IS インフィニット・ストラトス~偽りの翼~   作:のろいうさぎ

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第20話~情熱の赤き闘士〝ロッソ・ミオネッティ〟~

モード・スフィーダ。

ロッソが叫んだその声は管制室にも届いていた。

ただそれが何なのか分からず僕は首をひねった。

「スフィーダ・・・?」

イタリア語だろうか。

意味は分からないけど。

つぶやいた声を織斑先生が拾い、腕を組みながら説明してくれた。

「スフィーダ。挑戦を意味するイタリア語だ」

「挑戦?」

何に挑戦するって・・。

そこへ榊原先生がコンソールに“ペルフェット・エスダーテ”の

スペック表を表示させながら会話に入ってくる。

「どうやら、スフィーダとはオーバードライブシステムの一種のようですね。

織斑先生、サウスバード君これを」

榊原先生は、画面を指差して僕たちをコンソール前に呼ぶ。

各種兵装一覧の中に、特殊兵装のタグをつけられて分類される〝スフィーダ〟の文字を見つける。

更に続けて、榊原先生がコンソールのキーを操作するとそのシステムの詳細が表示される。

「イタリアは、このシステムを情報開示してるんですね」

原則、IS学園には新技術の情報開示義務は無い。

だがイタリア製のこのISはご丁寧にも、機構まで図入りで説明がなされている。

気持ち良いぐらいの潔さだ。

それは織斑先生も同じ考えだったようで少し怪訝そうな顔を浮かべる。

「ふむ・・隠す必要がないのか、それとも他に隠したいシステムが有るのか・・・

まぁいずれにしても今はこのシステムだな」

「はい、コレによると“スフィーダ”はシールドエネルギー、

そして本体のエネルギーの二つの残量がゼロになって

初めて起動できるシステムのようですね」

「あぁ、通常のエネルギー回路とは別にもうひとつ独立したエネルギー回路を持つようだな」

織斑先生は言いながら、画面に表示される〝ペルフェット・エスダーテ〟の

左右スカート部に取り付けられた円柱状のパーツを指さす。

話の流れからして、おそらくそれが〝ペルフェット・エスダーテ〟の予備タンクなのだろう。

そしてそれを証拠づけるかのように、アリーナを映すモニターにはその左右のタンクを

スカート内部へ格納する姿が映っていた。

そしてその後すぐに、脚部や腕部ユニットの装甲の一部がはじけ飛び、

〝ペルフェット・エスダーテ〟から凄まじい量の排熱煙が上がる。

「そして・・・あの熱量はおそらく・・」

「ふむ、機体の限界値を一時的に高めているためにおこる各部の熱暴走を

ああして強制冷却しているんだろう」

なるほど。

そういうシステムなのか。

限界を超えて動けなくなったところでさらにその限界を引き上げて無理やり稼働させるシステム。

確かにその名の通り、自分の限界への〝挑戦(スフィーダ)〟ってわけね。

最後の切り札というわけか。

・・・・・でも。

僕はふと不安になる。

あの黒いIS。

前のときもそうだったように、紫色のIS〝紫燕〟と行動を共にしているはず。

なら今回も、タイミングを見計らって介入してくる可能性は大いにありうる。

いくらセシリーと鈴がいるとはいえ、切り札を今切ることに少し危なさを感じた。

まぁたぶんロッソの方は、そういう情報を知らないだけなのだろうけど。

僕はその旨を織斑先生に伝える。

そして織斑先生は頷くとそれをセシリーと鈴に伝えた。

「オルコット、凰」

『はい』

『なんでしょう?』

「前回のように〝紫燕〟の介入も予想される事態だ。

周辺警戒を怠らずに事態に当たれ。いいな?」

鋭い声にセシリーと鈴が、そろって了解と返す。

僕はその声を聞きながら、モニターを睨みつけていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・まだ動けたんですね」

