IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~   作:のろいうさぎ

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第16話~似て非なるもの~

一号機:起動失敗

 

二号機:起動失敗

 

三号機:起動成功も、定格出力で安定せず廃棄

 

四号機;同様のトラブルにて廃棄

 

五号機;初の定格出力運用に成功。※機動試験中に空中分解。搭乗者意識不明の重体

 

六号機:上記のテストを踏まえ安全性を考慮しすべての問題をクリア。

                         以後本機を甲式と命名

七号機;同様に成功乙式と命名。

          ※これより以降の試作機の開発の計画は無し。

 

              ~中略~

 

試験運用期間終了。以後両機登録名を

甲式:ホワイトアウル

乙式:ブラックアウル

と命名し、両機を専門研究機関のあるアメリカへ委譲するものとする。

 

 

以上、疑似ISプロジェクト『N-Development Technology Project』pp45-47より抜粋。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ISでは・・・・無い?」箒が怪訝そうにつぶやく。

いや箒だけではない。

この場にいる誰もが同じ様な顔をしていた。

当然だ。

だってこの世でISに対抗しうるのはISだけであり、現にさっきセシリーを撃墜して見せた。

そんな物がISではないと言われて、はいそうですか・・・と言うわけにはいかない。

「あぁ、いや、厳密に言えば全く異なるってわけじゃないんですよ。

ただ・・・そう、似て非なる物というかなんというか」

聡也も聡也で、一斉に怪訝な目を向けられて困惑しているようすで語尾を濁しながら弁解する。

「似て非なるもの・・・か。だがそんな物ドイツに居るときにも聞いたことがないが・・」

「まぁ、開発自体が表には出ませんでしたからね」

「んん? でも、ならそれをこんな所で話しちゃって良いの?」

シャルロットの質問に聡也は苦笑いを浮かべ、頭をかいた。

「あはは、もう言っちゃいましたし、それに別にコレはもう隠すような事柄じゃありませんから」

 

