IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~   作:のろいうさぎ

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第17話~もう一人の聡華もう一つの紫燕~

その言葉の意味を聡也は理解できなかった。

誰って?

何を言ってるんだ・・・だって僕は・・・。

「誰と勘違いしてんのか分かんねぇけど、あたしに弟はいねぇぞ?」

その荒っぽい口調だって・・・。

「勘違いで変な事言うんじゃねぇよ」

僕の姉さんそのものじゃないか。

聡也は、冷たくあしらわれても尚も食い下がった。

「でも、あなたは僕の――――!」

「いい加減にしろっての!」

いきなりの怒号にビクッと身体が震え立つ。

その女子は、僕の胸倉をつかむと睨みをきかせ、語気を強めた。

「てめぇ、あたしの言ってる事が分からねぇのか? あたしに弟はいねぇ! 

分かったらこれ以上話しかけんな、いいな?」

吐き捨てるように言うと女子は、そのまま僕の胸倉を乱暴にはらう。

それがあまりに乱暴で、僕は尻もちをついてしまった。

そんな僕を見て、一緒に来た女子が手を貸してくれた。

「大丈夫・・?」

「あ、はい・・ありがとうございます」

僕はその手をつかんで、立ち上がり礼を言う。

「にしても、君も命知らずだね」

「え、どういう事ですか?」

「彼女、今日はこんなぐらいで済んであたしたちもホッとしてるけど、

あんな事言ったら、酷いと殴られちゃうよ」

「はぁ・・」

女子は苦笑交じりにちらりと、〝姉さん〟を一瞥する。

本当に・・・姉さんじゃないのか?だがあまりにも共通点が多すぎて、

すぐにそんな疑問など消えてなくなってしまう。

でも、また聞けば今度こそ殴られる。

間違いなく。

だから僕は、とりあえず目の前の人に名前を聞く事にした。

「・・・あの、あの人。名前はなんて言うんですか」

「あれ、知らずに声かけてたの? お姉さんって呼ぶから知ってるものかと」

「はぁ・・・まぁ、その似てるんで・・」

僕はあいまいな返事を返す。

と言うより、そんな返事しかできなかった。

いまだに頭が混乱しているのだ。

仕方がない。

女子は少し驚いた顔を見せたが、すぐに頭を切りかえて名前を教えてくれた。

「彼女は、鳥越 聡華。IS学園二年一組の風紀委員よ」

「とり・・・こし・・そうか。・・・・名前は同じ・・・」

僕はその名前をゆっくりとつぶやく。

それを不思議そうに見つめながらも、「じゃっ」と軽い挨拶を残して

女子は聡華のもとへ走っていく。

・・・あ、そう言えばあの人も先輩だったんだ。

今さらながらそんな事を思うほど、僕は混乱していた。

どうすればいいのか分からないが、だがそれでも呆けているわけにもいかない。

アリーナへと消えた先輩達の後を僕は追いかけていった。

そうだ、確認すべき事はもう一つある。

追いかける僕の手には、シリンダーカードとキーが握られていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

そう言えば・・。

今週末、セシリーと買い物に行くのは良い。

だが問題が一つある。

僕はセシリーには色々見て回りたいよねと言ったが、具体的に何を見て回ろうか。

この街の事なんて僕、ほとんど知らないよ・・?

言ってしまって今さらだが、自分のノープランさに呆れてしまう。

一人トボトボ歩いていると、丁度目の前に書店があった。

購買に併設される形で作られた小さなものだけど・・・。

まぁ、観光マップぐらいはあるよね。

僕は書店に入ると、ガイドマップコーナーへ一直線。

ここ周辺の情報がまとめられた本を一冊手に取る。

表紙には〝イチオシデートスポット情報満載!〟とでかでかと書かれている。

デートスポットねぇ・・そんなんでも、ないんだろうけど。だって荷物持ちだしなぁ

パラパラと、雑誌をめくっていく。

っていうか、女子生徒しかいないのにデートもくそもないよね。

あ、そういうアレ、趣味?

