アンサラー 幻葬   作:月導

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閑話休題~【検閲済み】~

そこらに灰、景色を映さない銀の湖、そして円形に並ぶ巨大な廃墟群。砂に刻まれた二種類の足跡。一つは小さくて深く、もう一つはやや大きめで浅い。

「まさか、他人の心に土足で入ることになるとは。」

先に口を開く男はニヘル。

「都合が良かったからね。材料も手に入るし以前あなたのアガストに入れてもらったお礼も出来そうだったから。」

答える女性は夢雨。

「スティナ、か。」

沼底に沈んだ感覚が纏わりつく。

「今まで、沈鬱だったんだな。」

「ん?」

「いや、何もない。」

「ん-そっか。」

再び足音しか聞こえなくなる。廃墟群を抜け二人がたどり着いたのは他の廃墟とは違いきれいに手入れがされた邸宅。

「いらっしゃい。さ、入って。」

「そうさせてもらおう。」

優雅に邸宅を案内する夢雨と後を付いて行くニヘル。着いたのは屋上に設けられたテラス。

「待ってて。今お茶を入れてくる。」

「済まないね。」

「客をもてなすのが誘った人の礼儀だよ。」

椅子に座るニヘルは目先から本を取り出す。題名は『ドン・キホーテ』

「これは失礼には当たらぬよな?」

そして読み始める。

「…。妄想か。凄まじいものだな、人とは。」

序章を読み終えた頃、僅かなカチャカチャと音を立てて夢雨がティーポットとティーカップを持ってきた。

「あれ?それドンキ?懐かしいなぁ。」

「読んだことあるのか。」

「初めて読んだ文学だから。ささ、お茶にしよう。夕夢から楽しそうに姫さまとエピゥールさんで楽しんでいてやってみたかったんだ。」

「まさかそれだけのために?」

夢雨はコツンと頭を叩き

「ばれた。」

と言うとカップの親を飲み始める。釣られてニヘルも一口すすると

「実に美味い。だが飲んだことない茶葉だな。それとこの甘さは一体?」

茶の出来を褒める。

「その茶葉は烏龍茶。甘さは少しの蜂蜜かな?」

「今まで手を出していなかったな。今度からこちらも飲んでみるか。」

「油分の多い料理を食べるときのお供だよ。今度作るから食べよう、中華。」

「いや、私は小食で…」

「小籠包なら食べやすいから。」

「あの」

「餃子でもいいよ?」

「…。」

「ね?」

「降参だ。」

「よし、じゃあ今度みんなで酒を飲みつつ点心を摘まもうか。」

「待ちな、君はともかく姉の夕夢はまだ十八歳ではないだろ?」

「酒を飲まずとも酒盛りはできるよ。」

「夢雨、失礼を言おう。君も相当の酒飲みだな?」

「アイアはいろんな酒を飲み比べるように飲む。私は一本の強い酒を流し込むように飲む。あまりにも違う。」

「なにも違わぬと思うが?」

「ちーがーいーまーすー。通常版と限定版ぐらい違うんだよ!」

「?」

「こーれ何もわかってない!」

身体を反らして叫び出す夢雨。そのまま後ろに倒れる。

「痛って!」

「大丈夫かい?」

「うん、ま「【規制済み】」え、待て待て待て、不味い!」

妙な雑音がすると同時にテラスの下に飛び降りる。

「入室の挨拶?いったい誰か、聞いたことない声だが。」

「【規制済み】」

「君は誰だい?見掛けぬ風貌だが。」

「【規制済み】【規制済み】【規制済み】【規制済み】【規制済み】【規制済み】」

「なるほど、夢雨の友人か。しかしどうやってここに入ったんだい?」

「【規制済み】」

「なるほど、意識をこの邸宅の地下にある人形に入れているのか。」

「【規制済み】」

「それでも人間相手では相手が壊れると。難儀だな。」

「【規制済み】」

「人ではないからかな?」

「【規制済み】」

「ふっ、慰め感謝する。」

「【規制済み】」

「何がかい?」

そこへ戻ってきた夢雨は

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!」

「…これか。安心しな夢雨。私は壊れていない。むしろウキウキという状態だ。」

「…何ともないの?」

「そう言っている。」

「はーーよかったー。おい【規制済み】!なぁにアポなし凸してるんだ!」

「【規制済み】」

突然崩れ落ちる【規制済み】の体。

「笑っ帰んな!!」

「しかしこれはどうしようもない。幸い私はこの通り無事だ。」

「少しでも不調が出たら言ってね?介錯するから。」

「そうさせてもらう。」

返事と立ち上がりを共に済ませたニヘルは

「帰る前に湖で遊ぶかい?カヤックなら出せるが。」

遊びの誘いをする。

「落ちないでね?」

暗に提案に乗る夢雨。共にテラスから飛び降り湖に歩を進める。足音はガラスの破片を踏んだかのような音がする。

「アレを見ても平気だから言うけど。」

「何だい?」

「もしも私たちが夢だったら?」

「何もできないさ。目が覚め三歩歩けば台本は五里霧中。忘れられているだろう。」

「諸行無常なり。」

 

