アンサラー 幻葬   作:月導

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二十二章~かりモノ~

幻想の一行は検問を受けてビーチに入る。

「何でビーチに検問?」

夕夢が問う。

「大海は日が落ちてからは危険だからな、防壁の意味もかねてだ。」

「そっか。主任、ここは泳げるよね?」

「もちろん。」

「よかった。」

そう言うと夕夢のいつもの服が崩れ黒の生地に赤いラインの競泳水着が現れる。同時に羽は無くなり代わりに腕にヒレが生える。

「変異した。」

ぽつりと主任が言うと夕夢は説明をする。

「ほら、私は地上でしか戦った事しかないしさ。その機会に水中に慣れようかと。因みにこの体は今まで食べたものから情報を引っこ抜いて変えてみた。どうかな?」

「慣れないが戻れるならいいんじゃねえか?」

「あんたならそう言うと思ったよ。じゃお先に~。」

みんなを置いていき夕夢は水中に潜っていった。

「いつの間にあんな技を。」

ニヘルは頭を抱える。

「楽しんでるなぁ。」

アイアは笑っている。

「わぁ~~!」

目を輝かせるヨブカ。

「主任、海中に食べられる生物っている?」

夢雨はリボルバー銃型のコギト、クハクシュを持ちながら質問をする。

「見える奴だと…あれとかどうだ。デカウツボ。」

主任の示した先にはウツボがいた。水平線の先から体を持ち上げるのが余裕で見えるほどの大きさの。

「ニヘル、あれ、解体できる?」

「出来る。」

「じゃ狩ってくる!」

持っていたクハクシュを頭に打ち込むと背負っていたハフィラを斧型にし海に消える。

「ホントに解体できるのか?」

アイアはニヘルに確認する。

「心配はいらない。」

「その前にさ、なんでドタマを撃ったの?」

主任の質問は無視される。

「水着、無い。」

ヨブカが寂しそうに言う。

「大丈夫、私が作ってあげるから。ヨブカを借りるよ。」

ルグラは白い霧の中にヨブカを連れて行く。

「(あいつ、しれっと首に結晶ぶっ刺してるじゃねぇか。)」

黙っていることにするアイア。

「それにしても大きいね。」

大海に感嘆するメメンス。

「ひとまず、寛ぐために用意をしようか。」

ニヘルはBBQグリル、ビーチパラソル、チェア、シートを取り出す。

「アイア、設置は任せる。」

「わかった。」

「主任は火を頼む。」

「へいへーい。」

ブロロロロロ……

地に響くエンジン音が近づいてくる。

「車?いや、バイクっぽいな。」

主任が火を育てながら言う。

「ここら一帯は栄えているが一つ隣の街でも一晩はかかる。それほどのリスクを負ってまで海を渡るものなどいないと思うが…。」

「海やら大海やらややこしいんだよ。」

「あの人たちかな?ニヘル、見覚えは?」

メメンスの目線から検問所の向こうからバイクから降りた二人の人影が見える。

「ヘルメットを被っている。わかる訳が…」

白蛇の尾が見える。

「訂正だ。知っている。」

検問所を通ったヘルメットの二人はそれを外す。

「はぁー。着いたか。」

「百三十八日ぶりの休暇だ。盛大に休もう。」

血鬼国ソルセドフ頭首のソルフ・ローンスとその専属秘書兼後始末係のバトラーのオルテだった。以前会った時と違い互いに気兼ねなく言葉を交わしている。

「まずはテントを張らないとな。」

「松明の準備もしないと。休むのに働かないと。」

「「あっはっはっは!」」

少し壊れているようだ。

「おや、幻葬の皆さんでしたか!あなたたちもバカンスにですか?」

こちらに気付いたようでオルテは手を振ってやってくる。

「おや、ここで会うとは奇妙な縁だな。にしても知っている奴がおらず知らぬものがいるが…。」

ソルフは首をかしげる。

「初めまして。最近、幻葬に席を置いた主任と申します。以後、お見知りおきを。」

「よろしく頼む。」

主任とソルフが顔合わせしているとき。

「ニヘルさん、お隣にテント張ってもいいかい?」

「構わないが一ついいか?」

「何だい?」

「何故君の尾に…ソルフさんが乗っているのだい?」

先程からの違和感はそれが原因だった。

「今日は休みだ。」

「そうだ、夕夢はどこにいる?」

バッシャーーン!

