「アイア、先日の疲れはどうだ?」
「大方とれたといったところだ。」
「それで大丈夫なのか?」
「腰を据えて調査をするんだ、気張りすぎなくていいよ。」
「それが足元を掬われることに繋がるぞ。」
「人はいずれ死ぬ。遅いか早いだ。行くぞ。」
「わかった。私は遅れて行く。」
「まさか夕夢もやってくるとはね。実践経験にはよい場だろ。」
アイアはレタンで目的地へ繋ぐと移動をする。
「(今回の調査は既存の遺跡が別次元へ繋がっていることの確認及び資源調査。私も一枚噛ませてもらおうか。)」
「デルシネア。私が遺跡調査ですか?」
「面白いものが見れると思いますよ?」
「先日のも見ごたえありましたが今回は私が行くんですね?」
「送るのは私がしますので。その遺跡ですがたまに出る異界接続型で、その名の通り別次元の世界に繋がっているのでここには見られないものもあります。」
「私の世界かな?」
「ハイもノーも言えません。」
「行ってみようと思いますが送りはどうするの?」
「バイクです。」
「あなたのバイク?」
「マイバイク。」
「乗れたんですね。」
「当然ですよ。」
「どのくらいかかるの?」
「全力で三時間。」
「お願いします。」
「じゃあ付いて来て。服は治ってる?」
「治ったんですがいくつか変異しまして。」
「何が起きたの?」
「コレです。」
「羽根?鼓動?なんか生きてない?」
「生命度七割増しでお送りします。」
「いらないです。」
「でも適応度が上がったんでこの前の事故なら耐えるかと。」
「着替えたらこの前のバス前に来て。」
「ハーイ。」
…
……
「出来ました。」
「いいですね。ではこれを被って。」
「ヘルメットですね。」
夕夢は手渡された流線形の黒いヘルメットを被る。
「これに乗っていきましょう。」
デルシネアがスイッチのボタンをコマンドのように連打するとかなり頑丈なつくりのバイクが出る。タイヤは装甲の下にあり座席も強化ガラスのカバーに囲まれている。
「私改造のバイクロシナンテ。後ろに乗ってください。」
「シートベルトとかは?」
「私にしがみついて根性で。」
「ひっどい。」
「ひっもどいも言わず乗りなさい。」
「はい。」
「乗れた?」
「翼は仕舞った方がいい?」
「翼も前に回したら?(むしろ回して。)」
「じゃあそうさせてもらうね。」
「(あー気持ちいい~。)アクセル吹かせるから行くよ。」
「一ついい?これ王たちは知っているの?」
「デルシネアは何も言ってません。」
「えっちょと」
「えい。」
「なぁーー!」
メイドたちは走り去る二人も姿を見て狂乱するしかなかった。
…
……
「どうです?」
「いい風だね。」
「改造したので市場にはないスペックにできたんです。」
「鯨を流し目で見れるのは新鮮だね。今までは細切れか避けるかだったんで。」
「厄介なものもいるので避けるのは正しいですよ。」
「あれはトラばさみのような鯨、あっちは束が集まったような鯨、そっちは泉みたいに液体を溜めている鯨、数が多すぎて対処法を覚えるのも一苦労ですよ。」
「覚えてどうするんですか?」
「捕まえて食ってみます。」
「悪食過ぎません?」
「減衰液被って適応出来たら食っても模倣できると思いません?」
「超理論過ぎて疲れます。」
「それはごめん。いくつか気配があるね。十一時の方向。」
「あれは…魔族ですね。」
「魔族?」
「この世界に初めからいた種族の一つです。魔法関連に強く魔術師は彼らに師事を乞うことも多いです。ただし、気に入られなければ食われます。」
「人食い?」
「食べるといっただけで主食ではないです。鯨を狩っていますし。」
「でもあれ鯨?四足歩行兵器みたいだけど。」
「兵器?」
デルシネアは魔族と戦うそれを見ると無言でアクセルを踏み抜く。
「デルシネア!どうしたの!?」
「あれには関わらないでください!あれは不味いです!」
「だからどうしたの!」
「,D@;QTO。アンタッチャブルです。出会ってしまったら落ち着いて正座をし、自分の信じる者に祈ってください。」
「なんなの、それ。」
「見ればわかります。くれぐれも落ちないように。」