〝ブラックアウル〟は冷たく言い放つ。

聡也は、ようやく終わった砲撃に

そしてロッソを守れたことに安堵しロッソの目の前で倒れている。

ロッソはやさしく聡也を抱きかかえると、そっとアリーナの側壁へもたれ掛けさせた。

・・・・あんがとよ。おかげで助かったぜ、少し待っててくれよな。

ロッソは聡也に向かって心の中でつぶやくと、〝ブラックアウル〟をゆっくりと睨みつける。

そして表情を変えず答えた。

「まぁな・・・」

「まぁ・・・・いいですけどね。どうせ鉄クズどうぜ・・・・・・ッ!!」

〝ブラックアウル〟が、言葉を言い終わる前に、何かに吹き飛ばされる。

「な、何、今の!?」

「ハイパーセンサーですら捕らえきれない攻撃なんて・・・」

鈴とセシリアもいまいち何が起こったのかを、理解できていない。

何せ弾丸の軌道ですら、確認できるハイパーセンサーで何が起きたのか確認できなかったのだ。

とっさに何が起きたのかを理解しろというほうが難しい。

皆が困惑するなか、たった一人。

その攻撃を行ったロッソだけが、不適に笑っている。

ロッソの手には、蛇腹剣“テンポラーレ”が握られていた。

それを見た〝ブラックアウル〟が苛立ちの混ざった声でロッソに叫んだ。

「くぅッ・・・それか!

でも、どうして反応がッ!?」

ロッソは〝ブラックアウル〟と同じ高度に飛び上がると言い返す。

「何をしたかをわかる必要は無ぇぜ・・四分後てめぇはアリーナの地に伏してやがるからなぁ!!」

「っく!」

ロッソは一瞬で間合いをつめると、ブラックアウルに拳を突き出す。

その拳を〝ブラックアウル〟は何とか受け止め一瞬安堵するが、

刹那機体もろとも吹き飛ばされてしまう。

「ありゃ、言ってなかったか? スフィーダにはスフィーダ専用の武器とかがあるんだよ!」

〝ブラックアウル〟を吹き飛ばしたものは、左手に内蔵されている〝ウラガーノ〟と呼ばれる

圧縮した空気を一気に打ち出す近接戦闘用の武装。

ちなみに名前は日本語で暴風を意味するイタリア語である。

急激なGと真正面からの強烈な衝撃に顔をゆがませながら、体勢を立て直そうとするがそこへさらに

ロッソが〝テンポラーレ〟で追い討ちをかける。

〝テンポラーレ〟は〝ブラックアウル〟のバックパックを砲ごと切り裂くとさらに返しの刀で

左側のスラスターをもぎ取る。

「馬鹿な!?」

信じられないという顔と声を上げロッソを見やるが、ロッソは追撃をやめない。

スラスターをもぎ取られ、バランスを崩した〝ブラックアウル〟を〝テンポラーレ〟で払い上げ

一瞬機体が浮いたところへ、回転の遠心力を利用した強烈な回し蹴りが襲う。

「おいおい、歯ごたえなくて困っちまうぜ!!」

こうして軽口をたたいているロッソだが、

その目はしっかり〝スフィーダ〟の残り稼働時間を確認している。

このシステムは、一時的に機体の限界値を無理やり引き上げ、

通常よりもはるかに高い機動力とパワーを引き出しているため

各部に尋常ではない負荷がかかっている。

つまり最大稼動時の、さらに上の出力を多くのパーツに負荷をかけながら

搾り出しているということだ。

そのため、最大稼働時間は戦い方にもよるが四分。

それを過ぎると本当の意味で活動限界を向かえ、今度こそ動けなくなる。

つまりその時間内にこのISを倒さないと、必然的に負ける。

相手が少しでも動けてもだめだ。

完膚なきまでに叩き潰す!

