アンサラー 幻葬   作:月導

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四章~信じがたい~

ニヘル、朱音坂姉妹はその日、無数の立方体と文字列が飛び交う空間に浮かんでいた。

「「ニヘル、ここはどこ?」」

「ここはハイヴ。コギトが武器なら、ここは部屋だな。だが、見ての通り広さはかなりのものだがな。因みに私はハルデイと名付けた。」

「「ハイヴ…。」」

「あんたらもあるかもな。この話はここでしまいだ。ここでの常識を教えてやろう。とはいっても数は少ない。体の欠損は割とある治安だし暮らしを便利にする技術の大半は大きな犠牲か倫理の欠落がセットだ。」

「怖い。」

「旅の中でもこんなものはあまり見たことないな~。」

「細かな規制は国ごとに違う。が、一つ共通した禁忌がある。」

「「そ、それは?」」

「人そっくりの機械、正確に言えば人間と同じように考え、感情を表す人の模造品を作ることだ。理由は分からないがまあ、様子のおかしい宗教団体の禁忌みたいなものだろう。」

「そっか「えー!もったいないよ!」」

「は?」

「ちょ、夢雨!?」

「だって、この世界を巡っていた間、いろんな技術を見たけど全然作れるような水準じゃん!ヒトガタの機械は私のロマンなのに!」

「そうは言っても禁忌なんだ、もし破ったらタブーハンターの連中が追ってきてすべて掃除されてしまいかねないからね。」

「そっか…。」

「まあ、人間関係の諍いを勘定に入れなければそれ以外は何でもやっていいようなものだ。それでよいのであればな。…話はここらで。今日はもう寝なさい。明日は早いからな。」

「「お休みなさーい。」」

朱音坂姉妹がニヘルのハイヴから去った後、ニヘルは一つの立方体を呼び出した。

「是を一杯。」

なんて呟きポットとカップを取り出して紅茶を注ぎ一口啜った。

 

翌朝、ニヘル、アイア、夕夢、夢雨はそろって歩を進めていた。背にはそれぞれのコギトを背負って。

「ニヘル、一ついい?」

「どうした、夕夢。」

「こんな堂々と武器を持っててもいいの?」

「むしろ持っていないと刺されかねない治安だ。武器を持たない人よりも全裸の人のほうが多いくらいには常識だ。」

「改めて聞いてもひどい治安だよね。」

ニヘルの回答に賛同するのは夢雨だ。

「ここらを旅していたころの話か?」

「そうだよ。何回か見世物をしていた時、全裸で飛びつこうとした馬鹿どもがね…。」

と夢雨は苦々しい顔になり、

「うっかり灰にしちゃった。例外なく。」

とカミングアウトした。アイアは

「あんたもすっかりここに染まったな。」

「そろそろ中央街だ。」

「…壁?」

「区画わけのためだ。着いて来な。入場手続きがあるからな。」

「ライブか何かなの?」

ニヘルは門番に先日届いた書面を出しながら

「幻葬所属職員のニヘル、アイア、朱音坂夕夢、朱音坂夢雨だ。招待状の要望に従い、参りました。」

「上から話は聞いています。この先へ進んでください。くれぐれも問題は起こさないように。」

「ああ。みんな、着いて来なさい。」

昔からの付き合いのアイアはさておき、新入り二人は怯えている。

「二人とも、来なさい。」

「「ぴゃい!」」

「ニヘル、その癖をやめな。怯えているから。」

「悪いな、直しようのないものだ。」

「動けなそうだな。」

双子は足が動きそうにない。

「仕方ないな。怒っても大丈夫だからな。」

なんてニヘルは言うと強張って動かない双子を軽々と抱え上げ、歩き出す。

「手荒だな。」

「柱があれば楽だったがな。」

「今は…そうか。」

「無理はしないほうが良い。」

小さな騒ぎを起こしながらも中央街宮に到着した一行は

「「開いてないね?」」

と双子が聞く。入り口は堅牢な金属の塊で塞がれていた。

「毎回の事だ。」

とニヘルが答える。

「「え?」」

「あの変人の王の暇つぶしだ。離れてな、危ないから。」

「「わ、わかった。」」

ニヘルは二人を離すとトーラスをバギィン!と音を立てて二つに分ける。そのまま地面に電極のように刺すと刃は紫の光を放ち、

「再構築」

の声と共に光は門に走り

ドゴォン!!

