アンサラー 幻葬   作:月導

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十九章~月海~

「ニヘルさんよ。明後日裏を潰すと言ったが何を潰すんだい?」

「言っていなかったな。ルグラはどこにいる?」

「千景ってやつのところだ。」

「なら連れてこよう。少々待っていてくれ。」

「あいよ。」

ニヘルがいなくなる。

「夕夢?まだ気分が悪いのか?」

「あんな記憶、ごめんだよ。仕事行ってくるから。」

「はいよ。」

「劇物飲んでも何も感じなくなるし耐性が付くだけだし(ブツブツ)」

「予想以上に効いているね。」

「ただいま。」

「戻ったぞ。」

「お早いお着きで。」

「早速説明をしよう。行うのは奴隷売買の偵察及び首謀者筆頭をの確保、終了だ。」

「奴隷自体は各所でやられてるのにか?」

「他種族を攫われているとされているためだ。」

「なるほど。」

「複種、魔族らから話を聞きリストを作った。把握しておいてくれ。」

「購入者は?」

「確保だ。」

「把握。」

「なんで私たちがこの依頼を?」

「大抵のアンサラーの顔が割れているためだ。」

「それはニヘルもでしょ?」

「待っていなさい。」

ニヘルは自室に戻る。

「変装じゃダメなの?」

「その程度じゃ誤魔化せない技術もあるだろうからどうするかだな。」

「新しい体に乗り換えるとか?」

「あり得はするだろうがどうするんだ?一度移植したら面倒くさいぞ?手続きとか。」

「ならどうするんだろう。」

「一番シンプルなのは意識のみを移植する奴だな。応用が脳を移植する生命保険だ。」

「ミメシスか。聞いたことは有るよ。」

「博識だね。」

「そういうの好きだから。そうだ、夕夢にやった罰の記憶移植ってどういった技術?」

「この薬を使う。ネビュラの核をすり潰し多次元解釈膜で濾したのちに分留させることでできる「記憶改変剤」と「記憶削除剤」だ。強度が高ければ元からそのような経験をしたかのように錯覚させたり事実上の記憶削除をすることも出来る。今回は罰だからかなり薄いものだ。」

「強度は違和感のなさを指してるんだね。高いほど違和感が軽減すると。」

「そう。」

「戻ったぞ。」

「おかえり。誰?」

「えらく印象が変わったな。」

帰ってきたニヘルの体は完全に女性のものだった。ルグラをそのまま大人にしたと言える。服はヴィクトリアメイド服。

「え、その、ニヘル、元の体は?」

「身体など変えてないぞ?」

「薬を使った?」

「あれは非常時のためのものだ。自力で成形したのさ。ある程度のテンプレートはあるが、その位だ。仕事までこの姿でいる。」

「マジで?」

「正気、だよね。」

「正気さ。細かな仕事があるので失礼する。」

「狂ったみたい。」

「無いはずの頭が痛い。」

 

「ホントにニヘルなの?」

「そうだが?」

「すっご、性転換なんて出来たんだ。」

「夢雨、そんなかんじだったっけ?」

「渡したものへの反応的にそういうのもいけたんだよな。」

「創作上の出来事が現実になったらこうなるでしょ!」

「なんないが?」

「嘘でしょ?」

「ホントだ。私は。」

「そんな!」

「明日の早朝に向かうので寝かせてはくれないか?」

「ダメ!端々まで絞り聞くから!」

「夢雨、寝かせてやれ。ニヘル、こっちでく、へするから寝てろ。」

「くへってな(グゴキ!)(チーン)」

「首をへし折るか。怖え。」

「ニヘル怖い。」

 

「仕事だー!」

「それほど嬉しかったのか?」

「何年も引きこもったらね。」

「ぐふ。」

ルグラの言葉にダメージを受けるニヘル

「一度折れたから癖付いちゃったね。(なでなで)」

「そんなんで大丈夫かい?」

「問題ない。」

「それは問題あるんだよ。」

「そういえば会場はどこ?」

「847294-003628-TNSだ。」

「それまた辺鄙な場所に。」

「なんで場所が分かったの?」

「監視者から送られた。」

「監視者ってあの上の?」

「子琉と連携している子呉へ連絡を取ってみたらよこしてくれた。」

「何でも屋みたいな扱いだね。上なのに。」

「複雑なのさ。今より移動をする。」

片手で空間を繋げる。

「やっぱり便利だな。空間接続というのは。」

 