タイムリミットはあと百二十秒余。

まだ少し余裕はあるが、だからといって悠長に構えている時間はない。

「・・・ふざけるなっ!!!」

〝ブラックアウル〟もやられっぱなしというのは気分が悪いようで、

まだ残っている両手の荷電粒子砲でロッソを狙うが

トリガー引く直前思わぬ方向から砲を真っ二つに切断されてしまう。

驚愕の表情で、刃が振り下ろされた方向を見やるとそこには〝双天牙月〟を構えた鈴がいた。

「あたしたちも忘れてもらっちゃ困るわ!」

「この、お前も!!」

自信たっぷりに言う鈴に神経を逆なでされて、いよいよ頭に血が上った〝ブラックアウル〟が

鈴のほうへ、もう片方の荷電粒子砲を向けようとする。

だがそれは、与えてはならない隙を敵に与えてしまう行為でもあった。

「もらいましたわ!」

正確な二発の射撃が、構えかけた荷電粒子砲と残っていたスラスターを吹き飛ばす。

それに重ねるように四機のビットが〝ブラックアウル〟に驟雨のごとく射撃を浴びせ続ける。

「へぇ・・・・やるじゃねぇか。どこの誰だかは知らねぇがね」

思わず感嘆の声を上げるロッソ。

どうやらその声は、二人に聞こえていたらしく

耳がキーンとなるほどおおきな声で通信が飛び込んできた。

「あんたね、あたしを知らないっての!!」

「そうですわ!!鈴さんなどは知らなくても、よろしいですけど

私ぐらいは知っていませんと、お話になりませんわよ!!!」

「なんですってー!」

「なんですの!」

鈴とセシリアは、互いに罵り合いながらも〝ブラックアウル〟に攻撃を加えていく。

まぁなんとも、器用だなとロッソは苦笑いする。

そして残り時間がいつの間にか三十秒を切っていることに気がついた。

「そろそろ、決めるか・・・・!」

ロッソは〝テンポラーレ〟を元の一本の剣に戻す。

そして、〝外部に放出したエネルギーを内部へ取り込みなおした〟。

・・・そう。

これは〝イグニッション・ブースト〟の手順だ。

ロッソは体勢を低くして、〝テンポラーレ〟を構え、

内部で圧縮されたエネルギーを一気に後方へ打ち出した。

ドンッ!!

何かが炸裂したかのような大きな音の後、

爆発的なエネルギーは〝ペルフェット・エスダーテ〟を

一気にトップスピードまで持っていく。

〝ブラックアウル〟に肉薄したとき、ISのパラメータ画面が残り時間を告げた。

Liquida dieci secondi.

Io comincio a contare.

9 8 7 6...

(残り10秒。

カウントを開始します。

 9 8 7 6・・・)

 

Liquida cinque secondi(残り五秒)

「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ロッソは〝テンポラーレ〟を〝ブラックアウル〟の腕部にたたきつける。

手に鋼鉄を切る確かな手ごたえが伝わってきた。

その後ロッソは“ブラックアウル”を宙返りしながら蹴り飛ばす。回転しながら吹き飛ぶ先に鈴が〝双天牙月〟をもって待ち構えていた。

 

Liquida quattro secondi(残り四秒)

「カモーン♪」

鈴は〝双天牙月〟を両手に構え〝ブラックアウル〟の背面に一撃。

回転と逆方向への衝撃で回転の止まった〝ブラックアウル〟に

もう片方の刃で別方向へ弾き飛ばす。

「セシリアッ!」

 

Liquida tre secondi(残り三秒)

「お任せくださいな!」

セシリアは弾き飛ばされた〝ブラックアウル〟へ正確無比な射撃をビットで行う。

「人に挨拶するときは、被り物は脱ぐのがマナーでしてよ!」

セシリアはビットの攻撃で正面を向いた、

〝ブラックアウル〟のバイザーを〝スターライトMKⅢ〟で吹き飛ばす。

バイザーの片方を失った〝ブラックアウル〟の目にはまだ微かに、反抗の意思を感じる。

 

Liquida due secondi(残り二秒)

生きているスラスターで何とか体勢を立て直そうとする〝ブラックアウル。

だがそこへ、両手で〝テンポラーレ〟を構えた〝ペルフェット・エスダーテ〟が突っ込む。

何とか片腕でその突撃を防ぐ〝ブラックアウル〟だったが推力が違いすぎた。

赤き弾丸と化した〝ペルフェット・エスダーテ〟に〝ブラックアウル〟は

なすすべなく押し返されていく。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

「ぐぅッ!!!」

そのままロッソは〝ブラックアウル〟の腕をつかむと急降下して

地面を引きずりながらアリーナの側壁へ一直線に加速していく。

 

Liquida un secondo(残り一秒)

そして、側壁へブラックアウルを叩きつけると至近距離から〝ウラガーノ〟を

時間の許す限り撃ちまくる。

周囲は砂煙で何も見えなくなっていくがそんなことは気にしない。

「これで、終わりだぁッ!!!」

ロッソは一度〝ウラガーノ〟に空気を収縮させてから左手を振り上げると、

一気に腹部めがけて振り下ろす。

バガァァンッ!!!!!!

