

「でも・・・」

それでも心配な顔をする僕を、少女は優しくなでた。

「大丈夫大丈夫、ちゃんと君は彼女の力になってるよん」

「え、力に?」

「そう、時に思いや意志は世界の理を覆すのさぁ!!」

少女はバッと手を勢いよく上にかざした。

それで何が起きるわけでもないのだが。

「ま、大丈夫だよ彼女には〝君〟が付いてるからね」

「僕?」

「そう、僕。だから大丈夫」

・・・・意味はよく理解できないが、だかそれでも感覚では、

なんとなくわかってきているようにも思える不思議な感覚が僕を支配していた。

少女はくるりと僕にきびすを返し、二、三歩あるいたところでこちらをニヤッとした顔で振り返る。

「君ってさ、あの子の事好きなの?」

「んなっ!」

いきなりの質問に顔が真っ赤になる。

それを見て少女はまた大きな声で笑うと、最後にこう言った。

「今度は答えを持ってきてね」

その答えというのが一体何を指すのか、考えるひまさえ与えられず

急激に僕の意識はホワイトアウトしていく。

そして僕の意識は心地の良い風と暖かな世界に優しく包まれていった。

 

 




ここらへんも自分で読んでいるとかなり懐かしいですねwww
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