アンサラー 幻葬   作:月導

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三章~信仰と交友~

~例の廃墟~

主任と影たちは襲撃の後片付けを行っていた。

「おい、何がなくなっているんだ?ものによっては取り返しがつかないぞ。」

と聞くのは慌てた様子を微塵も見せない主任だ。

「えーっと、雀猊、抽出型コギトの‘魅惑’と‘迷子’です。」

質問に答えるのは影の一体だ。

「雀猊はまずいな…。朱四卦は…見つかってないな。これだけは死守できてよかったよ。」

「それって確か…」

「そうだ。あいつから取り出したやつだ。今頃、面白そうなやつらに囲われているさ。」

「連れ帰ることはしなかったんですね?」

「ああ。そいつらは二人ともコギトを持っていた。きっと自力で発現したものだ。いつか手合わせしたいよ。」

「そうでしたか。それでこれから主任は何を?」

「バレていたか。巷で話題になっている時間屈折怪盗に用がね…。じゃあな。あはははハハハハハ!」

騒々しい笑い声を出しながら主任は走り出した。そこから間もなく恐ろしいほど肌と髪の白い墨色の着物を着た女性が現れる。手には縫い針と針山、糸を持っている彼女は明らかに人ではない縦長の瞳孔を縮めながら

「騒々しいわね。あの人の?」

「そうですよ、白絹殿。」

「もう少しかまって欲しいものなのだけれど。」

「本人に言ってください。」

「冷たいわね。」

「そんなこと言わずに修繕作業をしてください。特に天井のパックリ空いた穴はあなたが一番直しやすいものでしょうが。」

「ハーイ。」

やる気なさげな白絹の目は一点を見つめていた。朱四卦と呼ばれた白黒のニ丁マグナム銃が隠された場所を。静かに。

 

~幻葬事務所~

一方、こちらも大騒ぎだった。夕夢と夢雨が顔を合わせた瞬間驚きと喜びと悲しみと現実逃避を混ぜた顔で固まっていた。アイアとニヘルは固まった空気感で動けなかった。…ウロは其の範疇にはおらず

「固まったときは加熱だよな~」

なんて言いながら淹れたての熱い茶をこちらに遠慮なしにぶちまける。四杯全部。

「熱い茶だな」

「おい!なにすんじゃ!」

「え!?なんで!?」

「私、客だよ?」

反応は四者四様。同時に落ち着いたようだ。少しして

「結果を見ればありがとう。過程を見れば馬鹿野郎。ふっざけんなよこの野郎。」

「アイア、韻を踏むな。」

「動いたようで何よりだ。じゃあ俺は奥に行ってるからな。」

「逃げるな。」

「アックソ、消えやがった!」

「落ち着け。そろそろ推定双子との話をするぞ。」

「そうだな…。ふたりとも、さっきは俺の片割れが済まなかったな。」

「「いえ、大丈夫です。」」

「…本当に夢雨なの?」

「そういうあなたは夕夢なんだね?」

「なんで…?どこにいたの?」

「まずはそこからだよね。」

夢雨は一呼吸置いて旅路を話し始めた。

 

~夢雨の過去譚~

はじめは六歳の誕生日の焔の中だった。突然私たちの家は火に包まれた。火の燃える音は聞こえるはずの悲鳴さえ灰に帰した。燃えたのは私たちの家だけではない。町一つを食いつぶしていた。両親はすでに焼けていたのだろう。呼んでも返事一つない。私の肺に煙が入ったのも理由かもしれないが。双子の姉とは家の崩落と同時にはぐれてしまった。体はすでに良い香りと激痛を放っている。目を閉じる前に聞いた声は‘早く連れてゆくぞ。遅れる前に’と‘まだ生きているのか。面白い、連れ帰れば暇つぶしにはなろう’の二種類の声だった。次に目を覚ましたのは冷たい大理石の床だった。ここはどこか、夢か現かを確かめよとするが体は動かない。諦め目を閉じると

「寝るな寝るな。あんたには話を聞きたいんだ。」

なんて声がした。男とも女ともとれる、もしくは混ざった声だ。無理やり目を開けると、床に映った浅黒い手とローブが見えた。

「あ…んた……は…?」

「名もツラもないよ。そいで、お前は何というんだ?」

「知らない奴には…教え「朱音坂 夢雨」!?」

夢雨は恐怖を覚えた。知らない人に名前を知られていたことが幼い彼女にはただわからない。わからないから怯える。

「意地悪して悪いな。建前は無しで行かせてもらうぜ?俺の上司と友人になってくれないか?」

「なんで?」

だから怯えていた彼女は唐突なお願いに驚いた。

「いや~私の上司はね~ボッチなんだよ。だってとってもえらい人だからね。みんな仲良くしにくいんだよ~。」

「聞きづらい。ちゃんと言って。」

「みんな偉い人から離れちゃうから友達になって。」

「でも、この体じゃあ動けないし、お姉ちゃんを探さないと…。」

「なら、友達になってくれたら新しい体をあげるのととお姉さんを探すお手伝いをするなんて約束をするならどうだ?」

「ホント!?」

「本当だ。」

「お願いします!」

純粋な六歳は甘い言葉につられた。

「そんじゃあ、失礼するぞ。」

夢雨の体はあっさり持ち上げられた。

「うわわっ。」

「まずは体をあげてからだな。(にしても、よく生きてるな…。)少し眠ってな。すぐ終わる。」

「わかった。あと、あなたのことはローブって呼ぶね。」

…………そういった流れでこの体をもらった。なお、ローブのもの曰く‘うちの上司が無茶しても耐えきる’なんて耐久性らしい。体をもらった後、ローブに連れられ奴の上司に出会った。見た目は……言えないものだけれどね…。