・・・・まぁ、いいや。

何気なしに見ていたが、とあるページで手が止まる。

ん? これは・・・。

そのページには〝篠ノ之神社で凛とした空気に触れよう!〟とあった。

篠ノ之なんて珍しい名字は箒以外に考えられない。

・・・へぇ、実家は神社なのか。

写真で見ても境内などとても立派な作りで、建物だけでも名家を思わせる。

そして、そこには剣道の道場もあるらしい。

なるほどね、そりゃ強いわけだ。

実家が剣道の道場ってことは、父親が師範かな。

・・・ふぅん。

僕はまたパラパラとめくっていく。

どうせなら射撃場とか無いのかな・・・無いよね。

自分で思いながら、それをすぐに否定する。

だいたい、銃や刀の取り扱いが特に厳しいこの国でそんなものがあっても問題だ。

あってもせいぜいこの学園ぐらいだろう。

本当にそう思うと、この学園って滅茶苦茶だよね。

どこの国の法にも触れないから、原則この学園内では

高校生が何の許可や免許もなく銃器や真剣を扱える。

ある意味色々危ない。

あ、でもISの方が強いから、いくら銃器で暴れまわっても無駄か。

すぐに鎮圧されるだろうし。って、そんなのはどうでもいい。

今は、どこを回るかだ。

ふ~む。

再びパラパラとめくっていくと、見開き四ページも使って特集の組まれたページを発見する。

〝買い物ならここで決まり、好きなあの人と共鳴しちゃおう!〟

駅前大型ショッピングモール〝レゾナンス〟か・・・。

特集を見るとそこは、かなり大きくまた駅と繋がっているため利便性も高い。

何よりその品数の豊富さは、アメリカ人のアルディでさえ驚くほどだった。

アメリカにもメガスーパーと呼ばれる広大な敷地面積を持つスーパーが存在する。

だが〝レゾナンス〟のそれは、メガスーパーに負けずとも劣らないものだった。

いや品質だけなら、〝レゾナンス〟の圧勝だろう。

確かにここで決まりだな。

・・・・っていうかこれは結構役に立つのではないだろうか。

何気に最後のページには鉄道の路線図なんかも掲載されている。

裏表紙を見て値段を確認すると、そんなに値段も高くないし。

よし、買おう。

僕はそれを、レジに持っていく。

レジの人がやたらニヤニヤしてたけど、一体何だったんだろう。

僕は寮の部屋に帰って、雑誌の表紙を見てようやく分かった。

・・・・なるほど、デートね・・・。

僕は苦笑いしながら、さっき立ち読みで見つけたスポットをメモに列挙し始めた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ねぇ、聡華。ほんとに知らない子だったの?」

一緒にいた女子の一人が声をかけてくる。

内容はさっきの訳の分からねぇ一年坊主の事だった。

聡華は、面倒くさそうに頭をかきながらそれに答える。

「あぁ、知らねぇよあんな奴。大体よあたしが一人っ子だってのは皆知ってんだろうが」

「それはそうだけどさぁ・・・あの子結構必死だったし・・」

「必死だったら、何でも許されんなら風紀委員なんていらねぇわな」

聡華はまだ口をとがらせる同級生を軽くあしらうと準備を始める。

起動させる前に、ISの状態をステータス上で確認する。

こう言うのは安全上とても大事なことだ。

いざ起動してみて、ダメでしたじゃ笑いごとにもなりゃしねぇ。

それに風紀委員が事故ってのも更に笑えねぇよな。

聡華はステータス画面で異常が無い事を確認すると、紫色の丸いキーホルダーを取りだす。

これが自分のISの待機状態である。

さて、始めっか!

ISを起動すると聡華は光に包まれそして一瞬で装甲が展開する。

紫を基調とした、そのISは腕や足そして背部に至るまで

所せましとスラスターが搭載されている。

それでいて、気品を漂わせる流麗なフォルム。

これが鳥越 聡華の専用機。高機動強襲型IS〝紫燕〟である。

そして、すべての準備が整い早速自主練と思っていた時、

聡華をかすめるようにして高エネルギーの閃光が走った。

反射的に身構える聡華と同級生たち。

聡華が見上げるその先には、白いISが荷電粒子砲を構える姿があった。

「・・・・・・てめぇ、やってくれんじゃねぇか」

「・・・・確かめたい事があります」

 