地鳴りのような音。それが決着の合図だった。

〝ブラックアウル〟はすでにピクリとも動かない。

そして・・・

 

Contando è esagerato

Io sposto ad una maniera di fermata da un

sistema dopo raffreddamento urgente.

Una funzione di Perfetta・Estate completamente le fermate.

(カウントオーバー。緊急冷却後システムを停止モードへ移行。

ペルフェット・エスダーテ機能を完全停止します。)

 

機能停止と共に一気にやってくる疲労感と、完全にパワーアシストの〝死んだ〟ISのズシリと重さ。

ロッソは勝利を確信してISの装甲の重さに任せてゴロンッと、仰向けに倒れこむ。

へへっ・・・・やっぱあたしは強ぇ!

それに・・・あいつも守れた・・・よな?

ロッソは頭だけを動かして聡也の方向を見やる。

聡也はまだアリーナの側壁にもたれかかったまま気を失っていた。

機体も身体もボロボロだったが、さっき抱き上げたときに

確認した外傷以外真新しい怪我は見られなかった。

よかった・・・無事だ。

にしてもなんで、あたしはこんなに嬉しいんだろう・・・。

・・・あたし・・。

ロッソは聡也から目をそらすと、ふと顔が赤くなっていることに気がついた。

うわわわわッ! なんで顔赤くなってんだよ!?

何で顔が赤いのかはわからなかったが、誰が見ているわけでもないのに

とっさに顔を隠したくなった。

なんで?

・・・・なぜだろう?

・・・・あいつに・・・・見られたくないから?

・・・なんで?

そんな考えがグルグルと頭の中で回っているが、当然急な眠気に襲われる。

実際、極度の緊張状態の中、オーバードライブシステムを使用した

無茶の影響で、既にロッソは限界を超えていた。

・・あぁ、まだ・・・答え、出てな・・・。

ゆっくりと薄れていく意識の中。

ロッソは、守りきれたという達成感と

不思議でわけがわからないが、それでいて何処か

あたたかい気持ちを抱きながら深いまどろみの中へ落ちていくのであった。

ここに〝完璧な夏〟と言う名を与えられた情熱の赤き闘士の勝利が確定した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「敵機完全に沈黙!」

「よし、凰、オルコット。先に一条とミオネッティを回収しろ!」

織斑先生が素早く榊原先生に指示を送る。

・・・・終わったのか?

僕は少し拍子抜けしてしまった。

何故なら、何時“紫燕”が介入してくるのか分からなかったからだ。

しかし紫燕は来なかった。

タイミングを逃したのか?いや、入ろうと思えばいくらでも隙はあったはず・・・。

何か、介入できない理由があったのだろうか。

そういえば、彼らとの初邂逅の時。

結局何をしにきたんだろうか。

その時ふと、無人機の存在が頭を過ぎった。

まてよ。

ひょっとして、あの二機はあの無人機を追いかけてきたんじゃ。

確か無人機はこの学園が回収したと言っていた。

――――――――――――ッは!!

「織斑先生!!」

管制室に榊原先生の悲鳴のような声が響く。

「どうした?」

コンソールを覗き込んだ織斑先生の顔が途端に険しくなる。

「第三アリーナへ、急速接近する反応がッ!六.三秒後来ます!!」

もう何が接近しているのか、織斑先生には分かっているようだ。

勿論僕もね・・。

「凰、オルコット、何処でも良い。ピットへ飛び込めッ!!」

織斑先生が怒鳴るように言う。

声に戸惑いながらもセシリーと鈴は一番近いピットへ飛び込んだ。

「榊原先生、第三ピットメインゲートを閉鎖!」

続いてセシリー達が飛び込んだピットのゲートが閉じられる。

これでとりあえず、聡也達を連れたセシリー達の安全は確保された。

「織斑先生! 第三ピットへ行ってきます」

「あ、おい!」

僕は織斑先生の返事を待たずに、管制室を飛び出した。

 

