IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~ 作:のろいうさぎ
二組的には結構な騒動に発展した一日が終わり、再び平穏な日々がやってくる。
教壇では、IS史の授業とあって一組の担任である織斑先生が教鞭を振るっている。
「以上のことから諸君等にもISにおいて、
いかにその歴史を知るという事が大切かと言うことが理解できたと思う。
次に、ISを軍事転用の視点から本来の開発目的を見ていく」
別に歴史なんてどうでもいーじゃん。
鈴は千冬の授業を、表面上ビシッと内面気だるく受けていた。
内なる鈴はあくびまでする体たらくだ。
もちろん、それは外には見せない。
見せよう物ならそれこそ出席簿か、最悪小型端末が飛んでくる。
あ~あ、早く終わんないかなぁ・・・。
この後は丁度お昼休み。
鈴は最近一夏と戦ってばかりでまともに食事をしていないことを気にして、お弁当を作ってきていた。
メニューは勿論、酢豚である。
フフンッ、授業が終わったら速攻よ速攻!
箒もシャルロットもラウラも、誰にも邪魔なんてさせないんだから!
先ほどまであくびをしていた内なる鈴だったが、
今はグッと拳を握ってその背後にはメラメラと闘志がたぎっていた。
んでもってぇ、一夏にあたしが食べさせてあげるんだもんね~。
で、で、あたしの料理を食べた一夏が・・・。
『おい、鈴も食べてみろよ』
『い、いいわよ、あたしは』
『いいからほら』
『な、何くわえてんのよ?』
『この方が鈴を近くに感じられるだろ・・・』
『一夏・・』
『鈴・・』
『あん♡』
的なことになっちゃってぇ!!
恋する乙女の妄想は止まらない。
たとえそれが千冬の授業中であっても。
「そうだな・・凰、
このアメリカ製のISについてその特徴を述べてみろ」
「真っ白い塔の上に大きな鐘が特徴のチャペルで・・・ 」
次の瞬間鈴の顔面に小型端末の角がめり込んだ。
「痛ったぁぁ~・・・」
鈴は授業後も顔を押さえて、涙目だった。
ちなみに言っておくと、鈴は小型端末で殴られたわけではない。
文字通り飛んで来たのだ。
すさまじい勢いで。
多分、妄想の世界へトリップしていなくても鈴は反応できなかっただろう。
そして、そのせいで完全に鈴は出遅れた。
顔をさすりながらも、足早に一組に入ると既に一夏は
箒、シャルロット、ラウラという三匹の野良猫(鈴主観)に囲まれた状態だった。
鈴は、身体の後ろにお弁当の入った小袋を隠しながら一夏に近づく。
「お、鈴も来たのか」
「なによ、〝も〟って!」
あたしは何かのおまけかっての!
ついつい、いつもの調子で返してしまう。
おっといけない。
今日は一夏をお昼に誘わなければいけない。
いつもの調子では当然同じ事の繰り返しだ。
「んんッ! ねぇ一夏」
「なんだよ、鈴」
鈴は少し声を整えて名前を呼ぶと、二カッと笑う。
「ねぇ、お昼行こ!」
うわッ、今のめっちゃ良い感じじゃん!
いいね、あたし超自然体!
鈴は心の中で自画自賛を繰り返す。
そして、自然体で言えた事が功を奏したか、
一夏はそれに二つ返事で返した。
「あぁ、良いぜ」
その返事を聞けて、鈴の中では小さな鈴がガッツポーズを繰り返している。
心の中はお祭り状態だ。
なんだ、初めっからこうすればよかったんじゃん。
早速一夏を連れだそうとする鈴に当然と言えば当然だが、残りの野良猫が邪魔をする。
「おい、ちょっと待て鈴。一夏は今日私と昼食をともする事になっているのだが?」
「ふん、何を勝手な事を。私の嫁なのだから、私と共に食事をするのが自然・・いや当然であろう」
「ちょっと、何二人とも勝手に決めてるの! この前僕も約束してたんだから僕とだよ」
だがこの反撃は鈴にとって予想の範囲内だった。
何せこちらには最終兵器〝愛情弁当の酢豚〟という最終兵器がある。
鈴は余裕の笑みで三匹の野良猫を見やると鼻を鳴らす。
「ふふん、残念でした。一夏は〝あたし〟と一緒にご飯を食べるの。
だってさっき良いって一夏本人が言ったじゃない?」
「貴様、拡大解釈をするな! 一夏はお前の昼食に行こうという提案に賛同しただけだ!」
「でも肯定は肯定じゃん!」
両者一歩も譲らない。
いや譲れない。
ここを譲ってしまったら、双方ともに一歩リードを許してしまう事になるからだ。
それはラウラもシャルロットも同じ事。
だが、あまりがっついて言い返すのも一夏の心証を悪くすると思い、
両者箒への賛同と言う形で、自分の意見をぶつける。
「いい加減にしろ、大体二組の貴様がなぜ優先的に一夏を連れて行けるのだ?
