アンサラー 幻葬   作:月導

25 / 34
十八章~切磋琢磨~

「夕夢、昨日言われた通り翁の下に行くぞ。」

「アイア、今朝持ってきたんだけどこれさ、何?」

「そりゃお前、メッセージカードだろ。」

「『死にはしないだろうし死ぬほどがんばれ』って書いてあるんだけど。」

「そりゃぴったりのメッセージだな。」

「これニヘルが書いているの?」

「全部手書きだぞ。」

「マジかよ。」

「じゃルグラ、行ってくるから。」

「行ってらっしゃーい。」

 

「中央街宮にいるわけじゃないんだ?」

「今は教育をしているから現職から一歩引いた場所にいるんだ。」

「へー。デルシネア?今どこにいる?」

『自室で荷造りの最後の確認です。』

「随分物々しいですね?」

『逆にそちらは何を持ってきました?』

「服とエネルギーバーです。」

『それだけ?化粧品とかそういったものは?』

「ごめん、そういったのわからない。」

『今度、女子会を開くから。教育しないと。』

「教育?」

『女子力を育てないと苦労しそうだから。』

「よろしくお願いします。」

『そうだ、急遽客人がいらっしゃったそうです。礼儀を守ってください。』

「誰?」

『黒髪の方だそうです。』

「他の特徴は?」

『翁さんとタメを張って傷一つないそうです。』

「紺青の旋律さんかな?」

「零風は違うな。今朝羅炎を観光しているとメールが来た。」

「親しいの?」

「かなり長い付き合いだ。」

「恋人関係とか?」

「否。」

「そう?デルシネア、またあとで。」

『ええ。』

「それ便利だな。」

「しこたま怒られたけどなんやかんや使える。」

「なるほどな。」

「ニヘル、大丈夫かな?酒でつぶれているけど。」

「アイツの肝臓弱すぎるだろ。」

「アイアの肝臓が強すぎるんじゃないの?」

「一度、部屋をめちゃくちゃにするくらいの酒瓶を出したことがあったな。」

「それ、ニヘル怒ったでしょ。」

「事務所じゃないぞ。」

「ならどこ?」

「羅炎の神社だ。」

「罰当たるよ?」

「そこの巫狐とだ。」

「何やってるの。主任からもらった酒を持ってきてるしとんでもないアル中だね。」

「それは間違っている。アル中はアルコール自体が害になること、アルコールを求めるのは依存症だ。」

「関係ない。酒カスだから。」

「ははっ、首をへし折るぞ。」

「折られたくらいじゃあな~。」

「その減らず口がどこまで擦り切れるか楽しみだ。ん?この香り。」

「なんかおいしそうなにおいでもあった?」

「客人とはまさか。」ダッ

「まってアイア走らないで!」

「ぐろぉぉぉお前来てるんなら先に言えや!」

翁がいるという建物の扉を蹴り開けたアイアの視界にあったのは酒で満ちた盃を持った黒髪の女性と面を被った傷だらけの男性。葛霧と翁だった。

「お、あ、き。」

「誰かと思えばわっぱじゃないか。」

「報、連、相しろと言ったのによ。珍しい酒を手に入れたがこれは無しかな?」

「す、ど、の。」

涙ぐみながら謝罪をする葛霧。

「翁、こいつは引き取っておく。夕夢をよろしく頼む。」

「お任せください。元は礼儀の煩い彼らの幹部を取りまとめていたゆえ、何かあれば顎を砕きましょう。」

「頼む。ほら行くぞ葛霧。」

「うう。」

首根っこを掴まれ葛霧は部屋の隅に行く。そしてお説教が始まった。

「若いとは良いな。君が夕夢だね。初めまして、翁と言います。」

「初めまして、幻葬所属アンサラーの夕夢と言います。」

「…合格です。」

「え?」

「所属と名を通すことは挨拶の根幹です。もし名だけなら顎を砕くつもりでした。」

「(ひゅっ)」

「安心してください。再生用アンプルは潤沢にありますので。生かさず殺さず教えます。」

「(カタカタカタ……)」

「どうやら姫様もやってきたようですね。出迎えてまいりますのであなたは正装に着替えておいてください。」

「ワカリマシタ。」

「よろしい。おニ方、ここからはお外でお願いします。」

「済まない、こちら、お詫びに。会えてよかった。くたばるなよジジイ。」

「どうやら君にも必要そうだな。」

「バイバーイ。」

酒カス二人は逃走をした。

「仕方のない奴らだ。」

「あの、更衣室はどこにありますか?」

「この手の先だ。」

「ありがとうございます。」

「思ったよりは礼儀正しい子だな。」

トントン

「翁、デルシネアです。」

「お待ちしておりました。」