 

 

第三ピットでは既にストレッチャーに乗せられて

聡也とロッソが今まさに運び出されていく所だった。

僕はそれを通路わきに避けて見送ると、二人の元へ急ぐ。

「セシリー」

「アル」

「へへん、どーよ。あたしの華麗な活躍は」

セシリーはほっとしたように笑い、鈴は自慢げに笑う。

ほんと、二人とも全く違う性格なのに、どうしてこうコンビネーションとかが旨く行くんだろうね。

「あぁ、僕が心配する事なんて何もなかったね」

「いえ、そのお気持ちだけでうれしいですわ」

「ってか、何よあんた心配なんてしてたの?」

ほんっと・・・・どうしてねぇ。

僕は二人の性格の違いに少し苦笑いを浮かべつつ、

僕は話を先ほどの戦闘の事に切り替えた。

「いや、まぁね。で、さっきの戦闘の事なんだけど」

「あぁ、って言うかなんであたしたち怒鳴られたわけ?」

「そうですわね、別段ハイパーセンサーにも反応はありませんでしたけれど」

・・・・・え?

いやいやいや、何を言ってるんだい。

管制室のレーダーだって捉えてたんだよ。

それが更に高性能なISのハイパーセンサーでとらえられないわけないじゃないか。

「まさか、何か来てたとか?」

「それなら、反応があるはずですわよ」

キョトンとした顔で、会話を続ける二人。

あぁ、なるほど。

多分これは、余裕を見せつけるために

僕を引っかけようとしてるんだね。

やっぱり、仲良いじゃないか。

「もう、冗談はやめてよ。管制室は大変なんだよ、今」

「だから、何の話だっつーの!」

「あ、アル、本当に私たちのセンサーには何も・・」

鈴とセシリーの困惑する様子を見て、僕は嫌な汗が流れる。

・・・本当に反応が無かったのか!?

でも、榊原先生はあと六.三秒でって・・・。

その時爆発音とともに大きく建物が揺れた。

「きゃっ!」

「うわっと!」

「セシリー、鈴!」

バランスを崩した二人を抱きとめる。

揺れはすぐに収まったが、今の爆発音は一体・・・。

まさか・・。

やっぱりどこかに無人機関係のパーツが保管されて。

考え込む僕に、抱きとめた二人から声をかけられる。

「ちょっ、ちょっと・・・いい加減・・・」

「そ、そのアル・・えぇと・・・」

ん?