どういう事だろう。

通常どの国のISも機密情報って言うのは一つ二つあるもので、

詳細は開発した人間や操縦者以外には原則伝えられない。

だが聡也のニュアンスだと、まるで“ホワイトアウル”に

何の機密情報も秘匿性も無いって聞こえてしまう。

「確かに、全くないと言えば嘘になりますけど、

Nの技術自体もうこれ以上の進展は望めませんからね。

そんな事を隠した所で何の得もないんですよ」

「あ、ちょっと待って聡也。聞き慣れない言葉が飛び出した。

そのNの技術っていうのは何だい?」

「あぁ、確かにISでは使いませんよね。

Nの技術っていうのはいわゆる“ホワイトアウルの技術”ってことです。

僕のは、ISに似てる物ってことでIS-Nっていうんです」

「IS-N?何だよ、そのNってのは」

「NearのNですよ」

一夏の質問にサラッと答える聡也。

なるほどね。

近いって意味でNか。

僕も含めて皆ようやく納得した様子で何度か頷くが、

それを聞いて心中穏やかじゃないのもまた事実だった。

「ねぇ、ちょっと待ちなさいよ。聡也、そのIS-Nってのは誰でも使えるわけ?」

今までだんまりだった鈴が少し声のトーンを落として口を開いた。

「基本的には、操縦者登録をすれば大抵の人には。ISに近いと言っても駆動システムやそもそも使われている技術が大きく異なりますからね」

「では・・・やはり」

セシリーもそれを聞いて、呟きながら考え込む。

「ん? 皆さんどうかしましたか?」

その様子に疑問を感じ、今度は聡也が怪訝な顔になる。

多分、鈴もセシリーも考えていることは同じだろう。

「聡也、あたし達ね。多分そのもう一機のIS-Nと戦ったことあるわよ」

「え!?」

「そのもう一機というのは、黒い同型機ではありません?」

一気に顔つきが険しくなる聡也。

恐らく図星なのだろう。

だが特に、言葉を発することなく聡也は黙って耳を傾ける。

「あたし達、代表候補生でさえ手こずった無人機を、

ものの数分で再起不能にまで、追い込んだ。

その後も〝打鉄〟を何十機と先頭不能にしてたし。

信じらんない戦闘能力と実力だったわ」

「えぇ・・・調子が悪かったとはいえ私の攻撃が一度も当たりませんでしたものね。

まぁ・・・今回もですけど」

声が最後になるにつれてしぼんでいくことからも、ショックは相当大きかったようだ。

セシリー・・・まだ引きずっていたんだ・・・。

二人の意見を聞いた聡也は、しばらくあごに手を当てて考え込む。

この様子からも、もう間違いなく聡也は何かを知っているとみて間違いないだろう。

むしろ、そのために転校してきたとも考えられるし。

「う~ん・・・おかしいですね」

「何がおかしいって言うの?」

「本当にその黒いISは、無人機を撃墜した後何十機というIS相手に大立ち回りを演じたんですか?」

聡也の疑いに対して、鈴とセシリアが心外の声を上げた。

「何よ、あたしたちの言ってることが信じられないって言うの?」

「そうですわ! 私たちの言っていることにうそ偽りは無くてよ!」

セシリーは目で一夏と僕に同意を求めてくる。

僕たちはそれにうなずくと、鈴もそれを確認してほら見なさいよという顔で聡也をにらみつけた。

「い、いや別に信じて、ないってわけじゃないんですよ・・ただ・・」

「ただ・・・何よ?」

「普通に考えて、IS-Nのスペックは最大稼動時でも

せいぜい通常のISの能力の半分以下ぐらいの出力した出せないはずなんです・・・。

それなのに、いくら日本の量産機とはいってもそんな何十機を相手になんて」

「ちょ、ちょっと、それ本当なんですの!?」

これには僕やセシリーたちあの場にいた人物だけじゃない。

その場にいなかったラウラやシャルロット間でもが驚いていた。

なぜならその事実は、その操縦者がとてつもなく実力が高い人物であるということを

暗に示していたからだった。

・・・・そう思うと僕たちよくあれに勝てたよね。

「少し良いか?」

驚きのあまり少しの間、沈黙が流れた後

それまで腕を組んで、ただ聞いているだけだった箒がズイッと前に出た。

「えぇ、何ですか?」

「とりあえず、その黒いISのことはなんとなくわかった。

だが忘れてはいないか? あの時ISはもう一機いたことを」

あ、そういえば。

確か紫色の戦槍持ったISだったはずだ。

IS-Nの話が、結構大きなことだっただけにポンッと頭の中から飛んでしまっていた。

「それ、紫色のISじゃなかったですか?」

「・・・・ということは知っているんだな」

箒の、尋問のような鋭い声に聡也はゆっくりと頷く。

「あのISは、紫香楽製近接強襲型IS〝紫燕〟。操縦者は・・・・・・」聡也は一呼吸おいて、息を整えると意を決して言った。

「僕の姉さんです・・・」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

とある部屋の一室で、青い制服に身を包んだワインレッドの髪に赤い目を持つ少女が

椅子に座って暇そうにくるくると回っていた。

そしてあくびをひとつ。

・・・やることがなさ過ぎて暇でしょうがないときはいつだってある。

だがそうは言っても、〝しなければならない仕事〟は山積みだ。

「・・・・大体試験運用のデータを送れって言うだけで、んでこんなにレポートが必要なんだよ」

少女は、傍らの紙の束を見て吐き捨てるようにつぶやくとまた大きな、ため息を吐いた。

 

ガチャリ…

不意に後ろのドアが開く。

そこには、同じ青い制服に身を包んだ少年が立っていた。

その少年を見るや、少女の顔がパッと明るくなる。

「聡也!」

ガタッと勢いよく立ち上がる。

椅子が倒れるのも少女は気にしない。

少女は少年に駆け寄り、肩に手を置くと優しく笑いかけた。

「大丈夫だよ、姉さん。 ただの検査なんだからさ」

「い、いや・・・けどよぉ」

検査という言葉に少女の顔が曇る。

「あたしは、お前が心配だ・・・。

あいつら・・・特にあの女、時々訳わかんねぇ事しやがるし」

「大丈夫だって、博士を信じようよ」

少年は屈託のない笑みを少女に向ける。

そんな笑顔を見せられたら、さすがに心配そうな顔は見せられなかった。

「まぁ、何があっても大丈夫だって。

聡也の事はあたしが守るからよ! この紫香楽 聡華がな」

 

