アンサラー 幻葬   作:月導

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十章~脱色される自我~

圧倒的曇天の中、夢雨はパタパタと足音を立てている。

「朝から急いでどうしたんだい?」

「あっニヘル。デクショ協会から人員招集がかかったからその準備をしていたの。」

「情報収集を担当する協会だったな。しかし何故君が呼ばれたのかな?」

「今回の調査場所が物理法則が掛かっていないようで魔術を扱える人員が必要らしいの。あと、妨害要素は物理じゃぁ対抗できないからその点でも。」

「なるほど。骨が折れることがないように祈るか。」

「祈って解決はしないよ。」

「おや、神と友人だからそう言えるのか。」

「それはそう。でなければ数百年も夕夢を探してなんかいないさ。あ、これ渡しておくね。」

夢雨は瓶詰めの灰色の砂と銀色に光る波を渡す。

「是は?」

「以前話してくれたハイヴあったでしょ?その時は心当たりがなかったけどそんなものがあったことを思い出したの。とりあえずそこはスティナって名付けてそこにあった砂と波飛沫を採ってきたの。」

「何故私に?」

「これで何か武器が作れないかなーっと思って。」

「此方に丸投げか。しかし、面白い。使わせてもらおう。」

「良かった。じゃあ行ってきまーす。」

夢雨は外に出るとハウンドを呼び招集に向かう。

「行ってらしゃい。さてと、久々に工房に籠るか。」

 

「夢雨さん、座標はどこだい?」

海を走るのは夢雨とハウンド。依頼の招集場所へ向かっているところである。

「えっと、地図だとここらへん?」

「大分アバウトだな。気配はこっちからか。」

「わわっ!」

急激に方向転換するハウンドと慌てる夢雨。

「そういえばだが。」

「ん?」

「今回の依頼の現場は海のど真ん中か?」

「海だったが正しいね。島と呼べる感覚かな。」

「鯨対策は苦労しただろうな。」

「そういえば鯨ってさ、なんか会った気がするの。なんかこう、も…」

「付いたぞ。」

ハウンドは高い壁で覆われたキャンプの入り口で止まる。

「そっか、ありがと。でもまだ引っ込まないでおいて。」

夢雨は還ろうとするハウンドを呼び止め共にキャンプに入場する。

「良いのか?あそこにいる修道女とは関わりたくないのだが。」

「修道女?あぁ~、確かに。持っているのが重機関銃だったりでかい鈍器で関わりたくないね。」

「なら」

「だからこそいて欲しい。」

「何を言って…なるほど。神に仕えるものだからこちらのやばさを認識するわけか。」

「そう。顔合わせだけして後はサヨナラバイバイだ。ちょっとあの人らとは距離を置いときたい。」

「うん、バイバイはだめだよ。依頼はこれからだ。」

「そうですね。」

互いにやいのやいの言っていると

「あの!四元魔術師さんですか?」

夢雨に声をかけたのは下半身が大蛇の女性である。分厚い辞典と筆記具を携えた華奢な腕はその実かなりの筋力があることを物語っている。

「あなたは?見たところデクショ協会の方かとお見受けしますが。」

「その通りです。当デクショ協会四課が今回の指示を担当します。よろしくお願いします。」

「こちらこそ。私は茜音坂夢雨と申します。夢雨と呼んでください。」

「わかりました。間も無くブリーフィングが始まりますのでもうしばらくお待ちください。」

「はい。ちなみにおよそどれほどの事務所が参加するのですか?」

「あなたを含めて四種類ほどに。」

「なるほど。それとその下半身からあなたは複種の人種ですか?」

「いえいえ、これは施術で付けたものです。この足のほうが運搬するのには適しているので。」

「全員集まれ!ブリーフィングを開始する!」

「おっと、長く話しすぎましたか。幸運を。」

彼女は集合場所に向かう。

「私も行くか。」

夢雨も後に続く。

「今回の調査の目的はここらの地下にて発見された遺跡の調査である!無論、出土品の窃盗は厳重に処罰したうえでアンサラーの資格を永久的に没収する。それでは今回の調査に参加する事務所を確認だ!フェイウ教会修道女、間欠工房アンサラー、ルナライト氏、そして幻葬事務所の茜音坂夢雨である。指示は我らデクショ協会四課が担当する!」

