IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~ 作:のろいうさぎ
日本へ到着し、その日はホテルに泊まった。
フライト時間約10時間。
流石に疲れていたのか、チェックインして部屋に着いた後の記憶が無かった。
そして時刻は現在午前6時30。
今日は、初登校の日だった。
僕は、壁に立てかけてあった旅行鞄の中から、手続きの書類の入った封筒を引っ張りだした。
確かその中に、IS学園までのアクセス方法が書いてあったはずだ。
・・・・・・うん、大体読める。
良かったよ、向こうで辞書引っ張り出してローマ字表記書いといて。
漢字は苦手・・・・というかはっきりってわかんないんだよね、まだ。
日本ってどうして、こう漢字、英語、カタカナ・・・・こんなに複雑な表記をしてるんだろう。
ややこしいなぁ。
と、まぁそんなことを考えている間にも、時間は過ぎていくわけで。
流石にね・・・・初日から遅刻はまずいよね?
僕は、手早く荷物をまとめ旅行鞄に押し込むと、ロビーへ急いだ。
チェックアウト後、最寄りの駅から電車に乗る。
日本の鉄道って言うのはほんと時間に正確だよね。
僕の住んでた所にも鉄道はあるけど、平気で遅れてくるもんね。
何のための、時刻表なのかと何度も思ったことがあるけど。
電車に揺られてしばらく。
学園案内に書かれていた、駅名を確認し電車を降りる。
さて・・・・・。
これが僕にとっての最大の難所乗り換えだ。
最後に降りる駅は分かってるんだけどね。
どっち方面なのかが分からない。
さて・・・・どうしたものか。
路線図なんて見ても分からないし・・・・。
このままだと、本当に遅刻の可能性が出てきたな・・・。
幸い日本語は流暢に話せるが・・・・。
って、僕の馬鹿・・・。
降りる駅名の名前にルビがふられていない。
つまり・・・読めない。
さ、最悪だ。
言葉が話せても、これじゃあね。
いよいよ、厄介だ。
駅員はどうやらいましがたの時間帯は、総出で電車に乗客を詰め込んでいる。
この時間帯はラッシュアワーなのだ。
とても聞けたような雰囲気じゃないねぇ。
すると、ふとどこからか声をかけられる。
「どうかしましたか?」
声の主は、黒い髪に整った顔立ちをした背の高い男子だった。
年齢はまぁ、僕と同じぐらいかね。
「いや、うんちょっと迷っちゃってね」
「どこ行きたいんです?」
「ココのモノレール乗り場なんだけど」
僕は、学園案内に書かれているモノレール乗り場を指さす。
それを見た男子は、気さくな笑顔で僕を見ると心強い一言を言ってくれた。
「おんなじ方向ですね、案内しますよ」
偶然でもなんでも、丁度いいね、こりゃ。
「それじゃ、頼もうかな」
僕は彼に連れられて、ようやく電車の乗り換えに成功した。
ただ・・・・もうこの国のラッシュアワーには乗りたくは無くなったね。
更に電車に揺られること20分余り。
ようやく目的地に到着し電車を降りる。
駅を出ると、すぐ目の前に、モノレールの軌道が見えた。
アメリカではモノレールを見たことが無かったから、一本のレールにぶら下がってゴンドラが移動する
姿は少し・・・・いやかなり異様な光景だった。
「ココで、良いんですか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
「そうですか、まぁ良かったですよ役に立てたなら。それじゃ俺ちょっと急ぐんで!」
最後まで気さくな笑顔を絶やさぬ彼を見送った後、僕はモノレールに乗り込む。
モノレールってこんな感じなのか。
モノレールは振動も少なく乗り心地は快適だった。
でも、やはり軌道が上で下にぶら下がっているというのは不思議な浮遊感を覚える体験だった。
窓の外をぼんやりと眺めていると、海上にせり出す形で建築された、
大きな近未来的な施設が顔をのぞかせる。
(これがIS学園か)
優秀なIS操縦者を育成するために作られた国立機関。
ここに集まってくるのは各国のエリート達。
あぁ、僕は違うよ。僕の場合は〝ISを動かせる男〟ってことで
姉にも進められたけど、それ以前に気が付けば転入の手続きが終わっていて
今日からIS学園に行くっていう事が結構知らない所で決められてたからね。
まぁでも、僕は別段それに関して反対とか反抗はしなかった。
大事なのは〝なんとかなるでしょ〟の精神だ。
何しても、今日からここの生徒になるわけだからね。
楽しまないと。
モノレールを降り、正門付近まで歩いていくと、その建物の大きさがよくわかる。
特に中央の特徴的なタワーは本当に高い。
何をする所なのか、何もしない所なのかはわからないけど、とにかく中に入らずともその大きさに
少なからず圧倒されてしまう。
ここまでくれば迷うこともないと思っていたが、この大きさは予想外だ。