少女は高らかに宣言して、ニカッと笑う。

それを見た少年も同じ様に笑顔で答えた。

「うん 頼りにしてるよ・・・・姉さん」

最後の一瞬だけその笑みが、不適なものだと言うことに、少女は気がつかなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

衝撃の告白が、たくさんあったアリーナから場所を移して、僕たちは食堂へと来ていた。

ってか最近、ここに集まること多いよね。

聡也だけは、機体の整備があるとまだピットにいるが、主要メンバーはそろっている。

「・・・・ってかさぁ、何か疲れたわあたし。っていうか自主練どころじゃなかったし」

「実質、IS起動したのセシリーだけだもんねぇ。あぁ、あと聡也か」

「起動したといっても、まぁ無様だったがな」

箒のジト目と嫌味たっぷりな声が、セシリーを貫く。

声は発しなかったが、おそらく今の発言でセシリーは心の中で

「ぐはっ!」的なことは叫んでいたと思う。

「ほらほら、箒もセシリアを、いじめないいじめない」

「しゃ、シャルロットさんだけが私の味方ですのね・・・」

「だが事実だぞ?」

「ま・・・まあ、そりゃそうだったけどさ・・・」

「裏切られましたわっ!!」

ラウラの意見に同調したシャルロットを見てセシリーがさらに凹んでしまう。

まぁ仕方ないよね、若干持ち上げて落とされた感じだから。

「アァ~ルゥ~」

最後の手で僕に涙目で、同意を求めてくるセシリー。

その頭をやさしくなでてあげる。

「よしよし・・・お兄さんが飴をあげようね」

「うぅ・・・ありがとうございます~」

包み紙を破り、ポイッと口の中に飴を放り込むセシリー。

それを見て箒が、呆れた目でこちらを見やる。

「おい、アルディ。あんまり甘やかすな。

失敗をうやむやにしてしまっては、セシリアのためにもならんぞ?」

「甘やかされてなどおりませんわ! アルは、味方のいない私を

かわいそうに思って手を差し伸べてくださっただけのこと。

どこぞの誰かみたいに、同じミスをチクチクつつくような方に言われたくありませんわ!」

「・・・・そういうことらしいよ」

「ふん」

「まぁまぁ、箒そんな怒るなって。シワになるぞ?」

そして一夏には問答無用で箒のチョップが直撃した。

 

「そういえば・・・その、アルディ」

ラウラが少し気まずそうにうつむきながら名前を呼んでくる。

「何?」

「お前の・・・ISだが。どうなのだ?」

「ラウラさん、あなたどの顔でそのような」僕は、あの件に関してまだ納得のいっていないセシリーを片手で制する。

不服な顔を向けるセシリーだったが、すぐにそっぽを向いて座りなおした。

それを確認してから僕はラウラへと向き直る。

「それがまだ、何も」

「見てもらってもいないのか?」

「一応姉さんには見せたんだけどね、こういう破損ケースは

すごく希らしくてわからないっていわれちゃったよ」

「・・・・・そうか」

「まぁ、あの時も言ったけどもう気にしてないんだから、そんなに気を使わなくて良いんだって」

まだラウラは少し顔を伏せている。

多分、ラウラ本人もこのことに対してどうしたら良いのかわからないのだろう。

自分ではどうにか責任を取りたいのだが、その方法が解らない。

加えて僕もこんなスタンスだから余計に。

だけど、前にも言ったが僕は本当にもう何とも思ってない。

やっちゃったことを、責めてもそれで何が変わるわけでもないし何より、自分も不愉快だからね。

と、急に肩を掴まれる。

振り返るとそこには、凄く笑顔の(怒った)セシリーがいた。

えぇと・・・・。

何で怒ってるのかな。

「アル?」

「は、はい・・」

「あの時とは、いつでしょう?」

「あの時? あ、あぁ。姉さんと話をした夜にラウラに呼び出されてね」

「何故、何も私に教えて下さらなかったのでしょう・・・私、寂しいですわ、あぁ寂しい寂しい・・・」

ぎゅぅぅぅっ!

