アンサラー 幻葬   作:月導

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幕間~静かなる喧騒~

「度重なる呼び出し、悪いな。」

羅炎を治める神社、霊懺神社の巫狐の葛霧はアイアに謝罪をする。

「そっちは構わない。この時期ということなら察しもついている。」

「霧が濃くなっているだろう?曖昧になってきた。下りようか。」

「彼らは嫌いだよ。なんでそこらの鉄パイプでないとダメージが入んないんだよ。それも漂流物でないと。」

「本来、怪異は抵抗できないものなんだ。こういった符を撃たねば還せない。なぜそこまでして拳で還す?」

「今までも、これからも、そうするしかないから。」

「その割には、符を刻んでいるのだな?」

「癖にしたからな。」

「民は皆、閉じこもった。錠剤は飲んだか?」

「色々見えてる。」

「よろし。こ、あ、し。」

「理解。こっちも口を閉ざすようにしよう。」

そうして里に下りた。里は霧が濃く三寸先があやふやだ。

「「「移ろい流れ誰がために」」」

「「「童笑える世になるか」」」

「「「それを知れたか此岸の方」」」

「「「彼岸にいれば意味はなく」」」

「「「そちら方には渡せない」」」

「「「哀れ哀れな死なず者」」」

「「「帰れぬゆえに問いはせん」」」

「「「キャハハハハハハハハハ!!!」」」

たくさんの子供たちの声が聞こえる。山彦のように反響し、遠くから聞こえる。

「千背、千屋、千那、千里、千是、君らも帰って来たのか。」

「それほど嫌悪はないのか?」

「生きていれば軽蔑だったかもだが俺らの居場所は川の向こう岸だ。渡りの船を探そう。」

「そ、わ。」

「木の棒発見。暫くはこれで。」

「符、貼。」

「そ、あ。」

民家間の隙間、土の道、屋根の上、床下を這いたどり着いたのはこのあたりで唯一戸を開けている手紙の店。手紙だけでなく駄菓子、雑誌といったものまで置いてある。誰もいない、そのはず。

