IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~   作:のろいうさぎ

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第19話~それがお前の強さだな?~

聡也とロッソの騒ぎを聞きつけた教師陣が、緊急で正式な模擬戦と定めたため

先ほどの様な混乱は解消し生徒も皆アリーナの観客席に座って観戦している。

そして僕とセシリー、鈴の三人は織斑先生に無理を言って管制室に入れてもらった。

管制室では山田先生の代わりに、榊原先生がコンソールの前に座って

ヘッドギアをつけている。

織斑先生は相変わらず、腕を組んで仁王立ちだ。

「・・・全く、やっぱりガギの扱いは疲れる」

「まぁまぁ、織斑先生ぼやかないぼやかない。

それに、一条君とロッソさんのISの稼働データも取れるじゃないですか」

榊原先生は、カタカタと送られてくるデータを処理しながら織斑先生をなだめる。

織斑先生はフンっと鼻を鳴らすとモニターに目をやる。

それにつられるように僕たちもモニターに目を移した。

そこには激しい攻防を繰り広げる二機のISの姿。

・・あ、片方はISじゃないんだっけ。

織斑先生は聡也を目を細めてじっくりと見た後、僕たちに声をかけた。

「お前たち」

「はい?」

代表するかのように僕が答える。

セシリーも鈴も急に呼ばれた事に少し驚いたのかキョトンとした顔をしている。

「一条のIS・・・・似ているな」

流石は織斑先生。

すぐに分かちゃったね。

僕はそれに静かに首を縦に振る。

「何かあいつから、あのISについて聞いているか?」

「「「・・・・・・」」」

一同気まずく下を向く。

いくら織斑先生にとはいっても、IS-Nの事をすんなり話す気になれなかった。

確かにまだ聡也を疑っていないかと言われればそれはNOだ。

多少なりとまだ警戒している部分はある。

それに今回の事だってそうである。

何の理由で風紀委員ともめごとを起こしているのかもわからない。

〝はなから疑ってかかるのはもうやめないか〟一夏の声が頭の中で響く。

・・・・。

だから僕はまだこの事を話すときじゃないと判断して、勤めて明るく織斑先生に答えを返した。

「あはは、それが僕たちは何も。それに聡也のISだって初めてみましたし」

「・・・・ん、そうか」

織斑先生は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに視線をモニターに戻した。

・・・なんとかなったかな。

チラッとセシリーと鈴を見やると、二人揃って小さくグッと指を立てていた。

う~ん・・・なんて見事なポーズの一致。

「ねぇセシリー、鈴。前の大会の時にふと思ったんだけど君たちって仲良いの?」

「何を言いますの、それはつまりこの私の事を知らないような

無知な方と同じレベルに見られてるってことですの!?」

「そーよ、こんな腹黒いのと一緒にしないでよねッ!」

「黙って見てろ!!」

二人同時に殴られて、二人同時に頭を抱える。

・・・・仲良いじゃん。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

っく、予想以上に!

聡也は汗とそして冷や汗を一緒にかきながら、必死にロッソの攻撃を避け続けていた。

ロッソのISは〝ペルフェッド・エスダーテ〟。

日本語訳は〝完璧な夏〟

その名の通り、一撃は軽いものの総合的な火力という面では中々のものだ。

搭載火砲はさほどでもないが連射力が半端じゃない。

それに加えて、伸縮自在の蛇腹剣〝テンポラーレ〟の不規則かつ変則的な攻撃に

聡也は攻めあぐねていた。

〝ホワイトアウル〟の搭載されている武装はすべてが射撃武器。

 

近接戦闘では〝打鉄〟にすら勝てない出力では使えない近接武器を搭載するよりも

使える射撃武器をという考えだが、いかんせん連射力に圧倒的な差があった。

構える前に、左腕に搭載された攻防複合兵装防盾〝パーチェ・ディフェーサ〟の

内臓バルカンによって荷電粒子砲が反らされてしまう。

「ほらほらぁ、もっとあたしを興奮させてくれよ!!」

ロッソの〝テンポラーレ〟が聡也を襲う。

蛇腹剣は、通常の剣とは違いその機動がきわめて不規則。

言ってみれば鞭に刃が取り付けられているようなものだ。

・・でも、いくら蛇腹って言ったって、振り下ろしてくる方向だけは絶対に一方だ。

しっかり見切れば!