い、痛い痛いぃッ!!

めり込んでる、セシリーゆ、指がめり込んでるッ!!

「セシリー! 何をそんなに怒ってるのさ!!」

「まだ分かりませんの!!」

何でかな。

・・今肩からボギュッって音がした気がする。

 

 

 

あ~、えらい目にあった。

僕は、皆と別れて織斑先生の下を訪れていた。

と言っても、織斑先生は会議中だから職員室前で待ちぼうけだけど。

 

ジャラッ。

僕は真っ二つの“ストライク・バーディ”を見やる。

本当に大丈夫なんだろうか。

姉さんでも、現状ではコメントを避けていた。

つまりそれは下手なことは言えない問題が起こり得る可能性があると言うことでもある。

にしても、自爆で使えなくて、ようやくと思ったら身体がアウト。

で、これだ。

実戦経験どころか、満足にISを起動させた時間が短すぎて不安になってくる。

なるようにしかならないとは言え、時たまそう言う考えが首をもたげるのも事実な訳でね。

そんなことを考えていると、多くの先生たちが職員室へ帰ってくる。

どうやら、会議は終わったらしい。

そして当然その中には織斑先生の姿もあった。

「織斑先生」

「ん? 私に用事か? すまないな待たせてしまった」

「いえ」

僕は織斑先生に促されて、職員室へ入る。

そして織斑先生は、自分の椅子に腰掛けるとすらりと伸びた足を組んで冷めたコーヒーをすする。

「で、何の用だ?」

「このことで・・・」

僕は織斑先生に〝ストライク・バーディ〟を差し出す。

織斑先生はそれを受け取ると、渋い顔で目の前で掲げた。

「もう、ローラには連絡したのか?」

「はい、一応」

「で、あいつはなんと言っていた?」

「先に、こっちで調べてもらえって言ってました。その結果をまた連絡してほしいと」

織斑先生は大きくため息をつくと、ジト目で何もない宙を睨んだ。

おそらくそこには、姉さんでも見えているのだろう。

「まったく・・・、面倒事は学園側に全部丸投げか。

アメリカらしいというかローラらしいというか」

その点はアメリカ人の僕も、何も言い返せません。

何気にこのIS学園の設立の際にもまぁ、圧力を掛け捲ったという噂もあるし。

まぁ・・それを、貫いて作らせちゃうあたりがさすがわが母国だとは思うけど。

「あの・・それで・・」

「あぁ、まぁ調べるだけ調べてみよう。簡易検査なら明日には結果が出ると思う」

「そうですか」

とりあえず結果待ちか。

僕は、もう一度頭を下げ職員室を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

今日も白衣の研究者たちがせわしなく動き回るアメリカの研究開発局。

あるものはキーを軽やかにタイプしまたあるものは研究データ片手に、

ほかの研究者と言葉を交わしている。

そして、アルディの姉であるローラ・サウスバードも

また例に漏れずカタカタとキーをタイピングしていた。

傍らには〝strike birdie All predictive assumption results list〟

(ストライクバーディ予測想定結果表)

