大罪
アイアの抱える過去の遺産。憤怒、暴食、強欲、怠惰、傲慢、嫉妬、色欲、虚飾の名をそれぞれ持ったそれは蛇のような姿と武器、縦半分の仮面を持つ。能力は以下のものがある。
憤怒大罪 感情を燃料にエネルギーを増殖させる
暴食大罪 相手を倒した際、体力回復と身体能力上昇を得る
強欲大罪 認識したスキルを一時的に使用する
色欲大罪 相手の体をセルヒス状にする
怠惰大罪 動かない分のエネルギーを仲間に与える
傲慢大罪 精神干渉の影響を受けない
嫉妬大罪 不利相性の相手ほど地力が上昇する
大罪達は自立して活動できるが、代わりに該当する罪は使えない。大罪同士は情報をやり取り可能、大罪由来の性格という性質がある。
大罪どものうち、怠惰大罪は収集した情報を受け渡す役を引き受けている。情報を整理するのはニヘルだ。
「南東三千南西四千ホーク部隊半分スパイダー部隊吊り下げ半分火薬ここより九キロ毎秒二十メートル。」
「到達まで四百五十秒。避難予想時間は?」
「六百秒。」
「こちらの保有戦力。」
「空間切断可能部隊三百、論理弾工房製銃器部隊五百、アンプル部隊二百。」
「戦力が不安、とどめを刺しに来たか?仕方ない、私も出る。緑も使う。部隊はここに銃器隊を五十、残りは各地区へ散開、切断部隊は閉所へ三人一組で向かわせ住人の護衛、アンプル部隊は二十をここへ残し切断部隊に一人ずつ、残りは銃器部隊の治療を。問題ありませんか王?」
方針を一通り伝えたニヘルは王へ確認を取る。
「ああ、それで問題ないだろう。」
王の許可が下りた。
「なら、開始。」
ニヘルは命令を下す。部隊が散開しニヘルも外に向かおうとしようとしたとき、
「ニヘル、また一つ来た。」
怠惰大罪はまた口を開く。
「なんだ?」
ニヘルは走り出す足を止める。
「連中の目当てはここの姫だ。」
「ほう?」
ニヘルは怒りと笑いの混ざる声を放つ。一方、王は
「なんだと!?」
怒りと驚きを混ぜた声を放つ。
「いったい何故だ!」
怠惰大罪は淡々と答える。
「連中は特異的な体質を持つものを攫っているようらしい。とにかく、夕夢は姫さんを連れて遠くに駆けろ。最悪あんた一人なら姫さん連れて一日くらいなら逃げ続けられるだろう。なるべく逃げたことを悟られないようにしてくれ。以上だ。」
「なるほどね。姫さん、夕夢、それでもかまわないか?」
ニヘルは本人たちに確認を取る。
「大丈夫。頑張って逃げる。」
「私もかまいません。」
二人は了承をした。そしてニヘルは
「時間もないし、早く逃げる準備をして逃げな。」
「わかりました。」
デルシネアは荷物を取りに駆けだした。
「そろそろ奴らが来る。私も向かうとするか。」
ニヘルは一本の柱を取り出す。ルグラの居座る空間に突き刺さったあの柱だ。
「緊急時だから使わせてもらう。【散りな】」
ニヘルの呼びかけに応じるように柱は煌めく粒子となり主の周囲を取り囲む。
「制圧に向かう。ここの防衛は夢雨、あんたに任せた。仲間と連携して頑張ってくれ。」
「わかった。気を付けて。」
夢雨の返事を聞き届けるとニヘルは満足げに外へ駆け出した。入れ替わるように荷物をまとめたデルシネアが自室から降りてきた。長方形で金属製の肩掛けの次元鞄である。
「準備は終えました。しばらくは逃走可能な物資を用意しておきました。行きましょう。」
「わかりました姫様。では背に掴まってください。」
夕夢は跪きつつ促す。
「これで大丈夫ですか?」
掴まったデルシネアは確認をし、
「大丈夫です。では口を閉じておいてください。舌を噛みかねないので。」
夕夢は最後にそう言い異常な脚力で駆け出した。
「はっやW」
避難勧告を終え戻ったウロは笑いを混ぜてコメントをすると
「一通り避難は済ませた。俺もここの防衛に参加する。王さん、姫さんのことが心配なのはわかるが、今は目の前の国民に集中しようや。」
焦る王を諭す。王も
