アンサラー 幻葬   作:月導

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九章~血と茨と幻覚~

思わぬ相手との再会の翌日、夕夢はニヘルの手を借りて着替えをしていた。

「あれ?このチャックどうやるの?」

「落ち着きなさい。今閉じてあげるから。どこか、締め付けられるところはないかい?」

「一応、試着はしているから大丈夫だと思う。多少のサイズ違いはこっちで調整するから。」

「これで昨日買った服は着れたかい?」

「大丈夫。」

夕夢の服はいつものミリタリーゴシック調の服と違い背にチャックの付いた黒のシンプルなワンピースに金の林檎のワッペンがアクセントのベージュの上着、小さく模様の付いた黒いローファーとなっており、いつもの服よりも露出が多い。

「しても面白い。」

「何が?」

「あの翼は畳むどころか隠すことも出来るなんてね。」

そう、彼女のの腰から生えていた紅蓮の羽はすっかり無くなっていた。

「一応私の体だからかな。」

「人は羽を出し消し出来ないものだよ。」

「耳が刺されたよ。」

「荷物はこれに入れな。」

ニヘルの渡したのは辺がライムグリーンに光るベルト付きの金属製の箱である。

「この前言っていた空間拡張技術のカバン?」

「王から試してほしいとサンプルをもらったからね。遠慮なく使いな。緊急時には変形するとも聞いている。」

「ありがとう。」

受け取ったカバンに荷物を詰め込み用意を終えた夕夢は

「行ってきまーす!」

元気な声を出して事務所を飛び出す。すれ違いざまに女性が事務所に入る。紺色のコートにはレースが何段か縫われており、レースの下からはピアノの鍵盤が頭を出している。

「すみません、幻葬の事務所は此方ですか?」

「そうです。すまないが、どちら様でございますか?」

「申し遅れました。私はこういうものです。」

コートから出された名刺には「紺青の旋律“如月 零風”」と刻まれている。

「色名持ちか。そんな大層な者が何用で?」

「やだなぁ。そんな警戒しないで。観光ついでに有名な事務所を見学しに来ただけだお。」

「だお?」

「おっと、噛んでしまった。まあこれも本音だが本題は違う。昨日のセルヒスみたいな娘はなんだ?いや正確には何で戻っているんだい?」

零風が問いかけるとニヘルは突然包丁を零風の背後に投げる。

「警告だ。」

「あー待て待て。別に言いふらそうとはしないよ。私はセルヒスやネビュラを研究しているのでね。貴重な事象を観測したいんだよ。」

「お断りだね。」

「それじゃあ、謝罪になるかはわからないけどこちらから一個情報を出すね。あんたたちが追っていると噂の主任はネビュラの変異体だ。」

「あの頭からネビュラとは予想付くがやはり変異体だったのか。」

「基本的にネビュラに意思はない。奴らは集まりまた集まることが目的の結晶化した記憶だ。だが主任は言葉を話し挙句の果てには享楽主義的な言動をする。一度体を掻っ捌いてみたいな。」

「あんたが奴に手を出す前に夕夢が手を下すさ。」

「へぇ、それは面白い。ねえ、もうちょっと話をしてもいい?」

「支障はない。こちらに来なさい。茶を入れてくる。紅茶でよいか?」

「お気遣いどーも。紅茶はたまに嗜むくらいに飲めるよ。」

 