と書かれた資料が置かれている。

これは、ストライクバーディに不測の事態が発生したときを想定して

あらかじめ作っておいたマニュアルのような物なのだが、

それをもってしてもローラは現状の〝ストライク・バーディ〟を把握しきれずにいた。

解析を妨げているのは何よりデータ量の少なさと、加えて壊れ方が異質であること、

そして仮に起動できてもその後の重大な欠損につながる可能性などを考えていくとシュミュレートを

かけても、そのつど違った答えが出る。

今は、〝ストライク・バーディ〟が最後に送って来たダメージデータを元にして

そこから、現状のダメージデータを予想して数値を変えながらシュミュレートしているところだった。

そして、出た結果は・・・。

〝Expected damage level C

Conclusion in the start tolerance level〟

「予想ダメージレベルC、起動許容範囲内と断定・・・ね」

ふぅっとため息を吐いた後ゆっくりとプラスチックマグカップを口につけると

いきなりダンッと乱暴にたたきつけた。

「さっきから、どうしてこうバラけるのよ、腹立つわねっ!!」

ローラは、数値のメモ書きをクシャクシャに丸めると、ゴミ箱へ放り投げた。

紙のボールとなったそれはきれいな放物線を描いて、ゴミ箱に吸い込まれていく。

「ナイスシュートね、鳥さん?」

茶化すような声に、ジロッとローラが反応するとそこにはきれいな金髪をたたえた女性が

ココアを手にたたずんでいた。

「・・・ナターシャ」

「そんな目しないでよ」

ナターシャは近くの開いていた椅子を引っ張ってくるとそこに腰掛ける。

「荒れてるわねぇ・・・。何をやってたのかしら?」

「なんでもないわ、用がないなら何処か行きなさいよ」

ローラは額を押さえながら、左手でシッシと追い払う。

しかしナターシャはそれに気を悪くすることなく、ニコニコ笑ってローラを見ていた。

「何よ・・?」

「そんなに邪険にすることないじゃない。大方アルのことで頭悩ませてるんでしょ?」

「わかってたんなら・・・聞~く~な~ぁ」

ローラはナターシャの髪をワシャワシャとかき乱す。

「ちょ、ちょっと・・ローラやめて~」

「こうなったら、ナターシャでストレス発散してやる~」

「ちょ、ちょっと痛い痛いっ!!」

「このこの~!!」

その後しばらく、それは続いてナターシャの髪は見るも無残にボッサボサになってしまった。

 

 

「もー・・どうしてくれるのこれ・・・」

「クシあるわよ」

ローラは再び、PCに数値を入力しながらナターシャにクシを手渡す。

ナターシャはそれを受け取ると髪をとかし始めた。

「ちょっとぉ・・・絡んじゃってるじゃない、痛んだらどうするつもり・・・」

「いちいちセットするなんて、あたしには理解できないけどね」

「あなた、セットしてないの?」

「そうね、暇があればやってるけど、基本寝起きのままね」

ローラはあごをつきながら、面倒くさそうにポチポチと入力していく。

そして、エンターを押して結果画面を見るたびに

目に見えてイライラが募っていくのがナターシャにはわかった。

「ローラ・・・シワが増えるわよ?」

「朝からずっと、画面とにらめっこしてたらそんな心配どっかに飛ぶわ」

「・・・・ローラに憧れてる子も少なくないんだから自覚がほしい所だけどね」

「あなたほど人気じゃないわよ」

「そう言えば、あなた今度試験があるんですってね」

「ハワイ沖でね。まぁ普通の試験稼働だから・・楽に終わると思うけど」

「あたしも、楽に終わりたいわ・・・」

ローラは、ギシッと背もたれに寄りかかると大きく体を伸ばした。

そんなローラを見ながらナターシャはクシを置いてズズッとココアをすする。

解決策はわからないが、ローラのほしい答えは、

まだまだ出そうにないということだけは分かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

カチャカチャと工具の音がピットに響く。

聡也はまだピットで整備をしていた。

服だけは制服だと汚れる可能性があったので、体操服に着替えている。

(右側のスラスターの出力値が安定しない・・・)

聡也は工具片手に〝ホワイトアウル〟のスラスターのサービスハッチへ顔を突っ込んでいた。

顔には汗をぬぐったときに付いた黒いオイルの後が滲む。

いくら空調の効いたピットとはいえ、顔を突っ込んでいる個所は

さっきまで噴かしに噴かしたスラスターの中だ。

汗をかかずには居られない。

聡也はデータスキャナで〝ホワイトアウル〟の出力値とにらめっこしていた。

(なんでだろう・・・・一応許容値ではあるんですが)