受付を探すだけでも一苦労過ぎる。
なんとかたどり着いたは良いものの結局、場所はここの、生徒に聞いた。
「すいません、転入手続きお願いしたいんですけど・・・」
言いながら僕は、封筒の中身を受け付けの女性に渡す。
受付の女性は、書類を見ながら、PCを操作していく。
ピアノを弾いているかのようになめらかにキーをタイピングしていく女性。
ほどなくして、生徒手帳の発行やこの学園の詳細な見取り図などを渡される。
「寮の部屋割なんですが、決まり次第担任の方からお話があると思いますので」
「あぁ、そうですか」
「それと・・・・・その格好は」
女性が少し、怪訝そうに僕を見てつぶやく。
そこで初めて僕が、制服ではなくいつも通りのパーカーにジーパンというラフな格好であることに気が付く。元々アメリカの学校では特に決まった制服なんてのは無い。
その感覚が抜けきらないまま、何の疑問も持たずこの学園に来てしまったという事も確かにあるが、これには根本的な理由がある。
「その・・・・僕の住んでた所に制服届いてないんですけど」
「・・・・・・あれ?」
女性は僕の返答を聞くと、受付の奥の棚から何やら伝票の束を持ってきてパラパラとめくっていく。
そして少し語気を強めて僕に言い返してくる。
「いえ、ちゃんと送ってますよここに伝票もありますし」
「でも来てないんですけど・・・」
「カリフォルニア州のロサンゼルス宛てにちゃんと発送されて・・・・」
「へ、ロス!?」
ちょっと待ってよ・・・ロサンゼルスになんて住んでないよ・・・。
一体どこへ送ってるんですか・・・。
「あの、僕サクラメントなんですけど」
「・・・・・・ロサンゼルスって州都じゃないんですか?」
ここは本当に、エリート養成学校なんだろうか。
双方の都市の距離約600㎞。
なんで間違える!
「私州都って大抵人が一番多く住んでるところだと・・・」
「とりあえずその考えを改めましょう、って言うかなんでそんな間違いが・・・・」
「あなたのお姉さんからの電話の際に、カリフォルニア州の州都の市役所へ送っておいてと言われて・・」
「らしい説明です」
姉さん・・・・説明不足さが、素晴らしいよ。
いやだとしても、州都を間違えるかね普通。
PCでサーチしても簡単に出てくるよ。
とりあえずだ、今それを嘆こうが制服が届くわけではない。
予鈴の時刻も迫っていたから、僕はその話を切り上げ、その女性に連れられ職員室へと案内される。
ガラッと、職員室の扉が開かれると、一斉に注目が集まる。
そりゃ珍しいんだろうけど・・・ここまで見られるのもなぁ。
というかこの学園、男の教師少ないね・・・。
まぁ仕方ないのかもしれないけど。
そして案内された先に黒いスーツで決めた、鋭い眼光を放つ女性が一人。
「織斑先生、転校生をお連れしました」
「あぁ、ありがとう」
ん・・・・織斑?どこかで聞いたような・・・。
それではと言い残し、僕と織斑先生を残し女性は去っていく。
「お前が、転校生か」
「はい、アルディ・サウスバードです」
「ん?サウスバード?」
何か引っかかったのか、少し怪訝そうな顔でこちらを見やる。
「あの、何か?」
「いや、何でもない。それよりお前制服はどうした」
「事務員のミスで今頃ロスでひとり旅しています・・・」
はぁっとため息をつきボソリとまたか・・・とつぶやく織斑先生。
あの人何度も同じミスしてるんだ・・・。
「まぁ良い、制服の件は、今日中に何とかしてやる。とりあえず教室へ向かおう」
僕は織斑先生に連れられて、いまだに周囲の教師陣から異様な注目を集める職員室を足早に後にした。
「少し待っていろ」
織斑先生は僕を、廊下で待たせて一人教室へ入っていく。
騒がしかった教室内が一気に静かになり、中からかすかに織斑先生の声がする。
「おはよう、諸君。既に一部では盛り上がっているようだが、転校生を紹介する」
その発表で、中から女子生徒の声で
「やっぱりくるんだー!」
「なになに、うちのクラスなの!?」
という騒がしい声がする。
「えぇい、やかましい、いちいち騒ぎ立てるな馬鹿どもが、まったく。おい入ってこい」
さてと、行きますかね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
転校生ねぇ。
また女子なのだろうか。
いやまぁ十中八九女子だろうけど。
俺、織斑 一夏はそう思い顎をついた。
ただまぁ、これ以上女子が一人増えても何も変わらない。
やまて!既に彼のHPはゼロよ!状態なんだ。
千冬姉・・・・いや、織斑先生が呼ぶと同時に教室のドアが開かれ転校生が現れる。
だがそれは、女子では無かった。
学園に不釣り合いな白いパーカーとジーパン傍らには大きな旅行鞄を転がしている。
俺もだが、周囲の女子も唖然となっている。
っていうか、あいつ!
