リチャード・マッケイ。ボロいアパートの一室に、その名前が書かれたプレートが差し込まれる。大家は中国人のリーさん。仕事の斡旋をくれたのも彼女だ。
「取り敢えず、仕事が見つかって良かったじゃない」
「ホント、感謝してます。部屋も格安で貸して貰えて……まだ家賃も払ってないのに」
妙齢の中国人女性は朗らかに笑う。というのも……
「いいのよ。どうせ事故物件で誰も借りたがらなかったし」
「事故物件……?」
「そうなのよ。夜中に変な物音がするとか、住人が変死体になるとか。掃除もしてないし、気味が悪いからアタシはそろそろお店に戻るわ」
「あー……そういう事」
この部屋に入居して初日に、レイヴンが「プレデター」と呼ぶ宇宙人に遭遇した。というか、この部屋はそのプレデターのナワバリ、巣に近い存在だった。
レイヴンと共に変身したリチャードは、そのプレデターを粉微塵になるまで噛み砕いて喰った。それまでの住人は、漏れなくプレデターにやられていたのだろう。
『さあ、俺達の根城だ! 今夜はパーティだぜ!』
「お前、プレデターを殺してからやけに上機嫌だな」
『そりゃそうさ! 復讐したい相手の同族を殺せたんだ! まあ、氏族は違ったがな』
「この数日で何度か聞いたよ。高度な科学技術を持った野蛮人のエイリアンだろ?」
部屋の扉を後ろ手で閉めながらチョコレートを齧る。服もボロ布から、リユース品ながら一丁前のものに変わった。レイヴンが来てからは絶好調だった。
『そう、連中はヤバい武器を色々持ってる! プラズマキャノン、レイザーディスク、手裏剣、リストブレイド……』
「手裏剣って……ジャパニーズ・ニンジャじゃあるまいし」
『本当のことさ! この地球には無い金属を使ってる! 空気みたいに軽くて、鉄なんかよりずっと硬い!』
「ああ、見たよ。それにお前が吐き出したコレ」
リチャードは肩掛け鞄からプレデターのヘルメット、ガントレットコンピュータ、リストブレイドを取り出してデスクの上に並べる。
「確かに見た目以上に軽い。それに……おっと。指が切れちまった」
『安心しな、相棒! 俺様がすぐに治してやる!』
レイヴンの言葉通り、リストブレイドで切れた指先は瞬く間に傷口が塞がった。続けてリチャードはガントレットコンピュータを手に取る。
「蓋が開くんだな、コレ」
『迂闊に操作するなよ? 核爆弾以上の爆発が出来る代物だぜ?』
「先に言えよバカ!」
合皮の所々が剥がれたソファにガントレットコンピュータを投げ捨てる。次いでヘルメット。表面はのっぺりとした仮面状で、裏側は口のあたりに幾つものスイッチがある。
「コレもヤバい奴か?」
『いや! コレ単体じゃあただの視覚強化装備だ! プラズマキャノンの発射ボタンとか、色々付いてる!』
「……あんまり触らない方が良さそうだ」
『ヘイ、相棒! そろそろ仕事の時間だぜ!』
「はいはい。仕事の間は大人しくしててくれよ?」
中南米、バル・ベルデ共和国。圧政を敷く政府に神罰が下ったと噂されるこの土地は、世界的に見ても無政府状態であった。自身が築かせたピラミッドの頂きで、レーヴェンは独裁者の首を刺し貫いたスピアを掲げる。
同時期。海兵隊では対処出来ないと判断したアメリカ政府は、CIA直属の研究機関「スターゲイザー」を創設した。スターゲイザーは創設前からヤウージャのテクノロジーを収集しており、いくつかの装備は実戦投入出来るレベルにまで到達していた。
スターゲイザーの動きは手早かった。世界中から腕の立つ傭兵を集め、4人1組の部隊「ファイアチーム」を複数編成。ここ近年頻繁に現れているヤウージャの捕獲、或いは装備の奪取に部隊を投入した。
このバル・ベルデにも、ひとつの部隊が投入された。低空飛行で侵入してくる攻撃ヘリを目視で確認したレーヴェンは、新たな装備をもって降下直後の部隊を襲撃した。
挨拶がわりのプラズマキャノン。隊員の1人が左脚を失う。それに構わず、光学迷彩を使用したレーヴェンに射撃を集中させる3人。
レーヴェンは大木の陰に身を滑らせながら思う。今回の相手はこれまでとは違うと。
マガジンチェンジのタイミングも、必ず誰かが発砲している途中に済ませる。脚を失ってもスナイパーライフルで正確にレーヴェンの位置を狙撃してくる。
そんな状況でも、レーヴェンに危機感は無い。あるのは闘争に対する高揚感だけだ。
攻撃ヘリの機銃が唸る。流石に.50口径弾の斉射を浴びれば大木すらも容易く折れる。レーヴェンは身を乗り出し、攻撃ヘリに向かって跳んだ。
光学迷彩を解き、新装備を操縦席目掛けて投げ付ける。防弾ガラス越しでも貫入したクナイは、攻撃ヘリのパイロットの頭に突き刺さり即死。副操縦士が機体をコントロールしようとするが、クナイは何度かの電子音の後に爆発。
落下する攻撃ヘリから散開して離れる隊員達。脚を失ったスナイパーは落下してくるヘリの下敷きになって死亡した。
「なんだあの武器は!?」
「情報に無い装備だ!」
「怯むな! 撃ち続けろ!」
獲物が態勢を立て直す前に、背中から銃を模した武器を取り出す。発射された弾頭は、人類の知る形で言えば槍の穂先に近かった。
レールガン。電磁投射で撃ち出された、決して小さくはない槍。それは対プラズマキャノン用の防護措置の施されたプロテクターをも貫通し、M60軽機関銃を装備していた隊員の胸を貫く。
「後退! 後退ぃ!」
密林へと退いて行く残りの隊員。レーヴェンは新装備の出来に満足し、付かず離れずの距離で彼らを追った。
数分もしないうちに、彼らは全身に泥を纏っていた。ヤウージャが赤外線で獲物を視認していると理解している証拠だ。
しかし、詰めが甘い。レーヴェンはこの土地で幾度もの狩りを成功させる内に、赤外線以外の機能もマスクに備えていた。
心音センサーに切り替え、プラズマキャノンを命中させる。
「なんでだ!? 奴にはこっちの位置がバレてる!」
「プロテクターが変形してる!? 今までの奴よりずっと強いぞ!」
レーヴェンの嘲笑がジャングルに響き渡る。投げ付けられたハンドグレネードを掴み取り、豪速球で投げ返す。
「伏せろぉぉぉ!!」
ボン!
ハンドグレネードを足元に投げ付けられた隊員は、血飛沫のみを残して跡形も無く吹き飛んだ。
プロテクターを脱ぎ去った最後の1人。レーヴェンはその首を掴み上げ、嘲笑う。
所詮は獲物。自分の敵とはなり得ない。
『今までの奴よりずっと強いぞ』
獲物の言葉を復唱し、恐怖で慄く顔を眺めながら背骨ごと首を引き抜く。トロフィーにする価値は無い。使っていた銃にも興味は無い。
レーヴェンは引き抜いた首を放り投げ、宇宙船へと戻って行った。