ソルフの質問には海面からの夕夢の飛び出しが答えになった。

「彼女ならあそこだ。」

「十分見えた。エピゥールが度々世話になっているから礼が言いたかったのだがな。」

「飽きるまでは暫くかかるだろう。」

「戻ったよー。」

ヨブカとルグラが返ってきた。二人そろって体型がわからないラッシュガードを着ていた。もっとも、それ自体がフリルの付いた桃色と空色のかわいいデザインだが。

「あの二人は?」

「紹介します。桃色のラッシュガードを着ているのが私自身でもあるルグラ、水色のラッシュガードを着ているのが最も新しく入ったヨブカと言います。」

「ヨブカというのは角人なのか?」

「いえ、主任と同じネビュラという存在です。」

「そうなのか?」

「そうです。」

「ニヘル、この人とあの人は?」

「こちらは血鬼国ソルセドフ頭首のソルフ・ローンスさんとその専属秘書兼後始末係のバトラーのオルテさんだ。」

「初めまして、ルグラと言います。」

「初めまして、ヨブカです。」

「なぜ君の首に白い水晶が刺さっているんだ?」

「ちょっと人目のない場所に行ったからです。波打ち際にいるので何かあったら声をかけてください。」

ルグラとヨブカは一緒にここから離れる。

「調子の狂う子達だな。」

 

深い暗い深海を光の一点が舞っている。夢雨だ。深度は六千は潜っている。

「(生物の気配一つもないけど確かにここまで潜っているんだよな~。)」

あたりは何も見えない。

「(照明をたくか。)」

魔法陣を展開。

「(詠唱破棄。ブラストスターウェイ。)」

赤、青、黄、緑、橙の星粒が周囲を照らす。上下左右に妙にしわのある壁が見えた。

「(なるほど、喰われたか。)」

慌てはしない。

「(詠唱は破棄しないでいいか。)」

懐から八角形の小さな香炉を取り出す。

「(おうゆてかくがるいちひふてそんこれみふあ、わるみゆてぼてむわこすけかてんずせさわそ、むねみゆこぎょそてせへこすべぬんてきむくふぬかつててるをこひすよそびこごすつふけ、せしそむくざおんけしみみた、むけむむけへ、ねあむねあへ、しにけすすいふらへりんそれか)」

香炉から斑色に光る実を成らす枝が生える。

「(しょっぱいなぁ。)」

同時刻、夕夢は砂浜から遠く離れた水中を泳いでいた。

「(エラ呼吸にしたから息の心配はないけど味覚を切った方がいいかなぁ?でもどんな味がするかは試したいんだよ。どうしよ。)」

先程捕らえたウニを齧りながら悩む。

「(下から視線?)」

下から四人の何かが睨んでいる。銛を持ち左腕にスリンガーを括り付け壺を腰に付けた彼らは正四面体の頂点を結ぶ位置でこちらを包囲する。

「(逃げよ。)」

水を蹴り包囲の隙間を抜ける。

「!」

それを敵対と捉えたのか銛を振るう四人。腰の壺から銀色の小魚が出てくる。

「(斥候?)」

小魚を追いかけるようにその背後を三mほどのカジキたちが迫ってくる。

「(あ、これ違う。ルアーか指令みたいなもんじゃん。)」

衝撃が生まれそうな速度で迫るカジキたちをいなしながら水面から飛び出す。

「陸はあっちか。」

飛び出たカジキを空中でよけるとまた水中に戻りニヘル達の下に行く。

「「「「…。」」」」

謎の四人は懐から螺旋型の弾をスリンガーに装填すると追いかける。

 