「(デクショ協会はこうした遺物調査などをまとめる協会。一般向けの巨大な図書館も併設している。私もたびたび利用していたな。フェイウ教会は忘却された神を信仰する武力集団。彼女らの聖歌を歌いながら戦闘する様子はPTSDになる人がいるほど恐ろしいらしい。そもそも宗教集団な時点であまり私とは反りが合わない。間欠工房は蒸気を利用した武器を開発する武器工房だったな。今回呼ばれたのは発掘時の破損を火薬製品よりも抑えられるからかな。ルナライトは身元も何も不明な独立アンサラーだったな。どれだけ記憶や記録しようと認識が不明瞭だと言われているあたり、独自の認識妨害技術を持っていそうだね。唯一わかるのは光を放つ大剣を所持していることくらいか。ほんとにそこにいることしかわからないね。)」

「それでは調査を開始する!」

「「「「「「ハッ!!」」」」」」

そして遺跡の発掘は開始する。

 

 

「この鞄、開けると刃みたいな触手が出るから気を付けろ。」

「護身用かな?同型のがこの先に複数あるぞ。」

「ここの住民の標準の持ち物だったのかな?」

「これはレーザーの剣か?そしてこっちは霧を放つ大砲…。」

「ちょいちょい、正体の詮索は後だ後。上に運ぶぞ。」

「そうだな。」

発掘を進める間欠工房のアンサラー達。外では時折フェイウ教会修道女が鯨の襲撃から防衛戦を行い爆発音や打撃音が響いている。

「八時に血色の鯨、複数の個体の複合体で来ます!」

「重火器部隊は弾幕を絶やすな!伸びてくる腕を優先的に撃て!」

「聖歌は歌うな!人でないものに祈りなどいらない!」

「「「了解!」」」

「四時の方向、千本束の鯨です!」

「こちらから二名向かわせる!お前ら!リロードの周期をずらしながら向かえ!」

「「了!」」

「上、うるさいな~。」

発掘をしていた夢雨は愚痴る。

「組織にはそんな連中もいるもんさ。」

「あなたはルナライトさん?」

「そうです。今日はどうぞよろしく。」

「(近くで見てもいることしかわからないなぁ。)こちらこそ。」

「霧が出てきたら用心しな。どれほど歩もうと扉を開けようと自分の道が見えなくなりかねないから。」

「え?今のは?」

「長年生きたボクからの忠告。お気をつけて。」

ルナライトはそう言って遺跡の奥に進む。

「なんだったんだろ、今の。」

「おーーーい!」

呆然とする夢雨の後ろから声がかけられる。

「あなたは先ほど話した」

「はい、デクショ協会四課所属、クェグといいます。」

「ではクェグさん、どうして今回ここの調査を始めたのでしょう?見たところ物理法則は正常ですし私である必要がなさそうですが…。」

「実は、妙な現象は発生しているんです。体の一部が崩壊するとか急に空中に飛ばされるとか、挙句の果てには相方が完全な別人のように振舞うなんて報告が。」

「その被害はとんでもなく性質が悪いですね。ていうか最後の現象って」

「な、なんだ!この白い奴らは!」

背後から聞こえる叫び声。

「やっぱり!だからここが滅んだんだ!」

夢雨はハフィラを槍型に変形すると声の原点へ跳ぶ。

 

「距離をとれ!近づくな!」

「し、白い繭だ!」

「ここは白鯨の被害にあっていたのか!」

「上のやつらに伝えろ!さっさと去らないと俺らもこいつらの仲間入りだ!」

彼らの目の前には身体の大半が繭のようなもので覆われた人間だったものがよたよたと近づいている。

“白鯨”

時折大海原(こちらは水から出来ている)から陸に押し寄せる巨大な化け物である。全長は十キロ単位、柔軟ながら硬い表皮、その体格に似合わない移動速度。しかしこういった物理的な脅威は目ではない。最も警戒すべきはその能力だ。まず通り過ぎた地域一体は漆喰を塗ったように白で覆われてしまう。さらに奴の放つ霧に包まれると別人として振舞うようになりそのうち繭に包まれ彷徨うようになる。そして、被害者は被害地域の規模に見合わない少なさ。正体も合わせ謎が多い存在である。