「して、その小娘が件の者か?」

「ええ、そうです。…この口調、もうやめますよ。あなたもその口調やめなさい。そんなんだから部下に避けられるんですよ?【規・制・済・み】さ・ん?」

「…そ゛ん゛な゛こ゛と゛い゛わ゛な゛い゛て゛!」

「…え?ローブより偉い人だよね?」

「そうだけど、めんどくさいからね。」

「ひどいな~。」

「あ゛り゛か゛と゛う゛~!」

「あ、取り消してもいいですか?」

「ドウゾ~。」

「ひどいよひどいよ!」

突如始まる茶番。

「話を進めたいのでもうやめてください、【規制済み】」

「えーオホン、私の名は【規制済み】だ。よろしくな、雨夢。」

「(うわっ、急に落ち着くな!)よろしくお願いします【規制済み】様。」

「呼び捨てしてくれ。これからは友達だからな。」

「わかった!」

「夢雨は双子の姉を探したいんだよな?」

「うん…。」

「なら、わたしの部下の力を貸させるよ。」

「力?」

「邪魔するものを焼き尽くせる炎、襲ってくる痛みを防げる氷、困難を飛び越える風、苦楽を共にする仲間をあげよう。」

「それって、テレビのヒーローになれるの!?」

「そんな力だ。この力と君の力があれば姉を探せるだろう。」

「私の…力?」

「ああ、その首飾りだ。」

「首…えっなにこれ!?こんなの知らない!」

「それが君自身の力だ。其の内、私の部下の力も出てくるよ。」

「その…ありがとう。」

「お礼なら私とまた話をしてくれ。それが一番だ。」

「そろそろ時間だな。夢雨、着いておいで。」

そう言うローブの後ろにつくとそこには四体の【規制済み】がいた。容姿は【規制済み】で【規制済み】、【規制済み】が【規制済み】している。なぜか時折モザイクがかかっているのが気になる。

「ねえ、なんかたまにモザイクがかかってるんだけどこれ何?」

「なんかバグってるんだよ。」

「そっか。」

「左から【規制済み】、【規制済み】、【規制済み】、【規制済み】だ。」

「皆様、よろしくお願いします。」

「「「「こちらこそ。」」」」

…………これが力を得た経緯。そこから数百年は夕夢を探す旅に費やした。私自身の力で様々な世界に飛び、探した。すでにいないなんて可能性は頭から追い出す。そうでないとやってられなかった。

 

「そんなこんなでこの世界で夕夢を探すための情報集めがてら、見世物をしていた末ここで見つけたってわけです。」

「…いろいろ気になるが、一ついいか?すごい規制音がすべて持って行ってしまったよ。それはそれとして…あんたの言う友とは神か?」

「そうだけど、別に言っていないよね?」

「歴戦の勘、というやつだ。」

「あ、そうだ思い出した!あのへんなのと戦っていた時、色欲って言ったけど、もしかして憤怒、暴食、強欲、怠惰、傲慢、嫉妬の能力もあるんじゃ!?それってどんな能力!?もしかして、憂鬱や虚飾もある!?」

「なんだなんだどうしたお前!そんな性格じゃないだろ!少なくともさっきまでの話し方的にさ!」

突然興奮しだした夢雨にアイアはたじたじになる。

「こちとらそれらで心保ってんだコラ!最近はイミテーションな作品ばっかでここ何十年読めていないんだよ!頼むよ!供給!プリーズ!」

「夢雨、そこらへんにしてあげて。アイアが困ってる。」

「あれ、そういえば夕夢はここでお世話になっているんだよね?」

「そうだけどまさか?」

「その通り!ここで働かせてください!」

「いや、待ってくれ。」

「働かせてください!」

「あの、だから」

「働かせてください!!」

「だぁーもう、わかったよ!ついてきな。書類を作らないといけないからな。ついでにもう一人紹介する。」

「これからお願いします!」

「…よろしくな。」

ニヘルは軽くやつれた

…三十分後

「ニヘル、アイア、夕夢、夢雨。王から一通。エー‘幻葬所属職員は当書類の到着二日後、中央街宮に集合せよ’とだ。ニヘル、例の依頼品は大丈夫か?」

とウロが聞くと

「大丈夫だ。もう直っている。」

「アイアは依頼でブッキングしていないよな?」

「まぁな。」

「よし、新人二人は先輩二人について行ってな。」

「「あれ、ウロは?」」

「オレは後から合流する。」

「おい、今から行くように言うな。二日後だ、二日後。そうだ、この間にここの常識を教えるからな。」

「「お願いしまーす。」」

事務所は賑やかだった。外からは一般人Aがただ入り口を見つめ、また歩き始めた。

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