【鳴潮】教団の禁忌を調べる俺がフィービーと仲良くなるも研究が教団に嗅ぎつけられ一緒に疑われた時、天性の優しさから庇ってくれる彼女を制して全責任を被って巡礼船送りになりたい   作:でぃーえすちゃん

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4話

 ***

 

 ■月■日。

 

 いつもと違う調子で、書庫の扉が叩かれた。

 これはフィービーではない。彼女は、もっと優しくノックするはずだ。

 おれが「いますよ」と返事をすると、入ってきたのは冷たい目をした侍祭だった。

 

「おや、どこかでお会いしましたか」

 

 おれは突然の来訪者にも驚かず、話しかけた。

 相手はそれに応じることなく、目線と同じく冷たい声色で言い放った。

 

「懺悔院だ。歳主を冒涜した者がいると一報があった」

「懺悔院? いやだなあ、ここにはおれしかいませんよ」

 

 分かっていたことだ。

 救済すべき弱者の救いの声には、耳垢の詰まった老人よりも鈍感であるのに対して、彼らに歯向かう者の声には羽音も聞き逃さぬフクロウの如きである。

 

「そうか。少し調べさせてもらう」

 

 そういうと、その侍祭は書庫の隅々までを調べ始めた。

 ああ。

 手稿(あれ)がばれるのも、時間の問題だろう。

 どうして燃やしておかなかったのか。

 機を待つべきではなかった。

 そもそも、調べるべきではなかったのかもしれない。

 そうして、侍祭の手が引き出しへと伸びたときだった。

 

「ごめんください……あら?」

 

 次なる来訪者は、彼女──フィービーだった。

 懺悔院の侍祭の手が止まる。おれと彼女を交互に見て、そしておれに問いかけた。

 

「彼女は?」

「……」

 

 どう答えるべきか、おれはほんの少し逡巡した。

 

「……さあ。ああ、でも街で見たことがありますよ。フィービーさん、でしたっけ?」

 

 わざとらしく、おれは彼女のほうに向き直って言った。

 彼女は聡明だ。きっと分かってくれる。

 

「懺悔院の方、今は帰ってもらったほうがいいですね?」

「……少し待て。おい、フィービーと言ったな?」

 

 侍祭は、今度はおれからフィービーに矛先を変えた。

 

「この男とは知り合いか?」

「え? ええと、ミケーレさんとは……」彼女が口ごもる。

「ミケーレさん? なんだ、一度お話しただけなのに、おれの名前を覚えていてくれるなんて光栄だなあ」

 

 突然の事態に彼女は慌てている様子だったが、おれを見て、そして侍祭を見て、なにかを察した様子だった。

 

「え、ええ。街で、一度」

「ここには何をしにきた?」

「その……このあたりに用事があったところ、近くに教団の設備があるということだったので、様子を見にきたのです」

「……ふむ。それでは即刻ここを立ち去りたまえ。職務中なのでな」

 

 そう言って、侍祭は開けかけた引き出しへと戻る。

 ああ、露見してしまう。

 おれのおろかな渇望が。

 彼女にはこの瞬間を見てほしくはなかったが。

 

 侍祭は引き出しの中の紙片を取り出し、広げた。

 内容を読むにつれ、彼の表情はいびつに歪んでいった。それが歳主の冒涜に対する怒りなのか、それとも冒涜者を捕らえる喜びなのか、おれには判断がつかなかった。

 

「立て」

 

 やがて手稿を読み終えた侍祭は、座っていたおれの腕を掴み、強引に引き上げた。

 

「なんです?」

「これを書いたのは貴様だな?」

「……ええ。そうですよ」

「おい!」と侍祭は外にいるらしい仲間へ声をかけた。

 

 扉の近くで呆然としていたフィービーを押しのけ、懺悔院の侍祭たちが部屋へと入ってくる。

 

「連れて行け」

 何も言わず、彼らはおれを拘束し、ひきずっていく。

 

「ま、待ってください!」

 

 大きな声だった。

 優しい彼女にしては、珍しく。その声音は必死さと、一縷の疑念が入り交じって震えていた。

 