「端に寄れ!串刺しになるぞ!」

夢雨は警告をしながらハフィラを構え投擲する。正確な軌道で繭共の頭は串刺しになる。

「助かった。奴ら、俺らの武器では繭の一枚も突き破れないんだ。」

「ここら一帯の現象の一部かもしれない。上に戻ろう。」

「そうだな。これほど調査が進めば上からのお叱りはないだろう。」

「むしろお褒めをもらえたり?」

「出口が見えたぞ。」

夢雨は外に出れたことに安心していたがすぐに異変に気付く。妙な映像が頭で途切れ途切れに流れてくるのだ。映像は様々で見知らぬ男女に手をつながれて歩くものもあれば何かお叱りを受けているもの、一人寂しく寝台に乗っているものまで様々だ。あたりを見回せば少しづつ霧がかっている。地上に出た。

「!?」

突然の悪寒と共に聞こえたのは地に響く鳴き声である。

「なんだ?今の声。」

「鯨だろ。」

「ちょっと離れたとこにでもいるのか?」

「こんなに響くなら管鳴鯨かもな。」

周囲の者共は意に介していない。穏やかな空気は夢雨の一声で緊張に変わる。

「声の聞こえた方向と直角で走れ!白鯨がここを通る!」

「なんだと!?」

「それは冗談だろ?」

「そうだといいけどな!ハウンド、走れ!」

夢雨はハウンドに跨ると駆け出す。

「彼女の話が本当なら取り返しがつかなくなる!」

「離れるぞ!」

間欠工房のアンサラー達は自分らの乗った車に乗り込むと夢雨の後を追う。

「シスター、私たちはどうしますか?」

「無論、彼らとは逆の方向に向かうぞ。」

「「「了解!」」」

フェイウ教会の修道女たちは頑強な脚力で夢雨たちとは反対方向に駆けだす。慌てる者こそいたがパニックは起きない。それくらい、ここで生きていたら慣れる。

「デクショ協会の方々は逃げないんですか?」

ルナライトは残った彼らに問う。一人を除き彼女らに続こうとしたが一人がそれを許さない。デクショ協会四課部長、エイモツである。

「所詮、ただの一事務所の首輪付きの戯言だ。そんなものに踊らされるわけにはいかないのでね。それよりもお前の方こそ行かないのかい?」

「ボクは対策有ってここにいる。愚者のお前に巻き込まれる常識人は放っておけないからね。」

「貴様…私の立場を知っての言い分か?」

「関係ないね。こちらはいつでも人一人を墜とせる。…来たようだね。」

ルナライトの言葉に合わせるかのように霧を裂き白い巨体が姿を現す。

「アレが…白鯨?」

「すげぇ、初めて見た。」

「自分を無くしたくなければボクから距離を取らないで。ほら、ボクの周りだけ白くなっていない。」

そう言うルナライトの周りは確かに白が無い。

「いったいなぜ?」

「このブローチです。今ボクでは再現できない技術です。」

そう言うルナライトの胸元には見たことのないトレードマークの刻まれたブローチが光を反射せずそこにいる。

「分析してみたいですね。これさえあれば白鯨からの被害を大きく減らせますよ!」

「先ほど暗に申しましたが再現は不可能でしょう。それ専用の技術が必要です。」

そう緊張がやや緩んでいたその時、彼らの頭上を通り過ぎようとした左ヒレが一閃の閃光と共に吹き飛ぶ。ワンテンポ遅れて霧が吹き飛ぶ暴風が起こる。同時に白鯨の絶叫が響く。

「なんだ!」

「あっちから光ったぞ!」

一人の声に視線が集まった先にはキャノンといえる武器を構えた影がある。ガチャガチャと変形しながら背に背負うと数歩に分けてこちらに跳んでくる。主任である。今回も黒曜石の鎧である。