轟音を響かせる。

「「ええ。…」」

双子はドン引きしかなかった。奥からは

「来たか。」

なんて高飛車な男の声が聞こえる。アイアは

「我ら幻葬、カチコミカチコミ申す!」

と返事をし、夢雨は

「そこはかしこみでしょ!?」

と突っ込む。

「報告とは乖離した性格だな。」

王は無表情な面を崩さす口を開く。

「すみませんね、王。そうだ、姫さんは今来れそうか?早めに腕輪を渡しておきたいんだ。」

アイアが言うと天井や壁を這って茨がこちらにやってくる。

「これはまた酷いな。薬、後ほど持ってきます。」

ニヘルはまたもや慣れた反応だが何もわからない双子は質問する。

「もしかして、」「この茨が」「「姫様!?」」

「正確には姫さんの病で生えてしまった茨だ。触らんほうがいい。姫さんには影響がないが触れた側はとてつもない痛みがするぞ。」

質問に答えるのは今到着したウロである。

「病?」

「とある血鬼の血を浴びてしまったのが原因だ。ちなみに遅れたのはその病の薬を作ったからだ。」

「薬、ありがとな。おかげで時間が省けた。」

「そろそろだと思ってたから。それで焦らしたくなかったしな。」

「幻葬職員よ。手間をかけたな。」

王は礼を言った。

「いえ、依頼をこなしただけです。」

それにニヘルは事務的に答える。一方、夕夢は落ち着きと冷静と正気がどこかへ散歩しに行ったようで

「ウロ、その薬見せてくれない?」

と聞く。ウロは

「まあ、いいぞ。」

といい、薬の入った瓶を渡す。夕夢は小さく笑い

「私が行く。」

そうとだけ言い残し、茨の源流へ駆け出した。当然、ほかの全員は慌てて止めようとするが痛みを恐れ、進めない。

茨の氾濫に飛び込んだ夕夢は初めて浴びる全身がねじ切れるような痛みに悶えていた。だが、

「奴らにされた同じことよりも辛くない。もっと辛いのは姫様のほうに決まっている。」

と独り言で鼓舞しながら進んでいた。肌に棘が触れるたびに肉がえぐれ、緑の茨は赤くなる。抉れるたびに肌は治る。気味の悪い感覚と共に階段を上り、一つの扉の前に来た。茨は隙間から伸びている。震える手で扉を叩き呼びかける。

「姫様ですか?薬を持ってきました。」

まもなくドタンバタンと転ぶ音がして扉が開く。

「誰ですか!?」

表情は心配と現状を信じられないとで混ざっていた。茨は手足の内側から突き破るように生えてがいるがどうやら本人はそれに痛みや不快感は感じていないようだった。

「最近、幻葬に入った朱音坂夕夢と申します。」

姫は冷静な夕夢とは対照的に

「怪我はありませんか!?」

と慌てている。

「はい、もう治っています。それより、これを。」

夕夢は薬の瓶を差し出した。

「それは、ありがとうございます。」

姫、デルシネアは蓋を開け、薬を二粒呑み込む。程なく体から伸びる茨が端から崩れていく。それに伴い隠れていた容姿が露わになる。身長は155cm、肩まで伸びる深緑色のストレートヘアーと対になる橙の瞳、動きやすさを重視したズボンとジャケットだった。

「ひとまず、父に伝えないといけないのでついてきてください。」

「わかりました。」

二人が下りようとしたところ、駆け上がる足音が何重にも流れてくる。

「茨が消えたが大丈夫か?」

「怪我はないか?」

「なんで突っ走っちゃうの?」

「だから言ったじゃないか!無茶するんじゃないよ!」

と幻葬職員は苦言を呈し

「「「「大丈夫ですか姫様!」」」」

従者は姫を心配する声を一斉に出した。ニヘルは

「さて、なぜ一人先に走ったか説明できるか?」

冷たく、事務的に問いただす。夕夢は今にも泣きそうに

「私は、まだ何も出来ていない。だから少しでも、私ができることをやりたかった。」

「助からない怪我をしたらどうするつもりだったんだ?」

「それはあり得ない。根拠はやるまでなかった。」

「なぜそう言い切れるんだ?」

ニヘルはなおも問い詰める。

「…姫様の目を塞いでもらってもよろしいですか?」

夕夢は一つ頼みごとをした。

「それは、どうして?」

デルシネアは問う。

「目を汚しかねないためです。」

夕夢は淡々と、涙を堪えながら答える。

「…それは出来かねます。」

だがデルシネアは断る。

「あなたにはとても助けられました。私を助ける覚悟に感謝をしている以上に助けられる確信の理由を知らないと思ったのです。目を汚すと思われるその行動も見届けたいのです。」