夕夢は慎重に後ろを振り向く。,D@;QTOと言われたそれはしきりに管を魔族に突き刺している。突き刺された魔族の体はまるで中身が無くなった殻のような肉片になる。一方、管を収めた,D@;QTOの体にカプセルが一つ出来る。いくつかのカプセルの中身が注入されると体を揺らし始める。顔らしきパーツが開くと先ほど肉塊になった魔族の特徴が複数反映された武器が出てくる。
「ひぇ」
「情報の引き渡しはもう少し離れてから。行きますよ。」
「わかった。」
そのまま走ることニ十分。
「,D@;QTOはああして周囲の存在のらしさを奪い取って武器にします。デクショ協会からの情報としてその武器は意識を残しています。意識を形にされたといったものですね。武器の強度、殺傷性は元となった人の特異性、独自性に比例します。六年前、デクショ協会二課が捕縛に向かって部長以外帰りませんでした。その情報だけでアンサラー達は近づくなと警告しあっています。あなたも、近づかないで。」
「わかった。」
「あと一時間です。気張りましょう。そうだ、協会のほうに連絡しないと。夕夢、この受話器を取ってくれます?」
「こう?」
「番号はYSIーRW0Oー764fです。」
「繋がりました。」
「!!?……1143124-139592-HIJ……はい、よろしくお願いします。」
「まだなんか話していますよ?」
「気にしてはいけません。」
「(多分国の人達からだろうな。これ、私が悪いの?)」
「何故繋がらない!」
「途中で切られるそうです。」
「あんのお転婆姫!」
「どこ行きやがった!」
「夕夢さんは?」
「一緒じゃ!」
「多分丸め込まれたんだろうね。」
「もうやだ。」
「着いたよ。」
「デルシネア、本当にやるの?」
「あっちの世界を見れるなら。」
~ニ十分前~
「あっちを見たい?」
「私は調査に行くことが出来る腕前を持ってませんがそれはそれとして見たいです。」
「どうするんですか?通信はまともに繋がらないですよね?」
「雀猊の力でこう。」
「出来るんだ…。」
「出来るの!?」
「血と目を片方交換…え?」
「眼球は分かりますが血ですか?」
「この前、私に突っ込んだあなたの血液と感応度を引き上げてそれを私の眼球に流すことで視界の確保を、血液は通信時のルーターの役割をするそうです。」
「よし、やりましょう。」
「いやいや、拒絶反応とか起きて不味いでしょうし、第一痛いでしょ…大丈夫?え?一時的に雀猊に体を渡せば?…変なことしないでね?」
…
「本当にするんですか?」
「しますけど?」
「なら雀猊、頼むよ。」
夕夢の体が支えを一瞬失う。
「うぉと。」
立て直した夕夢の目は瞳孔が片方に三つも四つもある。
「直接話すのは久しぶりですね。」
「久しぶり。」
「眼球の交換はどうするんですか?」
「そのために私の待機所に行こう。事前に手を回してもらっていたらしいから。」
「はーい。」
そして二人は箱型のテントの一つに着く。
「とりあえず入ろう。おろ、何も入ってないな。」
「荷物一式持ってきたんで大丈夫です。」
「とりあえずマットだけ敷いてもらえる?」
「(ゴソゴソ)これでいいですか?」
「ちょっと試したいことがあってな。」
雀猊は右手に自分の血で4を書く。
「予想が正しければ(メクリー)繋がるんかい。」
「床下収納?」
「違う。夕夢のハイヴだ。世界版のコギトだ。入るぞ。」
雀猊は中に落ちる。
「受け止めるからドンと来い。」
「わかりました。ほっ。」
「よし、無事来れたな。」
「奇妙な迷宮ですね。」
「この部屋を使おう。」
雀猊は背後のシャッターを開けて入り、デルシネアも後に続く。
振り向いた雀猊は人差し指を立てる。
「この指から目を逸らさないで。」
「…。」
「(フッ)いい子だ。」
ブチッ
「終わったよ。私の顔を見てみな。」
眼前の雀猊の左目は自分の眼球になっていた。
「自分の顔を見てみな。そこの鏡で。」
「あ。」
雀猊の左目が自分の眼下にはまっている。
「私の視界を君にあげた。夕夢の体だとこれが出来ないからね。そんじゃ行くよ。掴まって。あちょっと待って。」
「どうした?」
「カラコン作るから。出来た。これ着けて。怪しまれる。」
「あー。そうですね。」
「じゃ行くよ。」
そのまま廊下の天井の穴に跳びあがる。
「このままマットを閉じたらオケ。じゃバイバーイ。」
雀猊の瞳が元に戻り夕夢が起きる。
「準備できた?」
「見えます。夕夢の後ろ姿が。」
