IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~   作:のろいうさぎ

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第13話~強さと一夏とラウラ・ボーデヴィッヒ~

アリーナでは、鈴が、箒が、観客が、そしてラウラが、信じられない現象を目の当たりにしていた。

ラウラはセシリアを撃破したと思い、その姿を追わなかった。

だが、次の瞬間ラウラを強い衝撃が襲う。

その衝撃は思いのほか強く、ラウラはアリーナの隅の方まで飛ばされてしまった。

初めは、油断していたところへ鈴の〝龍砲〟が当たってしまっただけかと思ったがそれにしては〝あきらかに火力が違い過ぎた。〟

少なくともラウラが事前に目を通した〝甲龍〟のデータでは、確かに〝龍砲〟の威力は高かったものの、この〝シュヴァルツェア・レーゲン〟をここまで吹き飛ばす威力は無かったはずだ。

では・・・何が?

とラウラは、センサーで攻撃が来た位置を割り出す。

そして目にした光景に今こうして、驚いているのだ。

「・・・・・なんなのだ、それは!?」

そして叫んだ声に呼応するように鈴と箒もそれにつられて視線を移動させ、同じように驚く。

観客も同様だ。

なぜならそこには、先ほどラウラが完膚なきまでに破壊した〝ブルー・ティアーズ〟がいたからである。

いや、厳密には〝ブルー・ティアーズ〟がそのままの形でいたわけではない。

かろうじて稼働できるビットが一機に、砲身が切られ短くなった〝スターライトMKⅢ〟と満身創痍ではあったがたったひとつ、異なる点があった。それは〝ブルー・ティアーズ〟には無かった、長方形型の大きな火器内臓スラスターが〝あたかも、初めからそこに付いていたかのように思えるほど、自然に背部に搭載〟されている事だ。