デルシネアと夕夢の口合戦はしばらく続いたが夕夢が先に折れた。

「後悔、しないでくださいね。」

夕夢はそう念押しヤトシイと名付けた己のコギトを引っ張り出すと勢いのまま左腕を切り落とした。

「!?」

その場にいた人は口が開閉しかしないが更にどよめきが広がる。無くなった腕と袖が生えたからだ。

「これが理由。」

夕夢は落ちた腕を拾うと丸ごと呑み込む。

「ちなみに言うと私の服は私の血肉から作ったものだね。」

思考のパンクからいち早く戻ったウロは

「あんたも、ここに染まっちまったかー。」

のんきに苦々しく呟く。次の瞬間、

「誰だ!貴様!」

と王の怒号が聞こえた。

「奴が来た!」

夕夢はいち早く駆け出し、ニヘル達と従者が後に続く。

 

下に降りた彼らが見たのは王と夕夢ともう一体、歯車が露出した人影。後ろからでもわかる正体は

「夕夢、気をつけろ!そいつは時間屈折怪盗だ!」

怒号を放ちながらアイアは飛び出す。手には杖と針を、仮面の表情は変わっていた。彼が杖を振るった瞬間、王と彼の居場所は入れ替わる。

「座標交換?」

夢雨はニヘルに問う。

「ああ。」

問われたニヘルは肯定する。

「今、奴に対処できるのは彼だ。夕夢は…何とか回収しないとな。死なないかもしれないが時間を飛ばされるのはよくない影響がありそうだからな。」

 

一方、アイアと時間屈折怪盗はレスバをしていた。

「やあ、怪盗さんよ。何が悲しくてここで出会わなければならないかと思うが、失せてもらうぞ。」

喧嘩腰のアイアの杖はフレイル型のモーニングスターに持ち替えられていた。そのまま振り回し始めると一回りするごとに時間屈折怪盗の体が引き寄せられる。

「ほう、そいつは面白い。空間を削っているのか?」

「推理の時間が異様に早いが、加速したな?いくら使ったかな?一時間か?それとも、一日かな?」

「多いな。三十分で足りるさ。」

「そりゃすごい。こっちは加速なんか要らない。要らねえよ。骸になれや!」

態度を急変したアイアが針を何本も放る。床に刺さるたびハート形の弾が放射状に広がる。

「ハッ当たるかぁ!これで精一杯かい?」

時間屈折怪盗は己の集めた時間を消耗し異常な速度で回避をする。だが、弾幕に集中した結果彼は終わることになる。

 

急に夕夢の顔が憎悪を体現した表情になる。

「やっぱり来た!」

「なあ、さっきから何を言っているんだ?夕夢。」

「止めないで!」

怒声に驚くニヘル達を尻目に夕夢はヤトシイ片手に走る。目には敵がいた。敵しか映っていない。

 

「…は?」

アイアの口から出るのは気の抜けた疑問符。あまりの速度だった時間屈折怪盗の体は止まり心臓のあたりから爪が飛び出ている。背後には黒いシルエット。以前会ったその姿は記憶に新しい。正体の答えはアイアのはるか後方から聞こえた。

「主任!」

「あー見つかってしまったか。だが、今日は君に会おうとは思っていなかったよ。用があるのは…コイツだ。」

主任は言いながら腕を引き抜く。反動で時間屈折怪盗の体は前方に吹き飛ぶ。引き抜いた手には片手サイズの黒い箱が握られていた。

「いやーできた出来た。時間加速できる五億年ボタンが。これが出来たから抜け殻はあんたらが好きに使いな。」

「また逃げるのか主任!」

「逃げているつもりではない。後始末をしているだけ。ここで時間をつぶす暇はないのでね。あーでもそうだな。これを渡しておくよ。」

主任は筒状の一枚の紙を矢のように投げる。

「それは君にだけ見える地図だ。この後生きていたらここに来なさい。二人で話をしようじゃないか。」

「お前、何を言って」

「皆さんに一つ、お伝えするべきことがあります。例の喧嘩ばっかり吹っ掛ける国のサーキシズから肉どもが押し寄せています。早急に対処したほうが良いかと。」

「それはどういうことだ!」

アイアは激高しながら聞く。

「あ、奴らを呼んだのは私ではないです。けど、そこに倒れている殻は奴らの協力者とだけ。それではこれで。」

主任は去り、沈黙が訪れる。突然、ニヘルは静かさを無くし

「さっさと準備をするんだ!間に合わなくなる!アイア、ここにいる戦力をまとめろ!夢雨は俺と情報をまとめた上でここの防衛をする!夕夢は奴の身柄を確保しろ!ウロ、住民をここらに集めろ!大罪どもを総動員してでも情報を回せ!住民が資源にされかねない!」

人員配置を命令したニヘルはウロを掴み地面に叩き付けるとウロの体は影に呑み込まれる。

「扱い。後は頼むな。」

ウロの声がした後、彼の背後には地面から生えた大蛇の頭が鎌首もたげてニヘルを覗いている。

「怠惰大罪か。情報は頼むからな。」

ニヘルは一言。顔は楽しそうだった。

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