「着替えはどこで行えばよろしいでしょうか?」

「あちらの部屋で。」

「わかりました。」

「夕夢!来てたの?」

「そうだよ。着替えを今終えたところ。」

「着替え、手伝ってもらってよろしいですか?勝手がわからず。」

「わかった。まずはチャックを半開きで袖に手を通してからナイフを手首や太ももに取り付けて。エプロンは…このくらいかな。きつくない?」

「ええ。パニエとか入れてないのに膨らむものですね。」

「引っかかることなく武器を取り出すための設計なんですよ。」

「羽は?」

「引っ込めてるけど?邪魔だし。」

「そっか。」

「残念そうな声を出さないで。はい、出来た。」

「このブーツ、音が出ない?」

「静穏設計なんだって。」

「行きましょうか。」

「死んで、生きよう。」

「不穏なことを言わないでください。」

 

「用意はできました?」

「「はい。」」

「よろしい。では最初に。バトラーの仕事とは何か、お分かりですか?」

「戦う。」

「主の世話をする。」

「違います。掃除です。“ゴミ”を見つけ、音もなくきれいに“掃除”する、それがバトラーの仕事です。」

「質問、いいですか。」

「次からは手を上げて呼ばれてからで。はい、夕夢君。」

「どうやったら出来ますか?」

ドギョ!

「夕夢君。質問とは説明が終わりそれでも理解のできないことに対する手段です。説明の腰を折ることはやめてください。まだ説明は続きますので。」

「申し訳ございませんでした。(顎砕くって何?)」

「傷が治っている?確かに下顎を砕いたはずなのに。まあよい。掃除はゴミに音とごみを出させず始末することが必要です。そのためにまずは毒を用います。神経毒を用い抵抗を無くします。これは神経細胞を部分的に破壊することで四肢の動きを止めます。脳まで止めては止まるものも流れてしまうので。ここまでで質問は?」

「無いです。」

「私もです。」

「なら次、より大きいゴミが出たときです。多少の音や破片はしょうがないです。どこまでも欠け無しの仕事はできません。まずは脆い部分を探します。どれほど丈夫なものであれども必ず“目”があります。そちらを潰せば比較的容易に対処はできます。質問は?」

「(スッ)」

「はい、姫様。」

「“目”とは?」

「いわば支柱を束ねた一点に等しい概念です。このガラス玉、割ろうとして見てください。」

「フン!えい!踏んだり蹴ったりでも割れませんよ?」

「そのような球も“目”を潰せば」

パシャン!

「このように脆く割れるのです。」

「小指で突いて割れた?」

「これらは此方で片します。このように脆弱な点を見極められることはとても重要です。呪いもです。」

「呪い?」

「先ほどいらっしゃった羅炎の巫狐さんもそこに気を使っているのです。」

「先ほどのアレは何をしていたのですか?」

「奴からの遊びだ。奴の杯の酒をこぼさせるかナイフの一つを掠めさせることが出来れば勝ちというゲームだ。強すぎたよ。手品と言える。捉えたはずの杯は手から足に動いていたりと。なので、君らもそれを行ってもらおう。」

「どうして!?」

「明鏡止水の戦いはこうして身に着けたからだ。」

「「わかりました。」」

「始めよう。」

「「(チーン)」」

「一日でこれとは。見込みありだな。明日も早い。休み備えな。」

翁は出会った時と変わらぬ姿で帰る。

「夕夢、大丈…夫?」

「あの人、私がすぐ回復するからってすぐ顎砕きやがって…。」

「さすがは裏の礼故知新の幹部だっただけはありますね。」

「どこ?」

「礼儀と立場に煩いどころか過激な集団ですよ。」

「そっか。足洗った?」

「失礼ですね毎朝晩入ってますよ!」

「あ、違う。表の人間になったのかって意味。」

「なるほど。そうだったはずです。」

「エネルギーバーをもってしても疲労がここまでって辛いな~。(もちゃもちゃ)」

「初めの四時間は歩いただけで零し…」

「中身の麻痺毒で動けず拳が飛んでくる。なんてクソみたいな難易度。」

「そして彼から「一発入れるために何でもしろ。零さないために。」どうすればいいの?」

「意表を突くしか。」

「なら一つ案が。」

「昨日は十分休めたか?」

「はい。」

「ええ。」

「昨日は素手だったが筋がよい。これを使ってもらうぞ。」

「ナイフ?」

「容易に首を切ることも出来る。殺しに来なさい。」

「はい!」

「返事が姫様だけ。始まっていたのか。夕夢君はそこか。」

カカカ!

