アンサラー 幻葬   作:月導

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六章~硬貨の感情~

襲撃の翌日、休息をとった夕夢はアイアに手合わせを頼んでいた。

「お願いします!この体に慣れたいんです!」

「確かにその翼で今までの動きをするのは難しいだろうな。ただ、翼持ちとのやり方は分からないから半ばがむしゃらになるが良いか?」

「付き合ってくれるだけどうれしいよ。!?この声!何?今更体をよこせと言ってもあげないんだからね!」

耳を抑え夕夢は突如わめきだす。事務所に帰った後、アイアから雀猊の事を聞いていた夕夢は得体のしれない自分の中に潜む住民に警戒をしていた。彼女の問答はまだ続いている。

「警告?血を流す真似はするな?なぜ?幻覚?暴露による二次以降の感染拡大?あなたはいったい何ご高説を垂れているの?」

「雀猊、といったか。俺の声は今、聞こえているのか?」

「どうやら聞こえているようだね。こいつは私たちの視界の外の外、認識の端からこちらを見ているようだね。」

「先ほどの夕夢の口から出た幻覚は一種の精神干渉の範囲にとどまるのか?」

「そう、だって。」

「幻覚の解除は雀猊自らで可能か?」

「それはできるって。」

「そいつが気にするのは暴露者の増加の一点か?」

「幻覚の解除をすぐにするならそうだって。」

「なら、試しに検証してみよう。」

アイアは仮面の表情と武器を変える。武器は肉厚で大型の刃を持った戦斧である。

「傲慢の能力は精神干渉の影響を受けないだ。武器も傲慢のものにすれば強度も上がる。これで幻覚にかかっちまったら悪いが夕夢、今日の手合わせは無理だ。」

「嫌だけどしょうがないか。」

夕夢はためらいもなく手のひらに傷を付ける。

「血は赤いな。」

「何の感想?あ、どうやら大丈夫らしいね。雀猊が言うにはだけど。」

「それなら、」

夕夢の両腕がドロドロに崩れる。

「遠慮なくいけるなぁ!」

「これ痛いよ?」

夕夢は難なく腕を治す。

「(次は私の番だ!)試してみるか。」

夕夢は翼を動かす。わずかながら体は軽くなった。

「ハッ!」

その身一つで飛び出した夕夢は、バラバラになった。

「実直なのは読まれやすい。その体と俺の前でなかったら死ぬぞ。」

色欲の針を刺しつつバラバラになった夕夢の体を集めつつ呼びかける。

「とりあえず、その羽を使った搦め手を考えてやるからそれを試してみようか。」

「お願いしまーす。」

夕夢はその日小さな水路を反復横跳びする幻覚を見た。

 

ニヘルは同時刻、被害状況を集計していた。

「一般住宅全壊二十棟、半壊百四十三棟。舗装路計十三キロ破損。被害総額二百六十億二千万呈。負傷者四百五十一人、死者十六人。まあまあの結果だな。報告に向かうか。」

中央街宮の入り口に一飛びすると門番に

「一般街の被害集計をまとめた。」

要件を省いて伝える。門番はあきれたように

「要件もちゃんと伝えるようにしてくれよ?」

門を開けつつ愚痴る。

「予想出来ていただろ?」

「何度もやられたらそれはな。さあ、通りな。」

「ありがとうな。」

ニヘルは門をくぐった先の夢雨と目が合う。

「そっちは集計が終わったのか?」

「ええ、是だよ。」

集計した資料を差し出す夢雨。受け取ったニヘルは被害額を計算する。

「貴賓住宅九棟半壊、四棟全壊、舗装路ニ十キロ破損。推定百八十ニ億六千呈といったところか。やはりというか一つ一つの損害が大きすぎる。」

「これからどうするの?」

「王に報告をしたあとは国際会議でも開かせるだろうな。考える前にこの資料を渡しておくぞ。」

「はーい。」

そしてどちらからとも言えない競争が始まった。

 

翌日、夕夢は水と食料、マップなどを背負い散歩に向かおうとしていた。散歩に行くことを聞かされていないニヘルは

「まさか、例の場所に向かうのか?」

ぶっこんだ。夕夢は

「例の場所って何?私はまだ知らない国の様相を見に行こうとしていたのだけれど。」

心底疑問の顔をしていた。だがニヘルは

「なら、この紙の筒は何だ?何も書かれていないだろう。正直に言いな。」

「…そうだよ。釘を刺しておくけど付いて来ることはしないでね。これは私の問題だから。」

「別に止めようとは思ってないさ。ただ、黙って行動することはよくない。みんなには誤魔化しておく。」

「止めないの?」

「やることに人の善悪は評価をつけるがそれでも目的のない生き方よりは復讐に狂う方がよっぽど良いだろう。」

「貶しつつ褒めていると受け取っておくよ。行ってきまーす。」

夕夢はこれ以上の会話を切るように飛び出した。

「子供は丸め込められるものだが、さてどうなるか。」

 

