アンサラー 幻葬   作:月導

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二章~受け入れられない~

夕夢の幻葬入り後、ニヘルのエゴイストであるルグラは白い空間の中一つの書類に取り掛かっていた。それは傍らに置いた椅子に座る夕夢の所属書類である。アンサラーには誰でもなれるが、人材管理のため登録書類の提出を義務付けている。それとは別に組織入りした際には所属書類、組織設立の際には組織概要説明書類、特許技術開発の際には技術保護要請書類と出すものが多すぎる。事務作業は嫌われているのだが、原因の一つがこれである。なお、件の夕夢は居心地の悪さ半分、好奇心四割、畏怖一割で口を開き

「あの、さっきニヘルさんに聞いたのだけれどあなたは何でずっとここに閉じこもっているのですか?」

「過去にね、作っ、いや、消したといったほうが正しいのかな。この場で話すことはできないけど今は罪の痕跡とだけ言わせてもらうね。」

「そう、わかったよ。」

夕夢はやや不服そうに返事をするしかできない。

「悪いね、ろくな話もできずに。あっ、書類は両方できたよ。あとはウロにでも渡したら手続きを行ってくれるはずだから。」

「ありがとう、ルグラさん。」

「ルグラでいいよ。あと、過去のこと以外についてはたいてい話せると思うよ。」

「はい、ルグラ。じゃあ、一つ。その鎖たちはいったい?」

「これ?私のもの。ふふ、私は知っているんだよ。苦痛はいつも私のそばに立ち、ただそばにいる。私が幕を引くときも当然というように傍らにいることをね。私は進むことが怖い。変わることも離れることも新しいことも。だから繋ぎ留めて近づけさせない。私は怠惰。ここに釘付け。これ以上の説得は無意味なんだよ。」

「あ、はい。えっと、ありがとう。また話そうね。」

夕夢はそそくさと去った。だってルグラの顔が恍惚と蕩けていたから。

「やっぱり私がおかしいんだね。」

なんて寂し気にルグラは後姿を見送った。

 

「ウロ、これ書いてもらった。」

「ん、リョーカイ。三十分もすれば受理されるだろうな。」

ウロは待ってましたとばかりに飛び出した。

「早っ。」

「あいつにとっては世話を見るやつが一人増えたからな。まぁ悪気がないのは分かるだろ?」

「はい、ニヘルさん。」

「敬称はなしだ。ここからは同じ職場の仲だ。」

「ルグラと同じことを言っている。」

「以前言った通りあいつは俺だったからな。あ、是今朝の情報だ。」

「ありがとう。えーっと

・時間屈折怪盗、千時間の切断事件に関与

・血の河、いまだに涸れず

・四元魔術師、ソルセドフにて曲芸……これはどういう内容なの?」

「あーじゃあ、一つずつ説明するな。時間屈折怪盗はここ最近名を伸ばしてきた元人間の脅威だ。こいつは時間を奪い、その時間をまた多くの時間を奪うことに使う守銭奴のような行動をしているが加速したやつを捕らえることがかなり困難だ。だからいまだに被害報告が止まない。」

「元、人間?」

「前、コギト使いについて説明したろ?心が折れたり諦念に覆われると発現できないと。さらに強烈なストレスがかかるとこいつのような怪異、正式名称セルヒスになるというわけだ。能力はストレスの原因と近い関係がある法則がある。」

「へー。」

「次に血の河だが、まず前提としてこの世界には人間だけでなく複数種の知的存在がいる。その中の血鬼という血を操る連中がいる。基本的に彼らはやたら滅多と人を襲わない。彼らは人がいなくなると血に渇いて苦しむから。でも、個体の中にはそういった規則、不可侵のルールを破るやつは一定数湧くんだ。この記事はそいつらが集まって起こした虐殺の遺産だ。小さいとはいえ町一つが真っ赤になった景色は物珍しいものだったよ。確か……八万人くらいかな。だがまあ、これくらいの規模の事件はたまに起こるよ。慣れだな、慣れ。」