そしてそれはまさにアルディの〝ストライク・バーディ〟の〝ウェポンスクエア〟そのものであった。

「貴様・・・・っく、イギリスの第三世代にこんな隠し玉があったとはな」

「隠し玉・・・えぇまぁそうですわね・・・。

ですがそんな考えではやはり私達にはあなたは勝てない」

苦々しく言い放つラウラに、セシリアはニヤッと笑い意味ありげな口調で言い返す。

セシリアは、先ほど拾った〝ストライク・バーディ〟のネックレスをかざした。

それはラウラに真っ二つにされ痛々しい切断痕をその身に刻みながらも、ほんのりと温かく光っていた。

更にその光に、共鳴吸うかのように〝ブルー・ティアーズ〟も同じような温かい光を放って・・・・。

いや・・・・。

その光に、包まれていた。

温かい黄金色の光に。

セシリアは、自分の身に何が起こったのか、理屈ではなく感覚で分かっていた。

理屈では説明が付かないと言う事も。

あの時聞こえた優しい声も、温かさも。

そして、今この自分のISの姿も。

そして、自分には〝彼が付いていてくれる〟ということも。

セシリアは、胸の奥にこの上ない温かさと優しさを感じながらラウラと対峙する。

「・・・あなた、先ほどまでの考えで飛び込んできますと・・・・」

セシリアは、自信に充ちた表情でラウラを睨むと高らかに告げた。

「負けますわよ!」

「黙れ、死に損ないがッ!!」

ラウラは再びセシリアへ急接近する。手には先ほどと同じようにプラズマ手刀を起動させている。

しかし、もうセシリアに焦りは無かった。

セシリアは先ほど撃った〝ウェポンスクエア〟の高圧荷電粒子砲を格納するとラウラを正面でとらえ、〝スターライトMKⅢ〟を構える。

砲身長が短くなっている分、威力は半減しまた狙いも定まらない。

「そんなもので!」

ラウラも、一瞬でそのことは見抜いたようで避ける必要もないと言わんばかりに直線コースでセシリアへ突撃してくる。

だがセシリアは構わずにトリガーを引いた。

〝スターライトMKⅢ〟がマズルフラッシュと共にレーザーを発射する。

だがやはり砲身長の足りなさで、初速が足りずラウラに到達するまでに意地限界を超え霧散するレーザーも少なくなかった。

しかし、それでも尚セシリアは焦りの表情一つ見せない。

「ふぅ・・・やっぱりそのままではまともに射撃ができませんわ」

余裕たっぷりに〝スターライトMKⅢ〟を持ち直しそんな軽口までたたいた。

ラウラはその行動が癇に障ったのか、更に激昂してセシリアに切りかかる。

気付けばラウラはセシリアの目の前まで接近していた。

「叩き潰してやろう!」

「その前に・・・私を捕まえてごらんなさいな!」

ラウラがプラズマ手刀を振った瞬間、目の前から黄金色の粒子を舞い散らせながらセシリアが消えた。

むなしく空を切る自分の攻撃に、一瞬なにが起きたのか分からないラウラはセシリアと対照的に焦りの表情を浮かべる。

「馬鹿な、今の攻撃に反応しただと!データ上では〝ブルー・ティアーズ〟にあんな機動性は!?」

キョロキョロと辺りを見回すラウラに真上から〝ウェポンスクエア〟の高圧荷電粒子砲を再展開したセシリアが笑って声をかける。

「データ、データですわねさっきから!」

「なっ!?」

気が付いた時には、ラウラは地面にたたきつけられていた。

高圧荷電粒子砲。別名〝ヘヴィハンマー〟。〝ウェポンスクエア〟の中でも最も高火力な二門の直撃を受けラウラは肩のレールガンが爆散していた。

先ほどセシリアがなぜ、ラウラの攻撃を避けられたのか。

それはこの〝ウェポンスクエア〟の強大な推進力のたまものだ。

元々重量級の〝ストライク・バーディ〟用のスラスターだけにそれよりも軽く軽量な〝ブルー・ティアーズ〟がそれを使用すれば、ラウラがデータで見た機動力を凌駕することなど簡単な事だった。

もちろん既にこれが、データで推し量れない事ではあるのだが。

そしてこの〝ウェポンスクエア〟はただ機動力のためだけにあるのではない。

「本来は、立つまで待つのがマナーなのでしょうけれど」

セシリアは再び狙いを定める。

「その前に、あなたのマナー違反を正して差し上げますわ!!」

それからは降り注ぐ〝ヘヴィハンマー〟の雨あられ。

ラウラは防御で手いっぱいになってしまう。

「ぐうッ・・・がはっ!!!」

やがてその攻撃に、他の〝ウェポンスクエア〟の武装である小型バルカン〝ファイアスピード〟そして小型ミサイルポット〝トーネイド〟もその攻撃に加わる。

そしてラウラに、防御シールドを抜けた攻撃が通り始め、苦しむ声が聞こえる。

しかしセシリアは撃つ事をやめない。

当然チャンスだと言う事はある。

だがそれ以上にセシリアは許せなかった。

彼を笑ったラウラが。

彼の意志を笑ったラウラが。

そして何より、一度は彼の意志を粉々にしてしまった自分自身が。

それなのに彼は、自分をまた助けてくれた。

温かな気持ちに自分を包みながら。

だから・・・だから!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

最後のラッシュが始まる。

もうペース配分もペア戦と言う事も、何も考えてなどいない。

ただその意識はたったひとりの敵へと向けられている。

「フィニッシュです!!」

ズガアァァァァァァァァァァァァァン!!!!

ひと際大きな爆煙が、アリーナの砂煙を巻き上げ、辺り一面の視界を奪う。

もうすでに、砂煙が晴れる前から誰の目にも明らかだった。

観客も、鈴も、箒も。

――――――セシリアが勝ったと言う事は。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「こんな極東の地で、教官はなぜ教師など!」

ラウラは夕焼けに染まる、寮の近くで千冬と言い争っていた。

いや、一方的に言い分をぶつけていると言った方が正しいのか。

「私には私でやることがある。それだけだ」

ラウラには、〝彼女がここですべきこと〟と言うのが全く分からない。

「やること?・・・・あるはずがありません!