「その、その方をどこへ連れて行くのですか」

「彼は教団にありながら信仰を持たぬ。信仰を取り戻すため、巡礼へ出てもらうのだ」

「……!」

 

 彼女は愕然としていた。

 ああ。

 やはりあなたは、どこまで言っても聖職者だ。慈愛に溢れ、目の前にいる哀れな人間にも手を差し伸べることができる。

 隠海教団(こんなところ)にいるのが、もったいないほどの。

 

「そ、そんな、なにかの間違いではありませんか?」

「……なぜ彼をかばう?」

「それはっ……」

「懺悔院の方」

 

 おれは彼女の話を遮るように声をあげた。

 

「彼女は大変お優しい方なのです。ラグーナにおわす主座様にも匹敵するほどのね。おれのような哀れな男が、自業自得で罰を受けることにも心を痛めてしまうのですよ」

「……」侍祭は何も言わない。

「お嬢さん、覚えておいたほうがいい。世の中には、ほかに手を差し伸べるべき方がたくさんいます。おれのような人間ではなく、街へ戻って、そうした方の助けにおなりなさい」

 

 彼女は、何も言わなかった。

 おれの言葉が彼女に届いたのかどうかは知らない。だが、仮におれという存在が彼女の邪魔になっているとしたら、それは嘆かわしいことだ。

 

 ■月■日。

 おれは灯台の島へと連れてこられた。あの日の光景と、この島はほとんど変わっていない。

 ひとつ違うのは、おれは今日「巡礼者」であるということだ。青のローブを纏う侍祭たちが、おれたちの脇に並び、目を光らせている。

 やがて、助祭が低い声で唱え始めた。

「巡礼者たちよ。旅立つ時が来た──」

 

 おれたちは黙ってその託宣を聞いていた。

 巡礼者たちが、船に乗せられていく。

 おれの番になった。奇しくも、おれを引っ張ったのは、あの日の老人を連れて行った侍祭であった。

 

「離せ、自分で乗れる」

「貴様……」

「話しかけるな! この大ホラ吹きどもめが!」

 

 これが、現実に発したおれの最期の言葉になるのだろう。

 

 出港した巡礼船は、ほどなくして海霧に飲み込まれた。

 ああ、聖女様。歳主よ。

 どうか、あの天使のような侍祭に、これからも祝福がありますよう。

 どうか、あわれな「愚者」のことは忘れ、歳主の恵みがともにありますよう。

 

 この悲鳴が、リナシータに届きませんように。 

 

 ***

 

「フィービー? どうかした?」

「……! ああ、すみません漂泊者さん。……少し、気になるものを見つけたんです」

 

 リジョリ群島のとある島。音骸船に乗って漂泊者と釣りに勤しんでいたフィービーは、砂浜に埋もれていた古びた手帳を拾い上げた。

 

「それは何?」

「……巡礼者の手稿のようでした。ただ、インクが水に滲んでしまって、誰のものかまでははっきりとは分からないのですが……とても、懐かしい気持ちになって。それと同時に……少し、哀しくもあります。どうして……」

「なにかあったの?」

「いえ、漂泊者さんにとっては、些細なことです。……少し、考えてしまいました。歳主の導きについて。漂泊者さんは、歳主について、どう思いますか?」

 

 漂泊者は、あごに手を当てて少し考える素振りを見せる。

 返答を待つ間に、フィービーはその手帳を懐へとしまった。

 

「会ってみないとわからない」

「ふふ、漂泊者さんらしいですね」

 




くぅ~疲れましたwこれにて完結です!

最近はじめた鳴潮ですが、なにか裏のある教団と主人公サイド(ファミリーとか)の確執が大変おもしろく、ワクワクが止まりません。
最近フィービーも実装されて(残念ながらガチャスケジュール的に確保はできませんが)これはもう書くしかねえと思って書きました。

至らぬところもあるとは思いますが、書いていて楽しかったのでよしとします。
楽しんでいただけたら幸いです。

ここまでありがとうございました。
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