「あの人、誰だろう?」

夕夢は中央街の中を歩きつつ思考をしていた。

「なんか偉い人な気がする。あ、そっちか!」

考えながら歩いていたせいで道を間違えながらも中央街宮へたどり着いた。

「入って大丈夫なんだよね?」

入り口で入るか迷っていると

「茜音坂夕夢様ですね。姫様から話は聞いています。どうぞこちらへ。」

メイドの一人が呼びかける。

「はい、案内お願いします。」

道すがら

「その恰好は今日のためにですか?」

なんて聞かれるもんで

「はい、ニヘルのセンスで。」

「良くお似合いです。」

と答えているうちにデルシネアの部屋に着く。

「姫様、夕夢様が到着なさいました。」

「入ってください。」

「ただいま飲み物をお持ちいたしますので先におくつろぎください。」

「わかりました。案内ありがとうございました。」

夕夢は去ってゆくメイドにお礼を言い入室をする。

「失礼します。」

「お待ちしていましたよ。」

「時間に間に合うように来ましたが遅れていませんか?」

少々心配気味に問う夕夢にデルシネアはこらえきれず噴き出した。

「約束の時間の半刻も前に来て遅れてますかはギャグですよ?」

「エ?十分前に着くような時刻に出たはずですが?」

「それ、あなた方の事務所の時計がずれているのでは?」

「ちょっと確認します。」

自分のカバンについている通信機器を起動し事務所ヘ連絡を取ろうとするが

「あれ?どう使うんだ?」

手こずる。

「見せてもらっても大丈夫ですか?」

唐突な姫の参加。

「ええ、問題ありません。」

「では僭越ながらってこれ私の作ったものですね…。これはこのボタンを押した後ダイヤルを三回回すと起動します。」

デルシネアは慣れた手つきで操作をすると呼び出し音のコール音がする。二、三回なるとガチャッと音が鳴る。

「はい、こちら幻葬事務所です。」

「あ、繋がりましたね。」

「姫さん?いったいどうしました?」

「この通信は夕夢さんのカバンから行っています。ニヘルさん、そちらの事務所の時計がずれていないか確認してくれませんか?」

「嗚呼、構いませんが…あ、半刻早いな。」

「やはり…ちゃんと直しておいてください。では。」

通信を切ったデルシネアはこちらに向き直る。

「服、よくお似合いですね。」

「ありがとうございます。」

急に話が下手になる二人。

「そういえば急にメンバーが増えることになりました。」

「誰ですか?」

「エピゥールさんです。」

「え?」

「棘派代表のエピゥール・ファンですよ。」

「ここからソルセドフってかなり離れていますよね?」

「何とか向かうとしか聞いてません。」

「ええ…?」

「まずは座って茶菓子でも食べますか?」

「そうします。」

椅子に座り置かれた茶を飲みつつ茶菓子を食べていると足音が聞こえる。声も聞こえる。

「何故私があんたの送り迎えをしないといけないんだ?」

「たまには外に出て動きな。」

「まあ、力ではかなわないから出るしかないか。」

「えっと、このドアでいいのかな?」

一人は以前に乱入してきたエピゥールのものだがもう一つは初めて聞く少年の声である。ドアが開くとエピゥールと彼女より頭一つ小さい初対面の少年がいる。

「お、いたいた。ヤッホー!」

「失礼おかけします。」

「こんにちは。」

「どうも。」

「あ、自己紹介をしますね。初めまして、ソルセドフ弾派代表のヴァール・ポッシナイルと申します。以後お見知りおきを。」

お辞儀をする彼の背には巨大な銃器と弾の入っている箱が背負われている。

「では私はこの国の工房を見てきますね。」

ヴァールはこの場から去る。

「とりあえず、座ってください。」

「そうですね。」

とうとう姫、血鬼、生物兵器が一堂に会した。

「でね、最近は薔薇がわさわさ生えてきたせいで整備が大変になっちゃって~。」

「それは災難ですね。」

「痛そう。」

「ま、私の仕事は戦う以外だと食べるための薔薇を管理するくらいしかないからね。暇にならないからいいんだよ。」

「ワーカーホリック…。」

「社畜思考…。」

「君たち酷くない?この話は終わらせて、夕夢って言ったけ?羽はどうした?」

「あ、それ私も聞こうとしていました。」

「羽ですか?この服では収まらないので一旦引っ込めました。バランスはとりずらいですが戦うわけではないので特に意識はしてません。」