箒の言うとおり一夏は、昼食に行くと言う事に賛同しただけだろう」
「そうだよ、鈴。無理やりすぎるのは嫌われるしね」
それでも鈴は余裕を崩さない。
しばらく三人の意見を聞き流していたが、
ここだっと言うタイミングで最終兵器を持ちだす。
「そう言えば一夏さぁ、酢豚食べたいって言ってたじゃない~?
今日ね、本当に偶然朝作ったのが余ってて持ってきてるんだぁ」
「「「なッ!!」」」
三人の顔が引きつる。
唐変木の一夏は、おぉそうなのかと酢豚の登場に喜ぶが、他の三人は、
いや恐らく一夏以外の全員は、それは鈴が一夏のために用意したものだと言う事を直観する。
鈴は勝ち誇ったような顔で三人を見下す。
勝った!
やった!!
あたしの独り占め!!
鈴は飛び跳ねて喜びたい衝動を抑えて、改めて一夏を一組から連れだそうとする。
だがそこで、鈴にも予想していなかったひところが一夏の口から飛び出した。
「なぁ、箒たちも来いよ! 鈴の所の酢豚って滅茶苦茶旨いんだぜ?」
なぁッ!!
余裕の笑みが一転、焦りに変わり今度は三人にざまぁみろという視線が注がれる。
鈴もどうやら、一夏の唐変木発言まで完璧に予測する事は不可能だった。
「んんッ、そうだな。では相伴にあずかるとしよう、うん。鈴の料理か、〝是非〟参考にしよう」
「そうだな、私も中国の料理には〝興味〟がある」
「僕もすっごく〝楽しみ〟だよ」
三人の嫌みたっぷりの言葉に鈴は自分の敗北を悟った。
「・・・・・鈴、策士、策におぼれたね」
「うるさい」
一部始終を見ていたアルディに肩を叩かれる。
鈴はそれに力なく返すのが精いっぱいだった。
その後ろでは呆れた様子でセシリアがため息をついていた。
あたしが吐きたいわよ、ため息・・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とりあえず僕は、鈴を立たせて皆で屋上へ向かった。
天気もいいし屋上でとは一夏の提案だったが、
なるほど確かに気持ちい良い風が頬をなぜる。
と言うか、少し暑い。
そう言えばもうすぐ夏だね。
ちなみに、策におぼれた鈴は皆が輪になって座ってからもブツブツと
文句を言っていたがシャルロットになだめられてなんとか気分を持ち直していた。
「さて、それじゃぁいただくとするか!」
鈴が中央に置いたタッパーにまっ先に一夏が端を伸ばした。
豚肉をつまむとひょいと口に放り込む。
「うん、旨いぞ鈴! 本当に料理上手くなったんだな!」
「ほぅ、そんなに上手いのかでは私も食べるとしよう」
「ふむ、確かに程良いとろみがあって口触りも良い。確かに上手いな」
ラウラと箒が端を上手く使って、酢豚に舌鼓をうつ。
しかしシャルロットだけは、もじもじと手を出してはひっこめるを繰り返していた。
それを不思議に思った、一夏がシャルロットに尋ねた。
「どうしたんだ、シャル?」
「あ、うん・・いや何でも」
「食わないのか、これ美味しいぞ?」
「その・・・えっと・・・僕、まだ上手く・・お箸使えないんだ・・」
あぁ、なるほど。
つまり恥ずかしかったんだね。
確かにお箸って、アジア圏中心の文化だよね。
最近ではアメリカでもつかわれるけど
棒二本で挟んで食べるっていうのが中々やってみると出来ないんだよなぁ。
それに、作法で箸の身を使って食事をする文化が確立しているのは
日本だけとも言われているらしい。
それぐらい、文化に根づいているのは分かるがそれでも難しいものは難しい。
僕も姉さんに教わってやっとできたぐらいだし。
「まぁ、私もこの箸と言う物は苦手ですわね」
セシリーが少し困った顔で酢豚を見つめる。
確かにイギリスも、基本的にお箸は使わない文化だもんね。
僕は、ヒョイッと箸で豚肉を取るとセシリーの口元に持っていく。
「はい、食べる?」
「え!?」
少し顔が赤いけど・・・。