「…済まない。是は察せるものだったな。」

「止めて。本当に恥ずかしいから。」

二人に気まずさがあるのは眼前の湖が原因だった。大荒れの波、肌を切り裂きかねない風、肌を焦がしかねない熱波が放たれている。

「この場で大泣きして大暴れして怒りたいことがバレた。もうマジ無理。」

orz状態で呪詛を流し続ける夢雨はよろよろと立ち上がりつつヤトシイを鎌型に変形すると弾丸を頭に打ち込む。

「無理を承知で付き合って。」

武器を振り回しながら涙を流す夢雨。

「この唐突で好戦的な感じ、嫌いではない。むしろ気に入っている。」

二つに分けたトーラスの刃を鎖状に変形しながら薄ら笑いを浮かべる。

「ありがとう。」

感謝の声と地面が線状にガラスになったのは同時。

「あなたも抗って。」

「私は是程の熱を求めている訳ではないのだが、それでも寒いままよりは好いだろう。凍ってしまえば痛みも感じることが出来なく成ってしまうから。」

ニヘルも動き始める。足がとられる砂地でも戦いの速度は変わらない。振るい弾き避け続ける。一度の失敗も許されない。大振りな技は単体では使わない。必ず生まれる隙を埋めるように小回りの利く武器での攻撃を合わせる。

「嗚呼素晴らしい!このモーション、緊迫感、圧倒的ボスの風格。正に私が求める良ボスだよ!」

「楽しんでいただけたようで何より。しかしこのまま終わらぬ戦いを続ける訳にはいかない。」

トーラスを連結すると背負い空いた片手に橙の光を、もう片手には二つの白い半球を浮かべる。

「心配しなくてもいい。是は危険だ。」

「それは誤解を事実にする的な意味だよね!?」

答えはない。返答は両手を合わせるその動作。急激に膨張する半球たち。片手で握れる程度の大きさだったそれは抱え込むる程に大きくなる。

「…あ(察し)それはアカン!ねえ!形態変化の演出にしては張り切りすぎ!」

「?」

何が不味いんだ?なんて言いたげな顔をしながら半球の面を合わせるニヘル。既に内部からは甲高い音が聞こえる。わずかな隙間からは眩い光が漏れている。

「抑え付けられた鬱屈はこうなるのさ。」

そのまま蹴り上げられた球体は爆発し太陽のような熱と青白い光を放つ。

「知り得たか?」

硝子のようになった地面に立ちながらニヘルは背後に立つ夢雨に問う。

「乙女の心が燃えちゃった。酷いね、更に私自ら体を焼かせて…処刑執行だ!」

夢雨の姿は袖は無くなり、スカート部分は深いスリットが入っている。全身には無造作にヒビが入り隙間からは黄金色の光が漏れている。

「…フゥ、気を緩めれば頭が咲きそうになるな。」

片手で目を覆いながら呻くニヘル。

「狂焔からは目を逸らした方がいい。人であれば目が燃え尽きる光だ。そして」

夢雨は自ら目を覆う。手の隙間から光が漏れる。

「【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】!!!」

長い絶叫。身体のヒビも感応するかのように光る。

「私に宿る火種は力を与える。身体を焦がし流れる涙はモノを問わず溶かす対価を払うけど。」

片目を隠す夢雨。指の隙間から大量の涙が溢れる。

「でもこうやって焼けるから悪い事だけではない。」

「っ熱い。二度も触れたくはないな。」

「ならば行きましょう、フィナーレです!」

彼女の頭上に太陽が現れる。ちょうど、眼前の彼と同じ所業だ。

「今から謝罪しても遅いか?」

「既に着けられた火は消せないよ。」

太陽は弾け無数の狂える星屑が降ってくる。

「致し方ない。」

ニヘルは目を瞑り続け自分の武器を投げ捨てる。真上には星がある。触れるか触れないかの刹那、揺らぎが起こり一歩離れたところに再び足を着ける。絶え間はない。ただ己を揺らがせる。やがて光は尽きた。

「橙は膨張、須臾を引き延ばすことも出来る。」

「当たると思ったけどよく避けれたね。」

「解釈次第で事は運べるのさ。」

「はえー。」

「済まないが扉を開けてくれ。この目玉を取り替えないといけないのでね。」

「あ、じゃあ交換したやつちょうだい。質の良い素材が不足していてね。特に狂焔で焼いた瞳はね。」

「解った。」

「はいじゃこれ。あ、手は引いた方がいい?」

夢雨は鍵の首飾り、アナシュヨを外し空で捻る。すると銀の門ができる。だがそのままではニヘルは歩くこともままならないだろうと気遣う。

「済まないが頼む。」

「任されましたと。」

手を引きながら夢雨は門を押し開く。

「あ、酒の席は今度用意しておくから。」

「…今言わないでくれ。」

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