「そうだな、ありがとう。」
ようやく落ち着き
「死ぬのではないぞ!」
激励を飛ばした。
~逃走side~
赤と緑は草原を駆けていた。緑は赤にしきりに話しかける。赤はそれに答える。
「夕夢さんはいつから幻葬に?」
「およそ一週間ほど前から。」
「この体はどうやって手に入れたんですか?」
「おそらくは実験の影響かと。」
「あの黒い人との関係は?」
「家族の敵です。」
「ではいつかは復讐を?」
「はい。私からも質問よいですか?」
「なんでしょうか?」
「何故しきりに私のことを知ろうとするのですか?」
「何か、私と似た感じがしたからです。しかし、いくら似ようと私たちは私たちそれぞれ違うものです。何も聞かず思い込みで分かった気になるからすれ違うんです。だから私は知ろうと思うんです。ただ、傷をほじることはしたくないです。すでに遅かったようですけど。」
「なるほど。ですが気にしないでください。これは起きたこと。なすべきことをしましょう。!姫、離れないでください!」
夕夢は急に足を止め姫を下ろすとヤトシイを構える。前方に佇むのは液体状の体を持つサーキシズの兵士が複数待ち構えていた。兵士どもは尊大に言い放つ。
「そこの小娘ども。我らに付き従うなら命だけは奪わない。」
夕夢は鼻で笑い返す。
「命以外は奪うということだな?尊厳も自由もなくなるのだろう?生憎私は気に入らない。勧誘ならお断」
ブシュ
「…?」
「夕夢さん!心臓が!」
夕夢の胸には空白が生まれた。
「今なら助かるぞ。さあ、着いてくると言え!」
体勢が崩れる夕夢に兵士はなおも尊大に言い放つ。その瞬間、夕夢の何かが朽ち果てた。
「ハハハッ」
突然夕夢は笑い出す。
「何が面白い?」
兵士どもは問いかける。
「アハハハハッ」
なおも夕夢は笑う。そして謳い出す
「分かち合わぬ愛は憎悪に」
ぽっかりと胸に開いた穴には黒い心臓が蠢く
「護るはずの正義は絶望だったし」
服の上に染み出す液体からレイピアが浮かぶ
「分かり合う勇気は裏切りから憤怒に燃え」
髪は黒くなる
「限りある幸せは奪い合う」
右肩が袈裟切りのように裂け口と舌が覗きだす
「歩くことは変わることで私じゃなくなるし、歩かないことが私だけの権利なんだ」
立ち上がり前を向いた顔には道化のような黒い二股の頭巾とお面をかぶっている。
突如変わり果てた姿にデルシネアは思い当たる節があるのか
「セルヒス?いや、コギト使いがそうなる事例はこれまでなかったのに?」
一方、サーキシズの兵士どもも
「化け物になっちまったか。まあ、その身連れ去れば問題はないだろう。」
諦めていないようだ。夕夢だった者は馬鹿どもに言い放つ。
「今のままでは出来るだろうな。けど、けれどね、すべては巡り、そして変わらないんだよ。」
「何を言っているんだ貴様は?」
「こういうことだよ。」
夕夢?は何枚ものカードをどこからともかく取り出す。
「一人の愚か者は旅に出ることにした。それぞれの運命を辿った者共の後を真似する児戯をね。」
声が響く。一枚のカードを引いた夕夢?は告げる。
「この運命を辿るものは悟った。すべてには終わりがあることを。アルカナシフト‘死神’」
カードは弾ける。
「おいなんだ、ハッタ」
口を出した兵士の言葉は途切れる。頭にはレイピアが刺さっていた。
「は?」
そこからはあまりにも早かった。気づけば満身創痍のリーダー格のみが残っていた。
「クソがっ、なんだ、それは!なぜそこの小娘を殺さない!セルヒスは理性など持ち合わせないだろうが!」
「勘違いも甚だしい。こいつの言葉が染みるな。何だっけ、いくら似ようと私たちは私たちそれぞれ違うものです。何も聞かず思い込みで分かった気になるからすれ違う、だっけ?は、ここまですぐに回収されるとは風情がないな。私はセルヒスなんかになっていない。むしろこっちが正しい性格だ。肉体はおかしくなってしまったがね。さっさと去ね。私は一人になりたいんだよ。ああ、そうだ。名は言っておこう、スペカだ。」