「えーもったいないよ!あんなきれいなのに。」

「私も間近で見たいです。」

「うーん…。じゃあ、下側のチャックを上げてくださいますか?そしたら出せそうなので。」

上着を椅子に掛け背をこちらに向ける夕夢のワンピースの腰のチャックを開けると肌色が見える。二人は悪いことをしている気がした。

「上げました。」

「ありがとうございます。」

夕夢はこちらに振り向き腕を広げる。同時に翼が広がる。

「わぁ、かわいい!」

「…。」

エピゥールは歓喜していたがデルシネアは黙っていた。

「あのー姫様?何か言ってくださるとうれしいのですが…?」

「………って……い……か?」

「今、なんと?」

「羽、触ってもよいですか?」

唐突のセクハラ発言。

「はい、どうぞ。」

羽を差し出す夕夢。

「ありがとうございます。うわっすべすべ!」

デルシネアは羽根の一本一本まで撫でて堪能している。

「なんだろ、この光景。」

エピゥールは茶を飲みつつその光景を楽しんでいた。数分後、

「いろいろありがとうございました。」

デルシネアは夕夢から離れる。

「いえ、満足していただけたようで何よりです。」

「(またお願いしたいけど何度も呼び出すのは迷惑だろうし、でもまたやって欲しいし…そうだ!)夕夢さんはまだ正式に依頼を遂行したことはないですか?」

「はい、お恥ずかしながら。ニヘルやアイアのように昔からアンサラーをしていたわけでもなく夢雨のように各地を巡ったわけでもありませんので。」

「ならちょうどいいですね。夕夢さん、私の下でバトラーとして働きませんか?」

「それはいい案ですね。」

横からエピゥールの賛同が入る。

「まず、バトラーとは何でしょうか?」

「まずはそこからだね。バトラーとはいわば戦闘を主に行うメイド執事のようなものだ。正確には長期雇用されるアンサラーを指すが。」

「でも。なぜ私を?他に適性のある者がいるのでは?」

「あなたの他の幻葬事務所所属アンサラーはたいてい業務を請け負っています。また、他の事務所とは全く接点がありません。それに、あなたの妹さんから『社会勉強ついでに預かってみては?』とも提案を受けていて…って夕夢さん!?急に横に倒れてどうしました!?」

「いや…妹にすら心配されるとは思っておらず…。」

「すごいショックだったわけか。」

「いいですか?私のところでバトラーとして働けばあなたの評価が少しずつ上がるでしょう。そうすれば良くも悪くもより多くの縁ができるかと。」

「(間違いなく下心はあるだろうが嘘はないか。)どうする?少なくとも得は多いはずだけど。」

「…お願いします。」

「話が早くて嬉しいです。なら早速報告をってエネルギー切れですね。」

「なんというエネルギーですか?」

「イブラという液体燃料です。生成して希釈したものは精神病を緩和する効果があるそうです。少々高いですが伝手で確保は出来ています。」

「あ、それ知ってる。ヴァールが弾丸に詰めてハピトリ工房に卸してた。」

「ハピトリ工房って論理弾工房と業務提携している弾丸の工房ですよね?」

「そそ、ヴァールはいくつかの銃を扱う工房を持っているんだ。」

「今度紹介してくれませんか?」

「わかったー。」

「すみません、交友を広げるのはよいですが通信をしないと。」

「すみません、脱線していました。今とってきますね。」

デルシネアは自室の工房からいくつかの試験管を持ってきた。

「ここを押すと蓋が開くから差し替えてッと。よし、できました。」

デルシネアは再びスイッチを押し通信を行う。

「ニヘルさん?実は夕夢さんをバトラーとして雇用したく…はい…はい。ありがとうございます。わかりました。では。夕夢さん、あなたの荷物の中に契約書があるそうなので今書いてしまいましょう。」

「あ、私も手伝うよ。」

 

 

「これで大丈夫ですかね?」

「恐らくは。」

「見たところ大丈夫そうだね。」

「では署名をしてっと。よし、契約完了。」

「部屋は後日ご用意します。」

「じゃあ、今日はここらで解散でいい?」

「そうしよう。」

「これからはみんなで名前呼びしましょ?」

「いいね、それ。」

「じゃあまたね、デルシネア、エピゥール。」

「私もじゃーねー。」

「気を付けてねー。」

今日の女子会はお開きになった。

「あ、あのカバン武器になること忘れてた。」

自室で一人デルシネアの声が木霊せず消える。

 