教官のレベルに対して明らかにここの生徒たちはレベルが低すぎる、次元が違う!」

「だから、私がここで教師をするのは間違っていると?」

「そうです、教官!お願いです、もう一度ドイツでご指導を!」

千冬は肩目を閉じたまま、ラウラを睨み黙ってラウラの言い分を聞いている。

だが次にラウラが言った一言が千冬の逆鱗に触れる。

「大体、こんなところで何を・・・・・・・あ、織斑一夏・・・ですか?」

「何?」

「そうなのですね、やはり・・・あの男が教官を―――――ッ!?」

千冬はラウラの胸倉をつかむと、近場の気に押し付ける。

千冬の鋭い眼光にあてられ、ラウラは今までの勢いを失い小刻みに震えはじめた。

「いいか、小娘。いくらお前が激昂していようと言っていいことと、言ってはならん事がある。

それに私は別にあの馬鹿な弟のためにここで教鞭を振るっているわけじゃない・・・・わかるな?」

「で、ですがッ!!」

「いい加減にしろ小娘。世の中何でもかんでも思い通りになるとでも思っているのか!?

見ないうちに随分増長したな」

千冬は胸倉を持つ手をパッと離すと、冷たいまなざしでラウラを射抜く。

「げほげほっけほ・・・」

「とにかく私は、ドイツへは帰らんし指導もしない。分かったらとっとと寮にでも戻れ」

千冬はそれだけ言い残すとラウラを置いて、歩いていってしまう。

ラウラは、それをいまだにせき込んで苦しい身体で見送ることしかできなかった。

だがそこでラウラは気が付く。

そうだ、そうなのだ。

教官は私を試しているのだと。

そうに決まっている。

私がどれほど、成長したのかを確かめようとしているのだと。

それにきっと、教官の事だ。

図星を言い当てられて、照れ隠しにでもあんな事を言ったに違いない。

どこまでも、千冬に憧れるラウラにとって先ほどの千冬の態度は、そう写ってしまっていた。

そして、やはり自分が睨んだ通り、教官は弟である織斑一夏を疎んじているのだ。

・・・それならば。

・・・私がやってみせる。

織斑一夏を完膚なきまでに叩きつぶせば、きっと教官は喜んでドイツへきてくれるはずだ。

・・・そう、はずだ。

それなのに・・・・・

 

それなのに・・・・!!!

ラウラは一機に現実へと引き戻される。

愛機である〝シュヴァルツェア・レーゲン〟はシールドエネルギーはおろか武装すらほとんどが使えない状態。

しかも、それをやられたのが織斑一夏なら、まだ負けを受け入れやすかった。

だが自分をこんなのにしたのは、あのイギリスの妙なISだ。

あの女に・・・!!

あの女が!!!

すべてが狂ってしまった。

あの女があの男を倒したから、自分はあの男と戦う事が出来なくなってしまった。

あの女も邪魔だ。

そう邪魔だ・・・邪魔なんだ。

私は・・そうだ、私は邪魔な物を倒して、あの男つぶして教官とドイツへ帰るのだ!!

そうだ・・・そのための力だISは。

お前たちとは何もかもが違う!

覚悟も、誇りも、意志も!!!

ラウラは身体を動かそうとするが、ISからバチバチッと火花が飛び力が入らない。

えぇい!なにをしているのだ!!!

力なら力らしく、私の欲する力を与えないか!!

その時ラウラの中でドクンッと何かがはじけた。

その直後ラウラの身体へ、すさまじい力の奔流が駆け巡る。

・・・・なんだあるのではないか。

そうだ、それでいい!!

力こそが強さだ!!

そうさ、私は!

私は教官と一緒にドイツへ帰るのだ。

力だ、力!!

力を私によこせ!!!

絶対的な力を、私によこすんだ!!!

 

Damagelevel D over

Mind Condition Uplift

Certification clear

 

《Valkyrie Trace System》 boot

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

ラウラの咆哮ともいうべき声がアリーナに響き、ゆっくりと立ち上がった〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の周囲を火花とも電撃ともとれる閃光が包む。

