アンサラー 幻葬   作:月導

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二十五章~何処の熱~

ニヘルとアイア、二人そろい岩の道を歩く。ススキのような植物がまばらに生える荒廃したここはヘルカ巨峰。隔月で噴火をする過酷な場所。現在は噴火していない。

「しかし大丈夫かな、あいつ一人で。」

「葛霧のことを信じきれないのか?」

「信じるというより思い切った判断をしそうでな。例えば黒炎をルグラに預けるとか。」

「ああ。」

「うちは火薬庫かよって。しかもアレな決定権は葛霧が一括して管理しているから俺でもそこらは文句を言うくらいが精々だ。」

「権力の分立は?」

「元実家がそこをやっていたが暴走した挙句のあの事故さ。そのせいで権力が集中…いや、まだあっちは独立してるか。」

「あっちとは?」

「空のアレ。」

「…そうか、いたな。」

「忙殺されてなかなか会えんしな。会いたくはないがあいつ自身は悪くないしどっちかというと気概はいいんだが。」

「そうだ、一つ謝りたい。」

「ろくな予感じゃないが、なんだ?」

「日にちを誤っていてな、頭を冷やせなさそうだ。」

「今何時だい?」

「正午になる。」

「あ、はい。」

遠くから爆発がする。噴火の時期が始まった。今、この時。

「あーあ、どうしよ。」

「ボルテニックインダストリーのチーフとの面談がすんなりとれたのは此のせいだったか。」

「俺は泳げるがあんたはどうする?」

「策はある。ここの文化に乗らせてもらう。」

「何か聞いたことがあるな。…確か十歳の頃の各地区の基礎的な知識周りで教わったな。」

頭を抱えるアイア。

「思い出した。それに乗るのか。」

「そうだ。探すぞ。」

二人が想像したのは丘のような体躯のタコ。現地に住む者たちは彼らを移送手段から食料、挙句の果てには工業素材にまで活かす。

今はタコの溶岩上タクシーを求め小走り状態。

因みにだが何故二人は溶岩を避けているのだろうか。二人なら何とでもなるはずだろうと思うだろうがここの地質に原因がある。流れが止まると急速に固まる。なんならガラスみたいに鋭く割れてとても固く剥すのが面倒くさい。万が一付いたら落ち込む。主にルグラが。

 

「あーのーさー…」

「……。」

見事に被る。

「耐熱魔法は付与したから熱くないけどこれルグラ泣くだろ。」

「はぁ。」

「とりあえず動いていればくっつかないからこのまま歩いて行くぞ。」

「適宜払い落とすか。」

重い脚を動かしながら歩き続けると遠目に動く影が一つ。

「ようやく見つけた。」

「おいタクシー!こっち拾ってくれ!」

アイアの声が届き一戸建てのサイズのタコが来る。

「幻聴じゃなかったのか。あんたらはどこのものだ?」

両手の四本ずつの糸でタコを繰る石肌の青年。

「アンサラーのニヘルとアイアだ。ボルテニックインダストリーのチーフとの面談を組んだうえでのこの惨状だ。」

「そういった話なら乗っていきな。一人八千呈だ。」

「金はとるんだな。」

「親方との知人であっても金はしっかり受け取ることが不要な問題を殺せるからな。」

「そういえば君の名は?」

「アーザ。短い付き合いだがよろしく。」

 

「そういやここの溶岩は上から降ってこないんだな。」

道中のアイアの疑問。

「一般的な溶岩の粘度の二割かつ一か月周期で噴き出るから爆発するほどの圧力が足りない。」

ニヘルの回答。

「ここっていつからこのくらいの周期で噴火してるんだ?」

「最古の記録で六百三十二年前だ。」

「どうしてこんな特異な環境に住もうと思ったやつがいたんだ?」

「それは此方の方が詳しいから解説しようか。」

アーザが参戦。

「石肌の者は外部から熱源を受け取りそれを少しづつ消耗するという生体を持つ。常に蓄熱し続けると表皮が劣化し極度に虚弱になる。ここらの環境は周期的な噴火から我々は離れることが出来ず留まっている。」

「それはとんでも無く都合がいいな。」

「祖先がそのように作られたからな。」

「は?」

「創造主がここらの環境を調査をするために作りだしたサンプルが我らの祖先だと。」

「あんたらはそれでもいいのか?」

「始まりがいかなるものであろうが今こうして動く以上は動くまでだ。」

「ハッ、殊勝なことだ。」

「ルグラが来なければお前も未だあの屋敷にいただろうに。」

「今日はやけに言葉がきついな。」

「済まないな。予定道理に事が運ばないことにイラつきが止まらなくてな。」

「その程度の八つ当たりだったらいくらでもしな。その程度の仲じゃないだろ?」

そのままアイアは眠りこける。

「その男と仲が深いのか?」

「十年以上の付き合いだ。」

「なんだか反抗期みたいだな。」

「?彼は別にその時期はとっくに過ぎているぞ。」

「君の方だよ。」

 

タコに乗って三十分ほどして大きな盆地に着く。二人の目的地である工房、ボルテニックインダストリーが居を構える溶鉱村エギカ。火山が非活性の時なら様々な企業や工房、組織が金属資源や商談のために訪れるが件の火山は今活動を始めており客は誰一人見当たらない。

「はぇー、水路のように溶岩を流しているんだな。」

アイアは初めて見る景色を心底楽しんでいる。

「私はチーフに会ってくる。」

「へいへーい。」

 