聡也は刃の動きを凝視し、それをなんとかかわすがロッソはニヤリと笑うとその方向へ

〝テンポラーレ〟を払う。

「何!?」

「甘めぇよ、プロセッコより甘々だぜ!!」

「っと、うわっ! ぷ、プロセッコは特に甘いお菓子じゃないでしょ!」

ちなみにプロセッコとはイタリアの伝統的な菓子パン、パネトーネの一種。

生地に練り込む干しブドウを「プロセッコ」というワインに漬け込んだ風味豊かな逸品だ。

ちなみに、パネトーネとはイタリア語で〝大きなパン〟って意味らしい。

――――――――って、そんな事言ってる場合じゃなかった!

ロッソの払った〝テンポラーレ〟は、腕の動きに機敏に反応して向きを変える。

その動きはまさに、獲物の喉に食らいつく獰猛な蛇そのものだ。

とっさの事に反応しきれず、完全に避ける事の出来ない聡也は〝テンポラーレ〟が

直撃する瞬間、荷電粒子砲を自分の前に付きだす。

突き出した荷電粒子砲を〝テンポラーレ〟が切り刻み残っていたエネルギーが大きな爆発を起こす。

そして爆風で一瞬両者が見えなくなった。

「あんだと!?」

聡也はその、素っ頓狂な声を聞き洩らさなかった。

素早くバックパックからレールガンを取り出すと、

声のした方向へ迷わず引き金を引く。

「ちっ!」

「離すのが好きなのは良いですけど、おしゃべりしすぎるのも考えものですね!」

反撃らしい反撃には出れたものの依然として、距離がある。

本来なら射撃武器オンリーの〝ホワイトアウル〟は、

このぐらいの間合いが一番戦いやすいのだが・・。

思った以上にあの蛇腹剣が厄介ですね。

しかも長さの割に、かなり手元の操作に機敏に反応してくる・・。

まさか振り下ろした後に軌道を変えられるとは。

それに・・。

聡也は撃ちながらチラッとバックパックを見やる。

とっさの判断でなんとか直撃は待逃れたが、

一番威力のある武器の一つを失った事は痛い損失でもある。

仕方がない・・・。

下手に間合いを取って蛇腹剣に苦戦するぐらいなら、こっちから間合いを詰めてやる!

聡也は、レールガンをそのまま撃ちながら、一気に間合いを詰める。

しかし、それをさせまいとロッソはバルカン砲を掃射し、聡也を牽制する。

「おしゃべりがなんだってぇッ!」

「こんなもので!」

「ッはぁ! 良いね良いね、その面ぁ、ゾクゾクしちまうだろうがぁ!!」

ロッソは頬を赤く染めながら興奮気味に、バルカン砲と小型の荷電粒子砲を撃ち続ける。

聡也は、削られていくシールドエネルギーとにらめっこしながら、

最適なルートで被弾を最小限にとどめ、間合いを詰めながらチャンスをうかがう。

・・・流石に今の火力じゃ落としきれないけど・・。

至近距離の一撃なら追撃の足がかりにはなるはず。

それには、あの蛇腹剣を相手に振らせる必要がある。

距離が離れているから、動きが読みづらいんだ。

近くならその動きもまだ単調なはず。

そしてロッソが蛇腹剣を振り下ろしたその時

聡也にとって最大のチャンスが訪れるのだ。

「ほらぁ、次はコイツだぜ!!」

よし、貰った!