「何も起きていなさそうだ、ん?デルシネアの目とあんたを通して話も出来るの?思ってもない副産物だね。そういえばデルシネアの警備は?」
「あ、聴こえます。見たらそちらで幻覚に落とすそうです。」
「一応、ニヘルにも伝えておくよ?」
「(う。)お願いしますね。」
「…嫌がるんじゃありませんよ。」
「バレてる。」
「よし、これでいいですね。では行ってきます。」
「お元気で。」
夕夢は遺跡の入り口に向かった。
「コンクリートみたいだけど、骨みたい。異質だね。」
「お前さんも調査隊かい?」
門番らしい老年の男が問う。
「アリゴの姫、デルシネアのバトラー、夕夢です。」
「確かに登録されているな。気を付けな。」
「はい。」
夕夢の姿が地に溶けてゆく。
「ここが異世界か。」
眼前の景色は今まで見たものとは違った。石を積んだ街並みが粘土遊びの末のように歪んでいた。
「持たされた荷物にポインターがあったから立てておくか。」
フーイーミからビーコンを出し立てる。
「どこから探索しようかな。」
『都市部は小型、自然部は大型の動物がいるそうです。』
「本当に話せた。大型の動物って?」
『ドラゴン?』
「おファンタジー。」
『でも狩ってきてくださいよ。ドラゴンの心臓ってとても美味しいんですよ?』
「本当!?じゃあ狩る!」
『ドラゴンは異形なので見ればわかります。漫画に描かれている形をしたのは亜竜ですのであしからず。』
「火山にいるのかな?」
『どうでしょう。草原だったり果樹園らしき廃墟にもいた記録がありますし。』
「飛んでいたら見つかるかな?目を回さないように視界、切った方がいいよ?」
『なら気を付けて。声だけは聴いておきますので。』
「はいはい。」
…
『風切り音がしますね。』
「走るより早いから。」
『わぁ、きれい!』
「目を回すって言ったのに。」
『飛行機に乗っているような気分です。』
「そうですか。」
『あ、二時の方向にドラゴンがいます!』
「あ、あれ?瘴気放って金属の鱗ですけど?」
『運がいいですね!あれは竜門竜網地竜目瘴気科五元属金種のテルペクラチスです!』
「わからない。」
『あの瘴気は原子結合を緩めます。加工時に便利なので狩ってください!』
「緩めるってどのくらい?」
『三リットル分の瘴気で一般の二階建て家屋が崩れます。』
「バーカ!」
『でも美味しいかもしれませんよ?それとあなたもそれを作れるかもし』
「狩る。」
『そっちかー。』
「弱点とか急所は?」
『脊髄を一度に貫けば容易に狩れます。ですが異常に硬いので最初は比較的脆い指先から狙ってください。』
「一個訊く。脊椎ってどこ?」
『目の間と額の中点です。』
「これを使ってみる。」
『何ですか?そのごつい弾丸は。』
「ヴァールさんからもらった増加質量貫通弾。専用の銃器じゃないと打てないじゃじゃ馬らしいけど」
弾丸を朱四卦の銃口にねじ込む。驚いたことに収まる。
「これなら打てるでしょ。」
引き金を引く。打ち出された弾丸は正確に脊椎を砕いた。反動で夕夢も後ろに転がる。
「これ、点火と同時に重力軽減切れているでしょ。道理で反動がすごいし打った瞬間に重くなったわけだ。」
朱四卦を見ながらぼやく。
『テルペクラチスは?』
「死んだみたいだね、よかったよ。素材はどこを採る?」
『鱗と心臓の肉、爪に角を。』
「任されましたっと。」
ヤトシイの刃の大部分を外しナイフにすると切り進める。
「あ、手落ちた。うーわボロボロ。この肉食ったら治るかな?」
そんな調子で解体を進めること一時間、ようやくお望みの心臓を切り出した。
「ひゃーでっかい。一日かけないと食い切れない大きさだ。」
『それはその場で焼いちゃってください。そうすれば保存も効きますし瘴気も出さないので。』
「どの位焼くの?」
『ざっと』
「そんな雑に。」
『五時間。』
「なっが。」
『しばらく読書していますのであとはよろしくお願いします。』
「そうですかい。火起こし道具もあるしいくつか木を切るか。」
…
「このくらいあれば足りるかな。それじゃ点火。」
心臓を丸太から切り出した串で差し火にかける。
「何冊か本がフーイーミに入っているしこれ読んで待つか。」
薪をくべつつ読書すること二時間半後。
「何かが這い寄っている?」
本を仕舞いヤトシイを出す。