歩くたびに硝子の音がするこの地域特有の道を進み一際大きな建物の鉄扉を押し開ける。

「いらっしゃい。ああ、親方とアポイントを取っていたニヘルさんですね?申し訳ございません。親方は狩猟に出ており暫く戻りません。」

「義に堅いと聞くセレクラが予定を外すとは何があった?」

「ヒグル山脈からの送熱が一割ほど増しており環境生物が活発化、チエグリも起きたので鎮圧へ向かったんです。ですが通常なら地表に現れるのでチーフの愛武器で追い返すのですがこの度の出現では一度も地表に出ないので未だに追い返せないんです。」

「話が遅れるのは好きではないな。因みにそのチエグリは今どのあたりにいるかはわかるか?」

「わかりませんよ。溶岩が地場を乱すので通信すら不安定なんです。目印は定期的に打ち上げる信号弾五発です。」

「…。すぐ戻る。」

ニヘルが工房から出て三分後にまた戻ってきた。

「いったい何をしたんですか?」

「連れに狩りを頼んできた、そのうち片付くはずだ。それまでここで待たせてもらうぞ。」

おもむろにティーセットを取り出し紅茶を淹れ始める。

 

「いないか?」

大岩の上でアイアは久しぶりに出した大罪を使い火山の各地を探る。

「地上は探れる範囲はおおむね巡っていると思う。他に異質さを感じるならやけに窪んだ溶岩の流れか。」

怠惰大罪の言葉を聞き届け窪んだ溶岩の流れへ向かうことに決めた。

「確かに妙に凹んでいる。色、地下に何かあるかを感じられるか?」

「音の大きさだとおよそ毎分四回程度の心拍数だけど今は三十七回前後になっている。多分目標の獲物で間違いない。」

色欲大罪の観測でアイアは何をするかを決めた。

「あんたら全員引っ込みな。」

彼のコギトである桜昏を久々に引き抜き窪みの上まで跳躍、そのまま振り下ろし地形を破壊する。まとわりつく溶岩は全力で振動して払い落とす。着地点の大洞窟と言える大穴を下へ下へ行き巨大な兵器を担いだ一つの人影と大穴にすっぽり収まる球体を見つける。

「あんたはセレクラか?うちのニヘルがあんたと会えなかったから俺がこっちに来た。」

「約束を守れず申し訳ない。この閉所では我の槌が振るえずほとほと困っていたんだ。」

彼の言う槌は掃除用のコロコロ型の機械だがローラー部は六枚のチェーンソー、軸との連結部に熱を利用した推進装置、サイズは掃除ロッカー縦二つ分。

「この大きさの穴でも振り回せないとは随分と大味な武器なんだな。」

「想定されている使用環境がこの地域の地上だからな。ここで使用したら地盤沈下位は起こるな。」

「と言ってもこいつを何とかしないといけないんだろ?今まではどうやっていた?」

「こいつは移動の際に甲殻をずらすんだがその際に内部の筋肉が露出する。そこへこいつの刃を差し込んで削り取る。致命傷に近ければそのまま素材を剥ぎ取り傷が浅ければ逃げることを確認して戻る。この流れを年に三回ほど続けている。」

「一応聞くが完全な駆除はするつもりは無いんだよな?」

「当然だ。希少な素材は一種類たりとも減らしたくない。」

「ニヘルも同じ事言いそうだ。因みにこいつを狩っても絶滅はしないよな?」

「ああ。」

「そんじゃ遠慮なく刻むか。…硬い。(貴重な素材と言っていたから浸食はよくないな。疲れるが久々にやるか。)」

居合の姿勢を取ったアイアの輪郭がいくつも重なったかと思うと球体は細切れになっていた。

「おお、助かるよ。」

「一応パーツは傷付かないようにバラしたが問題なさそうか?」

「査定は後でだ。回収は若造に任せるためにも戻ろう。世話になったな。」

「俺はささっと戻って観光でもしようかな。」

 

「待たせてしまって済まない。」

「事情は貴方の弟子とアイアから聞いた。そちらは為すべきことをしただけだよ。こちらは何一つ気にしていない。さあ、話をしようじゃないか。」

「そうか。お前ら、持ち場に戻っていな。ニヘルさん、こちらの部屋へ。」

工房の奥の部屋に入った二人は椅子に腰かけるなり神妙な顔になる。

「単刀直入に聞く。熱源の事だな?」

ニヘルが切り出す。

「まさにその通りだ。後日熱源が一時的に上の連中による検査を受ける。が、輸送中に毎度のように襲撃を受けている。」

「幸いにも強奪はされたことはない。護衛ごと蒸発という形で排除されているからだな。」

「上の連中が直に取りに来ることは無いんだよな。」

「検査は希少な吸熱素材を使用したコンテナ内で行われるがあまりにも柔らかい。コンテナを直に運べば噴石などで損壊するリスク、輸送機で空輸するには万一カバーが外れれば地を溶かし沈み再回収は絶望的だ。故に海の真ん中に設置されたコンテナまで輸送する手が最も安全なんだ。」

「随分と事情に詳しいな。まあいい。そこで頼みがあるが君の事務所から一人面子を貸してほしい。」

「どうした?応募者は全員塵も無かったのか?」

「噂で聞いたんだが赤い髪の奴がいかなる窮地からも指の一本失わず帰ってきた実力者だって。」

「確かに彼女は失ったとしても生やすからな。しかし灰になったとしても戻るのか?」

「もしその子を紹介してくれたらうちの特許技術二つを教えてやる。」

「どういったものだ?」

「熱質量等価交換技術と完全返還だ。」

「完全返還に関しては過変換を持っているからあまり惹かれない。だが前者だけで迷うな。」

「良い返事を期待している。」

 

「話は終わったかい?俺はちょっと羅炎へ用事が出来たから先に失礼させてもらうぞ。」

「ああ、わかった。溶岩には気を付けな。」

「アイツが泣くから気を付けるよ。」

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