ロッソは〝テンポラーレ〟を振りかぶるとそれを素早く振り下ろす。

聡也はその刃に沿うように飛び、一気に正面に躍り出た。

その流れでロッソにレールガンと荷電粒子砲を向ける。

「この距離ならはずしませんよ?」

「てめっ!?」

未だに〝テンポラーレ〟を振り切った状態でとっさに反応できずに、ロッソは焦りの声を挙げる。

・・・・・わざと。

ロッソは口角を釣り上げ不気味に笑う。

「・・・なーんてなぁッ!蛇腹剣ってのは、

こういうこともできんだよ、馬鹿がッ!!」

叫び、手を素早く払うと先ほどまで伸びていた〝テンポラーレ〟が瞬時に収縮し

、日本刀程のサイズに変わる。

このサイズなら、敵が至近距離に居ようと関係ない。

いやむしろその距離こそ間合いだった。

聡也は、無理やり右側のスラスターを噴かして

機体を正面から逸らそうとするがそれよりも、ロッソの〝テンポラーレ〟の方が早かった。

「ぐうッ!」

ほぼ真正面から、〝テンポラーレ〟を食らった聡也は衝撃で真下へ飛ばされる。

そこへ再び、蛇と化した〝テンポラーレ〟が襲いかかる。

体勢すらままならない聡也はまともに反応することすら出来ず、蛇の猛攻に捕らわれてしまった。

繰り返し訪れる身を切り刻む痛み。

衝撃に耐えられない〝ホワイトアウル〟の装甲が次々に破壊されていく。

こ、このままじゃ、負ける!

負けたら意味がない。

ここで負けたら、全てが水の泡だ。

勝たなきゃ。

・・勝つんだ!!

聡也は、〝テンポラーレ〟で弾かれたボロボロの機体を次に襲い来る〝テンポラーレ〟の軌道に合わせて反転させる。

「はッ! だから無駄なんだって、こいつの反応速度はもう見て知ってんだろーが!」

ロッソは聡也に合わせて“〝テンポラーレ〟の軌道を修正する。

「こんな物ぉ!!」

聡也は当たること覚悟で〝テンポラーレ〟へ向かって跳躍する。

そこは本来なら直撃コースだったが、〝ロッソが軌道を変えたおかげでできた〟一瞬だけ開く突破口。

聡也は右足の先を持っていかれながら、そこから脱出して持っていた砲を一度バックパックへ戻す。

・・・砲は三門。

しかも機体はパワーアシストが弱まってきてる。

〝アレ〟の直撃後に装弾数全部を当てきれば・・ギリギリ何とかなるか!?

聡也はバックパックのロックをリリースし、軋みを上げる機体と身体で宙を回る。

フリーになった砲が全てバックパックを離れて、くるくると宙を舞う。

それを見て何かを感じたロッソが今度こそ本当に焦りの声を上げた。

「な、何しようって・・!?」

「すいませんね。少し火力不足かもしれません」

「訳分からねぇことを!

何するか知らねぇが、させっかよ!」

聡也は一度ゆっくりと瞳を閉じて、集中した後カッと目を見開いて叫んだ。

「獅哮閃!」

ロッソは〝テンポラーレ〟を振るうが、

それが聡也に直撃する前に身体に強烈な痛みが走った。

〝獅哮閃(しこうせん)

本来は〝ホワイトアウル〟の四門の砲を使って行う

瞬時多目的射撃(マルチロックシュート)で、最大八機まで一度に攻撃ができる。

バックパックのロックを全て解除し、

ラックしていた砲を急速な旋回によって目標方向へリリース。

それを聡也が落下する前に“アブソリュート・ターン〟を

駆使して全ての引き金を引くという曲芸のような技だ。

ちなみに目標の数によって旋回の仕方は異なるが、

目標が一つの場合は一般的に宙返りを行う。

セシリアの時のように。

いくら、万全の状態では無いとはいえ三門でも威力は低くない。

直撃を受けたロッソはこの試合初めて、後方へ吹き飛ばされた。

「くっそ、この!」

「まだまだいきますよ!!」

そこからはもう聡也のターンだった。

レールガンと荷電粒子砲の残弾数すべてをロッソに向かって撃ちまくる。

ロッソは、すばやく反応して〝パーチェ・ディフェーサ〟のシールドを展開するがそれよりも早く

聡也のレールガンが、展開装置ごと〝バーチェ・ディフェーサ〟を切り刻む。

それと同時に〝バーチェ・ディフェーサ〟が装着されていた左腕が爆散した。

「うあッ!!」

苦悶に表情をゆがませるロッソ。

だがそれでも聡也は射撃をやめない。

ガキンッ!