無数のナイフが翁の後方へ放られる。

「気配のみ。幻術か。」

「鋭い。」

「更に後ろ?十数人の夕夢君?」

「(あそこまで幻覚の力を使えるの?まずは隅に避難しておきましょう。)」

一斉に幻覚たちが方々から襲い始めた。

「数合わせで当たらぬ仕掛けを恐れはしないさ。だが」

翁は黄金の懐中時計を取り出すと放る。

「落とさなければ、よろしくないでしょう。」

動きの止まった世界を悠々と歩く。

「これを聞くものがいるかは不明ですが。T区、プレトンは時間を用いる発明品を数多く生み出しています。理屈も様々で川をせき止めるイメージや川の流れと同じ速さで流れるイメージ。」

あたりにナイフを撒きながら独り言を続ける。

「この時計はすでに誰かが過ごした時間を使用者に注いでいます。果たして、そんな時間で喋ることは自分が生きていることだろうか?」

「いずれにせよ、対価は払われている。そちらへお返し申す。」

手首のボタンを押すと時間が元に戻る。

「毒ナイフだー!」

夕夢の絶叫が響く。

「演技で騙せると?」

「ぎゃ!」

ナイフの刺さった夕夢は消える。血を残し。

「夕夢!?」

「幻覚ではない?」

「そうだよ。」

天井から声が響く。目を向ければ夕夢が天井に立っていた。

「夕夢君、ではないですね。貴方の名前は?」

「何を言ってるの?夕夢だけど?」

「ですならその腕は?」

「だから、何もないって!」

ストンと着地しながら否定をする夕夢?

「臭うんですよ。正体を明かしなさい。」

「…残念。」

夕夢の姿をしたそれは袖とスカートを破り捨てる。瘴気を放つ黒い鱗に覆われた身体が現れる。

「言っておくが私は夕夢だ。色々食いすぎて、坩堝に等しくなっている。どこまで人間で、どこまで生まれで、どこから混じって、いつから純粋か。」

夕夢は絵の構図を決めるように指を合わせる。

「認知汚染:諸相、刃鱗換装」

夕夢の肌を更に鋭い鱗が覆う。

「上手くいってよかった。黒竜に変換なんて無茶したと思ったがなかなかいける。」

「これはこれは。姫様は知っておいでで?」

「いえ、分身で襲うとしか。」

「!」

翁の首元を刃が掠めようとし、頭を僅かに傾けることで回避をする。

「あら、残念だわ。当たらないものね。」

「これは少々、矯正に手間のかかりそうな。」

「人が変わったように口調が。」

「坩堝は交じり、…ええっと、なんだっけ?」

「接客心序式:封客」

翁は無力化しようと行動を起こす。だが

「危ないわ!」

避けられる。

「盃は持て。中身を零すことなくかかりなさい。」

「そうだな。では、参る。」

夕夢の紅いはずの翼が爪を持った大きな黒い翼になる。

「黒竜ですか。手が折れますね。翼は固いのですよ。ですので。」

盃を頭部に置くと二本のナイフを逆手に持つ。

「直に心臓を突かねば。」

「来なよヒューマン。」

「目で追いにくいですね。着いていける気がしません。」

軽やかな音に反して激しい戦いを見ながらデルシネアは嘆息する。

「夕夢の視界は酔いそうですしこれ、どうしましょう。何をして過ごすか。夕夢の変化した原形でも照合しますか。」

荷物から高解像情報端末を持ってくると起動する。

「始めがテルペクラチス。瘴気を使って弱化を狙ったのでしょうがそのせいで弾速が遅くなり切り替えた。次が恐らく鯨。体内で薬品を生成する種類ですね。これ自体で戦うというよりは次への場面を整えるためですね。ガス臭い。それが今の…何これ?いや、なんだこれ。情報に無い。体表に菌糸が広がり背には翼の代わりに花のような器官。定期的に噴き出す胞子らしきものがこの空間のいたるところで発芽している。発芽したそれらは翁を狙い各所から液を噴いている。その芽は人の顔らしき器官がある。仮にスコーンと名付けましょう。百メートル四方有るはずの空間の六割ほどがすでに菌糸に侵されている。感染源であろう夕夢の付近は筋肉のような脈動を見せている。気温は当初より三度上昇。近似した生物は複数いますがいずれも一部に相違がある。」

観察を続けるデルシネアの背後から一本の芽が彼女を音もなく包む。

「しまった!(落ち着かないと!発芽した芽は夕夢とは独立した個体と見た方がいい。コロニーの中心である夕夢以外は餌と見ているでしょう。気温の上昇は侵攻スピードの上昇の為でしょう。暑い。胞子を吸った影響は今のところありませんがなるべく吸いたくはないですね。このためのガスマスクなどありませんよ。)」