そこでようやく二人を抱きかかえるようにしている

自分の姿に気がついてあわてて手を離した。

「あぁぁ、ご、ごめん!」

「ふん、ま、礼ぐらい言っといてあげるわよ」

「いや・・・私は・・そのもう少し・・」

「え? セシリー何か・・」

「いえいえいえ、な、何でもありませんわ!」顔を真っ赤にして、大きなアクションで手を振るセシリー。

なんだろ、今何か言ったような・・・・。

「あんたたちねぇ、二人して見つめあってる場合じゃないでしょうが!」

「別に見つめあってなんて無いよ!?」

「そ、そうですわ、いやですわねぇ鈴さん!?」

そ、そうだ。

確かにそうだね。

いまだに状況がつかめない僕たちへ、織斑先生から通信が入る。

その通信を受けたのは鈴だった。

『そこに全員居るか?』

「はい。セシリアとアルディも」

織斑先生がチラッと僕たちを一瞥し、それにこたえる様に僕たちは頷き返した。

「先ほどの爆発は一体なんですの?」

『ふむ・・・少々厄介な事態になった』

「というと」

『保管してあった、無人機のコアを盗まれた』

やっぱり・・・・。

目的は無人機だった。

でも、じゃあさっきの反応は一体・・・。

デマ情報だとしても、何が目的でそんな事。

織斑先生は頭を数回かきながら、いつも通り淡々とした口調で話す。

『まぁ幸い盗まれたとは言っても、あのコアは既に束でも

直せないぐらい壊れていたから、まぁ盗られてどうだと言うわけではないが・・・』

「とにかく私たちも、もう一度出ますわ! 場所はどこですの!?」

『いや、その必要はない』

言葉をまくしたてるセシリーに織斑先生はピシャリと言った。

その言葉は、鈴にも意外だったようで眼を見開く。

「必要無いってどういう意味ですか!?」

『そう、熱くなるな』

「いやでも!」

『なら凰、聞くがお前のISはすぐに出られるのか?』

「うぐッ」

鈴は思わず口ごもる。

セシリーも同様に下を向いてしまった。

『燃料の補給、各部損傷のチェック、オルコットも

あれだけビットを使った後だ。身体への負担もある』

「で、ですが!」

『それに・・・』

織斑先生は、今の空気に少し不釣り合いな笑みをこぼす。

意図が分からない僕たちに構わず、織斑先生は言葉をつづけた。

『もう、別動隊が対処に当たっている』

「別動隊!?」

鈴が素っ頓狂な声を挙げるが、それは仕方のない事だ。

そんなのいつの間に組織したんだろう。

気になった僕は織斑先生に尋ねる。

「その、別動隊って言うのは・・・」

尋ねた直後、別枠でウィンドウが表示される。

そこには、白式を駆る一夏の姿があった。

他にもラウラとシャルロット達もいる。

その映像に、一同がようやく納得した。

モニター越しの織斑先生も肩目をつむり、こういうことだと言わんばかりの顔をしている。

まぁ、確かにこれならセシリーと鈴が行く必要はなさそうだ。

それはセシリー達も分かったようで、何度か頷いて一つ息を吐いていた。

『お前たちは、お前たちで出来る事をしろ、分かったな』

それだけを言い残し一方的に通信を着る織斑先生。

・・・・やれることね。

僕たちが今やれることは、一つしかない。

「それじゃ、聡也達を見に行こうか」

「ま、仕方ないわ」

「ですわね」

二人の賛同を得られたところで、僕たちは早速医務室へ足を進めた。

まだまだ、今回の事は謎だらけだけど。

それを考えるのは今の僕たちの仕事じゃない。

僕は頭を切り替え、二人と共に足早にピットを後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

さて・・・・。

向こうが本当の紫燕と言うわけか。

千冬は、顎に手を当てて考えていた。

紫燕は、無人機が保管されていた、学園の地下施設付近から姿を現した。

恐らく、今回あの黒いISを助けに来なかったのはあちらを優先していたからだろう。

・・・・なら。

先ほどの反応は一体なんだと言う?

ISのハイパーセンサーに引っかからず、

こちらのセンサーだけに反応したと言うのもおかしな話だ。

無人機が狙いで、戦力を二分させた事は理解できるが、

どうにも先ほどの反応が腑に落ちない。

その時一夏から、通信が入った。

『織斑先生!』

「どうした、何かあったのか?」

『いや、何も・・・無いんですけど』

「何!?」

「確かに、煙は上がってて建物とか

一部壊れてるところはありますけどISの姿は・・」

どういう事だ。

先ほどモニターに入ってきた映像はなんだと。

――――――しまった、そうか!

くそッ! また出し抜かれたと言うのか!!

「織斑!第三アリーナへ向かえ! デュノアとボーデヴィッヒもだ!」

『え!? あ、千冬姉!?』

『ほら、行こう一夏!』

『教官、了解しました!』

シャルロットとラウラがが困惑する一夏を、引っ張って第三アリーナへ向かう。

千冬はその映像を切ると、ダンッと机をたたいた。

やってくれる。

つまりこう言う事だ。

まずはじめに、〝ブラックアウル〟が第三アリーナを襲撃。

それと同時に、学園地下へ紫燕のパイロットが向かう。

そう間違いなく地下施設には入られたのだ。

あの時、センサーに移ったISの影は偽物。フェイク。

あのタイミングで第三アリーナへISが向かっていると言う嘘の事実を作るための。

そして無人機のコア奪取後いまだに周囲の目が向く第三アリーナから

眼をそらすために、地下施設周辺で爆弾か何かで爆発を起こす。

周囲の眼が今度はそちらに向く隙を狙って、本当の〝紫燕〟が第三アリーナへ

進入すると言うわけだ。

管制室に届いた、あの〝紫燕〟と一夏達の戦闘シーンも

恐らくは巧妙に作られた合成映像だろう。

それにしてもなんて回りくどい手を使うんだ。

千冬は舌打ちをする。

だがそんな回りくどい手にまんまと載せられた自分にも腹が立った。

とにかくだ。

もう相手は逃げるだけなので、これ以上回りくどい策を取る必要もないだろう。

今度こそ。大丈夫だ。

大丈夫・・・・だな?