夕夢だったもの、スペカは
「ああ、それは返してもらうよ。私だったものだ、いくら手を加えられようとどんな見た目だろうと誰にも渡さないよ。」
独り言を言いながら兵士の体を弄ると金属製の筒を取り出し頭を踏み潰す。取り出した筒を覗くと興味を持ったようで
「へぇ、意思があるんだな。…ほう、あんたが私よりも強いと?あそこに連れ戻す?ハッ、笑いにしては上出来だ。賭けだと?面白い、受けてやろうじゃないか。」
会話が終わると筒を肩の大口に放り込む。かみ砕く音は唐突に消えた。
「ゆ、スぺカさん?」
デルシネアが動きを止めるスペカに声をかけると
「よーし、勝った。」
の声が返事の代わりになる。大きく人から離れた肉体は夕夢の姿へ戻る。腰から生える立派な一対の紅蓮の羽に目を潰せば。
「夕夢さんでもスペカさんでもないですね。あなたは誰ですか?」
デルシネアは落ち着きを逆にとり戻し問いかける。
「雀猊という。もう一つの質問、夕夢とスペカについては夕夢はもう少ししたら起きるだろうし、スペカは暫くは眠っているだろう。」
「あなた自身については?」
「夕夢の人造のエゴイストだ。そろそろあちらの用事も済むだろうし帰ろうか。」
雀猊と名乗る者は手を差し出す。だが、デルシネアは手を出さない。本能的な何かが拒絶している。手を差し出した当の本人は気付いたように
「ごめんごめん、このまま触ったら危ないこと忘れていたよ。悪いが、手袋を一セットくれないだろうか?」
手袋を荷物から取り出し手に触れないように渡すと雀猊はそれを身に着ける。
「これで大丈夫。さあ、帰ろうか。」
今度の手のひらは握ることができた。
~ニヘルside~
人のいない路地を埋め尽くす蜘蛛形の軍団の目先から閃光が走るたび彼らの体は粉々になり最後には砂くずとなる。光を放った主はニヘルである。
「これで全滅か。鳥どももすべて撃ち落されたようだし被害の集計を行わないとな。」
独り言ちると後ろから蛇の頭が生える。嫉妬大罪だ。
「今、夕夢と姫さんが戻っているらしい。ただ、夕夢の様子がおかしい。警戒はしておいて。以上。」
地面に戻る嫉妬大罪を見ながら妙な予感をニヘルか感じていた。
アリゴの入り口には王や従者、幻葬職員が待っていた。デルシネアは認識をした瞬間駆け出していた。
「みなさま!」
「「「「無事だったか(ですか)!」」」」
「感動の再開かな?」
雀猊はつぶやき幻葬職員へと歩を進めるが、
「待ちな、お前は誰だ?」
首筋に桜昏を当てるアイアの警告が足止めになる。
「わっちは雀猊と申すもの。あなたたちに身近な単語を合わせるなら人造のエゴイストです。」
「わっち?人造?」
ふざけた一人称に単語のセットに困惑のアイア。
「私を作ったものから教わったギャグだよ。」
「面白くはないな。」
「そうでしょうね。なんせ、主任の考えた冗談だからね。」
「主任だと?」
「そう…あ、まって。本体が起きそうだ。」
「おい待て、どういうことだ!」
激高するアイアを置いて雀猊は独り言を言う。
「いやいや、ちょっと君のお手伝いをね?この体は君のだ。入れ替わりなど思わないよ?やれやれ、言葉はすでに意味をなしていないか。所詮、私は獣なのだろう。ほら、起きな!」
「わっ!蹴らないで!」
驚きの声と一緒に夕夢の意識が戻る。
「夕夢、大丈夫なのか?」
「心配の前に自分のことを気にしたら?ひどい顔だよ。」
「それはお前のせいだからな?」
「ごめんなさい。私は先に事務所に戻ってるね。」
「わかった。瓦礫に気を付けてな。」
「はーい。そうだ、明後日、私はひとりで散歩してくるね。」
「無茶な行動はするなよ?」
「無茶しませーん。」
気迫のない声を出しながら歩を進める。
「赤い翼は今飛び立つ血の香りに誘われて、血の紅さに魅入られて」
鼻歌交じりに呪文を言いながら。