「えぇ……。」

「最後の四元魔術師は、非常に優秀な魔術師らしい。アイアは魔術の腕もかなりあるが、本人が’一度話をしてみたい’なんていうからな。けど、この人はあまりに気ままに彷徨っているなんていわれるくらい不定期に来るらしい。しかも場所もランダムときたし顔も不詳。最近は顔がないのでは?なんて噂が流れるくらいには。」

「はえー。」

「あんたが気になるのはこれくらいか?」

「うん。」

「話は終わったか?」

話にウロが入り込んできた。いや待て、

「おい待て、まだ十分もたってねえぞ。」

「HAHAHA、受理されるのは三十分、往復には十分で済むんDA☆」

「やめろ、イライラする発音。」

「そういうなって。それに、先ほどの話につながる話題だしね。」

「あ゛?」

「怖っ、四元魔術師がここに来るとよ。アイアはすぐに向かったよ。血の香りがするなんて言ってね。」

「俺も向かうよ。夕夢、ウロと待っていてくれ。今度戦闘の手ほどきをしてやる。」

「「いってらっしゃーい。」」

「いってきまーす。」

ニヘルは駆け出した。

 

 

~四元魔術師side~

件の四元魔術師はその頃、フードを目深に被り背後から襲ってくるムカデ(10m単位)から逃げていた。チューブが絡まったような見た目の大きさは三mほどの猟犬にまたがって。しかも絶叫しながら。

「ああ゛ーーー!!!なんでなんでなんで?肉が生えてくる!もいでももいでも生えてくる!SAN値削れるかも!めんどくさい!ハウンド!もっと速く走れる?」

「無茶言うな、モツの一つでも抜けば倒れるだろ。それにあれ以上のインパクトのある連中と友人だろが。」

「そんな膂力持ってないよ!あと、あれはただキモイ!あのサイズであの速度、動き、音、全部嫌悪感を掻き立てるんだよ!」

「体焼いたらそのくらいの力は出せるだろ?」

「アレ痛いの!わかる?あの光景思い出すの!わかる?トラウマだよ?心身ずたずたなの!」

「そうは言ってもなぁ……。このままこの広い平原を駆けていてもな……。」

「ここで迎撃するしかないか。」

先ほどの慌てようを消すと猟犬、ハウンドから飛び降りると片手に握った曲剣を眼前に掲げ

「あんたは戻ってな。さあ来い。貴様らをこいつの錆にしてやる。」

そう宣言すると曲剣を背にある折りたたまれた柄に叩き付けると剛音と共に柄が伸び、大鎌に変形する。空いた片手には大型のリボルバー拳銃を握り

「穢れた血の一滴残さず焼き尽くしてやる。」

しかめっ面と一緒に頭に銃口を突きつけ

ダァンッッ

重い音が響く。だが体は倒れず硝煙も立たない。背後には火のようなオーラが揺らめく。そのまま大鎌を横に一振り

「ハハハッ」

高笑いと血が。その場に響く。血に誘われた影が這い寄っている。

 

 