向こうもこちらに気が付いたらしい、少し驚いた顔でこちらを一瞬見たが気にせず自己紹介を始めた。
「アメリカ、カリフォルニア州出身、アルディ・サウスバード。どうぞよろしく」
流暢な日本語ですらすらと、自己紹介をするアルディ。
一通り、自己紹介を終えると再び女子達が声を上げた。
「アメリカ人!それに男の子だ!」
「織斑君とはまた違うタイプそうだよね!」
「でもなんで制服じゃないんだろう・・?」
「アメリカって私行ったことないんだ~」
・・・・・最後のはどうなんだ、関係あるか?
そしてお決まりと言えばお決まりだが、騒いだ女子を一人残らず出席簿でたたいていく千冬ね・・・
「織斑先生だ、少しは学習しろ」
「・・・・すいません」
なんでこう俺の考えは漏れるかね。
「それと織斑、アルディの面度を見てやれ、この学園に慣れていないしな、日本の生活にもだが」
「え・・・・あ、はい。分かりました」
「よろしく頼むよ?」
ヒラヒラと手をこちらに手を振るアルディ。
なんていうか、軽い奴だな。
「それでは、これでSHRは終わりだ!今日もしっかり勉学に励めよ、馬鹿ども!」
「あ、ちょっといいです?」
ビシッと締めた所に、言葉を挟むアルディ。あいつは怖いもの知らずか。
織斑先生はそのアルディを、顔を動かさずジロッと睨む。
そして、腕を組むと瞳を閉じ、何だ?と若干不機嫌そうに言う。
「僕の席が見当たらないんですが」
「ん?・・・・・」
・・・・・・あ!しまったぁ!!
そう言えば昨日一つ机を運んどくように言われてたんだった・・・・。
課題やらISの事やらですっかり忘れていた・・・・。
「織斑・・・・・」
千冬姉の鋭い眼光が俺を射抜く。名前だけ呼ばれただけだが何を、言わんとしているかなどすぐに分かった。
「あ、あの・・・・・・忘れてました」
スパァンッ!
当然の出席簿インパクト。あの出席簿ほんと鉄でも入ってるんじゃないか?
「はぁ・・・・机が無ければ話にならん!一時間目は・・・・・ふむ私の授業か」
千冬姉は、時間割を見やると、こちらに向き直りまた一つ大きなため息をついた。
「お前たち二人で、準備室から机をひとつ取ってこい」
「え!僕もですかっ!?」
あぁ馬鹿!!
思ったが時すでに遅し・・・出席簿でたたかれるアルディしかも2回。
「・・・・・分かったな?」
「・・・・はい」
多分今のやり取りで、千冬姉の理不尽さはよく理解してくれたと思う。
俺は、立ち上がるとアルディを連れて教室を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
痛い・・・・日本の教師って言うのはだれでもあんなに人をバシバシ叩くものなのかい?