そうこう思案しているとデルシネアは透明な漿で出来たカプセルに包まれて吐き出される。

「(これは何?苦しくはない。この味は浄化作用のあるボトミの蜜みたいですが。そういえばこの前夕夢に色々飲ませたっけ。絶対これだ。つまりこれまでの話を合わせるとこの菌は夕夢の内部で生まれた新種の生物?)」

「(このカビ、足が捕らわれるだけで毒と言えるものがない。夕夢君の動きは反してよくなっている。先ほど排出したガスの影響でしょう。鯨の狩りには数種の個体が役割を持っている例がありましたがそういった事でしょうか?何にせよ、奴らを外部に蔓延させてはいけないでしょう。外気との接触を断つ構造の建物でよかった。しかしどうすれば。)」

「答えは簡単だ。冷却すればいい。灼寒工房製の武器を使えば容易だ。」

二人の間に入った男の声。しかし姿は褐色の肌に片目を隠す長い黒髪、紫の目。とてつもない美人の女性。

「あんたは?」

「処刑者子琉。休息中だったが仕事に来た。」

霜の付いたガントレットを再び起動すると夕夢の体に一撃を入れる。

「ゔ。何をすんじゃあばずれ!」

「お前のこのカビはあまりにも潜在危険性が高いと監視者から言われたのさ。」

「それでニヘルは黙っているとでも?」

「既に死んだ奴らに用意する座席どころか生者にすら足りないのさ。」

夕夢の両腕が切断される。

「失せな。」

「げ。不味い。」

「翁は姫のところへ行ってらっしゃい。巻き込まれるぞ。」

後ろ蹴りで翁を払うと夕夢の体をすり潰す。

「(夕夢!!!)」

「夕夢君!!」

「死になどしてない。」

子琉の言葉を肯定するように夕夢の体が持ち上がる。翼もいつもの紅に戻っている。

「そうだよ姫。死んでないよ。」

「(あれ、雀猊じゃん。)」

『そうだよ。』

目と呼び名から雀猊と判った。

『何があったの?』

『昨日、翁ってやつを倒すために煙管と煙は邪魔になると吸い溜めした結果。』

『それだけで?』

『以前説明されたはずだがあの煙草もどきは自分の食事で重要なものだ。だが過ぎたるはなんたらというように吸いすぎた結果、害が出た。吸った記憶と本来の記憶が混濁を起こし暴れてしまった。今は正常な濃度まで戻した。おかげで戻しそうだよ。うっぷ。』

『それはご愁傷さまです。』

『その漿から出さないとな。ちょっと失礼するぞ。』

『どうするって腕力で裂いた?」

「立てる?」

「大丈夫です。」

「仕事が終わったので帰る。」

「待って!…行ってしまった。」

「そのうち会えるでしょ。」

「処刑者には何度も会いませんよ?」

「知らんな。あ、起きた。夕夢、反省のために来たのにまた事故起こしやがって。これはどうしようかな?主任からごみのような記憶を刻まれた方がいいかな?ン?どんなのかって?【ピーーー】と【ピーーー】したうえで【ピーーー】を【ピーーー】と【ピーーー】する記憶とか?あとは【ピーーー】して【ピーーー】したら【ピーーー】が【ピーーー】したとか。」

「あの、やめてあげてください。こちらまで気分が悪くなりそうなので。」

「そうか?【ピーーー】と【ピーーー】」

「止めてください。」

「そっか。あとで酒崎へ渡したノートの写しを見せてもらうか。」

「そうだ!翁さん!大丈夫ですか!」

「腰やった。教えることが出来ないな。」

「そうなんですか?」

「まだ血を出させず首をへし折る術を教えてないのに。」

「(物騒。)」

「翁さんだっけか。あくまでこれは夕夢と姫への罰だったよな?」

「ああ、そうだ。」

「腰を治してからまたやっては?」

「二日後には教育が入る。だからできないのだ。」

「そうか。やっぱ【ピーーー】」

「うっぷ。」

「あ、だめ?じゃこれをするか。どうだろうか翁さん。」

「王に確認を取らなければならないですが一考の余地が。」

「そうか。身体によい軟膏有るけどいる?」

「いただいても?」

「もちろん。使い方は裏にあるから。お大事に。」

「誰かは知らんが夕夢君は才がある。それが何か教えて欲しい。」

「わかった。お世話になりました。」

雀猊は着替え帰っていく。

「姫様、王へ伝えてください。やらかしましたと。」

翁はそう言うと少しよろめきながらも外へ出る。

「破綻してますね。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。