レールガンから残弾の尽きた音がすると聡也はレールガンを投げ捨て

もう一門のレールガンに取替えまたトリガーを引く。

それからすぐに荷電粒子砲のエネルギーが底をつくと、

レールガンを乱射しながらロッソに肉薄する。

その一発一発がロッソの機体の、腕を、脚を、スラスターをそして武装を、

そのすべてを破壊していく。

そして聡也が肉薄したころには、すでに〝ペルフェッド・エスダーテ〟は

戦闘はおろかPICで空中に浮かんでいることすらままならないほどボロボロになっていた。

「これで、終わりです!!」

「う・・・あっ・・」

勢いの死んだ虚ろな目でこちらを見やるロッソに向かって聡也は、

肩を一発レールガンで弾き仰向けになった所へ、残っている左足の踵を振り下ろした。

ズガァァァァァンッ!!

大きな砂煙を巻き上げ、アリーナの地面へ叩き落されるロッソと〝ベルフェット・エスダーテ〟。

ロッソはまだ、かすかに残る意識で地に伏したまま片手を伸ばすが、

すぐに力なくその腕を地にたらした。

それを確認して聡也は、勝利を確信してホッと胸をなでおろす。

 

しかし、次の瞬間先ほどとは比べ物にならないほどの大きな砂煙と共にアリーナが揺れた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