・・・っていうか出席簿ってあんなに痛かったかなぁ・・・。
僕もアメリカでは、昔先生に手でたたかれた事はあったけど、あれほど痛くは・・・。
「何にしても悪かったな、こんなことに付き合わしちまって」
織斑君が頭をかきながら気まずそうに謝罪の言葉を述べる。
「まぁ、いいさなんとかなるんでしょ」
「そりゃそうだけどさぁ」
「それより君、下の名前は?」
「え?あぁ一夏だ」
イチカね。オリムラよりも呼びやすい。
「なら一夏と呼ばせてもらおう」
「ッフ、お好きなように」
少しおどける彼。
にしても偶然とは凄いものだね。
あの時駅であった男子とこんなところで生徒として会えるなんて。
・・・そうだ思いだした、織斑一夏・・・この前アメリカのニュースショーで、
トップニュースで取り上げられていた人物だ。
〝世界で唯一ISを使える男子〟ね。今となっては僕もいるから2人だけど。
そして、あの担任織斑千冬・・・・そうだ、どこかで聞いたと思ったら姉さんだ。
姉さんがしきりに千冬千冬言っていたのを思い出す。
あの時は、僕は「だれその人」状態だったけど・・・。
あの人が・・・。
「着いたぜ、こっから机を運び出すんだが・・・・」
一夏の声に気が付き、考えをやめ顔を上げるとそこにはPCの機能やら何やらを丸ごと詰め込んだ
超が付く程重たそうな机が鎮座ましまししていた。
これを、教室まで運ぶのかい・・・。
僕は、今来た道を振り返る。
まぁ教室は見えてはいるけど、目の前の机が見ただけで重いという事がわかるだけに、
この距離なら・・・・という前向きな気分をへし折ってしまう。
「とりあえず運んじまおうぜ・・・遅いとまた千冬姉になんて言われるかわからん」
「そう言えば、織斑先生っていつもなんななの?」
「あんなっていうと?」
「うんいや、だからいっつもこんな感じで目釣り上げて、出席簿でたたくのかなと」
「ぶっ!アルディそれ目元似てたぞ!?」
どうやら、僕のやった織斑先生の眼付の真似が似ていたらしい。
少し一夏のツボに入ったようだった。
・・・・・なるほど面白い。
「もっとやってあげようか?」
「くっくく・・・やめてくれ・・・笑いをこらえるのが大変なんだぞ・・・くくく」
「ほれほれ~」
「や、やめ!!」
「ほぅ、面白そうだな私にも見せてくれ」
「いいよ、ほらこう・・・・・」
この後2人とも回数忘れるぐらい出席簿でたたかれた。
なんだか色々、あったけど初日って言うこともあり、
あっという間に授業は終わり放課後を迎える。
壇上では、織斑先生ともう一人、おっとりとてどこかドジっ子そうな小柄な山田先生が立っている。
どうやら担任が織斑先生で、山田先生は副担任と言う立場らしい。
織斑先生よりも、温和で近寄りやすい山田先生はすぐに女子たちと打ち解け楽しそうに話に参加している。
まぁ織斑先生は、あのモンドグロッソの優勝者だもんねぇ。
いくら担任とはいえ、気易く話しかけられないよね、呼ばれでもしない限り。
「おい、サウスバード」
そんなことを、思ってるからか、呼ばれたよ。
僕は、これ以上出席簿でたたかれたくないので、素早くそれに反応した。
「なんでしょう?」
「お前の制服の件だ。一時間目の終わりにサイズを聞いただろう?
あの後すぐに発注をかけた。今日の放課後には上がると言っていたからな、受付まで取りに行くように」
「わかりました、ありがとうございます」
「では、山田先生そろそろ」
女子と話に花を咲かせていた山田先生を呼び、教室を出ていく。
注目すべき対象が居なくなった女子達の眼は、必然的に転校生の僕に向くわけで。
不思議だったんだよね、今の今まで何も聞かれなかったことが逆に。
まぁ・・・・聞いてほしくもないけど。
一瞬の静寂の後、ワッと一斉に僕を取り囲む。
「ねぇねぇ!アルディ君もIS持ってるの?」
「そんなことより、あたしは趣味とかそっちのが聞きたいなぁ~」
「アメリカってどこ!?」
・・・・ちょっと思ったけどこのクラスに一人おかしな子がいるようだ。
まぁいいや、ふぅ。
「僕は持ってないよ、候補生でもないしね」
「持ってないの?織斑君は持ってるよ?ねぇ、織斑君」
「ん?いやまだ来てないって」
苦笑いして女の子のパスを上手く受け流す。
来てないってことは、あれか。もうすぐ来るってことか。
ふぅん。
で何だっけ。
「趣味はカラオケかな、と言っても邦楽ばかりだけど」
「え!?日本の曲歌えるの?」
「違うわよ、アルディ君から見て邦楽だから洋楽に決まってんでしょ」
あぁそっかと頭をかく女子。
まぁよくありがちな間違いだろうか。
それで最後の質問は。
「アメリカは、海を挟んだ日本の隣の国だよ」
「おぉ!分かりやすい」
「ん?んん?隣??海、あぁ太平洋ね・・・隣って言うには離れ過ぎてるような」
「でも隣でしょ」
「隣って言うならハワイとかじゃないの?」
「ハワイだって立派なアメリカの州の一つさ」
「そりゃそうだけど・・・・?」
「いやだけど隣ってねぇ」
「いいじゃん分かりやすけりゃ何でも!」
・・・・・ふぅ、ま、こんな感じで良いかな。
最後のあの抜けた質問のおかげで、その場を少し混乱させることに成功した僕は、
そんな彼女達を後目に教室を後にし、受付へ制服を取りに行った。
・・・・・まさかここまで受付へ行くのがサバイバルとは思わなかった。
それほど距離もないはずなのに、なんであんなに女子が・・・。
僕はパンダ?