「ここだ。」

「此処が会場?秘密という割には大きいね?」

「圧縮建築技術を用いたな。主任、君は私の装飾として持っていく。いいな。」

「了解。」

「(モギッ)さあ、入るぞ。」

「ニヘル、この体は?」

「仕舞っておこう。(ポイ)」

「じゃ、行くよ。」

「ああ。」

「席に着けたね。」

「空間拡張できるほど稼いでいるとは、常習犯らしい。」

「知ってる人はいる?」

「いないが、装いから企業の重鎮らも参加しているようだな。ルグラ、似顔絵を精巧に描けるなら描ける分だけ描いてくれ。」

「わかった。」

「わかっているだけで十六社から来ている。頼んだ。」

「はーい。」

「奴隷は前方の舞台に運ばれてくるのか。双眼鏡があってよかった。」

ニヘルは運ばれてくる奴隷と手元のリストを照合している。

「リストには二十二人だったな。今は何人だ?」

「六人目だ。魔族が八人、複種が十四人。人間は含まれてないからまだ増える。」

「複種が多いね。」

「需要があるのさ。」

「会場には総勢二千人ほどいる。表の組織は二割くらい。わかったのはそんくらいか?」

「主任は静かにしてな。その情報はありがたいが。」

「とりあえず表の人間は八十人描いた。」

「仕事ができるな。」

「描いた分だけお金が増えるから。(カリリリリ)」

「かなり精巧だ。」

「ありがとう。」

「私たちの所業はバレてないのかい?」

「認識阻害をかけてあるからな。」

「そんな気軽な技術じゃないはずだが。」

「今までのお買い上げ、ありがとうございます!そして今回のお客様方、朗報です!今回、角人の子供が入荷されました!化け物どもから回収した貴重なチャンスを是非、自分のものにしてください!」

「角人の子供だと?」

「リストに無いというかありえないな。」

「アイア、主任、どういうこと?」

「角人は閉鎖的種族だ。そのためまず会えない。更に結束意識が強固で特に子供に対して過保護だ。集落の一人い無くなろうとも大騒ぎだ。この世界ではその異質さが分かるだろ?」

