ガラス瓶が多く積まれているとある店舗の中、仮面のものは注文を行っていた。
「そこの区画は二本ずつ、こっちの区画は大瓶と小瓶を一本ずつ。樽入りは三つ頼む。」
「いつものやつだな。計七百五〇万六千呈だよ。」
「ではこれで。」
「はい、確認できた。持っていきな。」
「ああ。いつも助かるよ。ここ以外だと購入制限がかかってね。なかなか数をそろえられないもんでね。またよろしくな。」
受け取った酒をウロに引き渡すと店の外に出る。
「お前さんはどうするんだい?」
店主はいまだに店内にいるウロに問う。
「酒の搬入を手伝うよ。」
「いつも助かるよ。けれど大丈夫なのかい?」
「あいつの事なら大丈夫だしオレはむしろ楽しいぜ?それより量が量だしな。品物がスカスカな方が問題だろ。」
「なら頼むよ。」
「よっしやるか。(しかしあいつはまたあそこに行っているんだかな。)」
一方、アイアは探し者をしている。
「多分このルートに来るはずなんだがな。」
土づくりの道の端で酒瓶をラッパ飲みしつつ待ちぼうけ。十分たった頃だろうか。鈴が鳴り響く。
「来たか。」
音のなった方を見ると金色の毛並みの狐が歩いて来る。背には分社とみられる小さな神社が乗っている。てちてちの効果音が似合う歩みでアイアの目の前で止まる。
「(じっ。)」
「案内、よろしくな狐雨。」
「(バッ!)」
「あっ待てとは言わん!勝手に追わせてもらうぞ!」
鬼ごっこが始まると周りの住民は
「まーたかよ。」
「すごい速度だな。」
「あれが巫狐さんの元へ行くための脚力か~。」
口々に喋る。
「(懐かしいな。こいつが初めてきたこと。)」
狐雨と呼ばれた狐は初対面の光景を思い出しながらさらに速度を上げる。
一人と一匹は深い木々の斜面を走り抜ける。周囲には札が張られている。
「(やはり感覚が狂うな。お前の案内がなければ街に戻っていただろうな。)」
「(直に話しかけないでくれ。頭に響く。)」
「(脳内に話していたか。)」
「(そろそろ着くよ。ゆるりと過ごしな。)」
「(今日はやけに近いな。)」
「(迷いの社はこの山のランダムな場所に動く。今日は近かったって話だ。)」
「(いつもこうならよいんだが。この前は深い谷の途中にあったよな?)」
「(あれは…うん、何も言うまい。)」
突然目の前が開ける。鳥居、賽銭箱、そして総本社。この国羅炎を治める霊懺神社である。
「よ、ま、や。」
管理人が住まう建物から出てきたのは黒の狐耳と尾が目を引く巫女である。
「そうさせてもらう。酒持ってきたからあとで飲もう、葛霧。」
「フッ、い、感、わ、は」
「いつも感謝か。客の俺が言うのもあれだがその短縮はやめてくれないか?最近は慣れたが始めてくる人は分からないだろ?」
「ここに来る者などお前以外いない気がするが?」
「それを言って虚しくならないかい?」
「狐雨の背負う分社で成り立っているから問題はない。」
「あんたがいいなら口出しはしないさ。」
「酒はそっちに置いておいてくれ。」
「了解。しかし今日は寒いな。」
「傘を差しておこう。これから降らすからな。」
「この寒さ、初めて会ったときを思い出すな。」
「ああ。いままでは雨はただ凍りそうな寒さを持ち込み、日の光は灼ける熱を流し込む。信仰が作った仕掛けの管理者としての巫女がわっちだった。今は誰かのために差す傘を持てている。感謝しているよ。」
「詩的なことを言い出してどうした。後、気が緩んでいるぞ。」
「ほぉ?」
「今降らすのは夕立ちだろ?これでは狐雨だ。」
「呼んだ?」
「お前ではない。天気雨のほうだ。」
「おっと、これはいけない。部屋に入ろう。雨粒が重くて仕方がない。」
「その尾が濡れているしな。」
「通りで寒いわけだ。早う酒盛りを始めよう。」
「まずは尾を拭いな。」
「なら根元を頼むぞ。体勢が辛いからな。」
「ああ。」
彼らは初対面時から時折一晩中共に酒を飲む日がある。翌日も酔い一つ見せず談笑する光景は妖の宴会に勘違いをさせかねない。見物人はいないが。閉じられた障子の中からは
「その痣、入れ墨みたいよな。」
「仮面を外すたびにそれ言うよな。」
「それほど形が整っているんだよ。ほれ、これでそいつを拭いな。それと今夜はそこで採った山菜のお浸しだ。」
「ありがとう。こっちは干し肉だ。自作だから好みの味だ。」
「おっ、これ好きなんだよな。」
「仕事先の獲物を使うから新鮮なんだよ。」
「これ一個で酒瓶一つ飲み干せる。」
「同感だ。」
酒盛りはまだまだ盛り上がる。
「お前は花を咲かせる気はないのかい?こちらはいつお前が来ようとかまわぬが。それにあんたが咲けば見事な桜を拝めるだろうに。」
「俺はあんたのとこへ行くことを拒んではいない。病も本能も咲きたがっている。だが、このような仮面に頼ってまで面を見せず、観客のいない舞台を演じる気に浸るのは鏡から目を逸らしたいんだ。」
仮面を再び被るとアイアは芝居かかった言葉を言う。
「期待をするから臭い花を嗅がされて、楽しもうとするから落ちる花弁一枚に動揺をするんだ。息をしようと口を開けるから口を塞がれて逆らいの言葉は宴の酒の香り程度にしかならない。なら何をすればいいでしょう?未来?大義?知らないよ?目の前の穴から赤い蜜の溢れる滑稽な醜態を想像しましょう!ああ、赤でなくともいいですよ?不自然に付けられた空の青さも、他の光で白く見えるそんな色もいいでしょう!」
興奮したアイアの仮面を葛霧が扇子で弾く。
「そろそろ頭を冷やしたほうがいい。わっちもだが。さあ、雨に打たれよう。」
「悪い。思い出してしまって。」
「構わんよ。酔い回っては情も浮き足立つ。それにああいったものは酒を抜いてする方が楽しいからな。」
「先にある依頼はない。気負うことなく希望を言いな。」
「それは良いことを聞いた。撤回するなよ。」
「流石に部屋一つ使い物にならなくなるくらいにしとけよ?しばらく動けなくなるだろうから。」
「残念だがそれで行くさ。」
「…言ったのはこっちからだ。覚悟しておけ。」
「おお恐い怖い。」
2人が部屋に戻ると雨も上がる。