~アイア&ニヘルside~

ニヘルは先に飛び出したアイアを追って走り続けていた。

「まったく、行動の速さをもう少し抑えてくれないかな。」

なんて愚痴っていたら立ち止まっている人影が一つある。件のアイアだが様子がおかしい。

「なあ、何があったんだ?こんな海で突っ立ているなんて。鯨がいるから危ないぞ。」

「あれ、四元魔術師じゃないか?」

そう指をさした先にはムカデの骸の群れの中白く濁った生物?と交戦する鎌を持った人がいた。

「正体の詮索は後だ後。鯨をさっさと殺るぞ。」

そう言い飛び出すニヘル。

「そうだな。」

続いてアイアも飛び出る。かなり長い針と震える大きな槍を掴んで。

「おーい、大丈夫か?四元魔術師さん。」

「あなた方は?」

「君の向かうアリゴに籍を置くアンサラーだ。名はニヘル。もう片方はアイアだ。話は鯨狩りの後だ。」

「ありがとうございま「痛え。」」

「え、ちょ、顔半分無いですよ!?」

四元魔術師は顔が半分無いアイアを見て叫ぶ。だがアイアは落ち着いて

「平気だ。これをすぐ刺せばな。」

「針…ですか?」

「ああ。だがまあ、色欲の共鳴をしないともう少し遅いがな。」

「しれっと残党をハチの巣にしているあたり強いですね。アイアさウワッ顔が生えてる。ん?色欲?共鳴?なにそれ、すっごい気になる!」

「すまないが話はあとでいいか?ここにいたらまたあいつらが来るかもしれないから。血に誘われて。」

「それは嫌だな~。」

「ならこっちに。」

そう言葉を介しアイアとニヘルと四元魔術師はアリゴに向かうことにした。

「歩くの疲れたので、猟犬を呼んでいいですか?何なら乗ります?」

「良いのか?」

「まあ、多分。」

そう言い四元魔術師は握っている曲剣を振るう。切っ先から先ほど去った猟犬が飛び出る。

「話は聞いていたよ。乗りな、お三方。」

「すまないな。」

「ありがたい。」

「ありがとね、ハウンド。」

「気にしなくともよい。」

三人がハウンドに乗るとゆったり進み始める。

「ひとついいか、四元魔術師さん。」

「夢雨と呼んでくれ。その呼び方はむず痒い。」

「なら夢雨さん、失礼かもしれないが、顔を見せてもらってもよいか?いや、表情が見えないのはなかなか話しづらいものがあるので……。」

「すまないが出来ない。顔出しNGでやらせてもらっている。」

「それは残念だ。それともう一つ。その武器はどこのものだ?」

「これ?私の能力だよ。私の友人に初めて出会った後から出せるようになったんだ。この鎌はハフィラ、こっちの銃はクハクシュ、今取り出した本はドスト、首飾りの鍵はアナシュヨっていうの。」

「おそらくそれはコギト。あふれ出したお前らしさが武器になったお前だけの武器だ。」

「面白い名前だね。あ、着いたね。先ほどはありがとう。」

「俺らの事務所についでによるか?茶ぐらいなら出せるし。」

「ええ、お邪魔するわね。ハウンド、送りありがとう。」

「いや、気にするな。ひと眠りするわ。」

とうとうアリゴについた三人は幻葬事務所見向かうことにした。

「戻ったぞー。」

「お邪魔します。」

「おかえりー。あれ、お客さんか?待っててくれ。茶を入れてくる。あ、あの子は今ルグラと会話の練習だ。」

「ありがとな。そうか、少しずつ変わろうとしているのかな。」

「そこまでは知らなーい。」

「そこまで適当な扱いをできるんだ?」

「適切な対応でーす。お、話が終わったようだな。」

ウロの言葉通り床を踏む音がする。現れた人影は夕夢だった。服は以前のような病院服ではなく黒いコートとズボン、ブーツといわゆるミリタリーゴシック、またはファンタジー軍服と呼べるもので紅い髪に似合っていた。

「おかえりなさい、二人とも。見てこれ!ルグラと考えた新しい服のデザイン!あれ、後ろにいる人は?」

「ああ、この人は朝話した四元魔術師の夢雨だ。」

「え、夢雨?今、夢雨っていった!?」

「おい、急にどうした!?そんな慌てて!?」

雨夢の名を聞いた途端、正気を無くしたような振る舞いをする夕夢に男二人が慌てると

「夕夢…?」

一方、夕夢の顔を見た夢雨も正気を崩しかけていた。そのままフードを取り払うと、そこにいたのはマリンブルーのドレス、空色の蝶をあしらったカチューシャ、白い手袋とブーツを身に着けた白髪の夕夢だった。

「なんで生きてるの…?」

この場に最後に響いたのは夕夢の弱弱しい呟きだった。

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