アンサラー 幻葬   作:月導

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本編始動


一章~断ち切れないもの~

アイアの出発から三日たったとある日、一通の文が幻葬の事務所に届いた。中身を開いたニヘルの顔が歪む。顔だけでなく

「ゔっ。」

と声まで渋くなっている。

「どしたん、何かあったんか?」

と聞くのは留守番のウロである。

「オーネ協会から会議の日程もろもろの通達だ。」

「そりゃそんなツラになるわな。でも、すっぽかすわけにはいかんのだろ?」

「出来たらこんな顔にならないさ。」

「狸どもは相手するのが面倒くさいからな。」

と二人は愚痴をこぼしあう。

ちなみに協会とはアンサラーたちの元締め的存在である。アンサラーの格付け、指名依頼を行うサロポ協会を筆頭に活動方針の種類だけ協会は存在する。ちなみにオーネ協会は職人、技術系の管理を担っている。ここにいる者たちは互いの特許、秘匿技術を得ようと腹を探りあう狸どもの巣窟となっている。

「依頼品の修理予定、巻くか……。」

「それって姫さんのやつか?」

「そうだ。だから遅らせたくない。」

「ここの王さんたちには世話になっているしな。」

そう、幻葬はこの国、アリゴお抱えの事務所なのである。なので軽いノリで大切なものを預けられる。うれしいが緊張するものである。

「ボチボチ始めるか……。」

とため息をつきながらニヘルはこれからの予定を考えるのであった。

 

 

~とある廃墟~

透明な液体で満たされたガラス製の筒の中に、一つの人が浮かんでいた。紅く長い髪が特徴的な身長160㎝程、病院服を着た十六歳の少女である。周りには制御装置と思しき機械の箱の他、いくつもの人影があった。文字通り輪郭はぼやけ、影のようだった。が、そのうちの一体は様子が違った。体は透明感と艶のあるゴムのような質感、頭部は翡翠色のガラス球と明らかに人ではない。彼らは何かを話し合っていた。

「第二区画、突破されました!」

「規模は?」

「ライノタイプ、120体。」

「手の空いた職員に爆発杭持たせて突貫させとけ。」

「主任はどうしますか?」

「無論、私も行くぞ!!」

「「「ぎゃははははは!!!」」」

主任と呼ばれたガラス頭を筆頭とするそんな騒がしい声が去ったあと、今まで眠っていた少女は目を開いた。周りを見回し誰もいないことを確認するとガラスをまるでそこにないように通り抜けた。その顔は憎悪で歪んでいた。だからだろうか、その様子を見つめ続ける一つの塊があったことに少女は気付かない。そのまま廃墟の出口を探して歩き始めた。

 

 

~ニヘルinオーネ協会~

「貴様ら、我らの兵站技術の秘匿部分を使用しているとの情報があるが、これは事実か?」

「いえいえ、リギア工房さん。あなた方の技術は複雑すぎて我々ウーテ事務所の職員は真似できませんよ。」

「では、この密告は何だというのだ!」

「静粛に。技術戦争はここで行うものではないぞ。」

「チッ」

「……フゥ。」

「(ガキの喧嘩かな。)」

なんてニヘルはあきれている。だから会議が嫌いだし新たな職員を入れようとはなかなか思わない。秘匿するものが多い組織ほどリスクも上がる。

「(でも、そろそろ人手を増やしたいしな……。)」

「今の時をもって会議を終了する。」

そんな厳かな協会長の一言で会議は終わった。協会のビルから出たとき、依頼帰りのアイアと偶然ながら遭遇した。互いに走りながら世間話をする。

「息災だな。ニヘル。」

「匂い立つな。これまた多かったんだな。」

「ああ。なぜかここのところ一段と多くなってきた。人攫いだとしても質が高すぎる。施術もしていないように見える。動きが秩序だっている上手馴れているのが不気味だ。」

「複製かもな。」

「いや、ミメシスと呼ばれるそういう技術は記憶まで完全に模倣することは困難だ。」

「だから肉体保険なんてものが成り立つからな。」

「体の欠けたやつらも金があればまた活動できるなんてね。俺には無縁なものだが。」

「そうこうくっちゃべっているうちに見えたぞ。」

「今日の海は鯨がいなかったな。」

「今はな。」

ここで彼らが言う海とは、国の管理下に置かれない土地一帯を指している。ちなみに鯨は海に生息する脅威全般を指す。

「なあ、振り向いてもいいか?」

「なんで聞くんだ?」

「振り返ったら面倒事が起きそうだからだ。」

「起きるなら振り向くもんだろ。」

そういうとアイアは愛用する大太刀、桜昏を引き抜くと振り向く。まず視界に入ったのは紅だった。その次に気になったのは服装だった。まるで病院着で普段着には到底見えない。靴も履かず何かから逃げているように見える。奥からは黒とオレンジの塊が数体追ってきた。

