バル・ベルデに居を構えて数十年。レーヴェンは名実共に、このジャングルの王者となっていた。
ゲリラを滅し、アメリカ海兵隊を悉く全滅させ、圧政を敷く国軍をも滅ぼした。いつしか彼を呼ぶ現地住民の呼び名は、悪魔から神へと変わっていた。
幾度もの闘いの果てに、彼はシンビオートの力を必要としない程に強くなった。新たな武器を自ら開発し、バル・ベルデの地にピラミッドを建造させ、シンビオートの力を封印して再び成人の儀式を難なくこなした。
「最早お前は必要無い」
不要と判断したシンビオートを現地住民に寄生させ、レーヴェンは密林へと戻っていく。
突然訪れた自由に、当のシンビオートは困惑していた。だが、適合する宿主を見つけなければ自らの命も危うい。
シンビオートは宿主の身体を乗っ取り、アメリカへと向かった。次々に宿主を変え、適合する宿主を探し求める。
アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコ。数週間の旅を経たシンビオートは、ついに適合する宿主を発見した。
宿主の名前はリチャード・マッケイ。路地裏暮らしのホームレス、食べる物と言えばゴミ箱から漁った腐りもの。
「酒も飲んでないのに二日酔いか……? うっぷ……気持ち悪い」
『変なものばかり食べてるからだろ』
「なんだ!? 誰だよいきなり!」
突然聞こえた声に戸惑うリチャード。周りのホームレス達が訝しげに彼を見やる。
『お前も、俺も、捨てられたもの同士だ。仲良くしようぜ?』
「なんなんだ……幻聴か?」
『腹減ってんだろ? 俺様が解決してやる』
リチャードの身体から鈍色の粘着質の顔が現れた。周りのホームレス達もそれを目撃して、腰を抜かしている。
『ちょっと身体を借りるぜ』
「今度は幻覚か……? うわあぁぁあ!?」
リチャードの身体が膨れ上がり……体表が鈍色に覆われた3m程の巨人へと変貌した。
「どいつもこいつもヒョロガリで、全然美味そうじゃないが……」
巨人はホームレスの1人を掴み上げると、ガパッと開いた巨大な口へと押し込んだ。2人、3人とホームレスを喰い、路地裏から逃げようとした最後の1人の脚に槍の穂先のような尾が突き刺さる。
「贅沢は言えないな」
「やめて! やめ、ぎゃあああああああ!!」
バリバリと脚から順に、腰、胸、腕、そして頭を噛み砕く。
そこまでの暴挙を終えると、シンビオートはリチャードの中へと戻っていった。
「いったいなんなんだ!? 俺が化け物になって……トーマス、マイク! エンリケにローランド爺さんまで喰っちまった!?」
『お陰で腹は減ってないだろ?』
「なん……なんなんだ、お前は……?」
『俺は……俺の……名前は……レイヴン、そう、レイヴンだ!』
「絶対今付けただろ、その名前! それになんだ、さっきの……変身は!?」
『ごちゃごちゃうるさい奴だな。人間を喰えば、俺達2人の食欲は満たされる』
「……もし、嫌だと言ったら?」
再び鈍色の顔が、リチャードの胸から現れた。鋭く尖った白眼、粘着質で不定形に蠢く、自身と繋がった顔。
『チョコレートが手に入るなら別だが……あいにく、嗜好品どころかその日のメシにも困ってるのが現状だろ? 人間を喰わなきゃ、俺がお前の内臓を喰っていく。お前が死んだら、別の奴に乗り換えるさ』
レイヴンは耳のあたりまで裂けた口で笑う。
「死ぬか、喰うか、その2択しか俺には無いってのか……?」
『別に人間じゃなくたっていい。ドブネズミだろうと鳩だろうと、量が確保出来ればな。それに、俺様を捨てやがったあのプレデター……』
「プレデター?」
『そうだ! 6,000年以上も閉じ込められてた上に、俺様を消耗品みたいに扱いやがった! 狩りの腕が上がったら、ポイだもんな!』
「ま、待て。話が見えない。そのプレデターってのは何者なんだ?」
『エイリアン、宇宙人、好きに呼べばいい! 人間を娯楽で殺す、イカれた連中だ! お前、バル・ベルデって知ってるか?』
「海兵隊が大勢死んでる国のことか?」
『そうだよ、そのバル・ベルデさ! あの野郎、散々俺様をこき使った挙句に捨てやがった!』
「そりゃあ、人間を喰う必要があるんじゃぁなぁ……」
『さっきも言ったろ! 奴らはハンターだ! 人間を娯楽で殺す! そのついでに喰ったって構わないだろ!』
「いや、そのデメリットがデカくて捨てられたんじゃ……」
『フン! まあいい! 俺様がお前を最強の戦士にしてやる! それでアイツをブッ飛ばすんだ!』
「取り敢えず憎んでるって事は分かった。なら武器が要るだろ?」
『近々シンビオートの……俺様の同類がやってくる! 奴らを喰え! そうすれば俺達はもっともっと強くなれる!』
「何でもかんでも喰えば解決ね。オーライ、相棒」
『お前、話が分かる奴だな! まずは……仕事探しからだ!』