「な、なにあれ・・・」

いつしか箒との戦闘を早々に切り上げ、箒と共に近くに、来ていた鈴がつぶやく。

だがセシリアにも答えが見つからない。

次第に〝シュヴァルツェア・レーゲン〟は黒いドロッとした塊となってラウラを包んでゆく。

セシリアの時は、ISの武装展開と同じように〝ウェポン・スクエア〟が光に包まれて現れたがそれとは全く違うラウラのISの〝異変〟。

やがてその黒い何かは、ラウラを包み一つの形へと固定されていく。

顔は、今まで無かったバイザーで覆われ、あれほど無骨な外観は全体的にシャープになり、その手には得物であろう一つの刀が握られている。

そしてその刀は、色こそ真っ黒だったが、どこかで見たことがあるフォルムだった。

「あれは・・・」

「雪・・・片よね」

嫌な汗がセシリアにも、鈴にもそして箒にも流れる。

あれが本当に雪片なら・・・・相手は〝零落白夜〟を使えると言うのか。

仮にそうだったら、これは最悪だ。

セシリアは先ほどのラッシュで、シールドエネルギーまで〝ウェポンスクエア〟に持って行かれほぼ空。

鈴も箒も、激しく打ち合っていたため残っているといっても、セシリアよりも少し残っているかいないかといった程度だった。

そんな心もとない状態で、あんな化け物と戦うなど自殺行為だ。

だが、そんなこちらの気など関係ないと言わんばかりに、

形成を終えた〝ソレ〟は一瞬でセシリアたちの前に飛び込んできた。

「え!?」

「馬鹿な!」

「ちょ、あんた速すぎ!!!」

箒と鈴を〝ソレ〟はなぎ払うと中腰に刀を構え、必中の間合いから鋭く放たれる一閃。

セシリアは、かろうじてそれを回避するものの、攻勢に転じようと〝ヘヴィハンマー〟を展開し終える前に〝ウェポンスクエア〟ごと武装を真っ二つにされてしまう。

なんとか残った片方のスラスターで間合いは取ったものの、このままでは負ける・・・いや殺される。

だが、やるしかない。

鈴や箒も立ち上がって、〝ソレ〟と対峙している。

しかし、そうはいっても皆限界だった。

ことセシリアに至っては自機のほぼすべての武装が満足に展開できないばかりか、

もう後一度接近のためにバーニアでも噴かそうものなら、その時点でエネルギーが底を尽きる。

それでも相手は止まらない。

箒が切りかかりそれを鈴が〝龍砲〟で援護する。

箒は相手の刀を旨く下にはらい隙を作ると、そこへ鈴が一本にした〝双天牙月〟を叩きこむ。

今しかない。

セシリアは、現在残っているエネルギーを〝ヘヴィハンマー〟に回すと最大出力で発射した。

ズガァァァァァンッ!!

やはり、出力不足か・・・。

先ほどと同じく舞う砂煙。

それと同時に、リミット・ダウン。

セシリアのISは光となって消滅した。

でも・・・・

「直撃したはず・・・はぁっはぁ・・流石に落ちたでしょ」

当たる瞬間に箒を引っ張って離脱した鈴が、腰に手を当て言う。

「・・・流石にあれで経っていられるはずが・・」

箒も、勝利を薄々感じてはいた。

だが、次の瞬間、我が目を疑いたくなるような光景が目に飛び込んでくる。

砂煙の中から勢いよく〝ソレ〟が飛び出して来たのだ。

「そんな!!」

誰が叫んだか、三人も分からなかったがそれはどうでもいい。

二人は満身創痍で一人はISを展開すらできない状態。

・・・・すなわち・・・絶望。

そしてそんな三人に向かって、死の太刀は振り下ろされた。

皆が、目をつむる。

そんな事をしても、助かるはずなど無いと分かっているのに。

しかし、次に三人が聞いたのは身を割く生々しい音ではなくガッ!!という鉄と鉄がぶつかり合う音だった。

「てめぇ、やらせねぇよ!!!」

バッと顔を上げた先にいたのは半壊状態の〝白式〟を駆る一夏だった。

「一夏、あんた何やってんのよ!」

「お前どこから入ってきたんだ!?」

「お身体は大丈夫なんですの!?」

三者三様に叫ぶ中、一夏はのんきに返す。

「大丈夫だって、白式のダメージレベルはB。起動制限も掛けられてないしな!!」

一夏は敵の刀をはじくと、セシリアを小脇に抱え距離を取る。

そして一定の距離を確認するとセシリアをアリーナの隅へと下ろした。

「一夏さん?」

「お前に何かあったら、アルディになんて言われるか分かんねぇからな。じっとしてろよ」

一夏の言葉にボッと顔が赤くなるセシリア。

「な、何を言ってますの、全く!!」

「ハハハッ・・・それよりもありゃ一体何なんだ?」

冗談めいた笑みから一転、鋭い顔になる一夏。

キッと敵を睨む眼光は、やはり千冬の弟なのだという事を思わせた。

「・・・・わかりませんわ、ただ急に叫んで気が付けば」

「・・・・そうか」

一夏はチャキリッと雪片を持つ手に力を入れる。

そして一気に敵との間合いを詰める。

「はっ!」

一夏が切りかかるが、〝ソレ〟は瞬時にスラスターを噴かし距離を取ると再びセシリアを襲ったあの一閃を繰り出す。一夏は構えた〝雪片弐型〟を弾かれると更に敵は上段の構えへと移る。