「あの国のライノタイプか。肉厚だな。」

そう独り言ちると振り抜きながら前方に飛び出した。

ヴォン

風を切る音一つで黒い軌跡が塊達を輪切りにした。

「ちょっと硬いな。やっぱり。」

そう感想を残しこちらに戻るアイア。ちなみに少女はニヘルが背中にかくまっている。

「大丈夫かい、お嬢さん。」

とアイアが確認をするために声をかけると

「ここにいたか。」

「「「!?」」」

ここの誰のものでもない声が一つすると三者三様の反応をする。少女はニヘルの腰に強くしがみつきながら今にも噛みつきそうな眼をしているし、ニヘルは声の主を睨みながら腕を少女にまわしつつトーラスに手をかけ、アイアは先ほど振るった桜昏の切っ先を声の主に向ける。黒いビジネススーツを身にまとい真っ黒な体と緑のカラス球を頭に持ったそれは

「主任……!」

「おや、どこかで名乗ったかな?」

「たまに見ていたからな。私の家族を殺しておいて飄々としやがって!」

「困ったな。否定の材料がまるでない。」

「それは認めるということでいいのだな!」

「……。そうだな。」

「っここで終わらせてやる!」

そういうと少女は飛び出し跳躍するといつの間にか両手に握りしめていた自身の身長ほどもある大剣を主任に振り下ろす。だが、力だけの一撃などよけやすい。主任は歩くだけでよける。

「君はここで私を殺せない。連れ帰ろうにもあなた方は許さないでしょうね。今回はひかせてもらうよ。」

そういうと主任は見た目を変える。それは黒曜石の輝きを持つ右側の手甲と腹部のない鎧、左腕と両足にはそれぞれ色の違う注射が3本ずつ刺さっている。

「まて!」

少女は叫ぶが

「good-bye」

その声とともに主任は掻き消えた。

「これからどうしよう。」

なんて少女はつぶやく。

「なあ。」

「そうするか。」

「譲さん、君が良ければとりあえずついてくるか?」

「え?」

「いや、君は今身寄りがないだろうから。無論、君が選びな。」

「(この人たちはあいつらとは違う。それに何か懐かしい感じもするし)よろしくお願いします。」

「なら、着いてきな。」

そう言いニヘルは少女の手をつないでアイアと共に事務所に帰った。

 

~幻葬事務所~

「さてと、どこから話したもんか。まずは自己紹介か。自分の名はニヘル、ここ幻葬という何でも屋の制作担当だ。」

「俺はアイア、幻葬の戦闘担当だ。あんたの後ろにいるのはウロ。俺のエゴイストというやつだ。まあ、もう一人の俺といえるやつだ。」

「あ、こんにち……ひっ!?」

「えっ?」

「あっごめんなさい。あいつの仲間にあなたのような見た目の連中がいたもので。」

「まーしゃーなしやな。」

「お前も軽いな。」

「トラウマなんてそんなもんや。」

ウロがそう言うと

「あはは……。」

アイアは暗い顔になる。

「ウロ、いじるのはそろそろやめとけ。」ニヘルがたしなめると

「次は私の番ですね。初めまして、私の名前は朱音坂 夕夢(あかねざか ゆうむ)。16歳、双子の妹がいたけど今はもう会えない。」

「そうか。ちなみに一ついいか?」

「はい。」

「お前がさっき振るったあの大剣はどうやって出した?」

「わからない。潰すと思った時には握っていた。けど、まるで自分の体みたいに使えたのだけど。」

「なあ、やっぱり。」

「思った通りだ。夕夢、あの大剣は今出せるか?」

「あ、出来た。」

「やはりな。」

「ん?」

「そいつはコギトという。飽和した自我の具現化された装備……まあ、そいつ専用の特別な武器だ。ちなみにあの塊達を薙ぎ払ったこいつの太刀や俺の背負う武器もコギトだ。」

「飽和した自我……?」

「今の話からして家族の死が引き金だな。反応からしてさっきのが初めてだな。」

「まあ、はい。」

「コギトを生み出すこと自体は誰でもできる、だがみんな途中で折れたり諦観するせいでコギト使いはかなり貴重だ。」

「あの、お願いがあります。ここにいさせてください。」

「あ?」

「な?」

「や?」

と三者三様の困惑の声を漏らす。

「やはりだめですか?」

「いや、君のような人材は欲しいと思っていたが……。」

「断る理由は……あれを見たら無いな。だが一度確かめてもよいか?」

「あ、はい。」

アイアはそう夕夢に問い、了承を得ると皿の片方が灯篭の金色の天秤、 秤篭を彼女の鼻先に突きつけると呟く

「汝、先ほどまでの言、偽りないか」

「!?」

夕夢は気配のねじれた感覚におびえてしまう。だが、アイアは柔和に笑い

「天秤は傾かない。大丈夫だな。疑って悪かった。」

「い、いえ……。」

「あーあ、泣かせた。」

「悪かったって。」

「こんな茶番は置いといて、これからはよろしくな、夕夢。」

「よろしくお願いします、お三方。」

「待て、後でもう一人紹介するな。」

「もう一人いるんですね。」

「……まあ、はい。」

「(あっふうん、何かあったんだこれは。)わかりました。」

「(復讐ね……)」

きっと彼女は主任という男に執着し、殺そうとするだろう。復讐と憎悪によって廻る人生なぞそう簡単に断ち切れない。そんな光景をいくつも眺め、関わり、入り込んだニヘルは一人憐みの念を持った。

「(俺にできることはないね)」

そんな結論を出した後、修理品のことを思い出したニヘルは発狂の奇声を小声で出して心配をされた。

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