事務所を飛び出した夕夢は迷うことなく海に飛び出した。やはりというか海には多種多様な鯨が潜む。トラばさみのように地面に潜むもの、針を飛ばすウニ型のもの、筋肉の束のような体を持つものと多種多様だがそれぞれの危険がある。相手にはしない。ここで消耗するのは愚の骨頂と考えるのは当たり前だろう。だが、あちらは獣。こちらの都合など知らないと体現するように襲ってくる個体もいる。

「昨日、刻まれておいてよかった。割けるがいい!」

夕夢の声に返事をするようにヤトシイは巨大な鋏に変形し鯨を端から切り刻む。

“コギトは私自身。自分を知れ。全部でなくてよい。勝手になじむ。”

「言われた通りだね。こんなこと力任せに振り下ろしていた時には思いつかなかった。」

また、歩き始める。

「そろそろか。」

刻まれた鯨の中身には反射する光が隠れていた。

 

「忌々しい。」

夕夢はその廃墟に足を踏み入れると同時に呟く。

「あの野郎、どこにいるんだ?」

ここを飛び出す時には吐き出せそうなほどあった気配はシンとして無く静寂がほっつき歩く。

「こっちだ。」

振り向くと通気口からタールのようなものがこぼれ出る。

「ヴッ。」

おぞましさに胃の中身が出そうになる。

「いらっしゃい。気を悪くしてしまい、申し訳ないね。」

「(ブチッ)」

言葉も交わさず夕夢はヤトシイを鞭型に変形ししなりのまま叩き付ける。スキを突いた高速の連撃。だが、背後からは

「なかなか良い筋だな。」

声がする。

「っ!?なっ!」

振り向いた視界にはあの時の鎧を身にまとった主任がいた。いつの間にか二本の液体が注入されている。

「にしても危ないな。当たっていたら記憶にひびが入りそうだよ。…なんだ、そこに帰っていたか。早めに対策を取らないとな。」

「何一人で納得しているんだ?」

顎?に手を当てながら一人理解面をする主任と嫌悪感を取り繕わない夕夢。

「雀猊だよ。」

「そういえばお前が作ったそうだな。」

「その形にしたのは私だが、由来は君自身だよ。」

「はあ?」

「私の持つ特許技術、概念の具現化の産物だ。」

「概念?」

「ここでは第三者の関わりで間接的に観測できるもの、記憶や感情が当てはまるものだ。」

「…なぜ手を出さない?」

「じゃあ、出すよ。」

「宣言されてはいそう」

バァン!

「で?…」

「言われた通り出したよ?」

「かはっ。」

「さすがの再生力だな。だが、今回招待したのは渡すものがあるからだ。」

「渡したいもの、だと?」

「よし、あったあった。」

主任はかつて夕夢が眠っていたガラス管の近くを漁る。取り出したるは白黒の二丁の大型拳銃。

「その銃は?」

「君から作り出したコギト、朱四卦。雀猊を作った際の副産物だ。これは君が持っておけ。」

「その様子を見るにまだ渡すものがありそうだが?」

「目聡いな。下半身と両腕ないのにすごいな。これだよ。」

主任は一枚の書類を取り出す。

「読めるか?」

「馬鹿にするな。」

片腕を生やした夕夢は書類を奪い取り読み込む。

「…。……。………?」

だんだん理解を拒む顔に変わる夕夢。内容は

「お前に復讐する手助けをお前がする?それまで自分から会わない?物資は私の仲間から間接的に渡す?嘘をつくな!こんな甘い話があるか!」

「嘘ではない。君にこの先も能動的に生きれる理由を作ろうという私の浅ましい気づかいだよ。それに、これを見てみな。」

「この書類、まさか!?」

「気づいたようで何より。君の事務所が使う書類、それも強制的に契約を履行させる高級品だ。契約不履行の際には“処理”されるからA以上のアンサラーが使えるものだよ。」

「そこまでするなんてあんたは狂ってるのか?」

「その通りだろうな。そしてこれを預かってほしい。」

主任は竹筒に収まる布と棒でできた粗末な人形を懐から差し出す。

「これは私が私のことを二の次にする大切なものだ。署名するなら、この人形を扉一つの密室に置いてほしい。」

「人質か?」

「そうだよ。」

「…仕掛けはない、か。」

夕夢は自分の指を噛むと血判を押す。

「これでいいか?」

「大丈夫だ。なら、君は君の居場所に戻りな。」

主任は立ち上がった夕夢の肩を押す。

「何をする!」

「いやいや、ちょっと帰宅のお手伝いをね?」

瞬きした次の景色は幻葬の事務所だった。

 

