PREDATOR the LOAD   作:犀宮寺東

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 太陽系第3惑星、地球。他の氏族が成人の儀式に度々使用している星であり、高度な文明を持つ事から狩猟対象にも困らない星。

 

 先日の任務を達成した事と、成人の儀式で最も若くして多大な功績を挙げた事から、戦士は名を与えられた。

 

 彼らの氏族は、その身に宿したシンビオートの特性から、動物の脳を定期的に喰らわねばならない。その為、地球を含めて様々な惑星を「餌場」としており、正しく肉食動物(プレデター)であった。

 

 また、同氏族内での共喰いを避ける為に各々が専用の宇宙船を持つ事も特徴である。そして、同族との稽古が無くなった事から発生するのは、慢性的な闘争本能による狩猟に対する欲求であった。

 

 

 

 ベトナム戦争。社会主義派と資本主義派との対立で南北に分断されているこの土地は、冷戦の真っ只中である米ソの代理戦争が続いていた。

 

「人間を狩る悪魔が出る」、「暑い年になると死人が増える」というのは、この土地でも伝えられてきた伝説だった。

 

「ハン! そんなのはただのクソ御伽話さ! それか、ホー・チ・ミンの流したクソデマだろ!」

 

 海兵隊員6名を乗せた攻撃ヘリがベトナムの空を、編隊を組んで飛行する。機銃の音が断続的に鳴り続ける。女子供も容赦なく、ベトナム人を撃っているのだ。

 

「まだ作戦区域には入ってないだろ!?」

 

「向かってくるベトナム人は敵だ! そして逃げるベトナム人も敵だぜ!」

 

 笑いながら機銃席の男が言う。過酷な戦場は、正常だった人間を狂わせる。何が正しくて、何が間違っているのか。敵は誰だか、それすらもこの男には最早、判断出来ないのだろう。

 

 

 

 フエ市街。正確には、市街地跡と言うべきだろう。ベトコンの後退という情報を掴んだ米軍は、この市街地跡に確認の為の部隊を投入した。

 

「……静かだ。物音ひとつしやしない」

 

「本当に撤退した後なのかもな」

 

 そうであってくれ、と誰もが心の何処かで思っていた。だが、悪魔は不意に訪れる。

 

 先行していた戦車が突然、爆発した。随行歩兵の数人が巻き添えになって、木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 

「砲撃か!? 何処からだ!!」

 

「何だ……何なんだチクショウ!!」

 

 突然、1人の兵士が飛び出して廃墟へと発砲し出した。

 

「馬鹿野郎! 何してる!?」

 

「何かが居た! あそこに何かが居たんだ!」

 

 兵士が指差した先には……何も居ない。ただ蜃気楼のように、遠景と廃墟があるだけだ。

 

「何も居ないぞ! さっさと物陰に隠れろ!」

 

 指差したままの兵士の胸元に、三つの赤い光点が付いた。それはゆっくりと兵士の首筋を通り、こめかみに達した。蛇が這うような、奇妙な動き。

 

 直後、兵士の頭が西瓜を砕いたように爆ぜた。今度は全員が見た。蜃気楼の中で蠢く、人型の何かを。

 

「それ」の動きは素早かった。海兵隊員らが銃撃を始めた頃には、既に別の廃墟の上に。そして光弾が飛来する。腹に大きな穴が空いた隊員に、別の隊員が必死に呼び掛ける。それを引き剥がそうとした別の隊員も纏めて、前触れも無く胴体が両断された。

 

「何だ!? 何が起きてる!?」

 

「ベトコンじゃないぞ! 悪魔だ! とうとう出やがった!」

 

 銃撃戦の中、必死にカメラのシャッターを切る男。報道部員としてこの部隊に同行していた彼は、一心不乱にシャッターを切る。

 

「姿を消してるんだ……!」

 

「何バカな事言ってる!? お前も銃を持って戦え!」

 

 廃墟から響く銃声。小隊長が胸を撃たれて倒れた。それは、報道部員の彼の同期だった。スローモーションのように、倒れて血を吐く仲間。

 

 海兵隊員達は銃撃を続けている。唐突に、廃墟街から悲鳴が響いた。女の声だった。

 

 砲撃らしきものも止んでいる。海兵隊員達は統制を欠きながらも、廃墟へと向かう。

 

 バン、バン。2発の銃声が鳴った。ライフルのそれではない。拳銃の音だ。

 

 音の鳴った廃墟へと駆け込んだ海兵隊員が見たものは、見えない何かに吊り下げられて……いや、首を掴まれて窒息寸前の少女だった。傍らにはソ連製のライフル。そして少女の右手には拳銃が握られている。

 

 少女がふっと床に崩れ落ちる。そして海兵隊員の視界を染める赤いレーザー光。

 

 そこからの数秒間は、本当に時間がゆっくりと流れているようだった。駆け出しながら見えない何かに銃撃を浴びせる隊員。緑の血が噴き出すのも構わずに隊員へと走り寄る「それ」は、徐々に姿を現した。

 

 金属の仮面を付けた、何処か原始的な雰囲気を纏った悪魔は、隊員の喉笛を右腕に付けた刃物で斬り裂くと、左手で背骨ごと頭を引き抜いた。

 

「クソッタレがァァァ!!」

 

 他の隊員達も階段を駆け上がり、そいつに向かって鉛玉を喰らわせる。隊員達の動きは遅いのに、そいつだけは異常に速かった。次々と首……頭と背骨を作業のように抜いていく。ひとしきり殺した後、奴は報道部員の彼の方を見た。

 

 のっぺりとした金属製の仮面。何かの動物の骨で飾られた首飾り。上半身は半裸に近く、腰蓑のように見えたそれは何故か機械的だった。

 

 彼は思わずシャッターを切った。赤いレーザー光がレンズ越しに彼を狙う。

 

 殺される。そう思った彼だったが、レーザー光は次いで倒れた少女へと向き、拳銃、ライフルへと続く。

 

 そいつは生き残りの2人には興味を無くしたように、たった今引き抜いた頭と背骨の束を右肩に。少女が持っていた拳銃を腰蓑に差し、ライフルを左肩に担ぐ。

 

 再び姿を消したそれが居なくなったと気付いたのは、この部屋に入ってからずっと続いていた異臭がしなくなってからだ。

 

 代わりに、死体に集り始めた蝿の音。遠くで戦車の燃える音。錆びた鉄よりも鉄臭い、血の匂い。

 

「助……かった……?」

 

 何故、自分だけが生き延びたのか。何故、少女は殺されなかったのか。あんなにも徹底して海兵隊員を虐殺したのに。何故、奴は隊員の首を捥いで行った? 何故、拳銃とライフルを拾って行った? 

 

 もう1人の生存者、狙撃手……と思われる少女を担ぎ、何枚もの写真が入ったカメラと仲間のドッグタグだけを持って、彼は基地までの道中そればかりを考えていた。

 

 だが、その問いの答えは終戦になっても出ることは無かった。ただひとつ、カメラとフィルムは米軍の情報部に取り上げられた。

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