一夏はそれをなんとか、かわすが一夏の顔はさっきまでとは違っていた。

かわせて良かったという、安堵の表情では無い。

一夏の顔には、激しい怒りが渦巻いていた。

「お前・・・・・!お前ぇぇぇ!!!」

頭に血が上ったのか、何の考えもなくただ突っ込んでいく一夏。

その一夏を前の戦闘で、愛機が破壊されたシャルルが〝打鉄〟を装備して止める。

「一夏!ダメだよッ!!」

「離せ、シャルル!あいつは・・・あいつはぁッ!!!」

更にそこへ箒も加わる。

「落ち着け一夏!一体何だと言うのだ!!」

「箒まで!いいから離せよ、邪魔するなら箒もシャルルも―――――ッ!?」

パッシーーーン!

一夏の頬を強い衝撃が襲う。

それと同時に頭が冷えていくのが分かる。

「ほう・・・・き?」

「私もなんだ? 落ち着け一夏!どういうことなのだ!」

「・・・・あれは・・・あの太刀筋はあいつが使った太刀筋は、千冬姉のものなんだ!!」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

―――――――ここはどこだ?

さっきの力の奔流を感じた後、その闇は更に暗くなった用に感じる。

ぼんやりとだが、何かが見える。

これは私の視界か?

白いISが黒いIS二機と何かを言い争っている。

あれは敵だろうか。

・・・敵だな。

そうだ敵だ。

倒さないと。

倒さないと教官と一緒に帰れない。

そうだあれは〝織斑一夏〟だ。

そうに決まっている。

視界が急激に速くなる。

どうやら私は、白いISに接近しているようだ。

倒せ、倒せ、倒せ、倒せ。

そればかりが頭の夏で響く。

だが、次の瞬間白い閃光が私を包んでいった。

そして瞬時に理解する。

私は・・・・アレに負けたのだと。

笑ってしまうぐらいにあっけない。

・・・・なぜだ。

私は強くなったはずだ。

この力を経て。

なぜなんだ!!!

「なぜ!!!」

そう叫ぶ私に誰かが話しかけてくる。

『お前は強くなってなんていない』

「誰だ?」

『お前が一番よく知ってるだろ』

「織斑一夏・・・」

『あぁ、そうだ。お前さっきなんでって叫んでたよな』

「・・・・」

『その力はお前の力だったのか?』

「なに?」

私の・・・・力?

そうではないのか、だって私はその力で・・・・

「私はその力で、強く・・・」

強くなったのではないのか?

『・・・強さってのは、そんなもんじゃない』

私の疑問をあっさりそいつは否定する。

『強さってのは、心の在処。拠り所。自分がどうありたいのかを常に思うことじゃないかって思う』

「―――そう・・なの・・・・・か?」

『少なくとも、俺はな』

「おれ・・・・は?」

『みんな違うと思うぜ、そんなの』

私はこれまで、たったひとつの物だけが強さだと思ってきた。

それこそ〝織斑 千冬〟であり、その強さの具現である彼女の汚点であるこの男を、

この弱い男をつぶせばいいと思っていた。

だが違う・・・。

この男は・・・・

「お前は強いのだな」

『強くないさ』

「いいや、強い」

『そうか・・・まぁそうだとすれば』

「だとすれば、何だ?」

『強くなりたいから強いのさ』

――――――あぁそうか。

『それにやってみたい事もある』

――――――これが強さか。

『誰かを守ってみたいんだ』

――――――これが力か。

『だから、お前も守ってやるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ』

――――――これが織斑一夏か。

確か昔、教官が言っていた。

この男と対峙する時は気をしっかり持てと。

出なければ惚れてしまうと。

 

 

 

なるほど。

その意味がわかった。

これは確かに・・・・

 

 

――――――惚れてしまいそうだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「うっくぅ・・・・」

まだ頭が少し痛い。

ゆっくりと辺りを見渡す。

ここは・・・・。

保健室?