「あぁ、ごめん。やっぱり恥ずかしいよね」
僕はスッと、箸を下げようとするとセシリーがあ、ああと名残惜しそうに
その箸を追いかけてくる。
「何? あ、やっぱり食べたかった?」
「あ、いや・・・・そ、そうですわね・・・せっかくですしいただきましょうか」
僕はセシリーの口元にもう一度箸を近づける。
するとセシリーは更に頬を赤らめながらも上品にゆっくり小さく口を開く。
「良い? セシリーあ~ん・・・・」
「・・・・んむ」
そしてゆっくり味わうように何度も咀嚼しながら酢豚を味わう。
「ね、美味しいでしょ?」
「・・えぇ、とても!」
セシリーは満面の笑みを浮かべてうれしそうに答える。
そんなに酢豚が食べたかったんだね。
それは良かった。
と、そこで皆の注目が集まっている事に気が付く。
そしてそれを見ていたシャルロットがハッと何かに気が付き
一夏に懇願のまなざしを送った。
「ね、ねぇ一夏! 僕も・・その食べたいなぁ~」
「ん? 酢豚か? いいぜ」
一夏が酢豚へ箸を伸ばしかけてようやく残りの三人は
シャルロットがしようとしている事に気が付きそれを必死に阻止しようとする。
「しゃ、シャルロットあんたにはね、あたしが食べさせてあげるわよ!」
「よし、鈴そのまま抑えていろ!」
「酢豚の確保成功。続いてシャルロットへの投下を開始する!」
「わわわわわッ!!」
ほんと、こういうときのチームプレーは凄いと思う。
「ねぇ、セシリー。こういうときの連携って凄いよね・・・・・ってセシリー?」
「・・・・アルにあ~ん・・・アルにあ~ん・・・」
・・・・呪文?
そんな感じで昼休みは過ぎて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
えぇと・・・二年一組・・・二年一組。
聡也は、名刺を持って二年一組に足を進めていた。
目的は言うまでもなく、鳥越 聡華である。
えぇと・・・ここか。
当然だが、二年生に男子は居ない。
全員女子だらけの中に、ポツンと聡也が現れた事で
一気静かになり、女子の注目が否応なしに聡也に集まる。
ただ一人を除いては。
聡也は、これ以上の騒ぎになる事を警戒してあえて名字で聡華を呼ぶ。
「鳥越・・・先輩」
名前をつぶやくと今度は女子の注目が聡華に集まった。
聡華は、ため息をついて面倒くさそうにこちらを睨むとガタッと立ち上がる。
そして、ズンズンと近づいてきてすれ違いざまに首根っこを引っ張った。
「ちょっと来い」
「わ、っちょ!」
そのまま聡華は、聡也を階段の踊り場まで引っ張っていく。
そして他の生徒の目が、亡くなった事を確認してから声を荒げた。
「てめぇな、何しにきたんだ!?」
「い、いやその・・・用ってほどでもないんですけど」
「あのなぁ、お前は目立ちすぎるんだよ。
大体ああなる事ってのは想像できたろ」
聡華は聡也の頭をコンコンと二、三回軽くコツく。
「それはそうですけど・・・」
「用が無いなら来るな、分かったな。こっちも迷惑なんだよ、色々騒がれると」
聡華はそれだけを言い残して聡也のもとを去ろうとする。
実のところ聡也の行動に明確な意図はない。
ただ、聡華に会いたかったそれだけだった。
あの、姉に瓜二つの聡華に。
でも確かに、聡華の言うとおり。
自分は男子で、良く目立ってしまう。
用が無いのにうろちょろされれば確かに迷惑になる。
だが・・・・。
ふと、聡也に一つのアイデアがひらめいた。
そうだ。
用があればいいんだ。
聡也は聡華の後ろ姿を見やる。
そして声を張り上げた。
「用があれば、本当に良いんですね!?」
それに聡華はこちらを振り返り、怪訝そうな顔を向けたが
いつもの調子でぶっきらぼうに答えた。
「・・・・あぁ、用があればな」
フフフっ、なるほど。
用があればいいんだ・・・用が!