管制室へも、アリーナの異常はすぐに伝わった。

何が起こったのかわからず唖然として砂煙で一時ブラックアウトしたモニターを見つめる僕たちと

対照的に織斑先生は、険しい表情で榊原先生に指示を飛ばしている。

「何だ、何があった?」

「まだ、モニターが回復してませんからわかりませんよ!」

そこへ、真っ先にわれに帰ったセシリーが声を挟んだ。

ここら辺の頭の切り替えの早さはやはり代表候補生だろう。

「生徒の、避難状況はどうなっていますの!?」

「それは大丈夫みたい、今のところシステムへのハッキングは無し。

ロックも何もかけられていないわ」

「よし、榊原先生。現場の教師陣に生徒の避難誘導の指示を!」

「わかりました」

織斑先生は言い終わるとチラッとセシリーと鈴を見やる。

「凰、オルコット。事と次第によってはお前たちに、

対処に当たってもらうことになるかもしれん。ピットへ行って準備しておけ」

「はい!」

「わかりましたわ!」

力強くうなずいて管制室を後にするセシリーと鈴。

僕は、自分自身が出て行けない悔しさと不安を押し殺しながらセシリーを呼び止める。

「セシリー・・その」

「大丈夫ですわ、こう見えて私・・」

「強いんですのよ?だっけ」

僕は、茶化すように言う。

それにつられてセシリーの顔にも笑みが浮かぶ。

「ウフフフッ、えぇ私は代表候補生ですもの」

「あぁそうだね。・・・・・・本当は、

僕も・・・出られれば良いんだけどね」

そんなセシリーの笑顔を見ていると思わずポロッと本音が零れ落ちてしまう。

あの時みたいに、セシリーを信じていればいいだけなのに。

それがたまらなくもどかしい。

それに何より、ラウラの時セシリーは勝ちはしたがボロボロになった。

そしてもしかしたら今回も。

そんな不安が頭を離れない。

どうやら、みんなが言うように僕にはポーカーフェイスは無理らしい。

だってついさっき、悔しさと不安を押し殺そうって決めたばかりなのに、

もう恐らく表情に表れてしまっている。

「・・・フフッ、アル?」

「ん?」

名前を呼ばれて、顔を上げると指をピストル型にしたセシリーの人差し指が

僕の眉間に狙いを定めていた。

「バーン!」

「え? せ、セシリー?」

セシリーの行動の意味を理解できず、頭に疑問符を浮かべる僕に

セシリーは優しく語りかけた。

「今ので、アルは死にましたわ」

「はい?」

「だから、今ので不安そうなアルを殺したんですわ。

だから今、目の前にはいつもどおりのアルが居る。私を信じてくださるアルが・・」

一瞬きょとんとしてしまうが、その後すぐになぜだか笑いがこみ上げてきた。

「何を笑っていますの! け、結構その・・・本気でやりましたのに」

「いやいや、あはは、なるほどセシリーからそんな言葉が飛び出すと思わなかったから」

「もう、失礼ですわね!」

プイッと顔を背けて足早に部屋を出て伊湖とするセシリーをあわてて呼び止めた。

「あぁ、ごめんごめん。いや・・そのちょっと驚いちゃって・・。

でもありがとう。そうだね、僕にこんな顔は似合わない」

セシリーはこちらを振り返ってクスリと笑う。

「えぇ、そうですわ。あなたは笑っていませんと・・・ね?」

ハハハッ、セシリーに励まされるとは思わなかったなぁ。

・・・そう、そうだ。

人生は楽しくなくちゃいけない。

変に不安がるのは楽しんでるとはいえないしね。

フフフッと笑うセシリーを織斑先生がせかし、セシリーは今度こそ管制室を後にする。

僕はその後姿を、信頼のまなざしで見つめていた。

その後ろでは、織斑先生と榊原先生がヒソヒソと声をひそめて話をしていた。

「・・・まったく、行けといったらすばやく行かんか。ばか者が」

「織斑先生、まぁまぁ。おかげでいいもの見れたじゃないですか」

「ガキ共のノロケを良いものというのか、榊原先生?」

「本当は、織斑先生も織斑君にああいうこと、したいんじゃないんですか?」

ニヤニヤと笑う榊原先生に、織斑先生は無言でコーヒーを淹れ始める。

もちろん塩を大匙で三杯ほど入れた、ある意味スペシャルブレンドだ。

それを榊原先生の前にこれまた無言で置く。

山田先生なら引きつっていただろうが、榊原先生は別段いやな顔ひとつせずに受け取り

静かに黒い液体に目を落とす。

そして。

「ほっ!」

「むぐっ!?」

おぉ、すばやい手つきで織斑先生の口にコーヒーを流し込んだ!?

・・・この人、すごい。

その後榊原先生が、正当な理由で織斑先生に殴られたのは言うまでもなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

砂煙が時間と共に晴れていく。

聡也は、ボロボロのハイパーセンサーで砂煙の奥を凝視する。

なんだ・・・。一体何が降りて・・・・!?