「確かめてぇ事だと?」

聡華は目を細める。

聡華は姉ではないと、はっきりと言った。

これ以上他に何を確かめたいと言うのか。

怪訝な顔をする聡華に聡也はまた静かに言う。

「あなたの実力ですよ」

「あんだと?」

「僕の姉さんじゃないと仰るならそれはそれで良いです。

だけど僕はまだ納得まではしていません」

聡也はまるで、何か台本があるかのように冗舌に言葉を紡いでいく。

それを聡華は、所々相槌を打ちながら聞いていたが、その何かを演じているかのような

話し方はことごとく聡華の神経を逆なでた。

「だから、実力を知りたいんですよ。

僕の姉さんなら・・・・僕なんてひとたまりもありませんからね。

僕の姉さんじゃないのなら、良い勝負ができるかもしれませんよ?」

そこでようやく聡華は聡也の言っている本当の意味を理解し、

そして見かけによらず考える事が、えげつないと言う事に更に腹が立った。

つまりだ。

自分が勝ってしまったらその時点で自分自ら〝姉である〟と言う事を宣言したも同じ。

それが嫌なら、無様に自分に倒されろと言う事を遠まわしに言っているのだ。

(・・・やろぉ、いい度胸してやがんじゃねぇかほんとに・・・ッ!!)

だが、聡華はその考えに気が付いたところで冷静に事を判断するような人間では無い。

相手の策だと言う事が分かっていても、この人物は自らその中へ突っ込んでいく。

そしてそれを、内側から何もかもをぶち壊す。

それが風紀委員である、鳥越 聡華と言う生徒だった。

「へっ・・・上等だ。その減らず口・・・・黙らせてやる」

「良いんですか? 僕を倒しちゃうと、姉さんってことになっちゃいますよ?」

「ならねぇよ」

「・・・・・・?」

聡華は、しれっと言い返す。

そして疑問符を浮かべる聡也に対して、名乗りを上げる様に高らかに言い放った。

 

「あたしがそれすらも・・・ぶっ壊す!!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

聡也は、この策に乗ってきたという事が少し意外だった。

こんなの誰が見ても、罠だと言う事は目に見えている。

と言うよりも、自分でそう言っているようなものだ。

なのに、聡華は乗ってきた。

ちなみにだが、あれほど大口をたたいたものの聡也に聡華を傷つけるつもりは無かった。

確かに本人確認もしたいところだったが優先度がより高かったのは、

紫香楽 聡華のISと瓜二つのあのIS〝紫燕〟の戦闘データである。

聡也が博士から聞いていた情報では紫香楽製のISは〝たった一機〟しか作られていないと言う事だった。

その情報が正しいと仮定するのなら、〝どちらかが偽物である〟

という事を証明するための後々の検証材料にもなる。

聡也は、一直線に向かって飛んでくる聡華に荷電粒子砲を連続で浴びせ続ける。

だが聡華も、それは予測済みのようで、速度を落とさす最低限の動きでそれをかわす。

「おらあぁぁぁぁぁッ!!!!」

聡華は戦槍〝大蛇〟を思い切り突き出す。

聡也はその攻撃を、横に避けると至近距離から荷電粒子砲を撃った。

だが、当たったと思った攻撃はアリーナの側壁のシールドに当たって霧散する。

「なッ!!」

「ほら、遅せぇ遅せぇ!!」

聡華は、〝大蛇〟で聡也の二門の砲を弾くと無防備に開いた胴体に蹴りを入れる。

衝撃で吹き飛んだ聡也が体勢を立て直す前に再び〝大蛇〟の一撃が襲う。

「ぐあっ!!」

今度は完璧に入った〝大蛇〟の衝撃がシールドを貫いて聡也に激痛を与える。

そして立て続けに二回三回と“大蛇”を振り回して攻撃を加える聡華。

繰り返し訪れる痛みに顔をゆがませながら、

聡也はなんとか頭の中で打開策を模索する。

この状況、別に聡也が遅いというわけではない。

聡也の想像に反して、そしてあの紫香楽 聡華の〝紫燕〟に対して、

この鳥越 聡華の〝紫燕〟が速すぎるのである。

〝ホワイトアウル〟には通常のISの平均的な速度を出せるだけの推力はある。しかしそれは、あくまで〝打鉄〟の様な汎用機を

相手にする事を前提に組まれた出力であり

このような高い機動力をもつISが相手だと、明らかな出力不足だった。

・・・このままじゃ、クロスレンジは一方的になる・・・距離を開けないと!!