「目覚めたが、サウスバード」

織斑先生の声がする。

ぼんやりとだが、黒いスーツの輪郭が見える。

僕はその方向へ顔を向けようとして身体を起こそうとするが、それを織斑先生が制する。

「やめておけ、まだ満足に歩けるような状態でもないだろう」

言われてそう言えばと思い、身体を戻す。

いまだに視界は回復してはいなかった。

ただ、そんな中でもなぜか頭は冴えている。

「・・・僕は、どうなったんですか?」

「気になるか?」

「はい」

そりゃそうだろう。

だって急に倒れて、気が付けば白い世界に居てまた意識を失って、

次に気が付けば夕暮れの保健室だ。

気にならない人間がいたら見てみたいよ。

「お前、トランスという言葉を聞いた事があるか?」

「いえ、ありませんけど」

「別名、感応覚醒というが、まぁ知らなくて当然だろうな、私も初めて見た」

「はぁ」

腕を組み、淡々と話す織斑先生に僕は生返事で返す。

僕が倒れたそれが、〝トランス〟ってやつなんだろうか。

「昔、束に聞いた事がある。ISは人の強い思いや意志をもくみ取って成長するものだと。

そしてその意志が強いと、たまに何かをきっかけにして親しい人間のISと同調する事があるそうだ。まぁIS自体完成されていない技術だからな、定かではないが」

織斑先生は語尾を濁したが、つまり僕の思いがその〝トランス〟を引き起こしたってことでいいのかな。

「具体的に、どんな感じになるんです?」

「ふむ、見てもらった方が早いかもしれんな、もうそろそろ視界もはっきりしてきたころだろう?」

頷く僕に、織斑先生は、端末を取りだすと僕に映像を見せる。

そこには〝ウェポン・スクエア〟を駆使して戦うセシリーの姿が映し出されていた。

「な、なんですかこれ・・・・」

「見ての通りだ。さっきの説明通りならば、オルコットのISとお前のISが感応しあった結果、

と言う事になる」

言うと織斑先生は、真っ二つになったネックレスを僕に手渡した。

うわぁ・・・こりゃ酷い。

ちゃんと起動できるのかなこれ・・・。

「オルコットから預かった。お前これをオルコットに預けていたそうだな」

「はい・・」

「多分そのせいだ。オルコットはこれを首から下げて試合に臨んだらしい。その時何かしら作用して〝トランス〟が起きたようだな」

「・・・・・そうですか」

何かしら作用してか・・・・。

ひょっとしたら、あの時。

僕はラウラに完膚なきまでに負けたセシリーを見て、居てもたっても居られなかった。

心配だったのだ。

でも何もできない。

待つことしかできない自分が腹立たしかったし、セシリーは傷だらけで。

その後だ。

僕が意識を失ったのは。

・・・強い思いと意志か。

なるほどね、なんとなくそう考えると納得できたかも。

「さて、納得できた所でお前には色々聞かねばならん事があるな」

ぎくぅッ!!

僕は一瞬で背筋が凍るのが分かった。

「まず一つ目だが、聞いた話ではボーデヴィッヒと、このトーナメントで戦う約束をしていたようだな」

・・・あ、なんだそのことか。

「はい」

「なぜだ?お前は自ら喧嘩を吹っ掛けるようなヤツでは無いだろう」

「姉さんを・・・・馬鹿にされたから」

「・・・・ローラをか」

織斑先生は言うとため息をついた。

その顔からはやれやれと言う感情が読みとれる。

なんだか、また馬鹿にされてるのかな。

ムスッとする僕に織斑先生は、少しあわてた様子で弁解した。

「いや、悪いな、別にローラを馬鹿にしているわけじゃない。

ボーデヴィッヒの事だ。あいつはドイツからの縁でな。

私になついてくれるのはありがたいが、それが行きすぎてしまうこともしばしばなのだ。

そう悪く思わないでやってくれ」

「・・・まぁ、もういいですけど」

僕はそこまで根に持つタイプじゃないし。

「それと、もう一つ。お前自分のISを他人に預けることが何を意味するのか分かっているんだろうな」

やっぱりねぇ。

言われるよねそれ。

僕は今までの良い感じで、ゆったりと流れていた空気が一転するのが分かる。

「その顔は、分かっているという顔だな。なら話が早い。明後日までに反省文とレポートを提出しろ」

織斑先生は、持ってきていた紙袋をベッドの横の台に置く。

ズドン!