聡也は、ハイパーセンサーが送ってきたその映像を

見なければよかったと後悔し、そしてその状況に絶望した。

そこにいたものそれは・・・。

「・・・・・失礼します」

聡也と〝ホワイトアウル〟とほぼ同じ形スペックを誇る黒い翼。

「ブラック・・・・・アウル・・・」

驚きに呆然としながらも、聡也は静かにその名を口走る。

〝ブラックアウル〟はこちらに砲を向けバイザーで隠され目は見えなかったが

口元は不気味に笑っていた。

「・・・何をしに来たんです?」

聡也は、声のトーンを落としてたずねる。

〝ブラックアウル〟は砲をおろさずにその問いに答えた。

「・・・・ちょっと、鉄くずを作りに・・・・ですかね?」

その瞬間、〝ブラックアウル〟の荷電粒子砲が火を噴いた。

聡也は、それをスラスターを噴かして回避するが、

はっきり言ってただ飛び上がるだけでもかなり厳しい。

PICがかろうじて生きているとはいえ、右足を失ってバランスをとるのが困難だ。

それに今、スラスターを噴かしてわかったことがある。

それは感覚的なものだったが、次にモニターに表示された文字が

感覚という不確かなものに、証拠という確かなものを上乗せする。

「右スラスターの内圧弁制御不良!? ・・・:・・・あのときのか!」

そこは聡也が、前に修理していたところだった。

結局直しきれずに、そのままにしていた箇所がこんな時に泣きを入れてきたのだ。

故障箇所は内圧弁。

つまり今右スラスターは、全開か停止そのどちらかしかできない。

細かな調整が不可能ということ。

「これぐらいなら通常飛行に問題はないけど・・・・もっと最悪なのは・・」

聡也は自分の背後のバックパックを一瞥して舌打ちをする。

そう、いまの聡也には武装が何ひとつ残っていないのである。

さらに全ての火力を最大稼動の状態で打ち続けたため、シールドエネルギーよりも

本体のエネルギーは残っていない。

こうして逃げ続けてはいるがいつまで耐つかは、正直わからない。

ただ、どっちにしても長くは持たないだろう。

「フフフッ、今の君はもうすでに鉄くず同然だから・・・

スクラップのほうが似合ってるかな!」

〝ブラックアウル〟の砲はは正確に聡也を捕らえ、

そのうちの一発が聡也のメインスラスターを直撃する。

大きな黒煙を上げ、爆散するスラスターユニット。

推力を失い、そしてその衝撃で完全にPICが死に、アリーナへ墜落する。

ドシャアァァァァッ!!

「うわあぁぁっ!!」

「・・・もう少し抵抗があれば、よかったですけどね」

うつぶせに、アリーナの地面に横たわる白き翼を黒き翼が狙う。

〝ブラックアウル〟はすでに勝ち誇ったような口元の笑みを浮かべていた。

もう、パワーアシストすら切れ身体に〝ホワイトアウル〟の装甲の重さが

あたかも今、身に降りかかっている絶望のようにのしかかってくいる。

〝ブラックアウル〟が今まさに、トリガーを引こうとしたとき、

不意に何かに気がついてある方向を振り返る。

「そんなに抵抗してほしいなら、あたしたちがしてあげるわよっ!!」一本に連結した〝双天牙月〟が〝ブラックアウル〟を襲い、それを下へかわしたところに

〝ブルー・ティアーズ〟のビットと〝スターライトmkⅢ〟が狙う。

「弱いものいじめは関心いたしませんわね・・・。あ、すいません。

今私たちがやっていることでしたわッ!」

セシリアは軽口をたたいて〝スターライトMKⅢ〟

で荷電粒子砲を弾くと続けざまにビットで追撃する。

「セ、セシリア、それに鈴・・」

何とか重い身体を引き起こし、二人を見上げる聡也へ両者が語気を強めた。

「あんたねぇ、ボケッとしてないでとっとと避難しなさいよ!」

 

「あのISのお相手は私達が引き受けますわ!」

 

聡也はそれを聞いて、軋む機体を引きずりながら立ち上がる。

どうやら、クローズ機構まで壊れたようでこの場で待機状態に戻すことは不可能のようだった。

キシキシと軋む音が、身体なのか機体なのか分からないが聡也はとりあえずアリーナのピットの死角へ移動することにした。

移動しながら空を見上げると、“ブラックアウル〟がセシリアと鈴を相手に大立ち回りを演じている。

・・・せめてもう少し、僕に実力があれば。

そんな後悔が頭をよぎる。

でもまぁ大丈夫だろう。

直に増援もやってくるだろうし、それまでセシリアや鈴が落とされるとは考えにくい。

そう大丈・・・・え!?

安堵し、セシリア達から視線を逸らしかけた時、

〝ブラックアウル〟の片方の砲が明らかにセシリア達とは違う方向を向いていることに気がつく。

そしてその先を、目で追うとそこには未だに気を失って倒れているロッソがいた。

まだ〝ペルフェット・エスダーテ〟を展開しては居るが、

聡也の攻撃によってシールドエネルギーはゼロだ。

あんな無防備な状態で、〝ブラックアウル〟の荷電粒子砲を食らったら本当に不味い!