心の中でつぶやくが早いか、聡也は自分の教室へ向かって走り始めた。
作ってやろうじゃないか!
ちゃんとした理由を!
聡也は、二組に戻るなりこのクラスの風紀委員である
代表候補生のロッソ・ミオネッティに話しかけた
ロッソは綺麗な赤い髪を持ち、半眼の一見やる気のないような目が
特徴の少し無口なイタリア人だ。
「ロッソさん」
「・・・何?」
ロッソはそっけなく返事をする。
ロッソは特に何をしているでもなく、
空中投影型のディスプレイに表示されている
自分のISのものであろう情報に目を通していた。
そんなロッソの机をわざとバンっと叩く。
ゆっくりと目を細め睨むロッソに聡也は言った。
「風紀委員を僕に譲ってください」
「君・・何言ってるの?」
当たり前と言えば当たり前の返答だ。
既に決まっている委員会を代われと言っているのだから。
ロッソは冷めた目で聡也を一瞥してから、
何事も無かったかのようにディスプレイに目を戻した。
聡也のアイデア。
それはずばり、風紀委員になることであった。
それなら聡華に会うのに用も何も関係ない。
同じ委員会なのだから、用が有ろうが無かろうが嫌でも顔を合わせられる。
そのためにも聡也には軽くあしらわれた程度で、
引き下がるわけにはいかないし何よりも聡也には考えがあった。
「ちょっと話を聞いて下さいよ、ロッソさん」
「だから・・・聞いてるじゃない。
それについて・・返答もしたわ。
これ以上何か必要?」
ロッソは既に目線すら動かそうとしない。
だが聡也は構わず言葉を続けていく。
「僕は、風紀委員を譲ってくれって言ったんです」
「・・・だから、何故?」
「僕がやりたいだけです。わかりやすいでしょう」
「・・・・いや」
来た!
その言葉を待っていたんだ。
明確な拒否。
それがあってようやく聡也の策は動き出すのだ。
「そこを、何とかお願いしますよ。それに風紀委員って
結構物騒な連中も相手にしないといけませんし」
「・・・大丈夫。私、こう見えても代表候補生。」
「僕は、心配してあげているんですよ?」
少し挑発的な台詞でロッソを煽る。
ここまでこれば、もうロッソの無視は来ない。
なぜならその口から“代表候補生”と言う言葉が飛び出したからだ。
少なくともロッソは今少しずつ苛立ち始めているはずである。
代表候補生が、いくらISを使えるとはいえ男に心配されるというのは女尊男卑のご時世。
プライドが許さないだろう。
「・・・あなたいちいち、感に障るわ」
「そうですかね? でも本当に心配しているんですよ」
「・・・余計な心配はいらない」
あともう一押しだろうか。
何にしてもロッソは、初めのポーカーフェイスから今では、
こちらを再び睨みつけて目に見えて怒っているのは分かる。
「でも、本当に僕風紀委員がやりたいんですよ。大体僕にだって選択権があると思いませんか?」
「・・・選択権?」
「そう。元々転校生の僕は、皆さんが委員会役員を決めた時期には居られなかった。
いくら女尊男卑と言っても学生生活ぐらい平等にチャンスがあっても良いと思いませんか?」
ロッソはしばらく考えて、コクンと頷いた。
「・・・それはそうね」
「だから・・・あ、そうですね。良いことを思いつきましたよ」
聡也はあたかも今思いついたかのような素振りで、
ロッソに話すが当然これは初めから聡也が考えていた事だ。
それは・・・
「わかりやすく、模擬戦で白黒つけましょうよ」
「・・・良いの? あなた無様に地面に這い蹲ることになるよ」
「それは、どうでしょうね?」
「・・・ッ!!」
この場合ロッソが聡也を挑発するより、聡也がロッソを挑発した方がより効果的だ。
聡也は、今だけは女尊男卑の社会に感謝したいと思った。