・・・・何が入ってるんだろうね。

なんだか凄くいやな音が・・・って言うかあれは紙の音か!?

「ではな、私はボーデヴィッヒの様子も見ねばならん」

織斑先生は、きびすを返すといきなりドアに向かって歩き出す。

そして、ドアノブに手をかけ・・・・・一気に開いた。

「ちょ、っとっと・・・きゃんッ!」

ドシーンっと何かが倒れ込む。

顔から床に打ちつけられてピクピクと痙攣していたのは・・・

「せ、セシリー・・・」

「ろ、ろふほ・・・」

鼻がしらをさすりながらろれつの回らない声で、挨拶をするセシリー

それを見て織斑先生は、フッと笑って部屋を後にした。

 

 

「大丈夫?」

「急に開くと思いませんでしたわ・・・」

セシリーはまだ鼻がしらをさすっていたが、ろれつは回るようになってきたらしい。

って言うか・・・

「ドアの前で何してたの?」

「い、いやそれはッ・・・・その・・・・。先生方にアルが倒れたと聞いて・・・心配で」

なるほど心配してくれていたのか・・。

ダメだなぁ、僕が心配されちゃうなんてね。

本来ならベッドで寝てなきゃいけないのはセシリーのはずだろうに。

いつも通りの制服を着てはいるが、その下は包帯だらけだろう。

その証拠にさっきこちらへ歩いてくる時も足を少し引きずってたし。

「アハハ、大丈夫だよ。僕は・・・それよりセシリーは良いの?」

「私は、大丈夫ですわこのてい・・・・つつつ・・・」

気丈にガッツポーズを作ろうとしたらしいが、それは激痛によって阻害されてしまったようだ。

苦痛で歪む顔を、ベッドから上半身を起こした状態でなんとか覗き込もうとする。

だが、セシリーは更にうつむいてしまい、顔を伺う事が出来ない。

よほど痛かったのだろうか。

「あの・・・セシリー?」

「大丈夫ですわ、大丈夫・・だからその・・・顔がその近くて」

言われてハッと気が付く。

僕が覗き込もうと躍起になって、セシリーの顔に急接近していた事に。

「あ、ご、ごめん」

「いえ、その嫌だったというわけではありませんのよ・・・ただ・・こちらにも準備と言う物が・・」

最後らへんゴニョゴニョ言って聞こえなかったけど、何にしても大丈夫だったらしい。

ただ、それから少し変に意識してしまい両者無言の時間がしばらく続く。

な、何か前にもこんなのあった気がするけど、やっぱりこう言うの気まずいよなぁ。

とはいえ、だからと言って言葉が出てくるわけもなく、更に黙りこくってしまう。

どうしようか・・・えぇっと、何か話題・・・話題・・・あぁそうだ。

「その、ごめんね。必死で戦ってくれてたのに僕だけなんかこんな・・・横になっちゃってたみたいで・・・応援すら出来なくて・・・」

ひねり出した話題が、結局トーナメントの事だとは・・。

僕ってひょっとして、ボキャブラリーやコミュニケーション能力が実は低いんじゃないかな。

だが僕のそんな急場しのぎ的な話題に意外にも、セシリーは優しく笑ってこう言った。

「いえ、アルあなたは私と、戦っていましたわ」

「え?」

「声が・・・聞こえましたの。〝僕がついてる〟って。

その声が私にどれほど勇気を与えてくれたか・・・。

たとえあれが幻だったとしても、私は信じます」

そう言えば織斑先生はこう言っていた。

〝オルコットはこれを首から下げて試合に臨んだらしい。

その時何かしら作用して〝トランス〟が起きたようだな〟

と。

当然だが、僕には、セシリーに試合中に声をかけたなんて記憶は無い。

だがセシリーは声が聞こえたと言っていた。

・・・・これが〝トランス〟・・・・。

なかなか神秘的な現象じゃないか。

僕は優しくそれでいて、どこか照れくさい笑みを浮かべるセシリーを見る。

「・・・そう、じゃあ僕は役に立てたんだ?」

「それはもう、温かいものに包まれるような。そんな心地のいい感覚でしたわ

貢献度から言えばペアの鈴さん以上ですわね」

「それ、鈴が聞いたら怒りそうだね」

「フフフっそうですね」

二人で夕暮れの中笑いあう。

とりあえず、何が起きたかは良いや。

今はこの時間を楽しもう。そうだ、それが良い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「うぅッ・・・」