「エピゥール、今日は楽しめましたか?」

「ええ、良い友人が出来ました。」

「さすがに帰りは湾曲鉄道を呼びましょう。私は疲れました。」

「そうしようか。」

 

「ふぁ~あ。帰ったら寝るか。おろ?」

「ウァー!強盗だー!」

「うぇー。問題だよ。」

目の前では宝石店から出た強盗が逃走しようと建物の壁を走っていた。

「ショウガイヲケンシュツ。ホウカイエネルギーカッセイカ。」

「あれ?カバンがしゃべった?」

「ホウカイジントハレツハンマーヲセンタクシテクダサイ。」

「えっとこれで選択かな?とりあえず崩壊刃で。」

「ニンショウ。ガジェットテンカイ。」

戸惑いつつも指示に従い操作をする。機械音声に合わせ刃が出る。

「これで殴ればいいのか。殴るまでもないか。」

腕力にものを言わせ刃をカバンごと強盗犯に投げつける。刃と接触した強盗犯の足は蒸発した。

「ぐわっ!」

支えを失った強盗犯の体は地面に叩き付けられる。

「これ、使わない方がいいのか?でも便利だしなぁ。」

地面に落ちたカバンを回収し夕夢は帰路で疑問に答えを出そうと考え始めた。

 

「ただいまー。」

「これ、ネビュラの群生地に各個体の写真と個体差をまとめたレポートね。今日は話を聞いてくれてありがとう。変わり者の相手をしてくれる人は中々いなくてね。嬉しかったよ。またどこかで。」

零風はニヘルに礼を言うと外へ出る。

「帰ったか。どうだ、楽しめたか?」

「うん。」

「疲れているだろうが着替えた後こちらに来なさい。礼儀作法を一式覚えてもらうから。」

「はぁーい。…ッヴェ!?」

「君は此の国の姫の下で働く。あちらでの最低限の礼儀作法は覚えてもらわないと姫さんの面子を潰しかねん。」

「ちなみにどのくらいかかる?」

「其れは君の定着次第だ。」

「ガンバリマス。じゃあ、着替えるからまた手伝って。」

「もちろん。」

「ん?何、この紙。」

「ネビュラという生物についてのレポートだ。」

「さっきの女性が渡したもの?」

「あぁ。紺青の旋律の色名を持つ如月零風というものだ。」

「そんな人がなぜここに?」

「観光ついでらしい。」

「ふぅーん。」

興味を無くしたようで夕夢は自室に入っていく。

「その態度も矯正かな。」

ニヘルは悪い笑いを浮かべる。

 

「うっあうあうわぁーー!」

「やれやれ。壊れたか。」

うつ伏せで叫ぶ夕夢。憐みの視線を注ぐニヘル。

「さぁ、未だ項目は残っているぞ。」

「あうあうあ…あう?」

「言葉までも失ったか。」

「あらあああら?」

「まだあるぞ。」

「ウゴゴゴゴゴゴゴゴ。うっあうあうわぁーー!うわうわ……あう?」

「詰め込みすぎても嬉いことはない。今日はここまでだ。」

「なんでわかるの?」

「夢雨、君はどこに行っていたのかい?」

「友人に会いに行ってきてた。」

「せめて書置きはしておいてくれ。」

「ごめんなさい。」

「わかったならよい。アイアは暫く遠出をしている。其のことは頭に置いてくれ。」

「見当たらないと思っていたけどそっか。何用かわかる?」

「酒を買いに行ったそうだ。」

「酒カス。」

「アルカラ。」

「本人に言ってやりな。其れが最も効く。さ、食事にしようか。」

「今日は何があるの?」

「そうだな、今日は新鮮な魚が入ったから刺身にするか?」

「アクアパッツアはどう?」

「そうだな。奴の白ワインが殆ど無い(嘘)から使ってくれと言っていたしそうするか。」

「手伝うよ。」

「私は?」

「夕夢は休みな。破裂する頭は少ない方が良いだろ?」

「ありがとう。それじゃあお願い。」

「寝たか。さあ、さっさと調理を始めようか。」

「うん!」

二人は手際よく調理を終わらせた。途中で鳴る轟音には何も言わん。

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