「幼少を思い出す。正しく言えばルグラと初めて会った頃を。」

「その時はまだ彼女らは生きていたのか。」

「枯れた花々を惜しむことはない。新たな芽吹きを待とう。」

「まずは一服しよう。わっちの分も見繕ってくれ。」

「ならこのラムネと星果物にしようか。」

「味の被りはないのか?」

「なら羊羹にするか?」

「食べたことないから頂く。」

「ならまとめてお代は払っておくぞ。」

「パキパキの食感に甘酸っぱさがラムネに合う。(パリパリ)」

「俺ももらおう。(パキパキ)大人になろうと美味いな。」

「食い切った後どこへ向かおうか。」

「いつもと同じ西の方に行こう。」

「あちらは工房街だったな。やはり子供らには浪漫があるのだろうか。」

「誰にも会わないかな。」

「アイア、旗を立てるな。」

遠くからかすかに何かが倒れる音と悲鳴が聞こえる。

「イッツルナティックタイム。」

「此処の禁忌を知らぬものは絶えぬな。」

「「霧満ちた里歩くことなかれ。」」

「葛霧、今回は符を刻む。硯を貸してくれ。」

「貸すも何も共有物だろ?」

硯を渡しながら苦笑する葛霧。

「そうだとしても伝えることは大切だろう。」

同様に苦笑するアイア。

「外を見てこよう。焦らず刻んでおけ。」

「助かるよ。」

葛霧は符を指に挟みながら店の外に出ると顔を顰める。

「紛い人形。君らはどっちつかず。直に魂を引きずり出そう。」

捻じれた肉の人形はヨタリヨタリと彼女のほうに歩いてくる。

「アイア!今回はお前のやり方を借りよう。パイプはあるか?」

「屋根下に落ちていた。それでいいなら!」

「構わぬ!」

「そうかい。」

アイアは腰に差していた錆まみれの鉄パイプを投げる。

「霊体に対してしか対処をしてなかったがパイプを振るった感覚は中々。」

紛い人形と呼んだそれらの頭を潰す葛霧。潰されたそれらは塵のように消える。

「四。騒がしさからまだいるだろう。硬い。」

襲い掛かった人形を返り討ちにして愚痴る葛霧。

「感覚はどうだ?」

「童の膂力が角材で牛を叩くようだ。」

「肉体労働は此方の仕事だってのに。刻む作業は中断できないがその一枚が使えないだけだ。呼べば助けたのに。」

「留まった呪いはそちらに行くだろう?」

「悪風邪をひくぐらいだ。成仏用だから生者にはそこまで。」

「呪術を見くびるな。」

「申し訳ございません。」

「何枚刻めた?」

「一時間あったからな。七枚出来た。」

「上出来だ。」

「歩けるか?」

「背負ってくれ。」

「ハイよ。」

二人二脚で里を歩く。出会った人形は無視して屋根の上を歩くなどで対処をする。

「葛霧。」

「これは大きいな。」

一つの足音を蓑に這い寄ってくる。

「後ろを頼む。伸びたら教えてくれ。」

「六十は呑み込んだ体格だ。囲い込みには気を付けろ。」

足元には彼岸花の花弁のような小さな腕がこちらに手を伸ばす。ザワザワとした声が神経を逆なでする。奥からは人影の霧が押し寄せてくれる。

「俺は俺だ!遅かれ早かれくたばろうとそれはでは対岸の生者だ!そちらの誘いは蹴らせてもらおう!」

アイアは次々と生える手を踏み潰し里を走る。向かいからも霧が押し寄せれば屋根を走り覆いかぶされようとすれば壁を蹴る。幾度も伸ばされた何も感じない手を避けられるのは葛霧が教えてくれるから。

「葛霧!分社どうなっている?」

「既に二か所が潰された!」

「さすがに消耗がすごいぞ。錠剤はあるか?」

「ある。」

「俺の口にねじ込んでくれ。肝臓が活発すぎて残り二割くらいしか効能がない!」

「気を捕らわれるなよ。」

「生死かかったここでそんな余裕あるわけない。」

「仮面は外すぞ。」

「はいよ。」

そのままアイアの口に神社でも飲んだ赤い錠剤を入れる。

「飲めたか?」

「ありがとう。」

「さっきはどのくらいだ?」

「腕が見えなくなっていた。」

「かなり綱渡りだったのか。助かった。」

「近場の分社に心当たりは?」

「この走りと眺めなら東に行けば一つあった。」

「そこで休もう。」

「そこで一度薬を抜こう。」

「そうしよう。」

十字路の端に置かれた分社、そこに降ろされた葛霧が一節の言葉を唱えると霧たちは二人を見失ったように向こうへ行く。

「薬を流す。目を逸らしてくれ。」

「そうする。思うがままにやりなさい。」

「終わったら一度酒を飲む。それには付き合ってくれ。」

「まずは薬だ。」

「へいへい。」

「う。またここか。」

一度意識を落としたアイアが再び目を開くと枯山水の景色が広がる軒先。アイアの体は十歳の頃のもので仮面は無い。

「胃がムカムカする。」

彼の実家。この霧の時期に葛霧と歩くたびに一度、ここに送られる。ルグラに壊されなければどうなっていたか。家族と円満に暮らせていたかを見せられる。だがアイアは一度も折れなかった。過去は過去であり今でないと思っている彼なりの強さ。それ故今に残っていたルグラと千牢という二大トラウマは容易に彼を折った。それはそれでこれはこれと吹っ切れたので戻れる程度にはやはり強い。