「エビ、美味いな。」

尾頭付きの焼えびを丸ごとかみ砕くとビールを流し込むアイア。

「腹を壊すよ。」

ニヘルは野菜や肉を焼きながらアイアをたしなめる。

「おいひい!」

ヨブカは出されたピーマンや肉、魚にかぶりついていた。

「主任、ネビュラは食べることは必要なの?」

ルグラは骨をかみ砕きながら質問をする。

「味は分かるから、楽しむために飲み食いはするんじゃないかな?」

コーヒーをすする主任。

「潮の香がいいな。」

チェアに腰かけてすりおろした薔薇を飲むソルフ。

「べたつくなぁ。」

身体の手入れをするオルテ。

「ぷぁ!」

そんな一行の間に入るように夕夢は水面から飛び出し着地する。

「…何があった?」

焼いたものを皿に移しながらニヘルは安否を問う。

「海の中で遊んでいたら四人の謎の人から囲まれて、逃げたらミサイルみたいな魚どもから追っかけられてようやくたどり着いたの。」

一息ついた夕夢は服と体を普段のに戻す。

「待て、そこのもの。」

海面から四人組が現れる。

「げぇ、来た。」

「狩人の者だったか。」

ニヘルは誰か知っているようだ。

「誰?」

「彼らは水場で狩りを営む水生狩人だ。言葉は通じる。」

ニヘルが答える。

「そこの者は何奴だ?」

「我々の仲間だ。そちらは、何故彼女を追っていた?」

「見慣れぬ人影が出れば警戒をするものだろう。」

「…そうだな。しかし、それほどの警戒が必要なのか?」

「この頃、大型狩猟対処が各所で暴れておりこちらも疲弊しているからだ。」

「それはどういったものだ?」

「近頃はシマカコイに手を焼いている。」

「それさ、夢雨さんが狩りに行ったデカウツボの事なんじゃ…?」

「シマカコイ、深海五百メートル以上を生息域にし、幼体の時点で数十メートル、成体では最大八十キロメートル。観測記録から龍目の最大種であると…」

「解体、出来そうか?酒の肴にしたいんだが。」

「君ら、アレを狩ると言ってるのか?骨が折れれば儲けものさ。」

狩人の一人が止める。

「第一に体格が違いすぎる。こちらも二度狩ったことがあるが数十人で神経毒を代わる代わる刺し一週間かけ毒殺したのだぞ。それにその個体も二十キロメートル程度の若い個体だ。」

「狩ったことあるのか。ならいけるな!」

主任が納得したように声を出す。

「よほど頭のネジが緩いらしいな。一度溶接をして外れないようにした方がいいのでは?」

「そちらのネジは錆ついて動かないようだね。」

「ネジなどハナから抜いたよ。」

「何処に保管してる?」

「武器の修復に使っちまったよ。」

「今からでも作ってやろうか?」

「腕が重くなるから不要だ。」

主任と狩人が罵倒をしあっていると水平線から異物が見える。

「タコ足?お前ら、見に行くぞ。」

狩人たちは一斉に大海に戻る。

「何だあれ?知らない生物だな。」

「夢雨?」

ニヘルは空を蹴りタコ足の方へ向かう。

「おいおい、何かあったんか?」

アイアは卵を呑み込みながら遠方を覗く。

「ルグラ姉、私も見に行きたい。」

「あ、私も!」

ヨブカとメメンスがルグラに強請る。

「じゃぁこれで行くか。みんなは乗る?」

水上バイクをモザイクから取り出し他のメンバーに問う。

「休みたい。」

「酒飲みたい。」

「観察で十分。」

「こちらも同じだ。」

「手入れが面倒くさい。」

「全員休みか。」

ルグラはエンジンを吹かし発進する。

 

「おい、アレを見たことは有るか?」

狩人の一人が仲間に聞くが誰一人見たことはない。

「潜り全貌を確認だ。」

「「「是。」」」

潜りゆく四人を上から見下ろしていたニヘルはタコ足を近くから観察する。

「吸盤の代わりに鍵爪。表皮は青系統の斑色、直径から全長は推定五百キロメートル。何より、以前調理をしていた夢雨と同一の構造。やはり夢雨が原因か。」

「ニヘル!ちょっとこっち来て!」

下方からルグラの声が聞こえる。目をやればルグラ、ヨブカ、メメンスがいた。

「ルグラ、何故二人を連れてきた?」

冷たい声で非難をするニヘル。

「手のかかる娘妹二人のお守だよ。自分の娘のしたいことはなるべく叶えさせた方がいいし、そもそも。保護者失格でしょ。」

「()」

「ニヘル白目向いた~。」

「仕方ない。私たちだけでも潜ろう。」

「色は、使うの?」

「耐えるのが面倒くさいからね。」

黄色い結晶を突き刺しヨブカとメメンスを抱え潜ってゆく。周囲を空気が取り囲み空を飛ぶように下へ潜っていく。

「何を支配したの?」

「空間と重力。空気を保持しつつベクトルを弄って潜ってる。視界が悪いから光もついでに。」

周囲が海面と同じくらいの明るさになると全貌が明らかになった。といっても頭だけで中央街宮程の大きさがあるウツボの口から伸びたあのタコ足が本体を締め付けているだけだが。