「そんな種族の子が化け物に攫われたなら必ず奪い返しに来ると。」

「返り討ちにあったとしてもそこらに死体の山があったはずだがあの子供にはそういった傷一つない。角人ではない?」

角人と言われた少女は銀髪の長い髪、額に一対、後頭部に二対の黒い角、赤い爪を持っている。また、白いワンピースを着ており、縁が金属のガラスケースの中で眠っていた。

「ニヘルさんや、私にも見せてくれないか?」

「わかった。ほら。」

「サンクス。…おろ?」

「何か知っているのか?」

「同族っぽいぞ。私の。」

「は?」

「あの子が起きそうだからあっちに転がしてくれない?」

「まず説明を。」

「惹かれるんだよ。ネビュラは同種同士で合体すると知ってるだろ?そこまではいかんが話を聞きたいのさ。生まれとか。」

「だがネビュラにあのような事例は…」

「イレギュラーだよ、イレギュラー。」

「さー!ただ今の最高入札額は五億呈です!さらに超える方はいませんか?」

「不味い、そこまで話が進んでいたか。」

「とりあえず、転がしてくれ!」

「仕方ない、指示があればそれに従え。」

「了解。」

そうしてニヘルが主任の核を転がすと同時にその少女は身を起こす。ガラス玉のような蒼白の目をのぞかせた少女は周囲を見回すと怯えた顔になる。

「おめでとうございます!落札者は五億呈のあなたです!支払いは(ドシュ!)」

司会者の男の腹を貫くように黒く太い棘が空中から伸びる。柱と言ってもいいほどの大きさだ。接触したところからはジブジブと音がする。

「ナカマは?ナカマはドコ!」

拙い言葉で仲間は何処と叫ぶ少女は片手に何かを握っていた。先端が爪のように鋭く割れたメイスだ。

「ダセ!ダセ!ココはドコダ!ナカマはドコだ!」

ガチンガチンと何度もガラス板にメイスをぶつけるがヒビ一つできない。

「パィムン!」

そんな折、叫ばれた言葉に返事をするように海月のようなそれが現れる。少女の背中から、セミが羽化するように。

「…。」

パィムンと呼ばれたそれは十四本の触手の先端に一つずつ金属製の蕾のようなものがついている。その内の一個が開花し、赤い光を放つとガラス板を焼き切る。

「警備部隊!奴を鎮圧しろ!」

そのような所業をされてただで済むわけもなく銃火器を持った警備部隊が何人も出てくる。

「麻酔弾、発射!」

号令がかかり、放たれた麻酔弾は確かに刺さった。しかし、効くことはない。

パン

少女が両手を叩くと赤い外骨格の手が弾丸を放った者を叩き潰す。

「じ、実弾を!」

フワリ

髪がなびくとしなやかな白い触手が兵を締め付ける。

「ナカマは!ドコダ!」

「仲間とは何だ!」

「ワタシのナカマ!」

「話が通じないな!」

生き残った司会と少女が言い争うが何も進まない。

「…。」

無言になった少女は床に置いておいたメイスを手に取ると先端を自分の腹に突き刺す。

「ち、血迷ったのか!」

「?」

平然と引き抜かれたメイスは巨大なピザカッター型になっている。カッター部分は石の円盤のようだが。そのままひき肉にされる司会者。

「よう、お嬢ちゃん。」

相手の形が無くなろうと武器を振り下ろす少女を呼んだのは主任。

「ナカマ!」

主任を見るや否や少女は手を止め主任に抱き着く。

「やっぱりそうか。ちょっと待ってて。あーニヘル、聞こえるか?この会場は封鎖できたか?」

『問題なく終わった。』

『そうか。ま、とりあえず主犯格は壊滅はしてない、客は適宜処分、報告は頼む。この少女に聞きたいことがかなりあるから。』

『貴重な情報があるかもしれない。頼む。ルグラ、行くぞ。』

『バイバイ主任。』

『あいよ。それじゃ、いくつか聞きたいから座ろうか。」

「ン。」

「名前は?」

「ヨブカ?」

「ヨブカというんだね。君の隣にいるこの子はだれ?」

「パィムン!」

「パィムンか。いい名前だね。」

「。」

「あんたは喋れないのな。」

「喋れるもん!パィムンもシャべれるもん!」

「あ、ごめんごめん。」

「ねえ、ワタシのナカマ知ラナい?」

「ごめん、知らない。」

「ソっか。」

「君の手に持ってるそれ、見せてくれる?」

「いいよ。」

武器を受け取った主任は鎧を顕現すると薬品を注射する。

「ヘンシンした!」

「(やはりコギトか。能力は体内イブラを結晶化。方法は先端を体に差す。)ヨブカは何歳なの?」

「ん-?パィムン、知っテル?」

「。」

「七歳だっテ!」

「そっか。(その年齢でか。把握されているなかで最年少なのが赤い薔薇だった彼女の十二歳。何があったのだろうか。)この武器はどうやって出せた?」

「コう、ギュってすると。」

「パィムンはどこにいるの?」

「ワタしのおなか!」

「すごいね!(一体化していない?これはイレギュラーだね。日常が異常。)」

「なにカかんがエテる?」

「ちょっとね。」

「フーン。」

「待っててね、君の仲間がいるところを探して送ってやるから。」

「やダ!」

「はい?」

「あナたのとコにイル!」

「参ったな。」

頭部をポリポリ掻きながら主任は通信を繋げる。

『あーこちら主任、そちら、聞こえますか?』

『こちらルグラ、どうぞ。』

『さっき話を聞いたネビュラ、ヨブカっていうんだが。』

『うんうん。』

『私から離れない。』

『うん?あーはい、ネビュラの種族特性からね。』

『それでな、こちらも戻りたいんだがこのまま連れて行っても大丈夫か?』

『リストにいないから大丈夫だとは思う。一応、サロポ協会、デクショ協会の一課に伝えておく。』

『助かる。因みにこの子、コギトを出せるからよろしく。』

『(ドスンバタン!)ツーツーツー』

『爆弾放り込んだか?』

「だいじょウブ?」

「何でもないよ。ワープするから背中に乗って。」

「はーイ。」

「パィムンは、あーどうする?」

「。」

パィムンは再びヨブカの背中に潜り込む。

「問題ないか。」

そして瓦礫の散乱した会場から消える。

 