聡也は〝大蛇〟の振りかぶるタイミングを見計らって、〝ホワイトアウル〟の

全スラスターに最大推力での後退を命じる。

それと同時に、砲を荷電粒子砲から、

バックパックにラックされたもう二門の砲に持ち変えた。

それは荷電粒子砲ではなく、荷電粒子砲よりは連射の効くレールガンだった。聡也はその二門のレールガンで牽制しながら距離を取ると、再び荷電粒子砲に持ちかえて

一撃必殺の威力で聡華を狙う。

だが距離を取られた聡華は、焦り一つ見せずむしろ

こちらを小馬鹿ににしているような顔をしていた。

聡也の攻撃をひょいひょいとかわして、ニヤッと口元を釣り上げる。

「なぁ、お前距離を取れば勝てるとか思ったのか?」

そして届く不気味なほどに自信に満ち溢れた聡華の声。

一瞬の疑問の後、聡也は自分が最悪の隙を相手に与えてしまった事に気が付く。

そもそもの間違いは、一方的になると踏んで

とっさに開けたこの約三十メートルという〝死の間合い(デッドライン)

聡也の考えに、このスペック表に、そして何より目の前のISが〝紫燕〟であると言う事に。

そのすべてに間違いが無ければ。

(不味い! アレが来る!!)

「しまっ!!!」

その声が漏れたのは、〝大蛇〟が振り下ろされる前だったか後だったかは分からない。

だが、〝大蛇〟が振り下ろされる直前に聡華は聡也の耳元でこう囁いた。

「あたしに、逆らうな」

その直後聡也は、アリーナの地面にたたきつけられていた。

・・・聡也の完敗である。

 

 

 

聡也はIS-Nを待機状態に戻して身体を引きずりながらピットへ戻ると、

そこには聡華が仁王立ちで待っていた。

既に他の女子はいない。

聡華が先に行かせたのか、どうかは定かではないが

とにかく今はピットに聡華と聡也の二人だけがいる。

聡華はジッと聡也の顔を睨んでいる。

対して聡也も聡也で、若干混乱していたとはいえ、やっぱり無理やりすぎたかと

気まずそうな顔を聡華に返した。

「気まずそうな顔するってことは、少なからずやっちまった観はあるわけだ」

「・・・・えぇ・・それは」

「まぁ、今回はその顔に免じて許してやる」

聡華は不機嫌そうにつぶやく。

聡也はただうつむくことしかできない。

そんな聡也に聡華は一枚の紙を手渡した。

それは名刺ぐらいのサイズで表に名前、裏にはIS学園の校章が印刷されていた。

「それは、あたしが〝風紀委員〟として関わった事を

証明するための、まぁ証明書みたいなもんだな」

「どうしてそれを僕に?」

「言ったろうが、許してやるからだよ。一応さっきのは私闘に当たるからな。

仮に教師に何か聞かれたら、そいつを渡しな。にしてもなぁ。

大体あの・・・誰だったっけか。ほらあのドイツ人・・・」

聡華は思い出せない名前に首をひねる。

ドイツ人、ドイツ人・・・・。

とりあえず、聡也は自分の知っている名前を挙げてみた。

「ラウラですか?」

どうやらそれは正解だったようで聡華はバッとそれに食いついてくる。

「おぉ、そうだそうだ。そいつ。

そいつがさ入学当初っからやらかしてけが人まで出しちまってな。

別段、教員の間じゃよくあるもめごとの延長線上ってことで

さほど大きな問題にはならなかったんだが」

ポリポリと頭をかく聡華。

それを見て聡也は少し、姉の面影を重ね合わせていた。

・・・・きっと、僕のそばに姉さんがいたらこんな表情するんだろうな

聡也には、そもそもなぜか姉であるという事を特定できても、

姉との思い出や記憶を思い出せないでいた。

それがなぜなのかは分からない。

ただ本当に過去の事を思い出そうとすると、その度に変な頭痛に襲われるのだ。

だから聡也には、きっと姉さんなら・・という想像しかできない。

聡也にはその想像がたまらなく楽しい半面たまらなく切なかった。

しかし今回はその姉に瓜二つな人物が目の前にいる。

その思いも更に強いものだった。

だが、そうは言っても今は聡華の会話中。

当然想像に浸っていては聞き逃してしまう。

そして案の定・・・。

「聞いてんのかッ!」

「・・・すいません」

余計な一発を貰う。

聡也はその一発で我に返るともう一度聞き直す。

「で、えぇと・・・なんでしたっけ?」

「はぁ・・・お前強かなのか馬鹿なのかどっちなんだよ」

流石の聡華もあきれ顔だったが、気を取り直して説明し直す。

「だから、あのラウラって言うドイツ人の暴走を止められなかったっていうんで、

教師陣とも掛けあって風紀委員が独自に私闘に関する規則を設けたんだよ」

「規則ですか?」

「そこでこの名刺だ」

聡華はピッと名刺を指で挟んで掲げる。

「こいつはな、その私闘に風紀委員が立ち会ったっていう証明なんだ。

仮にアリーナでなんかあって教師に聴取されても、そいつ見せれば

後は、それを回収した教師から個別に連絡が来るようになってんだ」

言うと、聡華は小型の通信端末を指さす。

それは片耳に装着した状態で使用するハンズフリーの様な物だった。

 