「・・・その言葉忘れないでね」
ロッソはガタッと立ち上がると、足早にその場を後にしようとする。
その後ろ姿へ聡也は、大事な確認事である日時を尋ねた。
「試合は何時にしますか?」
「・・・いつでも良い」
「では、早速なのですが今日の放課後でどうです?」
聡也の提案に無言で頭を縦に振り、聡也もそれに頭を振り替えした。
そしてロッソは今度こそ本当に教室を後にする。
その後ろ姿を見送りながら聡也の頭にふと疑問が浮かんだ。
・・・はて、彼女どこへ行ったんでしょうか。
もうすぐ授業なんですけどね。
そして、少し考えてサーッと青ざめた。
しまった、次は実習じゃないか!
聡也はロッソの後を追いかけるように教室を飛び出す。
聡也とロッソ。
二人の内に秘める闘志を現すかのように、頭上にはもうすぐ夏の訪れを
予感させる暑い太陽がこうこうと照りつけていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、今日の授業も残すところこのHRだけとなった。
前では織斑先生が、連絡事項を話している。
「先ほど、諸君に配ったプリントに臨海学校に最低限必要な持ち物が書かれている。
当日忘れ物をして泣きついてきても知らんぞ。
その時は一人さみしく部屋で勉強でもしていろ」
相変わらず辛辣なお言葉。
では以上と話を区切り、教室を後にする織斑先生。
そしてようやく放課後だ。
僕は、昨日予定していたように聡也がなぜ風紀委員と
もめごとを起こしたのかを調べるべく、
とりあえず僕のクラスの風紀委員に話を聞いた。
「え? 一条君と風紀委員の事?」
「そそ、何か知らないかな?」
ん~っと、女子は顎を指でトントンと叩きながら、視線を宙に泳がせる。
「確かに、二組の一条君が風紀委員ともめごとを起こしたって言う話は聞いたけど・・・」
「誰ともめごとを起こしたとか、分かんない?」
「誰・・・・あ、名前は分かんないけど上の学年だっていう話は聞いたよ」
なるほど、上級生か。
う~ん・・同級生ならまだ探りやすかったんだけど。
僕は礼を言ってその場を離れる。
さて、上級生か。
・・・ふむ。
理由は全くわからなかったが、どうやら聡也がもめごとを起こしたのは
一年生以外だと言う事は確定した。
それでもまだ二年か三年か。
そこが問題だよね。
「何をしてますの?」
聡也の事についてあれこれ顎に手を当て考えていると、
それを不思議に思ったセシリーが声をかけてきた。
「いや、ちょっとね」
「ちょっと、なんですの?」
流石に今回は二人だと動きにくいから、
旨くかわしたいところなんだけど・・。
「だから、ちょっと」
「むむ・・・・なんだか怪しいですわね」
「あ、怪しくないよ」
なんでこういうときだけ変に疑り深いんのさ。
僕は苦笑いを浮かべながら、何か良い言い訳は無いものかと頭をひねる。
しかし、僕もこう言う時に限っていい案が浮かんでこなかった。
「あぁ・・えぇと」
「何か隠してますわね」
「いや、隠してと言うか人を探して・・」
―――――――――あ。
言っちゃった。
「人探しですの?」
なに口滑らせてるのさ僕。
そんな事言ったら確実にセシリーは・・・。
「なら、私もお手伝いしますわ」
・・・・だよね。
あぁ、もう。仕方ないや。
僕は諦めの表情でため息をつくとセシリーに人探しの内容を説明した。
「なるほど。聡也さんの・・・」
「まぁね、聡也って真面目そうだし、
何か問題を起こしそうには見えないからね。少し気になっちゃってさ」
「確かに、中々大人しそうな方ではありましたけれど・・・。
でもそういう方って案外そうでもないのかもしれませんわよ?」
まぁ、誰にでも裏があるとは言うけど・・・。
あの聡也が?