「おっきい!」

「これは大きい。ルグラ、夢雨は見える?」

「視界が悪い。口に入ってみるよ。」

口元に寄ると狩人の四人もいた。

「調子は?」

「理解が及ばない。イカレ変態のあいつらなら、喜ぶだろうがな。」

「…。」

なにか気に障ったようだ。ルグラは何も返さず口に入る。

「夢雨~。起きてる?」

「ルグラ!?」

夢雨はいた。モザイクがかかっている。

「何があったの?」

「ウツボを狩ろうとしたらすでに食べられてて、今は〆てるところ。」

「食物連鎖だね。」

「〆ってる?」

「まだまだ。」

「姿は戻しておく。もう脳破壊するか。」

モザイクが外れた普段の夢雨は口から飛び出し額に視点を合わせる。

「あんたは?」

狩人が名前を問う。

「茜音坂夢雨。離れてて。」

手を軽く薙ぐと熱線が顎ごと脳を焼く。周囲が沸騰する。

「I hunted.」ボムン!

夢雨の決め台詞をかき消す爆発がウツボの口から起こる。

「夢雨!何巻き込んでんだよ!」

頭頂部に開いた穴から飛び出たルグラはキツく攻める。

「脳破壊から何かと思ったらこれだよ!あんたは私のことを塵と思ってるの?橙を刺したうえで緑の代償装甲を張って何とか耐えたんだよ?文字通りのミリ耐えってやつ。反対にしたから無傷になったけど壊れたかもしれないんだよ?娘と妹まで巻き込んでさぁ。」

「あーごめん。」

「…【規制済み】!【規制済み】!【規制済み】!【規制済み】!【規制済み】!【規制済み】!【規制済み】!【規制済み】!【規制済み】!」

「だめだめそんな汚い言葉言わないの!」

「もういいや。ニヘルは壊れたから解体はこっちがする。」

「あ、はい、お願い?」

シマカコイを掴み白い霧の中に押し込んだルグラはそのままいなくなる。

「あの、どうします?」

夢雨は狩人たちに予定を聞く。

「我らは去る。」

独りの夢雨。

「ルグラの言うことが本当なら回収するか。」

 