 

『あ・・ね! 笑って・・・ザッザザ・余裕じゃ・・い!』

ギリギリ生きているオープンチャネルから、ノイズ混じりに鈴の声が聞こえる。

どうやら笑っているらしかった。

これは、いよいよ不味い!

聡也の目が〝ブラックアウル〟の荷電粒子砲に光が集まるのを確認する。

このままでは、目の前でロッソが!!

聡也は、機体のステータスをモニターで確認する。

モニターもノイズ混じりで見にくかったが、たった一度分のスラスター噴射は可能のようだ。

だがそれをしてしまうと、いくらロッソの前に入れてもシールドすら展開できない。

しかし聡也はそんな考えをかぶりを振って消し去ると、迷い無くスラスターに火を入れた。

僕の都合で巻き込んで、僕の都合で怪我をさせて、そして今度は僕の所為で死ぬなんて絶対にダメだ!!

聡也がロッソの前に両手を広げて躍り出たのと、〝ブラックアウル〟が砲を撃ったのはほぼ同時。

「しまった!? ってあんた何してんのよッ!!」

 

「下がりなさい! 無茶ですわ!!」

鈴とセシリアの叫び声が聞こえたすぐ後に、聡也は光と超高温の粒子にその体を包まれていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

唐突ではあるが、ロッソ・ミオネッティとはどんな人物なのだろうか。

イタリア生まれ。

代表候補生。

性格は無関心。

無表情で無口。

ISを展開すると性格が変貌する。

・・・・本当にそうだろうか?

 

ロッソは、イタリアの小さな町の出身だ。

幼いころから非常にISとの敵性が高かった彼女は、

早くから親と引き離され、次期代表候補生として

政府の保護観察のもとに置かれていた。

そのため、これと言った友人もおらず、

来る日も来る日も監視と検査の日々。

そんな生活の所為でロッソはどんどんふさぎこんでいってしまい

日常生活では、ほとんど話さなくなってしまったのだ。

そんな彼女が唯一自分を表現出来る場だったのが、ISを操縦している時であった。

そう、聡也との戦いのときに見せた気性の荒さこそ本来の彼女の姿なのである。

だが当時の政府はそれを精神異常と断定して次期候補から外し、

友人の居ない彼女を一方的に地元の学校へ強制編入させてしまう。

ISを使っていない時の彼女は、無口であるため結局卒業時まで

まったく友人ができなかった。

彼女にとって友人が出来ない事は既にもう苦ではなくなっていたが

自分の本当の姿を表現できるISをどうしても諦める事が出来ず、

彼女はその年にイタリアで行われたトーナメント形式の

代表候補選抜試験を受ける事にした。

結果は、断トツで優勝。

しかも中には専用気持ちも含まれていたにも関わらず、

当時のイタリア量産機テンペスタⅠ型を使用しての圧勝。

そのニュースはその日のうちにイタリア全土を駆け巡った。

政府もこの結果を受けて精神異常の断定を取り消し、

彼女を正式に次期代表候補として認定した。

そこからは、日常生活や交友関係に若干の問題を残しつつも

ISの成績は負け知らず。

それなりに順風満帆な生活を送っていた。

だが、ふと彼女は思う。

・・・つまらないと。

いつもいつも、自分は勝ってしまう。

既に当時のイタリアには彼女以上に強いIS操縦者は、

候補生の中にいない状況だったのだ。

だからこそ知りたい。

自分より強い相手を。

自分をより高めてくれる存在を!

彼女はそんな人物に憧れた。

そしてそのモヤモヤした気持ちを抱えながら

IS学園に、ほぼ強制的に入学させられる。

しかし彼女にとっては都合がいいことだらけだった。

周りにはごまんと、世界各国のIS操縦者がいた。

・・・・だが。

そのどれもが、期待はずれだった。

またも彼女は、つまらなさにその身をうずめる。

一体どこにいると言うのか。

自分よりも強い者は。

あたしはそれまで勝ち続けなければならない。

そう・・・勝ち続けなければ。

だってあたしは、強いのだから。

誰よりも。

 

 

それが・・・・このザマとはね。

ロッソは、焦点の合わない目をゆっくりと開く。

身体が重たい。

へへっ、パワーアシスト切れ、おまけにシールドエネルギー切れでガスも無ぇとは・・。

情けねぇ。

本当に情けねぇ。

しかも負けたの男だぜ?