僕は頭の中でオラオラと幅を利かせて、そこらじゅうに喧嘩を吹っ掛ける聡也を想像する。
そしてそれを苦笑いで否定した。
いや、ないない。
流石にそれは。
「ま、まぁどっちにしても、気になるでしょ」
「確かに。でもまだまだ情報が少なすぎますわねぇ」
「とにかく、他のクラスの人たちにも聞いてみようよ」
僕はそう言うと、二組へ向かう。
二組の風紀委員が聡也と面識があるかどうかは分からないが、
多分、一組の風紀委員よりは情報を持っているだろう。
ガラッ
二組の教室のドアを開け、中に入る。
僕はグルッと、教室内を見渡した後、手近にいた子に声をかけた。
「ねぇ、ここのクラスの風紀委員の子どこにいるかしらない?」
「え? あ、ロッソ。え~っと・・あれ、居ない」
「いませんの?」
「おかしいな、さっきまで座ってたんだけど」
ポリポリと頭をかいて首をひねる女子。
僕はその子に、ここのクラスの風紀委員の子の特徴を聞いて二組を後にする。
その特徴って言うのが。
・赤い髪
・イタリア人
・無口
・・・・・・どうしろって言うんだいこれ・・。
これでどう人物を特定しろと?
聞く人間違えたかな。
ふぅ、とりあえず他のクラスも回ってみよう。
僕たちは、次の教室に足を進める事にした。
一通りクラスを回り終え自分のクラスに戻ってきた僕たちだったが、
結局分かったのは、「上級生」「風紀委員」というたったのこれだけ。
しかも二組の風紀委員に至ってはまだ見つかっていない。
「はぁ・・・中々人探しって大変だねぇ」
「これだけ人数のいる学園ですし・・・
まぁ、そこまで簡単に行くとは思っていませんでしたけれど」
セシリーも腕を組んでうーんと唸る。
せめて二組の風紀委員の子が見つかれば何か分かると思うんだけどなぁ・・・。
二人して頭を悩ませていると、不意に教室の扉が開いてさっき二組で
僕たちにロッソという風紀委員の子を教えてくれた女子が駆け込んできた。
「ねぇねぇ、大変大変!」
息を荒げて声を張り上げるその様子に、
ただならぬ事態を予想した僕たちに一瞬緊張がはしる。
僕たちの近くにいた別の女子になだめられながら、
その子は言葉をまくしたてた。
「ロッソと一条君が・・・!」
「「え!?」」
思わず声が重なる。
聡也が!?
それにロッソ!?
「お、落ちつてください。一体何がありましたの?」
「一条君とロッソが・・・第三アリーナで!」
僕とセシリーは顔を見合わせると、弾かれたように教室を飛び出した。
まさか、あの聡也が本当に?
何のために。
それに相手はまた風紀委員。
・・・・なんで風紀委員にこだわってるんだ?
僕はぐるぐると頭の中で、答えの出ない同じ事を考えながら
第三アリーナへ急いだ。
僕たちが第三アリーナへ到着すると既に多くの人だかりができていた。
人ごみを掻き分け、アリーナの中が見える位置まで移動する。
今いる場所は観客席ではなく、強化ガラスで守られた通路の一角。
そこからアリーナを見下ろすとアリーナの中央で対峙する
聡也とロッソの姿があった。
まだ両者共にISを起動させていなかったが、二人からは窓越しにも分かるぐらい
凄い闘志がビリビリ伝わってくる。
一体全体何があってこんなに睨みあってるんだ?