「おっと、人がいるとは知らず、すまないな。」

「いえ、お気になさらず。えっと、あなたは?」

クェグが名を問う。

「主任と申します。すぐに去るのでお気になさらず。おーい、回収しておいてくれ。」

主任の掛け声に合わせて影たちがヒレを回収しようとするが

「待て、それは此方で回収する。手を出すな。」

傲慢なエイモツの言葉に主任は鼻で笑う。鼻などないが。

「あんたらが?どうやって?そのために来た訳でもないだろうし。…そこから動けないのにか?」

「だがこちらの方が貴様らよりもそれを有意義に活用できるさ。手を出すんじゃねえぞ。」

「おーい、回収できたか?よーし、戻るぞ~。」

無視である。

「待て!」

怒りで足を踏み出したエイモツの体を繭が覆う。

「うわぁぁぁぁ!」

やかましい絶叫をよそに

「ん?なんか白化が早いな。これが近いせいか?」

冷静な主任は回収された千切れた白鯨のヒレを見る。巨大なヒレは手のひらサイズまで縮んでいる。そして金属の容器に入れ密閉すると

「んじゃバイバーイ。」

背負われた廃熱装置を揺らしながら離れる主任。白鯨はすでに去っていた。置いて行かれたルナライトは繭に包まれたエイモツを見下ろし

「ここまで覆われたならもう戻らんか。価値もないし処すか。皆様、問題ないですか?」

「ヴ…ヴァア…」

「恐らく。ですが、骸はこちらで引き取ってもよろしいですか?何分、貴重なサンプルなので。これ程新鮮な繭はぜひ欲しいです。」

「問題ないです。ではっと。」

ルナライトは背負っていた円錐の槍の仕掛けを起動するといまだにうめく繭に突き刺す。すぐに繭の動きは止まる。

「ボクは帰るから。ま、そいつは白鯨に襲われて繭になり、危険だと判断したから処理したとしておいて。依頼金は指定した口座に振り込んどいて。それじゃバイバーイ。」

そう言い残し去るルナライト。ポツネンと立っていたデクショ協会四課アンサラーは弾かれた様にサンプルと遺物を回収し自分らの支部へ帰っていった。

 

道中、主任共は話し合っている。暇つぶしである。

「さぁて、あの一人の事だが…何か知ってる?」

「ルナライトと名乗る独立アンサラー、夜間に光を放つ大剣を所持しているくらいですね。ただ」

「反ミーム性が高いな。それも過剰レベルで。」

「それに白鯨の白化が抑えられているとなると…」

「HHNかそれに近いものを持っているかもしれないな。」

「動向は警戒しておきます。」

「頼んだぞ。じゃ、もひとつ。後ろからの気配。」

振り返る主任はハウンズに跨った夢雨と対面する。

「こうやって顔を合わせて話すのは初めてだな。」

「早くくたばっちまいな。」

「うーん、辛辣。あの譲さんは元気にしているかい?」

「あんたには何も言うことはないね。」

「おっそうか。元気で何より。出会えたついでに一つ、白鯨は生物ではない。」

金属の缶を見せながら主任はそう宣う。

「生物でない?」

「多分生物の一歩先だろう。鑑定をしないと行かんので私たちはここで去るよ。」

主任と周りの影共は消える。

「夢雨さんよ。ちょっとばかし熱い。感情を抑えな。」

「わ、悪い。」

「ったく、怒りで狂火を出しかけるなんて何十年ぶりか?」

「そうだね。厄介者もいなくなったし事務所に帰ろう。」

「トバす。掴まってな。」

「へいへーい。」

素晴らしい速度で事務所へ帰る二人。

「どのくらいかかる?」

「行きと同じでよいなら三時間。」

「三倍。」

「オケ。」

元から音速に近い速度はさらに上がる。

 

「ただいま~。」

「帰ったか。」

「アレ?アイアだけ?」

「ああ。ニヘルは工房に、夕夢は姫さんのとこだ。」

「白鯨と主任に出会った。」

「その話は詳しく聞きたい。後ででも大丈夫か?」

「大丈夫。」

アイアの後方から足音が響く。

「訂正。ニヘルはここだ。」

「おかえり、夢雨。」

「ただいま。そのレイピアは?」

「今朝の素材で作ったものだ。素材の特性に手こずったがひとまず形になった。」

「持ってみてもいい?」

「もちろん。もとより君の物だ。」

「では失礼。重いね。取り回しの良さがレイピアの特徴なのに。これじゃその長所が潰れてしまうよ?」

「其処等の人ならばね。だが君の姉なら?」

「…うん。いけそう。あの大剣を木の棒のように振り回すからね。」

「其れに。」

「何?」

「夕夢から依頼があってね。レイピアを一本拵えて欲しいと。」

「なぜ今?」

「是らしい。」

ニヘルは一枚の手紙と書類を差し出す。手紙には夕夢とデルシネアの名が、書類には

“決闘代理:セント協会”

と書かれていた。

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