「身体はあの頃よりやや大きくなった。事件から二年後の頃か。」

畳を踏み障子を開き廊下を歩く。廊下は家の大きさよりも小さい。と言っても家そのものが大きいので廊下もそれなりの幅だ。

「桜昏も無い。どこかで凶器を探さないと。」

幸い、構造は覚えている。障害は毎度ランダム。

「お兄さん?どこに向かおうとしてます?」

前方から歩いてくるアイアよりも小さな少女。

「千那か。どうにもこうにもふらついているんだ。」

「ふーん。」

興味がそがれたのか千那、彼の従妹は去る。

「(台所は曲がりくねりの道の先。障害も多い。武器庫は警備が手厚い。この体では容易に止められる。暫く様子見だな。)」

「あれ、桜盤じゃねえか。」

「千百合姐、仕事はどうしたんだ?」

気迫のある従姉の千百合。

「祈りは済んでいる。それ以外、するべきことはない。これから刃を研ごうと思っている。」

「なら見学してもいい?」

「危ないから触るんじゃないぞ?」

「うん。(これなら自然に武器庫に入れる。)」

「駄目だと?」

「十歳になったばかりの桜盤様は武器庫に入れることはできません。あまりにも危険です。」

門番に止められ失敗。

「済まないな。来年、私は十八。もう会えなくなるから共の記憶を作りたかったのだが。」

「そっか、来年はもう心臓を渡すんだった。」

依縁の古いしきたり。十八になる女性はたった一人の弟に己の心臓を渡す。この家の源流の主がそうやって生き延びた、嫌な話だ。アイアもまた末っ子であり千牢はその年になる前に逃げた。誠に自分勝手。

「そうよ、そして貴方の一番上のお姉さんはどこかへ行ったのよ。自分勝手にしきたりを破って。」

「もうしょうがないよ。」

「あら?昔はもっと胃をひっくり返した顔をしたはずでしょ?」

「それはもう知らない。」

「そうか。千早なら遊んでくれるかもな。またな。」

「バイバイ千百合姐。」

武器庫から離れ自室の目の前で壁にもたれかかる。

「憂鬱だな。って、憂鬱の血が流れている俺が何言ってるんだ。」

十歳の男児とは思えぬ憂いの表情。

「流れ、移ろい、起きねど死にたまえ。」

この悪夢は夢の主が自ら終わらせることは出来ない。話に聞いたことは有るだろう、夢で自殺をすると目が覚めると。この夢は其れでは終わらない。何事もなく、初めから。しかし、一つは変わらない。家族の死。狂気とともに、家族を皆殺す。悪夢を終わらせるためにはいつもそうする。今回はそうさせないために歳を若くしたのだろうがそれなら小さいなりのやり方がある。

「君の隣に居ない夢は悪夢なんだよ。」

自室に入ると戸棚を開ける。買い溜めたジュースをすべて開けると指を噛み血をすべてに入れる。

「はたして噴き出たひな祭りの喧騒は黙りこくったはげ山を花咲じじいのごとく旋風を唱えるのかな?それこそ除きもしない心の望遠カメラの電源おにぎりを振舞うと同義だろ?犬は夫婦げんかも食うものだしティッシュを可燃ごみに嗅がせてアルコールを国に上納して成り立つのかはまた別の議題に。仕込んだ杖の刃を展開してもそれがクマを狩れる保証はいずれ、猫が咥えて行ってしまうだろ。」

「嫌に段ボールの縁に塗った七味が香ばしいという猿がパーでいるなら君はチョキを出すべきだ。」

「子供に渡さず持ち帰る運び屋がいるなら音楽レコーダーにレゲエを叩きこんでいる間に泣く方が三呈安い。」

「お地蔵さんが傘を渡されても被ると誰が言っているだろうか。捻くれた狐さんが悪戯を隠しに鱗を挿しているかも?」

「淀みなく祝福をする幸せ達磨は馬肉を骨付き肉に合わせて初回の社会人にプレゼント。」

「シジミの話をするな。今はパプリカを焼くか茹でるか、イカ墨と牛乳のどちらがふさわしいかを議論している。」

「世間が許すことなくジャスミンを売っていろ。」

「自動車を飲んでいろ。」

「炭酸を振ったら水になるけど水を愛して戻せないのはおとぎ話だろ?」

「面を髪で編んで薫る雪月花?」

「それは愛しき鼻長人形。」

「全部見える。パンダの白黒だけね。」

口々にアイアの声で瓶がしゃべる。支離滅裂だが意図を組めそうな内容もある。汲むではなく組むだ。

「従姉妹にはこれで。男どもは何度目で出来るかな。」

 