なるほど。

中々考えられている。

特に私闘のみに規制をかけているのがいやらしい。

この方法だと、模擬戦をしていたという言い訳が通用しづらい。

逆に本当だった時は少し問題がある気もするが。

どっちにしてもこの方式を考えた人は頭のいい人だろう。

得心いった顔の聡也を見て、少し笑うと聡華はきびすを返す。

「じゃ、これ以上面倒事起こすんじゃねぇぞ」

そう言う聡華の背中にやはり自分の姉を重ねてしまう聡也だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

よし、こんなもんかな。

僕はペンを置き書き終えたメモを見やる。

そこには、目印やそのスポットへ行くための道筋などが書かれている。

非常に簡単なものだったが、所詮メモ。

わざわざ、ややこしくする必要もない。

(後はコレを当日までに頭に叩き込んでおくだけか)

何事もそうなのだが、僕は暗記が大の苦手である。

だが苦手とは言え、セシリーとの買い物だ。失敗して変な空気になりたくない。

そうして必死にメモの内容を頭に入れていくうちに、気がつけば夜になっていた。

 

 

 

夕飯がまだだった事に、気づいた僕は食堂に来ていた。

時間ももう少しで食堂も閉まると言い事もあり、閑散としている。

僕は食券を渡して今日の日替わり定食を受け取る。

タイの塩焼きと幾つかの惣菜。それに味ご飯がついている。

お盆を持って座る席を探していると、奥の方に一人僕と同じく遅めの夕食を食べる鈴を見つけた。

 

「や、鈴。隣良いかな?」

「ん? 別に良いけど」

鈴に許可を貰って隣に腰掛ける。

鈴はどこか上の空で、何度かため息を繰り返していた。

鈴のこういう姿は珍しい。いっつも人を嵐のごとく巻き込んでワガママを連発するのに。

「あんたねぇ・・・はぁ、まぁいいわよ」

また考えを読まれてしまったらしい。

よし、今度ポーカーフェイスの通信教材カタログを取り寄せよう。

にしても本当に様子が変だな。

「ねぇ、鈴何かあったの?」

「何かあったから、こんなにテンションがた落ちなんでしょうが・・・」

また鈴は大きなため息を吐く。

う~ん・・・やりにくいなぁ。

ふむ、仕方無い元気付けてあげよう。

「あ、ひょっとして恋煩い、一夏に対する?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ!! 何であたしがあいつのことで気を病まなきゃいけないのっ!」

「いや、だって好きなんでしょ?」

「アメリカ人死ねっ!!」

おぉう・・・。

何時もの鈴に戻った(?)ようだがいきなり、アメリカ人に死刑宣告が。

鈴を元気付けようと思っただけだったんだけど。

「そんなもんで元気付くかっ!!」

パッコーンっ!

またも読まれて今度はお盆で僕の頭を叩いた。

どうやら鈴は、体調不良でお盆を武器か何かと勘違いしているようだ。

「鈴、お盆は殴るものじゃないよ」

「そんな真顔で言うなっ、 そこまで重傷じゃないわよ!」

鈴は、お盆を乱暴に置くと鼻を鳴らしてテーブルに肘をついた。

「ごめん、ごめん。ちょっとしたジョークじゃないか。それで、一体何をそんなに落ち込んでるのさ」

僕は鈴にわざとらしく目の前で手を合わせてオーバーアクションの謝罪を行う。

まぁ鈴もそこら辺のことは分かっていたらしく、まぁ良いけどと言ってまたまたため息を漏らした。

「で、あたしがこんなにテンションダウンしてんのは聡也の事よ、そーやの」

聡也の事?

珍しいな。鈴って自分の興味ない事には全く関わろうとしないタイプだよね。

その証拠に初対面ではセシリーの事、全く知らなかったし興味すら持ってなかった。

 

まぁ、聡也について鈴に全く興味がないかと言えばウソになるが、

それでも直接的に鈴がテンションダウンする理由が見つからない。

「聡也がどうかしたの?」

「あいつね、何したかわかる!? こともあろうに風紀委員に喧嘩売ったのよ!!