千冬は、これまでに見た事のが無い、何とも自信の無いしぐさでうんうんと頷くのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ふ~ん。

こうなってんのね。

鳥越 聡華はつまらなさそうに、〝ブラック・アウル〟の

破片をつまみ上げると、まじまじと見た後ぽいっと後ろへ放る。

後ろでガシャンっと音がして装甲が砕ける音がするが気にしない。

聡華は今、風紀委員として正式に事後処理をしている所。

人手が足りないっつてもな・・・。

普通生徒一人で行かせるかっての・・・

心の夏中でごちりながら、聡華は目ぼしいものを探す。

ちなみに現在このアリーナには人っ子ひとりいない。

一応千冬達教師陣は監視しているらしいがアリーナ上は聡華一人である。

聡華はまた一つ残骸を拾い上げようとして視線を動かすと、視界の端に何か動く物を発見する。

その人物は誰かに肩を貸して、今まさにアリーナを出ていこうとする所だった。

あん? ・・・・けが人・・?

聡華はその人物を不審になって呼びとめる。

けが人は全員既に医務室へ運ばれたという情報を事前に聞いていたからだ。

「おい、けが人か?」

聡華の呼び掛けに、一瞬ピクリと反応すると顔を少し動かしてこちらを一瞥する。

顔は見えないが目つきは相当鋭いようだ。

聡華は頭をポリポリとかくと、そんなに睨まなくていいだろとぼやいて二人に近づいていく。

「あ~まぁ、睨むのは良いけどな? 医務室はそっちじゃね・・・・・・ッく!?」

気だるそうな聡華の目つきが変わる。

肩を貸していた方の人物が、いきなり飛びかかって来たのだ。

「てめぇ・・・・・・・!?」

聡華は難なく〝紫燕〟の右腕を部分展開させそれを防ぐ。

だが聡華は驚愕していた。

相手もISを部分展開して飛びかかって来たのだが

相手が部分展開した装甲の形状や色が聡華のソレと全く一緒だったからだ。

しかし、それは相手にとっても同じ事だったようで疑問と苛立ちのまじった声が返ってくる。

「・・・・・何もんだお前?」

「そりゃこっちが聞きたいね、いきなり何しやがる」

聡華側からは逆光で顔が良く見えないが、

相手からは自分の顔が確認できているだろう。

聡華は目を凝らすがそれでもその顔を確認する事は出来ない。

ただ、自分以上に驚いた顔をしていると言う事はなんとなくわかった。

「聡也に手ぇ出そうってんなら容赦はしねぇぞ・・・」

ん、聡也?

聡華は、チラッとアリーナの隅で壁に身体を預けている人影を見る。

聡也ってのか・・・。

そういえば、さっきの模擬戦。

一年のヤツが騒いでたな・・・。

確か聡也とロッソが・・・って。

聡也。

聡華の頭の中に、先ほど戦闘を繰り広げていた白いISの操縦者が思い浮かぶ。

あいつも聡也って言うのか。

名前の同意に違和感を覚えながら聡華はキッと相手を睨み返す。

しばらく無言のにらみ合いが続いたが、不意に太陽の光が何かにさえぎられる。

「そこまでだ!」

「大人しくした方が良いよ。いくらなんでも三対一・・・いや四対一は分が悪いでしょ」

「お前、その人から手を離せ!」

どうやら、噂の織斑 一夏ご一行のようだ。

まぁ、でも光を遮ってくれたおかげで、ようやく顔を拝め・・・・・・・・え?

聡華はどうして、相手が自分よりも驚いていたのかその意味をようやく知った。

 

 

 

 

ワインレッドに赤くつり上がった眼。

 

 

 

 

眼の前には、憮然とした顔の自分自信が立っていた。

 

 




同じ人物同士の邂逅も良いなぁ~

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