失敗

 

失敗失敗

 

失敗失敗失敗

 

失敗失敗失敗失敗

 

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失敗失敗失敗失敗失敗失敗

 

失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗

 

失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗

 

失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗

 

失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗

 

「終わった。」

父親や叔父、従兄をその膂力で殺すことなど出来ない。だから従妹を浸食をした。血を飲ませ、脳を侵し、傀儡にした。

「この年の酒は回りが早いな。」

頭のない従姉妹の真ん中で酒をあおる。

「あの地獄絵図と同じ。ルグラがそっくりそのまま壊しつくした瓦礫の山。君に問う。どうして前を向いた俺を柄仲が手招くんだ?枯れさせてくれよ。」

何も返らない。

「せめて死んだら笑っていなよ。」

意識に霧がかかる。

 

「気分は?」

「災厄だよ。」

「そうか。」

「いつになれば諦めるのだろうか。」

「それを探すのもまた」

「一興だな。」

「こ、飲。」

「はいよ。」

再びあの錠剤を飲む。

「一、聞。」

「何の声だろう?」

「怯えている声。先ほど氾濫しそうなほど聞いた。」

「何故だ?」

「それを解かないと不味い気がする。」

「な、行。」

「歩いて行こう。刺激しないように。」

仮面の二人は声の方へ歩む。邪魔な人形は叩き壊す。目障りな霊は符で撃退する。

「!葛霧。見えるか?」

「右手に近接武器、左手に銃は狩人の基本装備。」

狩人とは獲物を狩る存在全てをひっくるめて言うが必ず銃と武器を決められた手に持たなければならない。鯨狩りがいれば霊狩りといった異端もある。

「この霧で怪異が返り討ちとは。」

「陰符で様子を見よう。」

「賛成。」

狩人は腰を下ろし武器を置くと何かを抱きしめる。

「ぬいぐるみでも落ちていたのか?」

「何故ここにあるんだという話だが。」

「いつ仕掛ける。」

「背後を取るぞ。」

「そうしよう。」

近づくとすすり泣きが聞こえる。

「ヤダ、イヤだ。」

「どうして、どうしてぇ。」

「うぅ、グス。」

「来ないでよぉ。」

「暖かいのは嫌なのぉ。」

五人の少女が寝転がったりしゃがんだりと各々の体勢でいる。

「千背、千屋、千那、千里、千是。」

「君の従妹だったな。彼女らはどうする?放っておくか?」

「死んだとき、あの子らは五歳でしかなかった。故に罪を飲んでいない。多少の情はかけてもいいだろう。狩人、君は誰だ。」

狩人はフードを脱ぎ頭を上げる。

「アイアじゃん。」

「ルグラ!?」

両脇に冥鏡志酔を置いたルグラは千那を抱きしめていた。

「なんでお前がここにいる!?」

「気分が悪い奴にエンカウントしたから千影のところで武器を弄らせてもらおうとしたら霧で迷うわ追い回されるは襲われるやら散々な目に合ったの。そんな探索途中でこの子らを見つけたの。他の奴らと違って私から逃げようとした。捕まえて抱きしめてわかった。昔、手にかけて苦痛を奪った子達と。」