「なーにやってんだ。」

一連の話を聞いたアイアは空の盃で夢雨を叩き潰す。砂浜に突き刺さる

「じゃあ、今は三名離脱で一人気絶。場の空気持たないぞ。」

「コーヒーならあるよ?」

「いらねえ。烏龍なら欲しいが。」

「どうせハイだろ?」

「正解。」

「解体できたよ~。」

白い身を肩に乗せてルグラが海中から飛び出る。小脇にヨブカとメメンスを抱えて。

「三十キロ分持ってきたけど足りなかったら追加で切り出すから。味は良好だったよ。」

テーブルにどんと置かれる大きな肉塊。

「ニヘルはまだ壊れてる。私が切るか。」

包丁を取り出し厚いステーキ肉にする。切り分けられた端から焼いて行く。

「因みに寄生虫はないけど体液は摂食すると粘膜が過剰に出て詰まるからレアもお勧めしないよ。」

「じゃ生で。」

「夕夢、何を聞いてた?」

「刺身?美味しい。毒は大丈夫。分解した。」

「ばかじゃん。」

「で、だ。そこの砂。さっきから見てるけど誰だ?」

口を動かしながら放たれた夕夢の言葉につられ全員の視線が集まる。

「私だ。」

子琉だった。カレイのように砂に潜って隠れていた。砂を払う彼の傍らには瞼を縫われた身長百四十前半で青空色のショートのウェービーヘアーの少女。

「紹介しよう、私と連携している監視者の子呉だ。」

「紹介がありました、子呉だよ。」

「…肉、食べる?」

「そのつもりはなかったんだがな。いたただいてもいいのか?」

「バカみたいな量だから消費を手伝って欲しい。火山に水滴程度だけど。」

「これから補給だったから助かる。」

「補給って何を食べるつもりだったの。」

「これだ。」

エネルギーバーを取り出す。

「それって食べられる固形絵具とか完全栄養レンガって呼ばれてる携行食でしょ。」

「(あれってそんなひどい評判だったの?)」

かつてあれを美味しく食べていた夕夢は軽い衝撃を受けた。

「前提だけど、何時からいた?」

「夜の四時だ。」

「早朝っていうんだよ。はい、炭火焼ステーキ。子呉も食べるの?」

「お願い。」

「はいじゃこれ。火傷しないでね。」

「ルグラ姉、なんでこの人は目がないの?」

「監視者は仕事のために眼球と脳みそを掻き出して別に保管するの。」

「頭空っぽの方が夢を詰め込めるの?」

「夢はないけど飴ちゃんはあるよ。」

頭蓋の中から紫の飴玉を取り出す子呉。

「ブドウ味だけど食べる?」

「もらう。ありがとう。」

ヨブカは包み紙を剥いでキャンディーを口に放り込む。

「変な液、付いてないよね?」

「守るものがなければ盾もいらないよ。」

今頃ニヘルは目を覚ます。

「なんだ、再びか。」

包帯を巻いたままステーキを嚙み千切っている子琉。

「おや、趣味の悪い箱詰めカメラ少女もいたか。」

「ドンパチ花火、みょうちきりんな新生物、深海の舞、君らは飽きることがない。」

小さな口を動かしながら子呉はにやけている。

「ニヘル、ウツボのステーキを焼いたから胃にぶち込んでおいて。」

「重いな。」

「もーらい。」

夕夢が横からステーキをかすめ取る。

「馳走になった。アイアといったな、私と腹こなしの模擬戦をしないか?」

「処刑者とか。悪くない。一回なら生き返れる。乗った。」

「それほど期待をするならコギトを持ち出そう。」

「お前も同類か。」

立ち上がったアイアにルグラは二つの小道具を渡す。カセットテープと小さな機械の付いたベルトだ。

「何だこれ?」

「精神力を対価に別の力を使える秘密道具。使用すれば一時的に体力全快、力は簡単に使える。」

「面白い。後で使ってみるか。」

懐に小道具を仕舞ったアイアは子琉と共にいなくなる。

「瞬蹴の速度は恐ろしい。もう二キロ先だ。」

子呉はすでに捉えていた。

「ニヘル、子琉のコギトはなんていうの?」

「壞夢。」

「処刑者と随分な仲で。」

漸くオルテが口を出す。

「そうだ。長く生きていればそういった事もあり得る。」

「君はどう生きてきたんだい?」

ソルフも追随する。

「覚えてなどないさ。そちらは赤子の記憶を取り出せるのかい?」

「愚問だったか。」

突然、海面が大波のように巻き上げられる。

「突然どうした?」

オルテは彼のコギト、ソフで海水を押し返す。

「何か、冷えないか?」

「あれ、ルグラ姉はどこ?」

 

「(あの反撃はアイアのだ。それにこの冷え、アレを使ったのか。)」

ルグラは水面を凍らせながら沖に飛び出る。

「(反撃でも大きく損耗、回復にあれを使ったならケアしないと。ニヘルにバレたら絶対寝込む。)」

少し前に戻す。

子琉とアイアは互いに殺し合いをしていたが、アイアのみが傷付く一方だった。

「その武器いいな。守ったり殴ったり。複雑な機構をガチャガチャ変形するなんて変態じゃねぇか。」

子琉のコギト、壞夢は太刀と盾を合わせたような二つの大剣である。防御志向の吸撃盾と発撃剣、破壊志向の発撃盾と吸撃剣。普段は支給された工房武器を使う彼は壞夢を使う姿をこう呼ばれる。【没遮攔】