眼前にやってきたのは人間だった。
「あなたたちは?」
「それは此方が言わせてもらう。この竜はあんたがヤったのか?」
「そうですが?」
「(ヒソヒソ)」
「(なんか嫌な奴だな。)この心臓まだ焼けないのか。暇だな。」
煙を吹きつつ焼ける心臓を眺めているとまた声をかけられる。
「取引しないか?」
「一体なんだ?」
「この先に俺らの村がある。そこにあの竜を持ってきてはくれないか?」
「無茶言わないでよ。この巨体をどうやって運べっていうんだ。」
「あんたはあの瘴気から心臓を取り出した。つまり運べるってことだ。」
「何馬鹿言う!それは漢字書けるなら因数分解できると同じ暴論だろ!」
「良いのか?ここで俺らに歯向かったら危機に瀕しても助けねえぞ?」
「そもそも人がいると思っていないし。」
「いいからもってこい!」
「…。」
夕夢は無言ではぎ取った残りを掴む。
「それでいいんだ。」
「やっぱりさ、やるものではないよね。私じゃないことは。」
そのまま骨を探し当てると引き抜く。全身にまだガタがある。
「私は私らしく、短絡的に行くよ。」
『夕夢!何してるの!その状態で動けるわけないでしょ!』
「敵を増やそう。面白いでしょ?」
「貴様、何のつもりで!」
「こういったのは面白い勝ちだ。主任ならなんていうかな?」
振り抜いた勢いで骨は砕けるが同時にいけ好かない奴もいなくなった。
「あーらら。必死に逃げちゃってまぁ。」
遠方に走ってゆく残党を目で追う。
「ま、やるなら徹底的に行こうか!」
朱四卦にかつて受けた弾丸、ハピトリ工房製空中点火式炸裂粉砕弾を詰める。が、外す。
「頭の悪さならこいつだろ!」
フーイーミから大型専用銃器を取り出すと青白く光る弾丸を出す。
「勘が告げている。こうやったら面白くなることをね!」
装填し発射をする。閃光、高熱が広がる。
「あひゃ。両腕ぶっとんだ!」
『夕夢!早く回復を!』
「出来ないね。形保つので精いっぱいだ。」
『どうするの!』
「焼いた心臓食べて歩いていたら治るでしょ。だから後二時間くらい待つ。」
『あなた、壊れてるでしょ。』
「なんか急にどうでもよくなっちゃって。一つに狂うのは愚鈍だけどわかりやすかったんだね。」
まだ残っている肉を生のままほおばる。
「焼いていないのに香ばしい。焼いたら台無しにならないのかな?」
『やめて!危ないでしょ!』
「ワカッタよ。」
…
「おー。焼けた。ならこれは拡張容器に仕舞ってと。」
ようやく生えた両腕で焼けた心臓を切り分けすべてフーイーミに収めると立ち上がる。
「そろそろ帰るか。」
ビーコンの反応を辿って歩き始める。歩くことしかできない。
「あー辛いな。」
『生で食べるから。』
「体は大して辛くないよ。まるで空っぽなのが辛いの。」
『後ろ!』
「ん?あーさっきのテルペクラチスの親かな?」
振り返った先に先ほどの竜が子供にしか見えないほど巨大な影があった。
「さっき撃った弾丸の衝撃で感づかれたのか。」
もはや夕夢は抵抗の意思が無くなっていた。
「寝たらすべて夢だった、なんてことはないね。」
先程取り出してからしまうことなく背負っていた大型専用銃器にハピトリ工房製空中点火式炸裂粉砕弾を詰め発射する。返り血を浴びながら自分も倒れる。
「何も聞こえないな。」
夕夢の紅さが引いていき黒くなる。
「さて、どうするか。雀猊も通信できなくなり何もわからなくなった。」
遠方から足音が聞こえてくる。
「先ほどの残党でも嘲笑しに来たのか?」
足音が止むとかがんだそれは翡翠の水晶玉。
「そこのあんた、夕夢になった奴だろ?」
「主任か。なぜあんたが此処にいる?」
「なんだ、私がここに来ることがそんなおかしいのか?久しぶりに来たんだよ。」
「一度ここに来たことがあったのか?」
「あんたとの契約が切れてな。いつ死ぬかわからんから思い出巡りをしていたんだよ。」
「…これからどうするんだ?」
「あんたを外にほっぽりだすくらいはできるよ。ここまで育ったあんたを見捨てるなんてもったいないじゃないか。」
「あんたは楽しめるんだな。」
「そういう夕夢はなんか変わったようだね。中身捨てた殻に価値はないことは私が最も知っている。」
「経験談かい?」
「ほら持ち上げるぞ。」
「…。」