「それで、その子が話にあった子ね。」

「そうだ。」

「ニヘルはサロポに行ってるからこっちで応対するね。」

「一応俺も参加するが構わないな?」

「こっちはな。ヨブカは平気か?」

「うん。」

主任にしがみつきながら返事が来る。

「前提の話は聞いたからまずは昔の話だね。貴方はいつどこで生まれて今までどうしてた?」

「?わからナイ。」

「主任、ネビュラは過去のことを思い出せなかったりする?」

「私はないな。過去のことなら端から端まで思い出せるぞ?」

「これは幼体?故の出来事なのかそれとも別の何かか。」

「ちょっと席を外す。電話が来た。」

「わかった。こっちはまだ質問があるからまたあとで。」

「あいよ。はいもしもし、幻葬のアイアです。ご用件は?』

『ようやく出た。』

『零風か。どうした?』

『お邪魔するよ。』

『はい?』

「こんちゃー!」

「零風、なぜわざわざ電話をかけた?」

「そうしたらドッキリになるかと?」

「あ。」

「?」

「二月。あんた此処で何してるの?」

「あーえっとそのー」

「あれ、その子は?あれ、ネビュラじゃん!」

「(ビクゥ!)」

「まて、解体しようとするな!アイアさん、ちょっとこいつ止めて!」

「はいドウドウ。」

「ウガー止めるな!貴重なサンプル逃すかぁ!」

「ルグラさんこの子連れてどこかに逃げて別空間へ!」

「わ、わかった。」

ルグラは何でもないように白いカラバサスを首に刺すとヨブカと一緒に霧の中に逃げ込む。

「主任こいつどうすれば止まるんだよ!」

「あ、それなら。」

同時に零風の心臓に手をねじ込むと何かを引き抜く。零風の体が何十個の青白い触手になる。

「無意識生物の義体か?」

「私が改良した触手だ。」

「ブッコ抜いたのは何だ?」

「アイツの意識金属。」

「珍しい方法だな。」

「こっちの方法でやったんだがな。」

「どうやるんだ?」

「死ぬ前に石炭と鉄鉱石の中で祝詞読みながら待機して」

「もういい。」

「そっか。とりあえず戻すか。」

そうして二分後。

「二月、何をするんだ。」

「暴走したらモツ抜きだろ?」

「そうだが。」

「そこの認識は一致しているんだな。」

主任と零風の従姉弟二人は妙なところで意見が一致していた。

 

「さっきは騒がしてごめんね。」

「ダイじょうぶ。」

「じゃあさっき聞いたパィムンって子を呼んでくれる?」

「うん。パィムン。」

「。」

「あなたがパィムンね。不思議な現れ方だね。痛くないの?」

「いたクナいヨ?」

「…ちょっとごめんね。」

「なにふぉシュフの?」

ほっぺを摘まむ。

「痛い?」

「いひゃフなイヒョ?」

「(痛覚がないのかな?)…パィムン、その腕の先の装置、貸してくれる?」

「。」

「ありがとう。」

そのまま寸法や重さを測っては記録をする。

「(高さ十五センチ、最大の横幅十センチ。重量千二百グラム。材質は金属らしいけど詳細は不明。内部には赤い核らしいものが一つ。現実濃度が通常の七倍。実態は高密度イブラ結晶体と予想される。意志の強さがそのまま自分の強さに繋がるこの世界特有の防御能力かな。)私が聞きたいことはこのくらいかな。」

「ん-?(スリスリ)」

「甘えてくれるのはいいけどこれからあっちに戻らないと。…あ、ヨブカはどうやって言葉を覚えた?」

「ん-、仲間の目をなでナデすルとね、教えてくれルノ!」

「(さっきよりも流暢に話せている。訓練を重ねたらさらなる成長が見込めるね。)そっか、お姉ちゃんともうちょっとお話しする?」

「スる!」

 

「へぇー?ふぅーん?そうかそうか、君はそんな奴だったんだな?」

「ごめんごめんだから許して!」

「あんたは興味の対象なら幼子の姿をしようが構わないと、さっきの行動から察せるに余りあるぞ?」

「それはそうだが?」

「主任、やっぱこいつは酢で〆るわ。次の飲みの肴として持っていく。」

「すたこらサッサー!」

「逃げるな!主任、ヨブカちゃんを頼むぞ。待てこら触手は美味いんだ逃がしてたまるか!」

「やかましいなぁ。コーヒー飲も。」

「荒れているが何かあったのか?」

「ニヘルさんか。まぁちょっと、私の従姉とアイアさんがひと暴れして。」

「そういうことか。数日後にデクショ協会一課の者がやってくる。それまでに整えるぞ。」

「ほいほーい。あ、あの子はヨブカというらしい。」

「(ヨブカか。どこかで知った容姿だが。何処だろうか。)」

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