スラスター出力が安定しないと言う事はそのまま機動力の低下につながってしまうだけに、

いくら許容値であるとは言っても、油断が出来ない。

ただでさえ、ISに性能面で多分に劣るIS-Nなのだ。

訓練や実習で壊れる程度なら笑ってすむが、実戦ともなればそれは命取りだ。

(ふぅ・・・・そう言えば、これオーバーホールの時期でしたっけ)

聡也はこれ以上どうにもならないと判断して、

ため息交じりにパタンとハッチを閉めIS-Nを待機状態に戻した。

そこでふと聡也は思い出した。

懸念事項はこれだけではないと言う事に。

(そう言えば・・・今日一回起動させたから・・・キーはあと五本ぐらいですね)

IS-NはもともとISのように自在にオープンやクローズを行う能力を持たない。

待機状態のシリンダーカードに専用のキーを差し込むことで

初めて起動する。

ISに比べるときわめて限定的なパワースーツということになるだろう。

そしてそのキーは一度使うと霧散してしまうので、回数も限られる。

少なくなれば博士のほうからキーが送られてくるようになっていた。

だがまぁそれもこちらから連絡しないといけないのだが。

(残り二本切ってぐらいからでまぁ大丈夫でしょうけど)

聡也は、少し考えてから使っていた工具や器具を所定の位置へ戻す。

基本的に〝ホワイトアウル〟の整備は出来るだけ聡也がやる事になっていた。

博士いわく、〝私が居ない時に壊れたら手も足も出ないじゃIS-Nの操縦者としては失格〟だそうだ。

実際、今回セシリアに勝てたのはそれも大きい。

自分で整備するからこそ今日は調子がどうなのか、悪いのかそれとも良いのか。

良かったらどこが良いのか。悪いならどこをカバーすればいいのかまで

理解するのではなく身体で感じる事が出来る。

だからピットへ帰ってきてすぐに右側のスラスターの異常に気づけたのだ。

ISに比べて性能の劣るIS-Nで、ISに勝つと言う事はそう言った見えない所で勝負するしかないのである。

(・・・まぁ、おかげで色々知識も増えて良かったと言えば良かったんだけど)

そう言えば、まだ先の話だが二年生になると整備科というのがあるらしい。

実のところ、聡也は戦闘での実力は高がIS-Nの操縦よりも機械の整備の方が好きである。

何より、自分で調整したところが結果となって現れる事が何より楽しい。

二年になったらそっちの道へ進むのも悪くない。

そんな事を考えているうちに機材の片づけが終わる。

すると、ピットのハッチが開き数人の女子が話をしながら入ってきた。

(おっと、そろそろ出よう。邪魔になってもいけませんし)

聡也は足早にピットを去ろうとする。

だが・・・・。

入ってきた女子の一人の顔を見てその動きが止まった。

(・・・・・・・え)

相手はこちらを見向きもしなかったが、聡也にとってその女子は衝撃を受けるには充分な人物だった。

(ワインレッドの髪に・・・・・赤い眼・・・・?)

絶対にそれは間違えることは無い。

(それに・・・・少し聞こえたあの声・・・)

いや間違えられるはずがない。

(どうして・・・・なんで!)

聡也は既にパニックを起こしていると言っても過言では無かった。

どうして、なぜ? そればかりが聡也の頭を支配する。

あの人はここに居てはいけない。

いやそもそも居るはずがない・・・。

聡也はバッと振り返ってその名を叫んだ。

「姉さん!!」

その声に雑談していた女子全員が振り返った。

その中には確かに、赤い瞳を持つ目じりのつりあがった

女子がこちらを怪訝そうに見つめている姿があった。

そしてその女子はそのまま眉ひとつ動かさずこう言った。

 

 

 

 

「はぁ、姉さん? 誰だよお前?」




ここら辺からこの小説オリ展開が凄い事になって行きます
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