「偽り人形たちはどうした?」

「変に動く肉塊のことを言ってる?切り付けたら崩れたよ。」

「豆腐だっけ?」

「挿したら叫ぼうとして崩れるか弾けた。」

「霧たちはどうなんだ?」

「触られたときに肌が少し朽ちて液漏れしたら逃げた。今は緊急用現状維持シップを貼っているから浸食進行は最低限のはず。キモかった。」

「見せなさい。解呪ならできるかもしれん。どこだ?」

「背中だけど、やめた方がいい。」

「それはどうしてだ?」

「絶望するだろうから。」

「何を言っとる。」

「この体は血も涙もない。涙の代わりに体が苦しみ、血の代わりに心が放り出される。千景ならうまく直してくれるでしょ。」

「工房へ向かうのか?」

「そうでもしないと怒られるでしょ。」

「俺らもそっちに行く。一緒に行こう。」

「賛成。」

「ありがたく参加させてもらうよ。」

「その子らは?」

葛霧は今も泣く少女らに目を向ける。

「俺らが向こう岸に行けば元に戻る。本来、こちらが余所者だ。」

「それもそうか。行くぞ。」

「ああ。」

「そうだね。みんな、安らかに眠ってください。」

「ルグラ、そういえば何故奴らが見える?こんな薬、飲んだか?」

道中、アイアはルグラに錠剤を見せながら問う。

「何それ?何故見えるって、見えちゃいけないの?」

「いけない。」

「ワイルドハントを被った後遺症かな。」

「あんたの存在そのもの一切合切が適性があるのかもな。」

「貶しとして受け取るよ。」

「アイア。」

「言わんでもわかる。」

「「何で付いて来る。」」

三人の後ろから五人の少女が付いて来る。

「何もせんのが不気味だ。」

「大分東に走ってしまったな。この調子だとどのくらいかかる?」

「一夢はかかる。」

「わからねえってことじゃねえか。」

「怪異が混じれば延びるかもな。」

「それはそうだ。」

「アイア、その怪異達ってさ、何を基準に襲ってくるの?」

「生気、恐れ、悲しみだな。」

「なら、私と君らで分かれた方がいい。」

「何故だ。」

満面の笑顔でルグラはいう。

「私は井戸だもん。」

そうして飛び上がり屋根を走り去ったルグラを追うように霧が集まってくる。

「方位磁針が使えないのにあいつどうするんだ。」

「あの小娘なら平然と着いていそうだがな。」

「道中は楽だがゴールに全部詰め込まれたな、これ。」

「一掃という点では労力は少ないかもな。」

「あの五人も行ってしまったし気負う必要が無くなったな。」

 

「気負う必要は無くなったんだが、最後の障害も消えたら怖いんだよ。」

千影の工房前、地面が焦げ付いた惨状、目を輝かせている少女たち、平然と立っている右袖が焼け焦げたルグラ。

「遅かったね。」

「何やったんだよ。」

「冥鏡志酔の大剣形態で煉獄産石炭粉末入り五二マグナム弾を惜しみなく使って片っ端から粉砕して破砕して焼却したら敵は消えたけどこの子たちは懐いちゃった。」

「映像とかあるか?」

「見返すためにそこに保存用カメラ置いたから見てみる。」

「何してるんだよ。」

「客観的に見た被害範囲とかモーションを確認して隙を確認する。かなり大振りだったし。」

「これは中々見ごたえがあるな。」

「なんか言ってるな。」

「なんか気分が高揚しちゃって、言ってたかも。」

「煉獄の素材がそういった副作用を起こしたはずだ。」

「虎穴の宝を取ろう思ったら、その穴墓穴になることを覚悟してるのでしょうね!、ここまで耐えるとはなかなかやる奴だね。だけどさぁ、強い呪い一つで勝てる脳無しだったようだねぇ!って、お前、そんな人格ではなかったろ?」

「恥ずかしい。見なけりゃよかった。」

表情を赤くして恥じるルグラと弄るアイア、笑いをこらえる葛霧。

「何だよ、今日はもう店じまいなんだよ。喧嘩の華は他所で咲かしな。アイア、ルグラ、葛霧様、どうしてここに?」

扉が開き、工房の主千影が出てくる。

「千影、ちょっと背中診て欲しい。」

「背中ぁ?厄介な時に来たもんだね。お三方、入りなさい。」

「邪魔するぜ。」

「感謝する。」

「邪魔するんだったら帰ってね。」

 