いいえ、ケフィア・・・・でもありません。
・・・これなんのCMだったかな。ま、いいや。
僕は制服を持って一夏に教えてもらった、男子用のトイレで着替えを済ます。
割とサイズは適当に言ったんだけど、あながち間違っていなかったようだ。
丁度いいサイズだね。
着替えを制服の入っていた袋に入れ、教室に戻り片隅に置いてあった旅行鞄にしまう。
そして立ちあがって振り向くと、そこには綺麗な金色のロングヘアーをたたえた
いかにも気品あふれる女子が立っていた。
「・・・・あの、何か?」
「あなた、ひょっとしてあのローラ・サウスバードの弟ではありませんこと?」
ん?この人僕の姉を知ってるのか。
まぁそこは、嘘をつく必要もない、素直に肯定しよう。
「そうだけど」
「やっぱり」
その女子は、納得したようにうなずくとゆっくりとこちらを見やる。
「あの、いい加減自己紹介お願いできるかな・・・」
「・・・・・私を知りませんの?」
いきなりジト目でこちらを見てくる。
外見はお嬢様なのに、その目とのギャップが凄い。
「あぁ、知らない」
「全くあの男といい、あなたといい私を知らないなんて、許されることではありませんわよ!」
「いや、そう言われても知らないものは・・・知らないし」
「あ、あなたねぇ・・・・・・」
ジト目を通り越して、目元が真っ暗で怒り心頭のオーラがあふれ出している。
そこまで自分を知ってなきゃ怒ることなのか?
「よろしいですこと?私は入試主席にしてイギリスの代表候補生・・・」
「セシリア・オルコット?」
「そう、私はッ・・・!?」
「間違えたかな?」
多分僕は何も間違ってないと思うけど。
相手のハッとする顔が実に面白い。
そしてそのあと必ず決まって、なぜ知っているのかという顔になる。
本当に楽しい。
「あなた、なぜ!?」
「いやだから、セシリアであってるんでしょ、名前」
「そう言うことではありません!あなた先ほど知らないと・・・・・・・嘘ですのね」
激昂を途中で区切り、一気に声のトーンが下がる。
怒りのボルテージも頂点を突破すると
誰でも、ドスの効いた低い声で相手を威圧するのはどこの国でも変わらないね。
僕はフフッと口元を緩め、首をわざとらしく傾ける。
「やはり、あの人の弟だけありますわね」
「褒め言葉だね」
あの人とは、言わずもがな姉さんのローラ・サウスバードだ。
姉さんは担任の織斑千冬が優勝した第一回モンドグロッソで大会総合二位に輝いている。
功績だけ見れば非常に輝かしいものだが、その闘い方から、地元アメリカのメディアは
実力を認めながらも、姉さんをこう揶揄した。
〝Rola of betrayal〟(裏切りのローラ)〟と。
裏切りは言い過ぎだが、一言で言えば嘘つきなのだ。
言葉巧みに相手を、惑わせて時に卑怯とも撮れるような闘い方。
それが姉のスタイルだった。
だからセシリアが、さっきああ言ったのは、何も間違っちゃいない。
僕も同じようなものだからね。
「ふん、まぁ良いでしょう。私は寛大ですから。名前を知っていただけでも許して差し上げましょう」
「別に怒られてないんだけどね、僕」
「・・・・まだそんな事言いますの?」
「別に?」
「・・・・・良いですわ。今度クラス代表を決めるために、
あの男とアリーナで決闘しますの。あなたも参加なさい?」
「・・・・なんで」
「そのふざけた態度叩き直して差し上げますわ」
「君、代表候補生でしょ?」
「それがどうしましたの?」
「残念だけど、やめとく」
だがその返答は予想していた、というよりもそう帰ってくるのが当然と思っていたのか、
フフンと鼻を鳴らし、腰に手を当てあたかもモデルのようなポーズで、嘲笑を含んだ笑みでこちらを見やる。その目は完全にこちらを見下していた。
「フフフ、まぁそうでしょうね。少なくともこれであなたがあの男よりも、
利口だと言う事は分かりましたわ。あの男私に向かってハンデはどうすると言ったんですのよ?」
あの男・・・十中八九一夏だな。
代表候補生相手にハンデか・・・・。
流石に自殺行為だね。
「まぁ良いですわ、今回の件は、不問として差し上げましょう。
観客席から、あの男がボロ雑巾になるのをとくとごらんなさい」
・・・・今思ったけど、結構口が悪いね彼女。
にしてもそんな面白そうな事があるんだねぇ。
「ま、とくと見学させてもらうさ」
僕はセシリアとの会話を切り上げ、受付で制服と一緒に貰った、部屋割表を見ながら寮へと足を進めた。
さて・・・・これからどうするかね?
