SAN値ゼロから始める異世界召喚士ライフ 狂喜と混沌を呼ぶ召喚士   作:猫カイト

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かつて捨てた神にもう一度祈る獣

 人は生まれた時から運命が決まっている。

運命は自分で切り開くものだと語るのはいつも幸運な連中だ。

 

 私が産まれ育ったのは教会という監獄の中であった。

母も知らぬ父も知らずに育った。

それが普通だと思われるように複数人で育てられた。

産まれた時から殺しと拷問の技術を叩き込まれた。

血に動揺しないようにと英才教育という名の拷問も加えられた。

裏切られないように思想を骨の髄まで植え付ける洗脳

それによって産み出されたのが我々 ハサスだ

それが神に平等を願う連中のやることなのだから最高の皮肉じゃないか。

 

奴らにとっては我々は人ではない

ただの道具。

道具の最後は決まっている。

どれほど鍛え上げた刃でも人を10人とやれば折れてしまう。

それは我々も同じだ。

殺し、殺され

それが我々の運命。

それも普通のことなのだと教育されてきた。

いずれ壊れる運命。

普通、それは怖い筈なのに恐怖すら感じない

何故なら死は救いだと教わってきたからだ。

それを間違いだと気付くのに18年もかかってしまった。

そんな当たり前のことにも気付けないほどの闇を受けてきた。

 

そんな当然の事を気付かせてくれたのは彼等

そんな彼等を裏切ったのだ。

私はもう教師のサラでもない。

教会の命令にも背き、彼女の廃棄処分にも抵抗した。

教会の従順な駒のNo.332でもない

では私は何なのか?

私にもわからない。

でも彼女の命と友の罪の意識を取り払えるのなら私は獣に成ろう。

何故なら唯一の友と私にいきる意味を持たせてくれた……

(ありす)と思えた存在なのだから

止めに来たのが君じゃなければ私は人のままに終われたのに

彼女を人にしたかった自分が人を捨てなければ彼女を守れない。

まったく運命というのはどこまで行っても皮肉だ。

いや、人を何も思わず殺してきたのは私だ。

すでに獣か。

人の皮を捨てるだけ

それだけなのにどうしてだろう。

恐怖なんて微塵も持たぬよう育てられたのに、

仲間のハオスの助けを求める声も無視し仕事を遂行してきた自分なのに、

消えようとする自分が怖い

彼女を守れなくなるとわかるとどうして震えるのか?

これは何だ?

これはだれも教えてくれなかった

 

あの日から、ハオスを止めた日からあなたを信じることを止めた私に今更なんだと言うでしょうが、私はあなたの存在を否定した訳じゃない。

だってこんな悪辣な運命を作れるのはあなただけだ。

────神よ

彼等とありすにあなたの悪辣な運命を与えるな

────神よ

彼等とありすに幸運な運命をもたらしたまえ

────神よ

こんな欲深き罪人の私に罰を与えたまえ

 

 

「あぁ、つまんない選択をしたね彼女」

 

彼女が教会の禁忌 

血を使ったと同時に母上は退屈そうに呟く。

さっきまでのハイテンションっぷりはどこへやら

今のテンションはまるでおもちゃが潰れた子供のようにローテンション。

 

「そうですか?友と娘の為に命を捨てるなんて母上が好きそうな展開じゃないですか?」

 

「うん それを人のままで行ったのならね 彼女……サラだっけ?は最後は自分を捨てて獣に相成った。彼女には娘を守るために友を自分で殺すという覚悟も 大事な友のために大事な娘を捨てるという覚悟もせず本能に丸投げだ。」

 

母は一体人間に何を求めているのか?

人間は逃げる生き物だ。

楽な道があれば楽な方へと逃げていく。

それが人間だ

それがわからない母ではあるまいに

 

「その選択は人間にはむずかしいのでは?」

「そうだねー いっそ娘も守って友も傷つけないという選択をしてくれたらなぁ」

「それは中途半端では?それに彼女の脳に何があるか忘れたのですか?」

 

裏切られぬようにと特別に育てた信者の脳の中にあんなものまで仕込むとはやはり人間とは他人を信用しない生き物なのだなと思える。

 

「あーそういやそんなのあったね 

取り除いてあげればよかったー」

「あなたはそんなに優しい存在ではないでしょうに」

 

それにやっても貴女なら途中で飽きて脳みそごと潰してしまうでしょう?

 

「分かってないなー 

それで中途半端な判断をしたら、その中途半端の決断のせいで何も守れず絶望しながら死んでいくのが面白いんじゃんか 彼の中にいた間に甘くなった?」

 

つくづくあなたは悪辣だ。

私は貴女のように全てを自分の玩具だとは思えません。

それを皆に納得させる力

 

「そんな力を持ち合わせていませんから」

 

母は納得していない顔だが

何せ事実だ。

そうあなたは私を産んだ。

私は紅茶で反射する月を見ながら思う。

運命とはとことん皮肉だ。

私の運命も全てを捨てたサラの運命も そこまでして守ろうとして人形の運命も

何故なら今宵は全てを狂わす────赤い月なのだから

 

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