「長居は無用だ。移動するぞ」
ダッチの指示で、部隊はビリーを先頭に移動を開始した。
それを眺める、2体のヤウージャ。それぞれが別の位置から、ダッチ達を狩るに値する獲物かどうかを見定めている。だが、「レーヴェン」の名を与えられた戦士は彼らに対する興味を失った。
自身がゲリラへの襲撃を仕掛けている中で、脅威となる敵だけを的確に始末した手際は、間違いなく歴戦の勇士のものだった。だが、彼らは既に「先客」の獲物だ。横取りは掟に反する。
それに、左腕で抱えたクレート。中身はソ連製の銃が幾つか納められている。シンビオートを身に宿しているせいで、トロフィーとして一度は持ち帰った獲物の頭部も、長旅を経る中では非常食に変わってしまう。
故に、レーヴェンの氏族は獲物の持っていた武器をトロフィーとして持ち帰る。特にレーヴェンはソ連製の銃が気に入っていた。これを宇宙船に持ち帰る。その後は……ゲリラキャンプ襲撃を嗅ぎ付けた増援を、トロフィー兼非常食として持ち帰る。
レーヴェンは、先客であるクラシックプレデターの邪魔をする気は毛頭無かった。無論、窮地に陥ろうが手助けする気も無い。それは相手にとって非常に不名誉な行為だからだ。
『長居は無用だ。移動するぞ』
マスクの音声擬態機能で翻訳と録音、解析を何度もしていたクラシックプレデター。彼は他の同族がゲリラキャンプを襲った事に、静かな怒りを感じていた。
獲物の戦闘能力を測る、絶好の機会を台無しにされた。そして、自身のマスクが備えたサーマルビジョンでは、その同族の動きを見切れなかった。マスクの機能が正常なのは確認済みだ。問題は、自身よりも遥かに強い個体が横槍を入れてきた事。
シンビオートとの同化などという、彼からすれば邪道と言わざるを得ない方法で強くなった。だが、その同族は傷の治癒くらいにしかその力を使っていない。あまつさえ、ゲリラ襲撃では傷ひとつ負う事なく殲滅せしめた。
狩りの実力で劣る。その事実が、クラシックプレデターを殊更に苛立たせる。狩猟スタイル、トロフィーの選択も気に入らない。それだけの実力を持ちながら、プラズマキャノンでの狙撃しかしなかった。最後の1人に至っては、フルチャージで木っ端微塵にする始末だ。
だが、彼も歴戦の戦士であった。怒りは焦燥を生み、焦燥は隙を生じる。彼の狩猟スタイルは獲物の隙を突き、手早く一匹ずつ仕留めるというものだった。観察力、隙を突く事、この2点ではくだんの同族には負けていないという自負があった。
決して離れず、そして近付き過ぎもしない。いつか来る絶好のチャンスを狙って、ひたすらに待つ。
そして絶好のチャンスが訪れた。逃げ出した非武装の人間。それを追う武装した人間。獲物を仕留めた瞬間は、どんな動物も無意識に警戒を解く。その瞬間を狙って、クラシックプレデターは襲い掛かった。
救出した捕虜が逃げ出した。ホーキンスが真っ先に追い、他の隊員も遅れて続く。しかし、見つけた捕虜は血塗れだった。そしてホーキンスの装備が、周囲に散らばっている。
「何が起きた!?」
「他人の血です。この女のじゃない」
明らかに動揺し、萎縮している女。ホルヘが何度現地の言葉で聞いても「ジャングルが襲ってきた」としか語らない。
「ディロン。奴らは姿を消せると言ったな。俺の部下、ホーキンスは恐らく……奴に襲われた。必ず仇を討つぞ」
「俺の部下をやったのもそいつだ。そして、キャンプで現れた個体とは別だろう」
「その根拠は?」
「武器を奪っていない。例の個体なら首を引き抜いた後に武器を回収する筈だ」
付近に死体は無い。ディロンの話を信じるならば、ジム・ホッパーを含めたグリーンベレーとホーキンスを殺したのは同じ個体だ。ゲリラキャンプでのやり口とは違う。
カカカカカカカ……と、虫か鳥か判別のつかない鳴き声らしきものがジャングルに響く。それはまるで、ダッチ達を嘲笑うかのように聞こえた。
ゲリラキャンプ襲撃から数時間後。レーヴェンはゲリラの増援部隊を相手に狩りを始めていた。頭の中でシンビオートが『空腹だ』と伝えてきたのもあり、既に引き抜いた数本の背骨付き頭蓋骨を貪り喰う。
「化け物め!」
AK-47を正確に撃ち込んできたゲリラ。木から木へと飛び移りながら、次の獲物を見据える。スピアを投擲。刺し貫かれたゲリラは引き金から指を離せず半死半生のまま銃を撃ち続けている。
刺さったゲリラごと地面から引き抜く。せいぜい7、80キロ程度の体重など動作に支障を来たすほどでは無い。頭を喰らうとスピアを振り抜く。ゲリラの集団に死体が吹き飛んで行き、数人が押し倒される。
リストブレイドで首を切り裂き、AKを奪って別のゲリラ集団に発砲する。バタバタと容易くゲリラが倒れていく。レーヴェンは、人類の武器の中でも特に扱い易いAKがお気に入りだった。
「グァッハッハッハ!」
正しく悪魔のような笑い声。この土地は「餌場」としても、トロフィーとしての銃を得る場所としても最適だった。戦闘経験としては大した糧とはならないが、自分が暴れれば暴れるほどに、ダッチ達のような精鋭部隊が送り込まれるという事も理解していた。
ひとしきり殺し続け、ゲリラ集団が全滅した頃。日は沈み、空を見上げればサーマルビジョンが捉えた熱も日中よりは落ちていた。