カタカタと、キーのタイプ音が響く薄暗い研究室。
ここはアメリカのカリフォルニア州にあるとあるISの研究開発局。
「うん、そうねここはこのまま・・・こっちの数値をもう少し何とか出来ない?」
「分かりました、ちょっと考えてみます」
技術者に意見を求められ、それに的確なコメントを返す深緑の瞳の女性。
ローラ・サウスバード。
ローラはデスクに腰かけると、何もない空中に目を泳がせる。
・・・・・あの子ちゃんとやってるかしら。
別に弟を信じていないわけではないが性格が、あたし似というのが気になる。
まぁ自分の性格は一番誰よりも自分が知っているが、だからこそなのだ。
浮いてなきゃいいけど。
そんな事を考えていると、いきなり右頬を、冷たい感覚が襲う。
「きゃっ!」
「あら、意外に可愛い声出すのね、さすが鳥さんね」
あたしは声の方向を見やると、あたしと同じように綺麗な金髪の女性がコーヒーを持って悪戯そうな笑みを浮かべていた。
「もう、ナターシャ・・・」
「アドバイザーがボケっとしてるからよ、ほらコーヒー」
あたしはナターシャに言われるがままに、コーヒーを受け取る。
そのコーヒーを、裏返してあったコーヒーカップに移し、砂糖を入れる。
「ブラック飲めなかったかしら?」
「あたしは、微糖派なのよ」
「・・・・・それもお得意の嘘かしら?」
「あら、なんの事?」
あたしはおどけてみせたが、ナターシャにはお見通しの様だ。
「この前ブラック飲んでたじゃない。私がそれを見逃すとでも?」
「フフッ、ISのテストパイロット様ともあろうお方がそれは無いわね」
互いに軽口を言いあい、少しの静寂の後ナターシャが、口を開いた。
「・・・・気になってるのかしら、アルの事」
「まぁ、あの子の事だから大抵の事はスルスル蛇みたいに抜けるでしょうけれど、性格がねぇ」
「ローラ、あなたがそれ言えるの?」
「それはそうだけど」
間髪いれず、ナターシャの突っ込みが入り苦笑いが止まらない。
そう言えば、ナターシャは昔からアルディをアルと呼んで可愛がってくれていた。
ありがたいものだ。特にあたしがモンドグロッソで長期間アメリカを離れていた時には、
アルディを預かって面倒を見てくれた。
「ふふ、にしてもあのアルが、もう高校生で更にISを動かせるとはねぇ、やっぱり素質なのかしら」
「どうかしら、別にあたしはただの口が達者なだけのお姉さんだから」
「それも嘘ね」
フフッとまた悪戯っぽい笑顔を残して、その場を去るナターシャ。
なんだかんだいってアルディを心配してくれているようだ。
ローラは目の前にある一機のISを見やる。
青色にオレンジのラインの入った非常に無骨なフォルムに、
大きな多用途リアスラスターが目を引くIS。
ほぼ完成段階に入っていて、現在は使用者のパーソナルデータなどをインストールしているため、多くのケーブルが接続されている。
それを見て優しくローラは微笑むと、ゆっくりと瞳を閉じた。
・・・・頑張りなさいよ、アルディ。
あなたは、〝世界第二位のお姉さんの弟〟なんだからね。
今思ったんですが、この小説50数話あるんですが結構大変ですね。
とにかく頑張るしかないですが…。
それではまた次回お会いしましょう