「派手にいかれたね。」

「新しい感覚だった。」

「下手に手を出すことをしなくてよかった。皮は張り替えたし痛んだギアも換装した。」

「入れ替えたそれらは?」

「試作品に使ってみるよ。」

「またメンテの時はよろしく。」

「はいよ。さて、他の来客は何してんだか。」

沈黙のみだった。気まずさが杯を溢れている。

「「(なぜこの子らも来てるんだ!)」」

三人についてきた五人の少女が思い思いに客室で寝転がっている。

「「(死者は屋内に入って来ないはずだろ!)」」

「入ってこないのは家の主が拒むからだ。歓迎してるのさ。」

少女らにジュースの入ったコップを配りながら千影が答え合わせをする。

「何でだよ。」

「穢れてない姪たちだからな。甘やかしてもいいだろうと思って。」

「「「「「ありがとう!」」」」」

「あんたは薬は?」

「飲んでるぞ。」

「そうか。」

「此処からどうするんだ?」

「船代を渡して帰る。」

「捕まんないようにな。」

「ルグラはどうなんだ?」

「一応払っておこう。休ませてもらいありがとう。」

「どうも。またおいでなさいな。」

三人が出ると小さな子達もいなくなる。

「一嵐すぎたか。」

 

「着いた。」

大きな川のほとりにある船着き場。

「此処はどこ?」

「生死の境界を決める川だ。あの船頭に代金を払えばここから帰れる。」

「代金はいくら?」

「生き血だ。」

「私、払えない?」

「それはどうだろうか。交渉しないことには。」

船頭に近づくと今までは淡々とした態度のそれはルグラの顔を覗く。足を動かさず体がバルーンのように伸びてだ。ようやくそれっぽいのが来た。

「あの、何か?」

「^*(8%^*JjUIfeG&(*^*%#H*^」

「え?」

「『涙を五滴よこせ。』だってさ。」

「涙?大丈夫なの?」

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「『よこせ。』だってよ。」

「わかった。手を出して。」

手を差し出した船頭に眼球を外した眼窩から直に冥血を注ぐ。

「これでいいですか。」

「IONE(ONS%('}'[]$%^W」

「『問題ない。』だってよ。」

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「俺らの船賃は不要?」

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「葛霧、ルグラ、行こうか。」

「ああ。」

「妙な場所だった。」

ゆっくりと船が岸から離れる。岸から四人の少女が手を振っている。可笑しいね。

「千那がいない。」

「先程まではいたはずだが。」

「あのさ、アイア。」

「何だい。わかった気がする。」

「此処にいる。」

「示し合わせた結果かよ!」

「見事な旗の取り戻し。」

「?」

何もわかっていない笑顔で千那はルグラの後ろにいた。

「今からでも帰すことはできない?」

「あそこを見てから言ってくれ。」

手の先にはあの白鯨に引けを取らない大きさの骨とゼラチン質の体の魚が飛び上がっていた。何匹も。そしてそれを喰らうさらに大きなウツボのような怪物。

「無理。」

「この船は一方向なんだ。あっちに渡る船は死なないと乗れない。」

「どうしよう。」

「ひとまずわっちのところで預かる。」

「お願いする。」

「結局、あの霧って何?」

「夢と現の境目があやふやになる乱れだよ。毎度、この時期に来るんだ。」

「なんで?」

「でないと羅炎が乱れる。」

「理屈は?」

「怪異をしばいて此岸に来ないようにしている。」

「酷い。そっちからしばきに行くんだ。」

「だが霧だけはどうにもできない。」

「何故?」

「祟り神だからだ。」

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「もう着いたか。下りるぞ。」

「ありがとうございました。」

「ました。」

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「また渡るときも頼む。」

「此処は?」

「羅炎の西にある大河だ。神社に行くぞ。」

「俺らは走る。ルグラはそいつをおぶってついて来い。」

「わかった。乗って。」

「うん!」

千那はルグラにおんぶをしてもらう。

「狐雨!」

「案内は任せな。」

狐雨が空から降ってくる。

「走るぞ。」

 

「長い一日だった。」

「私はもう行くね。」

ルグラは帰ろうとする。

「なら山を下ればすぐに里にたどり着く。」

「そっか。バイバイ。」

「珍入者に戻り者。頭が痛い。」

「俺もそこらは手伝うから。」

「そうだな。まずは酒を入れてからにしよう。飛び切り濃い奴で。」

「狐雨、面倒を見ておいてくれ。」

「任せんさい。」

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