「お前も目が覚めたらしいな」

ラウラが気付いた事を察し千冬は声をかけた。

「教官・・・・?」

千冬は、まだ焦点の合わないラウラに質問する。

「寝起きのところ悪いが、ラウラ。VTシステムの事は知っているか?」

ゆっくり千冬の顔を見るラウラ。

その目はまだどこか、怯えているように千冬には写った。

「・・・怒っているわけではない。まぁその顔を見る限り認識はしているようだな。そのシステムが巧妙に隠されお前のISに積まれていた」

ラウラは下を向く。

どうやら、どこまで言っても自分はあの国にとって実験動物でしかないらしい。

その事が更にラウラを苦しめる。

「・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「はいッ!?」

いきなり名を叫ばれ、ラウラはビクッとなりながらぼんやりする頭を叩き起こすとベッドの上で背筋を伸ばした。

「お前は誰だ?」

「わ、わた・・しは・・・」

誰だ。

私は、ラウラ・ボーデヴィッヒで・・ドイツ人で。

たったそれだけの事が出てこない。

「・・・お前はラウラ・ボーデヴィッヒではないのか?」

「い、いえあの・・私は・・・・」

「ボーデヴィッヒ。私は転校初日にこう言ったな〝貴様は今日から私の生徒だ〟・・・と」

ラウラは記憶を漁る。

確かに言われた。

確かあれはアルディとかいうアメリカ人にペットボトルを投げつけられた時だ。

「私にとってお前は、どうあれ大事な生徒だ。それは変わらん。では自分ではどうだ?」

「自分・・・」

「・・・・それが分からんのなら丁度いい。今日からお前はIS学園の一生徒、ラウラ・ボーデヴィッヒとして新しい自分を始めてみろ」

「新しい・・・・自分」

そんな事考えたことも無かった。

そんな事言われるなんて考えたことも無かった。

新しい自分を始められるなど。

これまでもこれからも、ずっと一人で暗い中を歩いていくんだと思い込んでいたラウラには、

まさに青天の霹靂だった。

「出来るでしょうか・・・」

「出来る出来ないは、今考えることじゃない。それにな、出来るか出来ないかではない。これはお前自身が絶対にやらなくてはならないことだ」

・・・・出来る出来ないでは無い。

・・・・・・やらなくてはならないこと。

「まぁ、とことん悩め。小娘」

千冬は言い残し、部屋を後にしようとする。

だが、二歩三歩歩いたところで立ち止まる。

疑問に思ったラウラに千冬が、口を開く。

「そう言えば、サウスバードといざこざを起こしたそうだな」

「サウス・・あの男ですか」

「何でもあいつの姉を馬鹿にしたと聞いたが」

そこでようやくラウラはピンっときた。

アリーナで言いあったあの男だ。

「私は話の前後を知らんからな。下手な事は言えんが・・・ローラは強いぞ。

口は軽いし、嘘つきだがな。それに・・・・・」

 

ラウラは言葉を黙って聞く。

千冬が〝ローラは強いぞ〟と言った時、ラウラは自責の念と恥ずかしさでいっぱいになった。

あの時は、織斑千冬がすべてだった。

だからあんな事も軽々しく言えた。

しかし、私が馬鹿にした相手は私の恩師も認めるほどの人間だった。

そして逆に私がそれを言われる立場だったら、どうなっていたのだろう。

私があの男の立場なら。

大人しくトーナメント出場を辞退しただろうか。

そんな事を考えてしまう。

・・・・・謝らないと・・・・な。

ラウラは、再び千冬の話に耳を傾ける。

そして驚愕の一言を聞いた。

 

 

 

 

 

 

「あいつは、私に一度勝っている」




後書きがかなり適当で申し訳ないですが、後書きはがまともになるのは50数話を全部移行してからになります。
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