あまりの両者の雰囲気に若干、気おされていると聞きなれた声が聞こえる。
「あーーーー! あいつまた何騒ぎ起こしてくれてんのよ!!!」
鈴・・・。
しかもかなりご立腹のご様子。
そりゃそうか。
二組が目つけられたってあれほど怒ってたもんね。
「鈴、まぁまぁ落ち着いて・・」
「アルディ、それに・・・・えーっと」
「鈴さんわざとやってますでしょ・・」
「アセロラだっけ?」
「セシリアですわッ!!」
すごい! 文字数しかあってないミスなんで初めてだ。
でも、アセロラか・・・ふむ。
そう言えば最近セシリー肌荒れがどうとかって・・・。
「ア~ルゥ~~、何かおかしなこと考えていません?」
セシリーにジト目で睨まれ、僕はすぐさま考えを切り上げる。
・・・全く本当に読まれやすいね、僕。
頼んだポーカーフェイスのテキスト全然届かないし・・。
「あんたらねぇ・・・いちゃつくのは良いけど今それどころじゃないっつーの!!」
「別に、いちゃついては無いでしょ!」
「あ、・・・そうですわね」
ん?
セシリーがなんだか不満そうに・・。
って、確かに鈴の言うとおり今はそれどころじゃない。
僕は視線を聡也たちに向ける。
二人はまだ全然動いていない。
・・・聡也。
本当に、どうしたって言うんだい?
その問いかけを心の中で叫びつつ、
僕たちは両者をジッと見守った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「・・・・逃げずに来たのは良いけど・・・後悔するよ」
「だから、それはやってみないと分かりませんよ」
聡也はロッソの挑発的な発言に、更に挑発しかえした。
少しムッとするが、すぐにいつも通りの無表情に戻る。
そうそう、もっと怒って貰わないといけませんね。
ただでさえ、性能の劣るIS-Nなのだ。
必死に短い時間で情報収集したとはいえ未知の相手。
揺さぶらなきゃ確実に勝てないでしょ。
それにここまで来たんだ。
策士策におぼれるなんてバカな事は許されない。
「・・・・・ほんと、癇に障る男」
「それは、失礼しました」
「・・・・いいわ、その自信砕いてあげる」
ロッソの目つきが変わる。
ロッソは左手をゆっくりと顔の前に持っていくと
ISを起動させる。
「あなたに、本当の夏を教えてあげる」
「おあいにくさま・・・僕は春が一番好きなんですよッ!」
聡也も言い返すと、シリーンダーカードにキーを差し込みIS-Nを展開。
光に包まれ一瞬で真っ白い装甲が展開され〝ホワイトアウル〟が姿を現した。
そして少し遅れて、ロッソのイタリア製IS〝ペルフェッド・エスダーテ〟もその姿を晒す。
真っ赤な鋭角的なフォルムに、右手に蛇腹剣。
そして左手には武装とシールドバリア発生装置が
組み込まれた攻防複合兵装防盾を備えている。
あれが・・・ロッソさんの。
データ上では見ていたが、やはり実物はいつ見ても迫力が違う。
そのISを注意深く観察していた聡也だったが、ふとロッソの様子がおかしい事に気が付く。
ISを展開したと言うのに、だらりと腕を垂らして下を向いている。
・・・・なんだ?
・・・早速何か仕掛けてくるつもりか?
聡也は警戒しながらも観察を続ける。
すると突然、不敵な笑い声が聞こえた。
「フ、フフッ・・フフフッ・・・ハハッ! ハハハハハハハッハァッ!!」
それは、紛れもなくロッソのISから聞こえてきたものだ。
でも・・明らかにロッソさんが出すよな声じゃ・・。
声に焦る聡也を尻目にロッソがゆっくりと顔を上げる。
その顔を見て聡也は驚いた。
無表情だった顔は、不敵にニヤッと笑う口元に
目じりはつり上がって、その瞳には確固とした意志が見える。
「あ、あなたは・・!?」
「へぇお前、楽にあたしを倒せるんだってなぁ・・・えぇ?」
あまりの豹変ぶりに聡也の顔に冷や汗が流れる。
それでもなんとか睨み返すが、いやな汗が止まらない。
「お前も焼いてやるよ・・・・情熱の炎で・・・たっぷりとなぁ!!!」
その声が合図だったのかは分からないが、
風紀委員の座をかけた、真剣勝負の火ぶたが切って落とされたのは間違いなかった。
二重人格は、色々と使いやすいですね。