「寝たのかい?観光で思ってもない荷物が出来ちまった。にしても左目が奴のではないな。」
「姫さん、黙って城を抜け出すなと何度言ったら守ってくれるんですか?」
「(ガタガタ)」
「アイア、どうにも様子がおかしい。何があったんですか?」
「夕夢と話ができません。」
「話?そりゃここにいてはできないと思うが。」
「?失礼する。」
ニヘルはデルシネアの右目を隠すと左目に指を伸ばす。抵抗なくカラコンが取れる。
「おい、なんだその目。」
アイアは困惑する。左目から黒い液体が伝う。
「他者の瞳?」
ニヘルは記憶を探る。
「まさか夕夢のか?」
肩を震わす動作が答えになった。
「何故そのようなことをした?」
「言わない!」
「言いな。」
「やだ!」
「言うんだ!」
「待ちなよニヘル。興奮を抑えな。」
「この目はスペカのものだ。つまりそれほどの事象が起きている。」
「うん、不味い。だが俺らが行くことはできない。そういう契約だ。」
「契約契約ってあなたたちは名誉のために仲間を捨てるんですか!」
「いいか姫さん。人情一つでやっていける世界ではない。アンタも知っているだろう。コネ、売り、実績、評判一つ捨てるのも難しいんだ。」
未だ涙を流すデルシネア。
「(人はいずれ死ぬ。そうだろ。)済まない。俺は頭を冷やしてくる。」
「アイアさん…。」
「私も行く。知り合いが来ているからな。」
「わかりました。お元気で。」
「話は終わったかい?」
「酒崎。」
扉の前には胡散臭い男が立っていた。
「仲間が返ってこないと?うちの護衛を向かわせるか?」
「子琉は処刑者。悪いが止めて欲しい。」
「そうかい。」
「今は夢雨に出す言い訳を考えさせてくれ。」
「そうか。なら私は」
後ろを振り向かず子琉と言われた顔を包帯で隠した男に指示をする。
「あの妙な未登録者を捉えさせてもらうよ。」
「うわ!まてまて、今寝坊助さんを持ってきたんだ、置かせてくれよ!」
「その声、主任だな?何故」
「お、お前さんか。ちょうどいい、こいつ預かってくれ。」
「あんたが夕夢を抱えてここにいる。まさか襲ったのはあんたか?」
「いやっ、私はっ、瀕死のっ、こいつをっ、連れっ、帰った、だけでっ、なにもっ、してないっ。そもそっ、もまだっ、熟れてっ、無いっ、果実をっ、もぐっ、ようなっ、もったいっ、ないこっ、とはっ、しないっ、主義でっ、ねっ。ちょっとあんた、人がっ、説明っ、するとっ、きはっ、静かにっ、するものっ、では?」
主任はどうやっているのか転移を繰り返しながら弁明をする。
「子琉、止めてくれ。」
「は。」
「主任といったな。」
「あ、止まった。ああそうだが?」
「酒崎という呼び名に覚えは?」
「前の職場にいた同僚だな。あんた、知ってるのか?」
「私だ。」
「うん?」
「私がその酒崎だ。」
「いやいや。あいつは勤務当時七十下らぬ老年ベテランだったんだぞ。あんたはどう見ても三十路だろ。」
「持ち物の準備も遠足の内だ馬鹿野郎。」
「なるほど。殴って血が出たら」
「相手は殺せる。」
「なんやかんや」
「身体は闘争を求める。」
「身体とっかえた?」
「そう。」
なにやら二人は知り合いのようだ。
「二人の関係は?」
「「前職の同僚。ゲーム友達。」」
「厄介さが増しているな。」
「いやーはっはっは。」
「そんなこと言わないでよ。」
「暫く距離を置かせてほしいな。」
ニヘルはスペカをデルシネアの下に連れて行く。
「姫さん、生きていました。」
「スペカ!」
「介抱、頼む。」
「生きててよかったです。」
「(生きていてよかった。)さて、他の課題をどうするか。」
白い霧。孤立。
「鎖は留めた。後は私が。」
ルグラは霧の外、ニヘルの工房に出ると上に上がる。
「部屋はこっちだったけ。」
ニヘルの部屋に入ると引き出しを漁る。人形を取り出すと呼びかける。
「メメンス。起きて。」
「あれ?ルグラ、どうしたの?」
「話は無し。一緒に行くよ。」
「そうか、わかったよ。」
そのまま出入口に来ると呼び止められる。
「ルグラ!あなた外に出られたの?」
「夢雨。私は行くべきところがある。」
「送ろうか?」
「自分の足で行く。」
「そう?気を付けてね。ってその人形は何?」
「娘ってか姪というか姉というか妹というか。」
「?」
「とにかく行ってくる!」
ルグラはそのまま走る。ニヘル達の下に。