まぁあたしも詳しくいろいろ聞いたわけじゃないけど、なに馬鹿やってくれてんのよ・・」

鈴は、フンッと鼻を鳴らすと足を組んで何もない空間を睨む。

聡也が?

あんなにまじめで、優等生っぽい聡也が喧嘩を?

しかも風紀委員に?

「ちょ、ちょっと待って。どういうことさ!? 本当に聡也がやったの!?」

「あたしだってびっくりしたわよ! あいつまだ会って間もないけどぱっと見おとなしそうだし」

「・・・あぁ、でもなんで聡也がそんな事を

引き起こしたからっていって鈴が落ち込まなきゃいけないのさ?」

「あいつの所為で、風紀委員に二組が目をつけられたからよ。

本当に迷惑だわ!! これでますます動きにくくなっちゃったじゃない。

もう、どーしてくれんのよっ!」

鈴は言うとゴンッ大きな音が出るほどの勢いで机に突っ伏した。

・・・いや、でもあの聡也が。

・・・・・何かありそうだね。

彼、セシリーとの戦闘の時にも思ったけど慎重っぽいし、

何の考えもなくそんな行動をとるとは思えない。

フフっ、これはちょっと面白そうだね。

とにかく、明日の放課後いろいろ情報を集めてみよう。何かわかるかもしれないし。

・・・・って言うか鈴さっき動きにくくって言ったけど。

「やっぱり動きにくいって一夏のこと?」

「はぁ? そうに決まって・・・」

なるほど。

やっぱりね。

確かに今織斑先生だけでも大きな障害だもんねぇ。

うんうんとうなずく僕の頭にお盆がクリーンヒットし

その音が閑散とした食堂に響いていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ふぅ。

お決まりと予想通りの答えをありがとう。

ローラは心の中でつぶやいてPCから顔を離して伸びをする。

ローラはあれからずっと、データの打ち込みに追われそのたびに表示される

欲しくもない答えにイラつくという作業を繰り返していた。

そしてそれを家に持ち帰ってまで続けていたのだが、

もう今となってはイライラする気さえ起こらない。

期待もしなければ返ってくる答えに落胆する事もなくなる。

完璧に作業である。

ローラは立ち上がると、傍らの缶コーヒーに口をつける。

一息つくが正直言ってローラは、ほぼ半日を割いて作業をしたというのに

〝ストライクバーディ〟の現状をまったくといっていいほど把握できていなかった。

ローラはチラリと欲しくない答えを表示するPCに目をやる。

・・・こんな事初めてだわ・・・。やっぱりあのISは、〝普通じゃない〟のかしら?

ローラはあの〝ストライク・バーディ〟をモンド・グロッソで使用していた時も

何度か不思議な体験を経験していた。

言っても誰も信用してくれなかったがローラは、

いやローラもまたあの〝少女〟と邂逅の経験を持つ人物だった。

ローラにはアルディがその経験をしたかどうかまではわからなかったが、

当時のローラは何か得体の知れない物を内包する自分の愛機に若干の怖さと、

それでいてなぜか守られているような不思議な気持ちを感じていた。

しかし、そうはいっても結局はIS。

あの当時だって半日も使えば欲しい答えや、

それに到達するための手がかりは見つかったものだ。

だが今回はそれがまったくと言っていいほど見つからないのである。

あのISは、あたしが一番よく知っているISだから・・・

不測の事態に陥っても、あたしなら何とかなると思って

あの子に預けたんだけど・・甘かったわね。

今更なにをと思いながらもローラは自分の考えの甘さに少し後悔する。

今回は、その事でアルディが怪我をしたというわけでもないが、

いずれにしてもその可能性は捨てきれない。

それにだ。

あの“N”が出てきている以上最悪のケースも考えるなければならず、ローラは一瞬寒気を覚えた。

そしてローラの中で、とある考えが首をもたげる。

今までは、こちらでの事もあるし責任のある立場だからと敬遠していたその考えだったが

自分の対応の遅れで、アルディを危険にさらす可能性がある以上迷っている場合ではなかった。

ふぅ・・姉馬鹿とか言われるかしらね。でもこうなったら仕方がないわ

 

 

 

 

 

 

 

 

行きましょうか、日本へ!

 

世界第二位は動き出す。

 

ただただ弟のために。

 

 

 




そう言えばローラさん良いキャラだと思いますよ?
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