「戻ってきたか。」

「ただいま、ニヘル。」

「其の紙と人形、拳銃は?」

「あいつと契約した産物。」

「契約だと?」

「ちょっとルグラに聞いて来るから話は後でお願いするね。」

夕夢はバッサリと切り捨てルグラの元へ向かう。

「ルグラ、これを見てほしい。」

「これは、私の作れる契約書。まて、おま、あなた、これ使用したの!?」

「説明を省くとそうだよ。」

「内容は…君への要望がない。何か仕込みは…無い。本当にこれだけ?」

「いや、口頭からの頼みでこれを人質にするって。扉が一つの密室に置いてほしいと言われた。」

「その人形、神だよ。」

「え?」

「土地神か民間信仰かは夢雨のほうが診断できるとは思う。にしても密室か。当てがあるとしたら、ハイヴかな。」

「世界型のコギトだっけ?」

「知っていたか。ニヘルに聞いたらコツがわかるんじゃない?」

「その前にいい?コギト使いって私たち以外にいるの?」

「居はする。そこへ至るまでの母数が少ないし、自我の表面化は共鳴するなんて言われている。」

「つまり、組織で誰かがコギトを発現すると同じ組織の人も後を追うように発現するってこと?」

「精神の負荷がそこまでいっていること前提だけどね。」

「エゴイストは?」

「かなり少ない。ここまでエゴイストのいる組織は珍光景だね。」

「そうか。ありがとう。」

夕夢は満足したようにニヘルの下に向かう。

「戻ったよ。」

「そうか、なら続きをしようか。」

「まず、契約書は罠のないことがルグラから聞いたことだよ。」

「罠がないか。そうだとよいが。」

「次にこの人形。」

「ほぉ、神でもいるのか?」

「あなたも感じるんだね。」

「仕事柄、信仰関連の依頼もまれに来る。大体が出まかせの集団だったがたまに本物が混じっている。そこを見極めなければ命はないだろうな。」

「やっぱり神はすごいんだね。で、一つ聞きたい。ハイヴはどうやったら入れるの?」

「ハイヴか。こればかりは自分で見つけるしかない。」

「そっか。雀猊?え?わかるの!?わかった。今はあなたの言葉を信じるよ。ニヘル、私は自分の部屋に戻るね。ちょっと試してくるから。」

「幸運を。」

自室に入った夕夢は早速雀猊の言う通り自分の左手の指を齧り血を出すと右手の甲に4を書く。そのまま閉じた扉を押し開ける。目の前にあった景色は事務所の廊下ではなく淡い黄色の素材の床と壁からなる通路が交差し続け壁の各所に扉がある空間“オルテト”。間違いなく彼女のハイヴだ。空間の主は意を決して進む。

「不気味。うるさいわね。知らない場所だから怖くなるのも仕方ないんだよ!」

雀猊と喧嘩する夕夢は扉の一つを開ける。中は何もなく出入口はこの扉のみ。

「ここに置いておくか。」

夕夢は人形をこの部屋に安置して外に出る。

「マークしておくか。」

夕夢は現実に戻る前に扉に血で印を刻んでおいた。

「ただいま。」

「先ほども聞いた言葉だな。」

「ニヘル、無事に私のハイヴに入れた。」

「それはよかった。」

「それと」

「なんだ?」

「銃ってどうやって使うの?」

「使うことがないからわからないな。」

「それじゃあ、一人でやってみるか。」

「いや、夢雨は確か銃を持っていたはずだ。多少なりとも使い方は知っているはずだ。」

「そっか。あとで聞いてみるか。」

「それと、明日の予定は開けておいてくれ。」

「なんで?」

ニヘルは一息ついて告げる。

「血鬼のリーダーと顔をさらして話し合うからだ。」

余韻を消すような彼のコイントスは夕夢の不安定な信念を体現しているようだった。

 

 

「なんでコイントスしていたの?」

「手持無沙汰だったからだ。」

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