ロッソは動かない身体で、上空の景色を眼だけ動かしてチラッと見やる。

あれ、なんで誰か闘ってやがんだ?

良く見えないが上空で三機ISが闘っているようだ。

その時一機のISが、こちらに向かって何かを撃った。

なんだ・・・何を撃って。

視覚ではとらえきれずとも、撃ったと言う事は何かしら

こちらに攻撃を仕掛けてきたという事だ。

対処したいが、どの道身体は動かない。

くっそ・・・こんな終わり方ってあるか?

ははっ、せっかく自分より強いかもしれないヤツ・・・見つけられたと思ったのにな。

ロッソが諦めて、力なく笑った時、目の前に真っ白い何かが躍り出た。

ドオォォォォォォォォォォンッ!!!

地に伏していたロッソにはそれが、まるで地震のように感じた。

その大きな音と、同時に顔に何か生温かい液体がかかる。

ん? んだこれ・・・。オイル?

ロッソはそれを手でぬぐい視線を向ける。

顔にかかった液体は、生温かくそして・・・・赤かった。

その色が感覚が、一気にロッソの頭を起こしていく。

同時に視力も回復して、ロッソはようやく状況を理解した。

「お前! 何やってんだ!?」

彼女が見たもの、それは彼女の前に前に立ちふさがって

迫りくる閃光から自分を守る一条 聡也の姿だった。

見ると、聡也のISはもう原形をとどめていない。

特徴的な四門の砲をラック出来るバックパックや、手、足、そして顔のバイザーまで

ほとんどが吹き飛びながら、彼はロッソを守っていたのだ。

「・・・なんで、お前」

なんで、あたしを守ってるんだ?

今日知り合ったばかりで、物の数十分模擬戦鹿してない相手を。

なんでお前は、守れるんだよ!

「僕の都合で・・・すいません・・」

聡也は全身の痛みに耐えながら力ない笑みを浮かべる。

「なんだよ、お前の都合って」

「それ、全部話してると・・・流石にきつ・・・いっ・・。

でもっ、一つだけ言えるとすれば・・」

すぐに聡也からその笑みが消え、苦痛に顔がゆがむ。

どうして・・・。

なんで。

ふと、その時。

その答えが分かった気がした。

あぁ、そうか。

そうなんだ。

〝コイツは、あたしよりも強いんだ〟

それが、答えだった。

見つけられたとか、強いかもじゃない。

そして予想は、聡也のたった一言で確信に変わった。

「僕にはっ・・・・くぅッ・・・・責任があります・・からッ」

・・・・責任ね。

そいつがお前の強さってわけかな。

ハハハ、オーケオーケ。

上等だ。

ロッソは、ゆっくりと痛みをこらえて身体を起こす。

そして、言う。

「少し、気張ってろ・・・・。お前は死んじゃいけねぇ」

そう、コイツは死なせるわけにいかない。

やっと見つけた、自分よりも強いやつだ。

それに、ロッソはなぜだかわからないが

それ以外にも彼を守りたいとおもう気持ちが芽生え始めていた。

・・・なんなんだ、この気持ち。

なんか・・初めて感じる。

不思議な感じだな、なんか妙に暖けぇし・・・。

・・・・・・あーもう!

今はそれどこじゃねぇだろ!

ロッソは、一時その気持ちを考えるのをやめ、ズタボロの愛機に視線を落とす。

息をひとつ吐くと、ロッソは心の中で愛機に語りかけた。

さぁて・・・もう少し頑張ってもらうぜ、〝エスダーテ〟?

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――――モード〝スフィーダ〟起動!」




ギリギリからの覚醒って素敵っすw
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