「(次がチャンスだな。)」

羅炎式の大技で子琉の動きを様子見したアイアは最もタイミングを掴める抜刀縦切りに合わせ納刀をする。

「しまt」

再び、あの反撃が行われる。海面を切り裂き僅かに海水が赤くなる。この至近距離、ニヘルの橙でも無いと避けるのは困難な密度のはずだった。

「殺しそびれたな。」

子琉は隙の生じたアイアに破壊志向の壞夢をピザ鋸カッターにして押し付ける。ゴリゴリと人体から出てはいけない異音が響く。

「モツが零れちまったな。」

針を刺し回復をするが予想以上に負担は大きかった。

「(海に来てこれってなんだかなぁ。)」

そうして先ほどルグラから渡されたベルトを傷の少ない腿に押し付けると固定される。

「(花が咲くか蛇が出るか。差し込めばいいのか?)」

カセットテープを機械に差し込むと体の表面が怪文字で覆われる。剥けるように落ちた末に残っていたのは「常盤の黄昏桜」だった。

「その姿、まさかあの時のか!?」

「あの時から久しぶりだな、処刑者。だがこの俺を長らく放置した今、何故今更殺しに来た?まず、ここはどこなんだ?」

鉄線を扇ぎながらの桜盤は話が噛み合っていない。

「理解できないな。何故今更それを聞く?手合わせを願った末の結果だろう?」

「そのような記憶などないが?まぁいい、代わりのない日常には嬉しい事態だ。」

水面に桜盤の足が触れると彼を中心とした半径三mを残し凍り付く。気温も少し下がる。

「身体に霜が。そういった魂胆か。」

子琉の体もわずかに白くなってきた。

「いや、君には呼吸と同義か。」

子琉の足の包帯の文字がところどころ月光色に光る。

「刻獣兎脚」

薄い氷を踏み砕き連続でカッ飛び斬撃を与えようとする。

「そよ風にも値しない。」

でも効きはしない。

「なるほど、虚飾か。」

以前の邂逅で能力の一端を知った子琉は素早く防御志向の壞夢を背負うと抜刀の構えを取る。小刻みに持ち手を捻るとバキンなんていう破裂音が出る。

「何か来るか。」

勘一つで初めて来る危機に備えた桜盤の片腕と抜刀された壞夢がぶつかると桜盤の腕にわずかに食い込む。

「君も阿呆姉やあいつのような己の強さがあるのか。」

「彼は弱いさ。ただ忘れて強く振舞っているだけだ。」

「仮にも十年、共に過ごした彼を処刑者の君が何を理解しているのだい?」

再び戦局が動こうとしたがそれは起こらなかった。

「アイア。もう終わりだよ。」

ルグラの手にはベルトとカセットテープが握られていた。桜盤はアイアになっていた。

「怪我を治すから動かないでね。」

いつの間にか用意された足場にアイアを座らせると医療キットで治療をする。

「こうなっていると予感していたのか?」

治療を受けながらアイアは問いかける。

「どちらかというともうすでに使うところまで追い込まれたのかって言う方が正解。使った時、どんな感覚に陥った?」

「閉所に閉じ込められて操り人形にされたよう。起きてるが何が起きているかはわからなかった。」

「テクスチャが濃すぎたのか。鏡そのまま投影では何も見えない。マジックミラーの要領で…」

ブツブツと言いながら紙に文字式を書き始める。

「立てるかい?」

「おかげ様でこの後のモツ焼きを食う時に思い出しそうだ。」

「それは悪かった。」

「お前のモツを見ながら食おうと思ってたのに。」

「一度死ぬかい?」

「殺意は返品しておく。ルグラ、考察は帰ってからだ。」

「ならしばらく先になるね。」

「どこか行くのか?」

「千景の紹介状で彼女の眷属に会いに行くの。だからこれも同封されてる。」

湾曲鉄道のファーストクラスチケットをぴらぴらさせながら立ち上がる。

「日も落ちてるし帰宅はそろそろだね。」

指を鳴らし普段着に戻したルグラはいまだに凍っている海を足場に跳んでいった。

「置いて行くな。」

「賛同するよ。」

男二人も同様に跳ぶ。

 

「え、ルグラ姉は一緒に帰らないの?」

「ごめんね。こっちも仕事をしているから。」

白い空間でヨブカの着替えをさせながらルグラは謝っている。

「じゃあ写真送って!」

「写真かぁ。じゃぁニヘルの方に送るからお願いして見せてもらって。」

「わかったよ。」

「パィムン、そんなわけで少しの間世話をお願い。」

パィムンは腕の一本を上に挙げる。「わかった。」とでも言っているのだろうか。

「これをそろそろ抜かないと。」

霧の外に出たルグラはカラバサスを全て抜く。水晶は溶けるように無くなる。

「それじゃぁみんな、また事務所で。」

「気を付けなよ。」

ルグラは一足早くビーチから去る。同時に子琉と子呉もいなくなる。

「あなた方はこれからどうするのですか?」

血鬼国の二人はまだ帰る気が微塵も無い。

「ここで二夜明かして帰るのさ。」

「潮に合わせてやってくる輩を返り討ちにして体をほぐしつつ休むのさ。」

「浜で夜を明かすとは酔狂だな。」

「君らも早めに帰った方がいいんじゃないのでは?」

「そうだな。またご縁がありましたら会いましょう。」

幻葬のみんなも列車に乗るために浜から去る。

「さて。」

「誰もいなくて」

「喧しくなるぞ。」

浜の二人はノールックでタッチをすると。武器を構える。

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